説明

グリコリド製造用グリコール酸オリゴマー

【課題】グリコール酸オリゴマーの原料であるグリコール酸中に含まれる不純物に起因する悪影響を抑制して、連続的または繰り返して解重合反応を長期間実施しても、解重合反応を安定的かつ効率的に実施することを可能とする新規なグリコール酸オリゴマーを提供すること。
【解決手段】190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーであって、その際、該化合物(A)の量を、該グリコリド製造用グリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.9〜1.1当量の割合を維持する量となるように制御してあるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸の環状二量体エステルであるグリコリドの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合するグリコリドの製造方法において、グリコール酸オリゴマーを含む解重合反応系に長期安定性を付与して、解重合反応を連続的または繰り返して実施しても、安定的かつ効率的に解重合反応を実施することができるグリコリドの製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、グリコール酸オリゴマーの原料であるグリコール酸中に含まれる不純物に起因する悪影響を抑制して、連続的または繰り返して解重合反応を長期間実施しても、解重合反応を安定的かつ効率的に実施することを可能とする新規なグリコール酸オリゴマーに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリグリコール酸は、グリコール酸(即ち、α−ヒドロキシ酢酸)が脱水重縮合して形成される下記式で示されるポリエステルである。
【0004】
【化1】

【0005】
ポリグリコール酸は、生分解性ポリマーであって、生体内では加水分解され、自然環境下では微生物によって水と炭酸ガスに代謝・分解される。このため、ポリグリコール酸は、医療用材料や汎用樹脂に代替する環境に優しいポリマー材料として注目されている。しかし、グリコール酸の脱水重縮合により高分子量のポリグリコール酸を得ることは困難である。
【0006】
ポリグリコール酸を製造する他の方法として、グリコール酸の環状二量体エステルである下記式
【0007】
【化2】

【0008】
で示されるグリコリドを合成し、このグリコリドを例えばオクタン酸錫などの触媒の存在下に開環重合する方法が知られている。
【0009】
グリコリドの開環重合により高分子量のポリグリコール酸(「ポリグリコリド」ともいう)を製造するには、高純度のグリコリドを出発原料として用いることが必要である。そのため、グリコリドを出発原料としてポリグリコール酸を工業的規模で生産するためには、高純度のグリコリドを経済的に供給することが不可欠である。
【0010】
グリコリドは、2分子のグリコール酸から2分子の水が脱離した環状エステル化合物である。しかし、グリコール酸をエステル化反応させたのでは、グリコール酸オリゴマーが形成されるため、グリコリドを得ることができない。そこで、グリコリドを製造する方法として、様々な提案がなされている。
【0011】
米国特許第2,668,162号には、グリコール酸オリゴマーを粉末状に粉砕して得られた粉末を少量ずつ反応器に供給しながら(約20g/h)、超真空下〔12〜15torr(1.6〜2.0kPa)〕、270〜285℃に加熱して解重合させ、生成したグリコリドを含む蒸気をトラップで捕集する方法が開示されている。この方法は、小スケールで実施することは可能であるが、スケールアップは困難であり、量産化には適していない。しかも、この方法では、加熱解重合時にオリゴマーが重質物化して、多量の残渣として反応容器内に残るため、グリコリドの収率が低く、残渣のクリーニング操作も必要である。また、この方法では、グリコリド(融点=82〜83℃)及び副生物が回収ラインの管内に析出し、閉塞等のトラブルを引き起こしやすい。
【0012】
米国特許第4,727,163号には、熱安定性に優れたポリエーテルを基体(substrate)とし、それに少量のグリコール酸をブロック共重合させてブロック共重合体とした後、該ブロック共重合体を加熱して解重合するグリコリドの製造方法が開示されている。しかし、このブロック共重合プロセスは、操作が煩雑で生産コストが高い。また、この方法では、グリコリド及び副生物が回収ラインの管内に析出し、閉塞等のトラブルを引き起こしやすい。
【0013】
米国特許第4,835,293号及び米国特許第5,023,349号には、グリコール酸オリゴマーなどのα−ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを加熱して融液となし、その融液の表面から生成し揮発するグリコリドなどの環状二量体エステルを窒素などの不活性ガスに同伴させ、アセトンや酢酸エチルのような低沸点溶媒中でストリッピングし、回収する方法が開示されている。この方法は、環状二量体エステルの生成速度が遅いこと、融液内での重物質化物の生成が起こりやすいこと、多量の不活性ガスを吹き込むために予備加熱する必要であることなどの問題があり、生産コストを低くすることは困難である。
【0014】
フランス特許2692263−A1には、触媒を添加した溶媒にα−ヒドロキシカルボン酸またはそのエステルもしくは塩のオリゴマーを加えて、加熱下に撹拌して接触分解する環状二量体エステルの製造方法が開示されている。この方法は、環状二量体エステルを気相状態で連行するのに適した溶媒を用いて、常圧または加圧下にて行われ、気相を凝縮して環状二量体エステルと溶媒とを回収している。その実施例には、原料として乳酸オリゴマーを用い、溶媒としてドデカン(沸点=約214℃)を用いた例が示されているのみである。しかし、本発明者らがグリコール酸オリゴマーとドデカンを用いて、その実施例と同様の条件にて追試したところ、解重合反応開始と同時に重質物化が進行し、極めてわずかのグリコリドが生成した時点でグリコリドの生成が停止し、しかも反応残渣は、粘調でクリーニングに多大な労力を要した。
【0015】
本出願人の出願に係る特開平9−328481号公報には、グリコール酸オリゴマーなどのα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを高沸点の極性有機溶媒中で加熱して解重合し、生成したグリコリドなどの環状二量体エステルを極性有機溶媒と共に留出させ、留出物から環状二量体エステルを回収する方法が開示されている。
【0016】
その後、本発明者らの検討結果によれば、上記方法において、極性有機溶媒として熱安定性に優れたポリアルキレングリコールエーテルを用いると、溶媒の再利用による低コスト化が可能であることが判明した。
【0017】
しかし、市販の工業用グレードのグリコール酸水溶液を用いてグリコール酸オリゴマーを合成し、該オリゴマーを高沸点の極性有機溶媒中で解重合させると、次第に解重合反応系が不安定になり、グリコリドの生成速度が低下することが判明した。前記方法によりグリコリドを効率良く大量生産するには、同じ反応容器の中で連続的または繰り返して解重合反応を行なうことが望ましい。
【0018】
即ち、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含む解重合反応系を加熱して、グリコール酸オリゴマーをグリコリドに解重合させるが、生成したグリコリドは、極性有機溶媒と共に解重合反応系外に留出される。そこで、解重合反応系内の残留液に、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを連続的または間欠的に補充すれば、解重合反応を連続的または繰り返して長期間にわたって行なうことができる。
【0019】
ところが、同じ反応容器内で解重合反応を連続的または繰り返して実施すると、次第にグリコリドの生成速度が低下し、また、重質化物の蓄積による解重合反応系の粘調化が進行して、突沸が生じやすくなる。より具体的に、同じ反応容器内での解重合反応を10回以上繰り返して実施すると、グリコリドの留出速度が明らかに低下することが判明した。
【0020】
本発明者らは、この問題の原因を解明するためにさらに検討を続けた。その結果、市販の工業用グレードのグリコール酸水溶液を用いて合成したグリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したところ、グリコール酸以外に、ジグリコール酸及びメトキシ酢酸の如き有機酸が生成していることが検出された。また、グリコール酸の製法によっては、シュウ酸も検出されることがある。
【0021】
これらの有機酸は、沸点が比較的高いため、解重合反応系にグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを補充しながら、解重合反応を連続的または繰り返して実施すると、解重合反応系内にこれらの有機酸が蓄積する。これらの有機酸が解重合反応系内に蓄積すると、解重合反応に悪影響を及ぼすことが確認された。
【0022】
このような有機酸不純物による解重合反応系の不安定化とグリコリド生成速度の低下を防ぐ方法として、高純度グリコール酸水溶液を用いるか、工業用グレードのグリコール酸水溶液を精製して有機酸不純物量を低減させる方法が考えられる。しかし、グリコール酸の精製工程は、コスト高の原因となるため、グリコリドのコスト低減に逆行することになり、ひいては、ポリグリコール酸の用途展開の妨げとなる。
【0023】
さらに、高純度グリコール酸水溶液や精製グリコール酸水溶液を用いて合成したグリコール酸オリゴマーを用いても、解重合反応を長期にわたって連続的または繰り返して実施すると、微量の有機酸不純物が蓄積して、次第に解重合反応系を不安定化させ、グリコリドの生成速度を低下させる。そのため、工業的規模で安定的かつ効率的に、高純度のグリコリドを低コストで製造するには、さらなる改善が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合するグリコリドの製造方法において、グリコール酸オリゴマーを含む解重合反応系に長期安定性を付与して、解重合反応を連続的または繰り返して実施しても、安定的かつ効率的に解重合反応を実施することができるグリコリドの製造方法を提供することにある。
【0025】
また、本発明の目的は、グリコール酸オリゴマーの原料であるグリコール酸中に含まれる不純物に起因する悪影響を抑制して、連続的または繰り返して解重合反応を長期間実施しても、解重合反応を安定的かつ効率的に実施することを可能とする新規なグリコール酸オリゴマーを提供することにある。
【0026】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合させる工程を含むグリコリドの製造方法において、解重合反応中、解重合反応系内にアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を存在させ、その際、解重合反応系内での該化合物(A)の量を、解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.5当量以上の割合を維持する量となるように制御することにより、解重合反応系を長期にわたって安定化させることが可能であることを見出した。
【0027】
このアルコール性水酸基を持つ化合物を存在させる方法によれば、同じ反応容器内で解重合反応を連続的または繰り返して行なった場合でも、安定的かつ効率的にグリコリドを得ることができる。したがって、本発明の製造方法によれば、工業的規模でグリコリドを大量かつ経済的に製造することができる。
【0028】
また、190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコール酸オリゴマーを原料として用いると、同じ反応容器内で解重合反応を連続的または繰り返して行なった場合でも、安定的かつ効率的にグリコリドを得ることができることが見出された。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
かくして、本発明によれば、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合させる工程を含むグリコリドの製造方法において、
(i)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する、ポリアルキレングリコールジエーテルからなる極性有機溶媒とを含有する解重合反応系を加熱して、グリコール酸オリゴマーをグリコリドに解重合させる工程、
(ii)解重合により生成したグリコリドと極性有機溶媒とを解重合反応系外に留出させる工程、
(iii)留出により得られた留出物からグリコリドを回収する工程、及び
(iv)解重合反応系内に連続的または間欠的にグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを投入する工程
により、解重合反応を行なうとともに、
(v)解重合反応中、解重合反応系内に190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を添加することにより、解重合反応系内に190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を存在させ、その際、解重合反応系内での該化合物(A)の量を、解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が1.0当量以上の割合を維持する量となるように制御する
ことを特徴とするグリコリドの製造方法が提供される。
また、本発明によれば、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合させる工程を含むグリコリドの製造方法において、
(i)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する、ポリアルキレングリコールジエーテルからなる極性有機溶媒とを含有する解重合反応系を加熱して、グリコール酸オリゴマーをグリコリドに解重合させる工程、
(ii)解重合により生成したグリコリドと極性有機溶媒とを解重合反応系外に留出させる工程、
(iii)留出により得られた留出物からグリコリドを回収する工程、及び
(iv)解重合反応系内に連続的または間欠的にグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを投入する工程
により、解重合反応を行なうとともに、
(v)グリコール酸オリゴマーとして、190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーであって、その際、該化合物(A)の量を、該グリコリド製造用グリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.9〜1.1当量の割合を維持する量となるように制御してあるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーを用いることにより、解重合反応系内に190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を存在させ、その際、解重合反応系内での該化合物(A)の量を、前記有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が1.0当量以上の割合を維持する量となるように制御する
ことを特徴とするグリコリドの製造方法が提供される。
【0030】
また、本発明によれば、190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーであって、その際、該化合物(A)の量を、該グリコリド製造用グリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.9〜1.1当量の割合を維持する量となるように制御してあるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.解重合反応
本発明の方法では、解重合方法は、特に限定されず、例えば、米国特許第2,668,162号に開示されている溶融解重合法、米国特許第5,830,991号、特開平9−328481号公報などに開示されている溶液解重合法、特開平11−116666号公報などに開示されている固相解重合法などを採用することができる。
【0032】
したがって、「解重合反応系」とは、採用する解重合法に対応して、実質的にグリコール酸オリゴマーのみからなる系、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する系に大別される。本発明では、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する系である。
【0033】
実質的にグリコール酸オリゴマーのみからなる解重合反応系を加熱すると、解重合反応により生成したグリコリドが昇華または蒸発するが、昇華または蒸発したグリコリドを解重合反応系外に排出することについても、「留出する」という。加熱は、常圧下または減圧下に行なう。解重合反応系に不活性ガスを吹き込んで、生成したグリコリドを系外に随伴させることもできる。
【0034】
グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する混合物からなる解重合反応系を加熱すると、解重合反応により生成したグリコリドが極性有機溶媒と共留出する。留出物からグリコリドを分離することにより、グリコリドを回収することができる。この場合も、常圧下または減圧下に解重合反応系を加熱して解重合反応を行なう。
【0035】
解重合法としては、原料として使用するグリコール酸オリゴマーの重質物化防止やグリコリドの生成効率の観点から、グリコール酸オリゴマーを溶液相の状態で解重合させる溶液解重合法が好ましい。
【0036】
溶液解重合法としては、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する解重合反応系を加熱して、グリコール酸オリゴマーをグリコリドに解重合させる工程(i)、解重合により生成したグリコリドと極性有機溶媒とを解重合反応系外に留出させる工程(ii)、及び留出により得られた留出物からグリコリドを分離して回収する工程(iii)を含む方法が好ましい。
【0037】
前記工程(i)において、グリコール酸オリゴマー及び230〜450℃の範囲内の沸点を有する極性有機溶媒を含む混合物からなる解重合反応系を常圧下または減圧下に加熱して、該混合物中でのグリコール酸オリゴマーからなる融液相の残存率が0.5以下となる状態とし、その状態で加熱を継続してグリコール酸オリゴマーをグリコリドに解重合させることが、解重合反応を効率的に行なう上で好ましい。極性有機溶媒の分子量は、150〜450の範囲内にあることが好ましい。極性有機溶媒としては、ポリアルキレングリコールジエーテルが特に好ましい。
【0038】
グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する混合物を解重合反応系とする場合、該混合物を、常圧下または減圧下に、通常230℃以上の温度に加熱して、グリコール酸オリゴマーの全部または大半を極性有機溶媒に溶解させる。即ち、混合物中でのグリコール酸オリゴマーの融液相の割合が0.5以下になるまで、グリコール酸オリゴマーを極性有機溶媒に溶解させる。
【0039】
グリコール酸オリゴマーの大半が極性有機溶媒に溶解していない状態では、該オリゴマーの融液相の割合が多くなりすぎて、グリコリドの留出が起こり難くなり、また、オリゴマーの融液相中で重質物化反応が起こりやすくなる。グリコール酸オリゴマーを溶液状態で解重合させることにより、該オリゴマー表面から発生して揮発するグリコリドの生成速度が飛躍的に大きくなる。混合物を解重合が起こる温度に加熱したとき、グリコール酸オリゴマーが極性有機溶媒中で完全に溶解し、その融液相の相分離状態がない状態とすることが好ましい。
【0040】
グリコール酸オリゴマーの融液相の残存率は、流動パラフィンなどのグリコール酸オリゴマーが実質的に溶解しない溶媒中で形成される該オリゴマーの融液相の容積を1とした場合に、実際に使用する極性有機溶媒中で形成される該オリゴマーの融液相の容積の比率を意味する。
【0041】
極性有機溶媒を単独で使用したのでは、グリコール酸オリゴマーの溶解性が不十分である場合には、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下で加熱すれば溶解性を向上させることができる。
【0042】
加熱は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90kPa程度の減圧下に加熱することが好ましい。加熱は、不活性雰囲気中で行うことが望ましい。加熱温度は、グリコール酸オリゴマーの解重合反応が起こる230℃以上とするが、通常は230〜320℃、好ましくは235〜300℃、より好ましくは240〜290℃とする。
【0043】
加熱によりグリコール酸オリゴマーの解重合反応が起こり、解重合反応により生成したグリコリドが極性有機溶媒と共に留出する。生成したグリコリドが極性有機溶媒と共に留出することにより、反応容器やラインの壁面にグリコリドが付着して蓄積するのを防ぐことができる。留出物を解重合反応系外に導いて、そこからグリコリドを回収する。留出物を冷却し、必要に応じて非溶媒を添加して、グリコリドを固化・析出させる。析出したグリコリドは、母液から濾別、遠心沈降、デカンテーションなどの方法で分離し、必要に応じてシクロヘキサン、エーテルなどの非溶媒で洗浄または抽出し、さらには、酢酸エチルなどを用いて再結晶する。グリコリドは、蒸留によっても精製することができる。
【0044】
グリコリドを分離した母液は、精製することなく、そのままリサイクル使用したり、活性炭等で処理して濾別精製してからリサイクル使用したり、再蒸留して精製してからリサイクル使用することができる。
【0045】
解重合反応系からグリコリドを極性有機溶媒と共に留出させると、解重合反応系の容積が減少する。そこで、留出量に見合った量のグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒を解重合反応系に添加して補充すれば、解重合反応を連続的または繰り返して、長期にわたって実施することができる。本発明の製造方法によれば、解重合反応を安定的に実施することができるため、このような方法を採用することができ、それによって、生産効率を顕著に向上させ、コストを低減させることができる。
【0046】
より具体的に、本発明においては、反応容器内にグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを含有する混合物を仕込み、解重合反応を開始する。解重合反応の進行に伴って、生成グリコリドと極性有機溶媒とが系外に留出される。反応容器内の残留反応液に、グリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを加えて、解重合反応を繰り返して行なうことができる。解重合反応中にグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを投入しながら、解重合反応を連続的に行なうこともできる。解重合反応系内へのグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒との投入は、連続的または間欠的に行なうことができる。連続的な投入と間欠的な投入とを組み合わせてもよい。また、反応容器内の残留反応液は、全部を用いてもよいが、その一部を用いてもよい。
【0047】
本発明では、解重合反応系内にグリコール酸オリゴマーまたはグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを連続的または間欠的に投入しながら、解重合反応を連続的もしくは繰り返し行なう方法を採用すると共に、解重合反応系内に常にアルコール性水酸基を持つ化合物を所定量以上存在させた状態で解重合を行う。
【0048】
同一の反応容器内で解重合反応を連続的または繰り返して行なうためには、解重合反応系内にグリコール酸オリゴマーまたはグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを連続的または間欠的に添加して補充する必要がある。その結果、解重合反応系内に有機酸不純物が蓄積されていく。本発明では、その蓄積されていく有機酸不純物量に応じた量のアルコール性水酸基を持つ化合物を常に解重合反応系内に存在させる。
【0049】
解重合反応系内に存在させるアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の量は、そのアルコール性水酸基量が、解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量の0.5当量以上、好ましくは0.9当量以上、さらに好ましくは1当量以上となる量である。本発明では、1.0当量以上である。
【0050】
解重合反応系内に存在するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の量が少なすぎて、有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.5当量未満になると、グリコリドの生成速度の低下を抑制することが困難になる。アルコール性水酸基を持つ化合物(A)の量が多くなりすぎると、解重合反応系が希釈されて、解重合反応効率が低下することがある。多くの場合、有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量を0.5〜1.5当量の範囲内に維持することによって、解重合反応系を安定化させることができる。ただし、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)をグリコール酸オリゴマーの極性有機溶媒に対する溶解性を向上させるための可溶化剤としても作用させる場合には、該化合物(A)を、グリコール酸オリゴマー100重量部に対して、好ましくは100重量部まで、より好ましくは50重量部までの範囲内で解重合反応系に存在させることができる。
【0051】
解重合反応系内にアルコール性水酸基を持つ化合物を、有機酸不純物のカルボキシル基量に対して所定当量以上の割合で存在させることにより、解重合反応系が安定化されて、グリコリド生成速度の低下が抑止される。その理由の詳細は、現段階では明らかではない。連続的または繰り返し解重合反応を行なうことによって、解重合反応系内の有機酸不純物の蓄積量が増大する。解重合反応系に存在する有機酸不純物の末端カルボキシル基量(b)とアルコール性水酸基量(a)との比(b/a)が増大する方向にずれると、解重合反応の競争反応である縮合反応が起こりやすくなり、その結果、グリコリドの生成速度が低下すると推定することができる。アルコール性水酸基を持つ化合物(A)は、有機酸不純物と化学的に反応するなどして、その作用を抑制するものと推定される。
【0052】
解重合反応系内へのアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の添加方法は、特に限定されない。例えば、反応容器内への原料のグリコール酸オリゴマーの投入と同時に、あるいはその前後に必要量のアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を添加することができる。また、予め過剰量のアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を添加しておいて、連続的または間欠的に原料のグリコール酸オリゴマーを加えて解重合反応を行うことにより、解重合反応系内の有機酸不純物のカルボキシル基の総量が当初添加したアルコール性水酸基を持つ化合物(A)のアルコール性水酸基量に対して所定の当量以上となるまで蓄積される前に、解重合反応系内にアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を連続的または間欠的に添加することができる。
【0053】
同じ反応容器内で解重合反応を繰り返し行なう場合には、グリコール酸オリゴマーまたはグリコール酸オリゴマーと極性有機溶媒とを補充する際に、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)の必要量を添加するか、あるいは解重合反応の繰り返し回数が一定数以上となった段階で、該化合物(A)のまとまった量を添加してもよい。
【0054】
溶液解重合法の場合、必要量のアルコール性水酸基を持つ化合物を添加する方法としては、グリコール酸オリゴマーと所定量のアルコール性水酸基を持つ化合物とを極性有機溶媒に溶解した溶液を添加する方法を採用することできる。使用するアルコール性水酸基を持つ化合物の量は、添加後の解重合反応系内の有機酸不純物のカルボキシル基総量に対してアルコール性水酸基量が所定の当量比以上(0.5当量以上)となっていればよいが、実際上は、原料のグリコール酸オリゴマー中に含まれる有機酸不純物のカルボキシル基の総量を予め測定しておいて、その総量に対してアルコール性水酸基量が0.5当量以上、好ましくは1.0当量以上となる割合を維持する量となるように、アルコール性水酸基を持つ化合物の量を制御する。この当量比が0.5当量未満であると、解重合反応系内のアルコール性水酸基量が低下してグリコリド生成速度の低下抑制効果が発現しにくくなる。
【0055】
本発明の方法では、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)を直接解重合反応系内に添加する方法に代えて、原料グリコール酸オリゴマーとして、沸点190℃以上のアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコール酸オリゴマーを使用する方法を採用することができる。このようなグリコール酸オリゴマーを使用することによって、解重合反応系内に存在するアルコール性水酸基を持つ化合物を所定量の範囲内に維持することができる。アルコール性水酸基を持つ化合物と共縮合させたグリコール酸オリゴマーを原料として使用すると、アルコール性水酸基を持つ化合物を必ずしも別途添加する必要がなくなるので、解重合反応操作が簡単になって好都合である。
【0056】
このようなグリコール酸オリゴマーは、常法によるグリコール酸の縮合条件下にアルコール性水酸基を持つ化合物(A)を存在させて共縮合することにより製造することができる。共縮合物中、アルコール性水酸基を持つ化合物は、単独で、あるいはグリコール酸、ジグリコール酸、メトキシ酢酸、またはシュウ酸との共縮合によりエステル化された構造でグリコール酸オリゴマー中に存在し、それによって、有機酸不純物の作用を抑制するものと推定される。
【0057】
グリコール酸の縮合時、共存させるアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の量については、縮合により得られるグリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基量に対してアルコール性水酸基の量が0.5〜1.5当量の範囲内となる量とすることが好ましい。有機酸不純物のカルボキシル基の総量に対するアルコール性水酸基の量を1.5当量より多く共存させて縮合してグリコール酸オリゴマーを製造し、それを原料として添加する際に、該化合物(A)を共縮合させていないグリコール酸オリゴマーで希釈して、アルコール性水酸基の当量比が上記範囲内になるように制御してもよい。
【0058】
アルコール性水酸基を持つ化合物(A)をグリコール酸の縮合時に共存させる量は、製造されるグリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対して、そのアルコール性水酸基が好ましくは0.5〜1.5当量、より好ましくは0.8〜1.2当量、特に好ましくは0.9〜1.1当量となる量とすることが望ましい。グリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量は、原料のグリコール酸中に含まれるこれらの有機酸のカルボキシル基の総量にほぼ等しいと考えることができる。
【0059】
2.グリコール酸オリゴマー
本発明に用いるグリコール酸オリゴマーは、グリコール酸を縮合することによって合成することができる。グリコール酸は、そのエステル(例えば、低級アルキルエステル)や塩(例えば、ナトリウム塩)の形態であってもよい。
【0060】
グリコール酸(そのエステルもしくは塩含む)を、必要に応じて縮合触媒もしくはエステル交換触媒の存在下に、減圧もしくは加圧下、通常100〜250℃、好ましくは140〜230℃の温度に加熱し、水、アルコール等の低分子量物質の留出が実質的に無くなるまで縮合反応もしくはエステル交換反応を行う。縮合反応またはエステル交換反応終了後、生成したグリコール酸オリゴマーは、そのまま本発明の製造方法の原料として使用することができる。また、得られたグリコール酸オリゴマーを反応系から取り出して、ベンゼンやトルエンなどの非溶媒で洗浄して、未反応物や低重合物または触媒などを除去してから使用することもできる。グリコール酸オリゴマーは、環状でも直鎖状でもよい。重合度は、特に限定されないが、解重合反応の際のグリコリドの収率の点から、融点(Tm)が通常140℃以上、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上のものであることが望ましい。ここで、Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下、10℃/分の速度で昇温して検出される融点である。
【0061】
前述したように、市販のグリコール酸を縮合して得たグリコール酸オリゴマーには、モノマー単位としてグリコール酸以外にも少量の不純物成分として、例えば、ジグリコール酸、メトキシ酢酸、シュウ酸などを含んでいる。これらの不純物のうち、有機酸不純物は、沸点が比較的高いので、その量がたとえ少ないものであったとしても、解重合反応系内に原料のグリコール酸オリゴマーを順次添加して解重合反応を連続的または繰り返して行うと、有機酸不純物が解重合反応系内に蓄積していき、その結果、解重合反応に悪影響を及ぼすようになる。
【0062】
本発明の製造方法に従って、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)を共存させることにより、この有機酸不純物の影響を顕著に抑制することができる。そのため、使用するグリコール酸オリゴマーは、特に限定されず、例えば市販の工業用グレードのグリコール酸水溶液を用いて、グリコール酸を脱水縮合することにより、安価に製造されたものを使用することができる。
【0063】
市販の工業用グレードのグリコール酸を常法により脱水縮合して得たグリコール酸オリゴマーには、それをアルカリ条件下で完全に加水分解した際に生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸のカルボキシル基の総量がグリコール酸に対して通常0.5モル%以上の割合で存在するが、本発明で使用できるグリコール酸オリゴマーは、このように有機酸不純物に起因するカルボキシル基を多量に含んだものであってもよい。
【0064】
沸点190℃以上のアルコール性水酸基を有する化合物の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコール酸オリゴマーは、グリコール酸オリゴマーの製造条件下において、アルコール性水酸基を持つ化合物を所定量存在させた状態で共縮合することにより調製することができる。
【0065】
3.アルコール性水酸基を持つ化合物
本発明に用いる190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)は、解重合反応中、解重合反応系内に存在させることが必要である。不純物としてのジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸は、いずれも沸点が比較的高く、解重合反応条件では系外に留出しにくいため、アルコール性水酸基を持つ化合物(A)もまた系外に留出しにくいものであることが望ましい。
【0066】
このようなアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の具体例としては、一価または二価以上の多価アルコール類(部分エステル化物及び部分エーテル化物を含む)、フェノール類などが挙げられる。特に、アルコール類は、アルコール性水酸基を持つ化合物として最も有効であり、中でも一分子中にアルコール性水酸基を2個以上持つ多価アルコールが好ましい。多価アルコールは、低分子量のものであっても、沸点が比較的高く、解重合反応系外に留出しにくいとの利点を有しているため、一価アルコールに比べて、少量の添加で優れた効果が得られる。該化合物(A)の沸点は、190℃以上であることが好ましく、195℃以上であることがより好ましい。
【0067】
アルコール性水酸基を持つ化合物(A)が解重合反応系外に留出する場合には、留出量に見合った量を適宜補充することが好ましい。
【0068】
アルコール性水酸基を持つ化合物としては、式(1)
【0069】
【化3】

【0070】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表わし、pは、1以上の整数である。pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示されるアルキレンジオール(p=1)またはポリアルキレングリコール(p≧2);式(2)
【0071】
【化4】

【0072】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表わし、Xは、炭化水素基を表わし、qは、1以上の整数である。qが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示されるポリアルキレングリコールモノエーテル;グリセリンなどの3価以上の多価アルコール;トリデカノールなどの高級アルコール;などを用いることができる。これらの中でも、アルキレンジオール、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールモノエーテルが好ましい。
【0073】
アルキレンジオール(即ち、アルキレングリコール)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールが好ましい。
【0074】
ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0075】
ポリアルキレングリコールモノエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリエチレングリコールモノデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテルなどのポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。また、前記の化合物において、エチレンオキシ基をプロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基に代えたポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルまたはポリブチレングリコールモノアルキルエーテルなどのポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0076】
これらのアルコール性水酸基を持つ化合物(A)は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、該化合物(A)は、アルコール性水酸基を持つ化合物との共縮合によって得られたグリコール酸オリゴマーと併用することもできる。
【0077】
4.極性有機溶媒
解重合反応を溶液解重合法により行う場合には、極性有機溶媒が使用される。極性有機溶媒は、解重合反応の溶媒として用いられるが、生成したグリコリドと共留出させて、グリコリドを解重合反応系外に随伴させる役割をも果す。極性有機溶媒の沸点は、230〜450℃の範囲内にあることが好ましい。また、極性有機溶媒の分子量は、150〜450の範囲内であることが好ましい。
【0078】
極性有機溶媒の沸点が低すぎると、解重合反応温度を高く設定することができず、グリコリドの生成速度が低下する。一方、極性有機溶媒の沸点が高すぎると、解重合反応時に極性有機溶媒が留出しにくくなり、解重合反応により生成したグリコリドとの共留出が難しくなる。極性有機溶媒の沸点は、好ましくは230〜450℃、より好ましくは260〜430℃、最も好ましくは280〜420℃の範囲内である。
【0079】
極性有機溶媒の分子量は、小さすぎても大きすぎても、グリコリドとの共留出が難しくなるので好ましくない。極性有機溶媒の分子量は、好ましくは180〜420、より好ましくは200〜400の範囲内である。
【0080】
極性有機溶媒としては、芳香族ジカルボン酸ジエステル、脂肪族ジカルボン酸ジエステル、ポリアルキレングリコールジエーテルなどが挙げらる。芳香族ジカルボン酸ジエステルとしては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジベンジルフタレート、ベンジルブチルフタレートなどのフタル酸エステル類;ベンジルベンゾエートなどの安息香酸エステル;などが挙げられる。
【0081】
脂肪族ジカルボン酸ジエステルとしては、オクチルアジペート等のアジピン酸エステル;ジブチルセバケート等のセバチン酸エステル;が挙げられる。
【0082】
ポリアルキレングリコールジエーテルは、式(3)
【0083】
【化5】

【0084】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を表わし、X及びYは、それぞれ炭化水素基を表わし、rは、1以上の整数である。rが2以上の場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示される化合物である。
【0085】
ポリアルキレングリコールジエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジオクチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジオクチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジオクチルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルオクチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル、トリエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールブチルオクチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールブチルオクチルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル、これらの化合物において、エチレンオキシ基に代えて、プロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基を含むポリプロピレングリコールジアルキルエーテルまたはポリブチレングリコールジアルキルエーテル等のポリアルキレングリコールジアルキルエーテル;ジエチレングリコールブチルフェニルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、ジエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、トリエチレングリコールブチルフェニルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、トリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールブチルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールオクチルフェニルエーテルまたはこれらの化合物のフェニル基の水素基がアルキル、アルコキシ、ハロゲン等で置換されたポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル、これらの化合物において、エチレンオキシ基に代えて、プロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基を含むポリプロピレングリコールアルキルアリールエーテルまたはポリブチレングリコールアルキルアリールエーテル等のポリアルキレングリコールアルキルアリールエーテル;ジエチレングリコールジフェニルエーテル、トリエチレングリコールジフェニルエーテル、テトラエチレングリコールジフェニルエーテルまたはこれらの化合物のフェニル基がアルキル、アルコキシ、ハロゲン等で置換された化合物等のポリエチレングリコールジアリールエーテル、これらの化合物において、エチレンオキシ基に代えて、プロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基を含むポリプロピレングリコールジアリールエーテルまたはポリブチレングリコールジアリールエーテル等のポリアルキレングリコールジアリールエーテル等が挙げられる。
【0086】
本発明で用いる極性有機溶媒は、230〜450℃の範囲内の沸点を有する、ポリアルキレングリコールジエーテルからなる極性有機溶媒である。
極性有機溶媒は、グリコール酸オリゴマーに対して、質量基準で、通常0.3〜50倍、好ましくは0.5〜20倍、より好ましくは1〜10倍の割合で用いられる。
【実施例】
【0087】
以下に、合成例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0088】
(1)ジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の定量方法
試料5.8gを200mlビーカーに採り、NaOH4g及び蒸留水40gを加え、40℃にて12〜48時間撹拌して加水分解を完全に行った。この加水分解液を硫酸でpH4.7に調整後、全量が80gになるように蒸留水を加えた。この試験液2gをさらに蒸留水で50mlに希釈し、そのうちの2μlを下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0089】
グリコール酸、ジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の標準物質から予め検量線を求めておき、絶対検量線法にて各成分の含量を求めた。
含量は、ジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸は、いずれも酸の状態でモルで表記し、比率を表すときは、モル%で表わした。
【0090】
<HPLCによる分析条件>
装置 :日立製作所製L−6200
カラム :Intersil ODS-3V (5μm)、250×4.6mm I.D.
流速 :1.0mL/分
溶離液 :0.1 Mリン酸二水素アンモニウム+リン酸水溶液(pH2.5 )
オーブン温度:40℃
検出条件 :UV 210nm
【0091】
[合成例1]グリコール酸オリゴマー(a)の合成
5リットルのオートクレーブに、市販の70%グリコール酸水溶液(工業用グレード;デュポン社製)3500gを仕込み、常圧で撹拌しながら170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を留出させながら縮合反応させた。次いで、缶内圧力を5.0kPaに減圧し、200℃で2時間加熱して、未反応物を含む低沸点成分を留去し、グリコール酸オリゴマー(a)を1700g調製した。オリゴマー(a)をアルカリ条件下で加水分解して分析したジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の割合は、それぞれグリコール酸1モルに対して、1.0モル%、0.5モル%、及び0モル%であった。
【0092】
[合成例2]グリコール酸オリゴマー(b)の合成
グリコール酸水溶液を工業用グレードから市販の高純度70%水溶液(デュポン社製)3570gに代え、シュウ酸(分子量=90)32gを加えたほかは、合成例1と同様に操作し、グリコール酸オリゴマー(b)を1650g得た。グリコール酸オリゴマー(b)をアルカリ条件下で加水分解して分析したジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の割合は、それぞれグリコール酸1モルに対して、0モル%、0モル%、及び1.25モル%であった。
【0093】
[合成例3]グリコール酸オリゴマー(c)の合成
5リットルのオートクレーブに、市販の70%グリコール酸水溶液(工業用グレード;デュポン社製)3500g、及びラウリルトリエチレングリコール(分子量=318.5)250gを仕込み、常圧で撹拌しながら170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を留出させながら縮合反応させた。次いで、缶内圧力を5.0kPaに減圧し、200℃で2時間加熱して、未反応物を含む低沸点成分を留去し、グリコール酸オリゴマー(c)を1750g調製した。グリコール酸オリゴマー(c)をアルカリ条件下で加水分解して分析したジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の割合は、それぞれグリコール酸1モルに対して、1.0モル%、0.5モル%、及び0モル%であった。
【0094】
この合成例3は、190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーの発明について、その実施例に該当するものである。
【0095】
[合成例4]ポリアルキレングリコールジエーテルの合成
市販のポリエチレングリコールジメチルエーテル#250(メルク製)を蒸留し、重合度4のテトラエチレングリコールジメチルエーテル(以下、「TEGDME」という)を得た。これを溶液解重合法の極性有機溶媒として用いた。
【0096】
[実施例1]
500mlフラスコに合成例1で得られたグリコール酸オリゴマー(a)100g、極性有機溶媒としてTEGDME200g、及びポリエチレングリコール#300(平均分子量=300、沸点=410〜470℃;以下、「PEG#300」という)42g(アルコール性水酸基として0.28モル相当)を加えた後、260℃まで加熱し、かつ、8.0kPaに減圧した。グリコール酸オリゴマー(a)は、溶解状態であり、その融液相の残存率は実質的にゼロであった。解重合反応系からの留出液は、氷水で冷却してトラップした。
【0097】
5時間反応させたところ留出液は、210gだった。この留出液から、グリコリド58gとTEGDME150gを回収した。グリコリドの留出速度は、11〜12g/hであった。フラスコ内の残留反応液に、グリコール酸オリゴマー(a)60gとTEGDME150gを加え、前記と同様の条件で解重合反応を実施した。
【0098】
このように、留出液中の得られたグリコリド量に相当する重量のグリコール酸オリゴマー(a)と留出液中のTEGDMEと同重量のTEGDMEを加えながら解重合反応を繰り返し実施した。
【0099】
解重合反応を10回繰り返し実施した。グリコール酸オリゴマー(a)の総投入量は、640gとなった。解重合反応を10回繰り返し実施したところで、グリコリドの留出速度が低下してきた。即ち、グリコリドの留出速度は、8〜9g/hにまで低下した。そこで、11回目の解重合反応を実施する際、グリコール酸オリゴマー(a)60gに対して、PEG#300を4g加えて解重合反応を実施したところ、再びグリコリドの留出速度は、当初の留出速度の11〜12g/hに戻った。同様にして、12回目から15回目まで、グリコール酸オリゴマー(a)60gとPEG#300を4gとTEGDME150gを加えて解重合反応を繰り返し実施した。また、16回目から20回目までは、グリコール酸オリゴマー(a)60gとラウリルトリエチレングリコール(分子量=318.5、沸点=450℃以上)8.3gとTEGDME150gを、さらに、21回目から25回目までは、グリコール酸オリゴマー(a)60gとエチレングリコール(分子量=62、沸点=197℃)1.3gとTEGDME150gを加えて、それぞれ解重合反応を繰り返し実施した。11回目から25回目まで、グリコリドの留出速度は11〜12g/hで安定しており、長期にわたって安定的かつ効率的な解重合反応が可能であった。
【0100】
25回目の終了時点において、グリコール酸オリゴマー(a)の総投入量は、1540gとなった。解重合反応系(フラスコ内の残留反応液)をアルカリ条件下で加水分解して、その中に存在しているジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の含有量を分析したところ、それぞれ0.26モル、0.13モル、及び0モルであった。これらの有機酸のカルボキシル基量を合計すると、0.65モルとなる。初期および途中で加えたアルコール性水酸基を持つ化合物の量は、PEG#300が62g、ラウリルトリエチレングリコールが41.5g、及びエチレングリコールが6.5gであり、各々のアルコール性水酸基量を合計すると、0.65モルとなる。
【0101】
[実施例2]
500mlフラスコに合成例2で得られたグリコール酸オリゴマー(b)100g、極性有機溶媒としてTEGDME200g、及びPEG#300(平均分子量=300、沸点=410〜470℃)42g(アルコール性水酸基として0.28モル相当)を加えた後、260℃まで加熱し、かつ、8.0kPaに減圧した。グリコール酸オリゴマー(b)は、溶解状態となっていた。留出液は、氷水で冷却しトラップした。
【0102】
5時間反応させたところ留出液は、208gとなった。留出液から、グリコリド59gとTEGDME149gを回収した。グリコリドの留出速度は、11〜12g/hであった。フラスコ内の残留反応液に、グリコール酸オリゴマー(b)60gとTEGDME150gを加え、先と同様の条件で解重合反応を実施した。このようにして、留出液中の得られたグリコリド量に相当する重量のグリコール酸オリゴマー(b)と留出液中のTEGDMEと同重量のTEGDMEを加えながら解重合反応を繰り返し実施した。10回目の繰り返し実施で、グリコール酸オリゴマー(b)の総投入量は、640gとなった。この10回目の繰り返し実施の際に、グリコリドの留出速度が9〜10g/hにまで低下した。そこで、11回目の解重合反応を実施する際に、グリコール酸オリゴマー(b)60gに対して、PEG#300を4g加えて解重合反応を実施したところ、グリコリドの留出速度は、当初の11〜12g/hに戻った。同様にして、12回目から25回目まで、グリコール酸オリゴマー(b)60gとPEG#300を4gとTEGDME150gを加えて、解重合反応を繰り返し実施した。11回目から25回目まで、グリコリドの留出速度は、11〜12g/hで安定しており、長期にわたって解重合反応を安定的かつ効率的に実施することが可能であった。
【0103】
25回目の終了時点において、グリコール酸オリゴマー(b)の総投入量は、1540gとなった。解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解して、その中に存在しているジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の量を分析したところ、それぞれ0モル、0モル、及び0.33モルであった。これらの有機酸のカルボキシル基量を合計すると、0.66モルとなる。初期および途中で加えたアルコール性水酸基を持つ化合物の量は、PEG#300が102gであり、アルコール性水酸基量は0.68モルとなる。
【0104】
[実施例3]
実施例1と同様にして解重合反応の繰り返し実験を開始した。10回目まで繰り返し解重合反応を行なったところで、添加するグリコール酸オリゴマーを合成例3で得られたグリコール酸オリゴマー(c)に代えた。11回目以降は、グリコール酸オリゴマー(c)60g、TEGDME150gを添加して解重合反応を繰り返し実施した。25回目まで解重合反応を繰り返し行なったが、その間、グリコリドの留出速度は、低下することなく、11〜12g/hで安定して解重合反応が行われた。
【0105】
25回目の終了時点において、グリコール酸オリゴマー(c)の総投入量は、1540gとなった。解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解して、その中に存在しているジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の量を分析したところ、それぞれ0.26モル、0.13モル、及び0モルであった。これらの有機酸のカルボキシル基量を合計すると、0.65モルとなる。初期に加えたPEG#300が42g、グリコール酸オリゴマー(c)中に共縮合した状態で含まれているラウリルトリエチレングリコールが128g相当であり、各々のアルコール性水酸基量を合計すると、0.68モルとなる。
【0106】
[実施例4]
500mlフラスコに合成例3で得られたグリコール酸オリゴマー(c)100g、極性有機溶媒としてTEGDME200gを加えた後、260℃まで加熱し、かつ、8.0kPaに減圧した。グリコール酸オリゴマー(c)は、溶解状態であった。留出液は、氷水で冷却しトラップした。
【0107】
5時間反応させたところ、留出液は、208gとなった。留出液から、グリコリド59gとTEGDME150gを回収した。フラスコ内の残留反応液に、グリコール酸オリゴマー(c)60gとTEGDME150gを加え、先と同様の条件で解重合反応を実施した。このようにして、留出液中の得られたグリコリド量に相当する重量のグリコール酸オリゴマー(c)と留出液中のTEGDMEと同重量のTEGDMEを加えながら、解重合反応を繰り返し実施した。25回目まで解重合反応を繰り返し実施したが、その間、グリコリドの留出速度が低下することなく、11〜12g/hの留出速度で安定しており、解重合反応を安定的かつ効率的に実施することができた。
【0108】
25回目の終了時点において、グリコール酸オリゴマー(c)の総投入量は、1540gとなった。解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解して、その中に存在しているジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の量を分析したところ、それぞれ0.26モル、0.13モル、及び0モルであった。これらの有機酸のカルボキシル基量を合計すると、0.65モルとなる。グリコール酸オリゴマー(c)中に共縮合により含まれているラウリルトリエチレングリコールが220g相当であり、アルコール性水酸基量は、0.69モルとなる。
【0109】
[比較例1]
500mlフラスコに合成例1で得たグリコール酸オリゴマー(a)100g、極性有機溶媒としてTEGDME200g、及びPEG#300(平均分子量=300、沸点=410〜470℃)42g(アルコール性水酸基として0.28モル相当)を加えた後、260℃まで加熱し、かつ、8.0kPaに減圧した。グリコール酸オリゴマー(a)は、溶解状態であった。留出液は、氷水で冷却しトラップした。
【0110】
5時間反応させたところ、留出液は、210gとなった。留出液から、グリコリド58gとTEGDME150gを回収した。グリコリドの留出速度は、11〜12g/hであった。フラスコ内の残留反応液に、グリコール酸オリゴマー(a)60gとTEGDME150gを加え、先と同様の条件で解重合反応を実施した。
【0111】
このようにして、留出液中の得られたグリコリド量に相当する重量のグリコール酸オリゴマー(a)と留出液中のTEGDMEと同重量のTEGDMEを加えながら、解重合反応を繰り返し実施した。解重合反応を10回繰り返したところ、グリコール酸オリゴマー(a)の総投入量は、640gとなった。この時点で、グリコリドの留出速度が8〜9g/hにまで低下した。11回目の解重合反応を実施する際に、グリコール酸オリゴマー(a)60gとTEGDME150gを加えて解重合反応を実施したところ、さらにグリコリドの留出速度が低下した。同様にして、12回目から15回目までグリコール酸オリゴマー(a)60gとTEGDME150gを加えて解重合反応を繰り返し実施したが、グリコリドの留出速度は、繰り返し回数を重ねるごとに顕著に低下していった。解重合反応を15回目まで繰り返し実施したところ、グリコリドの留出速度は、3〜4g/hにまで低下した。
【0112】
15回目の終了時点におけるグリコール酸オリゴマー(a)の総投入量は、940gとなった。解重合反応系をアルカリ条件下で加水分解して、フラスコ内に存在しているジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸の量を分析したところ、それぞれ0.16モル、0.08モル、及び0モルであった。これらの有機酸のカルボキシル基量を合計すると、0.40モルとなる。初期に加えたアルコール性水酸基を持つ化合物量は、PEG#300が42gであり、アルコール性水酸基量は0.28モルとなる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、グリコール酸オリゴマーを加熱して解重合するグリコリドの製造方法において、グリコール酸オリゴマーを含む解重合反応系に長期安定性を付与して、解重合反応を連続的または繰り返して実施しても、安定的かつ効率的に解重合反応を実施することができるグリコリドの製造方法が提供される。
【0114】
また、本発明によれば、グリコール酸オリゴマーの原料であるグリコール酸中に含まれる不純物に起因する悪影響を抑制して、連続的または繰り返して解重合反応を長期間実施しても、解重合反応を安定的かつ効率的に実施することを可能とする新規なグリコール酸オリゴマーが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)の存在下でグリコール酸を縮合して得られるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマーであって、その際、該化合物(A)の量を、該グリコリド製造用グリコール酸オリゴマーをアルカリ条件下で加水分解したときに生成するジグリコール酸、メトキシ酢酸、及びシュウ酸からなる有機酸(B)のカルボキシル基の総量に対する該化合物(A)のアルコール性水酸基量が0.9〜1.1当量の割合を維持する量となるように制御してあるグリコリド製造用グリコール酸オリゴマー。
【請求項2】
190℃以上の沸点を有するアルコール性水酸基を持つ化合物(A)が、アルキレンジオール、ポリアルキレングリコール、及びポリアルキレングリコールモノエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載のグリコリド製造用グリコール酸オリゴマー。

【公開番号】特開2009−269926(P2009−269926A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186996(P2009−186996)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【分割の表示】特願2002−581417(P2002−581417)の分割
【原出願日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】