説明

グリシジル(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】安価かつ二酸化炭素発生の無いアルカリ金属水酸化物を使用して高品質なグリシジル(メタ)アクリレートを製造する方法を提供する。
【解決手段】触媒を溶解又は懸濁させた(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を、エピクロロヒドリン中に添加しつつ、同時にエピクロロヒドリンを還流しながら、減圧下、110℃以下の温度で脱水しつつ反応を進めるグリシジル(メタ)アクリレートの製造方法;減圧度10kPa以上90kPa以下、温度50℃以上110℃以下で脱水しつつ反応を進めることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリシジル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリシジル(メタ)アクリレートの製造方法はいくつか提案されている。代表的なものはエピクロロヒドリンを原料にする方法であり、その方法は大別すると以下2法に分類される。
【0003】
1つ目は、エピクロロヒドリンと(メタ)アクリル酸とを触媒の存在下反応させ、その後アルカリ水溶液で閉環反応させてグリシジル(メタ)アクリレートとする方法である(特許文献1)。この方法では原料の(メタ)アクリル酸が酸性のため一段目の反応時に副反応が進行することが知られ、品質上の課題を有する。
【0004】
2つ目は、エピクロロヒドリンと(メタ)アクリル酸ソーダとを触媒の存在下で反応させてグリシジル(メタ)アクリレートとする方法である(特許文献2)。この方法は(メタ)アクリル酸ソーダを原料とし、上記の懸念が無くなるため品質上優れた方法である。
【0005】
ただし、この方法は(メタ)アクリル酸ソーダを生成させる工程が必要であり、その際の水の存在が副反応を誘発するため、水を除くための種々の方法が提案されている。
【0006】
特許文献1では(メタ)アクリル酸ソーダの水溶液をエピクロロヒドリンに添加しつつ、水をエピクロロヒドリンと共沸脱水することで系中の水分量を少なくするという工夫をしているが、脱水が不十分で副反応が進行するという課題が残されていた。
【0007】
特許文献3では弱アルカリ性のアルカリ金属炭酸塩や炭酸水素塩を粉体で使用することで水を極力減らし、中和の際に強アルカリによる副反応を抑制しているが、炭酸塩を使用することは原料コストを上げる要因であり、また二酸化炭素の生成による発泡やエポキシとの反応による副生物増加、環境影響、粉体投入による工業的操作の難度など、種々の課題を有する。最近では、水酸化ナトリウム水溶液と(メタ)アクリル酸とを中和した後、噴霧乾燥して(メタ)アクリル酸ソーダの粉体を取り出す方法がある(特許文献4)。この方法は副反応の要因である水を除去できるため、品質の観点で優れた方法であるが、噴霧乾燥のための装置が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭48−36117号公報
【特許文献2】特開昭50−76012号公報
【特許文献3】特開昭55−17307号公報
【特許文献4】特開2008−230998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のグリシジル(メタ)アクリレートの製造方法では、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を原料とした場合、副反応の増加という課題があった。
【0010】
本発明の目的は、安価かつ二酸化炭素発生の無いアルカリ金属水酸化物を使用して(メ
タ)アクリル酸を中和し、エピクロロヒドリンとの反応によりグリシジル(メタ)アクリ
レートを製造する際、高品質な製品を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、触媒を溶解又は懸濁させた(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を、エピクロロヒドリン中に添加しつつ、同時にエピクロロヒドリンを還流しながら、減圧下、110℃以下の温度で脱水しつつ反応を進めるグリシジル(メタ)アクリレートの製造方法である。減圧度10kPa以上90kPa以下、温度50℃以上110℃以下で脱水しつつ反応を進めることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高品質のグリシジル(メタ)アクリレートを製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、グリシジル(メタ)アクリレートは(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とエピクロロヒドリンの反応で製造される。
【0014】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩は(メタ)アクリル酸とアルカリ金属水酸化物の中和により調製される。原料の(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とまたはメタクリル酸を意味し、その製造方法は特には限定されず、C3またはC4酸化法、ACH法あるいはAN加水分解等の公知の製造法を用いることができる。また、原料のエピクロロヒドリンの製造方法は特に限定されず、プロピレン又はアリルアルコールを原料に塩素化してジクロロプロパノールを経由し脱塩酸反応でエピクロロヒドリンを得る方法等、公知の方法を用いることが出来る。
【0015】
[中和工程]
原料の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩は、予め(メタ)アクリル酸とアルカリ金属水酸化物との中和で調製する。
【0016】
アルカリ金属水酸化物は特に限定されないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリル酸とアルカリ金属水酸化物のモル比は、副反応抑制の観点から、アルカリ金属水酸化物の使用量(mol)に対する(メタ)アクリル酸の使用量(mol)のモル比((メタ)アクリル酸(mol)/アルカリ金属水酸化物(mol))の下限は0.9以上が好ましく0.95以上がより好ましい。また同様に副反応抑制の観点から、上限は1.1以下が好ましく1.05以下がより好ましい。
【0018】
中和は適当な溶媒中で実施することが攪拌不良や混合効率の点で好ましく、溶媒としては水が完全に均一な溶液となるため好ましい。使用する水の量は、下限は均一溶解するために(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に対して等質量以上が好ましく、次の脱水工程での負荷を低減するために、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に対して2倍質量以下が好ましい。
【0019】
中和混合の際は中和熱で発熱するため、除熱することが好ましい。温度は特に限定されないが、重合等の抑制の観点で100℃以下が好ましい。
【0020】
重合を抑制するために、中和時に重合禁止剤を添加することが出来る。重合禁止剤は公知のものを使用でき、ハイドロキノン、パラメトキシフェノール等のフェノール系、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)等のN−オキシル系等が使用できる。また酸素は重合防止の有効な手段であり、中和時に酸素又は空気をバブリングすることが好ましい。
【0021】
[脱水・反応工程]
中和工程で使用した水は、反応工程に存在すると副反応の要因となるため脱水工程が必要となる。
【0022】
脱水中に析出する(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩はエピクロロヒドリン中で析出し、攪拌不良の要因となる。このため、触媒を共存させ、脱水と反応を同時に進行させて(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を消費することが好ましい。
【0023】
脱水は共沸溶媒を添加することも可能であるが、分離回収工程が煩雑となるため、原料のエピクロロヒドリンを利用して共沸脱水することが好ましい。
【0024】
しかし、エピクロロヒドリンに(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を添加した後、加熱減圧下、脱水操作を行うと、水に由来する副反応が進行し、グリシドールやジクロロプロパノールが生成する。これを解決するため、中和工程で調製した(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液をエピクロロヒドリンに滴下しつつ、同時にエピクロロヒドリンと水を共沸脱水することで、脱水工程の装置内水分量を一定以下に維持して副反応を抑制することが好ましい。
【0025】
使用するエピクロロヒドリンの量は、攪拌効率の点で(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に対して2倍mol以上、生産性の観点で10倍mol以下が好ましく、3倍mol以上、8倍mol以下がより好ましい。
【0026】
脱水中の反応系内の水分量は少ないほど副反応が抑制できるため、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。下限は生産性の観点より1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましい。
【0027】
脱水温度は副反応抑制の観点から110℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。脱水効率のためには50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0028】
減圧度は、絶対圧力で10kPa以上90kPa以下が好ましい。
【0029】
脱水時はエピクロロヒドリンが還流する条件となるよう、温度と減圧度を常時調整する。
【0030】
脱水終点の系内水分量は副反応抑制の観点から5000ppm以下が好ましく、3000ppm以下がより好ましい。生産性の観点からは10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。
【0031】
触媒は公知のものを使用することができる。4級アンモニウム塩が好ましく使用され、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等のテトラアルキルアンモニウム塩を使用することができる。
【0032】
触媒は(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液に溶解又は懸濁させることが、エピクロロヒドリンの副反応抑制の観点から好ましい。
【0033】
重合を抑制するために、反応時に重合禁止剤を添加することが出来る。重合禁止剤は公知のものを使用でき、ハイドロキノン、パラメトキシフェノール等のフェノール系、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)等のN−オキシル系等が使用できる。また酸素は重合防止の有効な手段であり、反応時に酸素又は空気をバブリングすることが好ましい。
【0034】
[洗浄工程]
反応が終了した反応液中には、生成したグリシジル(メタ)アクリレートの他、アルカリ金属塩化物、触媒、過剰のエピクロロヒドリンが存在する。ここに水を添加することでアルカリ金属塩化物と触媒を水層に溶解し分離除去し、洗浄することができる。
【0035】
使用する水はアルカリ金属塩化物と触媒を溶解する量が好ましく、中和工程で仕込んだアルカリ1molに対して水の量は8mol以上、生産性の観点から20mol以下が好ましく、10mol以上14mol以下がより好ましい。
【0036】
洗浄水にアルカリ性化合物を溶解することで、洗浄時の副反応増加を抑制することが出来る。溶解するアルカリ性化合物はアルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩などが好ましく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0037】
[蒸留工程]
洗浄後の有機層を蒸留することで、グリシジル(メタ)アクリレートを得ることが出来る。蒸留は公知の方法で行うことができる。高純度なものを得るためには塔を使用した精留を行うことが好ましい。
【0038】
グリシジル(メタ)アクリレートは重合性のモノマーなので、減圧し温度を下げることで重合を抑制する。上記の観点から蒸留釜の温度は160℃以下が好ましく150℃以下がより好ましく、蒸留効率の観点から60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。減圧度は、減圧限界の点で0.1kPa以上が好ましく、0.5kPa以上がより好ましい。また温度を下げるために50kPa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。
【0039】
重合を抑制するために、公知の重合防止剤を釜内および塔に供給することができる。具体的にはハイドロキノン、パラメトキシフェノール等のフェノール系、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)等のN−オキシル系等が使用できる。また酸素は重合防止の有効な手段であり、反応時に酸素又は空気をバブリングすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例および比較例の分析には、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を用いた。
【0041】
(実施例1)
滴下ロート、温度計を備えた300mlのフラスコ内で、メタクリル酸40.0g(0.465mol)にトリメチルアンモニウムクロリド0.30g(0.00274mol)を溶解し、別途調製した水酸化ナトリウム18.6g(0.465mol)の水溶液(水42.2gに溶解)を滴下ロートから滴下した。フラスコは氷冷しつつ、内温を40℃以下に維持した。このようにしてメタクリル酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0042】
滴下ロート、温度計、ディーンスターク、冷却管、エア導入管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、真空ライン、トラップ、圧力計、真空ポンプを接続した。ここにエピクロロヒドリン400g(4.323mol)、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルのベンゾイルエステル体を0.03g添加し、滴下ロートに上記で調製したメタクリル酸ナトリウム水溶液を入れた。
【0043】
フラスコ中にエアを導入しつつ、オイルバスで加熱攪拌し、内温95℃で減圧を開始した。減圧度37.6kPa、内温88℃でエピクロロヒドリンが還流状態となったところで、メタクリル酸ナトリウム水溶液の滴下を開始した。同時にディーンスタークにエピクロロヒドリンと水が留出しはじめた。留出液のうち、エピクロロヒドリン(下層)をフラスコに戻し、水(上層)を抜き出した。2時間かけてメタクリル酸ナトリウム水溶液全量を滴下し、その間、減圧度は30.2kPa〜37.6kPa、内温は73℃〜88℃に維持し、その後2時間、減圧度30.2kPa〜30.6kPa、内温83〜92℃でエピクロロヒドリンが還流する状態を維持しつつ脱水を行った。
【0044】
その後、常圧に戻し、室温まで冷却し、3質量%水酸化ナトリウム水溶液100gで反応液を洗浄した。エピクロロヒドリン相をGC分析したところ、グリシジルメタクリレートは58.19g(mol)、収率88.0%、副生したグリシドールは0.33質量%、1,3−ジクロロ−2−プロパノールは0.33質量%、高沸点不純物総量は3.64質量%であった。洗浄後のエピクロロヒドリン相には重合物は無かった。
【0045】
(実施例2〜3、比較例1)
脱水・反応時の温度、減圧度を変えた以外は、実施例1と同様にして反応を実施しグリシジルメタクリレートを合成した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法で製造されたグリシジル(メタ)アクリレートは、各種塗料、接着剤、粘着剤、各種反応性モノマー等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を溶解又は懸濁させた(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を、エピクロロヒドリン中に添加しつつ、同時にエピクロロヒドリンを還流しながら、減圧下、110℃以下の温度で脱水しつつ反応を進めるグリシジル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
減圧度10kPa以上90kPa以下、温度50℃以上110℃以下で脱水しつつ反応を進める請求項1に記載のグリシジル(メタ)アクリレートの製造方法。