説明

グロメット

【課題】ワイヤハーネスに設ける線間止水部を小径化できるグロメットを提供する。
【解決手段】止水剤を充填した電線群の外周に弾性シートを巻き付けた線間止水部を有するワイヤハーネスを密嵌して挿通する大きさとした小径筒部と、該小径筒部の外周に連続した拡径筒部と、該拡径筒部の外周に環状の車体係止凹部を設けたグロメットにおいて、前記小径筒部の内周面に、軸線方向のシールリップを周方向に間隔をあけて複数本を平行に設けると共に、該軸線方向のシールリップの長さ方向の中間位置に全周方向のシールリップを交差させて設け、前記軸線方向と全周方向のシールリップを前記線間止水部の弾性シートの外周面に押し当て接触させる構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロメットに関し、詳しくは、自動車に配索するワイヤハーネスに外嵌して取り付け、車体パネルの貫通穴に装着して車室外から車室内への防水、防塵、遮音等を図るグロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のグロメットは貫通穴の内周面にシール状態で内嵌係止するため、グロメットと貫通穴の隙間からの浸水防止を図ることができる。しかしながら、ワイヤハーネスの電線群の隙間を毛細管現象と車室内側の負圧で車室内へと浸透する浸水をグロメットで防止することができないため、グロメット内に貫通させるワイヤハーネスの電線群に止水剤を充填して電線群中の隙間を無くして止水する線間止水方法が採用されている。
【0003】
この種の線間止水方法は、本出願人の先願に係わる特開平10−224960号公報(特許文献1)に記載しているように、電線群に止水剤を塗布した後に発泡シートで被せて断面円形に収束し、この状態でグロメット内に挿通している。
【0004】
図6に示すように、特許文献1のグロメット100はワイヤハーネス110を密着して貫通させる大きさとした小径筒部101の外周面から拡径筒部102を突設し、該拡径筒部102の大径側の外周面に環状の車体係止凹部103を設けている。該形状のグロメット100では中心軸線に沿った小径筒部101の中空部に、止水剤112を電線群111の隙間に充填し、発泡ウレタンシート等の発泡シート113で巻き付けて被覆して形成した線間止水部115の部分を通している。該グロメット100の小径筒部101の先端側の外周面からワイヤハーネスに巻き付けた発泡シート113の外周面にかけて粘着テープ117を巻き付けて固着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−224960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記図6に示すグロメットでは、小径筒部101がエンジンルーム等の被水領域に配置され、該小径筒部101に貫通するワイヤハーネス110は、発泡シート113の内部でワイヤハーネス110の電線群111の隙間に止水剤112が充填されているため止水できる。該グロメットでは、小径筒部に挿通する発泡シート113の外周面と該小径筒部101の内周面との間に隙間が生じると、ワイヤハーネスに引張力が負荷された時に線間止水部115に位置ずれが発生しやすくなり、かつ、該隙間を通って浸水が車室側へと浸透していく恐れがある。
【0007】
前記線間止水部の発泡シート113の外周面と小径筒部101の内周面との隙間を無くすために、小径筒部の肉厚を大とするか、または線間止水部115の外径を大とする必要がある。しかしながら、小径筒部101の肉厚を大とするとワイヤハーネス挿通時に拡げ治具を用いて拡大しにくくなり、ワイヤハーネスの挿通作業性が悪くなる。一方、線間止水部115の外径を大きくするには、止水剤112の充填量を多くする必要がある。しかし、シリコーン等の止水剤は比較的高価であるため、コスト高になる問題がある。さらに、充填する止水剤を多くすると硬化に時間がかかり線間止水部を形成する時間が長くなり、生産性が悪化する問題がある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、グロメットの小径筒部に線間止水したワイヤハーネスを貫通させるグロメットにおいて、小径筒部の肉厚を厚くせず、かつ、充填する止水剤量を多くして線間止水部の外径を増大させることなく、逆に止水剤の使用量を低減しながら、該線間止水部の発泡シートの外周面と小径筒部の内周面の隙間を無くし、線間止水部を小径筒部内に保持して位置ずれの防止および浸水を遮断できるグロメットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、止水剤を充填した電線群の外周に弾性シートを巻き付けた線間止水部を有するワイヤハーネスを密嵌して挿通する大きさとした小径筒部と、該小径筒部の外周に連続した拡径筒部と、該拡径筒部の外周に環状の車体係止凹部を設けたグロメットにおいて、
前記小径筒部の内周面に、軸線方向のシールリップを周方向に間隔をあけて複数本を平行に設けると共に、該軸線方向のシールリップの長さ方向の中間位置に全周方向のシールリップを交差させて設け、前記軸線方向と全周方向のシールリップを前記線間止水部の弾性シートの外周面に押し当て接触させる構成としているグロメットを提供している。
【0010】
前記グロメットの小径筒部の内周面に突設する軸線方向の複数本のシールリップと全周方向のシールリップとにより、小径筒部の肉厚を薄くしても、前記シールリップの突出端がワイヤハーネスの線間止水部に全周方向に押し当て接触されるため、小径筒部の内径が実質上小径化された状態となる。よって、ワイヤハーネスの線間止水部の外径を小さくしても前記シールリップを線間止水部の全周に均等に押し当てて接触させることで、該線間止水部を小径筒部内にしっかりと内嵌保持でき、ワイヤハーネスに引張力が負荷されても位置ずれの発生を防止できる。
【0011】
また、線間止水部の外径を減少できることにより充填する止水剤の量を低減できコストダウンを図ることができる。かつ、グロメットの小径筒部の肉厚を厚くする必要がないため、拡げ治具で小径筒部を拡げながらワイヤハーネスの線間止水部をスムーズに挿通させることができる。さらにまた、全周方向のシールリップにより小径筒部の先端開口から浸水が生じても遮断でき、止水性能を高めることができる。
【0012】
前記軸線方向のシールリップと全周方向のシールリップの突出寸法は同等とし、小径筒部の肉厚を(t1)とすると、前記シールリップの高さ(t2)はt1の0.5〜1.5倍程度としている。
また、軸線方向のシールリップの長さは前記小径筒部の全長の1/2〜1/4程度とすることが好ましい。
【0013】
また、軸線方向のシールリップの本数は6〜10程度が好ましく、各シールリップの幅に応じて本数が選択される。すなわち、細幅であれば多数本設け、太幅であれば少数本としている。すなわち、複数の軸線方向のシールリップが占める周方向の割合が全周の30〜60%となるように設定することが好ましい。
【0014】
前記軸線方向のシールリップの本数を増加して密に突設する方法に代えて、軸線方向のシールリップの周方向の間隔を広げ、隣接するシールリップの間に短い突起、点状突起を突設してもよい。さらに、軸線方向のシールリップを軸線方向にズラせて形成してもよい。
【0015】
小径筒部の内面に設ける全周方向のシールリップは前記軸線方向のシールリップの長さ方向の中央位置に1本設けると共に、軸線方向のシールリップの長さ方向の両端側にそれぞれ設けることが好ましい。このように、全周方向のシールリップを軸線方向に間隔をあけて3本設けると、ワイヤハーネスの線間止水部の外周面と小径筒部の内周面の隙間に浸水が生じても全周方向のシールリップで確実に浸水を遮断することができる。
【0016】
本発明のグロメットは、小径筒部を長尺とし、軸線方向の中間部の外周から前記拡径筒部を突設し、該拡径筒部の拡径させた他端側の内周から閉鎖壁を突設し、該閉鎖壁の中央からテープ巻き用の半割り筒部を突設し、前記小径筒部の内面に設ける前記軸線方向および全周方向のシールリップは前記拡径筒部内に突出した領域に設けることが好ましい。
【0017】
本発明のグロメットは、被水領域となる自動車のエンジンルームから車体パネルの貫通穴を通して車室へと配索するワイヤハーネスに取り付けられ、前記車体パネルの貫通穴に装着されるグロメットとして好適に用いられる。
【発明の効果】
【0018】
前記のように、本発明のグロメットはワイヤハーネスの線間止水部を挿通する小径筒部の内面に軸線方向のシールリップを周方向に間隔をあけて複数本突設し、かつ、該軸線方向のシールリップの中間部に全周方向のシールリップを交差させて突設し、小径筒部の内径を実質的に小径化しているため、小径筒部の肉厚を薄くしても且つ小径筒部に挿通するワイヤハーネスの線間止水部を小径化しても前記シールリップの先端部を線間止水部の全周に均等に押し当て接触させることで線間止水部を位置ずれなく保持できる。このように、線間止水部を小径化できるため止水剤の充填量を低減できコスト低下を図れると共に、止水剤の硬化時間を短縮でき線間止水部の形成時間を短縮して生産性を高めることができる。さらに、小径筒部の肉厚も薄くできるため、該小径筒部を拡げ治具で拡げてワイヤハーネスの線間止水部を挿通する作業もスムーズに行え、作業性を向上できる。
さらにまた、小径筒部の内周面と線間止水部の外周面の間の隙間に浸水が生じても、前記全周方向のシールリップで浸透を遮断でき止水性能も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のグロメットの断面図である。
【図2】(A)は図1のA−A線断面図、(B)は図1のB−B線断面図である。
【図3】グロメットの小径筒部の軸線方向の断面図である。
【図4】(A)は図3の小径筒部の展開図、(B)は該小径筒部の概略説明図である。
【図5】(A)(B)はグロメットの小径筒部に設ける軸線方向のシールリップの変形例を示す概略説明図である。
【図6】従来例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のグロメットの実施形態を図面を参照して詳述する。
図1に示すように、自動車のエンジンルーム(X)から車室(Y)に車体パネル50に穿設した貫通穴51を通すワイヤハーネス2にグロメット1を外嵌しており、該グロメット1を貫通穴51にシール状態で内嵌係止するものである。
図2(A)(B)に示すように、グロメット1を貫通する領域のワイヤハーネス2の電線群3に予めシリコーンからなる止水剤4を充填し、その外周に発泡シート5を巻き付けて形成した線間止水部6を挿通している。ワイヤハーネス2に線間止水部6を設けることで、電線群3の隙間を通してエンジンルーム(X)から車室(Y)へ浸水が生じるのを防止している。前記線間止水部6は特許文献1に記載と同様な方法で形成している。
なお、線間止水部6において止水剤充填部に巻き付ける発泡シート5に代えてブチルゴムなどの弾性シートを用いてもよい。
【0021】
グロメット1はゴムまたはエラストマーからなる弾性体で成形している。グロメット1は図1に示すように、小径筒部10と、該小径筒部10の軸線方向の中間部の外周から拡径して突出する拡径筒部11と、該拡径筒部11の拡径させた他端側の内周から閉鎖壁12を突設し、該閉鎖壁12の中央からテープ巻き用の半割り筒部13を突設している。また、拡径筒部11の拡径側の外周面に環状の車体係止凹部14を設けている。
【0022】
図1に示すように、グロメット1の小径筒部10の長さ方向の一側部10aを拡径筒部11の小径端より外方に突出し、他側部10bは拡径筒部11の内部に位置している。この小径筒部10と半割り筒部13とはグロメット1の中心軸線上に位置している。
【0023】
小径筒部10は拡げ治具(図示せず)で拡げてワイヤハーネス2を挿通し、線間止水部6を小径筒部10に内嵌している。ワイヤハーネス2は半割り筒部13を通して引き出し、該半割り筒部13の外周面からワイヤハーネス2の外周面にかけて粘着テープ(図示せず)を巻き付けている。また、小径筒部10の一側部10aの先端側とワイヤハーネス2の外周面にかけて同様に粘着テープを巻き付けてワイヤハーネス2とグロメット1とを固着している。
【0024】
小径筒部10の他側部10bの内周面に、軸線方向のシールリップ20を周方向に間隔をあけて複数本を平行に設けている。図4の展開図に示すように、本実施形態では8本のシールリップ20を同一間隔をあけて設けているが、シールリップ20の本数は限定されない。該シールリップ20の突出寸法、即ち、図2に示すように、シールリップ20の高さ(t2)は小径筒部10の肉厚を(t1)とすると、t2=t1×0.5〜1.5の範囲とし、本実施形態ではt1≒t2として同等としている。
また、図4(A)に示すシールリップ20の周方向の幅(W)は、複数本のシールリップ20の合計幅が小径筒部10の全周の30〜60%の範囲とし、本実施形態では約35%としている。
シールリップ20の長さ(L)は前記他側部10bの全長の約半分としている。
【0025】
さらに、小径筒部10の内周面には、シールリップ20の長さ方向の中心位置に全周方向のシールリップ21Aを突設し、シールリップ20と交差させている。該シールリップ21Aの突出寸法はシールリップ20と同等とし、シールリップ20との交差部では段差を設けていない。該シールリップ21Aの幅となる軸線方向の長さはシールリップ20の幅の3〜5倍程度の広幅としている。
【0026】
小径筒部10の内面には軸線方向のシールリップ20の長さ方向の両端から所要寸法を空けた位置にそれぞれ全周方向のシールリップ21B、22Cを突設している。該シールリップ21B、21Cの突出寸法および軸線方向の長さは中央のシールリップ21Aと同等としている。
【0027】
前記のように小径筒部10の内周面に軸線方向のシールリップ20を周方向に隙間を空けて平行に8本等の多数本突設し、かつ、該シールリップ20の軸線方向の中央部に全周方向のシールリップ21Aを設け、これらのシールリップ20、21の突出寸法は小径筒部10の肉厚寸法と同等としているため、小径筒部10の実質的な内径は大幅に縮径された状態となる。
【0028】
小径筒部10に密嵌して挿通するワイヤハーネス2の線間止水部6の外径を、前記シールリップ20、21Aの突出端が突き当て接触される外径とすれば、ワイヤハーネス2に引張力が作用しても小径筒部10内に位置ずれすることなく内嵌保持できる。即ち、シールリップ20の長さ(L)、幅(W)、突出寸法(t2)、シールリップ20の本数をMとすると、小径筒部10の内周部分の体積が(L)×(W)×(t2)×(M)だけ増加することになる。よって、該体積分に相当する体積分を線間止水部6の外周部分から減少でき、その分、止水剤4の充填量を減少できる。したがって、コスト低減が図れると共に、止水剤の硬化時間を短縮でき生産性を高めることができる。
【0029】
かつ、小径筒部10内の線間止水部6の外周面には全周方向から均等にシールリップ20が押し当てられ、安定した圧力を付与でき、止水性能を安定化できる。さらに、小径筒部10の肉厚t1を厚くする必要がない。よって、ワイヤハーネス2を挿通し、線間止水部6を小径筒部10内に挿通する通し作業時に、拡げ治具(図示せず)で小径筒部10を容易に拡げることができ、ワイヤハーネス2の通し作業をスムーズに行うことができる。
【0030】
また、小径筒部10の内周面で、シールリップ20に挟まれた部分と線間止水部6の外周面に隙間があっても、全周方向のシールリップ21A〜21Cを設けているため、該隙間に侵入する水をシールリップ21A〜21Cで確実に遮断することができる。
【0031】
図5(A)(B)に前記実施形態の変形例を示す。
図5(A)に示す第1変形例では軸線方向のシールリップ20を軸線方向にずらせて形成している。
図5(B)に示す第2変形例では、軸線方向のシールリップ20に挟まれた部分に小径筒部10の内面から小突起30を軸線方向に間隔をあけて点在して突設している。これら小突起30の突出寸法はシールリップ20の突出寸法と同様としている。
シールリップ20に加えて上記小突起30を線間止水部6の外周面に押し当てることで、線間止水部6をより安定して押圧保持できる。
他の構成は前記実施形態と同様で、同様の作用効果を有するため、同一符号を付して説明を省略する。
【符号の説明】
【0032】
1 グロメット
2 ワイヤハーネス
3 電線群
4 止水剤
5 発泡シート
6 線間止水部
10 小径筒部
20 軸線方向のシールリップ
21 全周方向のシールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
止水剤を充填した電線群の外周に弾性シートを巻き付けた線間止水部を有するワイヤハーネスを密嵌して挿通する大きさとした小径筒部と、該小径筒部の外周に連続した拡径筒部と、該拡径筒部の外周に環状の車体係止凹部を設けたグロメットにおいて、
前記小径筒部の内周面に、軸線方向のシールリップを周方向に間隔をあけて複数本を平行に設けると共に、該軸線方向のシールリップの長さ方向の中間位置に全周方向のシールリップを交差させて設け、前記軸線方向と全周方向のシールリップを前記線間止水部の弾性シートの外周面に押し当て接触させる構成としているグロメット。
【請求項2】
前記軸線方向のシールリップと全周方向のシールリップの突出寸法は同等とし、小径筒部の肉厚を(t1)とすると、前記シールリップの高さ(t2)はt1の0.5〜1.5倍とし、かつ、
前記軸線方向のシールリップの長さは前記小径筒部の全長の1/2〜1/4、該軸線方向のシールリップの本数は6〜10で且つ該シールリップが占める周方向の割合が全周の30〜60%の範囲としている請求項1に記載のグロメット。
【請求項3】
前記小径筒部の内面に設ける全周方向のシールリップは前記軸線方向のシールリップの長さ方向の中央位置に1本設けると共に、軸線方向のシールリップの長さ方向の両端側に設けている請求項1または請求項2に記載のグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−244805(P2012−244805A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113597(P2011−113597)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】