説明

グリーン成形体及びハニカム構造体の製造方法

【課題】 ハニカム構造体の気孔率を容易に制御することが可能なグリーン成形体を提供すること。
【解決手段】 互いに略平行な複数の貫通孔70aが形成されたハニカム状の柱状体70からなるグリーン成形体であって、柱状体70がセラミックス原料粉末及びフッ素源を含み、セラミックス原料粉末が、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックス及びコージェライト系セラミックスの少なくとも一方を形成するものである、グリーン成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーン(green)成形体及びハニカム(honeycomb)構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コージェライト(cordierite)、チタン酸アルミニウムなどのセラミックスは、近年、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
このようなセラミックスの製造方法としては、セラミックス原料を成形し、焼成する方法が知られている。また、セラミックスを製造するための原料混合物として、セラミックス原料の他に、更に、有機バインダ、造孔剤(pore−forming agent)などの有機添加物を含むものを用い、この原料混合物を成形したグリーン成形体(未焼成成形体)を焼成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−524451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、焼成後のハニカム構造体の気孔率の制御が容易ではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、ハニカム構造体の気孔率を容易に制御することが可能なグリーン成形体、及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、互いに略平行な複数の貫通孔が形成されたハニカム状の柱状体からなるグリーン成形体であって、上記柱状体がセラミックス原料粉末及びフッ素源を含み、上記セラミックス原料粉末が、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックス及びコージェライト系セラミックスの少なくとも一方を形成するものである、グリーン成形体を提供する。
【0008】
上記グリーン成形体によれば、フッ素源を含むことにより、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックス及びコージェライト系セラミックスの少なくとも一方で構成されるハニカム構造体を製造する際に、得られるハニカム構造体の気孔率を容易に制御することができる。より具体的には、ハニカム構造体は、排ガス中の微細粒子の捕集性等のフィルターとしての機能と、ハニカム構造体の強度とを両立する観点から、適度な気孔率(例えば40〜50体積%)を有していることが好ましい。この気孔率は、セラミックスの焼結が進行するほど、ハニカム構造体が焼結収縮するため、低下することとなる。一般的に、焼成温度が低い場合、セラミックスの焼結が不十分で連結した気孔(貫通孔)が形成されにくく、気孔率が大きくなり過ぎる。そのため、従来は、適度な貫通孔と適度な気孔率を有するハニカム構造体を得るためには、焼成温度を高くする必要があった。これに対し、本発明のグリーン成形体は、フッ素源を含むことによって、フッ素源を含まない場合と比較して、セラミックスの焼結の進行を早めることができる。そのため、従来よりも低い焼成温度で適度な貫通孔と適度な気孔率を有するハニカム構造体を得ることができ、簡易な設備でセラミックスハニカム構造体の気孔率を容易に制御することが可能となる。更に、ハニカム構造体は、排ガス中の微細粒子の捕集性等のフィルターとしての機能と、ハニカム構造体の強度とを両立する観点から、適度な平均細孔径(例えば12〜18μm)を有していることが好ましいが、本発明のグリーン成形体を用いることで、平均細孔径も適度な範囲に容易に制御することが可能となる。
【0009】
上記柱状体は、さらに造孔剤を含むことが好ましい。また、上記柱状体は、さらに有機バインダを含むことが好ましい。
【0010】
上記柱状体における無機原料中のフッ素含有量は、20質量ppm以上であることが好ましい。柱状体における無機原料中のフッ素含有量が20質量ppm以上であることにより、グリーン成形体を焼成してハニカム構造体を製造する際に、セラミックスの焼結を十分に促進することができ、ハニカム構造体の気孔率をより容易に制御することが可能となる。また、焼成時の焼成温度をより下げることが可能となる。
【0011】
本発明はまた、上記本発明のグリーン成形体を焼成する焼成工程を有する、ハニカム構造体の製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、気孔率が制御されたハニカム構造体を、簡易な設備で効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハニカム構造体の気孔率を容易に制御することが可能なグリーン成形体、及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施形態に係るグリーン成形体の斜視図であり、図1(b)は、図1(a)の柱状体の第一端面の正面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の他の一実施形態に係るグリーン成形体の斜視図であり、図2(b)は、図2(a)の柱状体の第一端面の正面図である。
【図3】図3(a)は、図1(a)及び図1(b)に示すグリーン成形体を焼成することにより形成したハニカム構造体の斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のハニカム構造体の第一端面の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りであるが、寸法の比率は図面に示すものに限定されない。
【0015】
<グリーン成形体>
図1(a)及び図1(b)に示すように、グリーン成形体100は、ハニカム構造を有する円柱体(柱状体70)を備える。柱状体70は、その中心軸に平行であり、互いに直交する複数の隔壁70cを有する。つまり、柱状体70は、その中心軸方向に垂直な断面において格子構造を有する。換言すれば、柱状体70には、同一方向(中心軸方向)に延びる多数の貫通孔70a(流路)が形成されており、隔壁70cが各貫通孔70aを隔てる。各貫通孔70aは柱状体70の両端面に垂直である。なお、柱状体70が有する複数の隔壁70cが互いになす角は特に限定されず、図1(b)のように90°であってもよく、120°であってもよい。
【0016】
複数の貫通孔70aのうち一部の貫通孔は、貫通孔に直交する第一端面(柱状体70が有する二つの端面のうちの一方の端面)において封口材(plugging material)70bで塞がれている。第一端面では、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。第一端面において封口材70bで塞がれた貫通孔70aは、第一端面と反対側の第二端面において開いている。第一端面において開いている貫通孔70aは、第二端面において封口材70bで塞がれている(図示省略)。よって、第二端面においても、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。このように、複数の貫通孔70aは、第一端面又は第二端面のいずれか一方の面において封口材70bで塞がれている。
【0017】
図2は、グリーン成形体の他の実施形態を示す図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、グリーン成形体100は、貫通孔70aの端部が封口材70bで塞がれていなくてもよい。この場合、必要に応じて、グリーン成形体100を焼成した後に、貫通孔70aの一端を封口してもよい。
【0018】
(柱状体)
柱状体70は、無機化合物粉末(無機原料)、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して調製した原料混合物を成形することにより得られる。無機化合物粉末は、セラミックス原料粉末として、チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末、及び/又は、コージェライト系セラミックスの原料粉末を含む。チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末は、チタン源粉末及びアルミニウム源粉末を含む。チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末は、更にマグネシウム源粉末及びケイ素源粉末を含んでもよい。コージェライト系セラミックスの原料粉末は、アルミニウム源粉末、ケイ素源粉末及びマグネシウム源粉末を含む。原料混合物は、チタン酸アルミニウム系セラミックスそのもの、及び/又は、コージェライト系セラミックスそのものを含んでもよい。これにより、焼結に伴うグリーン成形体100の収縮率が低減される。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスとは、例えば、チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムである。
【0019】
[アルミニウム源]
アルミニウム源は、チタン酸アルミニウム焼結体又はコージェライト焼結体を構成するアルミニウム成分となる化合物である。アルミニウム源としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0020】
アルミニウム源は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0021】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。具体的なアルミニウム無機塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩、炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0022】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0023】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型(gibbsite type)、バイヤライト型(bayerite type)、ノロソトランダイト型(norstrandite type)、ベーマイト型(boehmite type)、擬ベーマイト型(pseudo−boehmite type)などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0024】
アルミニウム源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記のなかでも、アルミニウム源としては、アルミナが好ましく用いられ、α型のアルミナがより好ましく用いられる。なお、アルミニウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0026】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するアルミニウム源粉末の粒子径は1〜60μmの範囲内であればよい。なお、この粒子径は、D50又は平均粒子径とも呼ばれる。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が20〜60μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることが好ましく、30〜60μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることがより好ましい。
【0027】
[チタン源]
チタン源は、チタン酸アルミニウム焼結体を構成するチタン成分となる化合物であり、かかる化合物としては、例えば酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型(anatase type)、ルチル型(rutile type)、ブルッカイト型(brookite type)などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0028】
チタン源は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、チタン塩、チタンアルコキシド、水酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0029】
チタン塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタンアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0030】
チタン源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記のなかでも、チタン源としては、酸化チタンが好ましく用いられ、酸化チタン(IV)がより好ましく用いられる。なお、チタン源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0032】
チタン源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%に相当するチタン源粉末の粒子径(D50)は0.5〜25μmの範囲内であればよい。焼成時の収縮率低減の観点からは、チタン源粉末のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。なお、チタン源粉末は、バイモーダル(bimodal)な粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタン源粉末を用いる場合においては、レーザー回折法により測定される粒径分布における、粒径が大きい方のピークの粒径が20〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
レーザー回折法により測定されるチタン源粉末のモード径は、特に限定されないが、0.3〜60μmの範囲内であればよい。
【0034】
[マグネシウム源]
マグネシウム源は、コージェライト焼結体を構成するマグネシウム成分となる化合物である。また、チタン酸アルミニウム焼結体を形成する場合においても、原料混合物は、マグネシウム源を含有していてもよい。マグネシウム源を含むグリーン成形体100から製造されたハニカム構造体170は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶の焼結体である。
【0035】
マグネシウム源としては、マグネシア(酸化マグネシウム)のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物が挙げられる。後者の例としては、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0036】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0037】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。なお、マグネシウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0038】
マグネシウム源として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、マグネシアスピネル(MgAl)が挙げられる。
【0039】
マグネシウム源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するマグネシウム源粉末の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源粉末を用いることが好ましい。
【0041】
焼成によりチタン酸アルミニウムを形成する場合、グリーン成形体中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源のモル量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計モル量に対して、0.03〜0.15であることが好ましく、0.03〜0.12であることがより好ましい。マグネシウム源の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい細孔径および開気孔率を有するチタン酸アルミニウム焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0042】
[ケイ素源]
ケイ素源は、コージェライト焼結体を構成するシリコン成分となる化合物である。また、チタン酸アルミニウム焼結体を形成する場合においても、原料混合物は、ケイ素源をさらに含有していてもよい。その場合、ケイ素源は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム焼結体に含まれる化合物である。ケイ素源の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム焼結体を得ることが可能となる。ケイ素源としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。
【0043】
ケイ素源は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることもできる。
【0044】
ケイ素源がガラスフリットである場合、得られるチタン酸アルミニウム焼結体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点(yield point)が700℃以上のものを用いることが好ましい。ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0045】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸(SiO)を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ(Al)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrOを含有していてもよい。
【0046】
ケイ素源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するケイ素源の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。グリーン成形体の比重をより向上させ、機械的強度のより高い焼成体を得るためには、ケイ素源のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0048】
焼成によりチタン酸アルミニウムを形成する際に原料混合物がケイ素源を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計量100質量部に対して、SiO(シリカ)換算で、通常0.1質量部〜10質量部であり、好ましくは5質量部以下である。また、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、原料混合物中に含まれる無機化合物源全量を基準として、2質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。ケイ素源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0049】
マグネシアスピネル(MgAl)などの複合酸化物のように、チタン、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料として用いることができる。
【0050】
原料混合物にはシリカゾルを添加することができる。シリカゾルを添加することにより、原料混合物中の微小な粒子同士を吸着させ、グリーン成形体中の粒子径0.1μm以下の粒子の量を、無機化合物粉末全量を基準として1〜5重量%とすることができ、ハニカム構造体の強度を向上させることができる。シリカゾルとは、微粒子状のシリカを分散質とし、液体を分散媒とするコロイドである。シリカゾルは、単独でケイ素源とすることもできるが、他のケイ素源と共に併用されることが好ましい。シリカナゾルの分散媒は、例えば、混合時や仮焼時に蒸発等により除去される。
【0051】
シリカゾルの分散媒としては、水溶液や各種有機溶媒、例えば、アンモニア水溶液、アルコール、キシレン、トルエン、トリグリセリドなどが挙げられる。シリカゾルとしては、平均粒子径が1〜100nmのコロイド状シリカゾルが好適に用いられる。このような平均粒子径を有するシリカゾルを用いることにより、原料混合物中の粒子同士を吸着させ、焼成時に融解し結合させることができるといった利点がある。
【0052】
シリカゾルの市販品としては、例えば、日産化学工業社製「スノーテックス20、30、40、50、N、O、S、C、20L、OL、XS、XL、YL、ZL、QAS−40、LSS−35、LSS−45」、旭電化社製「アデライトAT−20、AT−30、AT−40、AT−50、AT−20N、AT−20A、AT−30A、AT−20Q、AT−300、AT−300Q」、触媒化成工業社製「Cataloid S−20L、S−20H、S−30L、S−30H、SI−30、SI−40、SI−50、SI−350、SI−500、SI−45P、SI−80P、SN、SA、SC−30」、デュポン社製「ルドックスHS−40、HS−30、LS、SM−30、TM、AS、AM」等が挙げられる。このうち、中性域でコロイド状態が安定な「スノーテックスC」を用いることが好ましい。
【0053】
原料混合物におけるシリカゾルの含有量は、無機化合物粉末(固形分)全量を基準として固形分で0〜10質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。2種以上のシリカゾルを混合して用いてもよい。
【0054】
[フッ素源]
フッ素源は、例えば、フッ化水素、フッ化アルミニウムである。また、フッ素源は、上記のアルミニウム源、チタン源、マグネシウム源、ケイ素源などに吸着または化合したものであってもよく、例えば、フッ素を含むアルミナであってもよい。フッ素源をグリーン成形体に均一に分散させるため、フッ素を含むアルミナを使用することが好ましい。フッ素を含むアルミナは、例えば、アルミナとフッ化水素を混合する方法、アルミナとフッ化アルミニウムを混合し加熱する方法により調製することができる。また、水酸化アルミニウムを焼成炉内で加熱してアルミナを製造する方法において、排ガスに同伴される、フッ素含有アルミナ微粒子を使用することもできる。
【0055】
原料混合物におけるフッ素源の含有量は、グリーン成形体である柱状体70における無機原料(無機化合物粉末)中のフッ素含有量が、通常20質量ppm以上、10000質量ppm以下となる量であり、好ましくは20質量ppm以上、2000質量ppm以下となる量であり、より好ましくは30質量ppm以上、2000質量ppm以下となる量であり、更に好ましくは50質量ppm以上、1500質量ppm以下となる量である。フッ素含有量を上記範囲内とすることにより、セラミックスの焼結を十分に促進することができ、ハニカム構造体の気孔率を容易に制御することができる。なお、上記フッ素含有量は、原料混合物を調製する際の無機原料中のフッ素含有量を測定することによって求めることもできる。本発明において、フッ素含有量は、無機原料全量を基準とした含有量であり、JIS R 9301−3−11(ふっ素の定量)に準拠して測定される。
【0056】
柱状体70における無機原料中のフッ素含有量を高める観点からは、フッ素源としてフッ化アルミニウムを用いることが好ましい。フッ化アルミニウムを用いることにより、セラミックスの焼結の進行をより早めることができる。フッ化アルミニウムを用いる場合、その含有量は、無機原料中のフッ素含有量が上記範囲内となるように調整すればよいが、通常、無機原料全量を基準として0.01〜0.3質量%である。
【0057】
[有機バインダ]
有機バインダとしては、水溶性の有機バインダが好ましい。水溶性の有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩などが挙げられる。
【0058】
原料混合物における有機バインダの含有量は、無機化合物粉末の100質量部に対して、通常20質量部以下であり、好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは6質量部である。また、有機バインダの下限量は、通常0.1質量部、好ましくは3質量部である。
【0059】
[溶媒]
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、および水などの極性溶媒を用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、無機化合物粉末の100質量部に対して、通常、10質量部〜100質量部、好ましくは20質量部〜80質量部である。なお、溶媒として非極性溶媒を用いてもよい。
【0060】
[その他の添加物]
原料混合物は、有機バインダ以外の有機添加物を含むことができる。その他の有機添加物とは、例えば、造孔剤、潤滑剤および可塑剤、分散剤である。
【0061】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類、でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料、氷、及びドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、無機化合物粉末の100質量部に対して、通常、0〜40質量部であり、好ましくは0〜25質量部であり、より好ましくは5〜25質量部である。造孔剤はグリーン成形体の焼成時に消失する。したがって、チタン酸アルミニウム焼結体又はコージェライト焼結体では、造孔剤が存在していた箇所に微細孔が形成される。
【0062】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸Al等のステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが挙げられる。潤滑剤及び可塑剤の添加量は、無機化合物粉末の100質量部に対して、通常、0〜10質量部であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0063】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ポリカルボン酸アンモニウム等の界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、無機化合物粉末の100質量部に対して、通常、0〜20質量部であり、好ましくは2〜8質量部である。
【0064】
(封口材)
封口材70bは、通常、柱状体70と同じ材料を用いることができる。また、封口材70bとして、柱状体70とは異なる材料を用いることもできる。封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスの粉末及び/又はコージェライト系セラミックスの粉末を含むことが好ましい。封口材70bは、柱状体70と同様に、上記の造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を含有する。また、封口材70bは、柱状体70と同様に、フッ素源を含有していることが好ましい。これらの成分を所定の比率で混合することにより、ペースト状の封口材70bが得られる。なお、ハニカム構造体の製造過程で得られるセラミックスの屑やハニカム構造体の破損品等を粉砕して得たセラミックスの粉末を、封口材70b用のセラミックス粉末として再利用してもよい。これにより、ハニカム構造体の原料コストが削減される。封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックス及び/又はコージェライト系セラミックスの原料粉末(無機化合物粉末)を含んでもよく、含まなくてもよい。焼結に伴う封口材70bの収縮率を低減するためには、封口材70bがセラミックス粉末を含有し、セラミックスの原料粉末を含有しないことが好ましい。セラミックス粉末の平均粒径は、特に限定されないが、5〜50μm程度であればよい。
【0065】
封口材70bがフッ素源を含有する場合、封口材70bにおける無機原料中のフッ素含有量は、20質量ppm以上であることが好ましく、20質量ppm以上、10000質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以上、2000質量ppm以下であることが更に好ましく、30質量ppm以上、2000質量ppm以下であることが特に好ましく、50質量ppm以上、1500質量ppm以下であることが極めて好ましい。封口材70bにもフッ素源を含有させ、その含有量を上記範囲内とすることにより、セラミックスの焼結をより促進することができ、ハニカム構造体の気孔率をより容易に制御することができる。封口材70bに含有させるフッ素源としては、柱状体70に含有させるフッ素源と同様のものを用いることができる。また、フッ素を含むセラミックス粉末を用いてもよい。
【0066】
封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量と造孔剤の質量との合計を100質量部とするとき、封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量Mcは80〜100質量部であることが好ましく、90〜100質量部であることがより好ましい。これにより、封口材70bと柱状体70の焼結時の収縮率が一致し易くなり、封口材70bと貫通孔70aの隔壁70cとの焼結性が向上し易くなる。Mcが小さ過ぎる場合、封口材70b中の造孔剤の質量が大きい。その結果、封口材70bの焼結時の収縮率がグリーン成形体70の収縮率よりも大きくなり、焼結後の封口部170bと隔壁との間に隙間が生じる傾向がある。造孔剤は、気孔を形成し、封口材70bと隔壁70cの収縮率を合わせるための緩衝材として機能する。
【0067】
封口材70bにおけるセラミックス粉末の質量R1の割合は、柱状体70におけるセラミックス及び原料粉末(無機化合物粉末)の質量の割合R2よりも高いことが好ましい。これにより、焼結に伴う柱状体70の収縮率が、封口材70bの収縮率よりも高くなり易い。つまり、R1がR2よりも高くなるほど、貫通孔70aが封口材70bに対して相対的に収縮する。その結果、焼成工程における貫通孔70aの隔壁と封口材70bとの密着性及び焼結性が向上し易くなる。封口材70b中のセラミックス粉末の質量は、封口材70b全体に対して60〜100質量%程度である。封口材70b中のセラミックス粉末の質量が小さ過ぎる場合、封口材70bの焼結時の収縮率が柱状体70よりも大きくなり、ハニカム構造体170の封口部170bと隔壁との間に隙間が生じる傾向がある。柱状体70中のセラミックス粉末の質量は、柱状体70全体が含有するセラミックス粉末と原料粉末と造孔剤との合計を100質量部としたとき、1〜10質量部程度である。柱状体70中の原料粉末の質量は、柱状体70全体が含有するセラミックス粉末と原料粉末と造孔剤との合計を100質量部としたとき、70〜90質量部程度である。なお、封口材70bの固液分離を防止するためには、封口材70bを粘調な液状とすることが好ましい。そのためには、封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量と造孔剤の質量との合計を100質量部とするとき、それに対する封口材70b中のバインダの質量を0.3〜3質量部、潤滑剤の質量を3〜20質量部とし、封口材70bの粘度を5〜200Pa・sとすることが好ましい。
【0068】
<ハニカム構造体>
図1に示したグリーン成形体100を焼成することにより、柱状体70及び封口材70bが含むセラミックス粉末やセラミックスの原料粉末が焼結する。封口材70bは隔壁70aと焼結し、一体化して、封口部170bを形成する。その結果、図3(a)及び図3(b)に示すように、多孔質のチタン酸アルミニウム系セラミックス及び/又は多孔質のコージェライト系セラミックスからなるハニカム構造体170(多セル型セラミックモノリス:cellular ceramic monolith)が得られる。ハニカム構造体170は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウム(AlTiO)又はチタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1−x)MgTi(1+x))の結晶パターン、或いは、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)の結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。ハニカム構造体170はケイ素を含有してもよい。ハニカム構造体170はグリーン成形体100と同様の構造を有し、DPF(Diesel particulate filter)に好適である。
【0069】
特に、チタン酸アルミニウムマグネシウム焼結体からなるDPFは、SiC、コージェライト又はチタン酸アルミニウム単体からなるDPFに比べて、熱膨張係数が極めて小さく、融点が高く、再生時の耐熱衝撃性に優れ、煤の限界堆積量が大きい点において優れている。DPF用のハニカム構造体170の隔壁表面に、アルミナ等の担体に担持された白金系金属触媒や、セリア又はジルコニア等の助触媒を付着させてもよい。
【0070】
チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるアルミニウムの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム換算で40〜60モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるチタンの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン換算で35〜55モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるマグネシウムの含有率は酸化マグネシウム換算で1〜5質量%であることが好ましい。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるケイ素の含有率は酸化ケイ素換算で2〜5質量%であることが好ましい。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスの組成は、原料混合物の組成により適宜調整すればよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、上記の成分以外に、原料に由来する成分又は製造工程において不可避的に仕掛品に混入する微量の成分を含有し得る。
【0071】
貫通孔70aの長手方向に垂直な断面の内径(正方形の一辺の長さ)は特に限定されないが、例えば0.8〜2.5mmである。貫通孔70aが延びる方向におけるハニカム構造体170の長さは特に限定されないが、例えば40〜350mmである。また、ハニカム構造体170の外径も特に限定されないが、例えば10〜320mmである。貫通孔70aが延びる方向における封口部170bの長さは特に限定されないが、例えば1〜20mmである。ハニカム構造体170の端面に開いている貫通孔70aの数(セル密度)は特に限定されないが、例えば150〜450cpsi(cells per square inch)である。cpsiとの単位は「/inch」を意味し、「/(0.0254m)」に等しい。貫通孔70aの隔壁の厚さは特に限定されないが、例えば0.15〜0.76mmである。ハニカム構造体170の有効気孔率は30〜60体積%程度である。ハニカム構造体170に形成された細孔の平均直径は1〜20μm程度である。細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満程度である。なお、D10、D50、D90は、全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。
【0072】
<グリーン成形体の製造方法>
(原料混合物の調製工程及び成形工程)
柱状体70を形成するために、無機化合物粉末、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して原料混合物を調製する。格子状の開口を有するダイ(die)を備える押出成形機を用いて、原料混合物を成形することにより、柱状体70を形成する。なお、押出成形前の原料混合物を混練してもよい。
【0073】
(封口材の調製工程)
柱状体70用の原料混合物と同様の方法で、封口材を調製する。
【0074】
(封口工程)
封口工程では、柱状体70において複数の貫通孔70aが開いている第一端面に第一マスクを貼り付ける。第一マスクでは、貫通孔70aと略同様の寸法を有する複数のマスク部と開口部とが千鳥状(staggered pattern)に配置されている。各貫通孔70aと各マスク部及び開口部とが重なるように、柱状体70の第一端面に第一マスクを貼り付ける。また、柱状体70において第一端面とは反対側の第二端面に、第二マスクを貼り付ける。第二マスクが有する開口部とマスク部の配置関係は第一マスクとは真逆である。したがって、第一端面側で第一マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第二端面側で第二マスクの開口部と重なる。第二端面側で第二マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第一端面側で第一マスクの開口部と重なる。したがって、柱状体70に形成された複数の貫通孔70aのいずれも、第一端面又は第二端面のいずれか一方において開き、他方においてマスク部で塞がれる。但し、柱状体70の周縁部には、断面形状が所望の形状(本実施形態では正方形)にならない不完全な貫通孔も存在し得る。このような不完全な貫通孔は、第一端面及び第二端面の両方において封口材で封口してもよい。そのため、不完全な貫通孔の両端面を封口できるような開口部を有する第一マスク及び第二マスクを用いてもよい。この場合、不完全な貫通孔については、第一端面及び第二端面の両方ともマスク部で塞がれずに開いた状態とされる。
【0075】
第一端面に対する封口工程では、第一マスクの開口部と重なる各貫通孔70aの端部内に上記の封口材を導入する。なお、貫通孔70aに封口材を導入した後、柱状体70全体を振動器により振動させてもよい。これにより、貫通孔70aの端部の隙間に隈なく封口材が充填され易くなる。
【0076】
以上の第一端面に対する封口工程後、第一端面に対する封口工程と同様に、第二マスクが貼られた第二端面に対する封口工程を実施する。両端面に封口工程を施した後に、各端面から各マスクを剥がす。これにより、図1(a)及び図1(b)に示すグリーン成形体100が完成する。なお、上記封口工程において、第二マスクは、第一端面に対する封口工程後に、第二端面に貼り付けてもよい。また、第一マスクは、第一端面に対する封口工程後、第二端面に対する封口工程を行う前に、第一端面から剥がしてもよい。また、封口方法は、上述した方法に限定されない。
【0077】
<ハニカム構造体の製造方法>
上記の方法により作製したグリーン成形体100を仮焼き(脱脂)し、且つ焼成することにより、図3(a)及び図3(b)に示すハニカム構造体170を得ることができる。ハニカム構造体170は、押出成形直後のグリーン成形体100の形状をほぼ維持する。
【0078】
仮焼き(脱脂)は、グリーン成形体100中の有機バインダや、必要に応じて配合される有機添加物を、焼失、分解等により除去するための工程である。典型的な仮焼き工程は、焼成工程の初期段階、すなわちグリーン成形体100が焼成温度に至るまでの昇温段階(例えば、300〜900℃の温度範囲)に相当する。仮焼(脱脂)工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0079】
グリーン成形体100の焼成温度は、通常、1250℃以上、好ましくは1300℃以上、より好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。この温度範囲でグリーン成形体100を加熱することにより、グリーン成形体100中の無機化合物粉末やセラミックス粉末が確実に焼結する。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。ここで、グリーン成形体100中のフッ素源を効果的に機能させ、適度な気孔率を有するハニカム構造体170を容易に得る観点から、焼成温度は1250〜1600℃とすることが好ましく、焼成時間は0.1〜10時間とすることが好ましく、上記焼成温度までの昇温速度は1℃/時間〜100℃/時間とすることが好ましい。
【0080】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタン源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0081】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉(roller hearth furnaces)などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式(batch type)で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、焼成は、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0082】
焼成に要する時間は、グリーン成形体100がチタン酸アルミニウム系結晶又はコージェライト系結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、グリーン成形体100の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0083】
なお、グリーン成形体100の仮焼きと焼成を個別に行ってもよく、連続して行ってもよい。仮焼き工程では、有機バインダ及びその他の有機添加物の熱分解温度以上であり無機化合物粉末の焼結温度よりも低い温度でグリーン成形体100を加熱すればよい。焼成工程では、仮焼き工程後のグリーン成形体100を無機化合物粉末の焼結温度以上の温度で加熱すればよい。
【0084】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、柱状体70や封口材70bは、上述したセラミックスやその原料粉末のほかに、シリコンカーバイド等のセラミックスやその原料粉末を含んでもよい。ハニカム構造体170の形状は円柱に限定されず、用途に応じて任意の形状をとることができる。例えば、ハニカム構造体170の形状が、多角柱や楕円柱等であってもよい。また、貫通孔70aの長手方向に垂直な断面の形状は正方形に限定されず、矩形、円形、楕円形、3角形、6角形、8角形等にすることができる。さらに、貫通孔70には、径の異なるもの、断面形状の異なるものが混在してもよい。
【0086】
ハニカム構造体の用途はDPFに限定されない。ハニカム構造体は、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルター又は触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分(例えば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素等)を選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルターなどに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、チタン酸アルミニウム系セラミックスは、高い細孔容積および開気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
下記表1に示す配合量(単位:質量部)で各成分を混合し、原料混合物を調製した。得られた原料混合物における無機原料(アルミナ粉末、チタニア粉末、マグネシア粉末、ガラスフリット、チタン酸アルミニウムマグネシウム粉末、及びフッ化アルミニウム)中のフッ素含有量は、1300質量ppmであった。
【0089】
この原料混合物を混練して押出成形することにより、互いに略平行な複数の貫通孔70aが形成された柱状体70からなるグリーン成形体100を作製した。
【0090】
得られたグリーン成形体100をマイクロ波乾燥機(富士電波工機製、FDU−243VD−03)にて乾燥させ、排気ガス循環型のガス炉内で40℃/時間の昇温速度で1500℃まで昇温した後、1500℃で5時間焼成することにより、多孔質のチタン酸アルミニウムマグネシウムの焼結体からなるハニカム構造体170を得た。ハニカム構造体は、気孔率が42.4体積%、平均細孔径が16.0μmであった。
【0091】
(実施例2)
下記表1に示す配合量(単位:質量部)で各成分を混合し、原料混合物を調製した。得られた原料混合物における無機原料(アルミナ粉末、チタニア粉末、マグネシア粉末、ガラスフリット、及びチタン酸アルミニウムマグネシウム粉末)中のフッ素含有量は、37質量ppmであった。なお、本実施例においてフッ素は、セラミックス原料粉末中、特にアルミナ粉末A及びガラスフリットA中に含有されている。
【0092】
この原料混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、グリーン成形体を作製し、それを用いてハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体は、気孔率が43.5体積%、平均細孔径が15.9μmであった。
【0093】
(実施例3)
実施例2と同じ原料混合物を調製し(無機原料中のフッ素含有量:37質量ppm)、実施例2と同じ操作を行ってグリーン成形体を作製した。このグリーン成形体の焼成を1490℃で5時間行った以外は実施例2と同様にして、ハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体は、気孔率が45.1体積%、平均細孔径が15.3μmであった。
【0094】
(実施例4)
実施例2と同じ原料混合物を調製し(無機原料中のフッ素含有量:37質量ppm)、実施例2と同じ操作を行ってグリーン成形体を作製した。このグリーン成形体の焼成を1480℃で5時間行った以外は実施例2と同様にして、ハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体は、気孔率が45.6体積%、平均細孔径が14.6μmであった。
【0095】
(比較例1)
下記表1に示す配合量(単位:質量部)で各成分を混合し、原料混合物を調製した。得られた原料混合物における無機原料(アルミナ粉末、チタニア粉末、マグネシア粉末、ガラスフリット、及びチタン酸アルミニウムマグネシウム粉末)中のフッ素含有量は、検出下限である20質量ppm未満であった。
【0096】
この原料混合物を用いた以外は実施例1と同様にして、グリーン成形体を作製し、それを用いてハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体は、気孔率が46.9体積%、平均細孔径が16.9μmであった。
【0097】
【表1】


*1:アルミナ粉末A(住友化学(株)製、商品名「A−21」)
*2:アルミナ粉末B(住友化学(株)製、商品名「AA−3」)
*3:チタニア粉末A(デュポン(株)製、商品名「R−900」)
*4:チタニア粉末B(チタニア粉末Aを空気中、1500℃で10時間保持し、粉砕したもの)
*5:マグネシア粉末A(宇部マテリアル(株)製、商品名「UC−95S」)
*6:マグネシア粉末B(マグネシア粉末Aを空気中、1500℃で10時間保持し、粉砕したもの)
*7:ガラスフリットA(日本フリット製、商品名「CK0832」)
*8:ガラスフリットB(ガラスフリットAを空気中、1500℃で10時間保持し、粉砕したもの)
*9:有機バインダ(三星精密化学社製、商品名「PMB−30U」)
*10:可塑剤(日油(株)製、商品名「ユニルーブ50MB−168」
【0098】
上述した実施例1〜4及び比較例1について、無機原料中のフッ素含有量、焼成温度、並びに、ハニカム構造体の気孔率及び平均細孔径を、下記表2にまとめて示す。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1、2及び比較例1の比較から、ハニカム構造体の気孔率は、グリーン成形体の無機原料中のフッ素含有量の増加とともに低下することが確認された。このことから、フッ素源を含むグリーン成形体を用いることにより、セラミックスの反応焼結性が向上していることが確認された。また、実施例2〜4の比較から、ハニカム構造体の気孔率は、焼成温度が高くなるほど低下することが分かる。しかし、実施例3及び4と比較例1とを比較すると、焼成温度が低い実施例3及び4の方が、気孔率が低い結果となった。この結果から、フッ素を含有するグリーン成形体を用いることで、より低い温度で焼結を進行させることができ、ハニカム構造体の気孔率を容易に制御できることが確認された。換言すれば、グリーン成形体に所定量のフッ素を含有させることにより、所定量のフッ素を含有しない場合と比較して、気孔率が所望の値以下になるまで焼結を進行させるために必要な焼成温度を低下させることができることが確認された。
【0101】
表2に示した通り、実施例1〜4で得られたハニカム構造体は、好適な範囲の気孔率(42〜46体積%)、及び、好適な範囲の平均細孔径(14〜16μm)に制御されたものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したとおり、本発明によれば、ハニカム構造体の気孔率を容易に制御することが可能なグリーン成形体、及びそれを用いたハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0103】
70…柱状体、70a…貫通孔、70b…封口材、70c…隔壁、100…グリーン成形体、170b…封口部、170…ハニカム構造体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに略平行な複数の貫通孔が形成されたハニカム状の柱状体からなるグリーン成形体であって、
前記柱状体がセラミックス原料粉末及びフッ素源を含み、
前記セラミックス原料粉末が、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックス及びコージェライト系セラミックスの少なくとも一方を形成するものである、グリーン成形体。
【請求項2】
前記柱状体がさらに造孔剤を含む、請求項1記載のグリーン成形体。
【請求項3】
前記柱状体がさらに有機バインダを含む、請求項1又は2記載のグリーン成形体。
【請求項4】
前記柱状体における無機原料中のフッ素含有量が20質量ppm以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグリーン成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のグリーン成形体を焼成する焼成工程を有する、ハニカム構造体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140319(P2012−140319A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274620(P2011−274620)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【特許番号】特許第4965734号(P4965734)
【特許公報発行日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】