ケイ素含有無機組成物、融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材および循環液
【課題】
優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物、この組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液を提供する。
【解決手段】
(1)金属珪素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、およびイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物、並びにこのケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液。
優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物、この組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液を提供する。
【解決手段】
(1)金属珪素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、およびイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物、並びにこのケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪・氷結防止剤、循環液等として有用なケイ素含有無機組成物、並びに該組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材及び循環液に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の文化生活に冷暖房装置は必需品であるが、これに使用される多くの不凍液には公害の問題がある。例えば、フレオンには地球温暖化の問題があり、エチレングリコールには廃棄の問題がある。また、地震により倒壊して漏洩した場合に、環境を汚染するおそれもあった。
【0003】
太陽熱を利用する循環液としては、−20℃〜−40℃において流動性を有する無機水溶液として、蟻酸カリウムや酢酸カリウムの水溶液が知られているが、これらの水溶液には、金属を腐食したり、−40℃以下の超低温では使用することができないという問題がある。
【0004】
融雪・氷結防止剤としては、凝固点降下を利用した塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物が広く使用されている。しかし、これら塩化物の使用は、沿道のコンクリート構造物の耐用年数を劣化させたり、樹木の枯死原因となるという問題があった。
【0005】
従って、より低温度で、より安全に使用可能で、公害の問題のない融雪・氷結防止剤等、及び、地震により倒壊し、漏洩した場合であっても、環境を汚染したり、火災のおそれ等のない低温高温共用の循環液が要望されている。
【0006】
本発明に関連して、特許文献1には、特許文献2〜4に記載された水性造膜性無機化合物に、グリセリン又はトレハロースを適宜混合することで、優れた不凍効果、蓄冷効果を有する組成物が得られることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−192024号公報
【特許文献2】特許第2015694号
【特許文献3】特許第2028203号
【特許文献4】特開平8−73212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物、この組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材及び循環液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、前記特許文献2〜4に記載された水性造膜性無機化合物に改良を加えることにより、グリセリンやトレハロースを混合しなくとも、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物が得られることを見出した。また、この組成物は優れた不凍効果、蓄冷効果を有るため、融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液の原料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は第1に、(1)金属ケイ素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、及びイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物を提供する。
本発明のケイ素含有無機組成物は、周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速が、1500〜2300m/sの範囲にあることが好ましく、120℃に加熱しても粉黛化しないものであるのが好ましい。
【0011】
本発明は第2に、本発明のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤を提供する。
本発明は第3に、部材表面に、本発明のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸又は焼き付け処理して得られる融雪・氷結防止部材を提供する。
本発明は第4に、本発明のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できることを特徴とする循環液を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケイ素含有無機組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有する。本発明の組成物は、融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液の原料として有用である。
【0013】
本発明の融雪・氷結防止剤及び融雪・氷結防止部材は、優れた融雪効果と氷結防止効果を兼ね備えている。
本発明の融雪・氷結防止剤及び融雪・氷結防止部材は、無機高分子化合物の水溶液である本発明の組成物を用いるため、土壌汚染や大気汚染、火災のおそれがない。
【0014】
本発明の循環液は、−50℃から+100℃という広範囲な温度領域で使用可能である。本発明の循環液は、無機高分子化合物の水溶液である本発明の組成物を用いるため、地震により倒壊して漏洩した場合であっても、土壌汚染や大気汚染のおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)ケイ素含有無機組成物
本発明のケイ素含有無機組成物(以下、「本発明組成物」ということがある)は、(1)金属ケイ素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、及びイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種(以下、「亜鉱酸類」ということがある)、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いる金属ケイ素は、通常、純度85重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上のものである。金属ケイ素は塊状であっても、粒状あるいは粉末状のものであってもよい。
【0017】
本発明に用いる亜鉱酸類は、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アンモニウム等のフッ化物;亜リン酸;亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム等の亜リン酸塩;亜硝酸;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩;炭酸;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、マロン酸、クエン酸、アスコルビン酸等の炭素数1〜10のカルボン酸;炭素数1〜10のカルボン酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の炭素数1〜10のカルボン酸塩;及びイノシットからなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0018】
これらの中でも、本発明においては、より凝固点の低いケイ素化合物含有水溶液が得られることから、亜鉱酸類として、(a)フッ化物、亜リン酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、及び炭素数1〜10のカルボン酸塩からなる群から選ばれる2種以上の組み合わせ、又は(b)炭素数1〜10のカルボン酸、のいずれかが好ましい。
【0019】
本発明に用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの使用が好ましい。
【0020】
本発明組成物は、水溶媒中に、化学量論的に大過剰の金属ケイ素を入れ、そこへ、所定量の亜鉱酸類、次いで、アルカリ金属水酸化物、又は所定量の亜鉱酸類とアルカリ金属水酸化物との混合物を添加し反応させることにより得ることができる。
【0021】
ここで、「化学量論的に大過剰の」とは、金属ケイ素とアルカリ金属水酸化物との反応が終了した後であっても、未反応の金属ケイ素が反応液に残存する量の金属ケイ素を添加するという意味である。通常、金属ケイ素は、アルカリ金属水酸化物に対して、6倍モル以上、好ましくは10倍モル以上を使用する。
【0022】
また、アルカリ金属水酸化物の添加量は、重量基準で、亜鉱酸類の3倍量以上、好ましくは3〜10倍量、より好ましくは3〜5倍量である。
【0023】
反応温度は、通常20〜90℃、好ましくは30〜70℃であり、反応時間は通常数時間から数十時間である。
この反応は、撹拌下に行なうこともできるが、撹拌することなくそのまま放置して行うこともできる。
【0024】
以上のようにして得られる本発明組成物はアルカリ性の水溶液である。そのpHは、通常11〜14、好ましくは12〜13である。亜鉱酸類とアルカリ金属水酸化物の添加割合を重量比で、(亜鉱酸類):(アルカリ金属水酸化物)=1:3〜1:10の範囲内で変化させることにより、上述した範囲内で所定のpH値を有する水溶液を得ることができる。
【0025】
本発明組成物に含まれるケイ素化合物の詳細は不明であるが、IRスペクトルの解析等から、シラノール塩とシロキサンからなる混合物に類似した組成を有するケイ素化合物の水溶液であると推測される。
【0026】
本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃、好ましくは−20℃〜−60℃であることを特徴とする。
凝固点は、一定の圧力の下で液相状態の物質が固相と平衡を保つときの温度であり、具体的には、ガラス転移凝固点である。凝固点は、走査差分熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0027】
本発明組成物においては、前記亜鉱酸類、及びアルカリ金属水酸化物の種類や、金属ケイ素、亜鉱酸類、及びアルカリ金属水酸化物の仕込み量を変化させることにより、凝固点を0℃〜−80℃の範囲内において任意の値に調整することができる。
【0028】
本発明組成物の、周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速は、特に限定されないが、1500〜2300m/sの範囲にあることが好ましい。
【0029】
本発明組成物を20℃から−100℃へ連続的に温度を降下させながら、5Hzの超音波縦法により縦波音速を測定すると、20℃から凝固開始点の間において縦波音速がはほぼ一定であり、凝固点付近で飽和水の透過ピークが消失し、代わりにゲル氷ピークが現れ、温度低下とともにゲル氷ピークの強度が大きくなる。本発明組成物は、縦波音速が1500〜2400m/sの間に進み減衰する性質を有する。
【0030】
本発明組成物は、+20℃から−100℃に降温させた後、再度20℃に戻すことを繰り返しても、降温前と同様の一定の縦波音速を示す状態に戻すことができる。
このことは、本発明組成物が+20℃〜−100℃、好ましくは+20℃〜−70℃、より好ましくは+20℃〜−50℃の間で循環して使用することが可能であることを示している。
【0031】
本発明組成物は、120℃に加熱しても粉黛化しないものであるのが好ましい。コロイドが分散しているのであれば、100℃で乾燥して粉黛化するが、本発明組成物は120℃で乾燥してもペースト化する性質を有する。
【0032】
上述したように、本発明組成物が、+20℃〜−100℃の間で循環して使用することが可能であり、かつ、120℃に加熱しても粉黛化しないものであることから、本発明組成物は、−80℃〜+100℃の間の温度範囲で循環して使用することが可能であるといえる。
【0033】
本発明組成物の密度は特に限定されないが、通常、1〜2.0g/cm3、好ましくは1.2〜1.8g/cm3である。本発明組成物の密度は、浮遊式比重瓶法により測定することができる。
【0034】
本発明組成物の粘度は、特に限定されないが、通常1〜100mPs・s、好ましくは1〜30mPa/sである。水溶液の粘度は、例えば、MKS(Maron・Xrleger・Sinko)粘度計で計測することができる。
【0035】
本発明組成物の比熱は、通常、水の5〜20倍であり、優れた蓄冷・蓄熱効果を有する。本発明組成物のモル比熱は、通常4〜50J/K・moleである。
【0036】
本発明組成物に、メタノール、エタノール等のアルコール類を添加することにより、凝固点をさらに低下させることができる。アルコール類の添加量は、不燃性の効果を維持できる範囲内であれば、特に制限されないが、通常本発明組成物に対し、10重量%以下である。
【0037】
2)融雪・氷結防止剤
本発明の融雪・氷結防止剤は、本発明のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする。本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた蓄熱、蓄冷効果を有し、後述するように、低温で融解熱を発するので、融雪・氷結防止剤として有用である。
【0038】
本発明組成物を含有する融雪・氷結防止剤を道路や線路、滑走路等に散布することで、優れた融雪・氷結防止効果を得ることができる。
【0039】
3)融雪・氷結防止部材
本発明の融雪・氷結防止部材は、各種部材表面に、本発明のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸又は焼き付け処理して得られるものである。
上述したように、本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた蓄熱、蓄冷効果を有する。従って、各種部材表面に、本発明組成物を、塗布若しくは含浸し、乾燥して塗膜化することにより、又は焼き付け処理することにより、優れた融雪・氷結防止機能を有する部材を得ることができる。
【0040】
本発明の融雪・氷結防止部材を作製するときの、本発明組成物の使用量は特に制限されず、用途等に応じて適宜な量を設定することができる。本発明組成物の使用量は、通常、100g/m2〜3000g/m2、好ましくは250g/m2〜2000g/m2である。
部材としては、特に制限されず、屋根材、壁材、扉、柱材等の建築部材;各種ブロック、階段のステップ等が挙げられる。
【0041】
4)循環液
本発明の循環液は、本発明のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できるものであることを特徴とする。
上述したように、本発明組成物は、−100℃〜+120℃の間の温度範囲で循環して使用することが理論的に可能であるが、長期に亘って安定して繰返し使用することを考慮すると、−50℃〜+100℃の間の温度範囲において循環して使用することが実用的である。
【0042】
本発明の循環液は、−50℃〜+100℃という広範囲な温度領域で使用可能である。本発明の循環液は、無機高分子化合物の水溶液である本発明組成物を用いる。該無機高分子化合物は無機肥料成分と同質であり、地震により倒壊して漏洩した場合であっても、土壌汚染や大気汚染のおそれがない。
【0043】
本発明の循環液は、食品冷凍、食品・飲料の冷却液、製氷機器、蓄冷熱空調設備、冷凍・冷蔵庫、工業用冷却システム、物流システムの保冷材、医療用あるいはヘッドクーラー用の冷媒等として、種々の産業分野で利用が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)ケイ素含有無機組成物の製造
水中で、金属ケイ素、第1表に示す亜鉱酸類、及び第1表に示すアルカリ金属水酸化物を、第1表に示す配合割合(重量部)で反応させることにより、ケイ素含有無機組成物(組成物(A−1)〜(A−7))を得た。反応温度はいずれも40〜60℃である。
【0046】
【表1】
【0047】
(IRスペクトルの測定)
上記で得た組成物(A−1)〜(A−3)のFT−IRスペクトルを測定した。測定したFT−IRスペクトルを図1に示す。
図1中、横軸は波数(cm−1)、縦軸は吸光度を表し、aが組成物(A−1)、bが組成物(A−2)、cが組成物(A−3)のIRスペクトル図である。
【0048】
いずれの場合も、水溶液中に含まれるケイ素化合物は、シラノール塩とシロキサンの混合物であることが示唆された。また、1600cm−1付近に観測される自由水のピークはほとんど存在せず、組成物(A−1)〜(A−3)に含まれるケイ素化合物は、自由水の含有量が少ないものであることがわかる。
【0049】
(凝固点の測定)
上記で得た組成物(A−1)〜(A−7)のDSCを測定した。測定結果を図2〜8にそれぞれ示す。図2〜8中、横軸が測定温度(℃)、縦軸が熱量(mcal/s)を表す。また、DSCの測定結果から得られた、組成物(A−1)〜(A−7)の凝固点を第2表にまとめて示す。用いる成分(特に亜鉱酸類の種類、使用量)を変化させることにより、凝固開始点を任意の値に設定することができることがわかる。
【0050】
一例として、組成物(A−6)の場合における、氷結するときの吸熱量と融解するときの発熱量を図7に示した。図7に示すように、氷結するときの吸熱量(9.70cal/g)と融解するときの発熱量(9.85cal/g)とはほぼ同じであった。
【0051】
また、組成物(A−6)の比熱は11.34cal/gであり、水の比熱が1cal/gであるのに対し、約10倍以上大きな値であった。
【0052】
また、組成物(A−1)〜(A−7)に、組成物に対して5重量%のエタノールを添加することにより、凝固開始点を5〜15℃さらに下げることができた。
【0053】
【表2】
【0054】
(縦波音速の測定)
前記組成物(A−1)〜(A−3)の+20℃〜−100℃に連続的に温度を降下させたときの縦波音速を測定した。測定結果を図9〜図11にそれぞれ示す。図中、横軸が測定温度(℃)、縦軸が縦波音速(m/s)を表す。測定は、東芝タンガロイ製の超音速測定装置を使用し、縦波周波数:5MHz、降温速度:2℃/分、測定温度領域:−100℃〜+20℃、測定圧力:大気圧で行った。
【0055】
測定した結果、組成物(A−1)〜(A−3)の、20℃から凝固開始点に至るまでの縦波音速は1500〜2400m/sの間にあり、温度変化に基づく粘度変化をも示した。この計測結果はDSCの熱分析結果とほぼ一致していた。
【0056】
また、図12に示すように、組成物(A−1)を−100℃にまで温度を降下させた後、再度20℃まで昇温させる(図中、矢印参照)と、縦波音速の変化は降温時とは異なるものの、250(K)付近以上になると、降温前と同じ縦波音速となった。このことは、組成物(A−1)が、+20℃〜−100℃の間で循環使用が可能であることを示している。
【0057】
(粉黛化実験)
前記組成物(A−1)〜(A−7)を5gずつガラス容器に採り、電気炉で120℃にて3時間乾燥したが、いずれも粉黛化することなくペースト化した。自由水を除去しても造膜物が残存することを示した。
【0058】
(実施例2)融雪・氷結防止機能付インターロッキングの製造
前記組成物(A−1)をインターロッキング(ILB)表面に適量(250g/m2〜2000g/m2)塗布し、500℃で焼き付けることにより、融雪・氷結防止機能付のインターロッキングを製造した。これを、図13に示すように、−5℃の降雪(e)中に放置したところ、インターロッキング(d)上の雪は融雪し、融雪した水は氷結していなかった。融解熱による融雪・氷結防止効果を示した。
【0059】
(実施例3)
前記組成物(A−3、比重1.3)、及び組成物(A−3)を濃縮して比重1.45とした溶液(組成物A−3a)をILB表面に、適当量(約2000g/m2)塗布し、加熱乾燥して塗膜化することにより、融雪・氷結防止機能付ILBをそれぞれ得た。次いで、図14に示すように、無処理のILBと並列して−5℃の降雪中に一夜設置した。
【0060】
図13中、hが無処理のILB(ILB(h))、fが組成物(A−3a)を塗布したもの(ILB(f))、gが組成物(A−3)を塗布したもの(ILB(g))である。
【0061】
図14に示すように、ILB(f)上の雪は完全に融雪していなかったが、氷結していなかった。昼間には太陽光で融解熱を生じ融雪した。ILB(g)上の雪は完全に融雪していなかったが、氷結していなかった。昼間には太陽光で融解熱を生じ融雪した。完全に融雪するまでの時間は、ILB(f)より長かった。一方、ILB(h)上には雪が積もっており、氷結もしていた。外気温度が−3℃であったから、昼間でも融雪しなかった。氷結はなくなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】組成物(A−1)〜(A−3)のFT−IRスペクトル図である。
【図2】組成物(A−1)のDSCチャート図である。
【図3】組成物(A−2)のDSCチャート図である。
【図4】組成物(A−3)のDSCチャート図である。
【図5】組成物(A−4)のDSCチャート図である。
【図6】組成物(A−5)のDSCチャート図である。
【図7】組成物(A−6)のDSCチャート図である。
【図8】組成物(A−7)のDSCチャート図である。
【図9】組成物(A−1)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図10】組成物(A−2)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図11】組成物(A−3)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図12】組成物(A−1)について、+20℃〜−100℃まで降下させた後、再度+20℃まで昇温させたときの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図13】組成物(A−1)をインターロッキングブロック表面に適量塗布し、500℃で焼き付けた融雪・氷結防止機能付のインターロッキングを−5℃の降雪(e)中に一夜放置した後の模式図である。
【図14】組成物(A−3、比重1.3)、及び組成物(A−3a、比重1.45)をインターロッキングブロック(ILB)表面に適当量塗布し、乾燥して得られた融雪・氷結防止機能付ILBと、無処理のILBと並列して−5℃の降雪中に一夜設置した後の模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪・氷結防止剤、循環液等として有用なケイ素含有無機組成物、並びに該組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材及び循環液に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の文化生活に冷暖房装置は必需品であるが、これに使用される多くの不凍液には公害の問題がある。例えば、フレオンには地球温暖化の問題があり、エチレングリコールには廃棄の問題がある。また、地震により倒壊して漏洩した場合に、環境を汚染するおそれもあった。
【0003】
太陽熱を利用する循環液としては、−20℃〜−40℃において流動性を有する無機水溶液として、蟻酸カリウムや酢酸カリウムの水溶液が知られているが、これらの水溶液には、金属を腐食したり、−40℃以下の超低温では使用することができないという問題がある。
【0004】
融雪・氷結防止剤としては、凝固点降下を利用した塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩化物が広く使用されている。しかし、これら塩化物の使用は、沿道のコンクリート構造物の耐用年数を劣化させたり、樹木の枯死原因となるという問題があった。
【0005】
従って、より低温度で、より安全に使用可能で、公害の問題のない融雪・氷結防止剤等、及び、地震により倒壊し、漏洩した場合であっても、環境を汚染したり、火災のおそれ等のない低温高温共用の循環液が要望されている。
【0006】
本発明に関連して、特許文献1には、特許文献2〜4に記載された水性造膜性無機化合物に、グリセリン又はトレハロースを適宜混合することで、優れた不凍効果、蓄冷効果を有する組成物が得られることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−192024号公報
【特許文献2】特許第2015694号
【特許文献3】特許第2028203号
【特許文献4】特開平8−73212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物、この組成物を用いる融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材及び循環液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、前記特許文献2〜4に記載された水性造膜性無機化合物に改良を加えることにより、グリセリンやトレハロースを混合しなくとも、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有するケイ素含有無機組成物が得られることを見出した。また、この組成物は優れた不凍効果、蓄冷効果を有るため、融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液の原料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は第1に、(1)金属ケイ素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、及びイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物を提供する。
本発明のケイ素含有無機組成物は、周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速が、1500〜2300m/sの範囲にあることが好ましく、120℃に加熱しても粉黛化しないものであるのが好ましい。
【0011】
本発明は第2に、本発明のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤を提供する。
本発明は第3に、部材表面に、本発明のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸又は焼き付け処理して得られる融雪・氷結防止部材を提供する。
本発明は第4に、本発明のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できることを特徴とする循環液を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケイ素含有無機組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた不凍効果、蓄冷効果を有する。本発明の組成物は、融雪・氷結防止剤、融雪・氷結防止部材、及び循環液の原料として有用である。
【0013】
本発明の融雪・氷結防止剤及び融雪・氷結防止部材は、優れた融雪効果と氷結防止効果を兼ね備えている。
本発明の融雪・氷結防止剤及び融雪・氷結防止部材は、無機高分子化合物の水溶液である本発明の組成物を用いるため、土壌汚染や大気汚染、火災のおそれがない。
【0014】
本発明の循環液は、−50℃から+100℃という広範囲な温度領域で使用可能である。本発明の循環液は、無機高分子化合物の水溶液である本発明の組成物を用いるため、地震により倒壊して漏洩した場合であっても、土壌汚染や大気汚染のおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)ケイ素含有無機組成物
本発明のケイ素含有無機組成物(以下、「本発明組成物」ということがある)は、(1)金属ケイ素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、及びイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種(以下、「亜鉱酸類」ということがある)、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いる金属ケイ素は、通常、純度85重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上のものである。金属ケイ素は塊状であっても、粒状あるいは粉末状のものであってもよい。
【0017】
本発明に用いる亜鉱酸類は、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化アンモニウム等のフッ化物;亜リン酸;亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム等の亜リン酸塩;亜硝酸;亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の亜硝酸塩;炭酸;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、マロン酸、クエン酸、アスコルビン酸等の炭素数1〜10のカルボン酸;炭素数1〜10のカルボン酸の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の炭素数1〜10のカルボン酸塩;及びイノシットからなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0018】
これらの中でも、本発明においては、より凝固点の低いケイ素化合物含有水溶液が得られることから、亜鉱酸類として、(a)フッ化物、亜リン酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、及び炭素数1〜10のカルボン酸塩からなる群から選ばれる2種以上の組み合わせ、又は(b)炭素数1〜10のカルボン酸、のいずれかが好ましい。
【0019】
本発明に用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの使用が好ましい。
【0020】
本発明組成物は、水溶媒中に、化学量論的に大過剰の金属ケイ素を入れ、そこへ、所定量の亜鉱酸類、次いで、アルカリ金属水酸化物、又は所定量の亜鉱酸類とアルカリ金属水酸化物との混合物を添加し反応させることにより得ることができる。
【0021】
ここで、「化学量論的に大過剰の」とは、金属ケイ素とアルカリ金属水酸化物との反応が終了した後であっても、未反応の金属ケイ素が反応液に残存する量の金属ケイ素を添加するという意味である。通常、金属ケイ素は、アルカリ金属水酸化物に対して、6倍モル以上、好ましくは10倍モル以上を使用する。
【0022】
また、アルカリ金属水酸化物の添加量は、重量基準で、亜鉱酸類の3倍量以上、好ましくは3〜10倍量、より好ましくは3〜5倍量である。
【0023】
反応温度は、通常20〜90℃、好ましくは30〜70℃であり、反応時間は通常数時間から数十時間である。
この反応は、撹拌下に行なうこともできるが、撹拌することなくそのまま放置して行うこともできる。
【0024】
以上のようにして得られる本発明組成物はアルカリ性の水溶液である。そのpHは、通常11〜14、好ましくは12〜13である。亜鉱酸類とアルカリ金属水酸化物の添加割合を重量比で、(亜鉱酸類):(アルカリ金属水酸化物)=1:3〜1:10の範囲内で変化させることにより、上述した範囲内で所定のpH値を有する水溶液を得ることができる。
【0025】
本発明組成物に含まれるケイ素化合物の詳細は不明であるが、IRスペクトルの解析等から、シラノール塩とシロキサンからなる混合物に類似した組成を有するケイ素化合物の水溶液であると推測される。
【0026】
本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃、好ましくは−20℃〜−60℃であることを特徴とする。
凝固点は、一定の圧力の下で液相状態の物質が固相と平衡を保つときの温度であり、具体的には、ガラス転移凝固点である。凝固点は、走査差分熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0027】
本発明組成物においては、前記亜鉱酸類、及びアルカリ金属水酸化物の種類や、金属ケイ素、亜鉱酸類、及びアルカリ金属水酸化物の仕込み量を変化させることにより、凝固点を0℃〜−80℃の範囲内において任意の値に調整することができる。
【0028】
本発明組成物の、周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速は、特に限定されないが、1500〜2300m/sの範囲にあることが好ましい。
【0029】
本発明組成物を20℃から−100℃へ連続的に温度を降下させながら、5Hzの超音波縦法により縦波音速を測定すると、20℃から凝固開始点の間において縦波音速がはほぼ一定であり、凝固点付近で飽和水の透過ピークが消失し、代わりにゲル氷ピークが現れ、温度低下とともにゲル氷ピークの強度が大きくなる。本発明組成物は、縦波音速が1500〜2400m/sの間に進み減衰する性質を有する。
【0030】
本発明組成物は、+20℃から−100℃に降温させた後、再度20℃に戻すことを繰り返しても、降温前と同様の一定の縦波音速を示す状態に戻すことができる。
このことは、本発明組成物が+20℃〜−100℃、好ましくは+20℃〜−70℃、より好ましくは+20℃〜−50℃の間で循環して使用することが可能であることを示している。
【0031】
本発明組成物は、120℃に加熱しても粉黛化しないものであるのが好ましい。コロイドが分散しているのであれば、100℃で乾燥して粉黛化するが、本発明組成物は120℃で乾燥してもペースト化する性質を有する。
【0032】
上述したように、本発明組成物が、+20℃〜−100℃の間で循環して使用することが可能であり、かつ、120℃に加熱しても粉黛化しないものであることから、本発明組成物は、−80℃〜+100℃の間の温度範囲で循環して使用することが可能であるといえる。
【0033】
本発明組成物の密度は特に限定されないが、通常、1〜2.0g/cm3、好ましくは1.2〜1.8g/cm3である。本発明組成物の密度は、浮遊式比重瓶法により測定することができる。
【0034】
本発明組成物の粘度は、特に限定されないが、通常1〜100mPs・s、好ましくは1〜30mPa/sである。水溶液の粘度は、例えば、MKS(Maron・Xrleger・Sinko)粘度計で計測することができる。
【0035】
本発明組成物の比熱は、通常、水の5〜20倍であり、優れた蓄冷・蓄熱効果を有する。本発明組成物のモル比熱は、通常4〜50J/K・moleである。
【0036】
本発明組成物に、メタノール、エタノール等のアルコール類を添加することにより、凝固点をさらに低下させることができる。アルコール類の添加量は、不燃性の効果を維持できる範囲内であれば、特に制限されないが、通常本発明組成物に対し、10重量%以下である。
【0037】
2)融雪・氷結防止剤
本発明の融雪・氷結防止剤は、本発明のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする。本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた蓄熱、蓄冷効果を有し、後述するように、低温で融解熱を発するので、融雪・氷結防止剤として有用である。
【0038】
本発明組成物を含有する融雪・氷結防止剤を道路や線路、滑走路等に散布することで、優れた融雪・氷結防止効果を得ることができる。
【0039】
3)融雪・氷結防止部材
本発明の融雪・氷結防止部材は、各種部材表面に、本発明のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸又は焼き付け処理して得られるものである。
上述したように、本発明組成物は、凝固点が0℃〜−80℃であり、優れた蓄熱、蓄冷効果を有する。従って、各種部材表面に、本発明組成物を、塗布若しくは含浸し、乾燥して塗膜化することにより、又は焼き付け処理することにより、優れた融雪・氷結防止機能を有する部材を得ることができる。
【0040】
本発明の融雪・氷結防止部材を作製するときの、本発明組成物の使用量は特に制限されず、用途等に応じて適宜な量を設定することができる。本発明組成物の使用量は、通常、100g/m2〜3000g/m2、好ましくは250g/m2〜2000g/m2である。
部材としては、特に制限されず、屋根材、壁材、扉、柱材等の建築部材;各種ブロック、階段のステップ等が挙げられる。
【0041】
4)循環液
本発明の循環液は、本発明のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できるものであることを特徴とする。
上述したように、本発明組成物は、−100℃〜+120℃の間の温度範囲で循環して使用することが理論的に可能であるが、長期に亘って安定して繰返し使用することを考慮すると、−50℃〜+100℃の間の温度範囲において循環して使用することが実用的である。
【0042】
本発明の循環液は、−50℃〜+100℃という広範囲な温度領域で使用可能である。本発明の循環液は、無機高分子化合物の水溶液である本発明組成物を用いる。該無機高分子化合物は無機肥料成分と同質であり、地震により倒壊して漏洩した場合であっても、土壌汚染や大気汚染のおそれがない。
【0043】
本発明の循環液は、食品冷凍、食品・飲料の冷却液、製氷機器、蓄冷熱空調設備、冷凍・冷蔵庫、工業用冷却システム、物流システムの保冷材、医療用あるいはヘッドクーラー用の冷媒等として、種々の産業分野で利用が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)ケイ素含有無機組成物の製造
水中で、金属ケイ素、第1表に示す亜鉱酸類、及び第1表に示すアルカリ金属水酸化物を、第1表に示す配合割合(重量部)で反応させることにより、ケイ素含有無機組成物(組成物(A−1)〜(A−7))を得た。反応温度はいずれも40〜60℃である。
【0046】
【表1】
【0047】
(IRスペクトルの測定)
上記で得た組成物(A−1)〜(A−3)のFT−IRスペクトルを測定した。測定したFT−IRスペクトルを図1に示す。
図1中、横軸は波数(cm−1)、縦軸は吸光度を表し、aが組成物(A−1)、bが組成物(A−2)、cが組成物(A−3)のIRスペクトル図である。
【0048】
いずれの場合も、水溶液中に含まれるケイ素化合物は、シラノール塩とシロキサンの混合物であることが示唆された。また、1600cm−1付近に観測される自由水のピークはほとんど存在せず、組成物(A−1)〜(A−3)に含まれるケイ素化合物は、自由水の含有量が少ないものであることがわかる。
【0049】
(凝固点の測定)
上記で得た組成物(A−1)〜(A−7)のDSCを測定した。測定結果を図2〜8にそれぞれ示す。図2〜8中、横軸が測定温度(℃)、縦軸が熱量(mcal/s)を表す。また、DSCの測定結果から得られた、組成物(A−1)〜(A−7)の凝固点を第2表にまとめて示す。用いる成分(特に亜鉱酸類の種類、使用量)を変化させることにより、凝固開始点を任意の値に設定することができることがわかる。
【0050】
一例として、組成物(A−6)の場合における、氷結するときの吸熱量と融解するときの発熱量を図7に示した。図7に示すように、氷結するときの吸熱量(9.70cal/g)と融解するときの発熱量(9.85cal/g)とはほぼ同じであった。
【0051】
また、組成物(A−6)の比熱は11.34cal/gであり、水の比熱が1cal/gであるのに対し、約10倍以上大きな値であった。
【0052】
また、組成物(A−1)〜(A−7)に、組成物に対して5重量%のエタノールを添加することにより、凝固開始点を5〜15℃さらに下げることができた。
【0053】
【表2】
【0054】
(縦波音速の測定)
前記組成物(A−1)〜(A−3)の+20℃〜−100℃に連続的に温度を降下させたときの縦波音速を測定した。測定結果を図9〜図11にそれぞれ示す。図中、横軸が測定温度(℃)、縦軸が縦波音速(m/s)を表す。測定は、東芝タンガロイ製の超音速測定装置を使用し、縦波周波数:5MHz、降温速度:2℃/分、測定温度領域:−100℃〜+20℃、測定圧力:大気圧で行った。
【0055】
測定した結果、組成物(A−1)〜(A−3)の、20℃から凝固開始点に至るまでの縦波音速は1500〜2400m/sの間にあり、温度変化に基づく粘度変化をも示した。この計測結果はDSCの熱分析結果とほぼ一致していた。
【0056】
また、図12に示すように、組成物(A−1)を−100℃にまで温度を降下させた後、再度20℃まで昇温させる(図中、矢印参照)と、縦波音速の変化は降温時とは異なるものの、250(K)付近以上になると、降温前と同じ縦波音速となった。このことは、組成物(A−1)が、+20℃〜−100℃の間で循環使用が可能であることを示している。
【0057】
(粉黛化実験)
前記組成物(A−1)〜(A−7)を5gずつガラス容器に採り、電気炉で120℃にて3時間乾燥したが、いずれも粉黛化することなくペースト化した。自由水を除去しても造膜物が残存することを示した。
【0058】
(実施例2)融雪・氷結防止機能付インターロッキングの製造
前記組成物(A−1)をインターロッキング(ILB)表面に適量(250g/m2〜2000g/m2)塗布し、500℃で焼き付けることにより、融雪・氷結防止機能付のインターロッキングを製造した。これを、図13に示すように、−5℃の降雪(e)中に放置したところ、インターロッキング(d)上の雪は融雪し、融雪した水は氷結していなかった。融解熱による融雪・氷結防止効果を示した。
【0059】
(実施例3)
前記組成物(A−3、比重1.3)、及び組成物(A−3)を濃縮して比重1.45とした溶液(組成物A−3a)をILB表面に、適当量(約2000g/m2)塗布し、加熱乾燥して塗膜化することにより、融雪・氷結防止機能付ILBをそれぞれ得た。次いで、図14に示すように、無処理のILBと並列して−5℃の降雪中に一夜設置した。
【0060】
図13中、hが無処理のILB(ILB(h))、fが組成物(A−3a)を塗布したもの(ILB(f))、gが組成物(A−3)を塗布したもの(ILB(g))である。
【0061】
図14に示すように、ILB(f)上の雪は完全に融雪していなかったが、氷結していなかった。昼間には太陽光で融解熱を生じ融雪した。ILB(g)上の雪は完全に融雪していなかったが、氷結していなかった。昼間には太陽光で融解熱を生じ融雪した。完全に融雪するまでの時間は、ILB(f)より長かった。一方、ILB(h)上には雪が積もっており、氷結もしていた。外気温度が−3℃であったから、昼間でも融雪しなかった。氷結はなくなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】組成物(A−1)〜(A−3)のFT−IRスペクトル図である。
【図2】組成物(A−1)のDSCチャート図である。
【図3】組成物(A−2)のDSCチャート図である。
【図4】組成物(A−3)のDSCチャート図である。
【図5】組成物(A−4)のDSCチャート図である。
【図6】組成物(A−5)のDSCチャート図である。
【図7】組成物(A−6)のDSCチャート図である。
【図8】組成物(A−7)のDSCチャート図である。
【図9】組成物(A−1)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図10】組成物(A−2)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図11】組成物(A−3)についての+20℃〜−100℃までの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図12】組成物(A−1)について、+20℃〜−100℃まで降下させた後、再度+20℃まで昇温させたときの縦波音速の変化を示すグラフ図である。
【図13】組成物(A−1)をインターロッキングブロック表面に適量塗布し、500℃で焼き付けた融雪・氷結防止機能付のインターロッキングを−5℃の降雪(e)中に一夜放置した後の模式図である。
【図14】組成物(A−3、比重1.3)、及び組成物(A−3a、比重1.45)をインターロッキングブロック(ILB)表面に適当量塗布し、乾燥して得られた融雪・氷結防止機能付ILBと、無処理のILBと並列して−5℃の降雪中に一夜設置した後の模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)金属珪素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、およびイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物。
【請求項2】
周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速が、1500〜2300m/sの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のケイ素含有無機組成物。
【請求項3】
120℃に加熱しても粉黛化しないものであることを特徴とする請求項1または2に記載のケイ素含有無機組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤。
【請求項5】
部材表面に、請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸または焼き付け処理して得られる融雪・氷結防止部材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できることを特徴とする循環液。
【請求項1】
(1)金属珪素、(2)フッ化物、亜リン酸、亜リン酸塩、亜硝酸、亜硝酸塩、炭酸、炭酸塩、炭素数1〜10のカルボン酸、炭素数1〜10のカルボン酸塩、およびイノシットからなる群から選ばれる少なくとも一種、及び(3)アルカリ金属水酸化物を水中で反応させて得られるケイ素含有無機組成物であって、凝固点が0℃〜−80℃であることを特徴とするケイ素含有無機組成物。
【請求項2】
周波数5Hzの超音波法による、20℃から凝固開始点に至るまでにおける縦波音速が、1500〜2300m/sの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のケイ素含有無機組成物。
【請求項3】
120℃に加熱しても粉黛化しないものであることを特徴とする請求項1または2に記載のケイ素含有無機組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を含有することを特徴とする融雪・氷結防止剤。
【請求項5】
部材表面に、請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を塗布、含浸または焼き付け処理して得られる融雪・氷結防止部材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素含有無機組成物を含有し、−50℃〜+100℃で循環できることを特徴とする循環液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−254241(P2007−254241A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84280(P2006−84280)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(397071012)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(397071012)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]