説明

グロー放電発光分光分析装置および分析方法

【課題】円筒形試料の内面の分析を簡単かつ正確に行えるグロー放電発光分光分析装置および分析方法を提供する。
【解決手段】陽極管3dを有する陽極ブロック3と、陽極管3dを収納する内方空間を有する支持ブロック2と、この支持ブロック2の内方空間を真空引きする減圧手段3b,3cと、円筒形試料12が陽極管3dと同軸に配置されるように挿入される保持孔11aを有する試料台11と、陽極ブロック3と試料台11との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料をスパッタリングしながら、発生した光を分析するグロー放電発光分光分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体圧力が500〜1300Pa程度のアルゴン(Ar)雰囲気中で、二つの電極間に直流または高周波の高電圧を印加すると、グロー放電が起こり、Arイオンが生成される。生成したArイオンは高電界で加速され、陰極表面に衝突し、そこに存在する物質をたたき出す。この現象をスパッタリングと呼ぶが、スパッタされた粒子(原子、分子、イオン)はプラズマ中で励起され、基底状態に戻る際にその元素に固有の波長の光を放出する。この発光を分光器で分光して元素を同定する分析法が、グロー放電発光分光分析方法と呼ばれている。
【0003】
上述のグロー放電発光分光分析方法を具現化した分析装置におけるグロー放電管として、図4に示すような中空陽極型のグリムグロー放電管1が一般的に用いられている。このグリムグロー放電管1では、支持ブロック2(試料5が当接される支持部であって、この例では同時に陰極である)と陽極ブロック3とが、絶縁部4を介して接合されている。陽極ブロック3は、アルゴンガス供給孔3aと、減圧手段である第1および第2真空排気孔3b,3cとを有しており、管内Vがアルゴンの希ガス雰囲気(500〜1300Pa)とされている。陽極ブロック3は、中空陽極管3dを有しており、この陽極管3dは、絶縁部4を貫通して、試料5の表面(測定面)5aに近接している。この試料5は、シール部材であるOリング6を介し支持ブロック2に気密状態で押し付けられている。さらに支持ブロック2と絶縁部4を一体とし、すべて絶縁物で形成されている場合もある。なお、陽極管3dは円筒形で、その先端面は円筒形の軸に垂直であり、図示しないが、内径および/または外径の相異なる複数の陽極管が、試料に応じて交換可能に備えられることもある。
【0004】
このグリムグロー放電管1は、陽極ブロック3と支持ブロック2との間に給電手段である電源部9により高電圧を印加してグロー放電を発生させるとともに、一般に銅からなる支持ブロック2を通じ試料5に負電圧を印加し、グロー放電の発生により生成されるアルゴンの陽イオンを試料5の表面5aに衝突させて、試料5をスパッタリングするものである。また、冷却液Kを、支持ブロック2の冷却液導入路2aからジャケット2b内に導入して冷却液排出路2cまで送給して、支持ブロック2および支持ブロック2を介し試料5と中空陽極管3dを冷却している。
【0005】
ところで、上述のグロー放電発光分光分析装置は、試料5の表面5aを、支持ブロック2に埋設されたOリング6で真空シールして支持ブロック2に押し付けて、その試料5により中空陽極管3dを収納する支持ブロック2の内方空間を閉塞し、この内方空間を真空引きするようになっているので、通常、分析対象となる試料5は、Oリング6の全周に接合できる大きな外径を有するとともに、表面5aが平面となった形状のものとなる。表面が平面でない試料については、例えば、線形試料を試料台に立設状態に取り付けて陽極管の中空部の中央部に挿入して、線形試料の表面のめっき層等の分析を行うグロー放電発光分光分析装置がある(特許文献1の図2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2723457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、パイプなどの円筒形試料の内面の分析については、適切なグロー放電発光分光分析装置および分析方法がなかった。例えば、図5に示すように、従来の装置を用い、縦割りにした円筒形試料19の内面を陽極管3dの先端部に対向するように配置して分析することが考えられるが、分析対象面である円筒形試料19の内面において、陽極管3dの先端面との距離、いわゆる放電ギャップが一定でないため、均一なスパッタリングが望めない。これを改善するために、図6に示すように、円筒形試料19の軸方向から見て、先端面が円筒形試料19の内面19aに倣った円弧状である陽極管3eを用いることが考えられるが、内径が異なる試料ごとに、このような特殊な形状の陽極管3eを準備することは現実的でない。また、図5、図6のいずれの場合についても、円筒形試料を縦割りにする作業や、縦割りにした円筒形試料19を寝かせた状態で保持して支持ブロックに気密状態で押し付けるための試料台が必要になる。
【0008】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、円筒形試料の内面の分析を簡単かつ正確に行えるグロー放電発光分光分析装置および分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のグロー放電発光分光分析装置は、陽極管を有する陽極ブロックと、前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、この支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、円筒形試料が前記陽極管と同軸に配置されるように挿入される保持孔を有する試料台と、前記陽極ブロックと試料台との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを備えている。
【0010】
本発明のグロー放電発光分光分析装置では、試料台の保持孔に、円筒形試料が陽極管と同軸に配置されるように挿入されるので、特殊形状の陽極管や円筒形試料を縦割りにする作業が不要で、しかも分析対象面である円筒形試料の内面を均一にスパッタリングできる。本発明の装置において、試料台が、円筒形試料と内径および外径が等しい円筒形で分析対象元素を含まないスペーサを有してもよい。
【0011】
本発明のグロー放電発光分光分析方法は、陽極管を収納する支持ブロックの内方空間を真空引きし、前記陽極管を有する陽極ブロックと試料台との間に電圧を印加してグロー放電を発生させて、前記陽極管と同軸に配置されるように前記試料台の保持孔に挿入された円筒形試料の内面をスパッタリングする。
【0012】
本発明のグロー放電発光分光分析方法によっても、前記本発明のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用効果が得られる。また、本発明の方法において、円筒形試料と内径および外径が等しい円筒形で分析対象元素を含まないスペーサを試料台の保持孔に挿入して、円筒形試料の軸方向の位置調整を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態である分析装置におけるグリムグロー放電管を示す断面図である。
【図2】同分析装置の概略構成図である。
【図3】同分析装置の試料台の変形例を示す断面図である。
【図4】従来の分析装置におけるグリムグロー放電管を示す断面図である。
【図5】陽極管の先端部と縦割りにした円筒形試料の内面との位置関係の一例を示す断面図である。
【図6】同位置関係の別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態のグロー放電発光分光分析装置について、図にしたがって装置の構成から説明する。この装置では、図2に示すように、グロー放電を利用したスパッタリングにより元素に固有の波長の光を発生するグリムグロー放電管10から放出されて、その窓板13を透過した光Lが、分光器15に入射する。分光器15は、入射スリット14、この入射スリット14から入射した光Lを波長に応じて異なった回折角度で回折する分光器16、回折光を通過させる出射スリット17および回折光の強度を測定する光電子増倍管18を備えている。あるいは、出射スリット17の位置にCCD素子を配置させたCCD分光器であってもよい。
【0015】
図1は、図2の分析装置におけるグリムグロー放電管10を示す断面図である。図1において図4と同等のものには同一の符号を付して、説明を省略する。相違する点は、円筒形試料12が陽極管3dと同軸に配置されるように挿入される保持孔11aを、試料台11が有することである。換言すると、円筒形試料12は、例えば内径4mm、外径6mm、高さ(長さ)10mmであり、試料台11には、その表面11bと直交する方向に、円筒形試料12の外径および高さに応じた径および深さの保持孔11aが設けられている。この試料台11は、分析対象外の既知の元素を有する導電性材料からなり、シール材としてのOリング6の全周部にわたり接合できる表面を有する形状に形成されている。陽極管3dは、円筒形で従来と同様に先端面は円筒形の軸に垂直であり、円筒形試料12の内径以下の内径をもつもの、ここでは内径2.5mmのものが用いられる。
【0016】
つぎに、この装置の動作、つまり、この装置を用いたグロー放電発光分光分析方法について説明する。通常の放電法では陽極管内径2.5mmの場合、図1の支持ブロック2と陽極ブロック3との間に、電源部9により600〜1200Vの高電圧を印加し、5〜20mAの電流を流すのに対して、本手法では、より低い200〜350Vの高電圧を印加し、30〜150mAの電流を流すことにより、グロー放電を生じ、アルゴンの陽イオンが生成される。生成されたArイオンは、陰極である円筒形試料12の内面12aの陽極管3d側の部分に衝突して、その部分を全周面にわたり均一にスパッタリングする。
【0017】
上述のように円筒形試料12の内面12aからたたき出されて剥離した原子は、Arイオンまたは電子によって励起され、再び基底状態に戻る際に元素固有の光を放出する。この光Lは、窓板13を透過し、図2の入射スリット14を通して、分光器15の回析格子16に向かう。この回析格子16は、所定の波長の光を回析させ、出射スリット17を通して、光電子増倍管18に入射させる。光電子増倍管18は入射した光の強度を測定する。
【0018】
一方、円筒形試料12の内面12aは、前記Arイオンの衝突によりスパッタリングされ、円筒形試料12の内径は時間の経過とともに徐々に大きくなる。こうして、前記測定強度をスパッタリング時間の経過とともに測定して、分析元素の時間経過に対するスペクトルを得て、このスペクトルから、周知の方法により円筒形試料12の内面12aについて外径方向の深さに対する元素の濃度分布を得る。ここで、試料台11を形成する元素は既知であって、その元素を示す光の測定強度が除外されることにより、円筒形試料12の内面12aのみの元素の分析を正確に行える。
【0019】
このように、本実施形態の装置によれば、試料台11の保持孔11aに、円筒形試料12が陽極管3dと同軸に配置されるように挿入されるので、特殊形状の陽極管や円筒形試料を縦割りにする作業が不要で、しかも分析対象面である円筒形試料の内面12aを均一にスパッタリングできる。
【0020】
なお、本実施形態の装置において、図3に示すように、試料台11が、円筒形試料12と内径および外径が等しい円筒形で分析対象元素を含まないスペーサ11cを有してもよい。このようなスペーサ11cであって高さの相異なるものを用意しておき、適宜円筒形試料12の前後に連ねて試料台11の保持孔11aに挿入することにより、円筒形試料12の軸方向Zの位置を、スパッタリングを均一に行うための最適な位置に調整することができる。
【符号の説明】
【0021】
2 支持ブロック
3 陽極ブロック
3b,3c 減圧手段(真空排気孔)
3d 陽極管
9 給電手段(電源部)
11 試料台
11a 保持孔
11c スペーサ
12 円筒形試料
12a 円筒形試料の内面
Z 円筒形試料の軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極管を有する陽極ブロックと、
前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、
この支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、
円筒形試料が前記陽極管と同軸に配置されるように挿入される保持孔を有する試料台と、
前記陽極ブロックと試料台との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを備えたグロー放電発光分光分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のグロー放電発光分光分析装置において、
前記試料台が、円筒形試料と内径および外径が等しい円筒形で分析対象元素を含まないスペーサを有するグロー放電発光分光分析装置。
【請求項3】
陽極管を収納する支持ブロックの内方空間を真空引きし、
前記陽極管を有する陽極ブロックと試料台との間に電圧を印加してグロー放電を発生させて、
前記陽極管と同軸に配置されるように前記試料台の保持孔に挿入された円筒形試料の内面をスパッタリングするグロー放電発光分光分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載のグロー放電発光分光分析方法において、
円筒形試料と内径および外径が等しい円筒形で分析対象元素を含まないスペーサを前記試料台の保持孔に挿入して、円筒形試料の軸方向の位置調整を行うグロー放電発光分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−73071(P2012−73071A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217010(P2010−217010)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】