説明

ケイ素含有膜形成組成物、不純物拡散層の形成方法および太陽電池

【課題】側鎖に極性基を持たないシロキサンポリマーを含有する組成物の親水性基板に対する密着性を向上させる。
【解決手段】実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物は、側鎖に環構造を持つシロキサンポリマー(A)と、極性低分子化合物(B)と、溶剤(C)と、を含有する。シロキサンポリマ−(A)は、下記式(a−2)で表される構成単位を有する。極性低分子化合物(B)として、2級または3級のアルコールアミンまたはアルキルアミンなどの塩基性を有するアミン類が挙げられる。溶剤(C)は、シロキサンポリマー(A)を溶解できるものであればよい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク材に用いられるケイ素含有膜形成組成物、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の製造において、半導体基板中に、例えばN型またはP型の不純物拡散層を形成する場合には、N型またはP型の不純物拡散成分を含む拡散剤を半導体基板表面にパターニングし、パターニングされた拡散剤からN型またはP型の不純物拡散成分を拡散させて、N型またはP型の不純物拡散層を形成していた。具体的には、まず、半導体基板表面に熱酸化膜を形成し、続いてフォトリソグラフィ法により所定のパターンを有するレジストを熱酸化膜上に積層する。そして、当該レジストをマスクとして酸またはアルカリによりレジストでマスクされていない熱酸化膜部分をエッチングし、レジストを剥離して熱酸化膜のマスクを形成する。続いて、N型またはP型の不純物拡散成分を含む拡散剤を塗布してマスクが開口している部分に拡散膜を形成する。その後、拡散膜中の不純物拡散成分を高温で拡散させてN型またはP型の不純物拡散層を形成している。
【0003】
このような太陽電池の製造に関して、特許文献1には、拡散制御用マスクとして用いられるマスキングペーストが開示されている。このようなマスキングペーストを用いることで、複雑なフォトリソグラフィー技術等を用いず、簡易的に不純物拡散領域及び不純物拡散領域の微細なパターニング形成をすることができ、低コストな太陽電池を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−49079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような従来のマスク材では、基板表面の凹凸がある部分に塗布した場合、膜厚が大きくなった部分では加熱時にクラックが発生してしまい、拡散保護性能が損なわれてしまうことがあった。また、従来のマスク材では、OH基などの極性基を側鎖に有するシロキサンポリマーを用いる場合が多く、そのような樹脂は経時変化が大きく安定性が良くない場合が多かった。その為、側鎖に極性基を持たないシロキサンポリマーの使用が検討されたが、側鎖に極性基を持たないシロキサンポリマーは疎水性が高いため、親水性基板への密着性が乏しく、親水性基板に印刷を行うと、インクの乾燥工程において印刷パターンが収縮してしまうという問題があった。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体基板への不純物拡散成分の拡散保護の際に形成するマスクに好適に採用可能なマスク材組成物、当該マスク材組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はケイ素含有膜形成組成物である。当該ケイ素含有膜形成組成物は、側鎖に環構造を持つシロキサンポリマー(A)と、極性低分子化合物(B)と、溶剤(C)と、を含有することを特徴とする。
【0008】
この態様によれば、極性低分子化合物(B)が親水性基板に対する密着性向上剤として機能するため、親水性基板に上記ケイ素含有膜形成組成物を印刷した場合に乾燥前後で印刷パターンが収縮することが抑制される。
【0009】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法である。当該不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に、上述した態様のケイ素含有膜形成組成物を塗布する工程と、前記半導体基板に塗布された前記ケイ素含有膜形成組成物をマスクとして、不純物拡散成分を前記半導体基板に選択的に塗布し、拡散させる拡散工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
この態様によれば、乾燥前後で印刷パターンの収縮が抑制されたマスクを半導体基板上に形成することができる。
【0011】
本発明のさらに他の態様は太陽電池である。当該太陽電池は上述した態様の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする。
【0012】
この態様によれば、より信頼性の高い太陽電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、親水性基板にケイ素含有膜形成組成物を印刷した場合に乾燥前後で印刷パターンが収縮することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A)〜図1(F)は、実施形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物は、シロキサンポリマー(A)、極性低分子化合物(B)および溶剤(C)を含有する。以下、ケイ素含有膜形成組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0017】
《シロキサンポリマー(A)》
シロキサンポリマー(A)は、シロキサン結合(Si−0−Si)を含むポリマーであり、側鎖に環構造を持つが、OH基などの極性基を実質的に持たない、マスク材本体を構成する樹脂である。本実施形態に係るマスク材組成物は、シロキサンポリマー(A)として、下記式(a1)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a1と称する)を含むシロキサンポリマー(A1)を含有する。ここで「構成単位」とは、高分子化合物(重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
【化1】

式(a1)中、Raは置換基を有していてもよい芳香族環または脂肪族環である。
【0018】
Raは炭素数6〜20の芳香族環または脂肪族環であることが好ましい。「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。「脂肪族環」とは、芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。Raで表される芳香族環としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセン基等が挙げられる。また、Raで表される脂肪族環としては、モノシクロアルカンや、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンや、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。また、Raは、置換基を有していてもよい。Raの置換基としては、極性を持たない置換基であることが好ましい。Raとしては、芳香族環が好ましく、フェニル基およびナフチル基がより好ましい。
【0019】
構成単位a1の具体例としては、例えば、下記式(a1−1)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a1−1と称する)、下記式(a1−2)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a1−2と称する)、などが挙げられる。
【化2】

【化3】

【0020】
また、シロキサンポリマー(A)は、下記式(a2)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a2と称する)や、下記式(a3)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a3と称する)、下記式(a4)で表される構成単位(以下、適宜この構成単位を構成単位a4と称する)を含んでもよい。
【0021】
【化4】

式(a2)中、Rは、炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rは、炭素数6〜20のアリール基である。
【0022】
式(a2)中、Rの炭素数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基等の直鎖状のアルキレン基や、イソプロピレン基、t−ブチレン基等の分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。Rとしては、メチレン基およびエチレン基が好ましい。
【0023】
また、式(a2)中、Rの炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。また、このアリール基は、置換基を有していてもよい。Rの置換基としては、極性を持たない置換基であることが好ましい。Rとしては、フェニル基およびナフチル基が好ましい。
【0024】
【化5】

式(a3)中、Rは、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であり、置換基を有していてもよい。Rの置換基としては、極性を持たない置換基であることが好ましい。また、この脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよい。飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、ヘキシル基、オクチルデシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基(アリル基)、ブチニル基、1−メチルプロペニル基、2−メチルプロペニル基等が挙げられる。
【0025】
【化6】

式(a4)中、RおよびRは、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基である。炭素数6〜20のアリール基、および炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基の具体例は、上述したRにおける炭素数6〜20のアリール基及び、Rにおける炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基に加え、炭素数1〜20のシクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等の環状のアルキル基等が挙げられる。
【0026】
シロキサンポリマー(A1)の具体例としては、下記の式(A1−1)、式(A1−2)で表されるポリマーが挙げられる。
【化7】

式(A1−1)において、sは整数である。
【化8】

式(A1−2)において、n:mは、1:99〜99:1ある。
【0027】
シロキサンポリマー(A)は、加水分解により合成される構造上、末端にOH基が含まれてしまう場合があるが、それ以外の極性基を極力含まないことが好ましい。その指標として、概シロキサンポリマーを使用して膜を形成した場合、その膜の水に対する接触角が75度以上、100度以下であることが好ましく、75度以上、95度以下であることがより好ましい。接触角が75度以上であると、経時変化による組成物の分子量の増加を抑制することができ、接触角が100度以下であると、本願発明の効果を発揮してパターンの収縮の抑制が可能になる。シロキサンポリマー(A)は、ハロゲン元素、特にフッ素を構造中に含むと、膜形成時又は拡散時の加熱処理中に、弗酸等が熱分解により発生し、拡散炉を劣化させる可能性がある為、フッ素を含まない非フッ素化ポリマーであることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るマスク材組成物は、構成単位a1を含むシロキサンポリマー(A1)を含有している。構成単位a1は環構造を有する。そのため、半導体基板表面へのマスク形成の際に、マスク材組成物の熱硬化によって嵩高い環構造の基が焼失して、マスク中にポーラスが形成される。そして、このポーラスによって、隣接する構成単位同士あるいは隣接するポリマー同士の結合(シラノール脱水縮合)による体積収縮が適度に抑えられる。そのため、環構造を有する構成単位a1を含むことでマスクに柔軟性を持たせることができる。これにより、半導体基板の表面の凹部でマスクの膜厚が大きくなった場合でも、当該箇所におけるクラックの発生を抑制することができる。すなわち、マスクのクラック耐性を向上させることができる。
【0029】
また、構成単位a1は、ケイ素(Si)の4つの結合手のうちの1つに嵩高い環構造を有し、それに加えて、シロキサンポリマー(A)は実質的にOH基等の極性基を含まない。そのため、例えば従来のスピンオングラス(SOG)と比較した場合、マスクを構成するシロキサンポリマー(A)は反応性が乏しく、したがって分子量の変化が小さい。よって、シロキサンポリマー(A)の分子量が経時変化にともなって増大することを抑制することができる。これにより、マスク材の粘度等の特性が変化することを抑制でき、良好な塗布安定性を維持することができる。
【0030】
《極性低分子化合物(B)》
極性低分子化合物(B)は極性を有する低分子化合物であり、親水性基板への密着性の改善に寄与する。極性低分子化合物(B)としては、極性基を有する低分子化合物又はアミン類等が挙げられる。極性基としては、OH基、NH基、NO基、COOH基等が挙げられる。極性基を有する低分子化合物としては、分子量が100以上5000未満、好ましくは500以上4000未満の極性基を有する非重合体が挙げられる。アミン類としては、脂肪族アミン類が挙げられる。脂肪族アミンとは、1つ以上の脂肪族基を有するアミンであり、たとえば、アンモニア(NH)の水素原子の少なくとも1つを炭素数20以下のアルキル基またはヒドロキシアルキル基で置換したアミン(アルキルアミンまたはアルキルアルコールアミン)又は環式アミンが挙げられる。アルキル基、およびヒドロキシアルキル基におけるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。
【0031】
極性低分子化合物(B)としては、2級または3級のアルコールアミンまたはアルキルアミンが好ましい。また、これらのアミンは、溶剤溶解性、加熱時の揮発性を考慮すると、炭素数が4〜30であることが好ましく、炭素数4〜24であることがより好ましい。同様に、アルコールアミンまたはアルキルアミン中の該アルキル基が直鎖状または分岐鎖状であることが好ましく、該アルキル基の炭素数は2〜10であることが好ましく、2〜8であることがより好ましい。また、沸点が200℃〜500℃であることが好ましく、200℃〜400℃がより好ましい。前記アルキルアミンの具体例としては、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ヘプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のジアルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デカニルアミン、トリ−n−ドデシルアミン等のトリアルキルアミン;;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジ−n−オクタノールアミン、トリ−n−オクタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルキルアルコールアミンが挙げられる。
より具体的には、極性低分子化合物(B)として、トリエタノールアミン、トリオクチルアミン、トリペンチルアミン、ジエタノールアミンなどが好ましく、トリエタノールアミンが最も好ましい。
【0032】
ケイ素含有膜形成組成物中に含まれる極性低分子化合物(B)のとしての前記アミンの濃度は、10ppm〜2%が好ましく、50ppm〜0.5%がより好ましく、100ppm〜0.5%が最も好ましい。上記の範囲の下限以上だと本願発明の効果を発揮してパターンの収縮を抑制が可能になり、上限以下だと組成物中への溶解性が良好であり、膜形成組成物の径時変化による異物や粘度の増加を抑制できる。
【0033】
極性低分子化合物(B)は、実質的に極性基を側鎖にもたないシロキサンポリマー(A)の基板密着性を改善し、特に加熱処理時、パターンの収縮が大きく改善する。この原因は定かではないが、極性低分子が基板との界面部で作用し、膜形成物の極性を変化させ、基板との密着性を改善しているものと推測される。
【0034】
《溶剤(C)》
溶剤(C)は、シロキサンポリマー(A)を溶解できるものであればよい。溶剤(C)の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルなどのグリコール誘導体類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、3−ペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸3−メトキシブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル‐2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の極性溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、溶剤(C)は、沸点が100℃以上の有機溶剤(C1)を含有することが好ましい。溶剤(C)が有機溶剤(C1)を含有することで、ケイ素含有膜形成組成物の乾燥を抑制することができる。そのため、マスクパターンの形成にインクジェット印刷法を採用した場合に、ケイ素含有膜形成組成物の乾燥によって起こるインクジェットノズルの目詰まりを防ぐことができる。また、マスクパターンの形成にスクリーン印刷法を採用した場合に、印刷版上でケイ素含有膜形成組成物が乾燥して固着してしまうのを回避することができる。したがって、溶剤(C)に有機溶剤(C1)を含有させることで、半導体基板に高精度のマスクパターンを形成することができる。溶剤(C)に有機溶剤(C1)を含有させる場合、有機溶剤(C1)は、溶剤(C)の全質量に対し約10質量%以上となるように含有させることが好ましい。
【0036】
有機溶剤(C1)の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテート、3−メトキシペンチルアセテート、4−メトキシペンチルアセテート、2−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、4−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、メチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチル−3−プロポキシプロピオネート、プロピル−3−メトキシプロピオネート、イソプロピル−3−メトキシプロピオネート、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸エチルヘキシル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、γ − ブチロラクトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、ブタノール、イソブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、テルピネオール、ターピネオール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
《その他》
ケイ素含有膜形成組成物中に含まれる金属不純物の濃度は、約500ppb以下であることが好ましく、約100ppb以下であることがより好ましい。また、ケイ素含有膜形成組成物は、その他の添加剤として一般的な界面活性剤や増粘剤などを含有してもよい。界面活性剤としては、たとえば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の化合物が挙げられ、金属不純物の汚染リスクを低減する点からノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0038】
《不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法》
図1(A)〜(F)は、実施形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。図1を参照して、実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物をマスク材組成物として用いて不純物拡散層を形成する方法と、これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法の一例について説明する。
【0039】
まず、図1(A)に示すように、シリコン基板等のN型の半導体基板1上に、マスク材組成物Mを選択的に塗布する。マスク材組成物Mは、インクジェット方式により半導体基板1の表面に選択的に塗布されてパターン状となる。すなわち、周知のインクジェット吐出機のインクジェットノズルから、半導体基板1の所定領域にマスク材組成物Mを吐出してパターニングする。インクジェット吐出機としては、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を利用したピエゾ方式の吐出機を用いる。なお、加熱により発生する気泡を利用したサーマル方式の吐出機等を用いてもよい。マスクパターンを形成した後は、焼成してマスク材組成物Mを乾燥させる。
【0040】
次に、図1(B)に示すように、半導体基板1上に形成されたマスク材組成物Mのパターンに応じて、半導体基板1上に、P型の不純物拡散成分を含有する拡散剤組成物2と、N型の不純物拡散成分を含有する拡散剤組成物3とを選択的に塗布する。拡散剤組成物2および拡散剤組成物3は、周知の方法で調整されたものである。
【0041】
次に、図1(C)に示すように、拡散剤組成物2および拡散剤組成物3がパターニングされた半導体基板1を、たとえば、電気炉等の拡散炉内に載置して焼成し、拡散剤組成物2中のP型の不純物拡散成分、および拡散剤組成物3中のN型の不純物拡散成分を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。なお、拡散炉に代えて、慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして、P型の不純物拡散成分が半導体基板1内に拡散して、P型不純物拡散層4が形成され、また、N型の不純物拡散成分が半導体基板1内に拡散して、N型不純物拡散層5が形成される。
【0042】
次に、図1(D)に示すように、たとえばフッ酸などの剥離剤を用いて、マスク材組成物M、拡散剤組成物2、および拡散剤組成物3を除去する。
【0043】
次に、図1(E)に示すように、熱酸化等により、半導体基板1のP型不純物拡散層4およびN型不純物拡散層5が形成された側の表面に、パッシベーション層6を形成する。また、半導体基板1のパッシベーション層6が形成された側と反対側の面に、周知の方法により微細な凹凸構造を有するテクスチャ構造を形成し、その上に太陽光の反射防止効果を有するシリコン窒化膜7を形成する。
【0044】
次に、図1(F)に示すように、周知のフォトリソグラフィ法およびエッチング法により、パッシベーション層6を選択的に除去して、P型不純物拡散層4およびN型不純物拡散層5の所定領域が露出するようにコンタクトホール6aを形成する。そして、P型不純物拡散層4上に設けられたコンタクトホール6aに、たとえば電解めっき法および無電解めっき法により所望の金属を充填して、P型不純物拡散層4と電気的に接続された電極8を形成する。また、同様にして、N型不純物拡散層5上に設けられたコンタクトホール6aに、N型不純物拡散層5と電気的に接続された電極9を形成する。以上の工程により、本実施形態に係る太陽電池10を製造することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物は、側鎖にOH基などの極性基を持たず、環構造を持つ疎水性が高いシロキサンポリマー(A)を含有する。これにより、ケイ素含有膜形成組成物を半導体基板に印刷した際の経時変化が抑制される。さらに、本実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物は極性低分子化合物(B)を含有することにより、親水性基板への密着性が改善されることで、ケイ素含有膜形成組成物を親水性基板に印刷して得られる印刷パターンの乾燥前後の変動を抑制することができる。したがって、本実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物は、親水性基板への不純物拡散成分の拡散保護の際に形成されるマスクに好適に採用可能である。
【0046】
また、本実施の形態に係るケイ素含有膜形成組成物を用いて不純物拡散層を形成した場合には、印刷パターンの変動が抑制されるため、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。そして、このような不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を太陽電池に用いた場合には、より信頼性の高い太陽電池を得ることができる。
【0047】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0048】
たとえば、上述の実施の形態では、インクジェット印刷法により半導体基板1にマスク材組成物Mを選択的に塗布したが、スピンコート法、スプレー印刷法、ロールコート印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの他の印刷法を採用してもよい。
【0049】
また、上述の実施の形態では、マスク材組成物を太陽電池の製造に用いたが、特にこれに限定されず、半導体素子を搭載した様々な半導体装置の製造に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0051】
(シロキサンポリマーの接触角評価)
下記式(A1−1a)(質量平均分子量3600)、下記式(A1−2a)(質量平均分子量5000)で表されるシロキサンポリマーと、従来マスク材料として用いられてきた、側鎖にOH基を有するシロキサンポリマー(下記式(A’1−1)、質量平均分子量2200)、下記式(A1−3a)(質量平均分子量1500)と式(A1−2a)、式(A1−1a)とを表1に記載の質量比で含むシロキサンポリマーについて水に対する接触角を測定した。各ポリマーのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液をSiウエハー上にスピンコートし、ホットプレート上で、200℃で3分間加熱して樹脂膜を形成した。その後、水50μLを滴下し、協和界面科学株式会社製DROP MASTER−700を用いて、接触角を測定した。表1に各シロキサンポリマーについて測定された接触角を示す。
【化9】

【化10】

式(A1−2a)において、n:mは、60:40〜80:20ある。
【化11】

式(A’1−1)において、uは整数である。
【化12】

式(A1−3a)において、v:wは、65:10〜55:20である。
【0052】
表1に示すように、式(A1−1a)、式(A1−2a)で表されるシロキサンポリマーは水に対する接触角が75度以上であり、式(A’1−1)で表されるシロキサンポリマーに比べて疎水性が高いことが確認された。
【0053】
(シロキサンポリマーの経時評価)
シロキサンポリマーの接触角評価で使用した上記の各組成物溶液を室温(約23℃)で保管し、10日経過後の分子量を測定した。10日経過後の分子量の変化量が5%以内の場合を○、5%以上増加していたものを×として評価した。表1にその結果を示す。
【表1】

【0054】
(ケイ素含有膜形成組成物)
表2に実施例1乃至13、および比較例1、2のケイ素含有膜形成組成物の各成分および含有量を示す。
【表2】

表2において、(A1−1a)、(A1−2a)は、表1の記載と同様に、それぞれ上述した式(A1−1a)、式(A1−2a)で表されるシロキサンポリマーである。また、DPGはジプロピレングリコールモノメチルエーテル、DPG−Mはジプロピレングリコールモノメチルエーテル、TPG−Mはトリプロピレングリコールモノメチルエーテル、PGMEはプロピレングリコールモノメチルエーテル、PGMEAプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、のそれぞれ略である。SF8421EG(ダウケミカル社製)はノニオン系界面活性剤を示す。
【0055】
(印刷特性判定方法)
各実施例、各比較例のケイ素含有膜形成組成物について、下記印刷条件にて印刷を行って印刷パターンを形成した後、加熱により乾燥を行った。
<インクジェット印刷条件>
印刷基板:6インチSiウエハー
基板処理:なし(自然酸化膜あり、親水性)
基板温度:70℃
プリベーク:200℃、2分
評価ターゲット:線幅400〜600μm
【0056】
印刷パターンを乾燥する前の線幅をα、印刷パターンを乾燥した後の線幅をβとしたとき、線幅の変動割合が10%以下の場合を良好(○)とし、10%を超える場合を不良(×)とした。各試料の印刷特性の判定結果を表2に記載した。
【0057】
表2に示すように、極性低分子化合物を含有する実施例1乃至13では、印刷パターンの乾燥前後の変動割合が10%以下に抑えられており、極性低分子化合物による親水性基板に対する密着性向上作用により印刷パターンの収縮が抑制されていることがわかる。これに対して、比較例1、2では、疎水性が高いシロキサンポリマーに起因する親水性基板に対する密着性の低下のため、印刷パターンの乾燥前後の変動割合が10%を超えることがわかる。
【0058】
また、表3に示すような、複数のシロキサンポリマーを含む実施例17乃至22、比較例4、5のケイ素含有膜形成組成物について、上記方法と同様に印刷特性を判定した。
【表3】

表3において、(A1−3a)は、表1の記載と同様に、上述した式(A1−3a)で表されるシロキサンポリマーである。その他の略語は、表2の説明に準じる。
【0059】
表3に示すように、極性低分子化合物を含有する実施例17乃至22では、印刷パターンの乾燥前後の変動割合が10%以下に抑えられており、極性低分子化合物による親水性基板に対する密着性向上作用により印刷パターンの収縮が抑制されていることがわかる。これに対して、比較例4,5では、疎水性が高いシロキサンポリマーに起因する親水性基板に対する密着性の低下のため、印刷パターンの乾燥前後の変動割合が10%を超えることがわかる。
【0060】
(極性低分子化合物の添加量依存性)
極性低分子化合物の添加量と印刷パターンの乾燥前後の変動との関係を調べるため、実施例1のケイ素含有膜形成組成物をベースに、極性低分子化合物の含有量のみを変えて実施例14乃至16、比較例3のケイ素含有膜形成組成物を作製した。各試料の成分および含有量を表3に示す。各試料について上述した印刷特性判定方法に従って、印刷特性を評価した。各試料の印刷特性の判定結果を表4に記載した。
【表4】

【表5】

【0061】
表4に示すように、ケイ素含有膜形成組成物における極性低分子化合物の含有量が50ppm以上の場合に、線幅の変動割合が10%以下に抑制され、印刷特性が良好となることがわかった。
【符号の説明】
【0062】
M マスク材組成物、 1 半導体基板、 2,3 拡散剤組成物、 4 P型不純物拡散層、 5 N型不純物拡散層、 6 パッシベーション層、 6a コンタクトホール、 7 シリコン窒化膜、 8,9 電極、 10 太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に環構造を持つシロキサンポリマー(A)と、
極性低分子化合物(B)と、
溶剤(C)と、
を含有することを特徴とするケイ素含有膜形成組成物。
【請求項2】
極性低分子化合物(B)は、塩基性を有するアミン類である請求項1に記載のケイ素含有膜形成組成物。
【請求項3】
シロキサンポリマー(A)の水に対する接触角が75度以上である請求項1または2に記載のケイ素含有膜形成組成物。
【請求項4】
極性低分子化合物(B)は2級または3級のアルコールアミンまたはアルキルアミンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のケイ素含有膜形成組成物。
【請求項5】
半導体基板への不純物拡散成分の拡散保護に用いられるマスク材組成物である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のケイ素含有膜形成組成物。
【請求項6】
シロキサンポリマー(A)が下記式(a1)で表される構成単位を持つ請求項1乃至5のいずれか1項に記載のケイ素含有膜形成組成物。
【化1】

式(a1)中、Raは置換基を有していてもよい芳香族環または脂肪族環である。
【請求項7】
半導体基板に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のケイ素含有膜形成組成物を塗布する工程と、
前記半導体基板に塗布された前記ケイ素含有膜形成組成物をマスクとして、不純物拡散成分を前記半導体基板に選択的に塗布し、拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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