グロー放電掘削装置及びグロー放電掘削方法
【課題】 試料の掘削箇所の温度を測定して、熱に弱い試料であっても熱影響による変質を防止してグロー放電により掘削加工を行う。
【解決手段】 グロー放電掘削装置1は、グロー放電管2に放射温度測定器30の赤外線センサ31を併設し、グロー放電に伴うスパッタリングで掘削される試料表面から放射される赤外線をスパッタリングに伴う発光が生じていないときに赤外線センサ31で受光して、試料Sの掘削箇所の温度を測定する。測定した温度が基準温度以上になった場合は、掘削加工を行うために試料Sへ印加する電圧の電力値を低下させて、試料Sに与えられる熱量を低下し、試料Sが熱に弱い材料であっても溶融などの変質が生じることを防止して、観察に良好な試料面を形成する。
【解決手段】 グロー放電掘削装置1は、グロー放電管2に放射温度測定器30の赤外線センサ31を併設し、グロー放電に伴うスパッタリングで掘削される試料表面から放射される赤外線をスパッタリングに伴う発光が生じていないときに赤外線センサ31で受光して、試料Sの掘削箇所の温度を測定する。測定した温度が基準温度以上になった場合は、掘削加工を行うために試料Sへ印加する電圧の電力値を低下させて、試料Sに与えられる熱量を低下し、試料Sが熱に弱い材料であっても溶融などの変質が生じることを防止して、観察に良好な試料面を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロー放電に伴うスパッタリングで試料表面を掘削して観察に適した観察面を形成する場合、熱の影響を受けやすい試料であっても良好な観察面を形成できるようにしたグロー放電掘削装置及びグロー放電掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の構造及び組織等を視覚的に観察する際、透過電子顕微鏡(TEM)及び二次電子顕微鏡(SEM)のような各種顕微鏡を用いることがある。このような顕微鏡で試料を観察するには、準備処理として観察に適した面(観察面)を整える必要があり、例えば、試料断面を観察する場合では、試料を破断して観察面となる断面を表出させ、その表出させた断面が清浄で且つ一定以上の平滑度になるまで研磨を行わねばならない。
【0003】
試料の研磨には研磨剤を用いることが一般的であるが、研磨剤及び研磨作業により発生する研磨粉等の影響で作業環境の悪化が懸念されている。また、研磨作業は手間がかかるので各種顕微鏡で試料観察を行う準備処理の段階で長時間を要する。さらに、観察を行う試料の構造によっては研磨を行っても観察に適した面を得られないこともあり、例えば、試料がガラスのような硬い材料と、金のような軟らかい材料を組み合わせて構成されている場合、研磨により軟らかい材料が変形して硬い材料側へ流れ出るような形態となり、良好な観察面を形成することが非常に困難となる。
【0004】
上述した試料研磨に関する不具合を回避して試料の清浄な観察面を得るために、研磨ではなくグロー放電によるスパッタリングの威力で試料の観察対象となる表面を削り取り、試料表面を所望の平滑度に仕上げるようにした装置及び方法が下記の特許文献1乃至特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開昭54−131539号公報
【特許文献2】特開2002−310959号公報
【特許文献3】特開2004−61163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
観察対象の試料には様々な種類が存在し、例えばゴム及び合成樹脂等のように熱を受けると溶融しやすいもの、又は熱により硬化しやすいものなど、熱に弱い試料を観察対象にすることがある。このような試料をスパッタリングの威力による試料表面を削り取って(掘削して)観察面を形成する場合、スパッタリングに伴う熱を過度に受けると(試料表面が熱に耐え得る温度を越えると)、試料表面が溶融又は硬化して試料が変質するため、良好な観察面を得ることが困難になると云う問題がある。
【0006】
グロー放電による掘削加工時の試料への熱影響に対して、グロー放電に係る放電時間(スパッタ時間)を測定し、熱影響を避けるために所定の時間が経過すると掘削を停止することも考えられる。しかし、時間の測定は、熱に弱い試料が本当に変質しかかっているかを間接的に判断する材料に過ぎないため、熱ダメージを回避して良好な観察面を形成できると云う確実性を得られない。
【0007】
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、赤外線放射温度測定方式を用いて試料の掘削箇所の温度を測定することで、グロー放電に伴うスパッタリングの熱影響が試料表面に生じることを確実に回避できるようにしたグロー放電掘削装置及びグロー放電掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1発明に係るグロー放電掘削装置は、中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削装置において、試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光する赤外線センサと、該赤外線センサが受光する赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係るグロー放電掘削装置は、前記赤外線センサの受光部が試料の掘削箇所に対して近接離反できるように前記赤外線センサを移動する移動手段を備えることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係るグロー放電掘削装置は、前記中空電極を保持する保持体を備え、該保持体は、前記中空電極の中空部に連通する空洞、及び該空洞を介して該中空部に対向する透光部材を備え、前記赤外線センサは、前記中空部、前記空洞、及び前記透光部材を通過した赤外線を受光するようにしてあることを特徴とする。
第4発明に係るグロー放電掘削装置は、前記赤外線センサ及び透光部材を覆って遮光する遮光部材を備えることを特徴とする。
【0011】
第5発明に係るグロー放電掘削装置は、前記温度測定手段が温度を測定するときに、電圧の印加を停止する停止手段を備えることを特徴とする。
第6発明に係るグロー放電掘削装置は、電圧の印加を断続的に行う手段を備え、前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
第7発明に係るグロー放電掘削装置は、基準温度を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させる低下手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
第8発明に係るグロー放電掘削装置は、電圧の印加を断続的に行う手段と、基準温度を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比及び/又は印加電圧に係る電力値を低下させる低下手段とを備え、前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
第9発明に係るグロー放電掘削方法は、中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削方法において、試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光し、受光した赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定し、測定した温度及び予め受け付けた基準温度を比較し、比較の結果、測定した温度が基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させることを特徴とする。
【0015】
第1発明にあっては、試料から放射される赤外線を中空電極の中空部を通過させて赤外線センサで受光するようにしているので、中空電極に対向した奥まった位置の掘削箇所から放射される赤外線をスムーズに受光できるようになる。また、温度測定手段は、赤外線センサが受光する赤外線に基づいて掘削箇所の温度を測定するので、試料の掘削箇所から放射される赤外線に基づき掘削箇所自体の温度を測定できるようになる。よって、測定された温度を確認すれば、熱影響が生じる温度に達しないように電圧の印加具合を調整しながら掘削加工を行えるようになり、熱の影響を受けやすい試料に対しても良好な観察面を形成できる。なお、試料に応じて熱影響が生じる温度は様々であるため、掘削加工対象の試料の熱影響が生じる温度を予め調べておき、調べた温度に測定した温度が到達しないようにすることが良好な観察面を形成するために重要となる。
【0016】
第2発明にあっては、移動手段により赤外線センサの受光面の位置を試料の掘削箇所に対して調整できるので、赤外線が放射されるエリア(測定視野)を最適に調整でき、試料の掘削箇所から放射される赤外線を確実に受光して温度測定に係る精度を良好にできる。
【0017】
第3発明にあっては、中空電極を保持する保持体に試料から放射される赤外線が通過可能な空洞及び透光部材を設けるので、透光部材越しに赤外線を受光するように保持体の外方に赤外線センサを配置できるようになる。その結果、赤外線センサが直接的にスパッタリングの影響を受けることがなくなり、安定した受光を行えると共に、赤外線センサの位置調整及びメンテナンス等も容易に行える。
【0018】
第4発明にあっては、赤外線センサ及び透光部材を覆う遮光部材を備えるので、赤外線センサの受光の際に明光が入り込むことが遮断され、周囲の明光により測定精度が低下するような事態を排除でき、温度測定に係る精度を維持できる。
【0019】
第5発明にあっては、温度測定を行うときは、電圧の印加を停止するので、スパッタリングに伴う発光も生じなくなり、試料から放射される赤外線のみを良好に赤外線センサが受光できる状態を作り出せ、そのため、スパッタリングの影響を受けることなく、試料の掘削箇所の温度を適正に測定できるようになる。なお、電圧の印加停止に係る形態としては、電圧を一定期間印加してから、温度測定のため電圧印加を停止し、測定した温度が試料の許容温度を超えていなければ、再度電圧を印可すると云うサイクルが想定できる。
【0020】
第6発明にあっては、電圧の印加を断続的に行うので、スパッタリングの発生も断続的になり、連続して電圧印加を行う場合に比べて試料が受ける熱影響(熱ダメージ)の程度が緩和されるため、熱の影響を受けやすい試料及び一定以上の外力で破壊されやすい材料等を掘削する際にスパッタリングの威力を抑えて加工を行える。さらに、電圧の印加を断続的に行う場合は、断続印加中の印加断時に受光した赤外線に基づいて温度を測定するので、スパッタリングに伴う発光を受光することなく、試料から放射される赤外線のみを受光して高精度の温度測定を印加断時に行うことができ、また、印加断時を温度測定の時間に利用するため、温度測定も含めた掘削加工を効率的に進めることができる。
【0021】
第7発明及び第9発明にあっては、基準温度と測定した温度を比較し、測定した温度が基準温度以上になった場合、印加電圧に関連する値を低下させるので、試料に変質が生じるおそれがあるときは、試料に加えられる熱量を抑えられる。その結果、掘削加工中、試料の温度上昇が自動的に抑制され、掘削加工を行った試料が観察に適さないように変質することを確実に防止できる。なお、試料に熱ダメージを生じさせないため、基準温度には掘削加工対象の試料に熱影響が出ない範囲の許容温度、又はその許容温度より少し低い温度を設定することが重要である。
【0022】
第8発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比と電力値のいずれか一方、又は両方を低下させるので、電圧の断続印加により試料を掘削する場合、試料に熱ダメージが生じる程度に温度が上昇したときでも、試料に加えられる熱量を確実に減少させられる。そのため試料の掘削箇所の温度上昇を抑制でき、熱影響を受けやすい試料に対しても安定した自動掘削加工を実現できる。
【発明の効果】
【0023】
第1発明にあっては、試料から放射される赤外線を中空電極の中空部を通過させて赤外線センサで受光するので、掘削箇所から放射される赤外線を良好に受光でき、それに伴い熱ダメージを受ける掘削箇所の温度を確実に測定できる。
第2発明にあっては、赤外線センサの受光部の位置を試料の掘削箇所に対して調整できるので、掘削箇所の温度測定を行うために赤外線を受光する位置を試料に合わせて柔軟に変更できる。
【0024】
第3発明にあっては、空洞及び透光部材を備えた保持体で中空電極を保持するので、赤外線センサを透光部材でグロー放電に伴うスパッタリングから隔離でき、赤外線センサがスパッタリングによるダメージを受けることを回避でき、赤外線の受光を安定して行うことができる。
第4発明にあっては、赤外線センサ及び透光部材を覆う遮光部材を備えるので、周囲の明光の影響を赤外線センサが受光することを防止でき、温度測定に係る精度を良好に保つことができる。
【0025】
第5発明にあっては、温度測定を行うときに電圧の印加を停止するので、スパッタリングに伴う発光が生じていない状態で試料から放射される赤外線を受光して温度測定を行うことができ、スパッタリングの影響を受けることなく、試料の掘削箇所の温度を適正に測定できる。
【0026】
第6発明にあっては、電圧の印加を断続的に行うので、スパッタリングの発生も断続的になり、連続して電圧印加を行う場合に比べて試料が受ける熱影響(熱ダメージ)の程度が緩和できると共に、断続印加中の印加断時に受光した赤外線に基づいて温度を測定するので、スパッタリングに伴う発光の影響を回避して掘削箇所の温度測定を精度良く行える。
【0027】
第7発明及び第9発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、印加電圧に関連する値を低下させるので、熱の影響により試料に変質が生じる状況を回避でき、熱に弱い試料も良好に掘削できる。
【0028】
第8発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、電圧の断続印加に係るデューティー比と電力値の少なくとも一方を低下させるので、電圧の断続印加で掘削加工を行う際、試料に熱影響による変質が生じることを確実に防止して安定した自動加工を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は本発明の実施形態に係るグロー放電掘削装置1の全体的な構成を示している。グロー放電掘削装置1は、試料Sを掘削するためにグロー放電を発生させるグロー放電管2、電圧印加に係る電力生成を行う電源部4、掘削箇所の温度を試料Sから放射される赤外線に基づき測定する放射温度測定器30、及び装置の全体的な制御を行うコンピュータ7を備えている。本実施形態のグロー放電掘削装置1は、グロー放電により掘削される試料Sの掘削箇所の温度を測定できるようにしたことが特徴である。
【0030】
グロー放電掘削装置1の電源部4は、交流電源AC(本実施形態では220V)に接続されて高周波電力を生成するジェネレータ6及びマッチングボックス5を備えており、放射温度測定器30は、赤外線センサ31、AD変換器32、及びマイクロコンピュータ33(温度測定手段に相当)を備える。また、図1中、破線で囲まれた部分は、グロー放電掘削装置1の本質的な構成に属しない周辺機器類を示し、周辺機器類にはグロー放電管2の内部を真空引きする真空引き装置8と、真空引きした後にグロー放電管2の内部に不活性ガス(アルゴンガス)を供給するためのガス供給調整部9及びガス供給源10が含まれる。なお、ガス供給調整部9は流量を調整するためのバルブ等を具備し、ガス供給源10はアルゴンガスのような不活性ガス又は不活性ガスの混合ガス等を充填したボンベが相当する。
【0031】
図2は、グロー放電管2、及び放射温度測定器30の赤外線センサ31の取り付け構造等を示している。グロー放電管2は短円柱状のランプボディ11、電極12(中空電極に相当)、セラミックス部材13、及び押圧ブロック15の組み合わせにより構成されている。
【0032】
ランプボディ11は電極12を保持する保持体に相当し、押圧ブロック15が組み合わされる端面11aの中心箇所に電極12を保持するための窪部11bを凹設すると共に、窪部11bの中心部に空洞11cを穿設している。また、ランプボディ11は、中心から周壁部11dへ向けて放射状に真空引き用の吸引孔11e、11fを複数設け、一部の吸引孔11eは空洞11cに連通させると共に、他の吸引孔11fは窪部11b側に連通させている。さらに、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けて不活性ガスの供給用のガス供給孔11gを空洞11cと連通するように形成している。さらにまた、ランプボディ11は、試料Sを配置する側と反対側の端面11hにおける空洞11cに対応する箇所にガラス部材40(透光部材に相当)を取り付けて、空洞11cを封止している。
【0033】
ランプボディ11に保持される電極12は、円板部12aの中心から筒状部12bを突出した形状にしており、筒状部12b及び円板部12aを貫通する貫通孔12c(中空部に相当)を穿設している。円板部12aには、ランプボディ11の真空引き用の吸引孔11fと連通させる穴12dを形成している。また、電極12は、ランプボディ11の窪部11bに取り付けられると、アース電位になると共に、貫通孔12cがランプボディ11の空洞11cに連通してガラス部材40に対向する。なお、電極12が保持された状態でランプボディ11の空洞11c及び電極12の貫通孔12cの密閉性を維持するため、第1オーリング(シール部材)16がランプボディ11及び電極12の間に取り付けられている。
【0034】
セラミックス部材13は厚みが大きい円板状部材であり、電極12を筒状部12b側から被ってランプボディ11に配置されるようになっており、電極12の円板部12aを被うフランジ部13dを有すると共に、中心部には筒状部12bを挿通させる挿通孔13cを形成している。また、セラミックス部材13は表出する側の端面13aにオーリング装着用のリング溝13bを凹設している。セラミックス部材13は、耐熱性の第1絶縁体17を介して電極12の円板部12aに対向して配置され、配置された状態では、セラミックス部材13の挿通孔13cと電極12の筒状部12bとの間に所定の隙間が形成され、筒状部12bの先端となる端部12eはセラミックス部材13の端面13aより少し奥まって位置するようになっている。なお、第1絶縁体17と電極12の円板部12aとの間にも密閉性維持のために第2オーリング18が取り付けられている。
【0035】
押圧ブロック15は、電極12及びセラミックス部材13をランプボディ11に固定するための環状の部材であり、内周縁側の突出部15aでセラミックス部材13のフランジ部13dをランプボディ11側へ押圧するようにしている。なお、押圧ブロック15自体は、ボルトによりランプボディ11の端面11aに取り付けられる。また、押圧ブロック15の突出部15aと、セラミックス部材13のフランジ部13dとの間にも耐熱性の第2絶縁体19を介在させている。
【0036】
一方、グロー放電管2に取り付けられる掘削対象の試料Sは、セラミックス部材13の端面13aに取り付けられた第3オーリング20に試料表面Saが当接するように配置される。さらに、この状態で試料Sの裏面Sdには発振子3が押し当てられて試料Sがグロー放電管2側へ押圧される。このように配置された試料Sは電極12の貫通孔12c及び端部12eに対向すると共に、第3オーリング20で囲まれた空間Kが形成される。なお、発振子3は、図1に示すように電源線Dにより電源部4と接続されており、また、図示しない所定の係止手段で試料Sを最適な押圧力でグロー放電管2へ押圧している。
【0037】
上述した構成のグロー放電管2は、ランプボディ11の各吸引孔11e、11fが図1に示す真空引き装置8と接続され、ガス供給孔11gがガス供給調整部9と接続される。そのため、真空引き装置8が真空引きを行うと、各吸引孔11e、11f、空洞11c、及び電極12の貫通孔12cを通じて空間Kが真空にされる。また、空間Kが真空にされた状態で、ガス供給調整部9がガス供給を開始すると、ガス供給孔11g、空洞11c、及び電極12の貫通孔12cを通じて空間Kに不活性ガスが供給される。この際、空間Kは第3オーリング20により閉鎖されて小さい体積となっているため、空間Kには十分な不活性ガスが供給される。
【0038】
また、グロー放電管2のランプボディ11の一方の端面11h側には、放射温度測定器30の赤外線センサ31を配置している。赤外線センサ31は、試料Sから放射される赤外線Rの受光部となる光学レンズ31aと、光学レンズ31aを通過した赤外線Rを受光するサーモパイル31bと、光学レンズ31a及びサーモパイル31bを収めたハウジング31cとを備える。図2に示すように光学レンズ31aをガラス部材40に対向させることで、赤外線センサ31は試料Sから放射されて電極12の貫通孔12c、空洞11c、及びガラス部材40を通過した赤外線Rを受光する。
【0039】
さらに、ランプボディ11の端面11hは、試料Sから赤外線センサ31へ向かう赤外線Rに平行にレール部材35を突設しており、このレール部材35は摺動可能なスライドユニット36を設けている。赤外線センサ31のハウジング31cは、スライドユニット36に取り付けられており、スライドユニット36を図2中の矢印方向に摺動させることで、赤外線センサ31の光学レンズ31aが試料Sの掘削箇所に対して接離できるように赤外センサ31を移動可能にしている。また、スライドユニット36には、固定ネジ37が取り付けてあり、固定ネジ37を締め上げることでスライドユニット36の位置を固定でき、固定ネジ37を緩めるとスライドユニット36を摺動可能な状態にできる。
【0040】
なお、赤外線センサ31のサーモパイル31bは、入射された赤外線Rのエネルギーに応じたアナログ信号を発生させると共に、サーモパイル31b自身の温度に応じたアナログ信号も発生させており、発生させた信号を信号線L4を通じてAD変換器32へ出力するようにしている。
【0041】
さらにまた、ランプボディ11の端面11hは、カップ状の遮光部材34を取り付けている。遮光部材34は赤外線センサ31、レール部材34、及びガラス部材40を被った状態で周縁端部34aをランプボディ11の端面11hに取り付けており、その結果、赤外線センサ31の光学レンズ31aに周囲の明光が入り込むことを防止して安定した赤外線Rの受光を図っている。遮光部材34は赤外線センサ31から延出する信号線L4を通過させる通過孔を形成しており、信号線L4を外方へ引き出して放射温度測定器30のAD変換器32へ(図1参照)へ接続している。なお、遮光部材34は、グロー放電管2全体を被うような形状にすることも可能であり、また、掘削加工自体を暗室のような周囲の明光を排除できる場所で行うときは遮光部材34を省略してもよい。
【0042】
図1に示す放射温度測定器30のAD変換器32は、赤外線センサ31から出力されてくるアナログ信号をデジタル信号に変換し、信号線L5を通じて変換したデジタル信号をマイクロコンピュータ33へ送るものである。マイクロコンピュータ33は温度測定手段に相当し、送られてきたデジタル信号に対して基準温度及び放射率による補正を行って、赤外線センサ31が受光した赤外線Rに基づく試料Sの表面温度(赤外線Rを放射した箇所)の温度を換算(演算)し、その温度を測定温度として信号線L5を通じてコンピュータ7へ出力する処理を行う。
【0043】
なお、放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33は、信号線L5を通じてコンピュータ7から温度測定を行う開始指示を受け付けた場合に、測定温度の演算処理を行うようにしており、指示を受け付けたときにAD変換器32から送られてくるデジタル信号に基づいて温度を測定する。また、マイクロコンピュータ33は、コンピュータ7から温度測定を停止する停止指示を受け付けた場合に、温度測定に係る処理を停止するようにしている。このようにコンピュータ7の制御(指示)に基づきマイクロコンピュータ33が温度測定を行うことで、スパッタリングの発生しているときは温度測定を行わず、スパッタリングの発生していないときに温度測定を行うことが可能となり、スパッタリングの影響を回避して測定された温度値の信頼性を確保できる。
【0044】
図3は、電源部4を構成するジェネレータ6の内部構成を示している。ジェネレータ6は、高周波電力生成部6a、制御部6b及び電力計測部6cを具備する。高周波電力生成部6aは交流電源ACと接続されて図4に示す正(+)及び負(−)に変化する交流(高周波)電圧を試料S及び電極12に印加するために高周波電力を生成する。また、高周波電力生成部6aは第1内部接続線6dにより制御部6bと接続されており、制御部6bの制御により高周波電力に係る出力モード及び電力値等を調整する。なお、本実施形態の高周波電力生成部6aは13.56MHzの高周波電圧に係る電力を生成している。
【0045】
制御部6bはIC(集積回路)で構成されており、第1接続コードL1を通じてコンピュータ7と接続されており、コンピュータ7から出力される各種信号に基づきグロー放電管2及び試料Sへの給電形態(電圧印加形態)を判断し、判断結果に基づき高周波電力生成部6aの出力モードを制御する。
【0046】
図5(a)は、制御部6bによる1つ目の出力モードを示すグラフであり、所定の時間内、連続して高周波電力(電力値P)を出力して試料S及び電極12に連続的な高周波電圧の印加を行うモードである(以降、このモードを連続モードと称す)。また、図5(b)は、制御部6bによる2つ目の出力モードを示すグラフであり、所定の時間内、パルス的(オン/オフ的)に高周波電力(電力値P)を出力して試料S及び電極12に断続的な高周波電圧の印加を行うモードである(以降、このモードを断続モードと称す)。
【0047】
なお、制御部6bは、断続モードでは電圧の印加を断続的に行う手段として内部のICでパルス的な処理を行って電力供給及び電力供給休止を交互に繰り返す。このような処理により、図5(b)に示す棒状に突出した部分に対応する給電時間T1で高周波電力が出力されて試料Sに電圧が印加され、1回の給電(電圧印加)及び1回の給電休止(印加休止)を含む単位時間T2から給電時間T1を引いた時間T3で高周波電力の出力(電圧印加)が休止されて電圧印加断になる。
【0048】
また、制御部6bは切替手段として、上述した連続モードと断続モードとの切替をコンピュータ7から出力される信号に基づき行う。さらに、制御部6bは連続モードにおいて、印加電圧に関連する値として給電に係る電力値Pを変更可能にしており、断続モードでは印加電圧に関連する値として、単位時間(1秒間)当たりの給電回数(給電周波数)、断続的な給電に係るデューティー比、及び電力値Pをそれぞれ変更可能にしている。なお、制御部6bは、コンピュータ7から出力される信号に基づき、印加電圧に関連する値を変更(設定)する。
【0049】
なお、給電周波数の変更に対して制御部6bは、約30Hz〜約3000Hzの範囲で給電周波数を調整可能にしており、給電周波数が変更されると図5(b)のグラフにおいて、時間T3が変化する。デューティー比の変更に関しては、断続給電中の単位時間T2対し1回分の給電時間T1が占める割合(T1/T2)を適宜調節できるようにしている。
【0050】
また、試料Sの掘削が進行するにつれて、試料Sの掘削箇所表面と電極12の端部12eとの距離が長くなり、電圧印加における試料Sに係るインピーダンス値が随時変化するため、断続モードにおけるインピーダンス値変化に対する調整処理も制御部6bが行っている。
【0051】
具体的に制御部6bは、後述する電力計測部6cから伝送されてきた電力値Pf及び反射値Prとの差を演算し、演算された差に基づき高周波電力生成部6aで生成された高周波電力の試料Sへ給電される進行波の電力値(電力値Pf)を変更する制御を行う。なお、制御部6bは演算された差(Pf−Pr)が一定となるように電力値Pfを調整しており、本実施形態では演算された差(Pf−Pr)が後述するコンピュータ7から伝送されてきた基準電力値と同等となるように高周波電力生成部6aで生成される電力値Pfを制御部6bが内蔵するICのソフト的な処理で調整する。
【0052】
このように制御部6bがソフト的な調整を行うことで、断続モードでの試料Sのインピーダンス値の変化に対応して適切な給電を行える。なお、制御部6bが試料Sのインピーダンス値の変化に対応した調整を行うのは断続モードの場合であり、連続モードでは後述するようにマッチングボックス5が調整を行う。
【0053】
図3に戻りジェネレータ6の電力計測部6cは、第2及び第3内部接続線6e、6fにより制御部6b、高周波電力生成部6aと接続されている。電力計測部6cは、高周波電力生成部6aで生成されて図1に示す発振子3へ向かう高周波電力の進行波の電力値である電力値Pfを検出すると共に、試料Sから反射して戻ってくる反射波の電力値である反射値Prを検出し、検出した値を制御部6bへ伝送している。
【0054】
図6に示す電源部4のマッチングボックス5は、連続モードにおいてジェネレータ6で生成された高周波電力の電源部4としての出力形態を調整する可変コンデンサ5a、可変コンデンサ5aの電気容量を調整するモータ5b、モータ5bの駆動等の制御を行うコンデンサ制御部5cを具備する。
【0055】
可変コンデンサ5aはモータ5bの駆動に応じて自身の電気容量を変更でき、電気容量の変更によりモジュール及びフェーズが調節される。また、コンデンサ制御部5cは、第2接続コードL2によりコンピュータ7と接続されており、コンピュータ7からマッチングボックス5へ伝送されてくる断続モードの設定の通知信号に基づいてモータ5bの駆動を制御する。
【0056】
具体的には、断続モードの通知信号を受け付けた場合、可変コンデンサ5aの電気容量が一定に固定されるようにモータ5bを一定の状態に維持する制御をコンデンサ制御部5cは行う。よって、断続モードではマッチングボックス5で高周波電力のモジュール及びフェーズは調整されない。また、断続モードの通知信号を受け付けない場合、即ち、連続モードが設定されたとき、試料Sからの反射値Prが最小となるようにモータ5bの駆動を制御して可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御をコンデンサ制御部5cは行う。なお、反射値Prが最小であれば、コンデンサ制御部5cは可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御は行わない。
【0057】
一方、図1に示すコンピュータ7は、ジェネレータ6から延在する第1接続コードL1及びマッチングボックス5から延在する第2接続コードL2が接続されるインタフェース基板7bを設けており、このインタフェース基板7bをCPU7a、外部接続部7c、RAM7d、ROM7e、及びハードディスク装置7fが接続された内部バス7gに繋げている。なお、内部バス7gにはモニタ接続線L3を介してモニタ部7hも接続している。
【0058】
外部接続部7cは外部機器の接続用であり、本実施形態では、信号線L6を通じて放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33を接続している。なお、放射温度測定器30が測定した温度は、CPU7aの制御に基づきモニタ部7hに随時表示されるようになっている。また、RAM7dはCPU7aが行う各種制御処理に伴うデータ等を一時的に記憶し、ROM7eは処理に必要なデータ(基準時間)及びCPU7aが行う基本的な処理内容を規定したプログラム等を予め記憶しており、ハードディスク装置7fはCPU7aが行う掘削処理に関連する制御内容を規定した掘削プログラム21等を記憶している。
【0059】
インタフェース基板7bは連続モード用回路、断続モード用回路を有し、CPU7aの制御に基づき、オペレータにより設定されたモードがインタフェース基板7bへ通知されれば、通知されたモードに対応する回路が作動し、作動した回路による処理でモード切替に係る制御信号がジェネレータ6へ出力される。
【0060】
また、インタフェース基板7bの断続モード用回路には、断続モードに対してオペレータによりコンピュータ7で設定された給電周波数、デューティー比、電力値等のパラメータが伝送され、断続モード用回路は伝送された内容を1つにまとめた信号を生成してジェネレータ6へ出力すると共に、断続モードを通知するマニュアル・アダプテーションと云う通知信号をマッチングボックス5へ出力する処理を行う。なお、伝送されるパラメータには、高周波電力のピーク電力値、変動するインピーダンス値に対応した調整処理に用いられる基準電力値(基準値)等も含まれる。
【0061】
CPU7aは計時機能を具備すると共に、ハードディスク装置7fに記憶された掘削プログラム21に基づいて各種処理を行い、図1で示していないキーボード又はマウス等の操作でオペレータにより入力された指示に基づき所定の設定及び制御を行う。
【0062】
例えば、掘削プログラム21が起動すると、図7に示す設定メニュー22をモニタ部7hに表示させる処理をCPU7aは行う。また、オペレータの操作により設定メニュー22で断続モード又は連続モードのいずれかを受け付けた場合、CPU7aは受け付けた設定内容に対応するインタフェース基板7b内の回路を作動させる処理を行う。
【0063】
設定メニュー22で断続モードが設定された場合、CPU7aは、掘削加工の加工時間、周波数(給電周波数)及びデューティー比の数値設定もオペレータから受け付ける処理を行い、受け付けた内容をRAM7dに記憶すると共に、インタフェース基板7bへ通知してジェネレータ6へ所定の信号を伝送する。なお、デューティー比は、掘削対象の試料Sが特に溶解しやすい場合及び破壊しやすい場合、0.5より低い数値に設定することが好ましい。さらに、図7の設定メニュー22以外に別のメニューでCPU7bは高周波電力のピーク値(電力値)等の他のパラメータも設定可能にしている。また、設定メニュー22で断続モードが設定されたとき、CPU7aは、断続モードの設定を伝える通知信号をインタフェース基板7bからマッチングボックス5へ出力する制御を行う。
【0064】
一方、設定メニュー22で連続モードが設定された場合、CPU7aは連続的に電力を生成するようにインタフェース基板7bからジェネレータ6に指示信号を出力させる制御を行う。なお、連続モードが設定されたときは、印加電圧に関連する値として給電に係る電力値も設定可能にしている。
【0065】
また、いずれのモードが設定された場合でも、設定メニュー22は試料Sに対する基準温度及び加工時間を設定できるようにしており(図7参照)、コンピュータ7がキーボード又はマウスでオペレータから基準温度及び加工時間の入力を受け付けた場合、CPU7aは受け付けた数値をRAM7dに記憶する。なお、入力する基準温度の値は、掘削加工対象の試料Sの種類に応じて決める必要があり、試料Sが熱の影響を受けやすいものである場合、熱の影響が生じないレベルの許容温度(熱の影響が発生する温度より低い温度)を入力することになる。
【0066】
また、本実施形態では連続モードが設定されたときは、オペレータのマニュアル的な操作で、給電(電圧印加)を所定時間行うと、一旦給電(電圧印加)を休止し、その休止に連動してコンピュータ7の制御に基づき放射温度測定器30が試料の掘削箇所の温度を測定し、測定した結果をコンピュータ7はモニタ部7hに表示する処理を行う。よって、連続モードでは、オペレータが給電を休止した際に、モニタ部7hに表示される温度を確認し、給電を継続するか、給電(出力電圧)に関連する値(電圧値P)を低下させるか、または掘削加工を終了するか等を判断する。
【0067】
一方、断続モードが設定されたとき、CPU7aは加工の開始と共に時間を計測し、計測した時間とRAM7dに記憶された加工時間との比較を行い、計測した時間が加工時間に達すると電圧印加を停止して掘削加工を終了させる制御を行う。
【0068】
また、CPU7aは掘削加工中、図5(b)に示すように、断続給電時の給電断時(高周波電圧の断続印加中の印加断時)の時間T3で温度測定を行うように、CPU7aは放射温度測定器30を制御する。詳しくは、時間T3に同期して温度測定を行えるように、CPU7aは給電時間T1の終了時期に温度測定の開始指示を外部接続部7cから放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33へ出力すると共に、時間T3の終了時期に温度測定の停止指示をマイクロコンピュータ33へ出力する。このようにCPU7aが指示を出力することで、放射温度測定器30が測定を行うとき(赤外線Rを赤外線センサ31が受光するとき)、グロー放電に伴う発光が生じていないので、グロー放電のスパッタリングによる発光の影響を受けることなく温度測定を行える。
【0069】
さらに、断続モードでCPU7aは、放射温度測定器30で測定された温度と設定メニュー22で設定された基準温度とを比較判定し、測定温度が基準温度以上であると判定した場合、ジェネレータ6に対して断続印加の印加電圧に係る電力値Pを低下させる制御を行う。本実施形態では、低下させる量として設定値を半減するようにしており、例えば設定された電力値が1Wである場合、測定温度が基準温度以上になると、電力値を0.5Wにすることを規定した信号をコンピュータ7からジェネレータ6へ出力する。
【0070】
さらにまた、CPU7aは、電力値を低下させる信号を出力したときは、信号出力から時間の計測を行い、計時した時間がROM7eに記憶する基準時間を経過したか否かを判断する。この際、電力値を低下させる信号を出力後の計測時間が基準時間を経過しても、測定温度が基準温度以上を維持しているときは、試料Sの変質を防止するため、CPU7aは電圧印加を停止して掘削加工を終了させる制御を行う。なお、上述したCPU7aが行う各種処理をハードディスク装置7fに記憶された掘削プログラム21が規定している。
【0071】
次に上述した構成のグロー放電掘削装置1を用いたグロー放電掘削方法に係る全体的な処理手順を図8の第1フローチャートに基づいて説明する。
先ず、グロー放電掘削装置1は図7に示す設定メニュー22等においてオペレータからの入力を受けて、モード、基準温度、断続モードを設定した場合は周波数及びデューティー比等の各種パラメータを設定し(S1)、オペレータは試料Sを図2に示すようにグロー放電管2にセットする(S2)。
【0072】
次に、オペレータはグロー放電管2の内部を真空引き装置8で真空引きしてから、ガス供給源10よりグロー放電管2の内部へ不活性ガス(アルゴンガス)を供給する(S3)。それから、オペレータは放射温度測定器30の準備段階として掘削前の試料表面Saから放射される赤外線Rの受光を行い、適正に温度が測定できるか否かを確認し、赤外線センサ31の位置の調整も行って、掘削前の試料表面温度を測定する。そして、グロー放電掘削装置1は、設定された内容に応じた給電を行って電圧を印加し(S4)、試料Sの空間Kに表出した試料表面Saを掘削する(S5)。
【0073】
図9は、試料Sの掘削状態を示し、第3オーリング20で閉鎖された空間Kでは、電極12の貫通孔12cを通じアルゴンガスがスムーズに導かれた状態で電極12及び試料Sの間に電圧が印加されてグロー放電が発生し、アルゴンガスに含まれるアルゴンイオンが試料表面Saに向けて飛び出して衝突し、スパッタリングが起こる。このスパッタリングによるアルゴンイオンの衝突で試料表面Saが掘削されて凹部Sbが生じる。また、凹部Sbの底面Scからは赤外線Rが放射されるため、放射温度測定器30は試料Sの掘削箇所である凹部Sbの底面Scの温度を測定する。
【0074】
図10の第2フローチャートは、図8の第1フローチャートの掘削の処理(S5)において、断続モードで掘削を行う場合の詳細な処理手順を示すグロー放電掘削方法に関するものである。以下、第2フローチャートに基づいて断続モードの掘削処理を説明すると、グロー放電掘削装置1は、図5(b)に示すように給電時間T1で電圧印加を行い(S10)、次の時間T3で電圧印加断の状態として電圧印加を休止する(S11)。この電圧印加を休止している時間T3で赤外線センサ31が受光した赤外線Rに基づいてマイクロコンピュータ33が温度測定を行う(S12)。なお、グロー放電掘削装置1のコンピュータ7(CPU7a)は、掘削処理の開始に伴い加工を行う時間の計測を開始している。
【0075】
次に、グロー放電掘削装置1のコンピュータ7は、マイクロコンピュータ33の測定温度がRAM7dに記憶した基準温度以上であるか否かを判断する(S13)。測定温度が基準温度以上でない場合(S13:NO)、コンピュータ7は計測した時間が、RAM7dに記憶された加工時間を経過したか否かを判断する(S14)。加工時間を経過していない場合(S14:NO)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。なお、加工時間を経過した場合(S14:YES)は、掘削を停止して(S19)、加工を終了する。
【0076】
また、温度比較の段階(S13)で、測定温度が基準温度以上であるとコンピュータ7(CPU7a)が判定した場合(S13:YES)、コンピュータ7は後述する段階(S18)で電力値を低下させる処理の開始後から計測した時間がRAM7dに記憶した基準時間を経過したか否かを判定し(S15)、基準時間を経過した場合(S15:YES)、掘削を停止し(S19)、試料Sを保護する。
【0077】
一方、計測した時間が基準時間を経過していない場合(S15:NO)、電力値を低下させる処理を行ってからの時間計測中であるか否かをCPU7aは判断し(S16)、時間計測中である場合は(S16:YES)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。また、時間計測中でない場合(S16:NO)、CPU7aは断続印加に係る電力値P(出力値)を低下(半減)させる処理を行って(S17)、電力値を低下させる処理の開始してからの時間計測を開始して(S18)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。
【0078】
このように本実施形態のグロー放電掘削装置1は、断続モードでは電圧印加断時に温度測定を行うので、スパッタリングの発光に影響されることなく、試料Sの掘削箇所の温度を精度良く測定できると共に、電圧印加断の時間T3を利用して温度測定を行うことで、温度測定に要する時間を掘削加工時間に含ませることができ、効率的な加工を実現できる。
【0079】
また、グロー放電掘削装置1は、測定した温度が基準温度(試料Sに対して設定した許容温度)以上になると、試料Sに加えられる電力の電力値を低下させるので、掘削加工時に試料Sへ付与される熱量も低下し、温度が上昇しにくい状況を作り出して試料Sが熱ダメージを受けるのを回避している。さらに、電力値を低下して一定の時間(基準時間)が経過しても、測定した温度が下がらないとき(基準温度未満にならないとき)は、掘削加工を停止するので、試料Sが熱影響により変質して観察に用いることができない状態になること(試料Sを無駄にすること)を確実に防止している。
【0080】
なお、電力値を低下させてから基準時間が経過しても測定温度が基準温度以上であるときに掘削加工を停止するのは、温度低下にはある程度の時間を要するので、試料Sの電力値を低下してから基準時間が経過した時点で、試料Sの温度に対する判断を行うようにするためである。また、基準温度は試料Sに熱影響が生じる温度より低い許容値にしているので、測定温度が基準温度以上になってから基準時間が経過するまで掘削加工を行っても、本当に熱影響が発生する温度になるまで余裕があるため、試料Sに熱影響が生じることもない。
【0081】
よって、本実施形態に係るグロー放電掘削装置1は、断続モードにおいて試料Sに熱影響が生じないように自動で掘削加工を行えるため、掘削対象の試料がポリカーボネイトのような合成樹脂、及び合成ゴムのようなゴム材料等であっても、観察に好適な観察面を安定して形成することができる。
【0082】
一方、グロー放電掘削装置1の連続モードにおける掘削処理は、オペレータの操作に従ったものになり、設定された電力値Pで一定時間電圧印加を行ってから一旦電圧印加を休止して、モニタ部7hに表示される測定温度をオペレータが確認し、許容温度に達していなければ電圧印加を再開する。以降、このような処理を行って所望量を掘削する。また、測定温度が許容温度以上になったときは、オペレータの操作により試料へ印加する電圧の電力値Pを低下(例えば半減)させて電圧印加を行うようにする。このような処理を行うことにより、連続モードでも試料Sに熱影響が生じるのを確実に回避して掘削加工を行える。
【0083】
なお、本発明に係るグロー放電掘削装置1は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形例の適用が可能である。例えば、グロー放電掘削装置1で電極12と試料Sの間に印加する電圧は直流電圧にしてもよく、この場合は電源部4を直流の電力を生成して給電する構成に変更することになる。また、グロー放電掘削装置1は、電圧印加に対して連続モード及び断続モードの両方を必ず具備する必要はなく、いずれか一方のモードだけで電圧印加を行うようにして、装置コストの低減を図ってもよい。さらに、測定温度が基準温度以上になったことをオペレータへ確実に通知するため、コンピュータ7に警告音を出力する音出力部を設けて、測定温度が基準温度以上であるとCPU7aが判断したときは、音出力部から警告音を発する構成にしてもよい。
【0084】
さらにまた、断続モードで測定温度が基準温度以上になった場合は、試料Sに印加する電力値Pを低下させるだけでなく、電圧印加に係るデューティー比の値も低下させるようにしてもよく、例えば、印加電圧に関連する値として電力値が1W、デューティー比が0.5である場合に測定温度が基準温度以上になったときは、電力値を0.5W、デューティー比を0.25に低下させて試料Sへの熱負担を一段と低減させるようにしてもよい。また、印加電圧に関連する値としては、デューティー比の数値のみを低下させることも可能である。
【0085】
また、連続モードにおいてオペレータの操作負担を低減するために、図11に示すように、一定の時間(T10、T12等、例えば1分)掘削を行うと、次の時間(T11、T13等、例えば2秒)で温度測定を行うようにプログラミングを行って、連続モードでも自動で掘削できるようにしてもよい。この場合、掘削(電圧印加)に要する時間(T10、T12等)を準備段階で設定すると共に、CPU7aが各時間(T10〜T13等)を計時し、電圧印加を行う時間(T10、T12等)が経過すると、コンピュータ7(CPU7a)の制御に基づき電圧印加を停止してから温度測定を行い、温度測定が完了すると(温度測定に要した時間T11、T13等が経過すると)、電圧印加を再開する。また、測定した温度が基準温度以上になった場合、次に掘削(電圧印加)を行うときは、コンピュータ7(CPU7a)の制御により印加電圧の電力値を低下させて熱影響が試料Sに生じないようにする。
【0086】
図12は、赤外線センサ31の配置に係る変形例であり、赤外線センサ31の位置をモータの駆動で調整できるようにしたものである。具体的には、レール部材56に平行にボールねじ51をグロー放電管2のランプボディ11の一方の端面11h側に軸受部52を介して回転可能に取り付け、ボールねじ51の端部をカップリング部53を介して遮光部材34の外方に配置したモータ54のモータ軸と連結している。また、ボールねじ51に設けられた第1スライドユニット50と、レール部材56に取り付けられた第2スライドユニット55に、赤外線センサ31のハウジング31cを取り付けている。なお、モータ54の駆動はモータドライバ57により制御されており、モータドライバ57はコンピュータ7と接続されて、コンピュータ7からの指示に基づきモータ54の駆動制御を行うようになっている。
【0087】
図12に示すような構造を適用することで、遮光部材34を外すことなく赤外線センサ31を空洞11の封止を行うガラス部材40に対して接近離反可能となり、赤外線センサ31の位置をモータ54の駆動で調整して温度測定の準備負担を低減できる。
【0088】
また、図13は別の変形例を示し、ファイバー状の細い赤外線センサ60を用いる場合は、グロー放電管2′のランプボディ11′の内部に赤外線センサ60を配置してもよい。この場合、ランプボディ11′は、試料Sを配置する側と反対側の端面11h′に空洞11c′と連通する連通孔11i′を形成し、この連通孔11i′に、赤外線センサ60を挿通すると共に、連通孔11i′の内縁と赤外線センサ60の外面の間に環状の封止部材41を取り付けて空洞11c′を閉鎖している。
【0089】
なお、図13のグロー放電管2′は上述した以外については、図2に示す構成と同様であり、電極12、セラミックス部材13、及び押圧ブロック15を有すると共に、発振子3を押し当てて試料Sを取り付けている。このように赤外線センサ60を取り付けることで、赤外線センサ60の受光部60aは、電極12の筒状部12bに形成された貫通孔12cを通じて試料表面Saに対向し、受光部60aと試料Sまでの距離は図2、12に示す場合に比べて格段に短くでき、試料Sの掘削箇所から放射される赤外線の受光を確実に行って測定精度の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態に係るグロー放電掘削装置の全体的な構成を示す概略図である。
【図2】グロー放電管及び赤外線センサを示す一部を断面にした概略図である。
【図3】ジェネレータの内部構成を示すブロック図である。
【図4】印加される高周波電圧の形態を示すグラフである。
【図5】(a)は連続モードの給電形態を示すグラフであり、(b)は断続モードの給電形態及び温度測定時期を示すグラフである。
【図6】マッチングボックスの内部構成を示すブロック図である。
【図7】モード選択及び基準温度等を受け付ける設定メニューの内容を示す概略図である。
【図8】グロー放電掘削装置を用いたグロー放電掘削方法の処理手順を示す第1フローチャートである。
【図9】試料の掘削状態を示す概略図である。
【図10】グロー放電掘削方法における断続モードでの掘削処理の手順を示す第2フローチャートである。
【図11】連続モードにおける掘削時間と温度測定時間との関係を示すグラフである。
【図12】赤外線センサの取り付けに関する変形例を示す概略図である。
【図13】変形例の赤外線センサの取り付け形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0091】
1 グロー放電掘削装置
2 グロー放電管
4 電源部
7 コンピュータ
11 ランプボディ
11c 空洞
12 電極
12c 貫通孔
30 放射温度測定器
31 赤外線センサ
32 AD変換器
33 マイクロコンピュータ
34 遮光部材
40 ガラス部材
R 赤外線
S 試料
【技術分野】
【0001】
本発明はグロー放電に伴うスパッタリングで試料表面を掘削して観察に適した観察面を形成する場合、熱の影響を受けやすい試料であっても良好な観察面を形成できるようにしたグロー放電掘削装置及びグロー放電掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の構造及び組織等を視覚的に観察する際、透過電子顕微鏡(TEM)及び二次電子顕微鏡(SEM)のような各種顕微鏡を用いることがある。このような顕微鏡で試料を観察するには、準備処理として観察に適した面(観察面)を整える必要があり、例えば、試料断面を観察する場合では、試料を破断して観察面となる断面を表出させ、その表出させた断面が清浄で且つ一定以上の平滑度になるまで研磨を行わねばならない。
【0003】
試料の研磨には研磨剤を用いることが一般的であるが、研磨剤及び研磨作業により発生する研磨粉等の影響で作業環境の悪化が懸念されている。また、研磨作業は手間がかかるので各種顕微鏡で試料観察を行う準備処理の段階で長時間を要する。さらに、観察を行う試料の構造によっては研磨を行っても観察に適した面を得られないこともあり、例えば、試料がガラスのような硬い材料と、金のような軟らかい材料を組み合わせて構成されている場合、研磨により軟らかい材料が変形して硬い材料側へ流れ出るような形態となり、良好な観察面を形成することが非常に困難となる。
【0004】
上述した試料研磨に関する不具合を回避して試料の清浄な観察面を得るために、研磨ではなくグロー放電によるスパッタリングの威力で試料の観察対象となる表面を削り取り、試料表面を所望の平滑度に仕上げるようにした装置及び方法が下記の特許文献1乃至特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開昭54−131539号公報
【特許文献2】特開2002−310959号公報
【特許文献3】特開2004−61163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
観察対象の試料には様々な種類が存在し、例えばゴム及び合成樹脂等のように熱を受けると溶融しやすいもの、又は熱により硬化しやすいものなど、熱に弱い試料を観察対象にすることがある。このような試料をスパッタリングの威力による試料表面を削り取って(掘削して)観察面を形成する場合、スパッタリングに伴う熱を過度に受けると(試料表面が熱に耐え得る温度を越えると)、試料表面が溶融又は硬化して試料が変質するため、良好な観察面を得ることが困難になると云う問題がある。
【0006】
グロー放電による掘削加工時の試料への熱影響に対して、グロー放電に係る放電時間(スパッタ時間)を測定し、熱影響を避けるために所定の時間が経過すると掘削を停止することも考えられる。しかし、時間の測定は、熱に弱い試料が本当に変質しかかっているかを間接的に判断する材料に過ぎないため、熱ダメージを回避して良好な観察面を形成できると云う確実性を得られない。
【0007】
本発明は、斯かる問題に鑑みてなされたものであり、赤外線放射温度測定方式を用いて試料の掘削箇所の温度を測定することで、グロー放電に伴うスパッタリングの熱影響が試料表面に生じることを確実に回避できるようにしたグロー放電掘削装置及びグロー放電掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1発明に係るグロー放電掘削装置は、中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削装置において、試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光する赤外線センサと、該赤外線センサが受光する赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係るグロー放電掘削装置は、前記赤外線センサの受光部が試料の掘削箇所に対して近接離反できるように前記赤外線センサを移動する移動手段を備えることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係るグロー放電掘削装置は、前記中空電極を保持する保持体を備え、該保持体は、前記中空電極の中空部に連通する空洞、及び該空洞を介して該中空部に対向する透光部材を備え、前記赤外線センサは、前記中空部、前記空洞、及び前記透光部材を通過した赤外線を受光するようにしてあることを特徴とする。
第4発明に係るグロー放電掘削装置は、前記赤外線センサ及び透光部材を覆って遮光する遮光部材を備えることを特徴とする。
【0011】
第5発明に係るグロー放電掘削装置は、前記温度測定手段が温度を測定するときに、電圧の印加を停止する停止手段を備えることを特徴とする。
第6発明に係るグロー放電掘削装置は、電圧の印加を断続的に行う手段を備え、前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてあることを特徴とする。
【0012】
第7発明に係るグロー放電掘削装置は、基準温度を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させる低下手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
第8発明に係るグロー放電掘削装置は、電圧の印加を断続的に行う手段と、基準温度を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比及び/又は印加電圧に係る電力値を低下させる低下手段とを備え、前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてあることを特徴とする。
【0014】
第9発明に係るグロー放電掘削方法は、中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削方法において、試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光し、受光した赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定し、測定した温度及び予め受け付けた基準温度を比較し、比較の結果、測定した温度が基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させることを特徴とする。
【0015】
第1発明にあっては、試料から放射される赤外線を中空電極の中空部を通過させて赤外線センサで受光するようにしているので、中空電極に対向した奥まった位置の掘削箇所から放射される赤外線をスムーズに受光できるようになる。また、温度測定手段は、赤外線センサが受光する赤外線に基づいて掘削箇所の温度を測定するので、試料の掘削箇所から放射される赤外線に基づき掘削箇所自体の温度を測定できるようになる。よって、測定された温度を確認すれば、熱影響が生じる温度に達しないように電圧の印加具合を調整しながら掘削加工を行えるようになり、熱の影響を受けやすい試料に対しても良好な観察面を形成できる。なお、試料に応じて熱影響が生じる温度は様々であるため、掘削加工対象の試料の熱影響が生じる温度を予め調べておき、調べた温度に測定した温度が到達しないようにすることが良好な観察面を形成するために重要となる。
【0016】
第2発明にあっては、移動手段により赤外線センサの受光面の位置を試料の掘削箇所に対して調整できるので、赤外線が放射されるエリア(測定視野)を最適に調整でき、試料の掘削箇所から放射される赤外線を確実に受光して温度測定に係る精度を良好にできる。
【0017】
第3発明にあっては、中空電極を保持する保持体に試料から放射される赤外線が通過可能な空洞及び透光部材を設けるので、透光部材越しに赤外線を受光するように保持体の外方に赤外線センサを配置できるようになる。その結果、赤外線センサが直接的にスパッタリングの影響を受けることがなくなり、安定した受光を行えると共に、赤外線センサの位置調整及びメンテナンス等も容易に行える。
【0018】
第4発明にあっては、赤外線センサ及び透光部材を覆う遮光部材を備えるので、赤外線センサの受光の際に明光が入り込むことが遮断され、周囲の明光により測定精度が低下するような事態を排除でき、温度測定に係る精度を維持できる。
【0019】
第5発明にあっては、温度測定を行うときは、電圧の印加を停止するので、スパッタリングに伴う発光も生じなくなり、試料から放射される赤外線のみを良好に赤外線センサが受光できる状態を作り出せ、そのため、スパッタリングの影響を受けることなく、試料の掘削箇所の温度を適正に測定できるようになる。なお、電圧の印加停止に係る形態としては、電圧を一定期間印加してから、温度測定のため電圧印加を停止し、測定した温度が試料の許容温度を超えていなければ、再度電圧を印可すると云うサイクルが想定できる。
【0020】
第6発明にあっては、電圧の印加を断続的に行うので、スパッタリングの発生も断続的になり、連続して電圧印加を行う場合に比べて試料が受ける熱影響(熱ダメージ)の程度が緩和されるため、熱の影響を受けやすい試料及び一定以上の外力で破壊されやすい材料等を掘削する際にスパッタリングの威力を抑えて加工を行える。さらに、電圧の印加を断続的に行う場合は、断続印加中の印加断時に受光した赤外線に基づいて温度を測定するので、スパッタリングに伴う発光を受光することなく、試料から放射される赤外線のみを受光して高精度の温度測定を印加断時に行うことができ、また、印加断時を温度測定の時間に利用するため、温度測定も含めた掘削加工を効率的に進めることができる。
【0021】
第7発明及び第9発明にあっては、基準温度と測定した温度を比較し、測定した温度が基準温度以上になった場合、印加電圧に関連する値を低下させるので、試料に変質が生じるおそれがあるときは、試料に加えられる熱量を抑えられる。その結果、掘削加工中、試料の温度上昇が自動的に抑制され、掘削加工を行った試料が観察に適さないように変質することを確実に防止できる。なお、試料に熱ダメージを生じさせないため、基準温度には掘削加工対象の試料に熱影響が出ない範囲の許容温度、又はその許容温度より少し低い温度を設定することが重要である。
【0022】
第8発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比と電力値のいずれか一方、又は両方を低下させるので、電圧の断続印加により試料を掘削する場合、試料に熱ダメージが生じる程度に温度が上昇したときでも、試料に加えられる熱量を確実に減少させられる。そのため試料の掘削箇所の温度上昇を抑制でき、熱影響を受けやすい試料に対しても安定した自動掘削加工を実現できる。
【発明の効果】
【0023】
第1発明にあっては、試料から放射される赤外線を中空電極の中空部を通過させて赤外線センサで受光するので、掘削箇所から放射される赤外線を良好に受光でき、それに伴い熱ダメージを受ける掘削箇所の温度を確実に測定できる。
第2発明にあっては、赤外線センサの受光部の位置を試料の掘削箇所に対して調整できるので、掘削箇所の温度測定を行うために赤外線を受光する位置を試料に合わせて柔軟に変更できる。
【0024】
第3発明にあっては、空洞及び透光部材を備えた保持体で中空電極を保持するので、赤外線センサを透光部材でグロー放電に伴うスパッタリングから隔離でき、赤外線センサがスパッタリングによるダメージを受けることを回避でき、赤外線の受光を安定して行うことができる。
第4発明にあっては、赤外線センサ及び透光部材を覆う遮光部材を備えるので、周囲の明光の影響を赤外線センサが受光することを防止でき、温度測定に係る精度を良好に保つことができる。
【0025】
第5発明にあっては、温度測定を行うときに電圧の印加を停止するので、スパッタリングに伴う発光が生じていない状態で試料から放射される赤外線を受光して温度測定を行うことができ、スパッタリングの影響を受けることなく、試料の掘削箇所の温度を適正に測定できる。
【0026】
第6発明にあっては、電圧の印加を断続的に行うので、スパッタリングの発生も断続的になり、連続して電圧印加を行う場合に比べて試料が受ける熱影響(熱ダメージ)の程度が緩和できると共に、断続印加中の印加断時に受光した赤外線に基づいて温度を測定するので、スパッタリングに伴う発光の影響を回避して掘削箇所の温度測定を精度良く行える。
【0027】
第7発明及び第9発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、印加電圧に関連する値を低下させるので、熱の影響により試料に変質が生じる状況を回避でき、熱に弱い試料も良好に掘削できる。
【0028】
第8発明にあっては、測定した温度が基準温度以上になった場合、電圧の断続印加に係るデューティー比と電力値の少なくとも一方を低下させるので、電圧の断続印加で掘削加工を行う際、試料に熱影響による変質が生じることを確実に防止して安定した自動加工を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は本発明の実施形態に係るグロー放電掘削装置1の全体的な構成を示している。グロー放電掘削装置1は、試料Sを掘削するためにグロー放電を発生させるグロー放電管2、電圧印加に係る電力生成を行う電源部4、掘削箇所の温度を試料Sから放射される赤外線に基づき測定する放射温度測定器30、及び装置の全体的な制御を行うコンピュータ7を備えている。本実施形態のグロー放電掘削装置1は、グロー放電により掘削される試料Sの掘削箇所の温度を測定できるようにしたことが特徴である。
【0030】
グロー放電掘削装置1の電源部4は、交流電源AC(本実施形態では220V)に接続されて高周波電力を生成するジェネレータ6及びマッチングボックス5を備えており、放射温度測定器30は、赤外線センサ31、AD変換器32、及びマイクロコンピュータ33(温度測定手段に相当)を備える。また、図1中、破線で囲まれた部分は、グロー放電掘削装置1の本質的な構成に属しない周辺機器類を示し、周辺機器類にはグロー放電管2の内部を真空引きする真空引き装置8と、真空引きした後にグロー放電管2の内部に不活性ガス(アルゴンガス)を供給するためのガス供給調整部9及びガス供給源10が含まれる。なお、ガス供給調整部9は流量を調整するためのバルブ等を具備し、ガス供給源10はアルゴンガスのような不活性ガス又は不活性ガスの混合ガス等を充填したボンベが相当する。
【0031】
図2は、グロー放電管2、及び放射温度測定器30の赤外線センサ31の取り付け構造等を示している。グロー放電管2は短円柱状のランプボディ11、電極12(中空電極に相当)、セラミックス部材13、及び押圧ブロック15の組み合わせにより構成されている。
【0032】
ランプボディ11は電極12を保持する保持体に相当し、押圧ブロック15が組み合わされる端面11aの中心箇所に電極12を保持するための窪部11bを凹設すると共に、窪部11bの中心部に空洞11cを穿設している。また、ランプボディ11は、中心から周壁部11dへ向けて放射状に真空引き用の吸引孔11e、11fを複数設け、一部の吸引孔11eは空洞11cに連通させると共に、他の吸引孔11fは窪部11b側に連通させている。さらに、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けて不活性ガスの供給用のガス供給孔11gを空洞11cと連通するように形成している。さらにまた、ランプボディ11は、試料Sを配置する側と反対側の端面11hにおける空洞11cに対応する箇所にガラス部材40(透光部材に相当)を取り付けて、空洞11cを封止している。
【0033】
ランプボディ11に保持される電極12は、円板部12aの中心から筒状部12bを突出した形状にしており、筒状部12b及び円板部12aを貫通する貫通孔12c(中空部に相当)を穿設している。円板部12aには、ランプボディ11の真空引き用の吸引孔11fと連通させる穴12dを形成している。また、電極12は、ランプボディ11の窪部11bに取り付けられると、アース電位になると共に、貫通孔12cがランプボディ11の空洞11cに連通してガラス部材40に対向する。なお、電極12が保持された状態でランプボディ11の空洞11c及び電極12の貫通孔12cの密閉性を維持するため、第1オーリング(シール部材)16がランプボディ11及び電極12の間に取り付けられている。
【0034】
セラミックス部材13は厚みが大きい円板状部材であり、電極12を筒状部12b側から被ってランプボディ11に配置されるようになっており、電極12の円板部12aを被うフランジ部13dを有すると共に、中心部には筒状部12bを挿通させる挿通孔13cを形成している。また、セラミックス部材13は表出する側の端面13aにオーリング装着用のリング溝13bを凹設している。セラミックス部材13は、耐熱性の第1絶縁体17を介して電極12の円板部12aに対向して配置され、配置された状態では、セラミックス部材13の挿通孔13cと電極12の筒状部12bとの間に所定の隙間が形成され、筒状部12bの先端となる端部12eはセラミックス部材13の端面13aより少し奥まって位置するようになっている。なお、第1絶縁体17と電極12の円板部12aとの間にも密閉性維持のために第2オーリング18が取り付けられている。
【0035】
押圧ブロック15は、電極12及びセラミックス部材13をランプボディ11に固定するための環状の部材であり、内周縁側の突出部15aでセラミックス部材13のフランジ部13dをランプボディ11側へ押圧するようにしている。なお、押圧ブロック15自体は、ボルトによりランプボディ11の端面11aに取り付けられる。また、押圧ブロック15の突出部15aと、セラミックス部材13のフランジ部13dとの間にも耐熱性の第2絶縁体19を介在させている。
【0036】
一方、グロー放電管2に取り付けられる掘削対象の試料Sは、セラミックス部材13の端面13aに取り付けられた第3オーリング20に試料表面Saが当接するように配置される。さらに、この状態で試料Sの裏面Sdには発振子3が押し当てられて試料Sがグロー放電管2側へ押圧される。このように配置された試料Sは電極12の貫通孔12c及び端部12eに対向すると共に、第3オーリング20で囲まれた空間Kが形成される。なお、発振子3は、図1に示すように電源線Dにより電源部4と接続されており、また、図示しない所定の係止手段で試料Sを最適な押圧力でグロー放電管2へ押圧している。
【0037】
上述した構成のグロー放電管2は、ランプボディ11の各吸引孔11e、11fが図1に示す真空引き装置8と接続され、ガス供給孔11gがガス供給調整部9と接続される。そのため、真空引き装置8が真空引きを行うと、各吸引孔11e、11f、空洞11c、及び電極12の貫通孔12cを通じて空間Kが真空にされる。また、空間Kが真空にされた状態で、ガス供給調整部9がガス供給を開始すると、ガス供給孔11g、空洞11c、及び電極12の貫通孔12cを通じて空間Kに不活性ガスが供給される。この際、空間Kは第3オーリング20により閉鎖されて小さい体積となっているため、空間Kには十分な不活性ガスが供給される。
【0038】
また、グロー放電管2のランプボディ11の一方の端面11h側には、放射温度測定器30の赤外線センサ31を配置している。赤外線センサ31は、試料Sから放射される赤外線Rの受光部となる光学レンズ31aと、光学レンズ31aを通過した赤外線Rを受光するサーモパイル31bと、光学レンズ31a及びサーモパイル31bを収めたハウジング31cとを備える。図2に示すように光学レンズ31aをガラス部材40に対向させることで、赤外線センサ31は試料Sから放射されて電極12の貫通孔12c、空洞11c、及びガラス部材40を通過した赤外線Rを受光する。
【0039】
さらに、ランプボディ11の端面11hは、試料Sから赤外線センサ31へ向かう赤外線Rに平行にレール部材35を突設しており、このレール部材35は摺動可能なスライドユニット36を設けている。赤外線センサ31のハウジング31cは、スライドユニット36に取り付けられており、スライドユニット36を図2中の矢印方向に摺動させることで、赤外線センサ31の光学レンズ31aが試料Sの掘削箇所に対して接離できるように赤外センサ31を移動可能にしている。また、スライドユニット36には、固定ネジ37が取り付けてあり、固定ネジ37を締め上げることでスライドユニット36の位置を固定でき、固定ネジ37を緩めるとスライドユニット36を摺動可能な状態にできる。
【0040】
なお、赤外線センサ31のサーモパイル31bは、入射された赤外線Rのエネルギーに応じたアナログ信号を発生させると共に、サーモパイル31b自身の温度に応じたアナログ信号も発生させており、発生させた信号を信号線L4を通じてAD変換器32へ出力するようにしている。
【0041】
さらにまた、ランプボディ11の端面11hは、カップ状の遮光部材34を取り付けている。遮光部材34は赤外線センサ31、レール部材34、及びガラス部材40を被った状態で周縁端部34aをランプボディ11の端面11hに取り付けており、その結果、赤外線センサ31の光学レンズ31aに周囲の明光が入り込むことを防止して安定した赤外線Rの受光を図っている。遮光部材34は赤外線センサ31から延出する信号線L4を通過させる通過孔を形成しており、信号線L4を外方へ引き出して放射温度測定器30のAD変換器32へ(図1参照)へ接続している。なお、遮光部材34は、グロー放電管2全体を被うような形状にすることも可能であり、また、掘削加工自体を暗室のような周囲の明光を排除できる場所で行うときは遮光部材34を省略してもよい。
【0042】
図1に示す放射温度測定器30のAD変換器32は、赤外線センサ31から出力されてくるアナログ信号をデジタル信号に変換し、信号線L5を通じて変換したデジタル信号をマイクロコンピュータ33へ送るものである。マイクロコンピュータ33は温度測定手段に相当し、送られてきたデジタル信号に対して基準温度及び放射率による補正を行って、赤外線センサ31が受光した赤外線Rに基づく試料Sの表面温度(赤外線Rを放射した箇所)の温度を換算(演算)し、その温度を測定温度として信号線L5を通じてコンピュータ7へ出力する処理を行う。
【0043】
なお、放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33は、信号線L5を通じてコンピュータ7から温度測定を行う開始指示を受け付けた場合に、測定温度の演算処理を行うようにしており、指示を受け付けたときにAD変換器32から送られてくるデジタル信号に基づいて温度を測定する。また、マイクロコンピュータ33は、コンピュータ7から温度測定を停止する停止指示を受け付けた場合に、温度測定に係る処理を停止するようにしている。このようにコンピュータ7の制御(指示)に基づきマイクロコンピュータ33が温度測定を行うことで、スパッタリングの発生しているときは温度測定を行わず、スパッタリングの発生していないときに温度測定を行うことが可能となり、スパッタリングの影響を回避して測定された温度値の信頼性を確保できる。
【0044】
図3は、電源部4を構成するジェネレータ6の内部構成を示している。ジェネレータ6は、高周波電力生成部6a、制御部6b及び電力計測部6cを具備する。高周波電力生成部6aは交流電源ACと接続されて図4に示す正(+)及び負(−)に変化する交流(高周波)電圧を試料S及び電極12に印加するために高周波電力を生成する。また、高周波電力生成部6aは第1内部接続線6dにより制御部6bと接続されており、制御部6bの制御により高周波電力に係る出力モード及び電力値等を調整する。なお、本実施形態の高周波電力生成部6aは13.56MHzの高周波電圧に係る電力を生成している。
【0045】
制御部6bはIC(集積回路)で構成されており、第1接続コードL1を通じてコンピュータ7と接続されており、コンピュータ7から出力される各種信号に基づきグロー放電管2及び試料Sへの給電形態(電圧印加形態)を判断し、判断結果に基づき高周波電力生成部6aの出力モードを制御する。
【0046】
図5(a)は、制御部6bによる1つ目の出力モードを示すグラフであり、所定の時間内、連続して高周波電力(電力値P)を出力して試料S及び電極12に連続的な高周波電圧の印加を行うモードである(以降、このモードを連続モードと称す)。また、図5(b)は、制御部6bによる2つ目の出力モードを示すグラフであり、所定の時間内、パルス的(オン/オフ的)に高周波電力(電力値P)を出力して試料S及び電極12に断続的な高周波電圧の印加を行うモードである(以降、このモードを断続モードと称す)。
【0047】
なお、制御部6bは、断続モードでは電圧の印加を断続的に行う手段として内部のICでパルス的な処理を行って電力供給及び電力供給休止を交互に繰り返す。このような処理により、図5(b)に示す棒状に突出した部分に対応する給電時間T1で高周波電力が出力されて試料Sに電圧が印加され、1回の給電(電圧印加)及び1回の給電休止(印加休止)を含む単位時間T2から給電時間T1を引いた時間T3で高周波電力の出力(電圧印加)が休止されて電圧印加断になる。
【0048】
また、制御部6bは切替手段として、上述した連続モードと断続モードとの切替をコンピュータ7から出力される信号に基づき行う。さらに、制御部6bは連続モードにおいて、印加電圧に関連する値として給電に係る電力値Pを変更可能にしており、断続モードでは印加電圧に関連する値として、単位時間(1秒間)当たりの給電回数(給電周波数)、断続的な給電に係るデューティー比、及び電力値Pをそれぞれ変更可能にしている。なお、制御部6bは、コンピュータ7から出力される信号に基づき、印加電圧に関連する値を変更(設定)する。
【0049】
なお、給電周波数の変更に対して制御部6bは、約30Hz〜約3000Hzの範囲で給電周波数を調整可能にしており、給電周波数が変更されると図5(b)のグラフにおいて、時間T3が変化する。デューティー比の変更に関しては、断続給電中の単位時間T2対し1回分の給電時間T1が占める割合(T1/T2)を適宜調節できるようにしている。
【0050】
また、試料Sの掘削が進行するにつれて、試料Sの掘削箇所表面と電極12の端部12eとの距離が長くなり、電圧印加における試料Sに係るインピーダンス値が随時変化するため、断続モードにおけるインピーダンス値変化に対する調整処理も制御部6bが行っている。
【0051】
具体的に制御部6bは、後述する電力計測部6cから伝送されてきた電力値Pf及び反射値Prとの差を演算し、演算された差に基づき高周波電力生成部6aで生成された高周波電力の試料Sへ給電される進行波の電力値(電力値Pf)を変更する制御を行う。なお、制御部6bは演算された差(Pf−Pr)が一定となるように電力値Pfを調整しており、本実施形態では演算された差(Pf−Pr)が後述するコンピュータ7から伝送されてきた基準電力値と同等となるように高周波電力生成部6aで生成される電力値Pfを制御部6bが内蔵するICのソフト的な処理で調整する。
【0052】
このように制御部6bがソフト的な調整を行うことで、断続モードでの試料Sのインピーダンス値の変化に対応して適切な給電を行える。なお、制御部6bが試料Sのインピーダンス値の変化に対応した調整を行うのは断続モードの場合であり、連続モードでは後述するようにマッチングボックス5が調整を行う。
【0053】
図3に戻りジェネレータ6の電力計測部6cは、第2及び第3内部接続線6e、6fにより制御部6b、高周波電力生成部6aと接続されている。電力計測部6cは、高周波電力生成部6aで生成されて図1に示す発振子3へ向かう高周波電力の進行波の電力値である電力値Pfを検出すると共に、試料Sから反射して戻ってくる反射波の電力値である反射値Prを検出し、検出した値を制御部6bへ伝送している。
【0054】
図6に示す電源部4のマッチングボックス5は、連続モードにおいてジェネレータ6で生成された高周波電力の電源部4としての出力形態を調整する可変コンデンサ5a、可変コンデンサ5aの電気容量を調整するモータ5b、モータ5bの駆動等の制御を行うコンデンサ制御部5cを具備する。
【0055】
可変コンデンサ5aはモータ5bの駆動に応じて自身の電気容量を変更でき、電気容量の変更によりモジュール及びフェーズが調節される。また、コンデンサ制御部5cは、第2接続コードL2によりコンピュータ7と接続されており、コンピュータ7からマッチングボックス5へ伝送されてくる断続モードの設定の通知信号に基づいてモータ5bの駆動を制御する。
【0056】
具体的には、断続モードの通知信号を受け付けた場合、可変コンデンサ5aの電気容量が一定に固定されるようにモータ5bを一定の状態に維持する制御をコンデンサ制御部5cは行う。よって、断続モードではマッチングボックス5で高周波電力のモジュール及びフェーズは調整されない。また、断続モードの通知信号を受け付けない場合、即ち、連続モードが設定されたとき、試料Sからの反射値Prが最小となるようにモータ5bの駆動を制御して可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御をコンデンサ制御部5cは行う。なお、反射値Prが最小であれば、コンデンサ制御部5cは可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御は行わない。
【0057】
一方、図1に示すコンピュータ7は、ジェネレータ6から延在する第1接続コードL1及びマッチングボックス5から延在する第2接続コードL2が接続されるインタフェース基板7bを設けており、このインタフェース基板7bをCPU7a、外部接続部7c、RAM7d、ROM7e、及びハードディスク装置7fが接続された内部バス7gに繋げている。なお、内部バス7gにはモニタ接続線L3を介してモニタ部7hも接続している。
【0058】
外部接続部7cは外部機器の接続用であり、本実施形態では、信号線L6を通じて放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33を接続している。なお、放射温度測定器30が測定した温度は、CPU7aの制御に基づきモニタ部7hに随時表示されるようになっている。また、RAM7dはCPU7aが行う各種制御処理に伴うデータ等を一時的に記憶し、ROM7eは処理に必要なデータ(基準時間)及びCPU7aが行う基本的な処理内容を規定したプログラム等を予め記憶しており、ハードディスク装置7fはCPU7aが行う掘削処理に関連する制御内容を規定した掘削プログラム21等を記憶している。
【0059】
インタフェース基板7bは連続モード用回路、断続モード用回路を有し、CPU7aの制御に基づき、オペレータにより設定されたモードがインタフェース基板7bへ通知されれば、通知されたモードに対応する回路が作動し、作動した回路による処理でモード切替に係る制御信号がジェネレータ6へ出力される。
【0060】
また、インタフェース基板7bの断続モード用回路には、断続モードに対してオペレータによりコンピュータ7で設定された給電周波数、デューティー比、電力値等のパラメータが伝送され、断続モード用回路は伝送された内容を1つにまとめた信号を生成してジェネレータ6へ出力すると共に、断続モードを通知するマニュアル・アダプテーションと云う通知信号をマッチングボックス5へ出力する処理を行う。なお、伝送されるパラメータには、高周波電力のピーク電力値、変動するインピーダンス値に対応した調整処理に用いられる基準電力値(基準値)等も含まれる。
【0061】
CPU7aは計時機能を具備すると共に、ハードディスク装置7fに記憶された掘削プログラム21に基づいて各種処理を行い、図1で示していないキーボード又はマウス等の操作でオペレータにより入力された指示に基づき所定の設定及び制御を行う。
【0062】
例えば、掘削プログラム21が起動すると、図7に示す設定メニュー22をモニタ部7hに表示させる処理をCPU7aは行う。また、オペレータの操作により設定メニュー22で断続モード又は連続モードのいずれかを受け付けた場合、CPU7aは受け付けた設定内容に対応するインタフェース基板7b内の回路を作動させる処理を行う。
【0063】
設定メニュー22で断続モードが設定された場合、CPU7aは、掘削加工の加工時間、周波数(給電周波数)及びデューティー比の数値設定もオペレータから受け付ける処理を行い、受け付けた内容をRAM7dに記憶すると共に、インタフェース基板7bへ通知してジェネレータ6へ所定の信号を伝送する。なお、デューティー比は、掘削対象の試料Sが特に溶解しやすい場合及び破壊しやすい場合、0.5より低い数値に設定することが好ましい。さらに、図7の設定メニュー22以外に別のメニューでCPU7bは高周波電力のピーク値(電力値)等の他のパラメータも設定可能にしている。また、設定メニュー22で断続モードが設定されたとき、CPU7aは、断続モードの設定を伝える通知信号をインタフェース基板7bからマッチングボックス5へ出力する制御を行う。
【0064】
一方、設定メニュー22で連続モードが設定された場合、CPU7aは連続的に電力を生成するようにインタフェース基板7bからジェネレータ6に指示信号を出力させる制御を行う。なお、連続モードが設定されたときは、印加電圧に関連する値として給電に係る電力値も設定可能にしている。
【0065】
また、いずれのモードが設定された場合でも、設定メニュー22は試料Sに対する基準温度及び加工時間を設定できるようにしており(図7参照)、コンピュータ7がキーボード又はマウスでオペレータから基準温度及び加工時間の入力を受け付けた場合、CPU7aは受け付けた数値をRAM7dに記憶する。なお、入力する基準温度の値は、掘削加工対象の試料Sの種類に応じて決める必要があり、試料Sが熱の影響を受けやすいものである場合、熱の影響が生じないレベルの許容温度(熱の影響が発生する温度より低い温度)を入力することになる。
【0066】
また、本実施形態では連続モードが設定されたときは、オペレータのマニュアル的な操作で、給電(電圧印加)を所定時間行うと、一旦給電(電圧印加)を休止し、その休止に連動してコンピュータ7の制御に基づき放射温度測定器30が試料の掘削箇所の温度を測定し、測定した結果をコンピュータ7はモニタ部7hに表示する処理を行う。よって、連続モードでは、オペレータが給電を休止した際に、モニタ部7hに表示される温度を確認し、給電を継続するか、給電(出力電圧)に関連する値(電圧値P)を低下させるか、または掘削加工を終了するか等を判断する。
【0067】
一方、断続モードが設定されたとき、CPU7aは加工の開始と共に時間を計測し、計測した時間とRAM7dに記憶された加工時間との比較を行い、計測した時間が加工時間に達すると電圧印加を停止して掘削加工を終了させる制御を行う。
【0068】
また、CPU7aは掘削加工中、図5(b)に示すように、断続給電時の給電断時(高周波電圧の断続印加中の印加断時)の時間T3で温度測定を行うように、CPU7aは放射温度測定器30を制御する。詳しくは、時間T3に同期して温度測定を行えるように、CPU7aは給電時間T1の終了時期に温度測定の開始指示を外部接続部7cから放射温度測定器30のマイクロコンピュータ33へ出力すると共に、時間T3の終了時期に温度測定の停止指示をマイクロコンピュータ33へ出力する。このようにCPU7aが指示を出力することで、放射温度測定器30が測定を行うとき(赤外線Rを赤外線センサ31が受光するとき)、グロー放電に伴う発光が生じていないので、グロー放電のスパッタリングによる発光の影響を受けることなく温度測定を行える。
【0069】
さらに、断続モードでCPU7aは、放射温度測定器30で測定された温度と設定メニュー22で設定された基準温度とを比較判定し、測定温度が基準温度以上であると判定した場合、ジェネレータ6に対して断続印加の印加電圧に係る電力値Pを低下させる制御を行う。本実施形態では、低下させる量として設定値を半減するようにしており、例えば設定された電力値が1Wである場合、測定温度が基準温度以上になると、電力値を0.5Wにすることを規定した信号をコンピュータ7からジェネレータ6へ出力する。
【0070】
さらにまた、CPU7aは、電力値を低下させる信号を出力したときは、信号出力から時間の計測を行い、計時した時間がROM7eに記憶する基準時間を経過したか否かを判断する。この際、電力値を低下させる信号を出力後の計測時間が基準時間を経過しても、測定温度が基準温度以上を維持しているときは、試料Sの変質を防止するため、CPU7aは電圧印加を停止して掘削加工を終了させる制御を行う。なお、上述したCPU7aが行う各種処理をハードディスク装置7fに記憶された掘削プログラム21が規定している。
【0071】
次に上述した構成のグロー放電掘削装置1を用いたグロー放電掘削方法に係る全体的な処理手順を図8の第1フローチャートに基づいて説明する。
先ず、グロー放電掘削装置1は図7に示す設定メニュー22等においてオペレータからの入力を受けて、モード、基準温度、断続モードを設定した場合は周波数及びデューティー比等の各種パラメータを設定し(S1)、オペレータは試料Sを図2に示すようにグロー放電管2にセットする(S2)。
【0072】
次に、オペレータはグロー放電管2の内部を真空引き装置8で真空引きしてから、ガス供給源10よりグロー放電管2の内部へ不活性ガス(アルゴンガス)を供給する(S3)。それから、オペレータは放射温度測定器30の準備段階として掘削前の試料表面Saから放射される赤外線Rの受光を行い、適正に温度が測定できるか否かを確認し、赤外線センサ31の位置の調整も行って、掘削前の試料表面温度を測定する。そして、グロー放電掘削装置1は、設定された内容に応じた給電を行って電圧を印加し(S4)、試料Sの空間Kに表出した試料表面Saを掘削する(S5)。
【0073】
図9は、試料Sの掘削状態を示し、第3オーリング20で閉鎖された空間Kでは、電極12の貫通孔12cを通じアルゴンガスがスムーズに導かれた状態で電極12及び試料Sの間に電圧が印加されてグロー放電が発生し、アルゴンガスに含まれるアルゴンイオンが試料表面Saに向けて飛び出して衝突し、スパッタリングが起こる。このスパッタリングによるアルゴンイオンの衝突で試料表面Saが掘削されて凹部Sbが生じる。また、凹部Sbの底面Scからは赤外線Rが放射されるため、放射温度測定器30は試料Sの掘削箇所である凹部Sbの底面Scの温度を測定する。
【0074】
図10の第2フローチャートは、図8の第1フローチャートの掘削の処理(S5)において、断続モードで掘削を行う場合の詳細な処理手順を示すグロー放電掘削方法に関するものである。以下、第2フローチャートに基づいて断続モードの掘削処理を説明すると、グロー放電掘削装置1は、図5(b)に示すように給電時間T1で電圧印加を行い(S10)、次の時間T3で電圧印加断の状態として電圧印加を休止する(S11)。この電圧印加を休止している時間T3で赤外線センサ31が受光した赤外線Rに基づいてマイクロコンピュータ33が温度測定を行う(S12)。なお、グロー放電掘削装置1のコンピュータ7(CPU7a)は、掘削処理の開始に伴い加工を行う時間の計測を開始している。
【0075】
次に、グロー放電掘削装置1のコンピュータ7は、マイクロコンピュータ33の測定温度がRAM7dに記憶した基準温度以上であるか否かを判断する(S13)。測定温度が基準温度以上でない場合(S13:NO)、コンピュータ7は計測した時間が、RAM7dに記憶された加工時間を経過したか否かを判断する(S14)。加工時間を経過していない場合(S14:NO)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。なお、加工時間を経過した場合(S14:YES)は、掘削を停止して(S19)、加工を終了する。
【0076】
また、温度比較の段階(S13)で、測定温度が基準温度以上であるとコンピュータ7(CPU7a)が判定した場合(S13:YES)、コンピュータ7は後述する段階(S18)で電力値を低下させる処理の開始後から計測した時間がRAM7dに記憶した基準時間を経過したか否かを判定し(S15)、基準時間を経過した場合(S15:YES)、掘削を停止し(S19)、試料Sを保護する。
【0077】
一方、計測した時間が基準時間を経過していない場合(S15:NO)、電力値を低下させる処理を行ってからの時間計測中であるか否かをCPU7aは判断し(S16)、時間計測中である場合は(S16:YES)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。また、時間計測中でない場合(S16:NO)、CPU7aは断続印加に係る電力値P(出力値)を低下(半減)させる処理を行って(S17)、電力値を低下させる処理の開始してからの時間計測を開始して(S18)、電圧印加の段階(S10)へ戻り、掘削加工を継続する。
【0078】
このように本実施形態のグロー放電掘削装置1は、断続モードでは電圧印加断時に温度測定を行うので、スパッタリングの発光に影響されることなく、試料Sの掘削箇所の温度を精度良く測定できると共に、電圧印加断の時間T3を利用して温度測定を行うことで、温度測定に要する時間を掘削加工時間に含ませることができ、効率的な加工を実現できる。
【0079】
また、グロー放電掘削装置1は、測定した温度が基準温度(試料Sに対して設定した許容温度)以上になると、試料Sに加えられる電力の電力値を低下させるので、掘削加工時に試料Sへ付与される熱量も低下し、温度が上昇しにくい状況を作り出して試料Sが熱ダメージを受けるのを回避している。さらに、電力値を低下して一定の時間(基準時間)が経過しても、測定した温度が下がらないとき(基準温度未満にならないとき)は、掘削加工を停止するので、試料Sが熱影響により変質して観察に用いることができない状態になること(試料Sを無駄にすること)を確実に防止している。
【0080】
なお、電力値を低下させてから基準時間が経過しても測定温度が基準温度以上であるときに掘削加工を停止するのは、温度低下にはある程度の時間を要するので、試料Sの電力値を低下してから基準時間が経過した時点で、試料Sの温度に対する判断を行うようにするためである。また、基準温度は試料Sに熱影響が生じる温度より低い許容値にしているので、測定温度が基準温度以上になってから基準時間が経過するまで掘削加工を行っても、本当に熱影響が発生する温度になるまで余裕があるため、試料Sに熱影響が生じることもない。
【0081】
よって、本実施形態に係るグロー放電掘削装置1は、断続モードにおいて試料Sに熱影響が生じないように自動で掘削加工を行えるため、掘削対象の試料がポリカーボネイトのような合成樹脂、及び合成ゴムのようなゴム材料等であっても、観察に好適な観察面を安定して形成することができる。
【0082】
一方、グロー放電掘削装置1の連続モードにおける掘削処理は、オペレータの操作に従ったものになり、設定された電力値Pで一定時間電圧印加を行ってから一旦電圧印加を休止して、モニタ部7hに表示される測定温度をオペレータが確認し、許容温度に達していなければ電圧印加を再開する。以降、このような処理を行って所望量を掘削する。また、測定温度が許容温度以上になったときは、オペレータの操作により試料へ印加する電圧の電力値Pを低下(例えば半減)させて電圧印加を行うようにする。このような処理を行うことにより、連続モードでも試料Sに熱影響が生じるのを確実に回避して掘削加工を行える。
【0083】
なお、本発明に係るグロー放電掘削装置1は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形例の適用が可能である。例えば、グロー放電掘削装置1で電極12と試料Sの間に印加する電圧は直流電圧にしてもよく、この場合は電源部4を直流の電力を生成して給電する構成に変更することになる。また、グロー放電掘削装置1は、電圧印加に対して連続モード及び断続モードの両方を必ず具備する必要はなく、いずれか一方のモードだけで電圧印加を行うようにして、装置コストの低減を図ってもよい。さらに、測定温度が基準温度以上になったことをオペレータへ確実に通知するため、コンピュータ7に警告音を出力する音出力部を設けて、測定温度が基準温度以上であるとCPU7aが判断したときは、音出力部から警告音を発する構成にしてもよい。
【0084】
さらにまた、断続モードで測定温度が基準温度以上になった場合は、試料Sに印加する電力値Pを低下させるだけでなく、電圧印加に係るデューティー比の値も低下させるようにしてもよく、例えば、印加電圧に関連する値として電力値が1W、デューティー比が0.5である場合に測定温度が基準温度以上になったときは、電力値を0.5W、デューティー比を0.25に低下させて試料Sへの熱負担を一段と低減させるようにしてもよい。また、印加電圧に関連する値としては、デューティー比の数値のみを低下させることも可能である。
【0085】
また、連続モードにおいてオペレータの操作負担を低減するために、図11に示すように、一定の時間(T10、T12等、例えば1分)掘削を行うと、次の時間(T11、T13等、例えば2秒)で温度測定を行うようにプログラミングを行って、連続モードでも自動で掘削できるようにしてもよい。この場合、掘削(電圧印加)に要する時間(T10、T12等)を準備段階で設定すると共に、CPU7aが各時間(T10〜T13等)を計時し、電圧印加を行う時間(T10、T12等)が経過すると、コンピュータ7(CPU7a)の制御に基づき電圧印加を停止してから温度測定を行い、温度測定が完了すると(温度測定に要した時間T11、T13等が経過すると)、電圧印加を再開する。また、測定した温度が基準温度以上になった場合、次に掘削(電圧印加)を行うときは、コンピュータ7(CPU7a)の制御により印加電圧の電力値を低下させて熱影響が試料Sに生じないようにする。
【0086】
図12は、赤外線センサ31の配置に係る変形例であり、赤外線センサ31の位置をモータの駆動で調整できるようにしたものである。具体的には、レール部材56に平行にボールねじ51をグロー放電管2のランプボディ11の一方の端面11h側に軸受部52を介して回転可能に取り付け、ボールねじ51の端部をカップリング部53を介して遮光部材34の外方に配置したモータ54のモータ軸と連結している。また、ボールねじ51に設けられた第1スライドユニット50と、レール部材56に取り付けられた第2スライドユニット55に、赤外線センサ31のハウジング31cを取り付けている。なお、モータ54の駆動はモータドライバ57により制御されており、モータドライバ57はコンピュータ7と接続されて、コンピュータ7からの指示に基づきモータ54の駆動制御を行うようになっている。
【0087】
図12に示すような構造を適用することで、遮光部材34を外すことなく赤外線センサ31を空洞11の封止を行うガラス部材40に対して接近離反可能となり、赤外線センサ31の位置をモータ54の駆動で調整して温度測定の準備負担を低減できる。
【0088】
また、図13は別の変形例を示し、ファイバー状の細い赤外線センサ60を用いる場合は、グロー放電管2′のランプボディ11′の内部に赤外線センサ60を配置してもよい。この場合、ランプボディ11′は、試料Sを配置する側と反対側の端面11h′に空洞11c′と連通する連通孔11i′を形成し、この連通孔11i′に、赤外線センサ60を挿通すると共に、連通孔11i′の内縁と赤外線センサ60の外面の間に環状の封止部材41を取り付けて空洞11c′を閉鎖している。
【0089】
なお、図13のグロー放電管2′は上述した以外については、図2に示す構成と同様であり、電極12、セラミックス部材13、及び押圧ブロック15を有すると共に、発振子3を押し当てて試料Sを取り付けている。このように赤外線センサ60を取り付けることで、赤外線センサ60の受光部60aは、電極12の筒状部12bに形成された貫通孔12cを通じて試料表面Saに対向し、受光部60aと試料Sまでの距離は図2、12に示す場合に比べて格段に短くでき、試料Sの掘削箇所から放射される赤外線の受光を確実に行って測定精度の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態に係るグロー放電掘削装置の全体的な構成を示す概略図である。
【図2】グロー放電管及び赤外線センサを示す一部を断面にした概略図である。
【図3】ジェネレータの内部構成を示すブロック図である。
【図4】印加される高周波電圧の形態を示すグラフである。
【図5】(a)は連続モードの給電形態を示すグラフであり、(b)は断続モードの給電形態及び温度測定時期を示すグラフである。
【図6】マッチングボックスの内部構成を示すブロック図である。
【図7】モード選択及び基準温度等を受け付ける設定メニューの内容を示す概略図である。
【図8】グロー放電掘削装置を用いたグロー放電掘削方法の処理手順を示す第1フローチャートである。
【図9】試料の掘削状態を示す概略図である。
【図10】グロー放電掘削方法における断続モードでの掘削処理の手順を示す第2フローチャートである。
【図11】連続モードにおける掘削時間と温度測定時間との関係を示すグラフである。
【図12】赤外線センサの取り付けに関する変形例を示す概略図である。
【図13】変形例の赤外線センサの取り付け形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0091】
1 グロー放電掘削装置
2 グロー放電管
4 電源部
7 コンピュータ
11 ランプボディ
11c 空洞
12 電極
12c 貫通孔
30 放射温度測定器
31 赤外線センサ
32 AD変換器
33 マイクロコンピュータ
34 遮光部材
40 ガラス部材
R 赤外線
S 試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削装置において、
試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光する赤外線センサと、
該赤外線センサが受光する赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定する温度測定手段と
を備えることを特徴とするグロー放電掘削装置。
【請求項2】
前記赤外線センサの受光部が試料の掘削箇所に対して近接離反できるように前記赤外線センサを移動する移動手段を備える請求項1に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項3】
前記中空電極を保持する保持体を備え、
該保持体は、前記中空電極の中空部に連通する空洞、及び該空洞を介して該中空部に対向する透光部材を備え、
前記赤外線センサは、前記中空部、前記空洞、及び前記透光部材を通過した赤外線を受光するようにしてある請求項1又は請求項2に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項4】
前記赤外線センサ及び透光部材を覆って遮光する遮光部材を備える請求項3に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項5】
前記温度測定手段が温度を測定するときに、電圧の印加を停止する停止手段を備える請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項6】
電圧の印加を断続的に行う手段を備え、
前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてある請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項7】
基準温度を受け付ける受付手段と、
該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、
前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させる低下手段と
を備える請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項8】
電圧の印加を断続的に行う手段と、
基準温度を受け付ける受付手段と、
該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、
前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比及び/又は印加電圧に係る電力値を低下させる低下手段と
を備え、
前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてある請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項9】
中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削方法において、
試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光し、
受光した赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定し、
測定した温度及び予め受け付けた基準温度を比較し、
比較の結果、測定した温度が基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させることを特徴とするグロー放電掘削方法。
【請求項1】
中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削装置において、
試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光する赤外線センサと、
該赤外線センサが受光する赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定する温度測定手段と
を備えることを特徴とするグロー放電掘削装置。
【請求項2】
前記赤外線センサの受光部が試料の掘削箇所に対して近接離反できるように前記赤外線センサを移動する移動手段を備える請求項1に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項3】
前記中空電極を保持する保持体を備え、
該保持体は、前記中空電極の中空部に連通する空洞、及び該空洞を介して該中空部に対向する透光部材を備え、
前記赤外線センサは、前記中空部、前記空洞、及び前記透光部材を通過した赤外線を受光するようにしてある請求項1又は請求項2に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項4】
前記赤外線センサ及び透光部材を覆って遮光する遮光部材を備える請求項3に記載のグロー放電掘削装置。
【請求項5】
前記温度測定手段が温度を測定するときに、電圧の印加を停止する停止手段を備える請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項6】
電圧の印加を断続的に行う手段を備え、
前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてある請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項7】
基準温度を受け付ける受付手段と、
該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、
前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させる低下手段と
を備える請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項8】
電圧の印加を断続的に行う手段と、
基準温度を受け付ける受付手段と、
該受付手段が受け付けた基準温度及び前記温度測定手段が測定する温度の比較判定を行う手段と、
前記温度測定手段が測定した温度が、前記受付手段が受け付けた基準温度以上であると判定された場合、電圧の断続印加中の印加に係るデューティー比及び/又は印加電圧に係る電力値を低下させる低下手段と
を備え、
前記温度測定手段は、電圧の断続印加中の印加断時に前記赤外線センサが受光した赤外線に基づいて温度を測定するようにしてある請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のグロー放電掘削装置。
【請求項9】
中空電極及び該中空電極に対向配置される試料の間に電圧を印可して発生させたグロー放電で試料を掘削するグロー放電掘削方法において、
試料の掘削箇所から放射されて前記中空電極の中空部を通過した赤外線を受光し、
受光した赤外線に基づいて試料の掘削箇所の温度を測定し、
測定した温度及び予め受け付けた基準温度を比較し、
比較の結果、測定した温度が基準温度以上であると判定された場合、印加電圧に関連する値を低下させることを特徴とするグロー放電掘削方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−71670(P2007−71670A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258495(P2005−258495)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
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