説明

ケイ酸エステル

【課題】水系製品中での分散安定性及び化学的安定性の両方に優れるケイ酸エステルの提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル。


〔式中、mは0〜3の数であり、Yは、水酸基、−O−(AO)n−R1基、−O−R2基又は−O−R3基を示す。AはC2〜3のアルキレン基、nは1〜50の数、R1はC1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、R2はC6〜24の機能性アルコールから水酸基を1つ除いた残基、R3はC1〜3の炭化水素基を示す。一分子あたりの−O−(AO)n−R1基、−O−R2基、−O−R3基及び水酸基の平均置換モル数p、q、r、sについて、p、qはそれぞれ(m×0.05+0.1)〜(m×1.95+3.9)の範囲にある数であり、r、sはそれぞれ0〜(m×1.9+3.8)の範囲にある数であり、p、q、r及びsの和は(m×2+4)である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸エステル、その製造方法、並びにそれを含む機能性物質放出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
香料や薬剤といった機能性物質を用いる分野では、所謂、徐放技術が求められている。例えば、薬剤を用いる分野では、長期間にわたって一定の効果を持続させるために徐放技術が求められる。
【0003】
香料を用いる分野では、いわゆるトップノート、ミドルノート及びベースノートと呼ばれる、揮発性の異なる多数の香気成分を調合して、所望の芳香が創造されているが、一般的な香料から処方された調合香料は、使用中に、より揮発しやすい成分から優先的に揮散してしまうため、調合香料の香調は時間と共に変化していき、設計した芳香を長時間持続できないという欠点を有している。
【0004】
このような問題を解決すべく、香料の徐放技術に関して、特許文献1には、ケイ酸に香料アルコールを結合させたケイ酸エステルを用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、上記ケイ酸エステルを縮合させた構造を有するポリアルコキシシロキサンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−59498号公報
【特許文献2】特表2003−526644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術は、ケイ酸エステルの加水分解物(香料アルコール)を香料成分として用いる技術であり、ケイ酸エステルが加水分解することで香りが発せられ、長時間にわたり、所望の香りを持続することができる。しかしながら、このケイ酸エステルに関しては、親水性が低いためシャンプーや衣料用液体洗浄剤、芳香剤などの水系製品中において分離、凝集を起こし易く、均一に分散させることが困難である。さらに、水系製品中では加水分解し易いため、保存安定性にも問題がある。一方、特許文献2記載の技術では、加水分解への耐性は向上するものの、高分子化合物を含むため、水系製品中での分散安定性に関してはやはり十分ではなく、水系製品中への配合には問題がある。
【0007】
このような水系製品中での配合安定性の問題は、香料の分野のみならず、揮発性の防菌防黴剤の分野においても同様に存在しており、その徐放効果と配合安定性とを両立させることは困難であった。
【0008】
本発明の課題は、水系製品中での分散安定性及び保存安定性の両方に優れるケイ酸エステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表されるケイ酸エステルが水系製品中での分散安定性及び保存安定性の両方に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル〔以下、「ケイ酸エステル(1)」ともいう〕、該ケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤、並びに該ケイ酸エステルの製造方法を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数である。Yは、水酸基、−O−(AO)n−R1基、−O−R2基又は−O−R3基を示し、ここでAは炭素数2又は3のアルキレン基を示し、nはAO基の平均重合度を示す1〜50の数であり、R1は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R2は炭素数6〜24の機能性アルコールから水酸基を1つ除いた残基を示し、R3は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。式(1)で表されるケイ酸エステルにおいて、一分子あたりの−O−(AO)n−R1基、−O−R2基、−O−R3基及び水酸基の平均置換モル数は、それぞれp、q、r、sで示され、p,qはそれぞれ(m×0.05+0.1)〜(m×1.95+3.9)の範囲にある数であり、r、sはそれぞれ0〜(m×1.9+3.8)の範囲にある数であり、p、q、r及びsの和は(m×2+4)であり、ここでmは上記と同じ意味を表す。〕
【発明の効果】
【0013】
本発明のケイ酸エステルは、水系製品中での分散安定性及び化学的安定性の両方に優れ、機能性物質を徐放する剤として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ケイ酸エステル(1)>
本発明のケイ酸エステルは、上記一般式(1)で表される。一般式(1)において、mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数であるが、水系製品中での分散安定性の観点から、0〜1が好ましく、0が特に好ましい。
【0015】
nは、AO基(オキシアルキレン基;Aは炭素数2又は3のアルキレン基を示す)の平均重合度を示す1〜50の数であるが、水系製品中での分散安定性の観点からは1以上であればよく、水系製品中での化学的安定性の観点からは25以下が好ましい。よって、水系製品中での分散安定性及び化学的安定性を両立させる観点から、nは好ましくは1〜25であり、特に好ましくは1〜16である。
【0016】
1は、炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基である。ここで、R1が水素である場合、ケイ酸エステル分子間の架橋が起こり易く、化学的安定性の低下を招くため、不適である。この観点から、R1は炭素数1以上の炭化水素基であることが必須であり、炭素数が増えるほど化学的安定性は向上する。一方、水系製品中での分散安定性の観点からは、R1の炭素数は18以下が好ましい。よって、水系製品中での分散安定性及び化学的安定性を両立させる観点から、R1は、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基である。
【0017】
一般式(1)における−(AO)n−R1基は、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルから水酸基を除いた残基(以下、単に「POAA残基」ともいう)を示し、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(n=7,12又は45)、トリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=3)、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=6)、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=19)、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=20)、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=23)、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル(n=47)、ポリオキシエチレンステアリルアルコール(n=6)、ポリエチレングリコールメチルトリデカンエーテル(n=13)、ポリオキシエチレンモノ(オクチルデシル)エーテル(n=20)、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル(n=8)、プロピレングリコールプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0018】
2は、炭素数6〜24の機能性アルコールから水酸基を1つ除いた残基(以下、「機能性アルコール残基」ともいう)を示す。ここで、機能性アルコールとしては、香料アルコール、防菌防黴性を有する抗菌性アルコール、保湿性を有する保湿性アルコール、生理活性を有する生理活性アルコール、着色性を有する着色性アルコール、一般的な表面活性を有する表面改質性アルコールのことをいい、香料アルコール、抗菌性アルコールが好ましく、香料アルコールがより好ましい。ここで香料アルコールとは、「合成香料 化学と商品知識 増補改訂版」(化学工業日報社,2005年発行)及び「香料と調香の基礎知識」(産業図書,2000年発行(第3刷))記載の水酸基を有する香料であり、抗菌性アルコールとは、防菌防黴剤事典第1版(日本防菌防黴学会、1986年発行)記載の、水酸基を有し防菌又は防黴用に用いられる化合物である。
【0019】
上記香料アルコール及び抗菌性アルコールには、それぞれ、香料アルコール、抗菌性アルコールとしての能力の他、上記機能性アルコールに示した、例えば保湿性アルコール、生理活性アルコールとしての能力を併せ持つものもあることが知られている。よって、例えば上記香料アルコールから水酸基1つを除いた残基であるR2を有する本発明のケイ酸エステルであっても、その用途は香料アルコールの徐放用途には限定されず、保湿性や生理活性等の、そのアルコールが有する能力に応じて、広く機能性アルコールの徐放用途に用いることができる。
【0020】
機能性アルコールとしては、分子間架橋を避ける観点から、水酸基を1つだけ有するものが好ましく、より多くの機能性アルコールを本発明のケイ酸エステル(1)に導入する観点から、該水酸基が1級又は2級であるものが好ましい。水系製品中での分散安定性の観点から、機能性アルコールの炭素数は6〜15が好ましい。
【0021】
香料アルコールの具体例としては、青葉アルコール(cis−3−ヘキセノール)、3−オクテノール(1−オクテン−3−オール)、9−デセノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、ロジノール、ファルネソール、ヒドロキシシトロネロール、3,7−ジメチル−7−メトキシオクタン−2−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−1−ブタノール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール等の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルコール;ベンジルアルコール、2−フェニルエタノール(フェネチルアルコール)、シンナミックアルコール、γ−フェニルプロピルアルコール、アニスアルコール、フェノキシエチルアルコール、スチラリルアルコール、3−メチル−5−フェニルペンタノ−ル、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)−プロパノール等の芳香族アルコール;2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−メタノール、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、o−tert−ブチルシクロヘキサノール、L−メントール、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、ペンタメチルシクロヘキシルプロパノール、1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−3−ヘキサノール、サンタロール、ベチベロール等の飽和又は不飽和の環式アルコール等が挙げられる。
【0022】
抗菌性アルコールの具体例としては、グリセロールモノラウレート、トリ(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメチルヒダントイン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(ヒドロキシエチル)−S−トリアジン等が挙げられる。
【0023】
上記以外の機能性アルコールの具体例としては、n−ヘキサノール、メタ−クロロキシレノール、2,4−ジクロロフェノール、2,4−ジクロロベンジルアルコール、ヒノキチオール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、トリクロサン、カプサイシン、トコフェロール等が挙げられる。
【0024】
一般式(1)において、R3は炭素数1〜3の炭化水素基を示すが、特にエチル基が好ましい。
【0025】
また一般式(1)において、−O−(AO)n−R1基、−O−R2基、−O−R3基及び水酸基の、ケイ酸エステル一分子あたりの平均置換モル数p、q、r及びsに関して、p及びqは、それぞれ(m×0.05+0.1)〜(m×1.95+3.9)の範囲にある数である。pがこの範囲であれば、水への分散性が良好であり、qがこの範囲であれば、機能性物質剤として応用した場合、機能性物質の高い放出効率を有する。r、sはケイ酸エステルとして置換可能な部位から、p、qを除いた残部であり、それぞれ0〜(m×1.95+3.8)の範囲にある数であり、p、q、r及びsの和は(m×2+4)である〔ここで、mは前記と同じ意味を示す〕。
【0026】
本発明のケイ酸エステル(1)に関しては、−O−R2基の置換数(即ち、q)が多いほど、ケイ酸エステル(1)の単位量当たりの機能性物質放出量は増大する。一方、ケイ酸エステル(1)の水系製品中での分散安定性は、−O−(AO)n−R1基の置換数(即ち、p)と相関する。従って、機能性物質の放出(徐放)効果並びに水系製品中での分散安定性の観点から、pとqの比(p/q)は0.15〜1.0であり、且つpとqの和は(m×1.25+2.5)〜(m×2+4)の範囲の数(ここで、mは前記と同じ意味を示す)であることが好ましく、p/qが0.2〜0.5であり、且つpとqの和は(m×1.5+3)〜(m×2+4)の範囲の数であることがより好ましい。
【0027】
<ケイ酸エステル(1)の製造方法>
本発明のケイ酸エステル(1)は、下記合成方法1又は2により製造することができる。
【0028】
合成方法1:下記一般式(2)で表される原料ケイ酸エステルに、塩基共存下、一般式(3)で表される(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル(以下、「POAA」ともいう)及び炭素数6〜24の機能性アルコールを反応させる方法。
【0029】
Si(OR44 (2)
〔式中、R4は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。〕
HO−(AO)n−R5 (3)
〔式中、A及びnは前記と同じ意味を示し、R5は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示す。〕
合成方法2:下記一般式(4)で表される原料ハロゲン化シランに、塩基共存下、上記一般式(3)で表されるPOAA及び炭素数6〜24の機能性アルコールを反応させる方法。
【0030】
SiX4 (4)
〔式中、Xはハロゲン原子を示す。〕
上記2つの合成方法のうち、塩の生成がなく、または生成しても微量であり、生成物の精製負荷が小さいことから、合成方法1が特に好ましい。
【0031】
以下、合成方法1について、詳しく説明する。
【0032】
一般式(2)で表される原料ケイ酸エステルの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラプロポキシシランが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、入手容易性の観点から、テトラエトキシシランが好ましい。
【0033】
一般式(3)で表されるPOAAについて、n及びR5の好ましい態様は、一般式(1)におけるn及びR1について説明した好ましい態様と同じである。
【0034】
上記POAA及び機能性アルコールは、それぞれ2種以上のPOAA及び機能性アルコールを混合して用いてもよい。
【0035】
合成に用いるPOAA及び機能性アルコールの量は、得られるケイ酸エステル(1)の置換基の組成に影響を与え、ひいてはケイ酸エステル(1)の性能に影響を与える。本発明において、これらPOAA及び機能性アルコールの使用量に関しては、得られるケイ酸エステル(1)の水系製品中での分散安定性並びに単位量当たりの機能性物質放出量の観点から、POAAと機能性アルコールのモル比[POAA/機能性アルコール]は好ましくは0.15〜1.00、より好ましくは0.20〜0.50であり、原料ケイ酸エステルに対するPOAAと機能性アルコールの和のモル比[(POAA+機能性アルコール)/原料ケイ酸エステル]は好ましくは1〜10、より好ましくは2〜5であり、さらに好ましくは3〜4である。
【0036】
合成反応時に共存させる塩基としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、及びアルカリ金属のアルコキシド等の一般的な塩基を用いることができ、原料の分解を抑制する観点から、アルカリ金属のアルコキシドが好ましい。
【0037】
塩基の使用量に関しては、触媒量で十分であり、用いる原料ケイ酸エステルに対し、通常、0.00001〜0.1モル倍であり、0.0001〜0.05モル倍が好ましい。
【0038】
ケイ酸エステル(1)の合成反応においては、溶媒を用いることもできる。溶媒としては、各種エーテルや芳香族化合物などの反応に不活性な溶媒が好ましい。好ましい溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。
【0039】
合成反応(エステル交換反応)の際の反応温度は、原料ケイ酸エステル及び機能性アルコールの沸点以下が好ましく、室温(20℃)〜250℃がより好ましく、50〜220℃が更に好ましく、70〜200℃が更により好ましく、90〜180℃が特に好ましい。
【0040】
エステル交換反応は、減圧下で行うと、反応を速やかに進行させることができ好ましい。減圧度は反応温度にもよるが、原料ケイ酸エステル及び機能性アルコールの沸点以下で行えばよく、1.3Pa〜常圧(0.1MPa)が好ましく、130Pa〜40kPaがより好ましく、1.3kPa〜13kPaが更に好ましい。反応は反応初期から減圧下で行っても、途中から減圧下で行っても良い。
【0041】
<機能性物質放出剤>
本発明の機能性物質放出剤は、上記ケイ酸エステル(1)を含む。また、ケイ酸エステル(1)の他、ケイ酸エステル(1)の製造に際し副生する副生物や製造原料を含んでいても良い。
【0042】
本発明の機能性物質放出剤はまた、ケイ酸エステル(1)以外に、シロキサンが環状に縮合した重・縮合物を含有していても良い。
【0043】
本発明の機能性物質放出剤は、長期にわたり機能性物質を徐放することができる。ケイ酸エステル(1)中の機能性アルコール残基が香料アルコールや抗菌性アルコールから水酸基を1個除いた残基である場合、本発明の機能性物質放出剤は、芳香性や抗菌性を長時間持続させることができ、例えば香料持続剤や抗菌性持続剤として有用である。また、先述の通り、本発明のケイ酸エステル(1)は水系製品中での分散安定性及び化学的安定性に優れるため、かかるケイ酸エステル(1)を含んで成る本発明の機能性物質放出剤は、水系製品への配合が容易である。
【0044】
本発明の機能性物質放出剤は、機能性物質の使用時における徐放を目的として、様々な製品に配合することができる。例えば、油系消臭芳香剤、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型の消臭剤等非水溶液系製品の他、水溶液系での配合安定性に優れる特長を活かし、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、液体洗剤・柔軟剤等の繊維処理製品、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の毛髪化粧料製品、液体入浴剤等に使用することができ、各使用態様において機能性アルコールの放出を長期間持続させることができる。
【0045】
本発明のケイ酸エステル(1)は、機能性放出剤として用いるだけでなく、洗浄剤組成物、柔軟剤組成物、毛髪化粧料組成物、芳香剤組成物、消臭剤組成物等に配合し、各種の組成物としても用いることもできる。
【0046】
組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は、特に限定されず、その用途に応じて種々変更することができる。洗浄剤組成物や柔軟剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0047】
芳香剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0048】
消臭剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示す。以下の実施例において、「%」は特に断りの無い場合は「質量%」を意味する。
本発明のケイ酸エステル(1)の分析は、反応混合物中のSi量、機能性アルコール残基(R2)量、POAA残基(-(AO)n-R1)量、原料ケイ酸エステル由来の低級アルコール残基(R3)量を、29Si−及び1H−NMRにより定量し、次いで反応混合物中に含まれる遊離機能性アルコール(R2−OH)量及び遊離低級アルコール(R3−OH)量をそれぞれガスクロマトグラフ法(GC)で、また遊離POAA(HO−(AO)n−R1)量を、液体クロマトグラフ質量分析法(LC−MASS)により定量し、これと仕込み時に用いた原料の量から算出し行なった。NMR、GC、及びLC−MASSの分析条件を以下に示す。
【0050】
<NMR分析条件>
装置:Varian社製 Mercury400BB
分析核:1H(400MHz)
重溶媒:CDCl3、CD3OD、D2Oなど溶解する溶媒
緩和時間:10秒
積算回数:128回
<GC分析条件>
装置:HEWLETT PACKARD 4890
検出器:FID
カラム:J&W Scientific社製 DB−1HT
(15m×0.25mm×0.1μm)
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:1mL/分
注入法:スプリット(50:1)
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
<LC−MASS分析条件>
装置;Agilent 1100 Series
検出器;LC/MSD
カラム;ODS L−column (2.1 × 150 mm)
カラム温度;40℃
流量;0.25μL/min
溶離液;(A液)10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液
(B液)10mmol/L 酢酸アンモニウム/メタノール溶液
グラジエント条件; B液 40体積%(0分)→98体積%(15分)
→98体積%(30分)→40体積%(30分)
保持時間;8分
注入量;5μL
<サンプル調製法>
GC分析:サンプル30mgをアセトンなど溶解できる溶媒1mLで希釈し調製
NMR分析:サンプル10〜20mgを溶解できる重溶媒1mLに溶解し調製
LC−MASS分析:サンプルを0.1%/メタノール溶液に調整
合成例1 ケイ酸エステル(1)−1の合成
300mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン41.7g(0.20mol)、フェネチルアルコール66.0g(0.54mol)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(アルドリッチ社製、平均分子量550、以下「HO−(EO)12−Me」ともいう) 99.0g(0.18mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製 28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで10質量倍に希釈したもの)0.63g(0.00033mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、110〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、174.9gの黄色油状物を得た(以下、「油状物1」ともいう)。NMR、GC、及びLCの分析の結果、油状物1は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)12−Me、R2=フェネチル基(PhEt)、R3=エチル基(Et)であり、m=0,p=0.7,q=2.2,r=1.1であるケイ酸エステル(1)−1を136.8g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコール及びHO−(EO)12−Meであった。得られたケイ酸エステル(1)−1の構造及び油状物1の組成を表1にまとめて示す。
【0051】
合成例2 ケイ酸エステル(1)−2の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン41.7g(0.20mol)、ゲラニオール83.3g(0.54mol)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(アルドリッチ社製、平均分子量350、以下「HO−(EO)7−Me」ともいう)63.0g(0.18mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製 28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.31g(0.00033mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、117℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、109〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、156.2gの黄色油状物(以下、「油状物2」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物2は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)7−Me、R2=ゲラニオールから水酸基1つを除いた残基(以下、「Ger」ともいう)、R3=Etであり、m=0,p=0.7、q=2.4、r=0.9であるケイ酸エステル(1)−2を136.7g含有していた。残部は、原料であるゲラニオール及びHO−(EO)7−Meであった。ケイ酸エステル(1)−2の構造及び油状物2の組成を表1にまとめて示す。
【0052】
合成例3 ケイ酸エステル(1)−3の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン41.7g(0.20mol)、フェネチルアルコール66.0g(0.54mol)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均重合度3、花王株式会社製、製品名;エマルゲン103、以下「HO−(EO)3−C1225」ともいう) 56.7g(0.18mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.77g(0.00040mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、123〜129℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、123℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、132.4gの黄色油状物(以下、「油状物3」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物3は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)3−C1225,R2=PhEt、R3=Etであり、m=0,p=0.6、q=2.5、r=0.9であるケイ酸エステル(1)−3を108.3g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコール及びHO−(EO)3−C1225であった。ケイ酸エステル(1)−3の構造及び油状物3の組成を表1にまとめて示す。
【0053】
合成例4 ケイ酸エステル(1)−4の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン33.3g(0.16mol)、フェネチルアルコール52.8g(0.43mol)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均重合度6、花王株式会社製、製品名;エマルゲン108、以下「HO−(EO)6−C1225」ともいう) 63.8g(0.14mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.81g(0.00042mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、117℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、118〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、122.5gの黄色油状物(以下、「油状物4」とも言う)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物4は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)6−C1225、R2=PhEt、R3=Etであり、m=0,p=0.6、q=2.3、r=1.1であるケイ酸エステル(1)−4を92.0g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコール及びHO−(EO)6−C1225であった。ケイ酸エステル(1)−4の構造及び油状物4の組成を表1にまとめて示す。
【0054】
合成例5 ケイ酸エステル(1)−5の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン12.5g(0.06mol)、ゲラニオール25.0g(0.16mol)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均重合度20、花王株式会社製、製品名;エマルゲン147、以下「HO−(EO)20−C1225」ともいう) 53.6g(0.05mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.11g(0.00011mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、123℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、126〜130℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、81.7gの黄色油状物(以下、「油状物5」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物5は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)20−C1225、R2=Ger、R3=Etであり、m=0,p=0.6、q=1.9、r=1.5であるケイ酸エステル(1)−5を58.3g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコール及びHO−(EO)20−C1225であった。ケイ酸エステル(1)−5の構造及び油状物5の組成を表1にまとめて示す。
【0055】
合成例6 ケイ酸エステル(1)−6の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン41.7g(0.20mol)、フェネチルアルコール66.0g(0.54mol)、HO−(EO)7−Me 63.0g(0.18mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.63g(0.00033mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、114〜121℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、134.6gの黄色油状物(以下、「油状物6」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物6は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)7−Me、R2=PhEt、R3=Etであり、m=0,p=0.7、q=2.5、r=0.8であるケイ酸エステル(1)−6を113.7g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコール及びHO−(EO)7−Meであった。ケイ酸エステル(1)−6の構造及び油状物6の組成を表1にまとめて示す。
【0056】
合成例7 ケイ酸エステル(1)−7の合成
300mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン33.3g(0.16mol)、ゲラニオール66.6g(0.43mol)、HO−(EO)12−Me 79.2g(0.14mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.36g(0.00037mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、114〜121℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、152.3gの黄色油状物(以下、「油状物7」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物7は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)12−Me、R2=Ger、R3=Etであり、m=0,p=0.7、q=2.2、r=1.1であるケイ酸エステル(1)−7を124.3g含有していた。残部は、原料であるゲラニオール及びHO−(EO)12−Meであった。ケイ酸エステル(1)−7の構造及び油状物7の組成を表1にまとめて示す。
【0057】
合成例8 ケイ酸エステル(1)−8の合成
300mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8g(0.10mol)、ゲラニオール41.7g(0.27mol)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(アルドリッチ社製、平均分子量2000、以下「HO−(EO)45−Me」ともいう) 180.0g(0.090mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.51g(0.00053mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、115℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、117〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、226.2gの黄色油状物(以下、「油状物8」ともいう)を得た。NMR、GC及びLCの分析の結果、油状物8は、一般式(1)において−(AO)n−R1=−(EO)45−Me、R2=Ger、R3=Etであり、m=0,p=0.4、q=1.8、r=1.8であるケイ酸エステル(1)−8を112.2g含有していた。残部は、原料であるゲラニオール及びHO−(EO)45−Meであった。ケイ酸エステル(1)−8の構造及び油状物8の組成を表1にまとめて示す。
【0058】
比較合成例1 ケイ酸エステル9の合成
1Lの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン229.2g(1.1mol)、フェネチルアルコール483.79g(4.0mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.76g(0.0018mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、112〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、526.2gの淡黄色油状物(以下、「油状物9」ともいう)を得た。得られた油状物のGCの分析の結果、油状物9は、一般式(1)において−(AO)n−R1=なし、R2=PhEt、R3=Etであり、m=0,p=0、q=3.6、r=0.4である比較品のケイ酸エステル9を479.4g含有していた。残部は、原料であるフェネチルアルコールであった。ケイ酸エステル9の構造及び油状物9の組成を表1にまとめて示す。
【0059】
比較合成例2 ケイ酸エステル10の合成
1Lの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン206.8g(0.99mol)、ゲラニオール549.3g(3.6mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.5g(0.0016mol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、115〜120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、119〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、591.8gの淡黄色油状物(以下、「油状物10」ともいう)を得た。油状物10は、一般式(1)において−(AO)n−R1=なし、R2=Ger、R3=Etであり、m=0,p=0、q=3.5、r=0.5である比較品のケイ酸エステル10を528.5g含有していた。残部は、原料であるゲラニオールであった。ケイ酸エステル10の構造及び油状物10の組成を表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1〜8及び比較例1〜10 (水中分散安定性の評価)
合成例1〜8で得られた油状物1〜8を、表2に示す組成で配合し、タッチミキサー(IKA社製、MS3 basic)で1分間撹拌した後、1分間静置させた際の溶液の状態を目視観察して水中分散安定性を評価した(実施例1〜8)。評価は下記基準に従って行った。比較のため、比較合成例1〜2で得られた油状物9〜10についても同様に評価した(比較例1〜2)。更に、POAA残基を有していないケイ酸エステルとPOAAを単に混合した系に関しても同様に評価した(比較例3〜10)。なお、比較例3〜10では、実施例1〜8の油状物(即ち、油状物1〜8)に含まれるPOAA残基(ケイ酸エステル(1)に導入されたPOAA残基+遊離POAA)と等モル量のPOAAと、該油状物中に含まれるケイ酸エステル(1)と等モル量のケイ酸エステルを含む油状物9〜10を混合したものを評価に用いた。結果を表2にまとめて示す。
【0062】
評価基準:
○:乳化状態若しくは透明溶液状態
×:相分離状態
【0063】
【表2】

【0064】
表2における実施例1〜8と比較例1〜2の比較から明らかなように、本発明のケイ酸エステル(1)は、POAA残基を有しないケイ酸エステルに比べて、水中での分散安定性が著しく改善されている。また、実施例1〜8と比較例3〜10との比較から、かかる分散安定性の改善効果は、単にPOAAを混合しただけでは得られないことは明らかである。
【0065】
実施例9〜12及び比較例11〜12 (水系製品中での保存安定性の評価)
表3に示す組成を有する未賦香液体柔軟剤Aを定法により調製した。次いで、機能性物質放出剤として合成例1〜8及び比較合成例1〜2で得られた各油状物を、油状物中のケイ酸エステルが、未賦香液体柔軟剤Aに対し0.5%になるように、50mLのスクリュー管に未賦香液体柔軟剤Aと各油状物とを加え、50℃に加熱後冷却を行い、柔軟剤組成物を調製した。
【0066】
この柔軟剤組成物を密栓し、40℃の恒温槽に保存した。配合直後並びに14日後の遊離機能性アルコール量をHPLC(検出器UV)で測定し、14日後のケイ酸エステル残存率(即ち、配合直後のケイ酸エステルに対する、14日後まで加水分解を受けなかったケイ酸エステルの質量比)を求めた。結果を表4に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
表4の結果から、本発明のケイ酸エステル(1)は、POAA残基を有していないケイ酸エステルと同等以上の保存安定性を有することが確認される。
【0070】
実施例13〜16 (香りの持続性の評価)
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)アタック)を用いて、木綿タオル24枚を日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0071】
National電気バケツN−BK2−Aに、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟剤組成物10g/衣料1.0kgとなるように、40℃にて、上記実施例9〜12で調製した柔軟剤組成物(調製直後品)を溶解させ、処理浴を調製した。1分後、上記方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理し、次いで、2枚の木綿タオルをNational電気洗濯機NA−35に移し、3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを8つ折りにし、約20℃の室内に1週間放置した。
【0072】
1週間放置後のタオルについて、匂い評価を行なったところ、いずれのタオルにおいても、香料アルコールの種類を識別できるレベルで匂いを感知することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル。
【化1】

〔式中、mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数である。Yは、水酸基、−O−(AO)n−R1基、−O−R2基又は−O−R3基を示し、ここでAは炭素数2又は3のアルキレン基を示し、nはAO基の平均重合度を示す1〜50の数であり、R1は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示し、R2は炭素数6〜24の機能性アルコールから水酸基を1つ除いた残基を示し、R3は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。式(1)で表されるケイ酸エステルにおいて、一分子あたりの−O−(AO)n−R1基、−O−R2基、−O−R3基及び水酸基の平均置換モル数は、それぞれp、q、r、sで示され、p、qはそれぞれ(m×0.05+0.1)〜(m×1.95+3.9)の範囲にある数であり、r、sはそれぞれ0〜(m×1.9+3.8)の範囲にある数であり、p、q、r及びsの和は(m×2+4)であり、ここでmは上記と同じ意味を表す。〕
【請求項2】
機能性アルコールが香料アルコールである、請求項1に記載のケイ酸エステル。
【請求項3】
pとqの比(p/q)が0.15〜1.0であり、且つpとqの和が(m×1.25+2.5)〜(m×2+4)の範囲の数(ここで、mは請求項1と同じ意味を示す)である、請求項1又は2に記載のケイ酸エステル。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される原料ケイ酸エステルに、塩基共存下、下記一般式(3)で表される(ポリ)オキシアルキレンモノアルキルエーテル及び炭素数6〜24の機能性アルコールを反応させる、ケイ酸エステルの製造方法。
Si(OR44 (2)
〔式中、R4は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。〕
HO−(AO)n−R5 (3)
〔式中、A及びnは請求項1と同じ意味を示し、R5は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を示す。〕
【請求項5】
機能性アルコールが香料アルコールである、請求項5に記載のケイ酸エステルの製造方法。
【請求項6】
(ポリ)オキシアルキレンモノアルキルエーテルと機能性アルコールのモル比[(ポリ)オキシアルキレンモノアルキルエーテル/機能性アルコール]が0.15〜1.00であり、原料ケイ酸エステルに対する(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルと機能性アルコールの和のモル比[((ポリ)オキシアルキレンモノアルキルエーテル+機能性アルコール)/原料ケイ酸エステル]が3〜10である、請求項5又は6記載のケイ酸エステルの製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法で得られたケイ酸エステル。
【請求項8】
請求項1〜3又は請求項7のいずれかに記載のケイ酸エステルを含む機能性物質放出剤。

【公開番号】特開2011−1301(P2011−1301A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146001(P2009−146001)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】