説明

グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法

【課題】高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを、効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】酸触媒の存在下、溶媒中で脂肪酸とグリセリンとを反応させてグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法であって、溶媒が極性指標(ENT)0.1〜0.8の非プロトン性溶媒である、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを得る方法として、直接油脂とグリセリンをアルカリ触媒存在下で反応させ、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステルの混合物を得た後、分子蒸留にてグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを得る方法が知られている。しかし、この方法はグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の生成物の回収と再反応を行うため、設備が大掛かりとなる。
これに対し、特定の有機溶剤を用いることで直接高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを得る方法が知られている(例えば特許文献1〜3)。特許文献1は、アルカリ触媒、脂肪酸又は脂肪酸アルキルエステルに対しグリセリンを混合し、反応させる第1段階を行った後、その反応混合物に対し有機溶剤との存在下にエステル交換反応させる第2段階を行う技術である。特許文献2は、触媒を使用せず、溶媒に乳酸メチルを使用した脂肪酸とグリセリンからのグリセリンモノ脂肪酸エステル製造法である。特許文献3は、酸触媒、溶媒にt−ブタノールを使用した脂肪酸とグリセリンからのグリセリンモノ脂肪酸エステル製造法である。
【0003】
【特許文献1】特開平1−268663号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2002−0120159号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開1672053号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1では、まず1段階目の工程としてグリセリンと脂肪酸の反応によりグリセリン脂肪酸エステルを調製し、その後2段階目として平衡組成物であるグリセリン脂肪酸エステルのエステル交換反応を特定の有機溶剤中で行うことで選択性を向上させる方法であり、2段階の工程が必要で生産性に課題がある。
また、特許文献2、3では、プロトン性の溶媒を用いており、原料であるグリセリンや脂肪酸との反応による選択性低下などを引き起こす危険性がある。
本発明は、高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、極性指標(ENT)が特定の範囲にある非プロトン性溶媒を用い、酸触媒の存在下、脂肪酸とグリセリンとを反応させることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、酸触媒の存在下、溶媒中で脂肪酸とグリセリンとを反応させてグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法であって、溶媒が極性指標(ENT)0.1〜0.8の非プロトン性溶媒である、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[溶媒]
本発明において、反応溶媒として極性指標(ENT)0.1〜0.8の非プロトン性溶媒を用いる。溶媒の極性を前記範囲にコントロールすることで、グリセリンモノ脂肪酸エステルが熱力学的に安定となり純度が向上する。また、本発明においては、脂肪酸又はグリセリンと反応する虞がない又は殆どない点から、非プロトン性溶媒を用いる。
溶媒の極性指標(ENT)は、選択性の観点から、0.1以上であり、好ましくは0.3以上である。また、反応溶液を均一にして高い反応性を発現させることから、溶媒のENTは脂肪酸とグリセリンの間が好ましく、0.8以下であり、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下である。
なお、極性指標(ENT)とは、ピリジニウム−N−フェノレートベタイン誘導体の吸収スペクトルの極大値を与える波長が溶媒の極性により著しく変化する現象を利用して定められたパラメーターであり、この値が大きいほど高極性化合物であることを示している。詳しくはChem.Rev.,1994,vol94,2319の記載に従う。
【0008】
具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO、ENT:0.44)及びスルホラン(ENT:0.41)等の硫黄原子含有極性溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF、ENT:0.39)、ジメチルアセトアミド(DMA、ENT:0.38)及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP、ENT:0.36)等のアミド系極性溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI、ENT:0.36)等の尿素系溶媒、テトラクロロエチレン(TCE、ENT:0.27)等のハロゲン原子含有極性溶媒、γ−ブチロラクトン(GBL、ENT:0.42)及び炭酸ジメチル(ENT:0.23)等のエステル系溶媒、ジグライム(ジエチレングルコールジメチルエーテル、ENT:0.24)及びアニソール(ENT:0.20)等のエーテル系溶媒が使用できる。選択性の観点から、ジメチルスルホキシド及びスルホラン等の硫黄原子含有極性溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系極性溶媒、ジメチルイミダゾリジノン等の尿素系溶媒、γ−ブチロラクトン及び炭酸ジメチル等のエステル系溶媒、ジグライム及びテトラグライム等のエーテル系溶媒が好ましく、選択性および反応性の観点から、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン及びγ−ブチロラクトンがより好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
溶媒の使用量は、グリセリンと脂肪酸の質量の和に対して、0.5〜10質量倍が好ましく、生産性を考慮すると、1〜5質量倍がより好ましく、1〜2質量倍がさらに好ましい。
【0009】
[酸触媒]
本発明で用いられる酸触媒は、反応性の観点から、25℃における酸解離指数(pKa)が、3以下の酸触媒が好ましく、2以下のものがより好ましい。例えば、スルホン酸系触媒、硫酸(水溶液中2段目pKa:1.9)、リン酸(pKa:2.2)及びヘテロポリ酸等が挙げられる。
具体的には硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸(pKa:−2.6)、ベンゼンスルホン酸(pKa:−6.5)、トリフルオロメタンスルホン酸(pKa:−13)及びナフィオン〔デュポン社の登録商標、ペルフルオロスルホン酸/PTFE共重合体〕分散液(pKa:約−6)等の有機スルホン酸、リンタングステン酸(pKa:1.6)及びリンモリブデン酸(pKa:2.4)が挙げられ、好ましくは有機スルホン酸及び硫酸、特に硫酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。これらの酸触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸解離指数(pKa)は、例えば日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数等を利用することができる。
酸触媒の使用量は、副反応抑制の観点から、脂肪酸に対して0.1〜5モル%が好ましく、0.5〜3モル%がより好ましく、0.5〜2モル%がさらに好ましい。
【0010】
[脂肪酸及びグリセリン]
本発明で用いられる脂肪酸は、特に限定されるものではないが、炭素数6〜22の脂肪酸が好ましく、炭素数12〜18の脂肪酸がより好ましい。
具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等が挙げられる。
グリセリンの仕込み量は、選択性の観点から、脂肪酸に対して10モル倍以下が好ましく、1〜10モル倍がより好ましく、生産性の観点から5モル倍以下がより好ましく、2モル倍以下がさらに好ましい。
【0011】
[反応条件]
反応温度は、80〜200℃が好ましく、副反応抑制の理由から100〜160℃がより好ましく、100〜140℃がさらに好ましい。
反応圧力は、反応速度向上のため、通常、0.01〜0.09MPa程度の減圧又は常圧で反応系内に窒素を導入し、生成する水を系外に除去しながら行うことが好ましい。
上記のような方法で得られた反応物を、減圧留去する方法、水洗による除去方法等で溶媒及び余剰グリセリンを除去し、一般に化粧品等の乳化剤や保湿剤及び工業用乳化剤として広く利用されているグリセリンモノ脂肪酸エステルを容易に合成することが可能である。
【0012】
なお、本願発明の製造方法においては、グリセリンモノ脂肪酸エステルの他に、グリセリンジ脂肪酸エステルやグリセリントリ脂肪酸エステルが副生する場合がある。
グリセリンモノ脂肪酸エステルの選択性は、用途にもよるが、60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
また、副生成物であるグリセリンジ脂肪酸エステルの選択性は35モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。グリセリントリ脂肪酸エステルの選択性は10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【実施例】
【0013】
実施例1
フラスコに、グリセリン13.8g(0.15モル)、パルミチン酸26.0g(0.10モル)、溶媒としてジメチルイミダゾリジノン(DMI)(ENT:0.364)を50.0g、及び酸触媒としてパラトルエンスルホン酸(25℃、pKa:−2.6)を1.14g(0.003モル)仕込み、140℃にて、窒素を系内に流通させながら(窒素流通量:0.25mL/min)、3時間反応を行った。その結果、脂肪酸転化率99%、グリセリンモノ脂肪酸エステル選択性81モル%(純度69質量%)であった。
反応終了後の溶液は、ガスクロマトグラフィー[カラム:Ultra−alloyキャピラリーカラム15.0m×250μm×0.15μm(Frontier Laboratories 社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:350℃、He流量:4.6mL/min.]にて分析し、生成物を定量した。結果を表1、図1に示す。
【0014】
実施例2
実施例1において、グリセリンの仕込み量を46.0g(0.50モル)とする以外は同様に反応を行った。脂肪酸転化率98%、グリセリンモノ脂肪酸エステル選択性94モル%(純度90質量%)であった。結果を表1、図1に示す。
実施例3〜10、比較例1〜3
実施例1において、表1に示す溶媒に変更した以外は、同様に反応を行った。結果を表1、図1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1、図1より極性指標ENTが0.1〜0.8の溶媒を用いてエステル化反応を行うことが、グリセリンモノ脂肪酸エステルの純度を高めるという点で有効であることが明らかである。
【0017】
実施例11〜14
実施例1において、窒素を系内に流通させずに、表2に示す酸触媒をグリセリンと脂肪酸の重量和に対して1.5重量%使用した以外は、同様に反応を行った。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法は、グリセリンモノ脂肪酸エステルを高純度で、簡便に効率よく製造することができるので、化粧品等の乳化剤や保湿剤、並びに工業用乳化剤等の製造において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1〜10及び比較例1〜3における、脂肪酸転化率(%)対グリセリンモノ脂肪酸エステル選択性(モル%)を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下、溶媒中で脂肪酸とグリセリンとを反応させてグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法であって、溶媒が極性指標(ENT)0.1〜0.8の非プロトン性溶媒である、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
溶媒が、硫黄原子含有極性溶媒、アミド系極性溶媒、尿素系溶媒、ハロゲン原子含有極性溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒からなる群から選ばれる1種以上の溶媒である、請求項1に記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
グリセリンと脂肪酸の質量の和に対する溶媒の使用量が0.5〜10質量倍である、請求項1又は2に記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
脂肪酸に対するグリセリンのモル比〔グリセリン/脂肪酸〕が10以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
酸触媒の25℃における酸解離指数(pKa)が3以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】
酸触媒が有機スルホン酸又は硫酸である、請求項1〜5のいずれかに記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−120910(P2010−120910A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298307(P2008−298307)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】