説明

グリチルリチン高濃度製剤

【課題】 有効成分を高濃度で含有し、かつ安定性及び安全性に優れたグリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤を提供する。【解決手段】 既存製品において安定化剤として使用していた亜硫酸塩類を添加しないことで、有効成分を高濃度に配合した場合の安定性が改善された。本発明グリチルリチン濃縮製剤は、グリチルリチン8乃至16mg/mL、システイン3乃至6mg/mL及びアミノ酢酸80乃至160mg/mLを含有し、かつ添加剤として亜硫酸塩類を含有しない医薬組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓疾患用あるいはアレルギー用薬剤等として有用なグリチルリチン、システイン及びアミノ酢酸(グリシン)を高濃度で含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、グリチルリチン類は抗コルチゾン作用、脱コレステロール作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、解毒作用、胃潰瘍修復作用等各種の薬理作用を有することが知られており、またその安全性が確認されていることから、これを有効成分として含有するグリチルリチン製剤は、各種疾患の治療薬として広く用いられている。そして近年では、慢性肝疾患に対するグリチルリチンの静脈注射による大量投与の有効性が報告されたことにより、グリチルリチン製剤の有用性が見直されている。
【0003】
一般に、肝疾患治療用の医薬品は、比較的長期にわたって薬剤を連続投与することが多い。現在市販されているグリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤(商品名:強力ネオミノファーゲンシー)は、グリチルリチン酸モノアンモニウム2.65mg/mL(グリチルリチンとして2mg/mL)、システイン塩酸塩1mg/mL(システインとして0.77mg/mL)、アミノ酢酸20mg/mLの配合比による注射剤であり、年齢、症状により適宜増減するが、慢性肝疾患に対しては1日1回40乃至60mL(100mLまで増量可能)を静脈内に注射または点滴静注するものである。このような大量投与は、投与時に患者に苦痛を与えるばかりでなく、連日の長時間にわたる投与は注射部位の組織に肥厚を生じさせるという問題も生じる。また、本製剤の配合成分であるグリチルリチンは沈殿を生じたり、またシステイン塩酸塩は分解し易く不安定であるという問題があり(特許文献1参照)、既存の注射用製剤においては安定化剤として亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム:0.8mg/mL)が添加されている(非特許文献1参照)。しかし亜硫酸塩類は、喘息発作の誘引物質であるとの報告があり(非特許文献2参照)、またアレルギーを引き起こす食品添加物として報告されていることから(非特許文献3及び4参照)、これを高濃度で含む製剤は安全性に問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−65808公報 第2頁 0004段落
【非特許文献1】「強力ネオミノファーゲンシー」医薬品添付文書(株式会社ミノファーゲン製薬作成)
【非特許文献2】坂本龍雄:食品添加物と喘息〈亜硫酸塩を中心に〉気道アレルギー‘96メディカルビュー社:p151,1996
【非特許文献3】河野陽一:食物アレルギーの基礎と臨床〈食物のアレルゲン性〉アレルギーの領域:4(6),p741−745,1997
【非特許文献4】道端正孝:ステロイドの自己管理 私の工夫 臨床と薬物治療:16(3),p226−230,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、グリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤の投与に関して、静脈注射等による大量投与時の疼痛及び注射部位の組織肥厚などの患者への負担を少しでも軽減することが望まれていることから、本発明者らは少量投与で薬効が期待でき、かつ安定性及び安全性に優れた高濃度製剤について鋭意研究を行ってきた。
【0006】
本発明における課題は、既存品より有効成分を高濃度で配合し、かつ安定性及び安全性に優れたグリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤を提供することである。単に既存品の配合成分を高濃度にしただけでは、有効成分の分解や沈殿等が生じてしまい、十分な安定性が得られなかった。また、含有された亜硫酸塩による安全性の問題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、既存製品において安定化剤として使用していた亜硫酸ナトリウムを添加しないことで、有効成分を高濃度に配合した場合の安定性が改善され、既存製剤より有効成分を高濃度で含有し、かつ安全性に優れたグリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明医薬組成物は、既存品で安定化剤として使用していた亜硫酸塩を添加しないものであり、これによって高濃度で配合したグリチルリチンの沈殿も生じず、またシステイン含量の減少も低く、安定性が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、グリチルリチン又はその薬理学上許容される塩を有効成分とするグリチルリチン製剤において、上記成分の他にシステイン及びアミノ酢酸を含有し、亜硫酸塩類を含有しないことを特徴とする高濃度のグリチルリチン・アミノ酢酸・システイン配合剤に関する。
【0010】
本発明医薬組成物の有効成分であるグリチルリチンは、甘草から抽出することにより得ることができ、また市販されているものを使用してもよい。グリチルリチンはグリチルリチン酸とも呼ばれており、本発明ではグリチルリチンの薬理学上許容される塩を包含する。薬学上許容される塩としては、酸または塩基との塩、例えば、グリチルリチン酸モノアンモニウム等のアンモニウム塩や、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム等のアルカリ金属塩などを挙げることができる。
【0011】
また、本発明のシステイン及びアミノ酢酸(グリシン)はそれらの薬学的に許容される塩を包含し、例えば塩酸、リンゴ酸等との酸付加塩及びナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、アンモニウム、含窒素有機塩基等との塩基付加塩の両種の塩が包含され、システインの好ましい塩として塩酸塩を挙げることができる。さらに、システイン、アミノ酢酸又はそれらの塩の水和物、例えばシステイン塩酸塩一水和物やアミノ酢酸ナトリウム水和物等も、本発明のシステイン及びアミノ酢酸として包含される。システインについては光学活性体が存在するが、L体又はラセミ体のいずれであってもよく、好ましくはL−システインを用いることができる。
【0012】
本発明医薬組成物の望ましい配合量は、上記既存製剤の4乃至8倍の有効成分含有量、即ち、グリチルリチン8乃至16mg/mL、システイン塩酸塩4乃至8mg/mL(システインとして3乃至6mg/mL)及びアミノ酢酸80乃至160mg/mLである。特に好ましくは、有効成分を最も高濃度で含有する製剤、即ち、グリチルリチン16mg/mL、システイン塩酸塩8mg/mL及びアミノ酢酸160mg/mLを含有する医薬組成物である。なお、上記各濃度(mg/mL)の数値は、第十四改正日本薬局方の通則18の規格値の規定に従った表示であり、小数点第一位を四捨五入した値である。
【0013】
また、本発明医薬組成物は、適当な医薬用の担体若しくは希釈剤と組み合わせて最終的な医薬とすることができ、通常の如何なる方法によっても製剤化できる。例えば、注射剤としては水性溶剤又は非水性溶剤、例えば注射用蒸溜水、生理食塩水、リンゲル液、植物油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸エステル、プロピレングリコール等の溶液若しくは懸濁液とすることができる。処方にあたっては、他の医薬活性成分との配合剤としてもよい。
【実施例1】
【0014】
亜硫酸ナトリウム添加による影響(1)
グリチルリチン酸モノアンモニウム16mg/mL(グリチルリチンとして)、システイン塩酸塩8mg/mL、アミノ酢酸160mg/mLの配合比になるように溶存酸素の少ない水に溶かし、水酸化ナトリウムでpH7.2〜7.5に調整した。さらに、安定化剤として亜硫酸ナトリウムを各々0、2.4、4.0mg/mLの濃度となるように添加した後、窒素で溶存酸素を除去し、濾過滅菌後、アンプルに窒素充填した。これらのアンプルを25℃4年間保存しグリチルリチンの沈殿の状況を観察し、また、これとは別に40℃4ケ月間及び60℃14日間保存した後、システインをHPLCで定量した。このようにして本発明医薬組成物の亜硫酸ナトリウム添加量の差による安定性を測定した結果の一例を表1に示す。
【0015】


【実施例2】
【0016】
亜硫酸ナトリウム添加による影響(2)
上記実施例1と同様に、グリチルリチン酸モノアンモニウム16mg/mL(グリチルリチンとして)、システイン塩酸塩8mg/mL、アミノ酢酸160mg/mLの配合比になるように溶存酸素の少ない水に溶かし、水酸化ナトリウムでpH7.2〜7.5に調整した。さらに、安定化剤として亜硫酸ナトリウムを6.4mg/mLとなるよう添加したものと無添加のものを作製し、また、これらの配合から、システイン塩酸塩の濃度が6mg/mL及び4mg/mLとなるように希釈したものも作製した。各々について、窒素で溶存酸素を除去し、濾過滅菌後、アンプルに窒素充填した。これらのアンプルを60℃14日間保存し、開始時、4日後、7日後、14日後にシステインをHPLCで定量した。このようにして本発明医薬組成物のシステイン塩酸塩の安定性に対する亜硫酸ナトリウム添加による影響を測定した結果の一例を表2に示す。
【0017】


【産業上の利用の可能性】
【0018】
上記表1及び表2に示した結果から明らかなように、亜硫酸ナトリウムの濃度が高いほど、システイン含量の経時的減少が著しかった。また、亜硫酸ナトリウムを添加したものでは、グリチルリチンの沈殿が生じたが、添加しない場合には、高濃度で配合したグリチルリチンの沈殿も生じず、またシステイン含量の減少も低く、安定性が向上した。このように、本発明グリチルリチン濃縮製剤は、従来製剤より有効成分含量が高濃度で、かつ安定性及び安全性に優れており、医薬品としてその有用性は非常に高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン8乃至16mg/mL、システイン3乃至6mg/mL及びアミノ酢酸80乃至160mg/mLを含有する医薬組成物。
【請求項2】
亜硫酸塩類を含有しない請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
グリチルリチンがグリチルリチン酸モノアンモニウムである請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
システインがシステイン塩酸塩である請求項1乃至3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
グリチルリチン16mg/mL、システイン塩酸塩8mg/mL及びアミノ酢酸160mg/mLを含有し、添加物として亜硫酸塩類を含有しない医薬組成物。

【国際公開番号】WO2005/014009
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512629(P2005−512629)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011462
【国際出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000231796)日本臓器製薬株式会社 (23)
【Fターム(参考)】