説明

グリセロ糖脂質リパーゼ

【課題】安全性に優れ、中性脂肪およびグリセロリン脂質およびグリセロ糖脂質をpH6付近で加水分解する能力を有し、ある程度熱的に安定であり、レシチンを加水分解するとともに、リゾレシチンは加水分解しない性質を有し、製パン用途に用いると、単剤で膨らみ効果があり、不適当な臭いが残存しない、グリセロ糖脂質リパーゼの提供。
【解決手段】糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に由来するグリセロ糖脂質リパーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロ糖脂質リパーゼ、該リパーゼを産生する糸状菌、糸状菌の培養物から該リパーゼを分離精製する方法、該リパーゼをコードするDNAおよび該リパーゼの製造方法等に関する。具体的には、本発明は、食品工業及び医薬品工業における使用に特に適する該リパーゼ、特に糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に由来する、グリセロ糖脂質リパーゼ、該リパーゼを産生する糸状菌、糸状菌の培養物から該リパーゼを分離精製する方法、該リパーゼをコードするDNAおよび該リパーゼの製造方法、該リパーゼを用いるパンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
〔1〕糖脂質リパーゼ
植物および微生物がグリセロ糖脂質を加水分解するリパーゼを産生することが知られている。植物由来の酵素は主として、グリセロリン脂質及びグリセロ糖脂質を加水分解する能力を有するが、中性脂肪、なかでもトリグリセリドを加水分解する能力は極めて低い。また、微生物のなかでは放線菌、細菌およびカビ由来のリパーゼが知られている。放線菌および細菌由来のリパーゼは、グリセロ糖脂質とともにグリセロリン脂質をも加水分解する性質を有している。糸状菌由来のリパーゼは、中性脂肪及びグリセロリン脂質及びグリセロ糖脂質を加水分解することが知られている。本明細書においてグリセロ糖脂質リパーゼとはグリセロ糖脂質をリゾグリセロ糖脂質および脂肪酸とに加水分解する活性(以下「グリセロ糖脂質分解活性」と言う。)を有する酵素をいう。ジガラクトシルジアシルグリセロール分解活性(以下「DGDG分解活性」と言う。)は、グリセロ糖脂質分解活性に含まれる概念である。また、本明細書において「相対分解活性」とは、最も活性が高かったpHまたは温度条件でのDGDG分解活性またはレシチン分解活性を100%とし、各pHまたは温度条件におけるDGDG分解活性またはレシチン分解活性それぞれの相対値とする。さらに、本明細書において「相対残存分解活性」とは、各pHまたは温度条件で処理した後において最も活性が高かったpHまたは温度条件におけるDGDG分解活性またはレシチン分解活性を100%とし、各pHまたは温度条件で処理した後の各pHまたは温度条件におけるDGDG分解活性またはレシチン分解活性それぞれの相対値とする。
【0003】
細菌由来のグリセロ糖脂質を加水分解するリパーゼとしては、例えばコルネバクテリウム・エフィシェンス(Cornebacterium efficiens)、サーモビフィダ・ファスカ(Thermobifida fusca)等に由来するリパーゼが知られている(特許文献1)。
【0004】
放線菌由来のグリセロ糖脂質を加水分解するリパーゼとしては、例えばストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)に由来するリパーゼが知られている(特許文献1)。
【0005】
カビ由来のグリセロ糖脂質を加水分解するリパーゼとしては、例えばフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)、フザリウム・スルフレウム(Fusarium sulfureum)、フザリウム・カルモラム(Fusarium culmorum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム・オキシスポラム(Fusariumu oxysporum)、アクレモニウム・ベルケレヤナム(Acremonium berkeleyanum)、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等に由来するリパーゼが知られている(特許文献2〜4)。
【0006】
〔2〕グリセロ脂質
グリセロ糖脂質は、主として、グラム陽性細菌や高等植物葉緑体に存在する。グリセロ糖脂質とは、1,2−ジアシルグリセロールの3位に糖鎖が共有結合している化合物である。糖鎖としてはガラクトース等が含まれており、その組成割合は由来により異なる。たとえばグリセロ糖脂質には、モノガラクトシルジアシルグリセロール(以下「MGDG」と言う。)およびジガラクトシルジアシルグリセロール(以下「DGDG」と言う。)等が含まれる。
【0007】
グリセロリン脂質は、動物、植物、菌類に広く分布している。グリセロリン脂質とは、1,2−ジアシルグリセロールの3位にホスホリル塩基が共有結合している化合物である。塩基としてはコリン、エタノールアミン、セリン、イノシトールおよびグリセロール等が含まれており、その組成割合は由来により異なる。たとえばグリセロリン脂質には、レシチン等が含まれる。
【0008】
中性脂肪も動物、植物、菌類に広く分布している。中性脂肪とは、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールの総称である。
【0009】
〔3〕レシチンあるいはグリセロ糖脂質の酵素処理
レシチンあるいはグリセロ糖脂質は分子中に疎水性の脂肪酸を2つ有しており、親油性の界面活性剤として知られている。リパーゼによりこのうちの1つを加水分解することにより親水性が増し、レシチンあるいはグリセロ糖脂質とは異なった性質を有する物質になる。実際レシチンにホスホリパーゼを作用させた結果生成するリゾレシチンは水溶性であり、食品添加物として使用した場合に、得られる食品の物性がレシチンとは異なることから、食品工業における適用が検討されている。
【0010】
グリセロ糖脂質もグリセロ糖脂質リパーゼにより部分的に加水分解することにより、リゾグリセロ糖脂質を産生することができる。リゾグリセロ糖脂質も親水性が増加した物質となる。たとえば、リゾグリセロ糖脂質には、ジガラクトシルモノグリセリド(以下「DGMG」と言う。)等が含まれる。
【0011】
〔4〕食品中でのグリセロ糖脂質リパーゼの使用
グリセロ糖脂質リパーゼを用いれば、下図に示すように水の存在下でグリセロ糖脂質からリゾグリセロ糖脂質を産生することができる。
【化1】


(式中、R及びRは、それぞれアルキル基を、Galはガラクトースを意味する。)
【0012】
レシチン分解活性を併せ持つ酵素であれば、レシチンからリゾグリセロリン脂質であるリゾレシチンも同時に産生することもできる。
【化2】


(式中、R及びRは、それぞれアルキル基を、Rは、コリン、エタノールアミン、グリセロール、イノシトール等の塩基を意味する。)
【0013】
食品素材中でこのような反応を起こさせることにより、親水性界面活性剤を含有した商品を提供することができる。
【0014】
また、食品工業においては、食品の変質を防ぐため中性から弱酸性域でさまざまな処理を行うことが多く、酵素剤はこのpH域に高い活性を有していることが望まれる。
【0015】
〔5〕製パンにおけるグリセロ糖脂質リパーゼの使用
パンを製造する際には、ボリュームの増大および食感の改善等の理由により化学的に合成された界面活性剤が用いられることが多い。しかし近年の自然志向への高まりから、合成界面活性剤を添加しない製パンが望まれている。また、食感の改善を目的として、油脂あるいは卵黄等をパンに添加することも行われているが、健康志向の高まりあるいはアレルギーの問題から、これらの添加物を加えないパンの製造も望まれている。
【0016】
パンに使用される小麦粉には、中性脂肪、グリセロ糖脂質およびグリセロリン脂質等が含まれていることが知られている(非特許文献1)。このうちグリセロ糖脂質とグリセロリン脂質には界面活性剤としての働きを期待できるが、このままでは親油性のため性能が十分に発揮できているとはいえない。そこでこれら脂質類を部分的に加水分解してリゾグリセロ糖脂質およびリゾグリセロリン脂質とし、親水性の界面活性剤とすることで、性能を十分に引き出すことができる。小麦粉自身の成分で界面活性剤を補充できれば、合成界面活性剤を使用する必要はなくなるか、あるいは使用量を減じることができる。小麦粉中の成分としては、グリセロリン脂質に比べてグリセロ糖脂質がより多く含有されていることが知られている(非特許文献1)。したがって、グリセロリン脂質に比べてグリセロ糖脂質をより効率よく加水分解して、リゾグリセロ糖脂質を産生し、その界面活性能を高めることが、製パン分野において望まれている。さらに産生したリゾグリセロ糖脂質およびリゾレシチンに対する酵素活性は低い方が望ましい。すなわち、リゾホスファチジルコリン(以下「LPC」と言う。)に対する酵素活性は低い方が望ましい。
【0017】
また、グリセロ糖脂質およびグリセロリン脂質に加え、中性脂肪をも加水分解する酵素が製パンにおいて効果があることが示されている(特許文献5)。一方で、中性脂肪は加水分解しにくい酵素のほうが、製パンにおいて効果があるとの例もある(特許文献6)。
【0018】
さらに、製パンにおいてはpH6付近で原料を混合し、30〜42℃に保温して醗酵を行うことが多い。したがって、使用されるグリセロ糖脂質リパーゼは、これらの条件下で活性を有するとともに、安定であることが望ましい。
【0019】
〔6〕既知のグリセロ糖脂質リパーゼの問題点
【0020】
植物起源のリパーゼは汎用性に問題がある。細菌起源のリパーゼについては詳細な記載がない。放線菌に由来するグリセロ糖脂質リパーゼは、レシチン分解活性を併せ持つものである。さらに、糸状菌起源のリパーゼは、病原菌に由来するものが多く、安全性に一部で問題がある。さらに、詳細な酵素の性質が記載されていない。たとえば、植物病原菌であるフザリウム・オキシスポラム起源のリパーゼは実際の製パンにおいても効果があると推定される。しかし、該リパーゼは至適pHがpH9付近であり、製パンに重要なpH6における酵素活性は、至適pHの酵素活性のわずか35%以下である。また、非病原菌であるアスペルギルス・ニガー起源のリパーゼは、pH4.5あるいはpH5での酵素活性は記載されているものの、製パンにおいて重要と考えられるpH6付近での活性が示されておらず効果があるかどうか不明である。
【0021】
このように従来知られているグリセロ糖脂質リパーゼでは、不十分な効果しか得られない可能性が高い、あるいは安全性に問題がある、あるいは酵素反応の効率が悪い等の問題点がある。望ましいグリセロ糖脂質リパーゼの性質としては、安全性に問題がない微生物由来であり、グリセロ糖脂質およびグリセロリン脂質をpH6付近で効率よく加水分解する能力を有し、ある程度熱的に安定であり、さらには、リゾレシチンは加水分解しないことが挙げられる。
【特許文献1】WO2006008653
【特許文献2】WO2002000852
【特許文献3】US2006075518
【特許文献4】WO2004018660
【特許文献5】特許第3824174号
【特許文献6】特表2007−528732
【非特許文献1】Carr N. et. al., Critical Reviews in Food Science and Nutrition、1992年、31巻、p.237−258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述のように、望ましいグリセロ糖脂質リパーゼの性質としては、安全性に問題がない微生物由来であり、グリセロ糖脂質をpH6付近で効率よく加水分解する能力を有し、ある程度熱的に安定であることが挙げられる。さらには、レシチンを加水分解するとともに、リゾレシチンは加水分解しない性質を有するグリセロ糖脂質リパーゼが挙げられる。
【0023】
また、製パン分野においては、従来のリパーゼでは、単剤では膨らみ効果が小さく、かつ、チーズ臭等の食品として不適当な臭いが残存するという欠点があった。したがって、単剤で膨らみ効果があり、不適当な臭いの残存しないグリセロ糖脂質リパーゼの開発が所望されていた。
【0024】
このようなグリセロ糖脂質リパーゼを提供することは、この技術分野において非常に関心の高いことであった。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、安全性に優れ、グリセロ糖脂質をpH6付近で効率よく加水分解する能力を有し、ある程度熱的に安定であり、レシチンを加水分解するとともに、リゾレシチンは加水分解しない性質を有し、製パン用途に用いると、単剤で膨らみ効果があり、不適当な臭いが残存しない、小麦粉中にグリセロリン脂質に比べて多く含有されるグリセロ糖脂質に対して効率よく加水分解するグリセロ糖脂質リパーゼを見出すべく鋭意検討を行ったところ、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株由来のグリセロ糖脂質リパーゼを精製し、当該遺伝子をクローニングし、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち本発明は、
(1)以下の性質を示すグリセロ糖脂質リパーゼ:
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約29,000を示す;
2)中性脂肪及びレシチン及びグリセロ糖脂質をpH6.0において加水分解する;
3)pH3.6乃至pH8.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性が、少なくとも10倍である、
(2)さらに以下の性質を示す請求項1に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ:
4)グリセロ糖脂質に対する相対分解活性はpH4.1乃至pH7.7のpH範囲で少なくとも80%以上である;
5)レシチンに対する相対分解活性はpH5.1乃至pH7.1のpH範囲で少なくとも80%以上である;
6)80℃以上の温度で上記5)記載の加水分解活性を有さない;
7)pH4.1乃至pH10.7のpH範囲で75%以上のグリセロ糖脂質に対する相対残存分解活性を有する。
(3)糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に由来する、上記(1)または(2)に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ、
(4)糸状菌がアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株である上記(3)に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ、
(5)下記のa)乃至e)のいずれか一つに記載の蛋白質であるグリセロ糖脂質リパーゼ:
a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質;
b)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質;
c)a)またはb)に記載のアミノ酸配列において、一つまたは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質;
d)上記a)に記載の蛋白質と70%以上のアミノ配列相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質;
e)a)またはb)に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質、
(6)下記a)乃至e)のいずれか一つに記載のDNA:
a)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列からなるDNA;
b)上記a)に記載のDNAと70%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNA;
c)上記a)に記載のDNAとストリンジェントな条件化でハイブリダイズし、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNA;
d)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA;
e)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるDNA、
(7)上記(6)に記載のDNAによってコードされるグリセロ糖脂質リパーゼ、
(8)上記(1)〜(5)または(7)のいずれかに記載のグリセロ糖脂質リパーゼを産生する能力を有する単離された糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株、
(9)下記1)乃至2)を含む、グリセロ糖脂質リパーゼの製造方法:
1)アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)を、グリセロ糖脂質リパーゼを産生する条件下で培養する工程。
2)1)の培養産物からグリセロ糖脂質リパーゼを分離・精製する工程、
(10)アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)がアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株である上記(9)記載の方法、
(11)上記(9)または上記(10)に記載の方法により製造されるグリセロ糖脂質リパーゼ、
(12)上記(1)〜(5)、(7)又は(11)のいずれか1に記載のグリセロ糖脂質リパーゼを用いる、パンの製造方法、
(13)パンの製造のための、上記(1)〜(5)、(7)又は(11)のいずれか1に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はグリセロ糖脂質を分解するために有用な糸状菌である、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に由来するグリセロ糖脂質リパーゼに関する。
【0028】
本発明のグリセロ糖脂質リパーゼには、グリセロ糖脂質リパーゼを産生する微生物の培養物中のグリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質が含まれる。このようなグリセロ糖脂質リパーゼの例としては、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)由来のグリセロ糖脂質リパーゼが挙げられる。より好適なものは、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株由来のグリセロ糖脂質リパーゼである。
【0029】
また、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼの別の例としては、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質が挙げられる。
【0030】
また、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質において、1個または数個の部位に、1個または数個のアミノ酸残基が、置換、欠失、挿入および/または付加した蛋白質も、グリセロ糖脂質分解活性を有する限り、本発明に含まれる。数個とは10個を超えない個数を意味し、好適には5個を超えない個数をいう。置換したアミノ酸配列を有する蛋白質が、天然型蛋白質と同等の活性を有する例として、例えば、インターロイキン2(IL−2)遺伝子のシステインに相当するヌクレオチド配列をセリンに相当するヌクレオチド配列に変換して得られた蛋白質が、IL−2活性を保持することが知られている(Wang, A. et al. (1984) Science 224, 1431-1433)。
【0031】
本発明の蛋白質の別の例としては、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上のヌクレオチド配列相同性を有する蛋白質も、グリセロ糖脂質分解活性を有する限り、本発明に含まれる。
【0032】
本発明において、「本発明のDNA」とは、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼをコードするDNAをいう。DNAとしては、cDNA、ゲノムDNA、人工的に改変されたDNA、化学的に合成されたDNAなど、現在知られる限りどのような形態をとっていても良い。
【0033】
本発明のDNAの例としては、配列表の配列番号2のヌクレオチド番号110から991に示されるヌクレオチド配列であり、且つ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNAが挙げられる。
【0034】
本発明のDNAの別の例としては、配列表の配列番号2のヌクレオチド番号110から991に示されるヌクレオチド配列と70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上のヌクレオチド配列相同性を有し、且つ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、自然界で発見される変異型DNA、人為的に改変した変異型DNA、異種生物由来の相同DNAなどが含まれる。
【0035】
本発明のDNAの別の例としては、配列表の配列番号2のヌクレオチド番号110から991に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNAが挙げられる。
【0036】
本発明で「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Sambrookら編「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd Ed.)」〔(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載の条件が挙げられる。具体的には、例えば、(i) 6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/mL 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブと共に42℃で一晩保温し、(ii) 非特異的にハイブリダイズしたプローブを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃以下、よりストリンジェントには、30℃以下、さらにストリンジェントには、25℃以下、よりさらにストリンジェントには、10℃以下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、25℃以上、よりストリンジェントには、37℃以上、さらにストリンジェントには、42℃以上、よりさらにストリンジェントには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下で洗浄を行う、という条件が挙げられる。
【0037】
なお、Tmは、例えば、下記式:Tm=81.5+16.6(log[Na+])+0.41(%G+C)-(600/N)(式中、Nはオリゴヌクレオチドの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチド中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)により求められる。
【0038】
また、本発明のヌクレオチドのさらに他の例としては、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAが挙げられる。なお、所望のアミノ酸に対応するコドンは、その選択も任意でよく、例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定できる。(Grantham, R. et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9, 143-174)。さらに、これらヌクレオチド配列のコドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した、部位特異的変異導入法(Mark, D. F. et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 5662-5666)などに従うことができる。
【0039】
本発明のDNAのまた別の例としては、配列表の配列番号2のヌクレオチド番号110から991に示されるヌクレオチド配列からなるDNAが挙げられる。また、配列表の配列番号2のヌクレオチド番号110から991に示されるヌクレオチド配列からなるDNAを含むことからなるDNAも、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードする領域を含む限り、本発明に含まれるものである。
【0040】
また、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼには、本発明のDNAによりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質を挙げることができる。また、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼにおいて、任意の一つもしくは二つ以上のアミノ酸を欠失させた改変体を作製するためには、エキソヌクレアーゼBal31等を用いてDNAを末端から削る方法(岸本 利光ら“続生化学実験講座1・遺伝子研究法II”335-354)、カセット変異法(岸本 利光、“新生化学実験講座2・核酸III 組換えDNA技術”242-251)などに従うことができる。このように、本発明のDNAを基に遺伝子工学的手法により得られる蛋白質であっても、グリセロ糖脂質分解活性を有する限り本発明に含まれる。このようなグリセロ糖脂質リパーゼは、必ずしも配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の全てを有するものである必要はなく、例えばその部分配列からなる蛋白質であっても、該蛋白質がグリセロ糖脂質分解活性を示す限り本発明のグリセロ糖脂質リパーゼに包含される。また、このようなグリセロ糖脂質リパーゼをコードするDNAも本発明に含まれる。
【0041】
本発明に用いるグリセロ糖脂質リパーゼはグリセロ糖脂質リパーゼ産生菌の培養液から精製したもの、粗精製したもの、菌体の破砕液の他、菌体の培養上清をそのまま用いたものでも良い。グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌を培養する際には、培地中に炭素源、窒素源の他に界面活性剤を添加して培養するのが好ましい。あるいは大豆粉、スリゴマ、綿実粕、米ぬか等天然素材の培地で培養するのが好ましい。界面活性剤としては、トライトン、トゥイーン、ショ糖脂肪酸エステル、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムおよびサポニン等が挙げられる。
【0042】
グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌の培養は通常の培地を培養装置、培地を用いて行なうことができる。培養は液体培養、固体培養等の方法を適宜選択できる。液体培養の場合はフラスコ培養や発酵槽を用いた培養を行なうことができ、培養開始後は培地の追加のないバッチ培養法や培養中に適宜培地を添加していく流加培養法を用いることができる。培地には炭素源、窒素源を添加し、必要に応じてビタミン、微量金属等を添加することができる。炭素源としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ラクトース、スクロース等の二糖類、デンプン等の多糖類、マルトエクストラクト等を挙げることができるがグリセロ糖脂質産生菌が生育する限りこれらに限定されない。窒素源としてはアンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、イーストエクストラクト、マルトエクストラクト、コーンスティープリカー、ペプトン等の有機窒素が用いられるがグリセロ糖脂質リパーゼ産生菌が生育する限りこれらに限定されない。また、グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌のグリセロ糖脂質リパーゼの産生量を増やすために培地中にトライトン、トゥイーン、ショ糖脂肪酸エステル、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、レシチンおよびサポニン等の界面活性剤を添加することもできる。これらの培地中の組成物量は適宜選択することができる。培養温度、pH、通気攪拌量はグリセロ糖脂質リパーゼ産生に適するように適宜選択することができる。
【0043】
グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌の培養終了後に、菌体を除いて、培養上清をそのまま粗酵素液として用いることができる。また、粗酵素液を通常の再構成処理、蛋白沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、凍結融解法、超音波破砕、限外ろ過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アッフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、それらの組み合わせ等によって粗精製したり、精製したりしたものを用いることもできる。
【0044】
周知の通り、糸状菌は自然界において、または人工的な操作(例えば、紫外線照射、放射線照射、化学薬品処理等)により、変異を起こしやすく、本発明のアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)もその点は同じである。本発明にいうアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)はその全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組み換え、形質導入、形質転換等によりえられたものも含有される。即ち、グリセロ糖脂質リパーゼを産生するアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)、それらの変異株およびそれらと明確に区別されない菌株は全てアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に包含される。
【0045】
また、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼは、ベクターに本発明のDNAが挿入された組換えプラスミドで宿主細胞を形質転換し、該形質転換された細胞の培養産物から得る事もできる。このように適当なベクターに本発明のDNAが挿入された組換えプラスミドも本発明に含まれる。このような目的に用いるベクターとしては、一般に知られているさまざまなベクターを用いることができる。好適なものとしては、原核細胞用ベクター、真核細胞用ベクター、哺乳動物由来の細胞用ベクターなどが挙げられるが、これに限定されない。このような組換えプラスミドにより、他の原核生物、または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、適当なプロモーター配列および/または形質発現に関わる配列を有するベクターを用いるか、もしくはそのような配列を導入することにより、発現ベクターとすることで、それぞれの宿主において遺伝子を発現させることが可能である。このような発現ベクターは、本発明の組換えプラスミドの好適な態様である。
【0046】
本発明の組換えプラスミドを、各種細胞に導入することにより、宿主細胞を得ることができる。このような細胞は、プラスミドを導入することができる細胞であれば原核細胞であっても真核細胞であってもよい。
【0047】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などが挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0048】
例えば、大腸菌としてはK12株などがよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株、およびベクターがいずれも使用できる。
【0049】
プロモーターとしては、大腸菌においては、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等が挙げられ、どのプロモーターも本発明のグリセロ糖脂質リパーゼの産生に使用することができる。
【0050】
枯草菌としては、例えば207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura, K. et al. (1984) J. Biochem. 95, 87-93)などが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0051】
プロモーターとしては、枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
【0052】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、哺乳動物由来の細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y. (1981) Cell 23, 175-182、ATCC CRL-1650)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0053】
脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani, S. et al. (1981) Mol. Cell. Biol. 1, 854-864)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0054】
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、およびRNAスプライス部位を具えたものを用いることができる。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res, 11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J. (1973) Virology 52, 456-457)、および電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al. (1982) EMBO J. 1, 841-845)などによりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989) : "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY)やpSV2−neo(Southern, P. J. and Berg, P. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1, 327-341)などをコトランスフェクションし、G418耐性のコロニーを選択することにより、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
【0055】
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf−9またはSf−21)やTrichoplusia niの卵細胞由来High Five細胞(Wickham, T. J. et al, (1992) Biotechnol. Prog. I: 391-396)などが宿主細胞としてよく用いられ、バキュロウイルストランスファーベクターとしてはオートグラファ核多角体ウイルス(AcNPV)のポリヘドリン蛋白質のプロモーターを利用したpVL1392/1393がよく用いられる(Kidd, I. M. and V.C. Emery (1993) The use of baculoviruses as expression vectors. Applied Biochemistry and Biotechnology 42, 137-159)。この他にも、バキュロウイルスのP10や同塩基性蛋白質のプロモーターを利用したベクターも使用できる。さらに、AcNPVのエンベロープ表面蛋白質GP67の分泌シグナル配列を目的蛋白質のN末端側に繋げることにより、組換え蛋白質を分泌蛋白質として発現させることも可能である(Zhe-mei Wang, et al. (1998) Biol. Chem., 379, 167-174)。
【0056】
真核微生物を宿主細胞とした発現系としては、酵母が一般によく知られており、その中でもサッカロミセス属酵母、例えばパン酵母Saccharomyces cerevisiaeや石油酵母Pichia pastorisが好ましい。該酵母などの真核微生物の発現ベクターとしては、例えば、アルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター(Bennetzen, J. L. and Hall, B. D. (1982) J. Biol. Chem. 257, 3018-3025)や酸性フォスファターゼ遺伝子のプロモーター(Miyanohara, A. et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 1-5)などを好ましく利用できる。また、分泌型蛋白質として発現させる場合には、分泌シグナル配列と宿主細胞の持つ内在性プロテアーゼあるいは既知のプロテアーゼの切断部位をN末端側に持つ組換え体として発現することも可能である。例えば、トリプシン型セリンプロテアーゼのヒトマスト細胞トリプターゼを石油酵母で発現させた系では、N末端側に酵母のαファクターの分泌シグナル配列と石油酵母の持つKEX2プロテアーゼの切断部位をつなぎ発現させることにより、活性型トリプターゼが培地中に分泌されることが知られている(Andrew, L. Niles,et al. (1998) Biotechnol.Appl. Biochem. 28, 125-131)。
【0057】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、または細胞外に本発明のグリセロ糖脂質リパーゼが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ改変イーグル培地(以下「DMEM」という)などの培地に、必要に応じウシ胎児血清などの血清成分を添加したものを使用できる。培養条件としては、CO濃度は0乃至50%の範囲であればよく、好適には1乃至10%でありより好適には5%である。培養温度は0乃至99℃であればよく、好適には20乃至50℃であり、より好適には35乃至40℃である。
【0058】
上記培養により形質転換体の細胞内または細胞外に組換え蛋白質として産生される本発明のグリセロ糖脂質リパーゼは、培養産物中から、その蛋白質の物理化学的性質、化学的性質、生化学的性質(酵素活性など)等を利用した各種の分離操作(「生化学データブックII」、1175-1259項、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, vol. 25, No.25, p8274-8277 (1986); Eur. J. Biochem., 163, p313-321 (1987)等参照)により分離、精製することができる。該方法としては、具体的には例えば通常の再構成処理、蛋白沈殿剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、凍結融解法、超音波破砕、限外ろ過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アッフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、それらの組み合わせ等を例示できる。上記により、高収率で所望の組換え蛋白質を工業的規模で製造できる。また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。上記方法を組み合わせることにより容易に高収率、高純度で本発明のグリセロ糖脂質リパーゼを大量に製造できる。
【0059】
以上のような方法により製造されたグリセロ糖脂質リパーゼも本発明の好適な例としてあげる事ができる。
【0060】
グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌とはグリセロ糖脂質リパーゼ産生能を本質的に先天的に有する微生物をいい、グリセロ糖脂質リパーゼを菌体内に蓄積する微生物や、菌体外に分泌する微生物等を含む。グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌の培養上清又は培養上清から精製したグリセロ糖脂質リパーゼを用いる場合には菌体外にグリセロ糖脂質リパーゼを分泌する菌を用いることができる。
【0061】
本発明に用いるグリセロ糖脂質リパーゼとしては、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)のグリセロ糖脂質リパーゼを用いることができ、より好適なものは、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株由来のグリセロ糖脂質リパーゼを用いることができる。グリセロ糖脂質リパーゼは、これらアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)自身に由来するものでもよいし、その変異体または修飾体に由来するものであってもよく、更に、これらグリセロ糖脂質リパーゼ産生菌のグリセロ糖脂質リパーゼをコードする遺伝子を宿主に導入して得られた形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。
【0062】
グリセロ糖脂質リパーゼを産生する微生物としては、特に限定されるものではないが、アスペルギルス属の糸状菌を挙げることができ、好適にはアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)であり、より好適にはアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株(以下、「SANK 11298株」という。)である。SANK 11298株は、群馬県において採集された土壌より分離された。
【0063】
SANK 11298株をクリックの文献(Klich, M. A. (2002) Identification of common Aspergillus species. The Centraalbureau voor Schimmelcultures, Utrecht, The Netherlands)に従い、3種類の培地(CYA培地、MEA培地及びCY20S培地)に接種して、菌学的性状を観察した。3種類の培地(CYA培地、MEA培地及びCY20S培地)の組成は以下のとおりである。
CYA培地(Czapek Yeast Extract Agar培地)
KHPO 1g
ザペック濃縮液 10ml
(NaNO 30g,KCl 5g,MgSO・7HO 5g,FeSO・7HO 0.1g,CuSO・5HO 0.05g,蒸留水 100ml)
イーストエキス 5g
スクロース 30g
寒天 15g
蒸留水 1000ml

MEA培地(Malt Extract Agar培地)
モルトエキス 20g
ペプトン 1g
グルコース 20g
寒天 20g
蒸留水 1000ml

CY20S培地(Czapek Yeast Extract Agar with 20% sucrose培地)
KHPO 1g
ザペック濃縮液 10ml
イーストエキス 5g
スクロース 200g
寒天 15g
蒸留水 1000ml
【0064】
CYA培地上でのコロニーの直径は、25℃、7日間の培養で62−64mmである。コロニーは放射状の溝を有する。分生子形成部はビロード状でイエロイッシュブラウン(5F4)を呈する。菌糸体は白色を呈する。菌核、可溶性色素や浸出液は観察されない。裏面はペルオレンジ(5A3)を呈する。MEA培地上でのコロニーの直径は、25℃、7日間の培養で62−65mmである。分生子は密には形成されない。菌糸体は白色を呈する。浸出液は観察されない。裏面は色に変化がない。CY20S培地上でのコロニーの直径は、25℃、7日間の培養で58−61mmである。コロニーは厚く、菌糸体は白色を呈する。分生子、浸出液は観察されない。裏面はイエロイッシュホワイト(4A2)を呈する。37℃でのCYA培地上でのコロニーの直径は、7日間の培養で13−17mmである。コロニーは放射状の溝を有する。可溶性色素が観察され、淡褐色、中心部で淡赤色を呈する。裏面はブラウン(7F4)またはグレイッシュブラウン(7E3)を呈する。なお、色調の表示は、「メチューン・ハンドブック・オブ・カラー」(Kornerup A. & Wanscher J.H. 1978. Methuen handbook of colour (3rd. edition). Erye Metuen, London)に従った。
【0065】
分生子頭は放射状である。分生子柄は(100-)300-800(-1200)×3.5-9μm、平滑、無色または先端で淡褐色を呈する。頂のうは幅(11-)20-39μmで球形である。アスペルジラは単列である。フィアライドは6-8×3-3.5μmで、頂のうの3/4以上に形成される。分生子は直径3.5-5×3-4μm、球形から亜球形またはしばしば楕円形であり、表面は針状である。
【0066】
以上の菌学的性状より、CY20S培地上での性状を除き、クリックの文献(上掲)に記載されているアスペルギルス・ジャポニクスの性状に一致することから、SANK 11298株は、アスペルギルス・ジャポニクスと同定される。
【0067】
SANK 11298株は、平成18年12月27日付けで、受託番号 FERM BP−10753で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。
【0068】
グリセロ糖脂質リパーゼ産生菌から得られたグリセロ糖脂質リパーゼの具体的な性質について以下に示すが、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼの有する性質はこれらに限定されるものではない。
【0069】
SANK 11298株により産生され、精製されたグリセロ糖脂質リパーゼは、以下の性質を有する。
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約29,000を示す;
2)中性脂肪及びレシチン及びグリセロ糖脂質をpH6.0において加水分解する;
3)pH3.6乃至pH8.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性の比が、少なくとも10倍である;
4)グリセロ糖脂質に対する相対分解活性はpH4.1乃至pH7.7のpH範囲で少なくとも80%以上である;
5)レシチンに対する相対分解活性はpH5.1乃至pH7.1のpH範囲で少なくとも80%以上である;
6)80℃以上の温度で上記5)記載の加水分解活性を有さない;
7)pH4.1乃至pH10.7のpH範囲で75%以上のグリセロ糖脂質に対する相対残存分解活性分解活性を有する。
【0070】
種々のpHにおける、グリセロ糖脂質であるDGDGに対する脂肪酸遊離活性(以下「DGDG分解活性」と言う)および大豆レシチンに対する脂肪酸遊離活性(以下「レシチン分解活性」と言う)を測定した。各pHにおけるDGDG分解活性を100%としたときの相対レシチン分解活性について、本発明の酵素と製パン業界において広く使用されているリパーゼであるリポパンF(登録商標、Lipopan F、ノボザイムズジャパン)との比較を下記に示した。なお、大豆由来レシチンは辻製油(株)から購入した。以下、レシチンとは大豆由来レシチンのことをさす。
【0071】
本発明の酵素(グリセロ糖脂質リパーゼG−2)
pH DGDG分解活性 レシチン分解活性
3.6 100 2.6
4.1 100 4.6
4.9 100 5.9
5.9 100 6.1
6.7 100 5.3
7.7 100 4.6
8.1 100 6.8
8.9 100 8.5
【0072】
リポパンF精製酵素
pH DGDG分解活性 レシチン分解活性
3.4 100 41.4
4.1 100 142
5.1 100 220
5.9 100 186
6.9 100 171
7.7 100 118
8.5 100 118
9.2 100 110
9.9 100 106
【0073】
上記から、本発明の酵素は、pH3.6乃至pH8.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性が、少なくとも10倍であることがわかる。これに対して、市販のリパーゼであるリポパンFは、pH3.4乃至pH9.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性が、多くとも3倍であり、pH4.1乃至pH9.9のpH範囲では、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性が、同等以下である。
【0074】
また、SANK 11298株により産生され、精製されたグリセロ糖脂質リパーゼは、配列番号3に示す部分アミノ酸配列を有する。配列はN末端から記す。
【0075】
以上のことから、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼの有する性質としては以下のようなものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約29,000を示す;
2)中性脂肪及びレシチン及びグリセロ糖脂質をpH6.0において加水分解する;
3)pH3.6乃至pH8.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性の比が、少なくとも10倍である;
4)グリセロ糖脂質に対する相対分解活性はpH4.1乃至pH7.7のpH範囲で少なくとも80%以上である;
5)レシチンに対する相対分解活性はpH5.1乃至pH7.1のpH範囲で少なくとも80%以上である;
6)80℃以上の温度で上記5)記載の加水分解活性を有さない;
7)pH4.1乃至pH10.7のpH範囲で75%以上のグリセロ糖脂質に対する相対残存分解活性分解活性を有する。
【0076】
また、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼを製造する方法も本発明に含まれる。
SANK 11298株をはじめとするグリセロ糖脂質リパーゼ産生微生物を培地で培養することにより、グリセロ糖脂質リパーゼを産生することができる。例えば、0.1〜5.0%グルコース(和光純薬(株)製)、0.1〜5.0%イーストエクストラクト(Difco(株)製)、0.1〜5.0%カザミノ酸(Difco)、0.1〜5.0%トゥイーン80(Sigma-Aldrich Japan Co.Ltd.)、0.01〜1.0%リン酸水素2カリウム、0.005〜1.0%硫酸マグネシウムに0.05〜5.0%すりゴマを添加した培地の培地で、16〜45℃で1〜15日間、100〜250rpmで振とう培養する。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例及び試験例を挙げるが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0078】
実施例1.SANK 11298株からのグリセロ糖脂質リパーゼの精製
1)粗酵素液の調製
滅菌した下記の組成の培地100mlが入っている500ml容の三角フラスコにSANK 11298株の菌体を接種し、26℃にて4日間、170rpmの振とう培養を行った。
培地組成
グルコース 20g
イーストエクストラクト 10g
カザミノ酸 10g
すりゴマ 20g
トゥイーン80 10g
リン酸水素2カリウム 0.1g
硫酸マグネシウム 0.05g
純水で1,000mlとした。
培養終了後、4℃、10,000×Gにて10分間の遠心分離を行った。得られた上清を粗酵素液とした。
【0079】
2)酵素活性測定法
グリセロ糖脂質リパーゼの加水分解活性は以下のようにして測定した。
1.DGDGを基質として用いた場合(DGDG分解活性)
日清製粉株式会社の日清フラワー薄力小麦粉から抽出・精製し、TLCでワンスポットを示し、マススペクトロメトリーにおいてもSIGMA D4651−10MG ジガラクトシルジグリセリドと同様の結果を示す画分を、以下DGDGとして用いた。
DGDG200mgを4%Triton X−100 10mlに溶解し、2%DGDG溶液とした。2%DGDG溶液210μlと400mM MOPS緩衝液(pH6)30μlの混合液を5分間37℃で保温したものに、酵素液30μlを添加しよく攪拌後、37℃で10分間保温した。1N塩酸30μlを加えて酵素反応を停止した。酵素液は1%Triton X−100で希釈して用いた。
【0080】
2.レシチンまたはLPCを基質として用いた場合(レシチン分解活性)
レシチン(SLP−ホワイト、辻製油(株)製)200mgを4%Triton X−100 10mlに溶解し、2%レシチン溶液とした。2%レシチン溶液500μlと200mM MOPS緩衝液(pH6)250μlの混合液を5分間37℃で保温したものに、酵素液150μlを添加しよく攪拌後、37℃で10分間保温した。1N塩酸100μlを加えて酵素反応を停止した。酵素液は1%Triton X−100で希釈して用いた。LPCを基質とする場合も、上記の条件と同様に行った。
【0081】
3.オリーブ油を基質として用いた場合(中性脂肪分解活性)
オリーブ油(ナカライテスク(株)製)200mgとアラビアガム(和光純薬工業(株)製)100mgに水10mlを加え、ブレンダー(日本精機(株)製)で、10,000r.p.m.、1分間の条件で乳化した。この溶液200μl、200mM MOPS緩衝液pH6 100μlおよび100mMカルシウムクロライド溶液20μlの混合液を5分間37℃で保温したものに、酵素液40μlを添加しよく攪拌後、37℃で10分間保温した。1N塩酸40μlを加えて酵素反応を停止した。この混合液に4%Triton X−100 400μlを加えて遊離脂肪酸を溶解させた。
【0082】
4.遊離脂肪酸の定量
酵素反応の結果生じた遊離脂肪酸をNEFA(協和メデックス(株)製)で定量した。上記1.あるいは2.あるいは3.で得られた反応液30μlに遮光条件下NEFAの溶液を3ml添加し、37℃で10分間反応した。この混合液の660nmにおける吸光度を測定した。DGDG分解活性は、DGDGから1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生じせしめる酵素量を1ユニットと定義した。レシチン分解活性は、レシチンから1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生じせしめる酵素量を1ユニットと定義した。中性脂肪分解活性は、オリーブ油から1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生じせしめる酵素量を1ユニットと定義した。
【0083】
3)精製酵素液の調製
1)で得られた粗酵素液500mlに硫安(和光純薬(株)製)を加え、終濃度1Mになるように調整した。これを、予め1M硫安で平衡化したトヨパールButyl 650M(東ソー(株)製)カラム(直径2.2cm×長さ20cm)に添加し、吸着させた。1M硫安で該カラムを十分洗浄した後、600ml中に1乃至0M/0.1%トゥイーン80の硫安の直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。レシチン分解活性は硫安濃度が0M乃至0.2Mの画分(120ml)に溶出された。これを粗精製酵素画分とした。
【0084】
得られた活性画分120mlを10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)4,000mlに対して12時間ずつ3回透析した後、予め10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)で平衡化したトヨパールDEAE 650M(東ソー(株)製)カラム(直径2.2cm×長さ20cm)に添加し、吸着させた。該カラムを10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)で十分洗浄した後、10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)中に0乃至1.0Mの塩化ナトリウムの直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。レシチン分解活性は塩化ナトリウム濃度が0.42M乃至0.59Mの画分(120ml)に溶出された。
【0085】
得られた活性画分40mlを濃縮し、予め0.15M塩化ナトリウムを含む10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したHiLoad Sephadex200pg(GEヘルスケアバイオサイエンス(株)製)カラム(直径16mm×60cm)に添加した後、0.15M塩化ナトリウムを含む10mMトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)にて溶出させた。レシチン分解活性は、溶出量が60ml乃至67.5mlおよび81ml乃至90mlの画分に溶出された。前者をグリセロ糖脂質リパーゼG−1、後者をグリセロ糖脂質リパーゼG−2とした。
この画分を精製酵素溶液とした。
【0086】
4)精製酵素の分子量測定
12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGE電気泳動法(Laemmli, U.K., Nature, 227, 680(1970)参照)により、精製酵素の分子量を求めた。標準タンパク質として次のものを用いた:a.ホスホリラーゼ、分子量97,000:b.アルブミン、分子量66,000:c.オバルブミン、分子量45000:d.カルボニック・アンヒドラーゼ、分子量30,000:e.トリプシン・インヒビター、分子量20,100:f.α−ラクトアルブミン、分子量14,400。グリセロ糖脂質リパーゼG−1およびグリセロ糖脂質リパーゼG−2ともに分子量約29,000の単一バンドを示した。
【0087】
5)等電点の測定
ファストゲルIEF 3−9(アマシャムバイオサイエンス(株)製)を用いて測定した。グリセロ糖脂質リパーゼG−2はpI4.5付近を示した。標準タンパク質として次のものを用いた:a.アミルグルコシダーゼ、pI3.50:b.トリプシン・インヒビター、pI4.55:c.β−ラクトグロブリン A、pI 5.20:d.カルボニック・アンヒドラーゼ B(ウシ)、pI 5.85:e.カルボニック・アンヒドラーゼ B(ヒト)、pI 6.55:f.ミオグロビン・酸性バンド、pI 6.85:g:ミオグロビン・塩基性バンド、pI 7.35:h.レンチ・レクチン 酸性、pI 8.15:i.レンチ・レクチン 中性、pI 8.45:j.レンチ・レクチン 塩基性、pI 8.65:k.トリプシノーゲン、pI 9.30。
【0088】
実施例2.リポパンFからのグリセロ糖脂質リパーゼの精製
リポパンF(20g)に1M硫安溶液を加えて酵素を溶出させた後、沈殿を除去した。上澄を、予め1M硫安で平衡化したトヨパールButyl 650M(東ソー(株)製)カラム(直径2.2cm×長さ20cm)に添加し、吸着させた。1M硫安で該カラムを十分洗浄した後、600ml中に1乃至0M/0.1%トゥイーン80の硫安の直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。レシチン分解活性は硫安濃度が0M乃至0.2Mの画分(120ml)に溶出された。これをリポパンF粗精製酵素画分とした。
【0089】
得られた活性画分120mlを10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)4,000mlに対して12時間ずつ3回透析した後、予め10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)で平衡化したトヨパールDEAE 650M(東ソー(株)製)カラム(直径2.2cm×長さ20cm)に添加し、吸着させた。該カラムを10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)で十分洗浄した後、10mMトリス・塩酸/0.1%トゥイーン80緩衝液(pH8)中に0乃至1.0Mの塩化ナトリウムの直線的濃度勾配を作製して該カラムに吸着した成分を溶出させた。レシチン分解活性は塩化ナトリウム濃度が0.42M乃至0.59Mの画分(120ml)に溶出された。
この画分をリポパンFの精製酵素とした。
【0090】
実施例3. SANK11298株由来のグリセロ糖脂質リパーゼのN末端アミノ酸配列の決定
精製した酵素を実施例1.4)に示した方法でSDS−PAGEにかけたのち、PVDF膜にブロッティングした。これについてアミノ酸配列解析装置(Procise cLC、Applied Biosystem)でアミノ酸配列を解析した。その結果得られた部分アミノ酸配列をアミノ末端側から記す(配列番号3)。
【0091】
実施例3.SANK11298株のグリセロ糖脂質リパーゼをコードするDNAの同定
1)全RNAの精製
SANK)11298株を液体培地(2%ポリペプトン(和光純薬(株)製)、0.5%イースト・エキストラクト、0.02%燐酸水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム)20mlで26℃、2日間前培養した。その後、液体培地(2%グルコース、1%イースト・エキストラクト、1%カザミノ酸、2%すりゴマ、1%トゥイーン80、0.1%燐酸水素2カリウム、0.02%硫酸マグネシウム)に1%植菌し、26℃で4日間培養した。培養した菌体を吸引集菌し、−80℃に冷やした乳鉢(オートクレーブ滅菌済)に移した。液体窒素を加えながら、乳棒で菌体を破砕し、粉末状にした。完全に粉末状になった菌体をRNeasy Plant MiniKit(キアゲン(株)製)を用いて全RNAの精製を行った。660ng/μgの濃度の溶液が、50μl得られた。
【0092】
2)グリセロ糖脂質リパーゼ遺伝子の解読
5’RACE法および3’RACE法にて遺伝子配列の解読をおこなった。具体的には、5’RACE Systemおよび3’RACE System(いずれもインビトロジェン(株)製)を使用し、ポリメラーゼとしてEX TaqTM(タカラバイオ(株)製)を用いてPCRをおこなった。このときに使用したPCRプライマーは、5’側の遺伝子配列増幅用に配列番号4および5、3’側の遺伝子配列増幅用に配列番号6および7を用いた。PCRサイクルは、94℃・5分、(94℃・30秒、55℃・30秒、72℃・2分30秒)×30、72℃・10分、4℃で増幅した。5’側の遺伝子配列約1,000bp、3’側の遺伝子配列約1,200bpの長さのDNAが増幅された。
【0093】
各々のPCR産物をアガロースゲル電気泳動をおこなった後、Qiaquick Gel Extraction Kit(キアゲン(株)製)で精製した。精製物をTOPOTMTAクローニングキット(インビトロジェン(株)製)を用いてベクターに連結し、形質転換をおこなった。形質転換した大腸菌を37℃、一晩寒天培地(LB/Agar(和光純薬(株)製))上で培養した後、生育したコロニーを37℃、一晩液体培地(LBbroth(和光純薬(株)製))で培養した。増殖した大腸菌からプラスミドをQiaprep Spin Miniprep Kit(キアゲン(株)製)を用いて精製し、DNA配列解析をおこなった。DNA配列解析の結果を配列番号1に示した。また、DNA配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0094】
試験例1.SANK 11298株由来グリセロ糖脂質リパーゼの精製酵素液の諸性質
実施例1.3)で得られた精製酵素液について、活性測定を行なった。
1)基質選択性
各基質の2%溶液を調整し、実施例 1.2)の方法により、酵素は実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいは実施例2.に示したリポパンF精製酵素を用いて測定した。DGDG分解活性を100%とした相対活性で表す。レシチンはSLP−ホワイトを示す。LPCは大豆由来であり、シグマアルドリッチジャパンから購入した。
基質 G−2 リポパンF未精製酵素 リポパンF精製酵素
DGDG 100 100 100
レシチン 6.1 229 186
LPC 0.5 9.9 0.7
オリーブオイル 28.3 27.4 ND
【0095】
2)pH活性
1.DGDGを基質に用いた場合
実施例1.2)1.に示した方法に拠って活性測定をおこなった。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいは実施例2.に示したリポパンF精製酵素を用いた。緩衝液は、pH3−6:酢酸緩衝液、pH6−8:MOPS緩衝液、pH8−11:Atkins-Pantin緩衝液を用いた。各pHにおける両酵素の相対分解活性を下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いたときの結果を図1にリポパンF精製酵素の結果を図2に示した。
【0096】
pH活性(図1および図2)
G−2 リポパンF精製酵素
pH 相対活性(%) pH 相対活性(%)
3.6 78.2 3.4 8.7
4.1 87.0 4.1 12.3
4.9 96.4 5.1 18.4
5.9 99.3 5.9 31.1
6.7 100 6.9 52.7
7.7 90.5 7.7 88.2
8.1 64.1 8.5 92.7
8.9 43.7 9.2 100
9.6 13.5 9.9 94.3
なお、本発明では、相対活性で80%以上の活性を有しているpHを至適pHと定義した。したがって、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の至適pHは、pH4.1〜7.7である。またリポパンF精製酵素の至適pHは、pH7.7〜9.9である。また、相対活性で90%以上の活性を有しているpHは、グリセロ糖脂質リパーゼG−2で4.9〜7.7であり、リポパンF精製酵素で8.5〜9.9である。
【0097】
2.レシチンを基質に用いた場合
実施例1.2)2.に示した方法に拠って活性測定をおこなった。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−1あるいはグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いた。緩衝液は次のものを用いた:pH3.4乃至pH6.1の場合、酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液:pH6.0乃至pH8.0の場合、MOPS緩衝液:pH7.5乃至pH9.0の場合、トリス・塩酸緩衝液。各pHにおける両酵素の相対分解活性を下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−1を用いたときの結果を図3にグリセロ糖脂質リパーゼG−2の結果を図4に示した。
pH活性(図3および図4)
pH 相対活性(%)
G−1 G−2
3.4 37.9 40.1
4.1 62.9 67.6
5.1 79.3 94.2
6.0 100 100
7.1 88.3 93.9
8.0 72.9 71.8
9.0 55.0 60.3
なお、本発明では、相対活性で80%以上の活性を有しているpHを至適pHと定義した。したがって、レシチンを基質としたときの本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−1の至適pHは、pH6.0〜7.1である。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2の至適pHは、pH5.1〜7.1である。
【0098】
3)pH安定性
1.DGDGを基質に用いた場合
酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいは実施例2.に示したリポパンF精製酵素を10μlと20mM緩衝液/1%Triton X−100溶液190μlの混合液を37℃で30分間保温したのち、すぐに氷冷した。緩衝液はpH3−6:酢酸緩衝液、pH6−8:MOPS緩衝液、pH8−11:Atkins-Pantin緩衝液を用いた。相対残存分解活性は、各加温酵素液を水で10倍希釈したのち直ちに実施例1.2)1.の方法により測定した。最も活性が高かったpH条件での残存分解活性を100%とし、各pHにおける酵素の相対残存分解活性を相対値として下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いたときの結果を図5にリポパンF精製酵素の結果を図6に示した。
【0099】
pH安定性(図5および図6)
相対残存分解活性(%)
pH G−2 リポパンF精製酵素
3.4 45.7 68.1
4.1 77.8 81.0
5.1 99.6 93.7
6.1 99.0 96.3
6.9 96.3 100
7.8 97.4 99.0
8.4 93.5 91.8
9.0 94.6 92.5
9.8 100 89.1
10.7 91.5 39.0
なお、本発明では、相対残存分解活性で80%以上の活性を有しているpHを安定pHと定義した。したがって、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の安定pHは、pH5.1〜10.7である。またリポパンF精製酵素の安定pHは、pH4.1〜9.8である。
【0100】
2.レシチンを基質に用いた場合
実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2 50μlに、以下に述べる各pHの200mM緩衝液50μlを添加し、37℃にて30分間保温した。緩衝液は次のものを用いた:pH3.0乃至pH6.0の場合、酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液:pH5.9乃至pH7.9の場合、MOPS緩衝液:pH7.6乃至pH9.0の場合、トリス・塩酸緩衝液。相対残存分解活性は、各加温酵素液を水で10倍希釈したのち直ちに実施例1.2)2.の方法により測定した。最も活性が高かったpH条件での残存分解活性を100%とし、各pHにおける酵素の相対残存分解活性を相対値として下記に記載した。また結果を図7に示した。
【0101】
pH安定性(図7)
pH 相対残存分解活性(%)
3.0 69.4
4.0 85.4
4.9 87.1
6.0 100
7.0 100
7.5 100
7.9 100
9.0 100
【0102】
なお、本発明では、相対残存分解活性で80%以上の活性を有しているpHを安定pHと定義した。したがって、レシチンを基質としたときの本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の安定pHは、pH4.0〜9.0である。
【0103】
4)温度活性
1.DGDGを基質に用いた場合
MOPS緩衝液pH6における温度活性を測定した。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいは実施例2.に示したリポパンF精製酵素を用いた。測定法は実施例1.2)1.に示した方法に拠った。各温度における両酵素の相対分解活性を下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いたときの結果を図8にリポパンF精製酵素の結果を図9に示した。
【0104】
温度活性(図8および図9)
温度(℃) 相対活性(%)
G−2 リポパンF精製酵素
37 95.1 94.9
40 97.7 100
45 100 95.6
50 86.1 90.5
55 50.4 55.5
60 33.5 17.3
65 12.1 4.8
70 8.2 7.6
【0105】
なお、本発明では、相対活性で80%以上の活性を有している温度を至適温度と定義した。したがって、DGDGを基質としたときの本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の至適温度は、37〜50℃である。またリポパンF精製酵素も同じである。
【0106】
2.レシチンを基質に用いた場合
MOPS緩衝液pH6における温度活性を測定した。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−1あるいはグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いた。測定法は実施例1.2)2.に示した方法に拠った。各温度における両酵素の相対分解活性を下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−1を用いたときの結果を図10にグリセロ糖脂質リパーゼG−2の結果を図11に示した。
【0107】
温度活性(図10および図11)
温度(℃) 相対活性(%)
G−1 G−2
30 100 100
35 96.2 94.7
40 99.5 87.6
45 88.0 90.0
50 88.5 75.6
55 79.3 79.9
60 76.0 70.8
65 68.8 65.6
70 47.6 45.4
75 10.1 12.4
80 0.5 6.7
なお、本発明では、相対活性で80%以上の活性を有している温度を至適温度と定義した。したがって、レシチンを基質としたときのグリセロ糖脂質リパーゼG−1の至適温度は、30〜50℃である。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2は30〜45℃である。
【0108】
5)温度安定性
1.DGDGを基質に用いた場合
あらかじめ処理温度に保持した400mM MOPS緩衝液(pH6)37.5μlおよび1%Triton X−100溶液62.5μlに精製酵素液50μlを加え撹拌して均一にし、30分間保温したのちすぐに氷冷した。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいは実施例2.に示したリポパンF精製酵素を用いた。測定法は実施例1.2)1.に示した方法に拠った。最も活性が高かった温度条件での残存分解活性を100%とし、各温度における酵素の相対残存分解活性を相対値として下記に記載した。またグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いたときの結果を図12にリポパンF精製酵素の結果を図13に示した。
【0109】
温度安定性(図12および図13)
温度(℃) 相対残存活性(%)
G−2 リポパンF精製酵素
4 99.0 100
37 100 99.4
40 99.0 98.1
45 68.3 75.2
50 32.8 6.5
55 26.1 0.1
60 9.6 0.0
65 3.2 1.2
70 1.9 0.0
なお、本発明では、相対残存活性で80%以上の活性を有している温度を安定温度と定義した。したがって、DGDGを基質としたときの本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の安定温度は、4〜40℃である。またリポパンF精製酵素も同じである。
【0110】
2.レシチンを基質に用いた場合
あらかじめ処理温度に保持した400mM MOPS緩衝液(pH6)37.5μlおよび1%Triton X−100溶液62.5μlに精製酵素液50μlを加え撹拌して均一にし、30分間保温したのちすぐに氷冷した。酵素は、実施例1.3)に示したグリセロ糖脂質リパーゼG−2を用いた。測定法は実施例1.2)2.に示した方法に拠った。最も活性が高かった温度条件での残存活性を100%とし、各温度における酵素の相対残存分解活性を相対値として下記に記載した。また結果を図14に示した。
温度活性(図14)
温度(℃) 相対残存活性(%)
4 100
30 100
35 100
40 100
45 100
50 100
55 100
60 86.2
65 22.5
70 0.0
なお、本発明では、相対残存活性で80%以上の活性を有している温度を安定温度と定義した。したがって、レシチンを基質としたときの本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2の安定温度は、4〜60℃である。
【0111】
試験例2. リゾグリセロ糖脂質生成の確認
1)試料の作成
実施例1.2)1.記載の2%DGDG溶液210μlに400mM MOPS緩衝液pH6)30μl、および実施例1.3)記載のグリセロ糖脂質リパーゼ酵素G−2 30μlを加え、37℃4時間で酵素反応を行った。シリカゲルプレート(No.5626)3×10cmにキャピラリーを用いて1μlずつスポットし、展開溶媒にて展開した。展開後、発色試薬を噴霧して、ホットプレートにて加熱し、発色させた。
TLC条件
プレート:薄層クロマトグラフィーガラスプレート
(メルク(株)製 シリカゲル60 No.5626)
展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水:酢酸エチル:2−プロパノール
(5:2:1:5:5)
発色試薬(オルシノール硫酸):オルシン一水和物(ナカライテスク(株)製)20mgを濃硫酸1.1mlに溶解し、氷で冷却しながら攪拌している蒸留水9mlに徐々に加えて調製した。(冷暗所保存)
呈色反応・・展開後のプレートに発色試薬を噴霧し、ホットプレートにて加熱し発色させた。
Rf値:DGDG 0.35付近、DGMG 0.20付近
【0112】
2)マススペクトラムによるDGMGの確認
LC/MS法にて分子量を測定した。
測定条件 LC:Waters Acquity
カラム:UPLC BEH C18 2.1×100mm 1.7μm
溶離液条件:A=HO(0.1%HCOOH) B=CHCN
グラジェント条件:0min.10%B→8min.100%B(2min.Hold)
流速:0.2ml/min.
MS:Waters LCT Premier XE
イオン化法:ESI(+/−)
Cone電圧:+/−50V
【0113】
DGDGあるいは1)にて分離したDGMGをLCにて分離し、最大のピーク部分についてMSにて分子量を測定した。DGDGはm/z974、DGMGはm/z701にピークが観察された。
【0114】
試験例3.製パン試験
1)パンの焼成
強力粉280g、バター11g、砂糖大さじ2、スキムミルク大さじ1、塩小さじ1、水200ml、ドライイースト小さじ1、グリセロ糖脂質リパーゼG−2あるいはリポパンF精製酵素72.5ユニット(DGDG分解活性)を混合し、ホームベーカリー(パナソニック(株)SD−BT50)でパンを焼いた。焼成後室温付近まで冷却し、ビニール袋に入れて密封後、水を入れたバットを置いた20℃の恒温槽内に一日保存した。その後比容積等を測定した。
【0115】
2)パンの比容積
なたね置換法で求めた。酵素を添加しない場合に比べて、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼG−2を添加した場合2.7%の増量が見られた。リポパンF精製酵素を添加した場合には13%の減量となった。
【0116】
3)パンの香り
1.官能による評価
パンを焼き、1日経過後のパンに不適なチーズ臭を3名の被験者が判断した平均値を示す。ただし、リポパンF精製酵素を用いたときの臭いを10として表した。
酵素無添加 G−2 リポパンF精製酵素
チーズ臭 0 4 10
【0117】
2.GC/MASSを用いた、臭い成分の分析
パンの中心部分約1gを下記の条件で分析した。
GC/MS(EI)条件
装置(GC):HP6890(Agilent社製)
(MS):MASS Sensitive Detector 5973N
(Agilent社製)
カラム :HP−INNOWAX(60m・L*0.25・ID,0.5μm・Df
(Agilent社製)
カラム流量 :1.8ml/min.(コンスタントフロー)
キャリアガス:ヘリウム
脱着条件 :250℃(8分間)at GC Injection
注入口温度 :250℃
カラム温度 :40℃:13min.〜10℃/min.〜250℃*15min.
検出器 :MS(EI Scan−Positive)
標品のリテンションタイムと比較することにより、ピークの同定をおこなった。
【0118】
下記の化合物について差がみられた。リポパンF精製酵素を用いたときを100とした相対値を示す。
酵素無添加 G−2 リポパンF精製酵素
へキサン酸エチル 22.5 26.4 100
オクタン酸エチル 15.9 46.3 100
デカン酸エチル 12.1 65.7 100
9−デセン酸エチル N.D. 64.6 100
ミリスチン酸イソプロピル N.D. N.D. 100
オクタン酸 N.D. 43.2 100
【0119】
ここでN.D.は検出されないことを示す。上記のうち、オクタン酸はパンに不適なヤギのチーズ臭がすることが一般的に知られている。本発明の酵素を用いたほうが、上記化合物の生産量が少なかった。
【0120】
以上述べたように、本発明のグリセロ糖脂質リパーゼは、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株由来であり、安全性に優れ、中性脂肪およびグリセロリン脂質およびグリセロ糖脂質を加水分解する能力を有し、弱酸性付近に最も高い活性を有するとともにある程度熱的に安定であり、リゾグリセロ糖脂質およびリゾグリセロリン脂質を実質加水分解しない酵素であり、食品工業および製パン工業いずれの分野においても優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のDGDGを基質としたpH活性
【図2】リポパンF精製酵素のDGDGを基質としたpH活性
【図3】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−1のレシチンを基質としたpH活性
【図4】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のレシチンを基質としたpH活性
【図5】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のDGDGを基質としたpH安定性
【図6】リポパンF精製酵素のDGDGを基質としたpH安定性
【図7】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のレシチンを基質としたpH安定性
【図8】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のDGDGを基質とした温度活性
【図9】リポパンF精製酵素のDGDGを基質とした温度活性
【図10】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−1のレシチンを基質とした温度活性
【図11】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のレシチンを基質とした温度活性
【図12】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のDGDGを基質とした温度安定性
【図13】リポパンF精製酵素のDGDGを基質とした温度安定性
【図14】SANK 11298株由来の精製グリセロ糖脂質リパーゼG−2のレシチンを基質とした温度安定性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の性質を示すグリセロ糖脂質リパーゼ:
1)SDS−PAGE電気泳動法にて分子量約29,000を示す;
2)中性脂肪及びレシチン及びグリセロ糖脂質をpH6.0において加水分解する;
3)pH3.6乃至pH8.9のpH範囲で、レシチン分解活性に対するグリセロ糖脂質分解活性が、少なくとも10倍である。
【請求項2】
さらに以下の性質を示す請求項1に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ:
4)グリセロ糖脂質に対する相対分解活性はpH4.1乃至pH7.7のpH範囲で少なくとも80%以上である;
5)レシチンに対する相対分解活性はpH5.1乃至pH7.1のpH範囲で少なくとも80%以上である;
6)80℃以上の温度で上記5)記載の加水分解活性を有さない;
7)pH4.1乃至pH10.7のpH範囲で75%以上のグリセロ糖脂質に対する相対残存分解活性を有する。
【請求項3】
糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)に由来する、請求項1または2に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ。
【請求項4】
糸状菌がアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株である請求項3に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ。
【請求項5】
下記のa)乃至e)のいずれか一つに記載の蛋白質であるグリセロ糖脂質リパーゼ:
a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質;
b)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質;
c)a)またはb)に記載のアミノ酸配列において、一つまたは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加したアミノ酸配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質;
d)上記a)に記載の蛋白質と70%以上のアミノ配列相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質;
e)a)またはb)に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質。
【請求項6】
下記a)乃至e)のいずれか一つに記載のDNA:
a)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列からなるDNA;
b)上記a)に記載のDNAと70%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNA;
c)上記a)に記載のDNAとストリンジェントな条件化でハイブリダイズし、かつ、グリセロ糖脂質分解活性を有する蛋白質をコードするDNA;
d)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA;
e)配列表の配列番号1のヌクレオチド番号110乃至991に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるDNA。
【請求項7】
請求項6に記載のDNAによってコードされるグリセロ糖脂質リパーゼ。
【請求項8】
請求項1〜5または7のいずれかに記載のグリセロ糖脂質リパーゼを産生する能力を有する単離された糸状菌アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株。
【請求項9】
下記1)乃至2)を含む、グリセロ糖脂質リパーゼの製造方法:
1)アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)を、グリセロ糖脂質リパーゼを産生する条件下で培養する工程。
2)1)の培養産物からグリセロ糖脂質リパーゼを分離・精製する工程。
【請求項10】
アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)がアスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)SANK 11298株である請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の方法により製造されるグリセロ糖脂質リパーゼ。
【請求項12】
請求項1〜5、7又は11のいずれか1項に記載のグリセロ糖脂質リパーゼを用いる、パンの製造方法。
【請求項13】
パンの製造のための、請求項1〜5、7又は11のいずれか1項に記載のグリセロ糖脂質リパーゼ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−206515(P2008−206515A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19067(P2008−19067)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】