説明

ケトン化合物の製造方法

【課題】製造プロセスが簡便であり、経済性に有利な触媒を回収し得る工程を含むケトン化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】各工程
工程(1):水溶性触媒及び水の存在下、オレフィン化合物を酸化せしめてケトン化合物を製造する工程;
工程(2):前記工程(1)の反応混合物を蒸留することにより、
前記オレフィン化合物の未反応物を含む第1の画分と、
前記ケトン化合物、前記水溶性触媒及び水を含む第2の画分と、を分離する工程;
工程(3):工程(2)で得られた第2の画分に抽剤を加え、前記ケトン化合物を含む有機相及び前記水溶性触媒を含む水相からなる混合物を得、前記有機相と前記水相とを分離する工程;
を含むケトン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリ酸等の水溶性触媒及び水の存在下、オレフィン化合物を酸化せしめて、対応するケトン化合物を製造する工程を含む製造方法に関する。さらに詳しくは、当該工程で得られた反応混合物から、ケトン化合物と水溶性触媒とを分離する工程を含み、該触媒を再利用することが可能なケトン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケトン化合物の製造方法の一つとして、オレフィン化合物を酸化する工程を含む製造方法が知られている。このような製造方法として、特許文献1には、パラジウム及びヘテロポリ酸を含む触媒と、水と、の存在下、オレフィンと酸化ガスとを反応させることにより、対応するケトン化合物を製造する製造方法が開示されている。
ところで、ケトン化合物製造に使用した触媒は、回収することにより、次回のケトン化合物製造に再利用することが求められる場合がある。上記特許文献1記載の製造方法では、反応後に残存する液成分を全て除去することにより、触媒を回収する方法(触媒回収方法)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−149685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示された触媒回収方法では、全ての液成分を除去する必要があり、製造プロセスが煩雑になるといった点や経済性の面から望ましくなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、製造プロセスが簡便であり、経済性に有利に触媒を回収し得る工程を含むケトン化合物の製造方法について鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
各工程
工程(1):水溶性触媒及び水の存在下、オレフィン化合物を酸化せしめてケトン化合物を製造する工程;
工程(2):前記工程(1)の反応混合物を蒸留することにより、
前記オレフィン化合物の未反応物を含む第1の画分と、
前記ケトン化合物、前記水溶性触媒及び水を含む第2の画分と、を分離する工程;
工程(3):工程(2)で得られた第2の画分に抽剤を加え、前記ケトン化合物を含む有機相及び前記水溶性触媒を含む水相からなる混合物を得、前記有機相と前記水相とを分離する工程;
を含むケトン化合物の製造方法;に係るものである。以下、この工程(1)、工程(2)及び工程(3)を「工程(1)〜工程(3)」のように示すことがある。
【発明の効果】
【0006】
本発明のケトン化合物の製造方法によれば、ケトン化合物製造に用いた水溶性触媒を、簡便な設備で、かつ経済的に有利に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製造方法は上述のとおり、工程(1)〜工程(3)を含むことを特徴とする。以下、工程ごとに詳細を説明する。
【0008】
<工程(1)>
工程(1)に用いられる水溶性触媒は、水溶性であり、オレフィン化合物を酸化してケトン化合物を得る反応の触媒となり得るものである。当該水溶性触媒としては、パラジウム及びポリオキソアニオンを含むものが好ましい。このような水溶性触媒は、パラジウム源とヘテロポリ酸とからなる。当該パラジウム源としては、例えば、パラジウム金属、パラジウム化合物及びそれらの混合物が挙げられる。パラジウム化合物を具体的にいうと、パラジウムの有機酸塩、パラジウムの酸素酸塩、酸化パラジウム及び硫化パラジウムなどが挙げられる。また、これらの塩や酸化物、硫化物の有機錯体又は無機錯体も用いることができる。もちろん、これらから選ばれるパラジウム源は、水溶性触媒を得るに当って、単独種を用いてもよく、2種以上の混合物を用いることもできる。
【0009】
以下、パラジウム化合物についての具体例を挙げておく。パラジウムの有機酸塩としては、例えば、酢酸パラジウムやシアン化パラジウムなどが挙げられる。パラジウムの酸素酸塩としては、例えば、硝酸パラジウムや硫酸パラジウムなどが挙げられる。これらの塩、酸化物、及び硫化物の有機錯体又は無機錯体としては、例えば、硝酸テトラアミンパラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムなどが挙げられる。これらの中でも、水溶性触媒を得るためのパラジウム源としては、パラジウムの有機酸塩又はパラジウムの酸素酸塩が好ましく、酢酸パラジウムや硫酸パラジウムがより好ましい。
【0010】
水溶性触媒に使用されるヘテロポリ酸としては、公知のものを使用できるが、好ましくは、リン(P)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有するヘテロポリ酸であり、さらに好ましいヘテロポリ酸は、P、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有するヘテロポリ酸である。また、ヘテロポリ酸は、塩を形成していてよく、すなわち、ヘテロポリ酸塩であってもよい。該へテロポリ酸又はヘテロポリ酸塩を構成するポリオキソアニオンの典型的な組成例としては、下記式(1A)又は式(1B)の組成式を有するものである。
XM1240 (1A)
(式中、Xは、P又はSiを表し、Mは、Mo、V及びWからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表す。)
1862 (1B)
(式中、X及びMは、前記式(1A)と同義である。)
【0011】
このような組成式のポリオキソアニオンとしては、例えば、リンモリブデン酸アニオン、リンタングステン酸アニオン、ケイモリブデン酸アニオン、ケイタングステン酸アニオン、リンモリブドタングステン酸アニオン、リンバナドタングステン酸アニオン及びリンバナドモリブデン酸アニオンなどが挙げられる。中でも、バナジウムを含有するポリオキソアニオンが好ましく、リンバナドタングステン酸アニオン又はリンバナドモリブデン酸アニオンが特に好ましい。このような好適なポリオキソアニオンを含むヘテロポリ酸を具体的に示すと、H4PV1Mo1140、H5PV2Mo1040、H6PV3Mo940又はH7PV4Mo840が挙げられる。好ましいヘテロポリ酸塩は、ここに示すヘテロポリ酸にある水素イオンの一部又は全部が、水素イオン以外のカチオンに置き換わったものであり、ヘテロポリ酸塩の中でも、酸性塩が好ましい。
【0012】
ヘテロポリ酸及び/又はヘテロポリ酸塩の合計使用量は、これらの種類などによって適宜調節されるが、後述する工程(1)に用いる溶媒中の濃度として、0.1〜200mmol/Lの範囲にすることが好ましく、1〜100mmol/Lの範囲にすることがさらに好ましい。また、パラジウム1モルに対するヘテロポリ酸及び/又はヘテロポリ酸塩の合計使用量は、50〜0.1モルの範囲にすることが好ましく、20〜0.5モルの範囲にすることがより好ましく、10〜1モルの範囲にすることがさらに好ましい。
【0013】
工程(1)のオレフィン化合物の酸化反応(以下、場合により「オレフィン酸化反応」という。)は、有効量のプロトン存在下で行われることから、ヘテロポリ酸又はその酸性塩以外のプロトン酸を添加してもよい。このようなプロトン酸としては、無機酸、有機酸又は固体酸が用いられる。無機酸としては、塩酸、フッ化水素酸のような二元酸(水素酸);硫酸、硝酸のようなオキソ酸(酸素酸);などが例示される。有機酸としては、例えば、ギ酸;脂肪族カルボン酸(例えば、酢酸など);脂環式カルボン酸(例えば、シクロヘキサンカルボン酸など);芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸など);スルホン酸類(例えば、p−トルエンスルホン酸など);などが挙げられる。固体プロトン酸の例としては、例えば、イオン交換樹脂(例えば、スルホン酸型イオン交換樹脂など);酸性ゼオライト;硫酸化ジルコニア;などが挙げられる。
【0014】
また、工程(1)においては、パラジウム及びヘテロポリアニオンを含む水溶性触媒の他に、金属又は金属化合物を添加することができる。金属としては、鉄、銅及びニッケルなどが例示され、金属化合物としては、これらの金属を含む化合物(鉄化合物、銅化合物及びニッケル化合物など)を挙げることができる。これらの中でも鉄化合物が好適に用いられる。鉄化合物としては、市場から容易に入手可能なものを使用することができる。例えば、硫酸鉄、ミョウバン鉄(硫酸アンモニウム鉄)、硝酸鉄、リン酸鉄などの無機塩や、クエン酸鉄、酢酸鉄などの有機酸塩、フタロシアニン鉄、アセチルアセトナート鉄などの錯体、及び酸化鉄などを鉄化合物として用いることができる。なかでも無機塩が鉄化合物としては好ましく、硫酸鉄やミョウバン鉄がより好ましい。鉄化合物を用いる場合、その使用量としては、ヘテロポリ酸及び/又はヘテロポリ酸塩の合計1モルに対して、0.01〜100モルの範囲が好ましく、0.1〜50モルの範囲がより好ましい。
【0015】
工程(1)のオレフィン酸化反応は、水の存在下で実施されるが、有機溶媒を併用してもよく、この場合に用いられる有機溶媒は、その沸点が100℃以下であることが好ましい。なお、この沸点は標準状態における沸点を意味する。沸点が100℃以下の有機溶媒(以下、場合により「低沸有機溶媒」という。)としては例えば、ニトリル化合物、エーテル化合物及びアルコール化合物が挙げられる。ニトリル化合物としてはアセトニトリルやプロピオニトリルが、エーテル化合物としてはジエチルエーテルやジプロピルエーテルが、アルコール化合物としてはメタノールやエタノールが、各々例示される。
【0016】
また、工程(1)のオレフィン酸化反応は、酸化剤として分子状酸素を用い、オレフィン化合物を酸化するものであると好ましい。この分子状酸素には、純酸素又は空気を使用することができる。または、これらのガスを、窒素又はヘリウムなどの不活性ガスで希釈することによって分子状酸素を含有するガスとして使用してもよい。使用する酸素量は、オレフィンの種類及び量、使用される水又は水と有機溶媒との混合溶媒中の酸素溶解度などに応じて調整することができる。当該分子状酸素は、オレフィン化合物1モルあたり、1〜100モル、好ましくは2〜50モル、さらに好ましくは5〜20モルの量で使用される。または、酸素分圧として、好ましくは0.01〜10MPa、さらに好ましくは0.05〜5MPaの範囲にある。
【0017】
工程(1)のオレフィン酸化反応は、0〜200℃、好ましくは10〜150℃、さらに好ましくは30〜100℃の温度範囲で行われる。反応は、0.01〜10MPa(絶対圧)、好ましくは0.05〜7MPa(絶対圧)、さらに好ましくは0.1〜5MPa(絶対圧)の圧力範囲内で行われる。当該オレフィン酸化反応は、回分式、半回分式、連続法、又はそれらの組み合わせにおいて行うことができる。
【0018】
工程(1)に用いられるオレフィン化合物としては、環状オレフィンが好適に用いられ、特に好ましくはシクロヘキセンが用いられる。
【0019】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)のオレフィン酸化反応によりケトン化合物を製造した反応混合物から蒸留により、オレフィン化合物の未反応物(以下、場合により「未反応オレフィン」という。)を含む第1の画分と、ケトン化合物、水溶性触媒及び水を含む第2の画分と、を分離する工程である。この蒸留においては、工程(1)で低沸点有機溶媒を水と併用した場合は、反応混合物の蒸留により、未反応オレフィンと低沸点有機溶媒とを含む第1の画分が気化成分として除去される。この第1の画分には工程(1)に用いた水の一部が含まれることもある。第1の画分を除去した後の、第2の画分には、ケトン化合物、水溶性触媒及び水が含まれる。第2の画分中に残存する未反応オレフィン及び低沸点有機溶媒の、第2の画分総重量に対する濃度は、ともに5重量%以下とすることが好ましく、ともに1重量%以下とすることがより好ましい。蒸留における温度及び圧力などの条件は、上述の第2の画分中の未反応オレフィン及び低沸有機溶媒の濃度を勘案して、適宜調節される。
かくして分離された第2の画分は、後述する工程(3)に供される。なお、未反応オレフィンを含む第1の画分は焼却などの廃棄処理を行ってもよいし、次回のケトン化合物の製造において、工程(1)の原料であるオレフィン化合物に再利用することもできる。オレフィン化合物を再利用する場合は、必要に応じて第1の画分を精製してもよい。
【0020】
<工程(3)>
工程(3)では、まず、工程(2)で得られた第2の画分に抽剤を加え、ケトン化合物を含む有機相と、水溶性触媒を含む水相と、からなる混合物を得る。ここでいう抽剤には、該第2の画分にあるケトン化合物が溶解可能であり、かつ水と相分離し得る有機溶媒が使用される。このような抽剤としては、例えば炭素数5以上の置換又は無置換飽和炭化水素や芳香族炭化水素などが挙げられ、具体的にはn−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン及びトルエンなどを例示することができる。また、抽剤としては単一の有機溶媒を使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0021】
抽剤の使用量は、第2の画分に含まれる水溶性触媒の種類や濃度、あるいは当該抽剤の種類を考慮して調節される。また、抽剤の使用量は、有機相と水相とが、十分相分離を形成するとともに、該有機相と該水相とを分液操作により分離できる程度の量にすることが好ましい。
抽剤と第2の画分とを混合する際の温度は、第2の画分に含まれる水及び抽剤が、著しく蒸散しないように設定することが望ましく、具体的には20〜100℃程度が好ましい。この温度は例えば、第2の画分を、適当な保温装置を備えた容器に入れておき、当該保温装置により第2の画分を所定温度にした後、抽剤を加えるといった形態でもよく、その逆に、抽剤を容器に入れておき、この抽剤を所定温度にした後、第2の画分を加えるといった形態でもよく、第2の画分と抽剤とを混合した後、得られた混合液を所定温度に保温するといった形態でもよい。また、加える抽剤の一部を、予め第2の画分と混合しておき、得られた混合液を所定温度にした後、残りの抽剤を加えるといった形態でもよい。
【0022】
抽剤と第2の画分とを混合した後、得られた混合物は攪拌などにより、さらに十分混合した後、この攪拌などの混合手段を停止し、所定時間、静置することにより、有機相と、水相と、に相分離させる。相分離の状態は、目視又は適当な界面検出手段により判定することができる。静置する際の温度は、有機相と水相とに相分離するまでの時間などを勘案して、適宜調整することができる。
【0023】
また、有機相と水相とを相分離するまでの一連の操作は、加圧状態や減圧状態でも実施でき、圧力には特に影響されないが、簡便な装置で実施できる点で、常圧、たとえば大気圧下で実施することが好ましい。また、かかる一連の操作に係る雰囲気も特に限定されない。よって、不活性気体などの雰囲気下で実施することもできる。
【0024】
かくして得られる有機相と水相とは、公知の分液手段により分離することができる。また、有機相と分離した後の水相に、さらに抽剤を加え、混合・静置・分液といった一連の操作により、2回目の有機相を得ることもできる。また、このような一連の操作を複数回行うことにより、複数の有機相を得、この複数の有機相を混合することもできる。一方、水相と分離した後の有機相に水を加え、混合・静置・分液といった一連の操作により、有機相をさらに水洗することもできる。このように、複数の有機相を得て、これらを混合したり、有機相を水洗したり、することで、ケトン化合物や水溶性触媒の回収率を上げることもできる。
【0025】
上述のとおり、工程(3)を経て得られる有機相には、工程(1)の生成物であるケトン化合物及び抽剤が含まれている。適切な分離手段を講じることにより、目的とするケトン化合物と、抽剤と、に分離することができる。かかる分離手段としては例えば、蒸留などを挙げることができる。分離された抽剤は廃棄することもできるし、次回のケトン化合物の製造方法における工程(3)に再利用することもできる。
一方、水相に含まれる水溶性触媒は、適切な分離(脱水)手段により、水を除去することにより回収することができる。かくして回収された水溶性触媒は、そのまま、あるいはさらに精製することにより、次回のケトンの製造方法の工程(1)に再利用することができる。また、かかる工程(1)は、水溶性触媒とともに水を用いているため、前記工程(3)で得られた水溶性触媒と水とを含む水相をそのまま、再利用できるという利点がある。また、工程(3)で得られた水相を、次回のケトンの製造方法の工程(1)に再利用する場合に、水相から水の一部を除去して、より水溶性触媒の濃度が高いものにしてから、これを再利用することもできる。もちろん、工程(3)で得られた水相を、次回のケトンの製造方法の工程(1)に再利用する際、必要に応じて当該水相に含まれる水溶性触媒を精製することもできる。
【0026】
本発明によれば、工程(1)に用いた水溶性触媒を、簡便な設備で、かつ経済的に有利に回収することができる。また、回収された水溶性触媒を、次回のケトン化合物の製造に用いることにより、ケトン化合物製造量に対する水溶性触媒のコストをより一層低減するもでき、水溶性触媒を水相として用いることにより、工程(1)に用いる水の量も削減できる。また、工程(2)に用いた抽剤も再利用することができるという利点もあるため、本発明は、ケトン化合物の商業的生産として極めて有用である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
<工程(1)>
シクロヘキセン1.64g(20mmol)、アセトニトリル/水(3.0ml/2.0ml)、酢酸パラジウム4mg(0.02mmol)、HPVMo40(日本無機化学工業製)120mg(0.06mmol)、硫酸鉄 FeSO・7HO(関東化学より購入)34mg(0.12mmmol)の混合物を120mlオートクレーブに入れ、空気が2MPa、窒素が3MPaになるように封入した。内容物を、撹拌子で撹拌しながら323Kで2時間反応させた。得られた反応混合物を、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、シクロヘキセン転化率23%、シクロヘキサノン選択率93%であった。
【0029】
<工程(2)>
前記工程(1)で得られた反応混合物を減圧蒸留(圧力20torr)し、未反応シクロヘキセン及びアセトニトリルを含む第1の画分を留出除去した。得られた残留液(第2の画分)2.0 g中のシクロヘキセン濃度は1重量ppm以下、アセトニトリル濃度は4100重量ppmであり、目的物であるシクロヘキサノンの濃度は1.3重量%であった。
【0030】
<工程(3)>
前記工程(2)で得られた残留液(第2の画分)に、トルエン2.0gを加えて攪拌し、静置したところ、有機相1.9gと、水相2.0gが得られた。両者を分液手段により分離した。水相中のアセトニトリル濃度は1400重量ppmであり、シクロヘキサノン濃度は4000重量ppmであった。また、有機相中のパラジウム濃度は1.5重量ppmであった〔工程(1)で用いたパラジウムの0.1モル%に相当)。なお、P、V、Mo及びFeは、いずれも有機相中では検出されなかった(1重量ppm以下)。
【0031】
<工程(3)で得られた水相の再利用>
前記工程(3)で得られた水相(触媒含有水相)と、アセトニトリル2ml及びシクロヘキセン1.64g(20mmol)と、を120mlオートクレーブに入れ、さらに空気が2MPa、窒素が3MPaになるように封入した。内容物を撹拌子で撹拌しながら、323Kで2時間反応させた。得られた反応混合物を、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、シクロヘキセン転化率24%、シクロヘキサノン選択率93%であり、前記工程(1)のシクロヘキセン酸化反応と同等の反応成績が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のケトン化合物の製造方法によれば、ケトン化合物製造に用いた水溶性触媒を、簡便な設備で、かつ経済的に有利に回収することができる。そのため、本発明は、ケトン化合物の商業生産に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各工程
工程(1):水溶性触媒及び水の存在下、オレフィン化合物を酸化せしめてケトン化合物を製造する工程;
工程(2):前記工程(1)の反応混合物を蒸留することにより、
前記オレフィン化合物の未反応物を含む第1の画分と、
前記ケトン化合物、前記水溶性触媒及び水を含む第2の画分と、を分離する工程;
工程(3):工程(2)で得られた第2の画分に抽剤を加え、前記ケトン化合物を含む有機相及び前記水溶性触媒を含む水相からなる混合物を得、前記有機相と前記水相とを分離する工程;
を含むケトン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、前記水溶性触媒及び水に加え、沸点100℃以下の有機溶媒の存在下に、オレフィン化合物を酸化せしめてケトン化合物を製造する工程である請求項1記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記沸点100℃以下の有機溶媒が、ニトリル化合物である請求項2記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性触媒がパラジウム及びポリオキソアニオンを含む請求項1〜3のいずれか記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記オレフィン化合物がシクロヘキセンである請求項1〜4のいずれか記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記抽剤が芳香族炭化水素である請求項1〜5のいずれか記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)で得られた前記水相に含まれる水溶性触媒を、次回のケトン化合物の製造方法における工程(1)の水溶性触媒として再使用する請求項1〜6のいずれか記載のケトン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)で得られた前記第1の画分に含まれるオレフィン化合物を、次回のケトン化合物の製造方法における工程(1)のオレフィン化合物として再使用する請求項1〜6のいずれか記載のケトン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−116698(P2011−116698A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275278(P2009−275278)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】