説明

グリース組成物

【課題】 増ちょう剤である芳香族ジウレア化合物による高温特性を維持しつつ回転トルクを低減する。
【解決手段】 芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとが質量比で8:2〜4:6の範囲で混合されてなる増ちょう剤を用い、JIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とする場合には増ちょう剤を総量で多くとも18質量%の範囲で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受けなどに用いられるグリース組成物に関し、詳しくは耐熱長寿命と低トルク性とが両立した転がり軸受けを提供できるグリース組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエアコン用電磁クラッチ、モータ、オルタネータなどの電装部品には、転がり軸受けが使用されている。転がり軸受けには潤滑剤として基油と増ちょう剤とを主成分とするグリースが用いられている。転がり軸受けなどに用いられるグリースにおける増ちょう剤としては、脂肪族ジウレア化合物、芳香族ジウレア化合物、リチウムコンプレックス石けんが代表的なものである。
【0003】
これらの増ちょう剤のうちリチウムコンプレックス石けんを用いたグリースは、「トライポロジスト」第37巻,第9号,1992,708〜714あるいは月刊「潤滑経済」7月号,2004,13〜17に記載されているように、以前は電装・補機軸受け用として使われていたが、高温下での使用は厳しいことが報告されている。
【0004】
また脂肪族ジウレア化合物を増ちょう剤として用いたグリースは、上記した「トライポロジスト」第37巻,第9号,1992,708〜714に記載されているように、芳香族ジウレア化合物を用いたグリースに比べて劣化速度が速いという問題がある。そこで近年では、転がり軸受けなどに用いられるグリースの増ちょう剤として、耐熱性に優れた芳香族ジウレア化合物が広く用いられている。
【0005】
例えば特開2000−044977号公報、特許第2557597号公報、特許第3330755号公報には、増ちょう剤として一般式R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3で示される芳香族ジウレア化合物を用いたグリース組成物が提案されている。芳香族ジウレア化合物を増ちょう剤として用いることで、高温条件における焼付き寿命を長くすることができ、耐熱長寿命とすることができる。
【0006】
一方、車体のコンパクト化、高出力化あるいは低燃費化の要求に伴い、近年のハイブリッド車に用いられる電気モータ用軸受けを初めとする各種モータ用軸受け、アクスルのホイールハブユニット軸受けなどには、耐熱長寿命に加えて回転時の低トルク化が求められている。
【0007】
ところが芳香族ジウレア化合物を増ちょう剤として用いたグリースにおいては、例えばELGI(EURO GREASE,November/December,1997,25〜40)に記載されているように、所定のちょう度とするためには、脂肪族ジウレア化合物に比べて芳香族ジウレア化合物の配合量を多くする必要があった。この理由は、芳香族ジウレア化合物の粒子形状にあると考えられている。すなわち脂肪族ジウレアは繊維状で表面積が大きいため少量で多くの油を保持できるのに対し、芳香族ジウレアは針状粒子であるため表面積が小さく油を保持する能力が低いためと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−044977号公報
【特許文献2】特許第2557597号公報
【特許文献3】特許第3330755号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「トライポロジスト」第37巻,第9号,1992,708〜714
【非特許文献2】月刊「潤滑経済」7月号,2004,13〜17
【非特許文献3】ELGI(EURO GREASE,November/December,1997,25〜40)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、増ちょう剤である芳香族ジウレア化合物による高温特性を維持しつつ回転トルクを低減したグリース組成物とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明のグリース組成物の特徴は、鉱油及び合成油の中から選ばれる少なくとも一種からなる基油と、12ヒドロキシステアリン酸及びアゼライン酸から形成されるリチウムコンプレックス石けんと一般式(1)で表される芳香族ジウレア化合物との混合物からなる増ちょう剤と、を含むグリース組成物であって、
増ちょう剤は芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとが質量比で8:2〜4:6の範囲で混合されてなり、JIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とする場合には増ちょう剤を総量で多くとも18質量%の範囲で含有することを特徴とするグリース組成物。
【0012】
一般式(1) R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3
(式中、R1及びR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基)
リチウムコンプレックス石けんの製造時における12ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸との質量比は、2:1であることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリース組成物は、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとが質量比で8:2〜4:6の範囲で混合されてなる増ちょう剤を用いている。このグリース組成物によれば、理由は不明であるが、増ちょう剤を総量で多くとも18質量%の範囲で含有することでJIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とすることができ、しかも芳香族ジウレア化合物による高温特性が損なわれないことが明らかとなった。
【0014】
すなわち芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの混合比率を上記範囲とし、かつJIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とする場合には増ちょう剤の総量を多くとも18質量%とすることで、耐熱長寿命と低トルク化を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のグリース組成物に用いられる基油は、鉱油及び合成油の中から選ばれる少なくとも一種からなる。合成油としては、ポリオールエステル油、ジペンタエリスリトールエステル油などのエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテルなどのエーテル系合成油、ポリαオレフィンなどの合成炭化水素油、あるいは炭酸エステル化合物などを用いることができる。
【0016】
本発明のグリース組成物に用いられる増ちょう剤は、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとから主として構成される。芳香族ジウレア化合物は、一般式(1) R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3で表される。一般式(1)中、R1及びR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基を示し、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を示す。R1とR3は同一でもよいし異種でもよい。
【0017】
R1及びR3で示される炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、t-ブチルフェニル基などが挙げられる。またR2で示される炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基としては、次式に示す二価の基が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
上記した芳香族ジウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネートなどが例示される。またモノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミンなどが例示される。
【0020】
リチウムコンプレックス石けんは、12ヒドロキシステアリン酸及びアゼライン酸と水酸化リチウムとの反応によって形成されたものが用いられる。12ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸との質量比は1.6:1〜2.8:1の範囲とすることができるが、12ヒドロキシステアリン酸の質量比が多すぎると滴点が低下し、アゼライン酸の質量比が多すぎると増ちょう能力が低下する場合があるので、2:1であることが望ましい。
【0021】
本発明のグリース組成物に用いられる増ちょう剤は、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとが質量比で8:2〜4:6の範囲で混合されてなる。芳香族ジウレア化合物の量がこの範囲より少ないと耐熱性が低下し耐熱寿命が短くなってしまう。また芳香族ジウレア化合物の量がこの範囲を超えると、所定のちょう度とするために必要な増ちょう剤の総量が増大し、回転トルクが高くなってしまう。
【0022】
なお特性を損なわない範囲であれば、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんに加えて脂肪族ジウレア化合物、脂環式ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、金属せっけん、有機ベントナイトなど他の増ちょう剤を用いてもよい。しかし本発明のグリース組成物においては、増ちょう剤の総量を多くとも18質量%とする。18質量%を超えて配合すると、回転トルクが高くなってしまう。18質量%以下の配合量とすることで、耐熱長寿命と低トルク化が両立できる。配合量の下限は、目的とするちょう度に応じて決められる。
【0023】
また本発明のグリース組成物には、上記成分に加えて、アミン系,フェノール系などの酸化防止剤、塩素系,硫黄系,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデンなどの極圧剤、二硫化モリブデン,メラミンとシアヌル酸の不可物(MCA)などの固体潤滑剤、石油スルホネート,ジノニルナフタレンスルホネート,ソルビタンエステルなどの錆止め剤、ポリメタクリレート,ポリイソブチレン,ポリスチレン,ポリブテンなどの粘度指数向上剤などを含有することができる。
【0024】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0025】
<ウレアグリースの調製>
基油としてパラフィン系の鉱油(40℃の動粘度:98.9mm2/秒)を用い、基油中にMDI(4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート)とp-トルイジンを所定比率で混合し、加熱しながら撹拌して反応させウレアグリースを調製した。ウレアグリース中における芳香族ジウレア化合物の含有量は20質量%である。
【0026】
<リチウムコンプレックスグリースの調製>
同様の基油中に12ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸とを混合(質量比で12ヒドロキシステアリン酸/アゼライン酸=2/1)し、そこへ水酸化リチウムを混合して加熱しながら撹拌して反応させ、リチウムコンプレックスグリースを調製した。リチウムコンプレックスグリース中におけるリチウムコンプレックス石けんの含有量は10.5質量%である。
【0027】
<実施例1のグリース組成物の調製>
ウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が6:4となるように混合し、さらに同様の基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は16.2質量%であり、基油量は83.8質量%であった。
【0028】
<軸受け潤滑試験[高温特性の評価]>
ASTM D 3336に準拠し、表1に示す試験条件にて焼付き寿命を測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
焼付き寿命が300時間以上を◎、150時間以上〜300時間未満を○、50時間以上〜150未満を△、50時間未満を×と評価し、結果を表3に示す。◎及び○を合格とする。
【0031】
<トルク試験>
表2に示す試験条件にて回転駆動し、試験開始後5分後における回転トルクを測定した。
【0032】
【表2】

【0033】
回転トルクが1.96mN・m未満を◎、1.96mN・m以上〜2.94mN・m未満を○、2.94mN・m以上〜4.90mN・m未満を△、4.90mN・m以上を×と評価し、結果を表3に示す。◎及び○を合格とする。
【実施例2】
【0034】
基油としてポリαオレフィン(40℃の動粘度:102mm2/秒)からなる合成炭化水素油を用いたこと以外は実施例1と同様にしてウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースを調製した。次いでウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が6:4となるように混合し、さらに同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は16.2質量%であった。
【0035】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
【実施例3】
【0036】
基油としてアルキルジフェニルエーテル油(40℃の動粘度:103mm2/秒)からなるエーテル系合成油を用いたこと以外は実施例1と同様にしてウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースを調製した。次いでウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が7:3となるように混合し、さらに同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は17.2質量%であった。
【0037】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
【実施例4】
【0038】
基油としてペンタエリスリトールエステル油(40℃の動粘度:102mm2/秒)からなるエステル系合成油を用いたこと以外は実施例1と同様にしてウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースを調製した。次いでウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が7:3となるように混合し、さらに同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は17.2質量%であった。
【0039】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
【実施例5】
【0040】
実施例1と同様に調製されたウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が4:6となるように混合し、さらに実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は17.2質量%であった。
【0041】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
【実施例6】
【0042】
実施例2と同様の合成炭化水素油43.8質量部と、実施例3と同様のエーテル系合成油40質量部と、の混合物からなる基油を用いたこと以外は実施例1と同様にしてウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースを調製した。次いでウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が6:4となるように混合し、さらに同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は16.2質量%であった。
【0043】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
【実施例7】
【0044】
実施例1と同様に調製されたウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が8:2となるように混合し、さらに実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は18.0質量%であった。
【0045】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表3に示す。
[比較例1]
実施例1と同様に調製されたウレアグリースのみを用い、実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物の含有量は20.0質量%であった。
【0046】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例2]
実施例1と同様に調製されたリチウムコンプレックスグリースのみを用い、実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときのリチウムコンプレックス石けんの含有量は10.5質量%であった。
【0047】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例3]
実施例1と同様の基油を用い、基油中にステアリン酸と水酸化リチウムを所定比率で混合し、加熱しながら撹拌して反応させリチウムグリースを調製した。このリチウムグリースのみを用い、実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときのリチウム石けんの含有量は8.0質量%であった。
【0048】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例4]
実施例2と同様に調製されたウレアグリースのみを用い、実施例2と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物の含有量は20.0質量%であった。
【0049】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例5]
実施例3と同様に調製されたリチウムコンプレックスグリースのみを用い、実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときのリチウムコンプレックス石けんの含有量は10.5質量%であった。
【0050】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例6]
実施例3と同様に調製されたウレアグリースのみを用い、実施例3と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物の含有量は20.0質量%であった。
【0051】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例7]
実施例1と同様に調製されたウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が3:7となるように混合し、さらに実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は13.4質量%であった。
【0052】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例8]
実施例1と同様に調製されたウレアグリースとリチウムコンプレックスグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの質量比が9:1となるように混合し、さらに実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとの合計量は19.0質量%であった。
【0053】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
[比較例9]
実施例1と同様に調製されたウレアグリースと、比較例3と同様に調製されたリチウムグリースとを、芳香族ジウレア化合物とリチウム石けんとの質量比が7:3となるように混合し、さらに実施例1と同じ基油を混合して三本ロールミルにて均質分散した。基油の混合量は、得られたグリース組成物の混和ちょう度がJIS K2220に規定される300となるようにし、そのときの芳香族ジウレア化合物とリチウム石けんとの合計量は16.4質量%であった。
【0054】
得られたグリース組成物を用い、実施例1と同様に軸受け潤滑試験とトルク試験とを行った結果を表4に示す。
【0055】
<評価>
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3及び表4から、総増ちょう剤量が18.0質量%を超えると回転トルクが増大していることから、JIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とする場合には増ちょう剤の総量は多くとも18.0質量%とする必要があることがわかる。
【0059】
そして実施例1,5,7と比較例1,2,7,8との比較から、芳香族ジウレア化合物とリチウムコンプレックス石けんとを質量比で8:2〜4:6の範囲で含むことにより、耐熱長寿命と低トルク化が両立することが明らかである。
【0060】
また実施例1〜4及び実施例6の結果より、基油の種類に関わらず本発明の効果が発現されていることがわかり、比較例9のようにリチウムコンプレックス石けんに代えてリチウム石けんを用いて芳香族ジウレア化合物と組み合わせても、本発明の効果は発現されないこともわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のグリース組成物は、軸受け用ばかりでなく種々の分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油の中から選ばれる少なくとも一種からなる基油と、12ヒドロキシステアリン酸及びアゼライン酸から形成されるリチウムコンプレックス石けんと一般式(1)で表される芳香族ジウレア化合物との混合物からなる増ちょう剤と、を含むグリース組成物であって、
該増ちょう剤は該芳香族ジウレア化合物と該リチウムコンプレックス石けんとが質量比で8:2〜4:6の範囲で混合されてなり、
JIS K2220に規定される混和ちょう度を 300とする場合には増ちょう剤を総量で多くとも18質量%の範囲で含有することを特徴とするグリース組成物。
一般式(1) R1−NHCONH−R2−NHCONH−R3
(式中、R1及びR3は炭素数6〜12の芳香族系炭化水素基、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記リチウムコンプレックス石けんの製造時における12ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸との質量比が2:1である請求項1に記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2011−1398(P2011−1398A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143327(P2009−143327)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】