説明

グルカンの調製

粒状β-グルカンを昇圧及び昇温下に可溶化して可溶性β-グルカンを調製する。該方法は、安全且つ経済的であり、改良された製薬剤である生成物を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本明細書は、2006年6月15日に出願された“GLUCAN PREPARATIONS”と題する米国特許出願第60/813,971号の権利を主張する。
本発明は、β-グルカンを含む組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、可溶性β-グルカン組成物及びその幹細胞動員における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカンは、グルコースのポリマーとして一般に説明されており、酵母、細菌、真菌並びにエンバク及びオオムギのような植物に由来する。β(1-3)-結合グルコピラノース主鎖を含有するグルカン類は、生物学的活性を有することが知られており;とりわけ、これらのグルカンは、免疫系を調節すること、最近では、造血幹及び前駆細胞(HSPC)の動員を誘発することが証明されている。
各種癌の治療は、高投与量の化学療法または放射線療法のような細胞減少療法をますます必要としている。これらの療法は、患者の白血球数を減少させ、骨髄造血活性を抑制し、患者の感染及び/または出血リスクを増大させる。結果として、細胞減少療法を受けている患者は、骨髄機能(造血)を復元させる療法も受けなければならない。
幹細胞動員及び技術の進歩にもかかわらず、20〜25%までの患者は、貧弱な動員しか示さず、自己移植を再開することはできない。PGG β-グルカンは、可溶性の酵母由来多糖類であり、造血幹及び前駆細胞(HSPC)の動員を誘発することは以前に証明されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明においては、酵母を培養し、採取し、精製して、汚染性の揮発性有機化合物(VOC)類を本質的に含まない粒状β-グルカンを得る。粒状β-グルカンは、酵母細胞またはそのフラグメントを、宿主細胞不純物を除去する1連のアルカリ、界面活性剤及び酸性抽出に供することによって調製する。
上記の方法によりまたは従来技術法により製造した粒状β-グルカンは、昇温及び昇圧下に酸性溶液中で可溶化する。その後、得られた可溶性β-グルカンは、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用し、その後、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、清澄化し精製する。製薬剤として、上記可溶性β-グルカンは、高めの投与量で、観察される副作用または有害事象を増大させることなく、実際には減少させて投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】粒状β-グルカンの製造方法の略図である。
【図2】可溶性β-グルカンの製造方法の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
粒状β-グルカン
図1は、不溶性または粒状β-グルカンを酵母から製造するための、工程12〜22を含む方法10の概要である。工程12においては、酵母培養物を、典型的には、振盪フラスコまたはファーメンターにおいて培養する。本発明において使用する酵母株は、任意の株であり得、それらの例としては、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces(S.) cerevisiae)、サッカロミセス デルブルエキイ(S. delbrueckii)、サッカロミセス ロゼイ(S. rosei)、サッカロミセス マイクロエリプソデス(S. microellipsodes),、サッカロミセス カールスベルゲンシス(S. carlsbergensis)、サッカロミセス ビスポラス(S. bisporus)、サッカロミセス フェルメンタチ(S. fermentati)、サッカロミセス ルーキシイ(S. rouxii)、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クリべロミセス ラクチス(Kluyveromyces(K.) lactis)、クリベロミセス フラギリス(K. fragilis)、クリベロミセス ポリスポラス(K. polysporus)、カンジダ アルビカンス(Candida(C.) albicans)、カンジダ クロアカエ(C. cloacae)、カンジダ トロピカリス(C. tropicalis)、カンジダ ユティリス(C. utilis)、ハンセヌラ ウィンゲイ(Hansenula(H.) wingei)、ハンセヌラ アルニ(H. arni)、ハンセヌラ ヘンリッキー(H. henricii)、ハンセヌラ アメリカーナ(H. Americana)、ハンセヌラ カナディエンシス(H. canadiensis)、ハンセヌラ カプスレータ(H. capsulate)、ハンセヌラ ポリモルファ(H. polymorpha)、ピッチア クリュベリ(Pichia (P.) kluyveri)、ピッチア パストリス(P. pastoris)、ピッチア ポリモルファ(P. polymorpha)、ピッチア ローダネシス(P. rhodanesis)、ピッチア オーメリ(P. ohmeri)、トルロプシス ボビナ(Torulopsis(T.) bovina)及びトルロプシス グラブラータ(T. glabrata)がある。
【0006】
大量生産の1つの実施態様においては、酵母の培養を開始し、振盪フラスコ培養から250L規模の生産ファーメンターへ段階的に拡大させる。酵母は、葉酸、イノシトール、ニコチン酸、パントテン酸(カルシウム及びナトリウム塩)、ピリドキシン HCl及びチミン HClのようなビタミン類並びに塩化(第二)鉄六水和物、塩化亜鉛、塩化カルシウム二水和物、モリブデン酸、硫酸銅五水和物及びホウ酸のような化合物からの微量金属に富むグルコース-硫酸アンモニウム培地中で増殖する。また、Antifoam 204のような消泡剤も、約0.02%の濃度で添加し得る。
生産培養物を供給バッチ方式においてグルコース制限下に維持する。シード発酵中は、サンプルを定期的に採取して、生産ファーメンターに接種する前に、培養物の光学密度を測定する。また、生産発酵中も、サンプルを定期的に採取して、培養物の光学密度を測定する。発酵の終了時に、サンプルを採取して、光学密度、乾燥質量及び微生物純度を測定する。
必要に応じて、発酵は、培養物のpHを少なくとも11.5に上昇させることによって、或いは培養物を遠心分離して細胞を増殖培地から分離することによって終了させ得る。さらに、所望する精製β-グルカンの粒度及び形状次第では、酵母細胞を崩壊させ或いはフラグメント化する工程を実施し得る。任意の既知の化学、酵素または機械方法或いはそれらの任意な組合せを使用して、酵母細胞の崩壊またはフラグメント化を実施し得る。
工程14において、β-グルカンを含有する酵母細胞を採取する。大量のβ-グルカンを生産する場合、酵母細胞は、典型的には、連続流遠心分離法を使用して採取する。
【0007】
工程16は、1種以上のアルカリ溶液、界面活性剤またはそれらの組合せを使用しての酵母細胞の初期抽出を示す。適切なアルカリ溶液は、例えば、0.1M〜5MのNaOHである。適切な界面活性剤としては、例えば、オクチルチオグルコシド、Lubrol PX、Triton X-100、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、Nonidet P-40、Tween 20等がある。また、イオン性(アニオン性、カチオン性、両性)界面活性剤(例えば、スルホン酸アルキル、塩化ベンズアルコニウム等)及び非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等)も使用し得る。界面活性剤濃度は、変動し、一部では、使用する界面活性剤による。酵母細胞物質は、1回以上抽出し得る。
抽出は、通常、約70℃〜約90℃の温度で実施する。温度、使用する試薬及びその濃度にもよるが、各々の抽出の時間は、約30分〜約3時間である。
各抽出後、β-グルカンを含有する固形相を、遠心分離または連続流遠心分離を使用して集め、その後の工程のために再懸濁させる。可溶化汚染物は、遠心分離中に、液相において除去し、一方、β-グルカンは、不溶性細胞壁物質中に残存する。
【0008】
1つの実施態様においては、4回の抽出を実施する。最初の抽出においては、採取した酵母細胞を1.0MのNaOHと混合し、90℃に約60分間加熱する。2回目の抽出は、アルカリ/界面活性剤抽出であり、不溶性物質を0.1MのNaOH及び約0.5%〜0.6%のTriton X-100中に再懸濁させ、90℃に約120分間加熱する。3回目の抽出は、Triton X-100の濃度が約0.05%であり、そして時間を約60分間に短縮する以外は、2回目の抽出と同様である。4回目の抽出においては、不溶性物質を約0.5%のTriton-X 100に再懸濁させて、75℃に約60分間加熱する。
アルカリ及び/または界面活性剤抽出物は、数種の外来酵母細胞物質を可溶化し、除去する。アルカリ溶液は、タンパク質、核酸、マンナン及び脂質を加水分解する。界面活性剤は、脂質及び他の疎水性不純物の除去を促進し、改良されたβ-グルカン生成物が得られるというさらなる利点を提供する。
以前の精製手法によれば、微量の揮発性有機化合物(VOC)類を含有するβ-グルカンが生じていた。以前の研究により、VOC類は、種々のVOC類に急速に分解する遊離の脂肪酸としての脂肪分の放出によって生じることが証明されている。多くの場合、検出されるその量は害を及ぼすほどに十分ではないが、如何なるVOC類も本質的に含まないところのヒトまたは他の動物に投与する生成物を有することは明確な利点である。
【0009】
好気性及び嫌気性増殖によって産生させた酵母サッカロミセス セレビシエの脂肪含有量は約3%〜約8%である。脂肪含有量は、酵母の増殖条件に応じて変動する。下記の表1は、酵母サッカロミセス セレビシエの典型的な脂肪組成の概要を示している。データは、下記の参考文献による:
・Blagovic, B., J. Rpcuc, M. Meraric, K. Georgia and V. Maric. 2001. Lipid composition of brewer's yeast. Food Technol. Biotechnol. 39:175-181;
・Shulze. 1995. Anaerobic physiology of Saccharomyces cerevisiae. Ph.D. Thesis, Technical University of Denmark;
・Van Der Rest, M. E., A. H. Kamming, A Nakano, Y. Anrak, B. Poolman and W. N. Koning. 1995. The plasma membrane of Saccharomyces cerevisiae: structure, function and biogenesis. Microbiol. Rev. 59:304-322。

表1

*脂質10:0〜14:1を含有する。

酵母細胞壁物質は、典型的には、酵母のタイプ及び増殖条件に応じて10〜25%の脂肪分を含有する。現在のところ、酵母細胞壁物質のβ-グルカンへの加工中に、全てではない脂肪を、遠心分離及び洗浄工程によって除去している。従って、典型的な調製物は、3〜7%の脂肪分を有し得る。
【0010】
製造工程は、典型的には、マンノタンパク質、脂質及び酵母細胞壁の他の望ましくない成分を除去する工程を含む。この処理に共通する幾つかの重要な工程は、別個の洗浄工程において酸及びアルカリを使用してある種の細胞壁成分を遊離させる各種の洗浄工程である。これらの工程の幾つかは、アルカリ、通常は水酸化ナトリウムを液体細胞壁懸濁液に添加するアルカリ洗浄法を使用する。アルカリの目的の1つは、脂質の遊離脂肪酸を形成させることによって脂質を除去することである。結果は、β-グルカンの脂肪含有量の低減である。
酵母β-グルカンの製造において一般的に使用するアルカリ洗浄工程は、残留脂肪酸及び増強された反応性を有する部分分解脂肪トリグリセリドを置き去りにする。アルカリ洗浄工程の直接の結果は、各種の脂肪分解酸化生成物に急速に分解する反応性遊離脂肪酸の放出である。
多くの研究者により、ポリ不飽和脂肪が保存中に分解することは詳細に説明されている。トリグリセリドは酸素の存在下に自己酸化し得るけれども、より一般的には、遊離脂肪酸は酸化的分解を受ける。トリグリセリドとしても知られている脂質の分解における通常の過程は、トリグリセリドからの遊離脂肪酸の遊離である。遊離脂肪酸は、生きている生物体の組織中には実質上存在しないが、分解は、生物体が死亡するか或いは生物体が脂肪種子においてまたは獣脂の精製において生じるようなさらなる加工のために採取される場合は一般的である(Nawar, W. W. Chapter 4. Lipids. In: Food Chemistry. (著作物) 1985. Editor: Owen R. Fennema. Marcel Dekker, Inc.; DeMan, J. M. Chapter 2. Lipids In: Principles of Food Chemistry (著作物) 1985. AVI Publishing Co., Inc.)。多くのトリグリセリドにおいては、グリセリド分子の2-位置は、不飽和脂肪によって占められる。β-グルカンのアルカリ処理の場合、この処理は、以下で説明するようにして分解する不飽和脂肪酸を放出する周知の鹸化過程である。
【0011】
脂肪酸化過程は、数種のメカニズムを有する。最も一般的なメカニズムは、自己酸化である。この過程は、オレフィン系化合物から水素を除去してフリーラジカルを発生させることによって開始する。水素の除去は、脂肪中の二重結合に隣接する炭素原子において生じる。反応は、UV光線、金属、一重項酸素等のような種々のフリーラジカル発生因子によって開始する:
RH → R + H (フリーラジカル電子の発生)
第2工程は、ペルオキシフリーラジカルの形成を起す酸素の付加であり、このフリーラジカルは、連鎖反応を、他の不飽和脂肪酸から水素を引出すことによって伝播する:
R + O2 →RO2 (反応性酸素化フリーラジカルの形成)
RO2 + RH → ROOH + R (ROOHは、VOC類のような
二次反応生成物に分解する反応性ヒドロペルオキシドである)
上記連鎖反応は、フリーラジカル自体と結合して非反応性生成物を生成するフリーラジカルによって連鎖反応が終わるまで続く:
R + R → R-R
R + RO2 → RO2R
下記は、VOC類の形成が生じる化学反応である。リノール酸を該化学反応のモデルとして使用するが、酵母細胞壁中及び酵母β-グルカン調製物中に存在し、同じ最終生成物を生成する他の不飽和脂肪酸が存在する:
ROOH → RO + OH-
RO →開裂反応は、アルデヒド類、アルキル基(炭化水素及びアルコールを形成する)、エステル類、アルコール類及び炭化水素類を形成する。

【化1】

エポキシドの分解により、下記のように数種の生成物が生成する:
→ C-C-C-C-C-C (ヘキサン) + O=C-C=C-C=O (2-ブテン-1,4 ジアル)
同様に、エポキシドが2及び3炭素結合間に形成する場合、化学反応は、下記に至る:
【化2】

【0012】
同様な様式において、β-グルカン調製物中で同定されるいずれのVOCの形成も、脂肪酸の酸化中に形成されるペルオキシド反応種の分解によって生じる自己酸化反応によって説明し得る。従って、β-グルカン調製物から可能な限り多くの脂肪を除去することにより、脂肪のみならずVOC汚染に関してもより純粋な生成物が生成する。
図1に戻ると、精製過程における次の工程は、グリコ−ゲンを除去する工程18で示す酸抽出である。1回以上の酸性抽出物を、アルカリ/界面活性剤抽出した物質のpHを約5〜9に調整し、この物質を約0.05M〜約1.0Mの酢酸中に約70℃〜100℃の温度で約30分〜約12時間混合することによって行う。
1つの実施態様においては、アルカリ/界面活性剤抽出の遠心分離後に残存する不溶性物質を水中に再懸濁させ、溶液のpHを濃HClによって約7に調整する。上記物質を十分な氷酢酸と混合して0.1Mの酢酸溶液にし、この溶液を90℃に約5時間加熱する。
工程20においては、不溶性物質を洗浄する。典型的な洗浄工程においては、上記物質を、およそ室温の精製水中で最低約20分間混合する。水洗を2回実施する。その後、精製β-グルカン生成物を工程22に示すように収集する。再度、収集物を、典型的には、遠心分離または連続流遠心分離によって実施する。
この時点で、精製した粒状β-グルカン生成物が形成される。生成物は、出発物質に応じて、完全グルカン粒子またはその任意の1部の形であり得る。さらに、大きいサイズの粒子は、小粒子に破砕し得る。生成物の範囲としては、生体内形態に実質的に保持されているβ-グルカン粒子(完全グルカン粒子)からサブミクロンサイズの粒子にまで至る。
当該技術においては周知のとおり、微粒子状β-グルカンは、多くの食品、サプリメント及び製薬用途において有用である。また、粒状β-グルカンは、さらに加工して水性の可溶性β-グルカンを調製し得る。
【0013】
可溶性β-グルカン
図2は、水性の可溶性β-グルカンを製造する工程26〜32を含む方法24の概要である。方法24において使用する出発物質は粒状β-グルカンであり、このグルカンは、方法10によってまたは多くの従来使用されている方法のいずれかによって製造し得る。粒状β-グルカン出発物質は、完全グルカン粒子からサブミクロンサイズの粒子に至るまでの粒度範囲にあり得る。
工程26においては、粒状β-グルカンは、圧力及び昇温下において酸処理を受けて可溶性β-グルカンを生じる。ペレット化した微粒子状β-グルカンを、密閉可能な反応容器内で、緩衝溶液中に再懸濁させ、混合し、pH 3.6とする。緩衝剤試薬を、最終懸濁混合物のリットル毎(総容量)が約0.61gの酢酸ナトリウム、5.24mlの氷酢酸及び430gのペレット化粒状β-グルカンを含有するように添加する。容器を窒素で掃気して酸素を除去し、反応容器内の圧力を上げる。
特定の実施態様においては、容器内部の圧力を241.32kPa(35psi)とし、懸濁液を約135℃に約4.5〜5.5時間加熱する。これらの条件下において、β-グルカンが可溶化することが判明した。また、温度が135℃から低下するにつれて、可溶化の量も低下する。
この温度及び圧力は、今述べた実施態様において必要であることに留意すべきである。温度及び圧力の最適化は、反応条件及び/または試薬のいずれかを変更する場合に必要であり得る。
上記の上昇させた圧力及び温度は、危険な化学薬品の使用を当該方法から事実上排除することにより、β-グルカンを可溶化する従来技術方法を上回る利点を提供する。従来使用されている危険な化学薬品としては、例えば、エーテル及びエタノールのような可燃性のVOC類、ギ酸及び硫酸のような超強酸及び極めて高いpHを有する苛性溶液がある。本発明の方法は、安全であるのみならず、使用する各種化学薬品数及び関連工程数を減じることにより経済的でもある。
加熱処理の正確な時間は、典型的には、反応器内容物をサンプリングしゲル透過クロマトグラフィー(GPC)分析を行うことにより、実験的に決定する。その目的は、下記で説明する高解像力-GPC(HR-GPC)プロフィール及び不純物レベルについての規格を満たす可溶性物質の収率を最大限にすることである。β-グルカンを可溶化した時点で、混合物を冷却して反応を停止させる。
【0014】
粗可溶化β-グルカンは、洗浄して、この時点である種の用途においては使用し得る;しかしながら、製薬用途においては、さらなる精製を行う。下記の工程の1以上の任意の組合せを使用して、可溶性β-グルカンを精製することができる。また、当該技術において既知の他の手段も必要に応じて使用し得る。工程28においては、可溶性β-グルカンを清澄化する。適切な清澄化手段としは、例えば、遠心分離または連続流遠心分離法がある。
次に、可溶性β-グルカンは、工程30に示すようにして濾過し得る。1つの実施態様においては、上記物質を、例えば、デプス(depth)フィルターにより、次いで0.2μmフィルターにより濾過する。
工程32は、さらなる精製のためにクロマトグラフィーを使用する。可溶性β-グルカンは、クロマトグラフィー用の調製における工程28または工程30のある時点において状態調節し得る。例えば、クロマトグラフィー工程が疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を含む場合、可溶性β-グルカンは、硫酸アンモニウムと酢酸ナトリウムの溶液によって適切な電導度及びpHに状態調節し得る。適切な溶液は、3.0Mの硫酸ナトリウム、0.1Mの酢酸ナトリウムであり、この溶液を使用してpHを5.5に調整する。
HICの1つの例においては、カラムを、Tosah Toyopearl Butyl 650M 樹脂(または等価物)で充填する。カラムを充填し、製造者の推奨に従い適正化する。
負荷させる前に、カラム平衡化流入物を、pH、電導度及びエンドトキシン分析のためにサンプリングする。高めの濃度の硫酸アンモニウム溶液中で状態調節した可溶性β-グルカンを充填し、次いで洗浄する。可溶性β-グルカンの性質は、生成物の大部分がHICカラムに結合するような性質である。低分子量生成物並びに幾分かの高分子量生成物は洗い流す。カラム上に残存する可溶性β-グルカンを、0.2Mの硫酸アンモニウム、0.1Mの酢酸ナトリウム、pH 5.5のような緩衝液で溶出させる。複数回のサイクルを、上記ヘキソース負荷が樹脂の容量を超えないのを確実にするためには必要とし得る。各画分を集めて、可溶性β-グルカン生成物について分析する。
【0015】
使用し得るもう1つのクロマトグラフィー工程は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)である。GPCの1つの例においては、Tosah Toyopearl HW55F樹脂または等価物を使用して、充填し、製造業者が推奨しているようにして適正化する。カラムを平衡化し、クエン酸緩衝生理食塩水(0.14Mの塩化ナトリウム、0.011Mのクエン酸ナトリウム、pH 6.3)を使用して溶出させる。負荷させる前に、カラム洗浄液サンプルを、pH、導電度及びエンドトキシン分析のために採取する。この場合も、複数回のクロマトグラフィーサイクルを、上記負荷がカラムの容量を超えないのを確実にするためには必要とし得る。
溶出液を各画分において集め、各画分からのサンプルの種々の組合せを分析して、最適なプロフィールを有する組合せを決定する。例えば、各サンプル組合せをHR-GPCによって分析して最適なHR-GPCプロフィールを有する組合せを得ることができる。1つの最適プロフィールにおいては、380,000Daを越える可溶性β-グルカンである高分子量(HMW)不純物の量は、10%以下である。25,000Daよりも低い低分子量(LMW)不純物の量は、17%以下である。その後、選定した画分の組合せをプールする。
この時点で、可溶性β-グルカンは、精製されており、即使用可能である。さらなる濾過を実施して生成物を滅菌してもよい。所望であれば、生成物のヘキソース濃度を、滅菌クエン酸緩衝生理食塩水によって約1.0±0.15mg/mlに調整することもできる。
上記の精製方法は、以下で説明する製薬剤としての特定の利点を提供する改良された可溶性β-グルカンを生じる。該可溶性β-グルカンは、多角度光散乱法によるHR-GPC(HR-GPC/MALS)及び示差屈折率検出法によって測定したときに、約120,000Da〜約205,000Daの平均分子量及び2.5よりも高くない分子量分布(多分散度)を有する。粉末X線回析及びマジック角回転NMRにより、上記生成物が三重らせんと関連した高分子鎖からなることを測定した。
上記可溶性β-グルカンは、典型的には荷電してなく、従って、pKaを有していない。上記可溶性β-グルカンは、pHとは無関係に水に可溶性であり、その粘度は、濃度が上昇するにつれて増大する。
【0016】
下記の表2は、方法10によって製造した完全グルカン粒子を使用しての可溶性β-グルカン生成物中の典型的な不純物量を要約している。

表2

*総ヘキソースは、比色分析によって測定する。糖ポリマーは、硫酸及びアントロン中で加水分解され、フルフラールを形成する。フルフラールは、アントロンと接合して、分光光度法によって測定される発色団を生じる。
**限界は、特定されなかった。
【0017】
生成物関連不純物としては、改良された可溶性β-グルカンは以下の分子量範囲に属することが判明しているので、380,000ダルトンよりも高く或いは25,000ダルトンよりの低い分子量を有する物質がある。
生成物関連不純物のさらなる評価基準は、還元糖である。各グルカン多糖鎖は、糖のアルデヒド形(還元糖)で終端する。従って、還元糖の量は、調製物中の連鎖数の指標として機能する。新たな還元末端が各鎖の開裂によって生じるので、還元糖は、連鎖安定性のモニターである。還元糖は、ビシンコニン酸(BCA)アッセイによって測定し得、このアッセイ法は当該技術において周知である。
潜在的工程不純物としては、DNA、酵母細胞タンパク質、脂質のような他の酵母細胞成分及びグリコ−ゲン、マンナン及びキチンのような他の多糖類がある。DNAレベルは、スロットハイブリダイゼーションアッセイ(MDS PanLabs社、ワシントン州シアトル)を使用して分析し得る。残留タンパク質は、タンパク質の比色分析により或いはサッカロミセス セルビシエ細胞タンパク質を測定するより感度のある市販の酵素結合免疫測定吸着法(ELISA) (Cygnus Technology社、ノースカロライナ州サウスポート)によって測定し得る。残留脂質は、エルゴステロール量を280nmでの検出による逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用して評価することによってモニターし得る。
グリコ−ゲンは、主としてα-1,4-結合グルコースからなる多糖類であり、その存在は、酵素アッセイによって測定し得る。生成物を、グルコースをグリコ−ゲンから遊離させて還元糖を生じるアミログルコシダーゼを含有する酵素反応物に添加する。還元糖は、BCAアッセイによって測定する。
マンナンは、α-1,2-及びα-1,3-分枝を有するα-1,6-結合マンノースの枝分れポリマーであり、これをマンノースとしてその単糖組成によってモニターする。生成物を反応物に添加し、マンノースをトリフルオロ酢酸で加水分解して、HPLCによって分析する。
キチンは、β-1,4-N-アセチルグルコサミンの高分子であり、これは、比色分析によってモニターする。可溶性β-グルカンを硫酸で加水分解すると、得られるグルコサミンがエーリッヒ試薬と複合体を形成し、これを比色分析で測定する。これら及び他の適切なアッセイ法は、当業者にとって既知である。
製造過程において添加する成分に由来する潜在的な非酵母不純物としては、Triton X-100(界面活性剤)及びAntifoam 204(消泡剤)がある。280nmでの検出による逆相HPLC(RP-HPLC)を使用して存在し得る残留Triton X-100を識別し得る。Antifoam 204は、正モードでのエレクトロスプレー質量分光検出器による選択的イオンモニタリングを使用するRP-HPLC法によって評価する。
【0018】
ある種の製品規格が、可溶性β-グルカンを製薬剤として使用するに当って提案されている。これらの規格を下記の表3に示す。

表3

*コロニー形成単位
**エンドトキシン単位
【0019】
上述したように、方法10及び24によって製造した可溶性β-グルカンは、従来技術の可溶性β-グルカン物質を凌ぐ改良された生成物である。改良は、はるかに高い最高投与量で投与した本発明の可溶性β-グルカンが従来技術の可溶性β-グルカンの低めの最高投与量と同じかまたは少ない有害事象(AE)を示す臨床試験結果において見られる。結果を下記の表4に示す。

表4

1最高単回投与量2.25mg/kg
2最高単回投与量6.0mg/kg
【0020】
Bf1は、商品名Betafectin(商標)として知られており、Alpha-Beta Technology社が開発した可溶性β-グルカン製品である。Betafectin(商標)を製造する方法は、ギ酸を使用して粒状β-グルカン物質を可溶化している。さらに、Bf1は、その精製過程において如何なるクロマトグラフィーにも供していない。
上記試験は、健常被験者のボランティア集団によって行われた。Bf1と比較したとき、改良された可溶性β-グルカンを摂取した試験参加者は、最高投与量がBf1の投与量の2.5倍よりも多いにもかかわらず、少ない有害事象しか報告されなかった。従って、上記改良された可溶性β-グルカンのはるかに高い投与量は、少なくとも増加することはない、おそらく実際には減少さえしている副作用でもって投与することができる。さらに、上記改良された可溶性β-グルカンは、炎症性副作用をもたらすインターロイキン-1β及び腫瘍壊死因子-αのような生化学メディエーターを誘発させない。
本発明方法は、従来技術方法を凌ぐ幾つかの利点を提供し、且つ改良されたβ-グルカン生成物を生じる。粒状β-グルカンは、有害なVOC類を本質的に含まない。β-グルカンの可溶化は安全で且つより経済的である。さらに、本発明方法によって製造した粒状β-グルカンの可溶化は、改良された製薬品質を有する可溶性β-グルカンを提供する。
【0021】
本発明を特定の実施態様に関連して提示し説明してきたけれども、当業者であれば、
形態及び詳細における種々の変更を、特許請求の範囲に包含される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明においてなされ得ることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫賦活特性を有する可溶性β-グルカンの製造方法であって、下記の工程、
約241.3kPa (約35psi)の圧力を微粒子状β-グルカンと酸の懸濁液に加える工程;及び、
前記懸濁液を約135℃に十分な時間加熱して、可溶性β-グルカンを形成させる工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記可溶性β-グルカンを清澄化する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記可溶性β-グルカンを、遠心分離、濾過またはこれらの組合せによって清澄化する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液が、実質的に全ての酸素を排除している容器内に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記酸素を、前記容器を窒素で掃気することによって排除する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性β-グルカンを、分子量に基づく画分に分離する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記可溶性β-グルカンを、クロマトグラフィーによって分離する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記酸が酢酸である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
免疫賦活特性を有し、約6mg/kgまでの単回投与量で投与することのできる誘導体化していない可溶性β-グルカンを含む組成物。
【請求項10】
前記誘導体化していない可溶性β-グルカンが、炎症性副作用をもたらす生化学メディエーターをない、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記生化学メディエーターが、インターロイキン-1 β、腫瘍壊死因子-αまたはその双方である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記誘導体化していない可溶性β-グルカンが、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に由来する、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
前記誘導体化していない可溶性β-グルカンが、約25,000〜約380,000Daである、請求項9記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−540106(P2009−540106A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515512(P2009−515512)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/014055
【国際公開番号】WO2007/146416
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508367740)バイオポリマー エンジニアリング インコーポレイテッド ディービーエイ バイオセラ インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】