説明

ケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法

【課題】ケフィア・グレインを主な原料とする栄養学的に優れた食品の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、該混合物を発酵が始まるまで放置する工程と、(B)工程(A)で得た混合物と水を混合して水分含有混合物を得た後、該水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置し、ケフィア・グレインの発酵生成物を得る工程を含む、ケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。工程(A)において、大豆粉末の量は、ケフィア・グレイン100質量部当たり10〜40質量部である。工程(B)において、水の量は、混合物100質量部当たり5〜40質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康や美容に対する関心の高まりから、様々な健康食品等が開発、市販されている。中でも、ケフィアは、コーカサス地方などで古くから高い健康効果を有する食品として常用されてきたが、近年になってその効果が再認識され、日本国内でも高い注目を集めている。
ここで、ケフィアとは、種菌であるケフィア・グレイン(ケフィア粒)を用いて、牛乳、ヤギ乳、羊乳などの獣乳や豆乳などを発酵させてなる発酵乳である。
ケフィア・グレインは、ケフィランという多糖類の粘性物質に、乳酸菌や酵母が共生してできた菌塊であり、乳酸菌と酵母による複合的な発酵を行うことができるため、乳酸菌のみによる発酵に比べて、特有の発酵作用を有するものである。なお、菌塊であるケフィア・グレインを構成する菌は、ケフィア菌と称される。日本国内では、ケフィア・グレインの形がきのこに似ていることから、「ヨーグルトきのこ」と呼ばれてケフィアが普及したこともある。
ケフィアは、ケフィア・グレインを獣乳等に加えて、常温(例えば、20〜26℃)で12〜24時間放置した後、ケフィア・グレインを分離除去することによって得ることができる。ケフィア・グレインは、ケフィアから分離した後、種菌として繰り返し用いることができる。
ケフィアは、整腸作用、免疫増強作用、抗ガン作用、抗ストレス作用、抗血栓作用等を有することが知られており、健康食品、化粧品、医薬品等として様々な形態(例えば、液状、粉末状、カプセル状等)で市販されている。
【0003】
従来より、ケフィア・グレインを用いて食品等を製造する種々の方法が、提案されている。
一例として、1)豆乳に特定の助剤を添加し、撹拌する工程と、2)ケフィアグレイン、またはケフィアグレインを発酵して得られる液体もしくは粉体、またはケフィア構成微生物よりなるものを、上記撹拌した混合物に添加し、よく撹拌する工程と、3)上記で得られた混合物を静置発酵する工程とを含む、豆乳発酵産物の製造方法が提案されている(特許文献1)。
この製造方法によれば、牛乳を使用せずに豆乳を原料として、ケフィアグレインを用いて実用的な豆乳発酵食品を製造することができる。
他の例として、ケフィア・グレインから得られた乳発酵産物(具体的には、ケフィア及び/又はケフィアホエー)、及び、製薬的又は化粧学的に許容される担体を含有してなる皮膚外用剤組成物が提案されている(特許文献2)。
この皮膚外用剤組成物は、化粧料組成物、頭皮頭髪用組成物、皮膚洗浄剤組成物、皮膚疾患治療用組成物等として有用である。
【特許文献1】特開2005−312424号公報
【特許文献2】WO2003/072119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、従来より、ケフィア・グレインを種菌として用いて、食品等を製造することが、行われている。
しかし、ケフィア・グレイン自体を食することは、その効果が不明であり、また、食感などが劣ることから、通常、行われていない。
そこで、本発明は、ケフィア・グレインを主な原料とする栄養学的に優れた食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、この混合物を発酵が始まるまで放置し、次いで、発酵が始まった混合物と水を混合して水分含有混合物を得て、この水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置すれば、栄養学的に優れた食品として利用しうるケフィア・グレインの発酵生成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] (A)ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、該混合物を発酵が始まるまで放置する工程と、(B)工程(A)で得た混合物と水を混合して水分含有混合物を得た後、該水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置し、ケフィア・グレインの発酵生成物を得る工程とを含むことを特徴とするケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
[2] 工程(A)において、上記大豆粉末の量が、上記ケフィア・グレイン100質量部当たり10〜40質量部である上記[1]に記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
[3] 工程(B)において、上記水の量が、上記混合物100質量部当たり5〜40質量部である上記[1]又は[2]に記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
[4] 工程(A)の所要時間が20〜100時間であり、工程(B)の所要時間が120〜300時間であり、工程(A)における上記混合物の発酵が始まる時点から工程(B)における上記混合物と水を混合する時点までの時間が、15時間以内であり、工程(A)および工程(B)の温度が、0〜40℃である上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によると、ケフィア・グレインを主な原料とする栄養学的に優れた発酵生成物を得ることができる。
得られる発酵生成物は、ペースト状であるため、食感が良好であり、また、栄養学的に優れた成分組成を有するため、健康増進、美容等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法は、(A)ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、該混合物を発酵が始まるまで放置する工程と、(B)工程(A)で得た混合物と水を混合して水分含有混合物を得た後、該水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置し、ケフィア・グレインの発酵生成物を得る工程とを含むものである。
以下、各工程について詳しく説明する。
[工程(A)]
工程(A)は、ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、該混合物を発酵が始まるまで放置する工程である。
本発明で用いられるケフィア・グレインとしては、例えば、3種以上の乳酸菌と1種以上の酵母を含むものが挙げられる。ケフィア・グレインの好ましい一例として、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィリ(Lactobacillus kefiri)、及びロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)の3種の乳酸菌と、クルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)及びサッカロミセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)のうち、少なくとも1種の酵母を含むものが挙げられる。
ケフィア・グレインの形態としては、湿潤状態(生の状態)と冷凍乾燥状態(フリーズドライの状態)のいずれも使用することができる。このうち、冷凍乾燥状態のものを用いる場合には、水を加えて湿潤状態に戻した後に、大豆粉末と混合することが好ましい。
【0009】
本発明で用いられる大豆粉末としては、例えば、冷凍乾燥粉末、乾燥粉末などを用いることができる。なお、冷凍乾燥粉末は、例えば、大豆をフリーズドライ製法で処理した後、粉砕機を用いて粉末化することによって得ることができる。乾燥粉末は、例えば、大豆を天日等で乾燥させた後、粉砕機を用いて粉末化することによって得ることができる。
大豆を粉末化する処理工程においては、温度を60℃以下に保つことが好ましい。温度が60℃を超えると、大豆粉末中の酵素(イソフラボン等)の働きが弱くなり、本発明が目的とする発酵生成物の品質が低下する可能性がある。本発明において、ケフィア・グレインは、大豆粉末中の酵素(イソフラボン等)の作用によって発酵し、食品として適する成分組成および性状を有するようになると考えられる。
大豆粉末の代わりに、トウモロコシ、芋、麦等の他の作物を原料とした粉末を用いたのでは、本発明が目的とする発酵生成物を得ることはできない。
【0010】
大豆粉末の量は、ケフィア・グレイン100質量部当たり、好ましくは10〜40質量部、より好ましくは15〜35質量部、さらに好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは20〜25質量部である。該量が10質量部未満では、発酵の進行が遅くなって、発酵生成物の製造効率が低下したり、あるいは、発酵生成物の発酵の程度が不十分になるなどの問題が生じうる。該量が40質量部を超えると、発酵の進行が速くなり、好適な成分組成および性状を有する発酵生成物を得るまでに、食品として不適当な異臭が発生することがある。
なお、ここでのケフィア・グレインと大豆粉末との質量割合は、ケフィア・グレインについては湿潤状態(大豆粉末との混合時の状態)を基準とし、大豆粉末については乾燥状態を基準とした質量に基づくものである。
ケフィア・グレインと大豆粉末との混合物について発酵が始まったか否かの判断は、例えば、混合物の温度の上昇や、混合物中のケフィア・グレインの溶解の開始や、発酵臭の発生などの確認によって行われる。中でも、混合物の温度の上昇による発酵開始の判断は、容易かつ正確に判断しうるので好ましい。
ケフィア・グレインと大豆粉末を混合した時点から、発酵が始まる時点までの時間(工程(A)の所要時間)は、温度によっても異なるが、好ましくは20〜100時間、より好ましくは25〜70時間、特に好ましくは30〜50時間である。
工程(A)の温度(具体的には、工程(A)を実施するための作業空間内の雰囲気の温度)は、高い製造効率および良好な発酵状態を得る観点から、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜33℃、さらに好ましくは15〜30℃、特に好ましくは20〜26℃に保持される。
【0011】
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で得た混合物と水を混合して水分含有混合物を得た後、該水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置し、ケフィア・グレインの発酵生成物を得る工程である。
工程(A)の終了時点(混合物の発酵が始まった時点)から工程(B)の開始時点(混合物と水を混合する時点)までの時間は、好ましくは15時間以内、より好ましくは12時間以内、特に好ましくは8時間以内である。該時間が15時間を超えると、水が存在しないために発酵の進行が速くなり、好適な成分組成および性状を有する発酵生成物を得るまでに、食品として不適当な異臭が発生することがある。
なお、この間の温度は、上述の工程(A)と同じ温度範囲内に保持することが好ましい。
水の量は、工程(A)で得た混合物100質量部当たり、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは8〜30質量部、特に好ましくは10〜20質量部である。該量が5質量部未満では、水の量が少な過ぎるために発酵の進行が速くなり、好適な成分組成および性状を有する発酵生成物を得るまでに、食品として不適当な異臭が発生することがある。該量が40質量部を超えると、水の量が多過ぎるために良好な発酵状態を得るのが困難になり、発酵生成物の品質(成分組成、性状)が低下する。
【0012】
工程(B)の温度(具体的には、工程(B)を実施するための作業空間内の雰囲気の温度)は、高い製造効率および良好な発酵状態を得る観点から、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜33℃、さらに好ましくは15〜30℃、特に好ましくは20〜26℃に保持される。
なお、工程(B)で用いる水の温度は、水分含有混合物の温度を前記の工程(B)の好ましい温度の数値範囲内に保持しうるものであればよく、好ましくは0〜40℃、より好ましくは5〜35℃、特に好ましくは10〜30℃である。
工程(A)で得た混合物と水を混合する時点から、本発明が目的とするケフィア・グレインの発酵生成物を得る時点までの時間(工程(B)の所要時間)は、温度によっても異なるが、好ましくは120〜300時間、より好ましくは140〜260時間、特に好ましくは160〜220時間である。該時間が120時間未満では、発酵が十分に進んでおらず、発酵生成物の品質が劣ることがある。該時間が300時間を超えると、製造効率が低下する。
【0013】
工程(B)においては、発酵状態を良好に保つために、工程(A)で得た混合物と水を混合してなる水分含有混合物を、適宜撹拌することが必要である。
撹拌の間隔は、好ましくは1〜60時間、好ましくは5〜50時間、より好ましくは10〜40時間、特に好ましくは20〜30時間である。該間隔が1時間未満では、撹拌作業に手間がかかり過ぎる一方で、撹拌による効果も頭打ちとなる。該間隔が60時間を超えると、良好な発酵状態を保持するのが困難になり、発酵生成物の品質が低下することがある。
なお、発酵の過程で生じる現象は、発酵生成物に含まれるミネラル類が、有機酸によってイオン化されて、他の成分(脂質、糖質、アミノ酸、ビタミン等)と電解結合するものであると考えられる。
工程(B)の終了時点は、例えば、水分含有混合物の性状が均一なペースト状になったか否かによって、目視で判断することができる。
【0014】
工程(B)で得られた発酵生成物は、ケフィア・グレインに由来する成分と、大豆に由来する成分を主成分とするものであり、栄養学的な観点からも、単に物理的に粉砕して得られたものに比べて、より好ましい成分組成を有する。
得られた発酵生成物は、そのまま食することもできるし、酸味を和らげるためヨーグルト等と混合して食することもできる。また、得られた発酵生成物を凍結乾燥して粉末にしたり、カプセル状あるいは錠剤にすれば、長期保存も可能である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
湿潤状態の生のケフィア・グレイン100質量部に対し、大豆の冷凍乾燥粉末20質量部を添加して混合し、ケフィア・グレインと大豆粉末の混合物を得た。得られた混合物を32時間放置したところ、混合物が発酵し始めたので、直ちに(発酵開始の確認後、1時間以内に)、混合物100質量部当たり15質量部の量の水(水温:20℃)を添加して混合した。なお、混合物が発酵し始めた時点は、混合物から採取した少量の試料を顕微鏡で観察し、ケフィア・グレインが溶解し始めたことを確認することによって、判断した。また、この発酵開始時点において、混合物の温度の上昇が確認された。
水を添加した後、24時間毎に撹拌しつつ、7日間(168時間)放置したところ、ペースト状の発酵生成物が得られた。
なお、実験期間に亘って、室温は20〜26℃の範囲内に保持した。
得られた発酵生成物の成分分析試験の結果を、表1に示す。なお、成分分析試験の結果は、財団法人日本食品分析センターに依頼して得たものである。
【0016】
[比較例1]
湿潤状態の生のケフィア・グレインの成分分析試験の結果を、表1に示す。なお、成分分析試験の結果は、財団法人日本食品分析センターに依頼して得たものである。
【0017】
【表1】

【0018】
[実施例2〜16]
実施例1で得られたペースト状の発酵生成物を、様々な年齢の男女15人に服用させた(服用量:5ミリリットルを1日2回)。被験者に、服用前、服用後における健康状態(抜け毛、肌の状態など)を自己評価してもらった。結果を表2および表3に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
[比較例2]
大豆の冷凍乾燥粉末に代えてトウモロコシ粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして生成物を得た。この生成物を実施例2〜16と同様にして服用する実験を行ったが、実施例2〜16と同様な効果は得られなかった。
[比較例3]
大豆の冷凍乾燥粉末に代えて芋の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして生成物を得た。この生成物を実施例2〜16と同様にして服用する実験を行ったが、実施例2〜16と同様な効果は得られなかった。
[比較例4]
大豆の冷凍乾燥粉末に代えて小麦粉を用いたこと以外は実施例1と同様にして生成物を得た。この生成物を実施例2〜16と同様にして服用する実験を行ったが、実施例2〜16と同様な効果は得られなかった。
【0022】
表1から、本発明によると、無処理のケフィア・グレイン(比較例1)に比して、人体に有用な成分を多く含む発酵生成物が得られることがわかる(実施例1)。
また、表2から、大豆粉末を用いて得た本発明の発酵生成物を摂取することによって、抜け毛、薄毛、疲労感、シミ、しわ、肌のはりなどに改善が見られることがわかった(実施例2〜16)。
一方、大豆以外の作物の粉末を用いて得た生成物を摂取しても、効果が得られないことがわかった(比較例2〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケフィア・グレインと大豆粉末を混合して混合物を得た後、該混合物を発酵が始まるまで放置する工程と、
(B)工程(A)で得た混合物と水を混合して水分含有混合物を得た後、該水分含有混合物を適宜撹拌しながらペースト状になるまで放置し、ケフィア・グレインの発酵生成物を得る工程と
を含むことを特徴とするケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
【請求項2】
工程(A)において、上記大豆粉末の量が、上記ケフィア・グレイン100質量部当たり10〜40質量部である請求項1に記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
【請求項3】
工程(B)において、上記水の量が、上記混合物100質量部当たり5〜40質量部である請求項1又は2に記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。
【請求項4】
工程(A)の所要時間が20〜100時間であり、工程(B)の所要時間が120〜300時間であり、工程(A)における上記混合物の発酵が始まる時点から工程(B)における上記混合物と水を混合する時点までの時間が、15時間以内であり、工程(A)および工程(B)の温度が、0〜40℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載のケフィア・グレインの発酵生成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−46046(P2010−46046A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215857(P2008−215857)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(508257599)
【Fターム(参考)】