説明

グリオキサラーゼI阻害剤

【課題】抗腫瘍剤等の医薬組成物として有用な、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤等を提供すること。
【解決手段】下式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物は、グリオキサラーゼI阻害作用、腫瘍細胞に対して細胞増殖抑制作用、細胞死誘導作用等を有することから、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤、抗腫瘍剤、医薬組成物等として有用である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤、抗腫瘍剤等の医薬組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
グリオキサラーゼI(GLO I:Glyoxalase I)は、メチルグリオキサール(MG:methylglyoxal)とグルタチオン(GSH:glutathione)からS-D-ラクトイルグルタチオン(S-D-lactoylglutathione)を生成させる酵素である。MGは解糖系の代謝副産物であり、MGの過剰な蓄積がタンパク質、DNA、RNA等を非可逆的に修飾し、細胞死(アポトーシス)を誘発することが知られている。また、グリオキサラーゼIは、大腸がん、肺がん及び前立腺がんなどの腫瘍細胞だけでなく、抗癌剤に耐性を示す癌細胞株において高発現していることが報告されている(非特許文献1〜3参照)。従って、グリオキサラーゼI阻害剤は、腫瘍細胞に対して効果的にアポトーシスを誘発させることができ、抗腫瘍剤として有用であると考えられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96687号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Urol. (1999) 161, 690-691
【非特許文献2】Biochem J. (1995) 309, 127-131
【非特許文献3】Blood. (2000) 9, 3214-3218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗腫瘍剤等の医薬組成物として有用な、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下式(I)で表される化合物がグリオキサラーゼI阻害作用、腫瘍細胞増殖抑制作用、腫瘍細胞に対して細胞死誘導作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【化1】

式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はヒドロキシ基である。
【0007】
すなわち、本発明は、式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤、医薬組成物、抗腫瘍剤、骨粗鬆症治療剤などである。前記細胞死誘導剤は、例えばアポトーシス誘導剤などである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗腫瘍剤等の医薬組成物として有用な、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例において、GLO I活性に対する化合物(1)〜(3)の阻害作用を調べた結果を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、化合物(1)が腫瘍細胞の増殖を抑制する結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0011】
==本発明に係る化合物の薬理作用==
実施例で示すように、式(I)で表される化合物は、グリオキサラーゼI阻害作用や腫瘍細胞に対する細胞死誘導作用を有することから、式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物は、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤、抗腫瘍剤等の医薬組成物などとして有用である。上記細胞死誘導剤は、例えばアポトーシス誘導剤などである。
【0012】
本発明に係る医薬組成物は、腫瘍に対してだけでなく、グリオキサラーゼIの機能を阻害することにより改善が期待される疾患、例えば骨粗鬆症などの予防や治療に有用である。また、本発明に係る抗腫瘍剤が標的とする疾患としては、例えば、大腸癌、肺癌、前立腺癌などの癌だけでなく、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)などのがん、他の抗癌剤に耐性を示す腫瘍などを挙げることができる。
【0013】
==本発明に係る薬剤==
式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する薬剤は、グリオキサラーゼI阻害剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤、抗腫瘍剤等の医薬組成物などとして利用できる。上記薬剤は、ヒト、ヒト以外(例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ等)の哺乳動物に医薬品として投与してもよいし、試薬として実験に用いてもよいが、適切な濃度を選択することにより、正常細胞には作用せず腫瘍細胞に特異的に作用させることができるという点で、非常に有効である。上記薬剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、液剤、塗布剤などの剤形にしてもよい。また、上記薬剤は、固形、液状、ゲル状、粉末状、ゼリー状、油状、ペースト状、泡状、クリーム状などの形状にしてもよい。なお、上記薬剤を哺乳類動物に投与する場合には、製剤化して、経口投与してもよいし、腹腔内や静脈内への注射や点滴により非経口投与してもよい。本発明に係る薬剤の製剤化は、従来使用されている製剤添加物を用いて、常法で行うことができる。前記製剤添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味矯臭剤、溶剤、安定剤、基剤、湿潤剤、保存剤などの既存の添加物を用いることができる。
【0014】
式(I)で表される化合物の塩、又は式(I)で表される化合物若しくはその塩の水和物又は溶媒和物は、常法に従って製造することができる。式(I)で表される化合物の塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩など)、その他の金属塩(アルミニウム塩など)、無機塩(塩酸塩、アンモニウム塩、アミン類など)、有機塩(グルコサミン塩など)等を挙げることができる。なお、上述の薬剤に式(I)で表される化合物の塩を用いる場合には、安全性の面から薬理学的に許容される塩を用いることが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例及び図を用いてより具体的に説明する。
<実施例1>グリオキサラーゼI活性阻害試験
酵素/化合物混合液[最終濃度100 μg/ml リコンビナントGLO Iと最終濃度0, 0.1, 0.3, 1, 3, 10, 30, 100 μMの化合物(1)〜(3)]25 μl((株)常磐植物化学研究所より入手)を384 well plateの各ウェルに分注し、基質溶液(最終濃度7.9 mM MG, 1 mM GSH, 14.6 mM MgSO4, 182 mM imidazole-HCl, pH 7.0)25 μlを各ウェルに加えて25℃で反応させた。反応開始から10秒毎に5分間、吸光度(240 nm)を測定し、各化合物濃度におけるグリオキサラーゼI阻害率(%)を算出した(図1)。また、50%阻害に対する化合物濃度(IC50)を求めた。その結果、化合物(1)、(2)及び(3)はグリオキサラーゼI阻害作用を有し、それぞれのIC50は1.9、11.7、16.4 μMであった。
このように、化合物(1)、(2)及び(3)は、グリオキサラーゼI阻害作用を有するため、グリオキサラーゼIを阻害することにより改善が期待できる疾患に対する医薬組成物として有効である。
【化2】

【0016】
<実施例2>腫瘍細胞の生細胞測定試験(MTS assay)
培養白血病細胞株HL-60細胞(1×106 cells/ml-10% FCSを含むRPMI-1640に懸濁)を、96 well plateに50 μl/wellで播種し、化合物(1)溶液(終濃度0, 10, 30, 100 μM;10% FCSを含むRPMI-1640に溶解)50 μlを添加し、37℃で5%CO2の条件で24又は48時間培養した。生細胞数をMTS assay(Promega CellTiter 96 AQueous One Solution)で測定し、化合物(1)の腫瘍細胞の生存に対する作用を評価した。また、コントロールとして、正常細胞(ヒト末梢血由来リンパ球)に対する化合物(1)の作用も同様に評価した。なお、ヒト末梢血由来リンパ球は、以下のように調製した。Lymphocyte Separation Medium 20 mlに、ヒト末梢血液25 mlをパスツールピペットでゆっくり注ぎ、1500 rpmで30分間遠心分離した後、パスツールピペットで上層(血漿,血小板)を取り除き、白いリング状に集められたリンパ球を採取した。このリンパ球を、5倍量のPBS(-)を用いて洗浄し、1×106 cells/mlになるように培養液(10% FCSを含むRPMI-1640)に懸濁した。
図2に示すように、化合物(1)は、ヒト末梢血由来正常リンパ球に比べ、HL-60細胞に対して、濃度依存的かつ時間依存的に、生細胞を著しく減少させた。ここで、生細胞を半分にする化合物濃度は、24時間処理で73.4 μM、48時間処理で33.3 μMであった。
このように、グリオキサラーゼI阻害活性を有する化合物は、腫瘍細胞に対して効果的に作用する細胞死誘導剤として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有するグリオキサラーゼI(Glyoxalase I)阻害剤。
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又はヒドロキシ基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する腫瘍細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する腫瘍細胞に対する細胞死誘導剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−219384(P2011−219384A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87657(P2010−87657)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月1日 http://nenkai.pharm.or.jp/130/pc/ipdfview.asp?i=3231
【出願人】(594072683)
【Fターム(参考)】