説明

グルカゴン受容体アンタゴニスト

本発明は、ホルモングルカゴンの受容体に対する結合を阻害するグルカゴン受容体ポリペプチドアンタゴニストに関する。より具体的には、本発明は、グルカゴンの受容体に対する結合を阻害する高親和性グルカゴン受容体抗体またはそのFabフラグメント、ならびに哺乳動物種におけるII型糖尿病(NIDDM)および関連する疾患の処置または予防におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルモングルカゴンの受容体に対する結合を阻害するグルカゴン受容体ポリペプチドアンタゴニストに関する。より具体的には、本発明は、グルカゴンの受容体に対する結合を阻害する高親和性グルカゴン受容体抗体またはそのFabフラグメント、ならびに哺乳動物種におけるII型糖尿病(NIDDM)および関連する疾患の処置または予防におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴンは、低血糖値に応答して膵臓のα細胞によって産生される29のアミノ酸ペプチドホルモンである。グルカゴンは、Gタンパク質シグナル伝達カスケードを誘発する、肝細胞表面上の膜結合性グルカゴン受容体に結合し、細胞内の環状AMPを活性化し、新規合成(糖新生)およびグリコーゲン分解(グリコゲノリシス)によってグルコースの放出を導く。
【0003】
Unsonらは、ラット受容体の2つの細胞外部分に対応する合成ペプチドに対して産生されるポリクローナル抗体を開示している。開示されたアッセイにおいて、アミノ酸残基126〜137および206〜219に対して産生されたポリクローナル抗体は、ラット肝膜において受容体に対するグルカゴンの結合を阻害することが見出された(非特許文献1)。
【0004】
Buggyらは、インビトロアッセイにおいて受容体のホルモン結合部位についてグルカゴンと競合するといわれているモノクローナル抗体の調製を開示している(非特許文献2)。この開示されたアッセイにおいて、CIV395.7Aと指定されている抗体は、ヒトおよびラットグルカゴン受容体を認識するが、マウスは認識しない。ヒトの治療処置についての抗体を開発するために、検証したラットおよび/またはマウス動物モデルにおいて、臨床前効果および安全性の研究を実施することが一般的に必要である。従って、治療抗体の薬物開発を非常に容易にさせ、それによって、グルカゴン受容体のラット、マウスおよびヒト形態に結合できる臨床前治療抗体候補を提供することが非常に望まれている。
【0005】
Wrightらは、hGR−2 F6と指定されたモノクローナル抗体およびそのFabフラグメントのアミノ酸配列を開示している。この抗体は、ヒトグルカゴン受容体に対してマウスにおいて産生され、この受容体における競合的アンタゴニストとして開示されたアッセイにおいて記載されている(非特許文献3)。出願人は、hGR−2F6が、低親和性のみでグルカゴン受容体のラットおよびマウス形態に結合することを見出しており、高用量でのインビボモデルの糖尿病のラットにおいてhGR−2F6についての治療効果は見出されていない。特に、この抗体は、いずれの統計的有意性でもラットモデルにおいて血清グルコースを減少させることができなかった(公開されていない)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Unsonら,PNAS,1996年1月,第93巻,p.310−315
【非特許文献2】Buggyら,Horm.Metab.Res.,1996年,第28巻,p.215−219
【非特許文献3】Wrightら,Acta Cryst.,2000年,D56,p.573−580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出願人は、グルカゴン受容体に高親和性で結合し、それによってその受容体に対するグルカゴンの結合を阻害する治療的モノクローナル抗体を提供すること、糖尿病、好ましくはII型糖尿病および関連疾患の有効な処置を提供することの必要性を認識した。さらに、抗体の臨床前薬物開発を可能にするために、必須の臨床前安全性および効果の研究を受けることができるグルカゴン受容体のヒト、ラットおよびマウス形態に結合できるモノクローナル抗体を提供することが明確に望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヒト、ラットおよびマウス由来の天然グルカゴン受容体に高親和性で特異的に結合することができる新規モノクローナル抗体またはそれらのFabフラグメントに関する。さらに、本発明者らは、複数の由来源のグルカゴン受容体に結合するだけでなく、血清血液グルコースを減少させる能力においてインビボでの有効性を示すモノクローナル抗体に結合するグルカゴン受容体を初めて提供する、モノクローナル抗体またはそれらのFabフラグメントを提供する。
【0009】
第1の態様において、本発明は、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体に関し、ここで、上記Fabフラグメントは、ヒト、ラットおよびマウスのグルカゴン受容体に結合可能で、かつ、50nM未満のKiで各受容体に結合するグルカゴンを阻害する。
【0010】
更なる予期せぬ発見において、本発明者らは、GLP−1のインビボでの血清濃度を顕著に増加させることができるグルカゴン受容体に特異的に結合可能な抗体またはそれらのFabフラグメントを初めて提供する。GLP−1の血清レベルの増加は、β細胞機能を増進し、グルカゴン分泌を減少させ、胃内容排出を遅延させることが当該技術分野において知られており、また、II型糖尿病および関連状態の治療において高度に有利であることが認識されている。
【0011】
第2の態様において、本発明は、本発明にかかる有効量のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体および薬学的に受容可能な賦形剤を備える薬学的組成物に関する。
【0012】
第3の態様において、本発明は、ヒトにおけるI型糖尿病またはII型糖尿病を治療および体重減少を達成するための方法を提供し、ここで、上記方法は、本発明にかかる有効量のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体を、それらを必要とする患者に投与することを含む。
【0013】
第4の態様において、本発明は、薬剤として使用される、本発明にかかるFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体を備える。
【0014】
第5の態様において、本発明は、ヒトにおけるI型糖尿病またはII型糖尿病の治療または予防あるいは体重減少の達成のための薬剤の製造における、本発明にかかるFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体に関し、ここで、上記Fabフラグメントは、ヒト、ラットおよびマウスのグルカゴン受容体に結合可能で、かつ、50nM未満のKiで各受容体に結合するグルカゴンを阻害する。
【0016】
本発明はまた、ヒト、ラットおよびマウス由来のグルカゴン受容体に加えて、カニクイザルのグルカゴン受容体にも高親和性で結合可能なモノクローナル抗体を提供する。好ましくは、そのため、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体はまた、50nM未満のKiでカニクイザルのグルカゴン受容体に結合するグルカゴンを阻害する。好ましくは、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、指定されたグルカゴン受容体の各々において、30nM未満、より好ましくは20nM未満、更に好ましくは10nMのKiを有する。更に好ましいFabフラグメントは、ラット、マウスおよびカニクイザル(cyno)の受容体においてインビトロで20nM未満のKi、ならびに、ヒトの受容体においてインビトロで5nM未満のKiを有する。より好ましくは、FabフラグメントのKiは、特にヒトのグルカゴン受容体において、0.1nM〜15nM、最も好ましくは1〜10nMである。
【0017】
本発明にかかるFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、好ましくは、ヒトおよびラットのグルカゴン受容体において少なくとも100nMの機能的な結合親和性(Kb)を有する。更に好ましいFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、それらの受容体において少なくとも50nM、より好ましくは少なくとも10nMの機能的な結合親和性を有する。最も好ましい実施形態において、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、ヒトおよびラットのグルカゴン受容体において1〜10nMの機能的な結合親和性を有する。
【0018】
特に予期せぬ発見において、本出願人は、本発明に従って特定された結合特性を有するFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体をインビボで暴露する際、非常に急速に血清GLP−1が増加し血清血液グルコースが減少することを指摘している。このような有利な効果を最大限に引き出すために、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体がGLP受容体にかなり多く(すなわち、5000nMを越えるほどのKiで)結合しないことが好ましい。
【0019】
(配列の定義)
配列番号1〜22は、表1の軽鎖および重鎖のCDRを指す。
配列番号23〜30は、本明細書において記載された好ましいヒトのフレームワーク領域を指す。
配列番号31および32は、ヒトのGluRのアミノ酸およびcDNA配列である。
配列番号33および34は、ラットのGluRのアミノ酸およびcDNA配列である。
配列番号35および36は、マウスのGluRのアミノ酸およびcDNA配列である。
配列番号37および38は、カニクイザルのGluRのアミノ酸およびcDNA配列である。
配列番号39および40は、例1(Ab1)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号41および42は、例2(Ab2)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号43および44は、例3(Ab3)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号45および46は、例4(Ab4)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号45および47は、例5(Ab5)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号45および48は、例6(Ab6)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号45および49は、例7(Ab7)の可変領域アミノ酸配列である。
配列番号50は、好ましいカッパ軽鎖IgG4定常領域を指す。
配列番号51は、好ましい重鎖CH1定常領域を指す。
配列番号52は、好ましい改変ヒトIgG4Fc領域を指す。
配列番号53〜55は、好ましい軽鎖CDRを指す。
配列番号56〜68は、好ましい重鎖CDRを指す。
配列番号59および60は、例1(Ab1)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号61および62は、例2(Ab2)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号63および64は、例3(Ab3)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号65および66は、例4(Ab4)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号65および67は、例5(Ab5)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号65および68は、例6(Ab6)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号65および69は、例7(Ab7)の軽鎖および重鎖のタンパク質配列である。
配列番号70および71は、例1(Ab1)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号72および73は、例2(Ab2)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号74および75は、例3(Ab3)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号76および77は、例4(Ab4)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号76および78は、例5(Ab5)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号76および79は、例6(Ab6)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
配列番号76および80は、例7(Ab7)の軽鎖および重鎖のDNA配列である。
【0020】
(定義)
「グルカゴン受容体」はまた、本明細書において、長いアミノ末端細胞外ドメイン、7回膜貫通型セグメント、および、細胞内C末端ドメインから構成される、Gタンパク質結合受容体クラス2ファミリーに属する「GluR」をいう。グルカゴン受容体は、肝細胞の表面上で特に発現され、ここで、グルカゴン受容体はグルカゴンに結合し、それによって細胞内に提供されるシグナルを変換する。ラットおよびヒト由来のグルカゴン受容体をコードするDNA配列は、単離され当該技術分野において開示されている(EP0658200B1)。マウスおよびカニクイザルのホモログもまた、単離され配列決定されている(Burcelinら、Gene 164 (1995) 305−310);McNallyら、Peptides 25 (2004) 1171−1178)。
【0021】
本発明の抗体またはそのFabフラグメントの活性に関し、本明細書において用いられる「阻害する」との用語は、グルカゴン受容体の生物学的活性を実質的に拮抗する能力を意味する。この能力は、本明細書において記載された[125I]グルカゴン結合アッセイにより算出されたKi値に反映される。
【0022】
本発明のモノクローナル抗体に関して用いられる「ヒト化」との用語は、グルカゴン受容体結合抗体に由来する、少なくともヒトのフレームワークおよび定常領域(CLドメイン、CHドメイン(例えば、CH1,CH2,CH3)、および、ヒンジ)、ならびに、CDRを有する抗体をいう。ヒトのフレームワークは、ヒト生殖細胞系列配列ならびに体細胞変異を有する配列に相当するフレームワークを備える。ヒトのフレームワークおよび定常領域は完全にヒトであり得るか、または、1つ以上のアミノ酸の置換、末端および中間の付加および欠失などにより天然配列と異なり得る。CDRは、任意の抗体フレームワークにおいて、本出願におけるグルカゴン特異的受容体に結合する1つ以上のCDRから生じ得る。例えば、本発明のヒト化抗体のCDRは、マウスの抗体フレームワークにおいてグルカゴン受容体に結合するCDRから生じ得、その後、ヒトのフレームワークにおいてグルカゴン受容体に結合するよう改変される。
【0023】
「モノクローナル抗体」との用語は、単一のコピーまたはクローン(例えば、任意の真核、原核、またはファージのクローンを含む)に由来する抗体を指し、それを生成する方法を指すものではない。好ましくは、本発明のモノクローナル抗体は、ホモログまたは実質的にホモログな集団内に存在する。
【0024】
本発明の抗体に関し、本明細書において用いられる「インビボでの有効性」との用語は、ヒトまたは動物モデルにおける肯定的な生物学的効果を与える抗体の能力を意味する。好ましくは、インビボでの有効性とは、コントロールの応答と比べ本発明の抗体の応答において血中グルコースの上昇を示す動物におけるグルコース正常化の効果をいう。糖尿病のZucker糖尿病肥満ラット(ZDF)モデル(Horm Metab Res. 2005 Feb;37(2):79−83)は、インビボでの有効性を評価するために適切に用いられ得、ここで、インビボでの有効性は、好ましくは、動物を、本発明にかかるヒト化抗体の30mg/kg未満の投与量で暴露する際、100%の血中グルコース正常化の効果を示す。より好ましくは、インビボでの有効性は、動物を、15mg/kg未満の抗体の投与量、更に好ましくは10mg/kg未満の投与量、より好ましくは0.1〜5mg/kgの投与量で暴露する際、100%の血中グルコース正常化の効果を示す。最も好ましい実施形態において、インビボでの有効性は、動物を、本発明にかかるヒト化抗体の1〜3mg/kgの投与量で暴露する場合、糖尿病のZDFラットモデルにおいて100%の血中グルコース正常化を示すよう用いられ得る。
【0025】
「グルコース正常化」との用語は、ZDFラットモデルにおいて、120mg/dL未満、好ましくは110〜120mg/dLの範囲の平均血漿グルコース値をいう。血漿グルコースは、Etgenら(Metabolism 2000; 49(5): 684−688)に従って決定され得、または、D’Orazioら(Clin. Chem. Lab. Med. 2006; 44(12): 1486−1490)に従って全血中グルコース濃度の変換から算出され得る。
【0026】
本明細書において用いられる、「Fabフラグメント」は、CLドメインおよびCH1ドメインに加えて軽鎖および重鎖のCDRおよびフレームワーク配列のアミノ酸残基を含む、可変領域内の抗体分子の部分をいう。
【0027】
重鎖の3つのCDRは、本明細書において「CDRH1、CDRH2、およびCDRH3」をいい、また、軽鎖の3つのCDRは、「CDRL1、CDRL2、およびCDRL3」をいう。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、周知の慣習(convention)(Kabatら、Ann. NY Acad. Sci. 190:382−93 (1971);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91−3242 (1991))に従う。抗原結合ドメインまたは抗原結合ドメインのCDRは、他の非ヒト種(例えば、限定されないが、ウサギ、マウス、ラット、または、ハムスター)由来であり得る。
【0028】
本発明者らは、マウス、ラット、カニクイザルおよびヒト由来のグルカゴン受容体に対して特に高い親和性を示す抗体Fabフラグメントを調製するために組み合わせて使用され得る、重鎖および軽鎖のCDR配列を特定している。Fabフラグメントは、好ましくは以下を備え、
(i) 軽鎖CDRL1: SXSSSVSYXH 配列番号53
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSXLAH 配列番号54
(iii)軽鎖CDRL3: XRSTXPPT 配列番号55
(iv )重鎖CDRH1: GDDITSGYX 配列番号56
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTXYXPSLKS 配列番号57
(vi) 重鎖CDRH3: PPX10YYGFGPYAX11DY 配列番号58
ここで、以下のとおりであり、
X=YまたはA X=WまたはH
=MまたはI X=N,DまたはE
=NまたはY X=Y,Q,SまたはV
=QまたはL X=N,SまたはI
=QまたはW X10=GまたはA
=LまたはI X11=MまたはL
より好ましくは、XはYまたはAであり;XはIであり;XはYであり;XはQまたはLであり;XはQまたはWであり;XはLまたはIであり;XはWまたはHであり;XはDまたはEであり;XはY,Q,SまたはVであり;XはSであり;X10はGまたはAであり;X11はLである。更に好ましくは、XはAであり;XはIであり;XはYであり;XはQであり;XはQであり;XはL;XはHであり;XはDまたはEであり;XはY,QまたはSであり;XはSであり;X10はGまたはAであり;X11はLである。
【0029】
好ましくは、本発明にかかるFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、以下のCDR配列を備え、
CDRL1 12345678910
SASSSVSYIH
CDRL2 1234567
TTSYLAH
CDRL3 123456789
QQRSTLPPT
CDRH1 12345678910
GDDITSGYHD
CDRH2 12345678910111213141516
YISYSGSTYYSPSLKS
CDRH3 1234567891011121314
PPGYYGFGPYALDY
ここで、上記Fabフラグメントは、以下から構成される群より選択された1つ、2つ、または、3つのアミノ酸置換を有し、
CDRL1: A2Y,I9M;
CDRL2: Y4N;
CDRL3: Q1L,Q2W,L6I;
CDRH1: H9W,D10E,D10N;
CDRH2: Y9Q,Y9S,Y9V,S11N,S11I;
CDRH3: G3A,L12M
より好ましくは、上記Fabフラグメントは、CDRH1:D10E;CDRH2:Y9Q,Y9S;CDRH3:G3Aより選択された1つ、2つ、または、3つのアミノ酸置換を有する。
【0030】
本発明にかかるFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、好ましくは、以下より選択されたCDR配列を備える。
(i)配列番号2のCDRL1;配列番号4のCDRL2;配列番号7のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号11のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(ii)配列番号1のCDRL1;配列番号4のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号10のCDRH1;配列番号16のCDRH2;配列番号20のCDRH3を有する重鎖;
(iii)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号8のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号11のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(iv)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(v)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号17のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(vi)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号22のCDRH3を有する重鎖;ならびに
(vii)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号13のCDRH1;配列番号18のCDRH2;配列番号22のCDRH3を有する重鎖。
【0031】
本発明に従う抗体が低い血漿濃度においてインビボでの有効性を示すことが特に望ましい。インビボでの有効性は、ZDFラットモデルにおいて30mg/kgの投与量、好ましくは15mg/kg未満の投与量、より好ましくは5mg/kg未満の投与量、更に好ましくは0.1〜5mg/kgの範囲において観察されるべきである。最も好ましくは、本発明に従う抗体は、約1〜3mg/kgの投与量でZDFラットモデルにおいて100%のグルコース正常化を達成する。本発明に従う特に好ましい抗体が3mg/kgの低い投与量でインビボでのZDFラットモデルにおいて100%のグルコース正常化を示すことができることが見出されている。したがって、本発明は、好ましくは、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体を備え、ここで、上記Fabフラグメントは、以下を備える。
(i)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(ii)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号17のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖;
(iii)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号15のCDRH2;配列番号22のCDRH3を有する重鎖;あるいは
(iv)配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号13のCDRH1;配列番号18のCDRH2;配列番号22のCDRH3を有する重鎖。
【0032】
更に好ましい実施形態において、本発明は、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体に関し、ここで、上記Fabフラグメントは、配列番号3のCDRL1;配列番号5のCDRL2;配列番号6のCDRL3を有する軽鎖;および配列番号12のCDRH1;配列番号17のCDRH2;配列番号21のCDRH3を有する重鎖を備える。本実施形態に従うFabフラグメントを備える抗体が、記載されている属内における他の類似の抗体と比べ長期にわたってインビボでの有効性を維持する特に有利な特性を有することが見出されている。
【0033】
本発明のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、好ましくは、ヒト由来の軽鎖および重鎖の可変フレームワークを備える。更に、種々の異なるヒトのフレームワーク配列は、本発明のヒト化免疫グロブリンを基礎として単独でまたは組み合わせて用いられ得る。好ましくは、本発明のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体のフレームワーク領域は、ヒト由来または実質的にヒト由来(少なくとも、95%、97%または99%はヒト由来)である。ヒト由来のフレームワーク領域の配列は、ImMunoGenetics(IMGT)からそのウェブサイト(http://imgt.cines.fr/textes/IMGTindex/FR.html)を介して、または、Marie−Paule Lefranc, Gerard Lefranc, Academic Press 2001, ISBN 012441351によるThe immunoglobulin Factsbookから取得され得る。例えば、生殖細胞系列軽鎖フレームワークは、Al1、A17、A18、A19、A20、A27、A30、LI、L1I、L12、L2、L5、L15、L6、L8、O12、O2、およびO8から構成される群から選択され得る。また、生殖細胞系列重鎖フレームワーク領域は、VH2−5、VH2−26、VH2−70、VH3−20、VH3−72、VHI−46、VH3−9、VH3−66、VH3−74、VH4−31、VHI−18、VHI−69、VI−13−7、VH3−11、VH3−15、VH3−21、VH3−23、VH3−30、VH3−48、VH4−39、VH4−59、およびVH5−5Iから構成される群から選択され得る。
【0034】
本明細書において開示された特定の抗体は、本発明の付加的な抗体を作るためのテンプレートまたは親抗体として用いられ得る。1つのアプローチにおいて、親抗体CDRは、親抗体フレームワークに対して高い配列同一性を有するヒトのフレームワークに移植される。新たなフレームワークの配列同一性は、親抗体における対応フレームワークに対して、一般的に、少なくとも80%、少なくとも85%、または、少なくとも90%であろう。この移植は、親抗体に比べて結合親和性の低下をもたらし得る。この場合、フレームワークは、Queenら[Queenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 2869 (1991)]により公開された特定の基準に基づいて、特定の位置において親フレームワークに復帰変異され得る。使用され得る更なる方法としては、例えば、Jonesら、Nature, 321:522 (1986);Riechmannら、Nature , 332:323−327 (1988);Verhoeyenら、Science, 239:1534 (1988)が挙げられる。
【0035】
最も好ましくは、本発明にかかるFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体は、以下の軽鎖フレーム(FR)配列:FR1(配列番号23);FR2(配列番号24);FR3(配列番号25);FR4(配列番号26);および、以下の重鎖可変フレームワーク配列:FR5(配列番号27);FR6(配列番号28);FR7(配列番号29);FR8(配列番号30)を備え、ここで、これらは、軽鎖可変配列FR1−CDRL1−FR2−CDRL2−FR3−CDRL3−FR4、および、重鎖可変配列FR5−CDRH1−FR6−CDRH2−FR7−CDRH3−FR8として配列される。
【0036】
本出願人は、驚いたことに、インビトロ競合グルカゴン結合アッセイを用いてグルカゴン受容体拮抗抗体のインビボでの有効性を予想する際に、Fabフラグメントの親和性がインビボでの有効性に正の相関があることを決定している。反対に、完全抗体のグルカゴン受容体に対する結合親和性(Ki)は、必ずしもインビボでの有効性の有効な予測因子ではない。本明細書において探索された好ましい特性を有するモノクローナル抗体を調製するプロセスは、従って、好ましくは、異種発現グルカゴン受容体遺伝子を用いるインビトロ競合グルカゴン結合アッセイにおいて、50nM未満のKiで各グルカゴン受容体に結合するFabフラグメントを選択することを含む。より好ましくは、上記プロセスは、グルカゴン受容体の各々において30nM未満、より好ましくは20nM未満、更に好ましくは10nM未満のインビボトロでのKiを有するFabフラグメントを選択することを含む。より好ましくは、Fabフラグメントは、ラット、マウスおよびカニクイザルの受容体において20nM未満のインビトロでのKi、および、ヒトの受容体において5nM未満のインビトロでのKiにより選択される。より好ましくは、選択されたFabフラグメントのKiは、特にヒトのグルカゴン受容体において、0.1nM〜15nM、最も好ましくは1〜10nMである。このプロセスにより特定されたFabフラグメントは、その後、当該分野において公知の技術により治療的使用のために完全抗体として適切に発現される。
【0037】
本発明の教示を適用して、当業者が、本明細書において開示された特定のCDRおよびフレームワーク配列内の置換アミノ酸に対して一般的な技術(例えば、部位指定変異導入)を使用することができ、そうして、本明細書において提供された配列由来の更なる可変領域アミノ酸配列を生成することが望ましい。全20個までの天然に生じる代替アミノ酸は、特定の置換部位にて導入され得る。本明細書において上記にて定義されたインビトロでの選択プロセスは、主張した交差反応性およびインビボでの有効性を示す本出願人により見出されたインビトロでのKiを有する、Fabフラグメントに関するこれらの付加的な可変領域アミノ酸配列をスクリーニングするために、適切に用いられ得る。このように、更なるFabフラグメントが本発明に従うヒト化抗体を調製するのに適していることが認識される。好ましくは、フレームワーク内のアミノ酸置換は、本明細書において開示された1つまたは各フレームワーク配列内の1つ、2つ、または3つの位置に制限される。好ましくは、CDR内のアミノ酸置換は、1つまたは各CDR内の1〜3つのアミノ酸位置に制限され、より好ましくは、1つまたは各CDR内の1つまたは2つのアミノ酸位置にて行われる。更に好ましくは、アミノ酸置換は、重鎖可変領域のCDR内の1つまたは2つのアミノ酸位置にて行われる。最も好ましくは、アミノ酸置換は、CDRH2内の1つまたは2つのアミノ酸位置にて行われる。
【0038】
親抗体として本明細書において記載された抗体を用いて本発明にかかる代替抗体を調製するためにCDRとフレームワーク代替物とを組み合わせる適切な方法は、Wuら、J. Mol.Biol.,294:151−162において提供される。
【0039】
本明細書において用いられるように、免疫グロブリンのFc部分は、非共有相互作用およびジスルフィド結合を介して結合する両方の重鎖からの抗体の定常領域をいう。Fc部分としては、ヒンジ領域ならびにCH2およびCH3ドメインを通る抗体のC末端までの延長領域が挙げられ得る。Fc部分としてはさらに、1つ以上のグリコシル化部位が挙げられ得る。本発明のモノクローナル抗体は、免疫グロブリンクラス(IgA、IgD、IgG、IgMおよびIgE)のうちのいずれかから選択された重鎖定常領域を有し得る。好ましくは、本発明の抗体は、他のIgGサブタイプと比べて減少したFcγRおよび補体因子に結合する能力のためヒトIgG4のFc領域から生じるFc部分を含む。より好ましくは、本発明の抗体のIgG4のFc領域は、エフェクター機能を更に低下させる代替物を含む(Issacsら、(1996) Clin. Exp. Immunol. 106:427−433)。これらは、残基233におけるグルタミン酸のプロリン、残基234におけるフェニルアラニンのアラニンまたはバリン、および、残基235におけるロイシンのアラニンまたはグルタミン酸を含む1つ以上の群から選択され得る(EU番号付け,Kabat,E.A.ら、(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版.U.S.Dept.of Health and Human Services,Bethesda,MD,NIH 公開番号91−3242)。これらの残基は、配列番号52における位置15、16および17、ならびに、配列番号67における位置235、236および237対応する。更に、Alaを配列番号52の位置79に対応する残基297(EU番号付け)におけるAsnに置換することにより、IgG4のFc領域におけるN結合グリコシル化部位を除去することは、残基エフェクター活性をヒト化抗体において排除することを確実にする別の方法である。
【0040】
加えて、本発明のヒト化モノクローナル抗体とともに使用するためのIgG4のFc部分は、好ましくは、重鎖二量体形成を安定化し、かつ、IgG4のFc半鎖の形成を抑える代替物を含む。この構築物は、プロリン(配列番号52におけるアミノ酸残基10)により置換されている位置228(EU番号付け)におけるセリンから構成される。天然分子内に存在するC末端リシン残基はまた、本明細書において議論された抗体のIgG4派生Fc部分において削除され得る(配列番号52の位置229;リシンが削除された部分をdes−Kとして記載)。最も好ましくは、IgG4のFc部分は、配列番号67のアミノ酸221〜448から提供される。
【0041】
本発明は更に、本発明の抗体をコードする単離された核酸配列;ベクターで形質転換された宿主細胞により認識されたコントロール配列に必要に応じて作動可能に結合される核酸を含むベクター(ベクター群);そのベクターを含む宿主細胞;核酸が発現され任意に宿主細胞培地から抗体を収容することができるよう宿主細胞を培養することを含む、本発明にかかる抗体またはそのFabフラグメントを生成するためのプロセスに関する。
【0042】
別の実施形態において、本発明は、本発明のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は更に、薬学的に受容可能なキャリアを含む。上記薬学的組成物において、本発明のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体は、活性成分である。好ましくは、薬学的組成物は、本発明のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体のホモログまたは実質的にホモログな集団を含む。治療上の使用のための組成物は、無菌であり、凍結乾燥され得、任意に適切な希釈液が供給される。
【0043】
本発明の更なる実施形態は、本発明のあらゆる単離されたポリヌクレオチド、または、HCVR、LCVR、本発明のモノクローナル抗体もしくはFabフラグメントをコードする配列を含むあらゆる組換ベクターの受容体である宿主細胞または細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含み、この子孫は、天然、偶然、または意図的な変異および/または変更により、元の親細胞に対して、(形態学上または総DNA相補性において)完全に同一である必要はなくてもよい。宿主細胞は、1つ以上の組換ベクターあるいは本発明のモノクローナル抗体またはそれの軽鎖もしくは重鎖を発現するポリヌクレオチドを用いて、インビボまたはインビトロで、形質転換、形質導入、または、感染された細胞を含む。本発明の組換ベクターを含む宿主細胞(宿主染色体に安定的に組み込まれたかまたは組み込まれていないのいずれか)はまた、「組換宿主細胞」として呼ばれ得る。本発明の使用のために好ましい宿主細胞は、CHO細胞、NS0細胞、HeLa、SP2/0細胞またはCO細胞である。本発明の使用のための付加的な宿主細胞は、植物細胞、酵母細胞、他の哺乳動物細胞、および、原核細胞を含む。
【0044】
本発明は、包装材料および上記包装材料内に含まれた本発明のFabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体を含む製造品を具体化し、ここで、包装材料は、Fabフラグメントまたはヒト化モノクローナル抗体がGluRを無効にすることまたは患者におけるGluRレベルを減少することを示す添付文書を含む。
【実施例】
【0045】
(生物学的アッセイ)
(グルカゴン受容体(GlucR)膜調製物)
結合研究のための膜調製物を、クローン化したヒト、マウス、カニクイザル、またはラットのグルカゴン受容体を発現する293HEK細胞から準備する。各クローン細胞株を、まず懸濁培養物として培養し、凍結した細胞ペレットを、25mMのTris(pH 7.5)、1mMのMgCl、Complete(登録商標)EDTAフリープロテアーゼ阻害錠剤(Roche Applied Science)、および、20U/mlのDNaseI(Sigma Chemical Company)から構成される膜調製バッファ内で4℃にて再懸濁する。細胞を、モータ駆動テフロン(登録商標)ガラスPotter−Elvehjemホモジナイザーを25ストローク用いて均質化し、その後、1800×gで15分間4℃にて遠心分離する。上清物を収集し、ペレットを膜調製バッファ内で再懸濁し、再均質化し、遠心分離する。第2の上清物を、第1の上清物と組み合わせ、再度1800×gで15分間、遠心分離して分ける。分けられた上清物を高速チューブに移し、25000×gで30分間4℃にて遠心分離する。膜ペレット(P2)を膜調製バッファ内(DNAaseを含まず)に再懸濁し、分割し、ドライアイス上で急速冷凍し、必要となるまで−80℃にて保管する。
【0046】
(シンチレーション近接アッセイ(SPA)による[125I]グルカゴン結合)
競合受容体/リガンド結合実験を、シンチレーション近接アッセイ(SPA)フォーマットに適合させる。インキュベーションを、底が透明な、不透明96ウェルマイクロプレート内で行う。化合物を、25mMのHepes(pH7.4),2.5mMのCaCl,1mMのMgCl,0.1%の脂肪酸フリーBSA,0.003%のtween−20およびComplete(登録商標)EDTAフリープロテアーゼ阻害錠剤から構成される結合バッファ内で連続的に3倍希釈する。P2膜(上で調製された)を、各受容体調製物から結合バッファ内で希釈し、次いで、希釈された化合物を加え、その後、1%の脂肪酸フリーBSAおよび0.15nMの[125I]−グルカゴン(Perkin−Elmer)で事前にブロックされた0.15mgのコムギ胚芽凝集素(WGA)SPAビーズ(GE Healthcare)を追加する。プレートを粘着密閉テープで密封し、回転させて混合し、室温にて12時間インキュベートする。(WGA SPAビーズにごく接近している)レセプターに結合する放射能を、PE LifeおよびAnalytical Sciences Trilux Microbetaプレートシンチレーションカウンター上で定量化し、カウント毎分(CPM)で表す。結合の合計を、追加された化合物がない状態で決定し、非特異的結合を1uMのグルカゴン(Lilly Research Labs)を追加することにより決定する。1uMの非標識グルカゴンの最終濃度では、バックグラウンドのレベルまで、[125I]グルカゴン結合を完全に阻害することができる。
【0047】
([125I]グルカゴン結合データ分析)
化合物の濃度曲線に関するCPMの生データを、個々のCPM値から非特異的結合を差し引き、非特異的結合もまた収集した結合シグナルの合計で割ることにより、阻害パーセントに変換する。データを、4つのパラメータ(最大曲線、最小曲線、IC50、Hillスロープ)非線形回帰ルーティン(XLFit バージョン3.0:Activity Base,IDBS)を用いて分析する。放射性リガンド結合を阻害した競合物により決定された平衡解離定数(Ki)を、式「Ki=IC50/(1+D/Kd)」に基づいたIC50絶対値から算出し、ここで、Dは、実験に用いられた放射性リガンドの濃度に相当し、Kdは、各個々の受容体種に関するアッセイにおける、[125I]グルカゴンの平衡結合親和性定数に相当する。
【0048】
(グルカゴン誘導cAMP機能的アンタゴニストアッセイ)
機能的アンタゴニスト活性を、同じクローン化したラット、マウス、カニクイザル、およびヒトのグルカゴン受容体−293HEK細胞株を用いて、グルカゴンの最大下投与量での細胞内cAMPの増加における投与依存性阻害から決定する。細胞内cAMPレベルの定量を、Perkin Elmer(6760625R)からの増幅ルミネセンス近接ホモジニアスアッセイ(Alpha Screen)を用いて行う。つまり、細胞内で生成されたcAMPを、ビオチン化cAMPストレプトアビジン被覆ドナービーズと、被覆抗cAMP抗体アセプタービーズとの結合について競争させる。細胞内のcAMPが増加すると、アセプタービーズ−ビオチン化cAMP−ドナービーズ複合体の崩壊が起こる。機能的アッセイを、Mg+2およびCa+2を含むHBSS内の0.25mMのIBMXとともに、10mMのHepes(pH7.4)内で行う。クローン化したグルカゴン受容体−293HEK細胞を、20ulsの全容量においてキットから、1ウェル当り2500細胞およびビオチン化cAMPの1ユニット/ウェルにて懸濁する。細胞を、標準曲線として用いるために、3倍で連続的に希釈された化合物または3倍で連続的に希釈されたcAMPのうちいずれかの20ulsを用いて、30分間室温にてプレインキュベートする。最大細胞内cAMPの90%を生成するのに十分な投与量である、300pMグルカゴン(3×)の20ulsを追加することで、反応を開始する。暗闇の中60分間室温にて置いた後、1ウェル当りキットドナービーズおよびアセプタービーズを各々1ユニット含む、10mMのHepes(pH7.4)中の1%のIGEPAL CA630(Sigma)および0.1%の脂肪酸フリーBSA(Gibco)から構成される溶解バッファーの30ulsを追加することで、反応を停止する。プレートを、光からドナービーズおよびアセプタービーズを保護するために、ホイルで包み、Titertekシェーカー上で中速にて30秒間混合する。一晩室温にてインキュベーションした後、プレートを、Packard Fusion(商標)−α Instrument上で読み取る。
【0049】
(機能的cAMP活性のデータ分析)
Alpha Screenの単位を、cAMP標準曲線に基づいて1ウェル当りに生成されたcAMPのpMolに変換する。化合物の存在下で生成されたcAMPのpMolを、グルカゴンのみの最大下投与量に対する最大応答パーセントに変更する。各実験内において、pMolのcAMPにおいて50%の応答を生成するのに必要なグルカゴン濃度を決定する。このEC50濃度を、実行(runs)からKbまでの間の結果を標準化するために用いる。ここで、Kb=(化合物のEC50)/[1+(使用されたグルカゴンのpM/グルカゴン投与応答に対するpMのEC50)]。データを、4つのパラメータ(最大曲線、最小曲線、IC50、Hillスロープ)非線形回帰ルーティン(XLFit バージョン3.0:Activity Base,IDBS)を用いて分析する。
【0050】
(実施例)
抗体の例(Ab−1、Ab−2、Ab−3、Ab−4、Ab−5、Ab−6およびAb−7)を、当該技術分野に知られるように作製し精製する。適切な宿主細胞(例えば、HEK293EBNAまたはCHO)を、最適な所定の軽鎖を用いて抗体を、重鎖ベクター比または軽鎖(配列番号:70,72,74,76に提示)および重鎖(配列番号:71,73,75,77,78,79,80に提示)の両方をコードする単一ベクター系に分泌するために、発現系を用いて一時的にまたは安定的にトランスフェクトする。抗体が分泌された精製培地を、多くの一般的な技術のうちのいずれかを用いて精製する。例えば、培地を、適合バッファ(例えば、リン酸緩衝食塩水(pH7.4))で平衡化されたタンパク質AまたはGセファロースFFカラムに都合良く適用し得る。カラムを洗浄して非特異的結合成分を除去する。結合された抗体を、例えば、pH勾配(例えば、0.1M リン酸ナトリウムバッファ(pH6.8)〜0.1Mクエン酸ナトリウムバッファ(pH2.5))により溶出する。抗体の分画を、例えばSDS−PAGEにより検出し、その後保存する。更なる精製を使用目的により任意に行う。抗体を一般的な技術を用いて濃縮および/または無菌濾過し得る。可溶性の凝集体および多量体を一般的な技術(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、または、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)を用いて効果的に除去し得る。これらのクロマトグラフィー工程後における抗体の純度は、99%より大きい。生成物を−70℃にて迅速に凍結し得るか、または、凍結乾燥し得る。
【0051】
Fab発現を大腸菌において達成し、ここで、Fab分子は、細胞膜周辺腔へ分泌される。細胞壁を浸透圧衝撃により破壊し、Hisタグを含むFabをIMACカラム上で精製する。
【0052】
表1は、本発明にかかる抗体の例において用いられたCDRの組み合わせを提示する。完全抗体軽鎖は、3つの軽鎖CDRによって間の空間を占められた軽鎖フレームワーク配列(フレームワーク1(配列番号23)−CDRL1−フレームワーク2(配列番号24)−CDRL2−フレームワーク3(配列番号25)−CDRL3−フレームワーク4(配列番号26)および軽鎖定常領域(配列番号53))と結合する。重鎖フレームワーク配列は3つの重鎖CDRによって間の空間を占められ(フレームワーク5(配列番号27)−CDRH1−フレームワーク6(配列番号28)−CDRH2−フレームワーク7(配列番号29)−CDRH3−フレームワーク8(配列番号30))、次いで、重鎖CH1定常領域(配列番号51)の後に、Fabフラグメントには見られないAbのFcドメインが続く(配列番号52、ここで、X10=P;X15=E;X16=A;X17=A;X79=N;X229は見られない)。
【0053】
(表1)
【表1】

【0054】
例1から例7の抗体の例およびそのFabフラグメントは全て、50nM未満のKiでの上記グルカゴン受容体結合アッセイにおいて、ヒト、マウス、カニクイザルおよびラットのグルカゴン受容体に結合するグルカゴンを阻害する。
【0055】
(例4(Ab4)の抗体のインビトロでの活性)
(表2) 機能的cAMP拮抗
【表2】

【0056】
このアッセイは、ナノモル濃度においてGluRに結合するAb4がラットまたはヒトのグルカゴン受容体細胞株の下流活性(down stream activities)をブロックでき、かつ、細胞によるcAMP生成を減少させることができることを示す。
【0057】
(表3) 例4の完全抗体および各Fabに関するインビトロでのKi(nM)
【表3】

【0058】
このアッセイは、インビトロでのグルカゴン競合結合アッセイにおいてAb4が高い親和性(Ki)にてヒト、マウス、ラット、カニクイザル由来のグルカゴン受容体に結合し、ヒトのGLP−1受容体に対しては低い親和性であることを示す。
【0059】
(例4(Ab4)の抗体のインビボでの活性)
約8週齢および体重約400gのZDFラットに、例4(すなわち、Ab4)にかかる抗体またはヒトIgG(hIgG4)コントロールを単回皮下注射により投与する。各治療群は、6つの動物からなる。血液サンプルは、3もしくは15mg/kgのAb4または15mg/kgのhIgGコントロールの投与前、および、単回皮下投与後の13日間毎日、グルコース測定を取得する。GLP−1分析にための血液サンプルを、3もしくは15mg/kgのAb4または15mg/kgのhIgGコントロールの投与前、および、皮下投与後の2、4、6、および、8日間において、取得する。
【0060】
(表4) ZDFラットに対する、3もしくは15mg/kgのAb4、または、15mg/kgのネガティブコントロールの単回皮下投与後における血中グルコースレベル
【表4】

【0061】
1つの値(*)を除いて群当り6匹のラットがいた。ここで、1匹の動物のAQLを測定した結果、n=5となった。
【0062】
(表5) ZDFラットに対する、3もしくは15mg/kgのAb4、または、15mg/kgのネガティブコントロールの単回皮下投与後における血漿GLP−1レベル
【表5】

【0063】
平均および標準偏差を、定量化可能なGLP−1レベルを有したラットのみから決定し、数は、定量化可能なGLP−1レベルを有した群当りの動物数を示す。定量化可能なGLP−1レベルを有した動物がいない場合の結果を、6pMより少ないとして列挙する。不検出は、値が検出されなかったことを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fabフラグメントがヒト、ラットおよびマウスのグルカゴン受容体に結合可能で、かつ、50nM未満のKiで各受容体に結合するグルカゴンを阻害することを特徴とする、Fabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項2】
Fabフラグメントが50nM未満のKiでカニクイザルのグルカゴン受容体に結合するグルカゴンを阻害することを特徴とする、請求項1記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項3】
Fabフラグメントが、以下:
(i) 軽鎖CDRL1: SXSSSVSYXH 配列番号53
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSXLAH 配列番号54
(iii)軽鎖CDRL3: XRSTXPPT 配列番号55
(iv) 重鎖CDRH1: GDDITSGYX 配列番号56
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTXYXPSLKS 配列番号57
(vi) 重鎖CDRH3: PPX10YYGFGPYAX11DY 配列番号58
ここで、以下のとおりであること
X=YまたはA X=WまたはH
=MまたはI X=N,DまたはE
=NまたはY X=Y,Q,SまたはV
=QまたはL X=N,SまたはI
=QまたはW X10=GまたはA
=LまたはI X11=MまたはL
を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項4】
X=A X=H
=I X=DまたはE
=Y X=Y,QまたはS
=Q X=S
=Q X10=GまたはA
=L X11=L
を特徴する、請求項3に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項5】
Fabフラグメントが、以下のCDR配列を備え、
CDRL1 12345678910
SASSSVSYIH
CDRL2 1234567
TTSYLAH
CDRL3 123456789
QQRSTLPPT
CDRH1 12345678910
GDDITSGYHD
CDRH2 12345678910111213141516
YISYSGSTYYSPSLKS
CDRH3 1234567891011121314
PPGYYGFGPYALDY
ここで、上記Fabフラグメントは、以下から構成される群より選択された1つ、2つ、または、3つのアミノ酸置換を有すること
CDRL1: A2Y,I9M;
CDRL2: Y4N;
CDRL3: Q1L,Q2W,L6I;
CDRH1: H9W,D10E,D10N;
CDRH2: Y9Q,Y9S,Y9V,S11N,S11I;
CDRH3: G3A,L12M
を特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項6】
Fabフラグメントが、以下を備えること
(i) 軽鎖CDRL1: SASSSVSYIH (配列番号3)
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSYLAH (配列番号5)
(iii)軽鎖CDRL3: QQRSTLPPT (配列番号6)
(iv) 重鎖CDRH1: GDDITSGYHD (配列番号12)
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTYYSPSLKS (配列番号15)
(vi) 重鎖CDRH3: PPGYYGFGPYALDY (配列番号21)
を特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項7】
Fabフラグメントが、以下を備えること
(i) 軽鎖CDRL1: SASSSVSYIH (配列番号3)
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSYLAH (配列番号5)
(iii)軽鎖CDRL3: QQRSTLPPT (配列番号6)
(iv) 重鎖CDRH1: GDDITSGYHD (配列番号12)
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTQYSPSLKS (配列番号17)
(vi) 重鎖CDRH3: PPGYYGFGPYALDY (配列番号21)
を特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項8】
Fabフラグメントが、以下を備えること
(i) 軽鎖CDRL1: SASSSVSYIH (配列番号3)
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSYLAH (配列番号5)
(iii)軽鎖CDRL3: QQRSTLPPT (配列番号6)
(iv) 重鎖CDRH1: GDDITSGYHD (配列番号12)
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTYYSPSLKS (配列番号15)
(vi) 重鎖CDRH3: PPAYYGFGPYALDY (配列番号22)
を特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項9】
Fabフラグメントが、以下を備えること
(i) 軽鎖CDRL1: SASSSVSYIH (配列番号3)
(ii) 軽鎖CDRL2: TTSYLAH (配列番号5)
(iii)軽鎖CDRL3: QQRSTLPPT (配列番号6)
(iv) 重鎖CDRH1: GDDITSGYHE (配列番号13)
(v) 重鎖CDRH2: YISYSGSTSYSPSLKS (配列番号18)
(vi) 重鎖CDRH3: PPAYYGFGPYALDY (配列番号22)
を特徴とする、請求項1または2に記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項10】
Fabフラグメントが、以下を備えること
軽鎖可変フレームワーク領域:フレームワーク1(配列番号23);フレームワーク2(配列番号24);フレームワーク3(配列番号25);フレームワーク4(配列番号26);および
重鎖可変フレームワーク領域:フレームワーク5(配列番号27);フレームワーク6(配列番号28);フレームワーク7(配列番号29);フレームワーク8(配列番号30)
を特徴とする、請求項1から9のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項11】
(i)配列番号65の2つの軽鎖および配列番号66の2つの重鎖;
(ii)配列番号65の2つの軽鎖および配列番号67の2つの重鎖;
(iii)配列番号65の2つの軽鎖および配列番号68の2つの重鎖;または
(iv)配列番号65の2つの軽鎖および配列番号69の2つの重鎖
を備えることを特徴とする、ヒト化モノクローナル抗体。
【請求項12】
請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体をコードする核酸配列を備えることを特徴とする、ベクター。
【請求項13】
請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体をコードする異種ポリヌクレオチド配列を備えることを特徴とする、宿主細胞。
【請求項14】
有効量の請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体および薬学的に受容可能な賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項15】
有効量の請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体をそれらを必要とするヒト患者に投与することを含む、ヒトにおけるI型糖尿病またはII型糖尿病を治療あるいは体重減少を達成するための方法。
【請求項16】
薬剤として使用される、請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項17】
ヒトにおけるI型糖尿病またはII型糖尿病の治療あるいは体重減少の達成のために用いられる、請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項18】
ヒトにおけるI型糖尿病またはII型糖尿病の治療または予防あるいは体重減少の達成のための薬剤の製造における、請求項1から11のうちいずれか一つに記載のFabフラグメントまたは当該Fabフラグメントを備えるヒト化モノクローナル抗体の使用。

【公表番号】特表2011−518125(P2011−518125A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501904(P2011−501904)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/037349
【国際公開番号】WO2009/120530
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】