グランドパッキン
【課題】玄武含繊維の短所を補えるように更なる工夫を凝らすことにより、比較的白っぽい色を有する玄武岩繊維の特徴と、膨張黒鉛による優れたシール性の特徴とを合体させて、白っぽい色の外観でありながら良好なシール性を持つように改善されたグランドパッキンを提供する。
【解決手段】グランドパッキンにおいて、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛による中芯材3の周りに編組して構成されることを特徴とするものである。
【解決手段】グランドパッキンにおいて、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛による中芯材3の周りに編組して構成されることを特徴とするものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポンプやバルブ等の流体機器における流体の漏れ止め手段として使用されるグランドパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のグランドパッキンは、先ず繊維を編組して紐状にし、それから目詰材を含浸し、次に目詰材が含浸された紐状の編組繊維をリング状に成形することで作成される。このようにして作成されたグランドパッキンは、通常、バルブ等の流体機器のグランド部へ挿入及び加圧された状態で装備され、流体の漏れを止めるシール手段としてその役目を発揮するものとなる。繊維材料には石綿、フッ素樹脂、アラミド、炭素繊維、その他の各種有機繊維が使用されている。この繊維形態としては多数本の長繊維を集合したマルチフィラメント、短繊維(ステープル)を紡いだ紡績糸、及びこれらの繊維を集合して撚り合わせた集合加撚糸がある。
【0003】
近年においては、相手側部材へのなじみ性やシール性の良さを有することから膨張黒鉛を用いたグランドパッキンが主流になってきている。例えば、特許文献1において開示されるように、膨張黒鉛基材に補強線材を撚る等してスパイラル状に巻き付けて外補強した膨張黒鉛製編み糸の複数を、編組又は捻り加工することで成るグランドパッキンが知られている。
【0004】
上述のグランドパッキンは、スタフィングボックス等の流体機器の軸封部の他、半導体製造や医療・医薬品製造、食品加工、化学工業等の各種技術分野の製造工程で取り扱われる高純度液や超純水、薬液、或いは洗浄液の配管系等、種々の箇所において用いられる。その中で飲料水や食用油等の食品を扱う配管系に用いられる場合には少々問題があった。それは、膨張黒鉛を主原料とするグランドパッキンは黒色を呈しているので、使用すると食品に色が付くとか汚れているといったイメージ(実際に色が付くということはない)がユーザーにあり、場合によっては使用を敬遠される傾向があったのである。
【0005】
そこで、比較的白っぽい色を呈する繊維材として、特許文献2等において知られている玄武岩繊維を用いることにより、膨張黒鉛を用いることによる前述したマイナーなイメージを払拭させることが可能に思える。しかしながら、玄武岩繊維は繊維径が太く、かつ、高弾性であるため、相手側部材に密着し難い(なじみ性に劣る)という問題がある。その問題を解決すべく密着させるための高い面圧を作用させる構成を採ると、今度は玄武岩繊維が容易に破損してしまう新たな問題がある。このように、グランドパッキンの材料としてはさらなる改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特開2005−291264号公報
【特許文献2】特開2006−347845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した玄武含繊維の短所を補えるように更なる工夫を凝らすことにより、比較的白っぽい色を有する玄武岩繊維の特徴と、膨張黒鉛による優れたシール性の特徴とを合体させて、白っぽい色の外観でありながら良好なシール性を持つように改善されたグランドパッキンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、グランドパッキンにおいて、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛による中芯材3の周りに編組して構成されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランドパッキンにおいて、前記有機繊維12がアラミド繊維であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のグランドパッキンにおいて、前記カバードヤーン1における前記有機繊維12の構成比率が10〜40wt%に設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、パッキンとしての外周部に位置するカバードヤーンは、低弾性の有機繊維でカバーされているので、加圧時に相手面に対する密着性に優れている。高面圧負荷時に玄武岩繊維が破損したとしても、破損しない有機繊維のシース(さや)内に保持されている状態であるため、特性が著しく変化せず、漏れ止め機能が維持されるようになる。また、コア部分の玄武岩繊維は耐熱性と強度に優れるので、高温高圧条件下でも有機繊維パッキンにて発生する強度低下やクリープが生じないものとなる。パッキンとしての摺動面は玄武岩繊維ではなく有機繊維になるので、摩擦抵抗が小さいとともに色調が変更設定(例えばスノーホワイト等の白色系)できる利点がある。これにより、飲料水や食用油等の食品を扱う配管系にも心理的な抵抗を生じることなく用いることができるグランドパッキンとなる。
【0011】
その結果、玄武含繊維の短所を補えるように更なる工夫を凝らすことにより、比較的白っぽい色を有する玄武岩繊維の特徴と、膨張黒鉛による優れたシール性の特徴とを合体させて、白っぽい色の外観でありながら良好なシール性を持つように改善されたグランドパッキンを提供することができる。この場合、請求項2のように、有機繊維をアラミド繊維として、白っぽい色調としながら強度や耐熱性に優れてシール性に好都合なものとすることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、単位時間当たりの漏洩量を非常に少なく抑えることができる優れたグランドパッキンが可能になるとともに、表面が平滑であり、軸摺動によるはみ出しが少ないという利点もある(図1参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明によるグランドパッキンの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は各グランドパッキンの各種特性を示す表、図2,6,7は各種マルチフィラメントを示す図、図3〜図5はそれぞれカバードヤーン、紐状編組パッキン、グランドパッキンを示す図、図8,9は弾性率に関する関係グラフと棒グラフ、図10,11は漏洩量に関する表とグラフである。
【0014】
バサルトファイバー(玄武岩繊維)は、天然の玄武岩を100%原料として高温で溶融紡糸された非晶性の人造鉱物繊維であり、アスベスト代替材料として使用されている。バサルト連続繊維では、最高使用温度は820℃に及び、ガラス繊維の使用温度480℃に比べても高温の使用環境に優れている。例えば、砂利程度の砕石玄武岩を洗浄してから1500〜1600℃で溶融加熱し、繊維形成帯域での溶解物の粘度を100ポアズより高くして分速3500mを越える速度で繊維を引張すればバサルトファイバー連続長繊維を作ることができる。このバサルト長繊維の溶融温度は1050℃と高く、焼却炉内でガラス繊維のように液化せず結晶化することから、焼却炉を傷めない環境対応型繊維でもある。
【0015】
バサルトファイバーの特徴としては、(1)広い使用温度範囲:−250〜+600℃、(2)低吸湿性、(3)耐薬品性:耐酸、耐アルカリ、(4)耐摩耗性、(5)高抗張力、(6)高絶縁性、(7)防音性、(8)柔軟性、の各項目に優れる点が挙げられる。アスベストは、原料が各種石綿であり、結晶性の天然繊維で単繊維径が0.03〜0.1μmであるに対して、玄武岩製のバサルトファイバーは、非結晶の人造繊維で単繊維径が9〜17μm(平均は13μm)というものである。
【0016】
繊維径が約13μmの玄武岩繊維11の多数によるマルチフィラメント2〔これをA(単位:g/m)とし、図2を参照〕を用意し、その回りにメタ系アラミド繊維(有機繊維の一例)12の短繊維〔これをB(単位:g/m)とする〕を巻き付け角度(マルチフィラメント2の軸心Pに直交する線分Xに対する角度)θでもって巻き付け加工し、カバードヤーン1(図3参照)を作製する。尚、アラミド繊維12の巻き付け角度θは45度以下に設定されるのが望ましい。
【0017】
そして、膨張黒鉛C(%)より成るヤーンを中芯材3とし、かつ、玄武岩繊維11〔これをDとする〕と、これを覆うアラミド繊維(有機繊維の一例であり、Eとする)12とで成るカバードヤーン1で中芯材3を被覆し、図4に示すように、□8mmの紐状編組パッキン4を作製する。このパッキン4を、例えば内径32mm、外径48mm、高さ(厚さ)8mmのリング状に金型成形することにより、図5に示すグランドパッキン5を作製する。
【0018】
ここで、アラミド繊維は、ナイロンの一種であるが、通常のナイロンと違ってベンゼン環を含みこれがアミド結合で結んだ固い構造の高分子をを原料としたものであり、芳香族ナイロンと呼ばれることがある。アラミドはその成分により、パラ系とメタ系とがある。パラ系は非常に強く、引っ張り強さはナイロンの約2.5倍の強さがあり、パラ系アラミド繊維は、タイヤコード、ベルト、防弾服、防護服、航空機部材、コンクリート補強等に使用される。メタ系アラミド繊維は、耐熱性、難燃性に優れ、防炎服、防護服、作業服、耐熱フィルター、電線被覆材等に使用される。
【0019】
尚、マルチフィラメントAとしては、図6に示すように、複数(多数)の玄武岩繊維11を撚って成る加撚糸7でも良く、その加撚糸7を有機繊維(例:アラミド繊維)で覆うことでカバードヤーンになる。この場合、撚り角度aを例えば70度とすることが考えられるが、それ以外の角度でも良い。また、図7に示すように、数本の直線状の玄武岩繊維マルチフィラメント8を、玄武岩繊維マルチフィラメントによる複数本の加撚糸(図6のように撚り加工された糸)9で撚って覆うことで成る加撚糸10によるマルチフィラメント(集合加撚されたマルチフィラメント)Aでも良い。図7においては、2本の加撚糸9,9を用いた双子型の加撚糸10とされており、その加撚角度bは、例えば50度に設定する。この加撚糸10を有機繊維(例:アラミド繊維)で覆い、カバードヤーンとすることが可能である。
【0020】
つまり、本発明によるグランドパッキン5は、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛Cによる中芯材3の周りに編組して構成されている。但し、目詰材Fとしてフッ素樹脂が含浸処理されている。この場合、カバードヤーン1における有機繊維12の構成比率が10〜40wt%〔wtとはweight(重量)の略である〕に設定されていることが望ましい。上記のようにして作製されたグランドパッキン5を試供体(実施例1〜4、比較例1,2)として各種試験を行い、その試験の条件や結果、並びに検討等を以下に述べる。
【0021】
図1に示す特性表において、実施例1〜4は、編み糸が玄武岩繊維11と有機繊維12とから成るもの、即ちカバードヤーン1で構成されたものであり、比較例1,2は、編み糸が玄武岩繊維11のみ、又は有機繊維12のみから成るものである。また、糸重量とは、玄武岩繊維Aとアラミド繊維Bとの単位長さ(m:メートル)当りの重量(g:グラム)であり、漏洩量(単位:cc/min)とは、摺動ガスシール試験(後述)の結果を記載したものである。カバードヤーン1における有機繊維12の構成比率(図1における「DとEの割合」におけるEの値)が10〜40wt%の範囲内にあるのは実施例2,3であり、実施例1,4は範囲外である。
【0022】
実施例1〜4、及び比較例1,2の各グランドパッキンに関して行われる摺動ガスシール試験は、パッキンの大きさが内径32mm、外径48mm、厚さ8mmのものを6個用いて締付圧30N/mm2 で締付け、流体は室温(常温)で2MPaの窒素ガスを用い、軸摺動が10mm/秒、20mm×1往復、1000往復後に大気側からの漏洩ガスを回収し、漏洩量を測定する、というものである。次に、弾性率(圧縮復元試験)と低速ドライ摺動試験について説明する。
【0023】
〔弾性率について〕
弾性率を求めるべく圧縮復元試験を行った。圧縮復元試験の条件は、パッキンサイズが□9.5mm、パッキン個数は1、クロスヘッドスピードは1.0mm/min、初期面圧/最大面圧が0.02(N/mm2 )/2(N/mm2 )=0.01である。実際の試験は次のようである。即ち、最大面圧の1%となる0.02N/mm2 の初期荷重を与えた状態から試験を開始し、最大面圧を経て再び0.02N/mm2 となる工程で行った。この試験によって得られた圧縮復元曲線から弾性率を算出して検討するものとし、比較対照としてPTFE含浸アスベスト製のグランドパッキン(従来パッキン)を用いた。図8に弾性率と締付面圧との関係グラフ、図9に弾性率の比較棒グラフをそれぞれ示す。
【0024】
図8,9から、本発明によるグランドパッキンである発明パッキンは、従来のアスベスト製パッキンである従来パッキンに比べて弾性率が約30%低いことが理解できる。これは各パッキンが互いに同じシール性能が得られる場合には、発明パッキンが軸に対して柔かいことを意味しており、従来パッキンよりも軸摩耗特性に優れていると言える。軸振れ等が発生している場合、パッキンは微小変形を繰り返すが、そのとき弾性率が低いパッキンでは軸に及ぼす面圧の変化量が少ないので、発明パッキンは軸振れ性能が高く摺動熱量も少ないと考えられる。従って、発明パッキンの軸摩耗性能、軸振れ性能、及び発熱性能は良好であり、また増し締め時において、弾性率が低いパッキンは柔かいために、同じ増し締め量に対するパッキンの軸に対する面圧の急変が起こり難いため、増し締めがし易いパッキンであると言える。
【0025】
〔低速ドライ摺動試験について〕
低速ドライ摺動試験の条件は、使用流体:圧力0.2MPaの窒素、パッキンサイズ:□10mm、回転数:320(毎分)、周速:1m/s、パッキン本数:4、パッキン締付面圧:0.5N/mm2 とした。この試験は、パッキン挿入後面圧2.0N/mm2 の初期締付面圧を負荷し、そこから0.5N/mm2 まで除圧した状態で軸を回転させて評価を行う。その評価中の面圧は、スプリングを使用して締付力を維持する方式(ライブロード方式)で負荷する。試験開始〜4時間経過後までの漏洩量、温度を測定し、パッキン温度と漏洩量との関係について検討する。尚、漏洩量が軸径の2倍の値(120ml/min)以上となったときにスプリングカラーとパッキン押さえとの間に隙間が生じている場合、応力緩和が発生して締付面圧が低下していると考えられるため、隙間が無くなるまで増し締めを行わないこととする。
【0026】
低速ドライ摺動試験による経過時間と漏洩量との関係を示す表を図10に、そして、経過時間とパッキン部温度との関係グラフを図11にそれぞれ示す。発明パッキンは、パッキン部温度が2時間経過後に120℃に達したときに漏洩が発生し、漏洩量の若干の増加と共に徐々に温度低下していく結果となった。発明パッキンは、漏洩量が規定の120ml/minを超えないので、一度も増し締めを行うことなく試験を終了した。比較対照である従来パッキンのパッキン部温度は2時間経過後に100℃まで上昇し漏洩が発生し、その後急激に増加した。増し締めを行うことで一旦漏洩量は低下したが、3時間経過後に再び増加し、スプリングカラーとパッキン押さえとの隙間が無く増し締め不可の状態でパッキン部温度が上昇し続け、最終4時間経過後には漏洩量が2000ml/minを超えている状態で最高温度を記録した。
【0027】
以上説明したように、本発明によるグランドパッキンは、玄武岩繊維をアラミド繊維で覆って成るカバードヤーンを、膨張黒鉛による中芯材の周りに編組して構成されているので、相手側部材へのなじみ性やシール性の良さを有する膨張黒鉛製のグランドパッキンを、飲料水や食用油等の食品を扱う配管系にも心理的な抵抗を生じることなく用いることができるように、白っぽい色調を有するものとして提供することに成功している。また、有機繊維に目詰材(フッ素樹脂等:図1参照)Fを含浸することで漏れ止めに寄与させることが可能であるとともに、製造時の折れによる異物発生が防止される利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】各実施例及び各比較例の各種特性を示す図表
【図2】マルチフィラメントを示す側面図
【図3】カバードヤーンを示す一部破断の側面図
【図4】紐状に編組されたパッキンの構造を示す斜視図
【図5】グランドパッキンを示す一部破断の斜視図
【図6】加撚糸を示す側面図
【図7】双子型の加撚糸を示す一部展開の側面図
【図8】各パッキンにおける圧縮率と締付面圧との関係グラフを示す図
【図9】各パッキンにおける弾性率を比較した棒グラフを示す図
【図10】各パッキンにおける経過時間と漏洩量との関係表を示す図
【図11】各パッキンにおける経過時間とパッキン部温度との関係グラフを示す図
【符号の説明】
【0029】
1 カバードヤーン
3 中芯材
11 玄武岩繊維
12 有機繊維(アラミド繊維)
θ 有機繊維の巻き付け角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポンプやバルブ等の流体機器における流体の漏れ止め手段として使用されるグランドパッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のグランドパッキンは、先ず繊維を編組して紐状にし、それから目詰材を含浸し、次に目詰材が含浸された紐状の編組繊維をリング状に成形することで作成される。このようにして作成されたグランドパッキンは、通常、バルブ等の流体機器のグランド部へ挿入及び加圧された状態で装備され、流体の漏れを止めるシール手段としてその役目を発揮するものとなる。繊維材料には石綿、フッ素樹脂、アラミド、炭素繊維、その他の各種有機繊維が使用されている。この繊維形態としては多数本の長繊維を集合したマルチフィラメント、短繊維(ステープル)を紡いだ紡績糸、及びこれらの繊維を集合して撚り合わせた集合加撚糸がある。
【0003】
近年においては、相手側部材へのなじみ性やシール性の良さを有することから膨張黒鉛を用いたグランドパッキンが主流になってきている。例えば、特許文献1において開示されるように、膨張黒鉛基材に補強線材を撚る等してスパイラル状に巻き付けて外補強した膨張黒鉛製編み糸の複数を、編組又は捻り加工することで成るグランドパッキンが知られている。
【0004】
上述のグランドパッキンは、スタフィングボックス等の流体機器の軸封部の他、半導体製造や医療・医薬品製造、食品加工、化学工業等の各種技術分野の製造工程で取り扱われる高純度液や超純水、薬液、或いは洗浄液の配管系等、種々の箇所において用いられる。その中で飲料水や食用油等の食品を扱う配管系に用いられる場合には少々問題があった。それは、膨張黒鉛を主原料とするグランドパッキンは黒色を呈しているので、使用すると食品に色が付くとか汚れているといったイメージ(実際に色が付くということはない)がユーザーにあり、場合によっては使用を敬遠される傾向があったのである。
【0005】
そこで、比較的白っぽい色を呈する繊維材として、特許文献2等において知られている玄武岩繊維を用いることにより、膨張黒鉛を用いることによる前述したマイナーなイメージを払拭させることが可能に思える。しかしながら、玄武岩繊維は繊維径が太く、かつ、高弾性であるため、相手側部材に密着し難い(なじみ性に劣る)という問題がある。その問題を解決すべく密着させるための高い面圧を作用させる構成を採ると、今度は玄武岩繊維が容易に破損してしまう新たな問題がある。このように、グランドパッキンの材料としてはさらなる改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特開2005−291264号公報
【特許文献2】特開2006−347845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した玄武含繊維の短所を補えるように更なる工夫を凝らすことにより、比較的白っぽい色を有する玄武岩繊維の特徴と、膨張黒鉛による優れたシール性の特徴とを合体させて、白っぽい色の外観でありながら良好なシール性を持つように改善されたグランドパッキンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、グランドパッキンにおいて、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛による中芯材3の周りに編組して構成されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランドパッキンにおいて、前記有機繊維12がアラミド繊維であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のグランドパッキンにおいて、前記カバードヤーン1における前記有機繊維12の構成比率が10〜40wt%に設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、パッキンとしての外周部に位置するカバードヤーンは、低弾性の有機繊維でカバーされているので、加圧時に相手面に対する密着性に優れている。高面圧負荷時に玄武岩繊維が破損したとしても、破損しない有機繊維のシース(さや)内に保持されている状態であるため、特性が著しく変化せず、漏れ止め機能が維持されるようになる。また、コア部分の玄武岩繊維は耐熱性と強度に優れるので、高温高圧条件下でも有機繊維パッキンにて発生する強度低下やクリープが生じないものとなる。パッキンとしての摺動面は玄武岩繊維ではなく有機繊維になるので、摩擦抵抗が小さいとともに色調が変更設定(例えばスノーホワイト等の白色系)できる利点がある。これにより、飲料水や食用油等の食品を扱う配管系にも心理的な抵抗を生じることなく用いることができるグランドパッキンとなる。
【0011】
その結果、玄武含繊維の短所を補えるように更なる工夫を凝らすことにより、比較的白っぽい色を有する玄武岩繊維の特徴と、膨張黒鉛による優れたシール性の特徴とを合体させて、白っぽい色の外観でありながら良好なシール性を持つように改善されたグランドパッキンを提供することができる。この場合、請求項2のように、有機繊維をアラミド繊維として、白っぽい色調としながら強度や耐熱性に優れてシール性に好都合なものとすることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、単位時間当たりの漏洩量を非常に少なく抑えることができる優れたグランドパッキンが可能になるとともに、表面が平滑であり、軸摺動によるはみ出しが少ないという利点もある(図1参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明によるグランドパッキンの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は各グランドパッキンの各種特性を示す表、図2,6,7は各種マルチフィラメントを示す図、図3〜図5はそれぞれカバードヤーン、紐状編組パッキン、グランドパッキンを示す図、図8,9は弾性率に関する関係グラフと棒グラフ、図10,11は漏洩量に関する表とグラフである。
【0014】
バサルトファイバー(玄武岩繊維)は、天然の玄武岩を100%原料として高温で溶融紡糸された非晶性の人造鉱物繊維であり、アスベスト代替材料として使用されている。バサルト連続繊維では、最高使用温度は820℃に及び、ガラス繊維の使用温度480℃に比べても高温の使用環境に優れている。例えば、砂利程度の砕石玄武岩を洗浄してから1500〜1600℃で溶融加熱し、繊維形成帯域での溶解物の粘度を100ポアズより高くして分速3500mを越える速度で繊維を引張すればバサルトファイバー連続長繊維を作ることができる。このバサルト長繊維の溶融温度は1050℃と高く、焼却炉内でガラス繊維のように液化せず結晶化することから、焼却炉を傷めない環境対応型繊維でもある。
【0015】
バサルトファイバーの特徴としては、(1)広い使用温度範囲:−250〜+600℃、(2)低吸湿性、(3)耐薬品性:耐酸、耐アルカリ、(4)耐摩耗性、(5)高抗張力、(6)高絶縁性、(7)防音性、(8)柔軟性、の各項目に優れる点が挙げられる。アスベストは、原料が各種石綿であり、結晶性の天然繊維で単繊維径が0.03〜0.1μmであるに対して、玄武岩製のバサルトファイバーは、非結晶の人造繊維で単繊維径が9〜17μm(平均は13μm)というものである。
【0016】
繊維径が約13μmの玄武岩繊維11の多数によるマルチフィラメント2〔これをA(単位:g/m)とし、図2を参照〕を用意し、その回りにメタ系アラミド繊維(有機繊維の一例)12の短繊維〔これをB(単位:g/m)とする〕を巻き付け角度(マルチフィラメント2の軸心Pに直交する線分Xに対する角度)θでもって巻き付け加工し、カバードヤーン1(図3参照)を作製する。尚、アラミド繊維12の巻き付け角度θは45度以下に設定されるのが望ましい。
【0017】
そして、膨張黒鉛C(%)より成るヤーンを中芯材3とし、かつ、玄武岩繊維11〔これをDとする〕と、これを覆うアラミド繊維(有機繊維の一例であり、Eとする)12とで成るカバードヤーン1で中芯材3を被覆し、図4に示すように、□8mmの紐状編組パッキン4を作製する。このパッキン4を、例えば内径32mm、外径48mm、高さ(厚さ)8mmのリング状に金型成形することにより、図5に示すグランドパッキン5を作製する。
【0018】
ここで、アラミド繊維は、ナイロンの一種であるが、通常のナイロンと違ってベンゼン環を含みこれがアミド結合で結んだ固い構造の高分子をを原料としたものであり、芳香族ナイロンと呼ばれることがある。アラミドはその成分により、パラ系とメタ系とがある。パラ系は非常に強く、引っ張り強さはナイロンの約2.5倍の強さがあり、パラ系アラミド繊維は、タイヤコード、ベルト、防弾服、防護服、航空機部材、コンクリート補強等に使用される。メタ系アラミド繊維は、耐熱性、難燃性に優れ、防炎服、防護服、作業服、耐熱フィルター、電線被覆材等に使用される。
【0019】
尚、マルチフィラメントAとしては、図6に示すように、複数(多数)の玄武岩繊維11を撚って成る加撚糸7でも良く、その加撚糸7を有機繊維(例:アラミド繊維)で覆うことでカバードヤーンになる。この場合、撚り角度aを例えば70度とすることが考えられるが、それ以外の角度でも良い。また、図7に示すように、数本の直線状の玄武岩繊維マルチフィラメント8を、玄武岩繊維マルチフィラメントによる複数本の加撚糸(図6のように撚り加工された糸)9で撚って覆うことで成る加撚糸10によるマルチフィラメント(集合加撚されたマルチフィラメント)Aでも良い。図7においては、2本の加撚糸9,9を用いた双子型の加撚糸10とされており、その加撚角度bは、例えば50度に設定する。この加撚糸10を有機繊維(例:アラミド繊維)で覆い、カバードヤーンとすることが可能である。
【0020】
つまり、本発明によるグランドパッキン5は、玄武岩繊維11を有機繊維12で覆って成るカバードヤーン1を、膨張黒鉛Cによる中芯材3の周りに編組して構成されている。但し、目詰材Fとしてフッ素樹脂が含浸処理されている。この場合、カバードヤーン1における有機繊維12の構成比率が10〜40wt%〔wtとはweight(重量)の略である〕に設定されていることが望ましい。上記のようにして作製されたグランドパッキン5を試供体(実施例1〜4、比較例1,2)として各種試験を行い、その試験の条件や結果、並びに検討等を以下に述べる。
【0021】
図1に示す特性表において、実施例1〜4は、編み糸が玄武岩繊維11と有機繊維12とから成るもの、即ちカバードヤーン1で構成されたものであり、比較例1,2は、編み糸が玄武岩繊維11のみ、又は有機繊維12のみから成るものである。また、糸重量とは、玄武岩繊維Aとアラミド繊維Bとの単位長さ(m:メートル)当りの重量(g:グラム)であり、漏洩量(単位:cc/min)とは、摺動ガスシール試験(後述)の結果を記載したものである。カバードヤーン1における有機繊維12の構成比率(図1における「DとEの割合」におけるEの値)が10〜40wt%の範囲内にあるのは実施例2,3であり、実施例1,4は範囲外である。
【0022】
実施例1〜4、及び比較例1,2の各グランドパッキンに関して行われる摺動ガスシール試験は、パッキンの大きさが内径32mm、外径48mm、厚さ8mmのものを6個用いて締付圧30N/mm2 で締付け、流体は室温(常温)で2MPaの窒素ガスを用い、軸摺動が10mm/秒、20mm×1往復、1000往復後に大気側からの漏洩ガスを回収し、漏洩量を測定する、というものである。次に、弾性率(圧縮復元試験)と低速ドライ摺動試験について説明する。
【0023】
〔弾性率について〕
弾性率を求めるべく圧縮復元試験を行った。圧縮復元試験の条件は、パッキンサイズが□9.5mm、パッキン個数は1、クロスヘッドスピードは1.0mm/min、初期面圧/最大面圧が0.02(N/mm2 )/2(N/mm2 )=0.01である。実際の試験は次のようである。即ち、最大面圧の1%となる0.02N/mm2 の初期荷重を与えた状態から試験を開始し、最大面圧を経て再び0.02N/mm2 となる工程で行った。この試験によって得られた圧縮復元曲線から弾性率を算出して検討するものとし、比較対照としてPTFE含浸アスベスト製のグランドパッキン(従来パッキン)を用いた。図8に弾性率と締付面圧との関係グラフ、図9に弾性率の比較棒グラフをそれぞれ示す。
【0024】
図8,9から、本発明によるグランドパッキンである発明パッキンは、従来のアスベスト製パッキンである従来パッキンに比べて弾性率が約30%低いことが理解できる。これは各パッキンが互いに同じシール性能が得られる場合には、発明パッキンが軸に対して柔かいことを意味しており、従来パッキンよりも軸摩耗特性に優れていると言える。軸振れ等が発生している場合、パッキンは微小変形を繰り返すが、そのとき弾性率が低いパッキンでは軸に及ぼす面圧の変化量が少ないので、発明パッキンは軸振れ性能が高く摺動熱量も少ないと考えられる。従って、発明パッキンの軸摩耗性能、軸振れ性能、及び発熱性能は良好であり、また増し締め時において、弾性率が低いパッキンは柔かいために、同じ増し締め量に対するパッキンの軸に対する面圧の急変が起こり難いため、増し締めがし易いパッキンであると言える。
【0025】
〔低速ドライ摺動試験について〕
低速ドライ摺動試験の条件は、使用流体:圧力0.2MPaの窒素、パッキンサイズ:□10mm、回転数:320(毎分)、周速:1m/s、パッキン本数:4、パッキン締付面圧:0.5N/mm2 とした。この試験は、パッキン挿入後面圧2.0N/mm2 の初期締付面圧を負荷し、そこから0.5N/mm2 まで除圧した状態で軸を回転させて評価を行う。その評価中の面圧は、スプリングを使用して締付力を維持する方式(ライブロード方式)で負荷する。試験開始〜4時間経過後までの漏洩量、温度を測定し、パッキン温度と漏洩量との関係について検討する。尚、漏洩量が軸径の2倍の値(120ml/min)以上となったときにスプリングカラーとパッキン押さえとの間に隙間が生じている場合、応力緩和が発生して締付面圧が低下していると考えられるため、隙間が無くなるまで増し締めを行わないこととする。
【0026】
低速ドライ摺動試験による経過時間と漏洩量との関係を示す表を図10に、そして、経過時間とパッキン部温度との関係グラフを図11にそれぞれ示す。発明パッキンは、パッキン部温度が2時間経過後に120℃に達したときに漏洩が発生し、漏洩量の若干の増加と共に徐々に温度低下していく結果となった。発明パッキンは、漏洩量が規定の120ml/minを超えないので、一度も増し締めを行うことなく試験を終了した。比較対照である従来パッキンのパッキン部温度は2時間経過後に100℃まで上昇し漏洩が発生し、その後急激に増加した。増し締めを行うことで一旦漏洩量は低下したが、3時間経過後に再び増加し、スプリングカラーとパッキン押さえとの隙間が無く増し締め不可の状態でパッキン部温度が上昇し続け、最終4時間経過後には漏洩量が2000ml/minを超えている状態で最高温度を記録した。
【0027】
以上説明したように、本発明によるグランドパッキンは、玄武岩繊維をアラミド繊維で覆って成るカバードヤーンを、膨張黒鉛による中芯材の周りに編組して構成されているので、相手側部材へのなじみ性やシール性の良さを有する膨張黒鉛製のグランドパッキンを、飲料水や食用油等の食品を扱う配管系にも心理的な抵抗を生じることなく用いることができるように、白っぽい色調を有するものとして提供することに成功している。また、有機繊維に目詰材(フッ素樹脂等:図1参照)Fを含浸することで漏れ止めに寄与させることが可能であるとともに、製造時の折れによる異物発生が防止される利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】各実施例及び各比較例の各種特性を示す図表
【図2】マルチフィラメントを示す側面図
【図3】カバードヤーンを示す一部破断の側面図
【図4】紐状に編組されたパッキンの構造を示す斜視図
【図5】グランドパッキンを示す一部破断の斜視図
【図6】加撚糸を示す側面図
【図7】双子型の加撚糸を示す一部展開の側面図
【図8】各パッキンにおける圧縮率と締付面圧との関係グラフを示す図
【図9】各パッキンにおける弾性率を比較した棒グラフを示す図
【図10】各パッキンにおける経過時間と漏洩量との関係表を示す図
【図11】各パッキンにおける経過時間とパッキン部温度との関係グラフを示す図
【符号の説明】
【0029】
1 カバードヤーン
3 中芯材
11 玄武岩繊維
12 有機繊維(アラミド繊維)
θ 有機繊維の巻き付け角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄武岩繊維を有機繊維で覆って成るカバードヤーンを、膨張黒鉛による中芯材の周りに編組して構成されるグランドパッキン。
【請求項2】
前記有機繊維がアラミド繊維である請求項1に記載のグランドパッキン。
【請求項3】
前記カバードヤーンにおける前記有機繊維の構成比率が10〜40wt%に設定されている請求項1又は2に記載のグランドパッキン。
【請求項1】
玄武岩繊維を有機繊維で覆って成るカバードヤーンを、膨張黒鉛による中芯材の周りに編組して構成されるグランドパッキン。
【請求項2】
前記有機繊維がアラミド繊維である請求項1に記載のグランドパッキン。
【請求項3】
前記カバードヤーンにおける前記有機繊維の構成比率が10〜40wt%に設定されている請求項1又は2に記載のグランドパッキン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−223786(P2008−223786A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58647(P2007−58647)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】
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