説明

グルコース濃度測定装置

【課題】非侵襲的に高精度で血液中のグルコース濃度を含む生体内グルコース濃度が測定できるグルコース濃度測定装置を提供する。
【解決手段】
グルコース濃度測定装置は、中赤外領域の光源12と、光源12から入射された光を用いて全反射減衰法により試料の吸収スペクトル強度を測定するATR測定部17と、ATR測定部17から出射した光から試料の吸収スペクトル強度を検出する検出器24と、グルコース溶液の中赤外領域における吸収スペクトルの所定のピークをそれぞれ中心波長とした所定帯域を透過する複数のバンドパスフィルタ22と、12光源から検出器24に至る光路上に複数のバンドパスフィルタ22の1つがあるように切り換える駆動手段と、駆動手段によるバンドパスフィルタの切り換えを制御するとともに、検出器で検出された吸収スペクトル強度に基づいて主成分分析を用いてグルコース濃度を算出する制御・データ処理手段28と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非侵襲で人体のグルコース濃度を測定するグルコース濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖尿病などの診断では患者から血液を採取し、自動分析法や電極法などの方法で血糖値を計測している。しかしながら一般的に用いられている簡易血糖値測定装置では指などを穿刺するため、痛みを伴い、感染症などの危険性もある。さらにインスリンを投与しなければいけない重度の糖尿病患者は測定頻度も高く、この苦痛とストレスは計り知れないものがある。採血の必要がない非侵襲的に測定する手法の開発が待たれている。
【0003】
特許文献1では、血液を採取せず中赤外領域で全反射減衰(ATR)法を用い、グルコースの赤外振動スペクトルを直接測定することにより生体内グルコース濃度を定量する方法を提案している。さらに主成分分析におけるグルコースに対応するローディングを算出し定量している。
【0004】
特許文献2では特許文献1と同様に4000〜750cm−1の中赤外線とATR法を用いて赤外スペクトルを測定し、2次微分を取ってグルコース濃度を算出している。このとき、グルコース濃度の定量精度を上げるため測定部の固定機構及び押圧機構を提案している。
【0005】
特許文献3は同じく中赤外領域1010〜1050cm−1の吸収スペクトルを2次微分してそのスペクトルから積分範囲を決め、定めた積分範囲における吸収の強度を積分して血液中のグルコース濃度を測定する方法を提案している。
【0006】
近赤外線を用いグルコースの倍音あるいは他の振動モードとの結合音などのスペクトル強度を測定する方法及びその近赤外線波長のひとつあるいはふたつ以上を用い、その吸収強度により血糖値を測定する方法も提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【0007】
特許文献6,7,8は近赤外波長領域でひとつあるいは複数の光学フィルタを用いて生体成分あるいはグルコース濃度を計測する方法を提案している。
【0008】
非特許文献1はこれらの非侵襲的血糖値測定法についてまとめた総説である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−42948号公報
【特許文献2】特開2008−61698号公報
【特許文献3】国際公開第2006/011487号パンフレット
【特許文献4】特開平5−176917号公報
【特許文献5】特開2004−313554号公報
【特許文献6】特開平8−50093号公報
【特許文献7】特開2004−14776号公報
【特許文献8】特表2007−532183号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】田村守、光学33巻7号(2004)p.380〜386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載された血液を採取せず中赤外領域で全反射減衰(ATR)法によるグルコース濃度測定装置においては、さらに測定の高速化、装置の小型化により利用者の負担を軽減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本願に係るグルコース濃度測定装置は、中赤外領域の光源と、前記光源から出射した光を用いて全反射減衰法により試料の吸収スペクトル強度を測定する全反射減衰プリズムと、前記全反射プリズムから出射した光から試料の吸収スペクトル強度を検出する検出器と、グルコース溶液の中赤外領域における吸収スペクトルの所定のピークをそれぞれ中心波長とした所定帯域を透過する複数のバンドパスフィルタと、前記光源から前記検出器に至る光路上に前記複数のバンドパスフィルタの1つがあるように切り換える駆動手段と、前記駆動手段によるバンドパスフィルタの切り換えを制御するとともに、前記検出器で検出された吸収スペクトル強度に基づいて主成分分析を用いてグルコース濃度を算出する制御・データ処理手段と、を有する。
【0013】
前記全反射減衰プリズムに試料を固定して一定圧力で押し付ける一定圧負荷手段を有することが好ましい。
【0014】
前記全反射減衰プリズムに対して試料を位置決めして固定する位置決め手段をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は生体中のグルコース濃度を非侵襲的に計測するグルコース濃度測定装置において、グルコースの吸収ピークが存在する波長領域(例えば1000〜1200cm−1付近)の複数の吸収バンド等に相当するバンドパスフィルタを透過してきた光を計測し、グルコース濃度に相当する血糖値を精度良く求めることができる。
【0016】
グルコースは中赤外領域に複数の強い吸収ピークがあり、その吸収ピークに合わせてバンドパスフィルタの中心波長を設定し、その吸収強度を正確に測定することで中赤外領域の全部を測定するより短時間で計測することができる。
【0017】
本発明では透過率の高い狭帯域バンドパスフィルタを用い、限定された領域のみを測定するため、全領域を測定する分散型分光器あるいはFTIR(フーリエ変換赤外分光法)に比較して短時間でグルコースの吸収強度を測定できる。
【0018】
本発明は光学系が単純で少ない光学素子で構成できるため、光学素子による反射、吸収損失が少なく、検出器の信号強度が大きくなり、信号対雑音比(S/N比)が大きく改善される。そのことによりグルコース濃度の定量精度が大きく向上する。また、データ量も少なくてよいため計算速度も上がる。装置全体が小型、低価格で製造可能となり家庭での使用も可能となる。
【0019】
本発明は定量精度を上げるため、測定部に一定の圧力をかけて固定する定圧固定機構及び測定位置の再現性を上げる腕型位置決め機構を有することにより、定量精度が大きく改善される。
【0020】
本発明は位置決め機構を有し、被検者に合わせた凹部を持った腕型を測定部に設置し、被測定者が腕を置くだけで自動的に位置決めができるようにすることで、測定位置の再現性が格段に向上している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】グルコース濃度測定装置の全体の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】分光計の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】分光計の構成を説明する図である。
【図4】バンドパスフィルタ部の機械的な構成を示す図である。
【図5】バンドパスフィルタ及びワイドバンドパスフィルタの吸光度を示す図である。
【図6】グルコースの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図7】バンドパスフィルタ部による吸光度を示す図である。
【図8】定圧力負荷固定機構を説明する図である。
【図9】定圧負荷固定機構の制御回路の構成を示す図である。
【図10】圧力負荷の有無によるデータの変動を示す図である。
【図11】位置決め機構を説明する図である。
【図12】ヒトの腕のFTIRスペクトルを示す図である。
【図13】グルコース濃度測定装置による測定の手順を示すフローチャートである。
【図14】採血して血糖値を測定した結果とグルコース濃度測定装置で測定した結果の相関関係を示す図である。
【図15】主成分分析によってスコア値を算出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るグルコース濃度測定装置の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、グルコース濃度測定装置の全体の構成を概略的に示すブロック図である。
【0024】
グルコース濃度測定装置10は、中赤外領域において試料を全反射減衰(attenuated total reflection;ATR)分光法により測定する分光計11、分光計11に取り付けられた位置決め機構18及び定圧負荷固定機構20、分光計11を制御するとともに分光計から供給されたデータを処理する制御・データ処理部26から構成される。
【0025】
分光計11は、中赤外領域の光源12と、チョッパ14と、ATR測定部16と、ATR測定部16から出射した光のうち所定帯域のみ透過するバンドパスフィルタ部22と、バンドパスフィルタ部22を透過した光を検出する検出器24から構成されている。
【0026】
定圧負荷固定機構20は、グルコース濃度の自動測定に用いる自動制御型の制御回路90を備えている。
【0027】
制御・データ処理部26は、例えばパーソナルコンピュータによって構成することができ、例えばハードディスクのようなデータ収納部28を含んでいる。
【0028】
図2は、分光計11の構成を概略的に示すブロック図である。図3は、分光計11の構成を説明する図である。
【0029】
分光計11は、中赤外領域の光源12、モータ14aによって回転駆動されるチョッパ14、ATRプリズム17を含むATR測定部16、それぞれ帯域が異なる一組のうちから互いに切り換えられるバンドパスフィルタ41と広帯域のワイドバンドパスフィルタ42を含むバンドパスフィルタ部22、検出器24から構成される。チョッパ14は、第1の集光光学系15を有している。バンドパスフィルタ部22は、第2の集光光学系23、バンドパスフィルタ41を駆動して切り換えるフィルタ駆動機構30を有している。
【0030】
光源12には、ニクロム線光源、炭化ケイ素光源、セラミック光源、カンタル光源等を用いることができる。チョッパ15は、一定形状の開口が形成された円盤がモータ14aにより回転駆動され、光の透過・遮断を切り換える。ATRプリズム17には、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化イオウ(ZnS)等を用いることができる。検出器24には、トリグリシンサルフェイト(TGS)等を用い、チョッパに形成されたパルス波14に同期して検出する。
【0031】
光源12を発した光は、第1の集光光学系15により平行光となされ、チョッパ14により所定周期のパルス波に変換される。チョッパ14を透過した平行光は、第1の光学系15により収束され、ATR測定部16に入射される。
【0032】
ATR測定部16に入射した光は、ATRプリズム17内を全反射を繰り返しながら進み、この間にATRプリズム17の全反射面に接触した試料に対するエヴァネッセント光により吸収スペクトルを測定する。
【0033】
ATR測定部16を出射した光は、第2の光学系23によって平行光となされ、バンドパスフィルタ部22により所定の帯域のみが透過される。バンドパスフィルタ部22は、積層フィルタにてなる、それぞれ帯域が異なる複数のバンドパスフィルタ41と前記複数の帯域を全て含む広帯域のワイドバンドパスフィルタ42を含んでいる。複数のバンドパスフィルタ41は、フィルタ駆動機構30によっていずれか1つが光軸上にあるように切り換え駆動される。バンドパスフィルタ部22を透過した平行光は、第2の光学系23によって収束され、検出器22に入射される。検出器22は、ATR測定部22によって測定された吸収スペクトルを検出する。
【0034】
なお、分光計11におけるバンドパスフィルタ部22の配置はその一例を示したものであり、本発明の構成はこの例に限られない。バンドパスフィルタ部22は、本実施形態の構成に限られず、光源12から検出器24に至る光軸上であれば、幾通りもの有効な配置が可能である。
【0035】
図4は、バンドパスフィルタ22の機械的な構成を示す図である。
【0036】
バンドパスフィルタ22では、それぞれ異なる帯域を有する第1〜第5のバンドパスフィルタ41a〜41eが軸の周りに回転可能な保持部45によって保持されている。駆動部44は、制御・データ処理部26からの制御信号に従って保持部45の回転角度を制御し、一組のバンドパスフィルタ41a〜41eのうち1つが光軸L上に位置するように切り換える。バンドパルフィルタ41a〜41eのいずれか1つを透過した光は、さらにワイドバンドパスフィルタ42を透過する。
【0037】
図5は、バンドパスフィルタ41a〜41e及びワイドバンドパスフィルタ42の吸光度を示す図である。
【0038】
第1〜第5のバンドパスフィルタ41a〜41eは、吸光度においてそれぞれ第1〜第4の中心波長a〜eとして約1035、1080、1110、1200、1300cm−1、半値幅20〜30cm−1を有する。第1〜第3の中心波長a〜cは、後述するグルコースPBS溶液の中赤外領域における吸光度のピークに相当するものである。
【0039】
第4と第5の中心波長d、eは、吸収スペクトルの補正のため、ベースラインと規格化基準のピークとして設定したものである。これらの値は、補正した吸収スペクトルに中赤外領域のグルコースの吸収ピークがよく再現されるようにシミュレーションを行って決定した。
【0040】
ワイドバンドフィルタ42は、吸光度において1120〜1510cm−1の平坦な底fを有している。ワイドバンドフィルタ42は、第1〜第5のバンドパスフィルタ41a〜41eの所望の中心波長a〜eの近傍以外に存在する透過率の高くなる帯域を一律に遮断している。
【0041】
第1〜第5のバンドパスフィルタ41a〜41eとワイドバンドパスフィルタ42の二段構成により、一段のバンドパスフィルタで構成した場合と比較すると、積層フィルタの積層の数が低減される。バンドパスフィルタの価格は積層の工数に依存するので、このような二段構成によりコスト削減が図られている。
【0042】
図6は、グルコースの赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【0043】
図中の曲線aに示す中赤外領域(例えば1000〜1200cm−1)におけるグルコースのPBS溶液の吸収スペクトルでは、1035、1080、1110cm−1に第1〜第3のピークが見られる。第1〜第3のバンドパスフィルタ41a〜41cが透過する帯域の中心波長は、これら第1〜第3のピークにそれぞれ対応するものである。図中の第1〜第3の領域c〜eは、第1〜第3のピークから裾までの範囲であり、第1〜第3のバンドパスフィルタ41a〜41cの半値幅にほぼ相当している。なお、図中の曲線bは、主成分分析により求めた、グルコースに相当する第2ローディングを示す。
【0044】
図7はバンドパスフィルタ部22による吸光度を示す図である。
【0045】
ATR測定部16に何も置かない時の参照光強度分布及び腕などの試料を置いた時の各バンドパスフィルタ41a〜eの強度分布を図中の(a)に、そのデータから算出した吸光度分布を図中の(b)に示した。(a)において、bは腕をおかないときの参照光強度、aは腕を置いた時の光強度を示す。また、フィルタ番号1−5が、各バンドパスフィルタ41a〜eに対応している。
【0046】
図8は、定圧力負荷固定機構20を説明する図である。
【0047】
定圧力負荷固定機構20は、分光計11のATR測定部16に、ATR測定部16を包み込むように設けられ、被験者がATR測定部16に腕を押し当てて測定する際に、定圧力で負荷を与えて試料となる腕を固定する。
【0048】
測定の際には、エアーポンプ71が空気を圧力タンク72に送気する。圧力タンク72は、バックプレッシャレギュレータ73によって、予め設定した圧力に維持される。その圧力は微圧計76に示される。
【0049】
被検者はATR測定部16に配置された腕帯(エアーバッグ)80に腕を入れる。腕帯80は、一定方向に切り欠きのある円筒状の形状を有し、円筒内部にある試料を三方から圧力を加えて保持する。
【0050】
後述する圧力負荷スイッチをONにすると2方電磁バルブ77が開き、腕帯80に圧力タンク72の空気が送り込まれる。腕帯80内の空気圧は圧力センサ・スイッチ81に表示される。圧力センサ・スイッチ81に表示される圧力が設定圧力に到達したら、測定を開始する。設定圧力に到達したことを検出して圧力センサ・スイッチ81のスイッチを閉じることにより、自動的に測定を開始させることもできる。
【0051】
測定が終了したら、排気バルブ78を開き、解放端79から腕帯80内の空気を排出する。測定が全て終了したら、最後にボールコック74を開き、開放端75から圧力タンク72内の空気を排出する。
【0052】
このように、被測定者は腕や手首をATR測定部17に乗せるだけ、その上から腕帯80のカバーを掛け、腕帯80をふくらませて負荷をかける。その圧力は0〜10kPaと可変であり、一定の圧力となるように背圧機構を設けている。
【0053】
図9は、定圧負荷固定機構20の制御回路90の構成を示す図である。
【0054】
測定開始時に、被験者が制御回路90の圧力負荷スイッチ93を押すと第1のリレー91がONになり、電磁弁95が開き腕帯80に空気が送られる。同時に第1のリレー91は自己保持状態になる。腕帯80の圧力が設定値に達すると圧力スイッチ94がONになり、第2のリレー92がONになる。すると電磁弁95が閉じ、腕帯80内の圧力が保持されると同時に、プル型ソレノイドによるアクチュエータ機構97が作動し、制御・データ処理部26の所定のスイッチが押圧されて測定が開始される。測定が終了したら、排気バルブ78を駆動して腕帯80内の空気を抜く。それにより圧力スイッチ94がOFFになり、制御回路は最初の状態に戻る。なお、リセットスイッチ96を閉じることにより強制的に最初の状態に戻すこともできる。
【0055】
このように、制御回路90は、ATR測定部16を包む腕帯80が設定圧に到達し、ATR測定部16に一定の負荷がかかったら自動的に計測が開始するように制御する。測定が終了したら排気バルブ78が自動的に開き、腕帯80の圧力が下がり初期状態に戻る。このことにより、患者自身が一人でも計測を行うことが可能となる。
【0056】
図10は、圧力負荷の有無によるデータの変動を示す図である。
【0057】
図中の曲線aは圧力負荷なしの場合、曲線bは圧力負荷2.6kPaの場合を示している。圧力負荷がない場合は補正吸光度の変動係数は26.0%であったが、圧力を2.6kPaにして測定部を固定すると変動係数は10.9%となり改善されていることがわかる。
【0058】
このように、定圧負荷固定機構20は、測定の際に被験者の腕を一定の圧力でATR測定部16に押し付け、圧力負荷を与えることにより、吸収強度に誤差が生じることを防止している。
【0059】
図11は、位置決め機構18を説明する図である。
【0060】
位置決め機構18は、被験者が試料となる腕をATR測定部16に押し当てたときの腕の状態を再現するよう型を取ってなるもので、素材には速硬化性のシリコンゴム等を用いる。この位置決め機構18は、ATR測定部16と一体に構成され、ATRプリズム17の全反射面に位置する測定用開口部18aを有している。測定用開口部18aの近くでは、型の厚みは可能な限り薄くし、ATRプリズム17への密着度に影響を与えないようにされている。素材は、人体に無害で固化速度が速く、コストのかからないものであれば、シリコンゴムに限るものではない。
【0061】
人の腕の形をした位置決め機構18をATR測定部16に設置し、ATRプリズム17の全反射面に測定する場所のみ光が入る測定用開口18aを設けることにより、一度腕を位置決め機構18からはずして再度セットする場合でも同じ位置がATR測定部16にセットされる。
【0062】
ヒトの皮膚は大部分タンパク質で構成されているが、皮膚表面は脂質も多く、水分も含まれている。腕や手首等では場所によりその構成成分の割合が異なり、赤外吸収スペクトルも異なる。血液中のグルコース吸収はこれらの成分のスペクトルに重なって現れる。グルコース濃度を正確に測定するにはこれらの成分の吸収を一定にする必要があるが、位置決め機構18により測定する場所を一定にできるので、グルコース濃度測定精度の向上を図ることができる。
【0063】
図12はヒトの腕のFTIRスペクトルを示す図である。
【0064】
図中の曲線aは手首関節部、曲線bは手首関節部から20mm離れた部位、曲線cは上腕部でFTIRにより測定した中赤外領域の吸収スペクトルである。スペクトルが異なるのは、皮膚を構成するタンパク質、脂質、アミノ酸等の成分比が各部位により異なるためである。これらはグルコースの吸収スペクトルと重なり、グルコース濃度測定誤差の要因となるので、位置決め機構18により測定場所を一定に維持している。
【実施例】
【0065】
図13は、グルコース濃度測定装置による測定の手順を示すフローチャートである。なお、以下の実施例における血糖値とは、グルコース濃度のことを称するものとする。
【0066】
まずステップS1では簡易血糖値計などの穿刺器具による採血で実際に血糖値を測定し、その後ステップ2でグルコース濃度測定装置を用いて分光測定により非侵襲に血糖値を測定する。ステップS3ではバンドパスフィルタ22の各帯域の吸収スペクトルからグルコースの吸収強度を計算する。ブドウ糖負荷などにより生体中のグルコース濃度を増減し、採血血糖値測定とグルコース濃度測定装置による測定を何回か繰り返す。ステップS4ではこれらの測定データを主成分分析し、ステップS5で検量線を作成する。ステップS5で検量線を個人データとして収納する。
【0067】
これら一連のステップS1〜S6は、各人に応じた検量線作成工程を構成する。検量線作成工程による検量線の作成は、これに続く非襲侵の血糖値測定の前段階として行うものである。
【0068】
検量線作成工程に続き、ステップS7ではグルコース濃度測定装置を用いて非侵襲に血糖値を測定する。ステップS8ではステップS7で測定した血糖値をグルコース濃度測定装置が表示して被験者に示す。このステップS7とS8は、ひとたび検量線作成工程が準備されると、何回でも繰り返すことができる。
【0069】
図14は、採血して血糖値を測定した結果とグルコース濃度測定装置で測定した結果の相関関係を示す図である。
【0070】
空腹時からブドウ糖負荷後の血糖値を採血しながら電極法で測定し、同時にグルコース濃度測定装置を用いて測定した。ATR測定部16の腕帯80にかけた圧力は5kPa、ATR測定部16は手首から約15cmの腕部内側であった。
【0071】
第1の折線aは、中心波長1035cm−1の第1のバンドパスフィルタ41aの場合を示す。相関係数は、0.8850であった。第2の折線bは、中心波長1080cm−1の第2のバンドパスフィルタ41bの場合を示す。相関係数は、0.9045であった。第3の折線cは、中心波長1110cm−1の第3のバンドパスフィルタ41cの場合を示す。相関係数は、0.8831であった。いずれも相関度は0.88より大きく、良好な相関関係が認められる。
【0072】
図15は、主成分分析によってスコア値を算出した結果を示す図である。
【0073】
この図は、複数のグルコース濃度において、採血により測定した結果に対してグルコース濃度測定装置の主成分分析によって算出した結果(スコア)を示すものである。実際に採血したグルコース濃度と主成分分析により算出した濃度との相関係数は0.892となり、良好な相関関係が得られた。したがって、この関係を検量線として用いることにより、採血せず非侵襲的にいつでもグルコース濃度を測定することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 グルコース濃度測定装置
11 分光計
12 光源
14 チョッパ
16 ATR測定部
17 ATRプリズム
22 バンドパスフィルタ部
24 検出器
26 制御・データ処理部
30 フィルタ駆動機構
41 バンドパスフィルタ
42 ワイドバンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中赤外領域の光源と、
前記光源から出射した光を用いて全反射減衰法により試料の吸収スペクトル強度を測定する全反射減衰プリズムと、
前記全反射プリズムから出射した光から試料の吸収スペクトル強度を検出する検出器と、
グルコース溶液の中赤外領域における吸収スペクトルの所定のピークをそれぞれ中心波長とした所定帯域を透過する複数のバンドパスフィルタと、
前記光源から前記検出器に至る光路上に前記複数のバンドパスフィルタの1つがあるように切り換える駆動手段と、
前記駆動手段によるバンドパスフィルタの切り換えを制御するとともに、前記検出器で検出された吸収スペクトル強度に基づいて主成分分析を用いてグルコース濃度を算出する制御・データ処理手段と、
を有することを特徴とするグルコース濃度測定装置。
【請求項2】
前記バンドパルフィルタは、前記所定の中心波長の所定帯域を少なくとも透過する第1段の複数のバンドパスフィルタと、前記複数のバンドパスフィルタが透過する所定帯域の下端から上端までを透過し、それ以外を遮断する第2段のバンドパスフィルタとを有することを特徴とする請求項1記載のグルコース濃度測定装置。
【請求項3】
前記複数のバンドパスフィルタは、吸収スペクトル強度の補正を行うベースラインと規格化のための基準位置として用いるそれぞれ所定波長を中心波長とした所定帯域を透過するものをさらに含むことを特徴とする請求項1記載のグルコース濃度測定装置。
【請求項4】
前記制御・データ処理手段は、前記検出器で検出された吸収スペクトル強度に基づいて、主成分分析法における、グルコースに対応するローディングを検出し、前記吸収スペクトル強度及びローディングに基づいて、当該吸収スペクトル強度のローディングによる展開係数としてのスコアを決定し、スコアとグルコース濃度とを対応付ける検量線を作成することを特徴とする請求項1記載のグルコース濃度測定装置。
【請求項5】
前記全反射減衰プリズムに試料を固定して一定圧力で押し付ける一定圧負荷手段を有することを特徴とする請求項1記載のグルコース濃度測定装置。
【請求項6】
前記全反射減衰プリズムに対して試料を位置決めして固定する位置決め手段をさらに有することを特徴とする請求項1記載のグルコース濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−217097(P2010−217097A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66516(P2009−66516)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(502195396)株式会社フォトサイエンス (2)
【出願人】(396001108)十和田オーディオ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】