説明

グロー放電質量分析法の試料調整法

【課題】 本発明は、簡便に汚染無く、ショット状の銀試料をグロー放電質量分析の測定系に導入可能とし、正しい分析値を得る分析法を確立することを目的とする。
【解決手段】グロー放電質量分析法において、銀のショット状試料を融解鋳造し塊状とし、
圧延、切り出しにより一定の形状に成形することにより試料を作成し、該試料を用いて、試料中不純物を同時に迅速分析するグロー放電質量分析法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロー放電質量分析法に関する。 特にグロー放電質量分析法における銀のショット状試料の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀中の不純物分析としては、誘導結合プラズマ発光分光法、フレームレス原子吸光法、あるいは誘導結合プラズマ質量分析法といった湿式分析装置による定量がなされている。それ以外の方法はあると推測するが開示がなされていないのが現状である。
【0003】
グロー放電質量分析は、極微量の元素を多数、同時に定量できる質量分析法の一つで、アルゴンガス中で測定試料を陰極とし、放電セルを陽極として、その間でグロー放電を起こさせ、試料原子をスパッタしさらにイオン化することで分析対象となる元素のイオンを取り出し、磁場と電場により二重に収束した後、検出器によってそこに流れるイオン電流密度により各元素の定量を行ない、主成分と分析対象元素との間のイオン電流強度の比に相対感度係数(以下「RSF」という)を乗じて各元素濃度を求める。
【0004】
グロー放電の陰極となる測定試料は、ピン状あるは平板上(フラット状)で使用する。また市販のグロー放電質量分析装置におけるRSF値は、推奨値がメーカーから与えられており、それが適用されるが、経験則からその推奨RSF値はピン状試料を用いて決定したと考えられる。また必ずしもその推奨RSF値を適用できるわけではなく、その場合は標準物質によりRSF値を決定しなければならない。
【0005】
特許公報第2637000号(出願人:信越化学工業株式会社)には、同じグロー放電質量分析法におけるインジウムを用いた放電用電極調整法について記載があるが、対象試料及び調整方法が異なる。
上記従来の湿式分析法では極微量元素の分析、例えば銀中のロジウム(定量下限0.01ppm)においては、主成分の分離操作、言うなれば微量成分の濃縮操作が必要となり、操作が煩雑で2〜3日程かかる上、操作に熟練を要する。
またグロー放電質量分析装置への試料の導入は、ピン状あるいは平板上でなければならず、ショット状の銀試料についてはこれまで検討がなされていなかった。
【0006】
【特許文献1】特許公報第2637000号(出願人:信越化学工業株式会社)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、グロー放電質量分析装置を用いて多元素を同時に迅速分析可能とすること、さらに標準試料を用いて銀中不純物の定量におけるRSF値を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑み発明されたものであって、
(1) グロー放電質量分析法において、銀のショット状試料を融解鋳造し塊状とし、圧延、切り出しにより一定の形状に成形することにより試料を作成し、該試料を用いて、試料中不純物を同時に迅速分析するグロー放電質量分析法。
(2)上記(1)記載の銀ショットの粒径が2mm以下、品位が、99.99mass%以上であるグロー放電質量分析法。
である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して、詳細に述べる。
本発明においては、サンプリングしたショット状銀を予め、希硝酸及び超純水等により洗浄し、脱脂した(例えば、アセトンを用いる。)後、乾燥する。
これにより、付着している表面の汚染物質を除去する。
【0010】
サンプリングした銀を鋳型に投入し、溶解する。 この際、鋳型の材質は、高純度のカーボン等である。不純物が、混入することを未然に防止するためである。また鋳型の深さは浅いほうが望ましい。
溶解は、バーナ等を当てて、銀の溶解温度(980.6℃)以上とする。
【0011】
溶解、鋳造により塊状とした試料を圧延機等により、所定の形状の試料とする。
例えば、その厚さは3.5mm内、好ましくは2mm厚である。
【0012】
上記の所定の厚さになった試料をカッター等により、所定の大きさに成形する。
カッターは、例えばファインカッターを用いる。
所定の大きさとは、例えば幅3.5mm以内、長さ15から25mm、好ましくは幅2mm、長さ20mmである。
【0013】
また試料の形状は、その本願発明の分析結果であるRSF値については、メーカー推奨RSF値を利用できるよう、ピン状に成形することとした。仮に平板状として信頼性の高い分析値を得るには、多くの標準試料による検量線作成が必要であると判断したためである。
【0014】
上記の所定の大きさに成形した試料は、酸洗浄及び超純水等により洗浄する。これにより、表面の不純物を予め除去しておくためである。
この後脱脂して乾燥し、試料調整とする。
【0015】
この後、グロー放電質量分析装置にて、銀中の不純物、例えば極微量のロジウム等を分析する。
グロー放電質量分析の条件例を表1に示す。
【表1】

【実施例】
【0016】
(実施例1)
実試料(銀のショット状試料)を黒鉛鋳型に投入し、ガスバーナーにより溶解し、塊状に成形した。
その後、圧延機(製品名:大野ロール製 8型2段圧延機 2RM-216S)を用いて、2mm厚に成形し、ファインカッター(製品名:EB-SR-602,Refine Tec 社製)を用いて、2mm(幅)×20mm(長さ)に成形した。
【0017】
その後、図1に概略図を示すグロー放電質量分析装置(製品名:VG9000,F.I.Elemental Analysis社製)によりロジウムを分析測定した。
前記した従来法(鉄共沈による分離後、さらに陽イオン交換樹脂により鉄を分離し、誘導結合プラズマ質量分析する方法)による化学分析値と比較した。
その結果、表2に示すように、本法によるグロー放電質量分析により、化学分析値と良く結果が一致し、極微量のロジウムの定量分析が可能であることが確認できた。
また従来法でロジウムの測定のみに2〜3日かかっていた測定が、本法による調整法を用いてグロー放電質量分析で測定することにより、他元素と同時に2時間程度で迅速に測定することが可能となった。
【表2】

【0018】
(実施例2)
銀の標準試料を実施例1と同様に試料を成形し、グロー放電質量分析装置で
測定した。測定条件は、実施例1と同様にした。
標準試料の保証値と比較した。
【0019】
その結果本法による調整法、及びRSF値を用いて、グロー放電質量分析により行った本発明例では、融解、圧延、切り出しに因る汚染あるいは濃度の減少などが懸念されたが、メーカー推奨RSF値を用いた各元素の定量値が、表3、図2に示す如く、保証値と良く一致していることが分かった。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0020】
図1は、本発明に用いたグロー放電質量分析装置の概略図である。
図2は、実施例1に示したデータの測定結果を示すグラフである。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロー放電質量分析法において、銀のショット状試料を融解鋳造し塊状とし、圧延、切り出しにより一定の形状に成形することにより試料を作成し、該試料を用いて、試料中不純物を同時に迅速分析することを特徴とするグロー放電質量分析法。
【請求項2】
請求項1記載の銀ショットの粒径が2mm以下、品位が、99.99mass%以上であることを特徴とするグロー放電質量分析法。