説明

グリチルレチン酸エステル誘導体の合成方法及びデオキシグリチルレチン酸エステル化合物

下記式IIによって表される化合物、その調製方法並びに肝損傷、炎症などの治療におけるその使用を開示する。グリチルレチン酸誘導体の調製方法をも開示する。式IIによって表される化合物において、R1はH、直鎖若しくは分岐C1-C18アルキルホルミル、直鎖若しくは分岐C1-C18アルケニルホルミル又はアリールホルミルであり、かつR2は直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ又はアリールオキシである。


II

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、グリチルリジン酸から直接グリチルレチン酸(glycyrrhetinic acid)エステルを合成する方法に関し、並びに11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸のエステル化合物及びその調製方法、11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸のエステルを含む医薬組成物、並びに肝損傷及び炎症などの治療分野における該化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
甘草はグリチルリザ・ラジクス・エト・リゾマ(Glycyrrhiza radix et rhizoma)を意味する。その主な薬理学的に活性な物質はグリチルリジン酸とそのアグリコン、グリチルレチン酸である。最近の研究はグリチルレチン酸が抗炎症、抗潰瘍、抗ウイルス(肝炎、HIV等)、脂質低下、腫瘍の予防及び治療などの作用を有することを示した。
グリチルレチン酸は、ヒドロコルチゾンと同様の構造を有する。多くの臨床治験がグリチルレチン酸の抗炎症作用を証明した。Zakirovは、3-アミノ-11-デオキシグリチルレチン酸が種々の動物の無菌性関節炎に対して有意な抗炎症活性を示すことを見い出した。Toyoshimaらは、11-デオキソグリチルレチン酸水素マレアート及びその塩を調製し、抗炎症薬として、また抗潰瘍薬及び免疫調節薬としても使用した(US4448788をも参照されたい)。いくつかの参考文献において、グリチルレチン酸の塩、例えばグリチルレチン酸ナトリウムが抗炎症作用を有することも報告された。
1946年に、Reversは、グリチルリザエ・ラジクセ・トリゾマ(Glycyrrhizae Radixe Trhizoma)の抗潰瘍活性を初めて報告した。科学者らはグリチルレチン酸水素スクシナートの二ナトリウム塩を合成し、前記化合物が胃潰瘍を治癒させ得ることを見い出した(GB843133)。1972年に、フランスのDemandeは、3-アセチル-18β-グリチルレチン酸とそのアルミニウム塩が十二指腸潰瘍及び胃潰瘍の治療で有意な治癒効果をもたらすことを見い出した。加えて、11-デオキシグリチルレチン酸アミド、3-オキソ-アセチルグリチルレチン酸アミド等が潰瘍の治療に有意な効果を及ぼすことをも見い出し、これによって大いに注目を集めた。1985年に、日本のTakizawaらは、グリチルレチン酸がマウス皮膚腫瘍の増殖に阻害作用を及ぼすことを見い出した(Jpn J Cancer Res. 1986, 77 (1) P33-8)。
【0003】
グリチルレチン酸とその誘導体はアルドステロン(aldosterome)(DCA)活性を有するので、臨床業務では副作用を伴うことが多く、例えば、カルベノキソロンナトリウム、グリチルレチン酸製剤は、水貯留、ナトリウム貯留、高血圧及び低カリウムアルカリ中毒をもたらすことがある。John S. Baranらは、11-デオキシグリチルレチン酸は実質的にアルドステロン活性を持たないので、上記副作用を引き起こさないことを見い出した(John S. Baran et al. Journal of Medicinal Chemistry, 1974, Vol.17, (2) P184-191)。これらの副作用を回避するか又は減少させるのみならず、グリチルレチン酸の溶解性及び吸収を改善するため、かつ適切な薬用量を容易に仕立てられるようにするため、国内外の学者がグリチルレチン酸を修飾及び再構築しており、一連のグリチルレチン酸誘導体を合成した(Soo-Jong Um et al. Bioorganic & Medicinal Chemistry 2003, 11, P5345-5352)。グリチルレチン酸誘導体の合成では、グリチルレチン酸は主にグリチルリジン酸から調製され、次にグリチルレチン酸の構造が化学的に修飾及び再構築された。前駆体としてグリチルリジン酸を用いた水熱法によってグリチルレチン酸メチルを合成したと報告された(Liu Wencong, Luo Yunqing, 水熱法によるグリチルレチン酸メチルの合成に関する研究(Studies on the synthesis of methyl glycyrrhetinate by hydrothermal method), Journal of Northeast Normal University: Natural Science Edition, 2007, 39 (4): 154-156)。しかしながら、この方法は、高温高圧で長い反応時間行なわなければならず、かつ設備の需要が高いので、工業生産に適さない。本発明者らは、グリチルリジン酸又はその塩誘導体から直接、一工程だけでグリチルレチン酸エステル誘導体を調製する簡便な方法を発見した。この方法は、まずグリチルレチン酸を得てからさらにそれを修飾するという必要がない。本方法は、低温下で、高圧である必要もなく行なわれ、かつ収率が高く、低コストなので、工業生産に適している。
この簡便な方法に基づいて、本発明者らはさらに、C-11で脱酸素されたグリチルレチン酸のエステル、すなわち11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステルを得た。11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステルは、抗炎症活性、抗潰瘍活性を有するのみならず、副作用が少なく、脂質に良く溶解し、かつ人体内での吸収率が高い、肝損傷の治療活性をも有する。
【発明の概要】
【0004】
(発明の概要)
本発明は、式IIによって表される化合物、すなわち11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステル、その調製方法、及び本化合物を医薬担体と混合することによって形成された組成物、並びに炎症、潰瘍及び肝損傷の治療分野における本化合物の使用に関する。本発明は、グリチルレチン酸エステル誘導体の合成方法にも関する。
本発明は、下記式II:
【0005】
【化1】

II
【0006】
(式中、R1は、H、直鎖若しくは分岐C1-C18アルキルホルミル、直鎖若しくは分岐C1-C18アルケニルホルミル、又はアリールホルミルであり;R2は、直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ、又はアリールオキシであり;C-18はα配置又はβ配置である)
によって表される化合物に関する。
R1は、好ましくはH、直鎖若しくは分岐C1-C6アルキルホルミル、又は直鎖若しくは分岐C1-C6アルケニルホルミル、さらに好ましくはHであり;
R2は、好ましくは直鎖若しくは分岐C1-C6アルコキシ、さらに好ましくはエトキシであり;
C-18は、好ましくはα配置である。
好ましくは、本発明の式IIによって表される化合物は11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルである。
本発明は、式IIによって表される化合物の合成方法をさらに提供する。この方法では、式Iによって表される化合物をC-11の位置で脱酸素して、式IIによって表される、R1が水素である対応化合物を得る。必要な場合、C-3位のヒドロキシルをエステル化して、式IIによって表される対応化合物を得る。
【0007】
【化2】

I
【0008】
式I中、R2は、直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ又はアリールオキシであり、C-18は、α配置又はβ配置である。
脱酸素は、当業者に周知のいずれの還元方法によって行なってもよく、限定するものではないが、クレメンゼン(Clemmensen)還元法、接触水素化法などが挙げられる。クレメンゼン還元法は、亜鉛アマルガムと塩酸を用いてC-11のカルボニルをメチレンに還元する。使用する溶媒はテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンであってよい。接触水素化法は、白金、パラジウム又はその酸化物などのいずの伝統的な触媒をも使用してよく、使用する溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等であってよい。ヒドロキシルのエステル化は、カルボン酸又はカルボン酸無水物との反応によって行ない得る。この反応は、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等の不活性な有機溶媒中で行なってよく、反応温度は、使用するカルボン酸又はカルボン酸無水物に応じて選択し得る。
式Iによって表される化合物は商業的に入手可能であり、或いは本発明で提供する合成方法に従って調製される。
本発明は、下記式I
【0009】
【化3】

I
【0010】
(式中、R2は前記定義どおりである)
の化合物の合成方法を提供する。この方法は、
塩化アシル又は濃縮硫酸などの脱水剤(dehydrant)の存在下で、1種以上のグリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体をアルキルアルコール又はアリールアルコール(R2H)と反応させて式Iのグリチルレチン酸エステルを調製する。グリチルリジン酸塩は、グリチルリジン酸の例えばカリウム、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム又はマグネシウム塩であってよい。
グリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体は商業的に入手可能であり、或いは甘草(Glycyrrhizae)から抽出してグリチルリジン酸を得てから、その塩又は誘導体に変換し得る。中国特許第ZL02111693.8号で開示されている方法を用いた天然のグリチルリジン酸のアルカリ触媒による異性化によって、18α-グリチルリジン酸を得ることができる。
塩化アシルは塩化オキサリル、塩化アセチル又は塩化スルホニル等であってよく、塩化スルホニルは、メチルスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド又はp-トルエンスルホニルクロリド等であってよい。また、1モルのグリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体は1〜20モルの塩化アシル、0.5〜10モルの濃硫酸を必要とする。好ましくは、塩化アシルの量が3〜5モルであり、濃硫酸の量が0.5〜5モルである。
式Iのグリチルレチン酸エステルの合成では、反応を溶媒中で行ない、或いは溶媒として反応に関与する反応性アルコールを採択する。反応の溶媒は、グリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩及び/又はグリチルリジン酸誘導体を溶解させ得る溶媒、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等である。アルキルアルコールが反応に関与すべき低級アルコールである場合、好ましくは溶媒として反応性アルコールを使用する。
特定の実施形態では、式Iのグリチルレチン酸エステルの調製方法は以下の工程:グリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体を無水エタノールに添加してから、濃硫酸又は塩化アシルを添加し、該溶液を加熱して還流させた後、冷却及び結晶化してからろ過し、エタノール/水で精製し、かつ乾燥させて標的化合物を得る工程;或いはグリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩を無水メタノールに添加してから塩化アセチルを添加し、加熱して還流させた後に冷却及び結晶化してからろ過し、エタノール/水で精製し、かつ乾燥させて標的化合物を得る工程を含む。
【0011】
用語「直鎖若しくは分岐C1-C18アルキル」は、単結合を介して分子の他の部分に結合している、炭素原子と水素原子から成る直鎖若しくは分岐した飽和脂肪族炭化水素基を意味する。前記アルキルは1〜18個の炭素原子を有し、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する。アルキル基は、無置換であるか又はハロゲン及びヒドロキシルから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。無置換アルキルの例として、限定するものではないが、メチル、エチル、プロピル、2-プロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-メチルブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、2-メチルヘキシル等が挙げられる。
用語「直鎖若しくは分岐C1-C18アルケニル」は、単結合を介して分子の他の部分に結合している、炭素原子と水素原子からなり、かつ少なくとも1つの不飽和結合を有する直鎖若しくは分岐した不飽和脂肪族炭化水素基を意味する。前記アルケニルは1〜18個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する。アルケニル基は、無置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシル若しくはカルボキシルから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。無置換アルケニルの例として、限定するものではないが、ビニル、プロペニル、プロペン-2-イル、1-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、2-メチルブテニル、1-ヘキセニル、2-メチルヘキセニル等が挙げられる。
用語「アリール」は、完全に共役したπ電子系を含む単一の炭素環又は縮合した複数の炭素環を有する芳香環基(6〜14個の炭素原子、好ましくは6〜12個の炭素原子、最も好ましくは6個の炭素原子を有する)を意味する。アリールは、無置換であるか又はアルキル、アリール、アリールアルキル、アミン、ハロゲン及びヒドロキシルから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。無置換アリールの例として、限定するものではないが、フェニル、ナフチル及びアントラセン基が挙げられる。
【0012】
本発明は、式IIの化合物並びに炎症、潰瘍及び肝損傷の治療における式IIの化合物を含む組成物の1以上の使用をも提供する。
本発明の式IIの化合物を単独で投与することができる。一般的に、式IIによって表される少なくとも1種の化合物を活性成分として含み、かつさらに1種以上の医薬的に許容できる担体を含む医薬製剤に本化合物を仕立てなければならない。これらの担体は、投与様式に応じて異なるであろう。本発明によって表される化合物を含む製剤を局所又は全身投与することができ、経口、直腸、鼻腔内、舌下、経皮、膣内投与などが挙げられる。
経口組成物は固体、ゲル又は液体であってよい。固体製剤の例として、限定するものではないが、錠剤、カプセル剤、顆粒剤及びバルク散剤が挙げられる。これらの製剤は、任意に結合剤、希釈剤、崩壊剤、潤沢剤、流動剤、甘味料及び/又は香味料を含んでよい。
本発明は、少なくとも1種の上記活性成分と、少なくとも1種の獣医用担体とを含む獣医用組成物をも提供する。獣医用担体は、ウシ、ウマ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ、ウサギ又は他の動物に投与できる物質であってよく、獣医学分野で許容可能かつ活性成分と適合可能な固体、液体又は気体物質であってよい。獣医用組成物は、経口、非経口などで投与し得る。
【0013】
本発明者らは、簡便な方法でグリチルレチン酸エステルを合成し、特に11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステルを合成する。11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステルは抗炎症、抗潰瘍活性を有し、かつ肝損傷を治療し、肝細胞壊死を阻害し、また肝臓を損傷から保護するために使用できるので、肝臓疾患の治療、特に少ない副作用、脂質での良い溶解性、容易な吸収、高い利用率で急性肝損傷及び薬物誘発肝損傷を治療する見込みがある。グリチルリジン及びグリチルリジン酸二アンモニウムと比較して、11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エステルは高いバイオアベイラビリティー及びトランスアミナーゼを減少させる有意な作用を有する。
実施例6は、本発明の式IIによって表される化合物が抗炎症作用を有することを示す。
実施例7及び8は、本発明の式IIによって表される化合物が薬物誘発肝損傷を治療する作用を有することを示す。
表1及び2は、本発明の式IIによって表される化合物、特に好ましい化合物が、D-Galn誘発肝損傷に効果を及ぼし、かつ血清中トランスアミナーゼの上昇を効率的に阻害し、この効果がグリチルリジン及びグリチルリジン酸二アンモニウムの効果より良いことを示す。特に、経口投与が良い効果をもたらす。
表3及び4は、本発明の式IIによって表される化合物、特に好ましい化合物が、TAA誘発肝損傷に効果を及ぼし、かつ血清中トランスアミナーゼの上昇を効率的に阻害し、この効果がグリチルリジン酸二アンモニウム効果より良いことを示す。本化合物は、肝細胞壊死を阻害することもでき、その効果はグリチルリジン酸二アンモニウムの効果より良い。
本発明は、出発原料としてグリチルリジン酸又はその誘導体を用いる簡便な方法によって、高収率で直接グリチルレチン酸エステルを合成し、さらに11-デオキシグリチルレチン酸エステルを得る。それは甘草(Glycyrrhiza)をフルに活用し、資源の浪費を減らす。
本発明を説明する目的のため、以下の実施例を与えるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0014】
(実施例)
以下の具体的実施例で使用する試薬は分析的に純粋なグレードである。
装置:赤外分光法は、PE Corporationのフーリエ変換赤外分光法のスペクトル及びKBrペレットを使用する。1H NMR、13C-NMRスペクトルは、BRUKER AV-500核磁気共鳴分光計を使用し、溶媒としてCDCl3、また内部標準としてTSMを使用する。
実施例1:18β-グリチルレチン酸メチルの合成
方法1:10gの18β-グリチルリジン酸を100mlの無水メタノールに添加してからその中に5mlの塩化アセチルを加えた。反応混合物を加熱して2時間還流させてからその中に100mlの水を加えた。混合物を冷まして結晶させて固体を得、それをろ過した。結果物をエタノール/水で精製し、乾燥させて表題化合物を82%の収率で得た。
方法2:20gの18β-グリチルリジン酸モノアンモニウムを100mlの無水メタノールに添加してからその中に10mlの塩化アセチルを加えた。反応混合物を加熱して2時間還流させると、混合物が褐色に変わった。その中に200mlの水を加えた。混合物を冷まして結晶させて固体を得、それをろ過した。結果物をエタノール/水で精製し、乾燥させて表題化合物を79%の収率で得た。
IR:νas (-OH) 3387cm-1, νas (-COOCH3) 1725cm-1, νas(=O) 1657, 1621cm-1, νas (Aゾーン) 1387, 1361cm-1, νas (Bゾーン) 1322, 1278, 1246cm-1
【0015】
実施例2:18α-グリチルレチン酸エチルの合成
方法1:10gの18α-グリチルリジン酸を100mlの無水エタノールに添加してからその中に5mlの塩化アセチルを加えた。反応混合物を加熱して2時間還流させてからその中に100mlの水を加えた。混合物を冷まして結晶させて固体を得、それをろ過した。結果物を80%のエタノールで精製し、乾燥させて表題化合物を85%の収率で得た。
方法2:10gの18α-グリチルリジン酸を100mlの無水エタノールに添加してからその中に1mlの濃硫酸を加えた。反応混合物を加熱して8時間還流させてからその中に100mlの水を加えた。混合物を冷まして結晶させて固体を得、それをろ過した。結果物をエタノール/水で精製し、乾燥させて表題化合物を82%の収率で得た。
1H-NMR (ppm):0.72 (s, 3H), 0.81(s, 3H), 1.00(s, 3H), 1.14 (s, 3H), 1.20 (s, 3H), 1.22 (s, 3H), 1.26 (t, 3H), 1.35 (s, 3H), 4.14 (q, 2H), 5.57 (s, 1H)。
13C-NMR (ppm):14.13, 15.62, 15.94, 16.47, 17.54, 18.49, 20.65, 20.75, 26.65, 27.22, 28.07, 28.40, 31.70, 33.75, 35.45, 35.97, 36.84, 37.60, 39.02, 39.09, 40.37, 42.39, 43.80, 44.89, 54.99, 60.42, 60.66, 78.70, 124.08, 165.64, 178.20, 199.74。
【0016】
実施例3:11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの合成
11gの18α-グリチルレチン酸エチルと6gの亜鉛末を150mlの1,4-ジオキサンに添加した後、その中に少量の水を加えて塩化水素ガスを泡立てた。反応混合物を5時間撹拌してからろ過した。母液を蒸発させて残留物に50mlの水と100mlの酢酸エチルを添加した。混合物を撹拌して相を分けた。有機相を水で洗浄し、蒸発乾固させ、粗生成物をエタノール/水で精製して8.6gの白色結晶を得た。
IR:νas (-OH)3374cm-1, νas (-COOCH3)1727cm-1, νas (Aゾーン)1382 cm-1, νas (Bゾーン) 1300, 1278cm-1
1H-NMR:(ppm) 0.66 (s, 3H), 0.79 (s, 3H), 0.96 (s, 3H), 0.99 (s, 3H), 1.00 (s, 3H), 1.15 (s, 3H), 1.22 (s, 3H), 1.25 (t, 3H), 4.12 (q, 2H), 5.18 (t, 1H)。
13C-NMR (ppm):14.19, 15.24, 15.69, 15.83, 17.44, 18.30, 20.93, 23.17, 26.28, 27.27, 28.14, 28.73, 32.38, 34.15, 34.96, 36.07, 36.86, 38.11, 38.76, 38.86, 39.46, 39.55, 42.70, 43.67, 47.24, 55.31, 60.20, 79.02, 117.55, 142.09, 179.03。
【0017】
実施例4:D-Galn誘発急性肝損傷マウスモデルに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの治療効果
1. D-Galn誘発急性肝損傷のICR雄性マウスモデルに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル及び化合物グリチルリジン注射の治療効果の比較
方法:60匹のICR雄性マウスをランダムに各群10匹のマウスの6群:モデル群、化合物グリチルリジン注射群(60mg/kg)、化合物グリチルリジン胃注入群(240mg/kg)、高用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(240mg/kg)、中用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(120mg/kg)、低用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(60mg/kg)に分けた。6日間毎日マウスに腹腔内注射又は胃注入で10ml/kg投与した。モデル群のマウスには等量の0.5%CMC-Naを胃注入で投与した。結果を下表に示す。
【0018】
表1. D-Galn誘発急性肝損傷マウスモデルに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの治療効果

モデル群と比較した場合 *p<0.05、**p<0.01;
【0019】
60匹のICR雄性マウスをランダムに各群10匹のマウスの6群:モデル群、グリチルリジン酸二アンモニウム原料群(240mg/kg)、グリチルリジン酸二アンモニウム注射群(60mg/kg)、高用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(240mg/kg)、中用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(120mg/kg)、低用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(60mg/kg)に分けた。マウスに7日間連続投与した。モデル群のマウスには等量の0.5%CMC-Naを投与した。結果を下表に示す。
【0020】
表2. D-Galn誘発急性肝損傷マウスモデルに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの治療効果

モデル群と比較した場合 *p<0.05、**p<0.01
【0021】
実施例5:TAA誘発急性肝損傷マウスモデルに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの治療効果
50匹のICR雄性マウスをランダムに各群10匹のマウスの5群:モデル群、グリチルリジン酸二アンモニウム群(240mg/kg)、高用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(240mg/kg)、中用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(120mg/kg)、及び低用量の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群(60mg/kg)に分けた。モデル群のマウスには等量の0.5%CMC-NaをIGによって投与した。結果を下表に示す。
【0022】
表3. TAA誘発急性肝損傷マウスモデルの血清中トランスアミナーゼに及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの効果

モデル群と比較した場合 *p<0.05、**p<0.01
【0023】
表4. TAA誘発急性肝損傷マウスモデルの肝細胞壊死に及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの効果

モデル群と比較した場合 *p<0.05、**p<0.01
【0024】
実施例6:11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの抗炎症作用
カラギーナンを注射することによってラット足浮腫を誘発し、腫脹を観察して抗炎症作用を評価した。この場合、
(1)材料
動物:雄性SDラット、150〜180g;
炎症薬:カラギーナン;
試験薬:11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルを1%CMC-Naに溶かして所望濃度を得;
ポジティブコントロール薬:インドメタシンを1%CMC-Naに溶かして所望濃度を得た。
(2)方法
50匹のラットをランダムに各群10匹のラットの5群:モデル群、ポジティブコントロール群(インドメタシンを10mg/kg投与する)、種々の用量の試験薬群(30、60、120mg/kg)に分けた。各群の動物に3日間連続投与した。最後の投与前に、マイクロピペット法でラットの左後足の体積を測定した。次に胃注入によって試験薬又はCMC-Naを動物に投与した。1時間後、新たに調製したカラギーナンを、0.25mlの注射器と4号針を用いて薬用量0.05ml/足に従ってラットの左後足に皮下注射した。投与後1、3、4、5及び7時間の時点で、上記方法でラットの左後足の体積を各点2回測定し、平均値を計算した。これらの値の投与前後の差異を腫脹度と称した。
(3)統計解析
データを
【数1】

として表した。2つのサンプルの平均のT検定を利用して各群の実験データを比較した。P<0.05又はP<0.01を統計的に有意であるとみなした。
(4)結果
カラギーナン皮下注射1時間後で、ラットの足が有意に腫れた。表5は、試験薬の種々の用量群が、カラギーナンによって誘発されたラット足の腫脹を4時間後に阻害し始めたことを示している。
【0025】
表5:カラギーナン誘発ラット足腫脹に及ぼす化合物の効果(N=10)

モデル群と比較した場合 *p<0.05、**p<0.01;
【0026】
(5)結論
結果は、本発明によって表される化合物は、カラギーナンによって誘発されたラットの足の腫脹を効率的に阻害し、炎症性滲出液を減少させ、かつ有意な抗炎症作用を有し得ることを示している。
【0027】
実施例7:BCG+LPS誘発肝損傷に及ぼす11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルの予防効果
(1)試験薬、実験動物及び機器
1.1 薬物
11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル:伝統中国医学研究所、Jiangsu Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Co. Ltd.のR&Dセンター提供。聯本双脂滴丸(Bifendate pills):Beijing Union Pharmaceutical工場製。ヒトの1日の薬用量は45mgであり、ポジティブコントロール薬として使用した。実験の要求に応じて生理食塩水で全ての医薬を適切な濃度に調製した。
カルメット・ゲラン菌(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG):Shanghai Institute of biological productsの製品。リポポリサッカリド(LPS):Sigma, United Statesの製品。AST、ALTキット:Nanjing Jianchengバイオエンジニアリング研究所の製品。
1.2 動物
China Medicine Universityの実験動物センターから購入したKunmingマウス。マウスの胃注入用医薬の体積は0.25ml/10gだった。
1.3 機器
紫外分光光度計UV-265。
(3)方法
60匹の18〜22gのKunming雄性マウスをランダムに重さに応じて6群:正常コントロール群、モデルコントロール群、聯本双脂滴丸コントロール群、種々の用量(240、120、60mg/kg)の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群に分けた。3日間動物を適応飼育した後、正常コントロール群の動物以外の各マウスに尾静脈を介して5×107個のBCG生細菌を注射した。2日目に、各群の動物に胃注入によって生理食塩水(正常コントロール群及びモデルコントロール群)又は試験薬を7日間投与した。最後の胃注入の1時間後、正常コントロール群の動物以外の各マウスに尾静脈を介して10μgのLPSを投与した。正常コントロール群の動物には等量の生理食塩水を投与した。モデルを確立した後、一晩12時間、動物を絶食させ、水は自由に飲ませ、眼窩出血によって採血した。血液を2500rpmで15分間遠心分離機にかけて血清を分離し、血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を測定した。そして群のT検定を行なった(表6参照)。
【0028】

注:正常コントロール群と比較した場合#P<0.05;モデルコントロール群と比較した場合*P<0.05;
【0029】
(4)結果
結果は、本発明の式IIによって表される化合物、特に11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルが肝臓を保護し、また酵素活性を低減させる良い活性を有し、かつ免疫性因子誘発肝細胞損傷を効率的に治療できることを示している。
【0030】
実施例8:アセトアミノフェン誘発肝損傷マウスに及ぼす本発明の式IIによって表される化合物の保護効果
(1)材料:
11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル:伝統中国医学研究所、Jiangsu Chia Tai Tianqing Pharmaceutical Co., Ltd.のR&Dセンター提供。聯本双脂滴丸:Beijing Union Pharmaceutical工場製。ヒトの1日の薬用量は45mgであり、ポジティブコントロール薬として使用した。アセトアミノフェン:Jinzhou生化学薬品工場製。実験の要求に応じて生理食塩水で全ての薬物を適切な濃度に調製した。AST、ALTキット:Nanjing Jianchengバイオエンジニアリング研究所の製品。
(2)方法
60匹のマウスをランダムに6群:正常コントロール群、聯本双脂滴丸群(ポジティブ薬群)、モデルコントロール群、種々の用量(240、120、60mg/kg)の11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチル群に分けた。3日間動物を適応飼育した後、各群の動物に胃注入によって薬物を10日間投与した(1回/日)。正常コントロール群及びモデル群の動物には0.2ml/マウスの生理食塩水を投与した。最後の投与6時間後、正常コントロール群の動物以外の各群の動物に400mg/kgのアセトアミノフェンを腹腔内注射した。12時間後、眼窩出血によって採血した。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の活性を測定した。そして群のT検定を行なった(表7参照)。
【0031】

注:正常コントロール群と比較した場合#P<0.05;モデルコントロール群と比較した場合*P<0.05;
【0032】
(2)結果
アセトアミノフェン誘発肝損傷の主因は、体内でP450酵素系によって大量のアセトアミノフェンが代謝され、かつ過剰量のN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が生成され、これが肝臓グルタチオン(GSH)の枯渇につながり、かつNAPQIと肝細胞の巨大分子(例えばタンパク質)が共有結合し、それによって肝細胞壊死をもたらすことである。実験結果は、本発明の式IIによって表される化合物、特に11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルがAST、ALTを減少させ、かつアセトアミノフェン誘発肝細胞損傷に対して効率的に保護することができ、薬物誘発肝損傷の治療のために使用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式IIの化合物。
【化1】

II
(式中、R1は、H、直鎖若しくは分岐C1-C18アルキルホルミル、直鎖若しくは分岐C1-C18アルケニルホルミル、又はアリールアシルであり;R2は、直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ又はアリールオキシであり;C-18はα配置を有し;好ましくは、R1がH、直鎖若しくは分岐C1-C6アルキルホルミル、又は直鎖若しくは分岐C1-C6アルケニルホルミルであり;好ましくはR2が直鎖若しくは分岐C1-C6アルコキシである)
【請求項2】
11-デオキシ-18α-グリチルレチン酸エチルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式I
【化2】

I
(式中、R2は、直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ又はアリールオキシ、好ましくは直鎖若しくは分岐C1-C6アルコキシであり;C-18はα配置又はβ配置を有する)
の化合物の調製方法であって、
脱水剤の存在下、R2Hを1種以上のグリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体と反応させ、好ましくは、前記脱水剤が塩化アシル又は濃硫酸であり、かつ塩化アシルが好ましくはメチルスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド又はp-トルエンスルホニルクロリドである、
前記方法。
【請求項4】
グリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体の量と、塩化アシルの量の比が、モルで1:1〜20であり;グリチルリジン酸、グリチルリジン酸塩又はグリチルリジン酸誘導体の量と、濃硫酸の量の比が、モルで1:0.5〜10である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物の調製方法であって、以下の工程:
下記式I
【化3】

I
(式中、R2は、直鎖若しくは分岐C1-C18アルコキシ又はアリールオキシ、好ましくは直鎖若しくは分岐C1-C6アルコキシである)
によって表される化合物(有機溶媒中で、C-18がα配置を有し、かつ
必要に応じて任意にC-3のヒドロキシルがエステル化されていてもよい)
を脱酸素する工程を含む方法。
【請求項6】
前記脱酸素をクレメンゼン還元法又は接触水素化法によって行なう、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の化合物を活性成分として使用し、かつ1種以上の医薬的に許容できる担体をさらに含む、医薬組成物。
【請求項8】
請求項1若しくは2に記載の化合物又は請求項7に記載の組成物の、炎症及び/又は肝損傷の治療用薬物の調製における使用。
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載の化合物又は請求項7に記載の組成物の、炎症及び/又は肝損傷の治療のための使用。
【請求項10】
前記肝損傷が薬物誘発肝損傷である、請求項9に記載の使用。

【公表番号】特表2012−528801(P2012−528801A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513459(P2012−513459)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/CN2010/073339
【国際公開番号】WO2010/139253
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511290639)チャンスー チア−タイ ティアンチン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】