説明

ケミカルフィルタおよびこれを備える空調システム

【課題】省スペース化が図れ、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去することができ、エネルギー効率に優れ、しかも長寿命化を実現可能な、腐食性ガス除去システムを提供することにある。
【解決手段】第1のフィルタと、上記第1のフィルタに対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルフィルタに関する。より詳しくは、本発明のケミカルフィルタは、クリーンルームに送給して循環させる空気中に含まれる腐食性ガスを効率的に除去するためのケミカルフィルタに関する。本発明は、このようなケミカルフィルタを備える空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、クリーンルームにおいては、作業を好適に行うために、温度、湿度、気流、および空気清浄度などの室内環境を空調システムによって制御している。
【0003】
特に、半導体およびディスク媒体などの製造に使用されるクリーンルームでは、ディスク媒体などの製品品質を向上させるために、当該ルーム内で循環している空気中に含まれる腐食性ガスをケミカルフィルタによって除去している。また、このようなクリーンルームを使用する場合には、クリーンルームに送給される前の外気に対しても、ケミカルフィルタを用いて、腐食性ガスの除去を行うことがある。
【0004】
上記のようなケミカルフィルタとしては、従来、イオン交換式のフィルタ、イオン交換吸着剤担持方式のフィルタ、および活性炭の空孔による吸着方式のフィルタが知られている。これらのケミカルフィルタは、腐食性ガス除去率が90〜99%と高いものの、アニオンを含む空気に対して適用すると、そのアニオン濃度に反比例して、その寿命が低下する。
【0005】
これに対し、新たに開発された化学吸着型の酸化還元反応方式のケミカルフィルタ、および化学吸着型の中和反応方式のケミカルフィルタは、より長寿命ではあるが、腐食性ガス除去率が70〜90%と低い。
【0006】
従って、腐食性ガスに対して、90%程度の除去率と長寿命とを同時に発揮できるケミカルフィルタは存在しなかった。
【0007】
ところで、パーソナルコンピュータのハードディスク・ドライブ(HDD)には、記録部品としてのディスク媒体が挿入されて用いられる。このディスク媒体が、硫黄酸化物(SOX)などの腐食性ガスで汚染されている場合には、ハードディスクドライブの読み書き用のヘッド(R/Wヘッド)が汚染または腐食され、HDDの故障に至ることが知られている。
【0008】
このため、ディスク媒体の製造時には、クリーンルームに送給される前の外気からエアーウォッシャによりSOXなどの腐食性ガスを除去するとともに、クリーンルームで循環している空気中の腐食性ガスをケミカルフィルタによって除去している。
【0009】
ケミカルフィルタには、上記のとおり、イオン交換方式、イオン吸着剤担持方式、および活性炭の空孔による吸着方式、ならびに化学吸着型の酸化還元反応方式および中和反応方式がある。特に、腐食性ガスの除去効率が高く、寿命が長い方式は、イオン交換方式である。
【0010】
また、ディスク媒体の製造時には、ディスク媒体の表面に、フッ素系溶剤を用いて、フッ素系潤滑剤を塗布する。このため、上記溶剤および上記潤滑剤の分解により、アニオンであるフッ素イオンが多量に発生するおそれがある。このように、多量のアニオンが発生した場合には、従来のケミカルフィルタにおいて優れた寿命は実現されない。
【0011】
このような事情に鑑み、イオン交換方式、イオン吸着剤担持方式、または活性炭の空孔による吸着方式のケミカルフィルタの寿命を伸ばす技術の開発が行われており、以下の技術が開示されている。
【0012】
特許文献1には、陽電極と陰電極との間に1以上のイオン交換膜を配置したイオン移動装置に、電流を印加しながら無機塩水溶液を通過させることによってガス処理液を調製し、このガス処理液に被処理気体を接触させて気体中の有害ガス成分をガス処理液中に吸収させる、気体中の有害ガス成分の除去方法が開示されている。
【0013】
【特許文献1】特開2003−24735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記技術には、以下の問題が内在する。
【0015】
即ち、特許文献1に開示の技術においては、イオン移動装置の設置を要するため、腐食性ガスを除去するための装置全体に対して大きなスペースが必要となる。
【0016】
また、当該技術においては、腐食性ガスを除去するに際し、ガス処理液を予め調製させるために、イオン移動装置に無機塩水溶液を通過させなければならず、簡素な工程のみにより所定の目的を達成できない。
【0017】
さらに、当該技術においては、ガス処理液を発生させるために、イオン移動装置に電圧を印加し続けなければならず、優れたエネルギー効率を実現できない。
【0018】
加えて、近年においては、腐食性ガス除去システムの益々の長寿命化の要請がある。
【0019】
従って、本発明の目的は、省スペース化が図れ、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去することができ、エネルギー効率に優れ、しかも長寿命化を実現可能な、腐食性ガス除去システムを提供することにある。また、本発明の目的は、このようなシステムを備える空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、第1のフィルタと、上記第1のフィルタに対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタとを備えるケミカルフィルタに関する。本発明のケミカルフィルタは、クリーンルームに送給して循環させる空気に含まれる腐食性ガスを効率的に除去するために用いられる。本発明のケミカルフィルタは、上記第1のフィルタが、化学吸着型の酸化還元反応方式のフィルタ、または化学吸着型の中和反応方式のフィルタであることが望ましい。また、本発明のケミカルフィルタは、上記第2のフィルタが、イオン交換方式のフィルタ、またはイオン吸着剤担持方式のフィルタであることが望ましい。
【0021】
本発明は、上記ケミカルフィルタを備える空調システムを包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のケミカルフィルタは、省スペース化が図れ、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去することができ、エネルギー効率に優れ、しかも長寿命化を図ることができる。このため、本発明のケミカルフィルタを用いれば、腐食性ガスを高効率に除去でき、ひいては、クリーンルームに送給され、かつ循環された空気に含まれる腐食性ガスを効率的に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<本発明の思想に至る過程および本発明の原理>
本発明者は、省スペース化が図れ、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去することができ、エネルギー効率に優れ、しかも長寿命化を実現可能な、腐食性ガス除去システムについて、鋭意、検討した。その結果、当該システムを、第1のフィルタと、上記第1のフィルタに対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタとを備えるケミカルフィルタとすることで、上記目的が達成されるとの結論に達した。このような結論を導く過程で得た具体的な知見は、以下の通りである。
【0024】
まず、本発明者は、省スペース化を実現するため、腐食性ガス除去システム中に、特許文献1のイオン移動装置を使用しないことが好適であるとの知見を得た。また、本発明者は、当該イオン移動装置を使用しない場合には、ガス処理液を予め調製させる必要がないため、簡素な工程により腐食性ガスを除去することができ、しかも、電圧の継続的な印加が不要であるため、エネルギー効率に優れることも、併せて確認した。
【0025】
そこで、本発明者は、特許文献1のイオン移動装置を使用しないで気体中の腐食性ガスの除去を実現する腐食性ガスシステムとして、ケミカルフィルタのみを用いることとした。ここで、ケミカルフィルタとは、腐食性ガスを化学的な手段等(例えば吸着)によって除去するフィルタである。
【0026】
さらに、本発明者は、ケミカルフィルタの構造について、特に、長寿命化を図ることのできる構成について検討した。具体的には、腐食性ガスの除去率が異なる2種類のフィルタの併用態様を具体的に検討した。
【0027】
腐食性ガスの除去率が比較的低いフィルタ(以下、「低除去フィルタ」とも称する場合がある)には、酸化還元反応方式のフィルタ、または中和反応方式のフィルタがある。これに対し、腐食性ガスの除去率が比較的高いフィルタ(以下、「高除去フィルタ」とも称する場合がある)には、イオン交換方式のフィルタ、またはイオン吸着剤担持方式のフィルタがある。
【0028】
ここで、低除去フィルタは腐食性ガス成分を捕捉する能力が低く、当該フィルタに用いられる吸着剤の反応基の消費率が低いことから、単独で用いた場合には寿命が比較的長い。これに対して、高除去フィルタは腐食性ガス成分を捕捉する能力が高く、当該フィルタに用いられる吸着剤の反応基の消費率が高いことから、単独で用いた場合には寿命が比較的短い。
【0029】
そこで、本発明者は、上記2種類のフィルタのこのような特性を併用し、まず寿命が比較的長い低除去フィルタによって空気中の腐食性ガス濃度をある程度低減し、次いで腐食性ガス濃度低減後の空気を比較的寿命の短い高除去フィルタに通過させることを検討した。
【0030】
このような腐食性ガスの除去態様によれば、本来寿命が比較的長い低除去フィルタについては、空気中の腐食性ガス濃度が相当高くても、長寿命化が図れる。一方、本来寿命が比較的短い高除去フィルタについては、腐食性ガス濃度がある程度低減された空気を通過させるため、目詰まりを生じ難く、故に長寿命化を図ることができる。
【0031】
以上により、本発明者は、各々に長寿命化を実現した2種類のフィルタを組み合わせて構成されたケミカルフィルタにおいては、当該ケミカルフィルタ全体について効率的に長寿命化が図られることとなる、との結論に達した。
【0032】
以下に、上記原理に基づく本発明の実施形態を、図面を参照して詳述する。なお、以下に示す例は、本発明の単なる例示であり、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0033】
<ケミカルフィルタ>
図1は、本発明のケミカルフィルタ10a(タイプ1)、および本発明のケミカルフィルタ10b(タイプ2)をそれぞれ示す断面図である。ケミカルフィルタ10a,10bは、ともに、第1のフィルタ12と、第1のフィルタ12に対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタ14aまたは14bとを備える。図1(a)に示す例は、第2のフィルタ14aに、一対のイオン交換方式のフィルタ16a,18aを適用した例であり、図1(b)は、第2のフィルタ14bに、一対のイオン吸着剤担持方式のフィルタ16b,18bを適用した例である。
【0034】
[ケミカルフィルタ10a(タイプ1)]
(第1のフィルタ12)
第1のフィルタ12は、図1(a)に示す空気Aに含まれる腐食性ガスを捕捉することで、空気A中の腐食性ガスの濃度を低減させるための構成要素である。
【0035】
腐食性ガスには、ディスク媒体などの製品の品質を劣化させるおそれのあるあらゆるガスが含まれる。例えば、フッ素などのハロゲンを含むハロゲン系ガス、硫黄酸化物(SOx)および窒素酸化物(NOx)などの酸性ガス、ならびにアンモニアガスなどのアルカリ性ガスが挙げられる。また、空気Aは上記腐食性ガスを含む気体(特に、空気)である。
【0036】
第1のフィルタ12には、化学吸着型のフィルタを使用することが、腐食性ガス成分、特にフッ素系イオンの選択的な除去の観点から好ましい。例えば、酸化還元反応方式のフィルタ、または中和反応方式のフィルタを使用することができる。
【0037】
酸化還元反応方式のフィルタとは、当該フィルタを構成する担体に、酸化剤または還元剤を担持したフィルタである。ここで、担持とは、含浸、固着、および添着等のあらゆる態様を包含する概念である。
【0038】
担体としては、活性炭などの多孔質部材、および高分子繊維などの繊維物質を使用することができ、具体的には、オレフィン系樹脂を用いることができる。
【0039】
酸化剤としては、塩素酸塩などを用いることができ、還元剤としては、チオ硫酸塩などを用いることができる。
【0040】
中和反応方式のフィルタとは、当該フィルタを構成する担体に、酸性物質またはアルカリ性物質を担持したフィルタである。ここで、「担持」、および「担体の材料」については、酸化還元反応方式のフィルタの欄で記載した用語と同じ意味である。
【0041】
酸性物質としては、リン酸などを用いることができ、アルカリ性物質としては、酸化カルシウムなどを用いることができる。
【0042】
第1のフィルタ12の厚みは、上述した酸化還元反応方式のフィルタおよび中和反応方式のフィルタのいずれにおいても、1〜15cmとすることが好ましい。1cm以上とすることで、長寿命化を実現することができる一方、15cm以下とすることで、低廉化を達成することができる。
【0043】
このように、第1のフィルタ12としては、化学吸着型の酸化還元反応方式または中和反応方式のフィルタを用いることができる。以下に、その一例である、化学吸着型の中和反応方式のフィルタによる作用について述べる。
【0044】
なお、以下では、第1のフィルタ12を構成する担体に担持する物質として、アルカリ性物質の酸化カルシウムを用いることにより、ディスク媒体製造時に使用されるフッ化水素ガス(腐食性ガス)を吸着する例を示す。
【0045】
図1aに示すフッ化水素ガスを含む空気Aが第1のフィルタ12を通過する際には、担体に担持された酸化カルシウムにフッ化水素ガスが衝突する。これにより、式(1)に示す中和反応が起こり、フッ化カルシウムと水が生成する。
CaO+2HF→CaF2+H2O (1)
【0046】
この中和反応により、第1のフィルタ12内に、空気A中のフッ素系イオン(少なくともフッ素イオンを含むイオン群)が捕捉され、その結果、フッ化水素ガス(腐食性ガス)が吸着されたこととなる。
【0047】
(第2のフィルタ14a)
第2のフィルタ14aは、図1(a)に示す第1のフィルタ12によって腐食性ガスの濃度が低減された空気に依然として含まれる腐食性ガスを捕捉することで、空気A中の腐食性ガスの濃度をさらに低減させるための構成要素である。
【0048】
第2のフィルタ14aには、第1のフィルタ12に対して腐食性ガスの除去率が高いフィルタを用いる。この両フィルタ12,14aの除去率についての関係は、上述したとおり、両フィルタ12,14aの組み合わせにおいて、各構成要素12,14aが備えるべき特性の観点から求められる。
【0049】
例えば、第1のフィルタ12の腐食性ガスの除去率が70〜90%である場合には、第2のフィルタ14aの腐食性ガスの除去率は、90%以上とすることができる。
【0050】
図1(a)に示す例は、第2のフィルタ14aとして、一対のイオン交換方式のフィルタ16a,18aを適用した例である。
【0051】
このような一対のイオン交換方式のフィルタとしては、アニオン除去フィルタ16aとカチオン除去フィルタ18aとを組み合わせを採用することができる。
【0052】
アニオン除去フィルタ16a、カチオン除去フィルタ18aとは、それぞれ、当該フィルタを構成する担体に、イオン交換体を担持したフィルタである。
【0053】
担体としては、活性炭などの多孔質部材、および高分子繊維などの繊維物質を使用することができ、具体的には、オレフィン系樹脂などを用いることができる。
【0054】
アニオン除去フィルタ16aの場合には、イオン交換体の交換基として、四級アンモニウム基、三級アミノ基などの交換基が使用することができる一方、カチオン除去フィルタ18aの場合には、イオン交換体の交換基として、スルホン酸基、カルボキシル基などの交換基を使用することができる。
【0055】
図1(a)に示す例では、第1のフィルタ12の側に、アニオン除去フィルタ16aを配置しているが、除去すべき腐食性ガスの種類に応じて、アニオン除去フィルタ16aとカチオン除去フィルタ18aとの配置順序を入れ替えてもよい。
【0056】
図1(a)に示す第2のフィルタ14aの厚みは、0.5〜50cmとすることが好ましい。0.5cm以上とすることで、長寿命化を実現できる一方、50cm以下とすることで、低廉化を達成することができる。
【0057】
(図1(a)における第1のフィルタ12と第2のフィルタ14aとの組み合わせ)
以上に示す第1のフィルタ12と第2のフィルタ14aとを組み合わせて形成した、図1(a)に示すケミカルフィルタ10aにおいては、図1(a)に示すように、気体Aが第1のフィルタ12を通過してある程度の腐食性ガス濃度を低減し、次いで第2のフィルタ14aを通過してさらに腐食性ガス濃度が低減された気体Bが得られる。
【0058】
このようなケミカルフィルタ10aは、特許文献1に開示されているようなイオン移動装置を備えるものではない。このため、ケミカルフィルタ10aは、省スペース化を実現でき、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去可能であって、しかもエネルギー効率に優れる腐食性ガス除去システムである。
【0059】
また、ケミカルフィルタ10aは、寿命が比較的長い低除去フィルタ12によって空気中の腐食性ガス濃度を低減し、次いで腐食性ガス濃度低減後の空気を比較的寿命の短い高除去フィルタ14aに通過させる腐食性ガス除去システムである。このため、ケミカルフィルタ10aによれば、フィルタ12の本来有する長寿命特性と、フィルタ12による腐食性ガスの事前の捕捉による、当該ガスの捕捉負担の軽減に起因したフィルタ14aの長寿命化とが相まって、ケミカルフィルタ10a全体として優れた寿命を実現することができる。なお、本発明者の見解では、ケミカルフィルタ10aは、従来の第2のフィルタ14aを単独に使用した場合に比して、約4倍の寿命を実現するものであると推定される。
【0060】
[ケミカルフィルタ10a(タイプ1)の製造方法]
以下に、図1に示すケミカルフィルタ10a(タイプ1)の製造方法、ここでは、特に、その設置方法について併記する。なお、ケミカルフィルタ10aの各構成要素12、14aに用いる具体的な材料等については、上述した通りであり、しかも、従来公知のいかなる材料等を使用することができるため、これらの事項についての記載は省略する。
【0061】
まず、ケミカルフィルタ10aを構成する各構成要素である第1のフィルタ12と、第2のフィルタ14a(16a,18a)とに用いる材料(担体等)を用意する。
【0062】
次いで、第1のフィルタ12については、担体に、酸化還元反応方式の場合は酸化剤等を、また、中和反応方式の場合は酸性物質等を、それぞれ担持させる。
【0063】
これに対し、第2のフィルタ14aについては、アニオン除去フィルタ16aとカチオン除去フィルタ18aのそれぞれについて、担体に、イオン交換体を担持する。
【0064】
さらに、このようにして準備した第1のフィルタ12と、第2のフィルタ14a(アニオン除去フィルタ16aおよびカチオン除去フィルタ18a)とを、以下のように設置する。
【0065】
例えば、まず、図1(a)に示す腐食性ガスを含む空気Aを最初に通過させる第1のフィルタ12を配置する。次いで、腐食性ガスの濃度が低減された空気をさらに通過させる第2のフィルタ14a(16a,18a)を配置する。このような配置態様においては、必ず、第1のフィルタ12を空気の流路において上流側とし、第2のフィルタ14aをその下流側とする。
【0066】
また、アニオン除去フィルタ16aとカチオン除去フィルタ18aとの配置関係については、図1(a)に示すように、第1のフィルタ12の側に、アニオン除去フィルタ16aを配置し、フィルタ16aのフィルタ12とは反対側にカチオン除去フィルタ18aを配置することができる。しかしながら、第1のフィルタ12を基準としたアニオン除去フィルタ16aおよびカチオン除去フィルタ18aの配置順序は、図1に示す例と逆にしてもよい。
【0067】
さらに、図1(a)に示す例では、ケミカルフィルタ10aの構成要素である第1のフィルタ12と第2のフィルタ14aとは接触配置しているが、これらのフィルタ12,14aを離間して配置してもよい。このように、離間配置を採用する場合には、第1のフィルタ12および第2のフィルタ14aを収容することのできるハウジング(図示しない)を用いて、当該ハウジング内の所定の位置に、これらのフィルタ12,14aを適宜配置する。
【0068】
[ケミカルフィルタ10b(タイプ2)]
図1(b)に示すケミカルフィルタ10bの基本的構成、および基本的製造方法は、上述したケミカルフィルタ10aの構成および製造方法と同様である。このため、以下では、同図に示すケミカルフィルタ10bについて、ケミカルフィルタ10aとの差異点のみについて説明する。
【0069】
(第2のフィルタ14b(16b,18b))
ケミカルフィルタ10bは、第2のフィルタ14bとして、一対のイオン吸着剤担持方式のフィルタ16b,18bを適用した例である。
【0070】
このような一対のイオン吸着剤担持方式のフィルタとしては、アニオン除去フィルタ16bとカチオン除去フィルタ18bとの組み合わせを採用することができる。
【0071】
アニオン除去フィルタ16b、カチオン除去フィルタ18bとは、それぞれ、当該フィルタを構成する担体に、イオン吸着剤を担持したフィルタである。
【0072】
担体としては、活性炭などの多孔質部材、および高分子繊維などの繊維物質を使用することができ、具体的には、オレフィン系樹脂などを用いることができる。
【0073】
図1(b)に示す例では、第1のフィルタ12の側に、アニオン除去フィルタ16bを配置しているが、除去すべき腐食性ガスの種類に応じて、アニオン除去フィルタ16bとカチオン除去フィルタ18bとの配置順序を入れ替えてもよい。
【0074】
図1(b)に示す第2のフィルタ14bの厚みは、0.5〜50cmとすることが好ましい。0.5cm以上とすることで、長寿命化を実現することができる一方、15cm以下とすることで、低廉化を達成することができる。
【0075】
(図1(b)における第1のフィルタ12と第2のフィルタ14bとの組み合わせ)
以上に示す第1のフィルタ12と第2のフィルタ14bとを組み合わせて形成した、図1(b)に示すケミカルフィルタ10bは、図1(a)に示すケミカルフィルタと同様に、省スペース化を実現でき、簡素な工程のみにより腐食性ガスを除去可能であって、しかもエネルギー効率に優れる腐食性ガス除去システムである。
【0076】
また、図1(b)に示すケミカルフィルタ10bによれば、図1(a)に示すケミカルフィルタと同様に、フィルタ12の本来有する長寿命特性と、フィルタ12による腐食性ガスの事前の捕捉による、当該ガスの捕捉負担の軽減に起因したフィルタ14bの長寿命化とが相まって、ケミカルフィルタ10b全体として優れた寿命を実現することができる。なお、本発明者の見解では、ケミカルフィルタ10bについても、従来の第2のフィルタ14bを単独に使用した場合に比して、約4倍の寿命を実現するものであると推定される。
【0077】
[ケミカルフィルタ10b(タイプ2)の製造方法]
ケミカルフィルタ10b(タイプ2)の製造方法についても、ケミカルフィルタ10a(タイプ1)の製造方法と概して同じである。ここでも、特に、ケミカルフィルタ10a(タイプ1)の製造方法との差異点(第2のフィルタ14bの具体的形成方法)のみについて説明する。
【0078】
第2のフィルタ14bについて、アニオン除去フィルタ16bとカチオン除去フィルタ18bのそれぞれについて、担体に、イオン吸着剤を担持する。
【0079】
[その他のケミカルフィルタ]
以上は、図1(a),(b)に示す各ケミカルフィルタ(タイプ1,2)に関する説明であるが、本発明のケミカルフィルタは、これらの2タイプに限られるものではなく、第1のフィルタと、第1のフィルタに対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタとを備えるものであれば足りる。例えば、第2のフィルタには、活性炭の空孔による吸着方式のフィルタ等を用いることができる。
【0080】
<空調システム>
図2は、上述した本発明のケミカルフィルタを用いた、本発明の空調システムを示す概略図である。同図に示す空調システム30は、外調機40、空調機50、およびクリーンルーム60を備える。また、これらの構成要素40,50,60は、図示しない配管を介して連結されている。
【0081】
(外調機40)
外調機40は、外気を取り込み、空気中の腐食性ガスを低減するための構成要素である。外調機40は、ハウジング42と、ハウジング42に収容されたエアーウォッシャ44と、アニオン除去フィルタ46、およびカチオン除去フィルタ48とを備える。
【0082】
(空調機50)
空調機50は、外調機40によってある程度浄化された空気中の腐食性ガスを低減するための構成要素である。空調機50は、ハウジング52と、ハウジング52に収容されたケミカルフィルタ54とを備える。ここで、ケミカルフィルタ54には、図1(a),(b)に示すケミカルフィルタ10a,10bを含む、本発明のいかなるケミカルフィルタを使用することもできる。図2の空調機50に含まれるケミカルフィルタ54は、図1(a)のケミカルフィルタ10aを用いた例である。
【0083】
ケミカルフィルタ54(10a)については、上述のとおり、図1の(a)に示す例である。
【0084】
(クリーンルーム60)
クリーンルーム60は、ディスク媒体等の製造工程のように、清浄空間での作業が必要な場合に設けられる作業領域であり、当該作業において発生した腐食性ガスを低減し、さらに空気を循環等させる領域である。
【0085】
クリーンルーム60は、ハウジング62と、ハウジング62内に収容させた浄化ユニット64、浄化ユニット64から図2の矢印の向き(気流の向き)に延在する隔壁66a,66b、および隔壁66a,66bの端部間に設けされた多数の開口を有するフリーアクセスフロア68とを備える。
【0086】
浄化ユニット64は、図2において一列に並んだ複数のファン64aと、ケミカルフィルタ64bとを備える。ここで、ケミカルフィルタ64bには、図1(a),(b)に示すケミカルフィルタ10a,10bを含む、本発明のいかなるケミカルフィルタを使用することもできる。図2のクリーンルーム60に含まれるケミカルフィルタ64bは、図1(b)のケミカルフィルタ10bと、この下流側に有機物除去ケミカルフィルタ20とを組み合わせた例である。
【0087】
このような構成のクリーンルーム60においては、浄化ユニット64の端縁、隔壁66a,66b、およびフリーアクセスフロア68によって画成された空間が、ディスク媒体等の製造工程に好適な清浄空間となる。
【0088】
図2に示す空調システム30においては、気体が、以下のように流通する。即ち、外気である気体Cが外調機40を通過し、腐食性ガスが低減された気体Dが得られる。次に、気体Dが空調機50を通過し、腐食性ガスが低減された気体Eが得られる。
【0089】
さらに、気体Eがクリーンルーム60に送給されると、一部はケミカルフィルタ64bを通過して、腐食性ガスが低減され、残りはそのままファン64aを通過して、全体として腐食性ガスが低減された気体Gが得られる。
【0090】
気体Gは、前述の清浄空間において作業により発生した腐食性ガスと混合されて気体Hとなり、フリーアクセスフロア68を通過する。次いで、気体Hは、その一部が気体Iとしてクリーンルーム60内を循環し、また他の一部が気体Jとしてクリーンルーム60から空調機50に送給され、残りは気体Kとして外部に放出される。
【0091】
以上に示す空調システム30によれば、外気を、外調機40および空調機50を介してクリーンルーム60に送給することで、空調機50およびクリーンルーム60に配設された本発明のケミカルフィルタによる腐食性ガスの高効率な低減を実現することができる。
【0092】
また、空調システム30においては、クリーンルーム60内の清浄空間を通過した気体の一部を空調機50に再度送給するとともに、他の一部をクリーンルーム60内で循環させている。このため、空調システム30は、清浄空間内で発生した腐食性ガスを含む気体を全て外部に放出することなく、環境への配慮にも優れたシステムである。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上に示す、本発明のケミカルフィルタによれば、腐食性ガスの除去効果の異なる2種類のフィルタを好適に組み合わせることで、省スペース化、簡素な工程のみによる腐食性ガスの除去、エネルギー効率化、および長寿命化を実現することができる。このため、本発明のケミカルフィルタを単独で、または空調システムに組み込んで用いた場合には、腐食性ガスを高効率に除去することができる。
【0094】
例えば、本発明のケミカルフィルタを組み込んだ空調システムにおいては、好適な清浄空間を得ることができるため、高品質のディスク媒体等を製造することができる。従って、本発明は、今後益々品質向上が求められるディスク媒体等の製造において、好適な清浄空間を提供することができる点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のケミカルフィルタ10a(タイプ1)、および本発明のケミカルフィルタ10b(タイプ2)をそれぞれ示す断面図である。
【図2】図1に示すケミカルフィルタ10a,10bを用いた、本発明の空調システムを示す概略図である。
【符号の説明】
【0096】
10a、10b ケミカルフィルタ
12 第1のフィルタ
14a,14b 第2のフィルタ
16a イオン交換方式のアニオン除去フィルタ
16b イオン吸着剤担持方式のアニオン除去フィルタ
18a イオン交換方式のカチオン除去フィルタ
18b イオン吸着剤担持方式のカチオン除去フィルタ
30 空調システム
40 外調機
50 空調機
60 クリーンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフィルタと、
前記第1のフィルタに対して腐食性ガスの除去率が高い、第2のフィルタと
を備えることを特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記第1のフィルタが、化学吸着型の酸化還元反応方式のフィルタ、または化学吸着型の中和反応方式のフィルタであることを特徴とする、請求項1に記載のケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記第2のフィルタが、イオン交換方式のフィルタ、またはイオン吸着剤担持方式のフィルタであることを特徴とする、請求項1または2に記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のケミカルフィルタを備えることを特徴とするクリーンルーム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のケミカルフィルタを備えることを特徴とする空調システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75791(P2010−75791A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244440(P2008−244440)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】