説明

グリコールの製造方法

【課題】バイオマス資源から製造したグリコールは、元のバイオマス資源の組成が一定でなく、また目的とするグリコール以外の他のグリコールをはじめとする不純物を多く含んでいる。不純物を含んだ状態でポリマー原料として使用すると、特に他のグリコールが含まれる場合、製造されるポリマーの品質に大きな影響を与え、狙ったポリマーの品質が得られない問題点がある。
【解決手段】本発明の課題は、原料としてバイオマス資源を用いてグリコール類を製造する方法において、得られるグリコール類の純度が99%以上となるよう2以上の精製処理を実施することを特徴とするグリコールの製造方法によって解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源からグリコール類の製造方法に関するものであり、詳しくは、得られるグリコールの純度が99%以上となるよう2段以上の精製処理を実施することを特徴とするグリコール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコール類は、そのほとんどが石油、天然ガス及び石炭などの化石資源を原料として製造されている。近年、化石資源の枯渇化の資源問題や二酸化炭素濃度の増加による地球環境への懸念から、化学原料をバイオマス資源から変換する方法に対して注目が集まっている。
【0003】
化石資源を原料とせず、バイオマス資源からグリコール類を製造する方法として、トウモロコシを原料として、発酵方法により1,3−プロパンジオールを製造する方法(例えば特許文献1参照。)、バイオマス資源(グリセロールなど)を原料として、化学変換処理により、エチレングリコールと1,2−プロパンジオールを製造する方法が開発されてきた。(例えば非特許文献1参照。)
【0004】
しかしながら、バイオマス資源から製造したグリコールは、元のバイオマス資源の組成が一定でなく、また目的とするグリコール以外の他のグリコールをはじめとする不純物を多く含んでいる。不純物を含んだ状態でポリマー原料として使用すると、特に他のグリコールが含まれる場合、製造されるポリマーの品質に大きな影響を与え、狙ったポリマーの品質が得られない問題点がある。
【0005】
【特許文献1】特表平10−507082号公報
【非特許文献1】HYDROCARBON PROCESSING、FEBRURY 2006、87−92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術が有していた問題点を解決し、バイオマス資源から製造したグリコールを2以上の精製処理を実施することにより、ポリマー原料として使用できる品質良好なグリコールを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記従来技術に鑑み、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、バイオマス資源を用いてグリコール類を製造する方法において、得られるグリコール類の純度が99%以上となるよう2以上の精製処理を実施することを特徴とするグリコールを製造する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、組成が一定でないバイオマス資源から製造した不純物を多く含むグリコールを、2段以上の精製処理を実施することによって、ポリマー原料として使用することが可能である。これにより、従来、石油、天然ガス及び石炭などの化石資源を原料としていたグリコールを、循環可能なバイオマス資源へ転換することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、バイオマス資源とは太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生成される再生可能な生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源を指し、化石資源を除く資源である。バイオマス資源はその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、リグニン、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油など)、グリセロール、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、キャッサバなど)、バガス、テルペン系化合物、パルプ黒液、生ごみ、排水汚泥などが挙げられる。また、バイオマス資源からグリコール類を製造する方法は、特に限定はされないが、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。
【0010】
バイオマス資源から生成されるグリコール類とは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0011】
バイオマス資源からグリコール類に変換する方法としては、バイオマス資源から、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、グルコール、フルクトース、セルロースなどに変換し、さらに触媒を用いて水素化熱分解反応により、エチレングリコールと1,2−プロパンジオールの混合物を生成する方法が用いられることがある。また、サトウキビ、バガス、炭水化物系作物などから生物学処理方法によりエタノールを製造し、更に、エチレンオキサイドを経て、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの混合物を生成する方法などが挙げられる。
【0012】
上記のバイオマス資源の選択、生物学的処理方法・化学的処理方法・物理的処理方法の選択及びその処理条件選択によってグリコール混合物中に含まれるグリコールの種類と組成が変化する。
【0013】
本発明の実施方法は、バイオマス資源から製造されたグリコール類に対して、蒸留精製、抽出分離、化学変換蒸留分離、吸着分離、再結晶処理及び膜分離からなる群より選ばれる同一又は異なる2以上の操作の組合せからなる精製処理を行う。これらの精製処理操作は同一種類の精製処理操作を例えば条件を変更して行っても、異なる種類の精製処理操作を行ってもよい。
【0014】
蒸留精製操作においては、目的として得ようとするグリコールと分離したい他の不純物との物性に基づいて、好ましい蒸留条件が選択する必要がある。蒸留条件の選択の際には、2以上の精製処理の全体を通じて理論段数が20段以上となるように条件を選択することが好ましい。例えば、エチレングリコールと1,2−プロパンジオールの混合物からエチレングリコールを得ようとする場合、理論段数30段以上、還流比5以上で2回以上蒸留精製を行うと、99%以上の純度のエチレングリコールを得ることができる。
【0015】
抽出分離精製操作は、液液界面を通じて特定成分を分離する方法である。目的として得ようとするグリコールと分離したい他の不純物との物性に基づいて、好ましい溶剤の種類を選択する必要がある。例えば、エチレングリコールと1,2−プロパンジオールの混合物をヘキサンにて抽出処理を行うと、80%以上の純度のエチレングリコールを得ることができる。
【0016】
化学変換蒸留分離操作は、グリコールなどが水素結合を有し、単純な蒸留精製が難しいことから、他の化学物質に一旦変換し、精製した後再度元の化学物質に戻す方法である。例えば、グリコール化合物などは、ケトンと反応させ一旦アセタール化合物へ変換した後、蒸留精製し、再度、グリコールへ戻す方法がある。
【0017】
吸着分離操作は、吸着剤を用い、特定の物質を吸着させ分離精製する方法である。例えば、吸着剤としては、シリカゲル、活性炭、ゼオライト、活性アルミナ、イオン交換樹脂、粘土などが使用される。
【0018】
再結晶処理操作は、結晶性の物質を特定の溶媒に溶解させ、適当な方法で再び結晶として析出させる精製処理を行う方法である。このためには、温度による溶解度の相違を利用して、高温の飽和溶液を冷却する、溶媒を蒸発させて濃縮させる、或いは、溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させる方法が採用される。
【0019】
膜分離は、物質によって透過性が異なる膜を用いて混合溶液中の成分を分離する方法である。膜分離の方法としては、精密ろ過法、限外ろ過法、逆浸透ろ過法、透析ろ過法、電気透析法などがある。またグリコール類の精製処理は回分式又は連続式いずれも採用可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。尚実施例および比較例において「部」と称しているものは重量部を表す。
(1)グリコール類の測定方法(wt%)
グリコール類の組成分析は、ガスクロマトグラフ(機器本体:島津製作所社製 2014、カラム GLサイエンス社製 InertWAX(径0.53mm、長さ15m)によって測定した。
【0021】
〔実施例1〕
バイオマス資源の1種であるとうもろこしを原料としてでんぷん、次いでグルコースを得る工程までを生物学的処理によって、グルコースからグリコール混合物を得る工程は化学的処理によってグリコール混合物を得た。1回目の蒸留操作として、製造したグリコール混合物(エチレングリコール:67wt%、1,2−プロパンジオール33wt%)100重量部を、理論段数30段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比5の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:51wt%、1,2−プロパンジオール49wt%)が60重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:93wt%、1,2−プロパンジオール7.0wt%)が40重量部であった。
【0022】
2回目の蒸留操作として、塔底残留物で得られたグリコール混合物(エチレングリコール:93wt%、1,2−プロパンジオール7.0wt%)100重量部を、理論段数30段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比5の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:90wt%、1,2−プロパンジオール10wt%)が62重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:99.3wt%、1,2−プロパンジオール0.7wt%)が38重量部であった。
【0023】
〔実施例2〕
バイオマス資源の1種であるとうもろこしを原料としてでんぷん、次いでグルコースを得る工程までを生物学的処理によって、グルコースからグリコール混合物を得る工程は化学的処理によってグリコール混合物を得た。1回目の蒸留操作として、製造したグリコール混合物(エチレングリコール:86wt%、1,3−プロパンジオール14wt%)100重量部を、理論段数10段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比1の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:97.4wt%、1,3−プロパンジオール2.6wt%)が80重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:40wt%、1,3−プロパンジオール60wt%)が20重量部であった。
【0024】
2回目の蒸留操作として、留出で得られたグリコール混合物(エチレングリコール:97.4wt%、1,3−プロパンジオール2.6wt%)100重量部を、理論段数15段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比5の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:99.93wt%、1,3−プロパンジオール0.07wt%)が82重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:86wt%、1,3−プロパンジオール14wt%)が18重量部であった。
【0025】
〔実施例3〕
バイオマス資源の1種であるとうもろこしを原料としてでんぷん、次いでグルコースを得る工程までを生物学的処理によって、グルコースからグリコール混合物を得る工程は化学的処理によってグリコール混合物を得た。抽出分離操作として、製造したグリコール混合物(エチレングリコール:67wt%、1,2−プロパンジオール33wt%)100重量部をヘキサン80重量部を使用して、よく混合した後、ヘキサンとグリコール混合物の2層とした。このうち、ヘキサン部のみを回収し、ヘキサンを留出させた後、グリコール混合物(エチレングリコール:87wt%、1,2−プロパンジオール13wt%)1重量部が得られた。
【0026】
次に、蒸留操作として、抽出分離にて得られたグリコール混合物(エチレングリコール:87wt%、1,2−プロパンジオール13wt%)100重量部を、理論段数30段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比5の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:82wt%、1,2−プロパンジオール18wt%)が72重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:99.0wt%、1,2−プロパンジオール1.0wt%)が28重量部であった。
【0027】
〔比較例1〕
バイオマス資源の1種であるとうもろこしを原料としてでんぷん、次いでグルコースを得る工程までを生物学的処理によって、グルコースからグリコール混合物を得る工程は化学的処理によってグリコール混合物を得た。製造したグリコール混合物(エチレングリコール:67wt%、1,2−プロパンジオール33wt%)100重量部を、理論段数15段の条件にて1回のみ蒸留操作を実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:54wt%、1,2−プロパンジオール46wt%)が62重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:87wt%、1,2−プロパンジオール13wt%)が38重量部であった。
得られたエチレングリコールの純度は87%であり、99%には到達できなかった。
【0028】
〔比較例2〕
実施例3において、理論段数を15に変更し、同様の操作を行った。バイオマス資源の1種であるとうもろこしを原料としてでんぷん、次いでグルコースを得る工程までを生物学的処理によって、グルコースからグリコール混合物を得る工程は化学的処理によってグリコール混合物を得た。抽出分離として、製造したグリコール混合物(エチレングリコール:67wt%、1,2−プロパンジオール33wt%)100重量部をヘキサン80重量部を使用して、よく混合した後、ヘキサンとグリコール混合物の2層とした。このうち、ヘキサン部のみを回収し、ヘキサンを留出させた後、グリコール混合物(エチレングリコール:87wt%、1,2−プロパンジオール13wt%)1重量部が得られた。
【0029】
次に、蒸留操作として、抽出分離にて得られたグリコール混合物(エチレングリコール:87wt%、1,2−プロパンジオール13wt%)100重量部を、理論段数15段、圧力50mmHg(6.66kPa)、還流比5の条件にて実施したところ、留出して得られたグリコール混合物(エチレングリコール:73wt%、1,2−プロパンジオール27wt%)が43重量部であった。一方、塔底残留物として得られたグリコール混合物(エチレングリコール:93wt%、1,2−プロパンジオール7.0wt%)が57重量部であった。
得られたエチレングリコールの純度は93%であり、99%には到達できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、組成が安定していないバイオマス資源から製造したグリコールを2以上の精製処理を実施することにより、ポリマー原料として使用できる品質良好なグリコールとして使用でき、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としてバイオマス資源を用いてグリコール類を製造する方法において、得られるグリコール類の純度が99%以上となるよう2以上の精製処理を実施することを特徴とするグリコールの製造方法。
【請求項2】
2以上の精製処理が、蒸留精製、抽出分離、化学変換蒸留分離、吸着分離、再結晶処理及び膜分離からなる群より選ばれる同一又は異なる2以上の操作の組合せからなることを特徴とする請求項1記載のエチレングリコールの製造方法。
【請求項3】
グリコール類がエチレングリコールであることを特徴とする請求項1又は2記載のグリコールの製造方法。

【公開番号】特開2009−13094(P2009−13094A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175273(P2007−175273)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】