説明

ケモカインの使用並びにこれを含有する医薬製剤

本発明は、インビボ又はインビトロで間葉前駆及び/又は幹細胞をリクルートするための、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸の使用に関する。本発明は、更にこれらの物質を含み、好ましくは組織合成のために間葉前駆及び/又は幹細胞をリクルートすることを目的とする医薬製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボ(生体内)又はインビトロ(生体外)で間葉前駆及び/又は幹細胞をリクルート(動員・補充)するための、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸の使用に関する。本発明は、更にこれらの物質を含み、好ましくは組織合成のために間葉前駆及び/又は幹細胞をリクルートすることを目的とする医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、世界中で最も頻繁に起こる関節疾患である。この主なる変形性関節疾患の経過中に、関節表面で段階的な限局性破壊、即ち関節軟骨の退化が起きる。この結果が、疼痛、機能並びに運動の拘束である。変形性関節症の進行に影響を及ぼす幾つかの因子として、年齢、性別、体重、骨粗しょう症、過度の機械的な緊張、悪い姿勢、外傷が含まれる。
【0003】
創面切除(debridement) 、関節切除(joint shaving)、マイクロフラクチャー(microfracture)、ドリルによる穴あけ(drilling)等の従来からの整形外科術は十分に有効でないことが頻繁に起きた。最終的に残された処置術は、いずれも内部人工関節置換術を含む再生処置である。関節軟骨又は骨を処置する他の方法は組織工学、即ち人工組織増殖の技術を用いることである。このために、自己軟骨細胞又は間葉前駆又は幹細胞を患者から切除し、精巧な細胞培養法で繁殖させる。第2操作は、これらの細胞を骨膜弁で覆われた欠陥領域に注入する(ACT autologous chondrocyte transplantation 自己軟骨細胞移植)、又は軟骨成熟を促進する(軟骨形成)又は骨熟成を促進する(骨形成)3次元形態のバイオマテリアルに充填してから患部に導入する(特許文献1:米国特許第5,891,455号公報)参照)。
【0004】
これに対して、より最近の方法は、組織において欠陥部位を直接再生する、即ち、インサイチュ再生法に向けられている。このため、間葉細胞を欠陥部位に向けその場で欠陥組織の再生を促進するために、増殖並びに分化因子、接着分子、細胞外基質分子、走化因子等の生物学的活性因子を備えたバイオマテリアルが欠陥領域に導入される。
【0005】
これらの細胞の遊走或いは遊走を促進する間、ヒトの細胞をサポートする特性を有するタンパク質を、走化因子という。これらの因子は、例えば、組織から瀰漫した細胞外基質分子並びに分泌タンパク質である。走化因子は、増殖並びに分化因子(例えば、形質転換増殖因子(TGF)ファミリーから、骨形成タンパク質(BMP)ファミリー、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーから、結合組織増殖因子(CTGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)ファミリーから、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーから、又は上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリーから)、細胞外基質分子(例えば、オステオポンチン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、トロンボスポンジン、コラーゲン、ビトロネクチン)、及びケモカイン(CCL、CXCL、CXCL、XCLから)等の多くのタンパク質を含む。
【0006】
間葉細胞を遊走するだけではなく同時に組織特異の仕方で成熟させる走化因子としての細胞外基質分子(例えば、オステオポンチン並びに分泌増殖並びに分化因子(軟骨由来形態形成タンパク質)を使用することはドイツ特許公開第199 57 388号公報に記載されている。基質分子は組織内には瀰漫しないため、特定の状況においてデモタクティック(demotactic)因子として利用するためにのみ好適である。分泌タンパク質のあるものは基質タンパク質に接着し、これにより、これらの移動自由度が束縛されることになる。しかしながら、それらは、分化効果を有する。もし、分化があまりに早く起きると、組織は望ましい部位に形成されない。更に、リクルートと分化を切り離すことができない。また、走化因子の選択は分化プロセスをも決定する。
【0007】
これまでに使用されていた方法は、何よりも新たな組織(通常は、軟骨又は骨)を再生しなくてはならない部位で患者にインプラントされるべき自己組織形成細胞を単離する必要がある。しかしながら、自己細胞の分離は時間を要し、細胞材料を得るには、患者に関する限り、手術でない場合には、少なくとも一回の事前の生体検査が必要となる。
【特許文献1】米国特許第5,891,455号公報
【特許文献2】ドイツ特許公開第199 57 388号公報
【発明の開示】
【0008】
第1の態様において、本発明は、医薬製剤を製造するための、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸の使用に関する。医薬製剤は、組織合成のために、間葉の、好ましくは局所間葉の前駆細胞を、好ましくは骨髄からリクルートすることを意図したものである。
【0009】
第2の態様において、本発明は、インビトロにおいて、骨髄から間葉の、好ましくは局所間葉の、前駆細胞をリクルートするために、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸を使用することに関する。
【0010】
ケモカインは好ましくは、CCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16、CXCL13、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL12、CCL2、CCL8、CCL13、CCL25、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL14、CCL15、CCL16、CCL23、CXCL1、XCL1、XCL2、CCL1、CCL17、CCL22、CCL11、CCL24、CCL26、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL7より成る群、より好ましくはCCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16、CXCL13及びCXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL12、CCL2、CCL8、CCL13、CCL25より成る群、最も好ましくはCCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10及びCXCL11より成る群から選択される。
【0011】
1種のケモカイン又は複数種のケモカインを混合物して使用することができる。又、ケモカインレセプターに結合能を有するケモカインフラグメント又はケモカイン誘導体を使用することもできる。いずれの場合も、ケモカインは天然ケモカイン又は合成ケモカインのいずれであっても良い。
【0012】
ケモカインをエンコードする核酸は、RNA、DNA、cDNA又はssDNAの形態で存在可能であり、その由来は、天然又は合成いずれであっても良い。
【0013】
医薬製剤は、好ましくは注入に好適な形態で存在する。製剤には以下を添加することができる。
−1又はそれ以上の適切な助剤、
−1又はそれ以上の生物学的分解性ポリマー、
−分化及び増殖因子及びこれらの混合物から選択された少なくとも1種の活性化合物、好ましくは軟骨形成又は骨形成を誘発する分化及び増殖因子、及び
−上記の2以上の混合物。
【0014】
第3の態様において、本発明は、上記に記載したケモカインを含有する医薬製剤に関する。
【0015】
第4の態様において、本発明は、上記に記載した核酸を含有する医薬製剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、ケモカインファミリーのタンパク質を、例えば骨髄からの間葉前駆細胞、特には間葉幹細胞をリクルートするために使用することができ、リクルートをインビボ、インビトロのいずれでも起こすことができる。リクルートは、組織欠陥の治療、特には病原性及び/又は外傷性及び/又は加齢性軟骨欠陥、軟骨損傷、骨欠陥及び骨折の治療において有用である。
【0017】
1種または複数種のケモカインは、特定のサイトで得られる。このサイトから発生されながら、瀰漫により濃度分布が生ずる。この濃度分布により、間葉細胞は所定のサイトに向けられるが、これをリクルート(recuruitment)と呼ぶ。細胞は、ケモカインが特定のケモカインレセプターに結合し、その結果として適切な刺激を受ける。
【0018】
本発明はヒト又は動物の間葉前駆細胞並びに幹細胞が対応するレセプターを有するとの洞察に基づいたものである。ヒト又は動物の間葉前駆細胞そして幹細胞でのこれらのレセプターの発現又は存在はこれまでの科学文献では報告されておらず、本願で実証したものである。
【0019】
これに限定するわけではないが、これらのレセプターの発現により間葉前駆細胞及び幹細胞はケモカインに正確に反応し、ケモカインのシグナルによって遊走すると推測される。これに関して、応答挙動並びに遊走速度は恐らくレセプターが所定の細胞に発現する程度に依存する。それ故、最も高程度に発現するレセプターのリガンドは、恐らく間葉前駆細胞、幹細胞が最も強く応答するケモカインである。
【0020】
発現の程度が低下するにつれて、細胞がケモカインレセプターと対応するケモカインに対して走化性反応して遊走する程度も低下する。本発明では、前駆細胞、幹細胞の遊走特性とケモカインの”引き付け(attraction)”を、現位置で、間葉の、好ましくは局所の、前駆細胞並びに幹細胞を、例えば欠陥サイト(例:軟骨損傷部)等の特定のサイトにリクルートするために利用する。
【0021】
ケモカインは、血液幹細胞の造血、白血球の走化性等の多くのプロセスにおいて重要な生理学的役割を演じるタンパク質(5−20kDa)である。走化性とは、その細胞膜が対応する走化性物質(ケモカイン又はケモタキシン)によって活性化される移動性組織又は細胞の正又は負の遊走反応であると理解され、この反応は化学的な刺激によって誘発され、刺激された方向に向けて又はそれとは遠ざかる方向で起きる。この活性化は対応するケモカインが結合する細胞表面レセプター(ケモカインレセプター)によって媒介されている。本願発明のコンテクストにおいて、欠陥サイトに向けられた誘導走化性も、リクルートメントと記載する。
【0022】
いずれのケモカインも、そのアミノ酸配列は類似しており4つのシステインの一定の配列で特徴付けられている。ケモカインファミリーは、最初の2つのシステインの位置により4つのサブファミリー、即ちCC、CXC、CXCとCケモカインに更に分類され、Cサブファミリーの代表は単に2つのシステインを有する(以下の表1参照)。詳細な説明は、Murphy他,(2000)“International union of pharmacology,XXII,Nomenclature of chemokine receptors”,Pharmacol Rev 52:145−176に記載されており、参照により本願に含まれる。以下、Murphy他に記載の命名法を、本発明で使用される好ましいケモカインを表示するために使用する。ケモカイン自体は、CCL、CXCL、CXCL、XCLと表示する。これらの表示において、“L”はリガンドを表す。命名法による名前に加えて、慣用名も本書で使用する。
【0023】
ケモカイン並びにそれらのレセプターは多くの造血細胞並びに非造血細胞によって発現されている。ケモカイン活性は、特定のGタンパク質共役レセプターに結合して活性化される。ケモカインの作用モードに関するほとんどの研究は、白血球に関して行われているが、ケモカインの機能は白血球への生理機能以上の広範囲にわたる。
【0024】
ケモカインレセプターはCCL、CXCL、CXCLとXCLに対応するレセプターとしてに分類され、体系的にはCCR、CXCR、CXCRとXCRと表示される(“R”は、レセプターの省略である)(以下の表1参照)。これらのあるものはあるサブファミリーにおける数種のケモカインを結合できる。ケモカインレセプターのアミノ酸配列の25−80%はお互いに同一であり、25%は多くの他のGタンパク質共役レセプターと同じである(Murphy他,(2000)“International union of pharmacology,XXII,Nomenclature of chemokine receptors”,Pharmacol Rev 52:145−176)。
【0025】
N末端は、膜の細胞外サイドに位置し、通常はグリコシル化されており、C末端は細胞質サイドに位置し、リン酸化されている。3つの細胞外ループは、3つの細胞内ループと交互に起き、7つの疎水性の膜貫通領域をリンクしている。レセプター活性の2段階モデルが開発されている。即ち、ケモカインのレセプターへの結合は、まずケモカインの立体配座変化が起き、その後レセプターはケモカインのN末端で活性化される。これに関連して、Gタンパク質のαサブユニットに結合しているGDPはGTPで置換される。Gタンパク質は、レセプターから分離し、細胞質空間で続いて起こる(カスケード)生化学反応の引き金となる。
【0026】
CC、CXCレセプターは、単球、リンパ球、好塩基球、好酸性顆粒球、軟骨細胞内で検出されている。11のCCケモカインレセプター(CCR1−CCR11)は、CCケモカインレセプターファミリーに属する。これらは、CXCRファミリー(CXCR1−CXCR6)の6つのレセプターからこれらを分化する7つの特徴的な配列セグメントを有する。
【0027】
【表1】

これらの研究において、発明者はケモカインレセプターの相違により間葉細胞上での発現に勾配があることを観察した。この勾配は、以下の表3に示した。これは、本発明での使用の状況下で、最も頻繁に発現するレセプターに結合するケモカインの好ましい使用につながるものである。
【0028】
表4のNo.1−39のケモカイン、特にはNo.1−18のケモカインを使用することが好ましく、No.1−8のケモカインを使用することが更に好ましい。これらのケモカインは、ケモカインのフラグメント及び/又は誘導体の形態で、又は他の形態としてケモカインをエンコードする核酸(例えば、DNA、cDNA、RNA、又はssDNA)で使用できる。本発明において、ケモカインのフラグメントとは、ケモカインのアミノ酸配列の構成配列を含むペプチドであると理解されている。本発明において、ケモカインの誘導体とは、ケモカインのアミノ酸配列から欠失、置換、付加または点変異によって誘導されたアミノ酸配列を有するペプチド又はタンパク質であると理解される。好適であるとされるフラグメント及び/又は誘導体に関して根本的に重要な要件は、ケモカインレセプターへの結合能の保持、好ましくはこれに加えて結合特異性の維持である。
【0029】
ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸を含む医薬製剤は、診断用及び/又は治療用として、従来の方法を用いて製造される。医薬製剤は好ましくは注入用である。タンパク質及び核酸を含有し、この用途に好適な助剤を含有する医薬製剤の好適な製造方法は知られており、ここでは説明しない。そのように医薬製剤を設計することは、当技術分野の技術者の能力範囲内である。例えば、注入溶液、フィブリン接着剤、移植用サブストレート、マトリックス、組織パッチ又は縫合材が好適である。
【0030】
適用法については、製剤は好ましくは注射により、又はフィブリン接着剤、サブストレート、マトリックス又はパッチを使って、骨欠陥部位又は軟骨欠陥部位に導入する。好適なサブストレートは例えばドイツ特許第199 57 388号に開示されており、参照により本願明細書に含まれる。間葉前駆及び/又は幹細胞を引き付ける目的で骨髄空間への連結が行える。間葉細胞が骨又は軟骨欠陥部に遊走した後、その欠陥部で、欠陥部を充填し安定化する再生細胞を合成する。骨又は軟骨再生細胞の合成は、骨形成又は軟骨形成を促進する増殖及び分化因子の混合によりサポートされる。
【0031】
従って、本発明は好ましくは、骨髄から局所間葉前駆細胞をリクルートして、主に関節炎に関連する病変又は外傷関節欠陥部を再生するための医薬製剤の製造においてケモカインを使用することに関する。
【0032】
本発明で意味する範囲内で、間葉前駆細胞及び幹細胞とは1またはそれ以上の幹細胞に発展する特性を有する細胞である。その例としては挙げることのできるものには、軟骨細胞を使用する軟骨、骨細胞を使用する骨、腱細胞を使用する腱、腱細胞を使用する靱帯、心臓細胞を使用する心筋、線維芽細胞(fibroblast)を使用する結合組織、線維芽細胞(fibroblastic cell)を使用する線維組織、星状細胞並びに神経細胞を使用する神経細胞がある。従って、前駆細胞は、軟骨細胞、骨細胞、腱細胞、心臓細胞、線維芽細胞(fibroblast)、線維芽細胞(fibroblastic cell)、星状細胞または神経細胞の前駆細胞であってよい。よって、前駆細胞を、例えば、軟骨細胞だけになる軟骨細胞の前駆細胞/幹細胞の他、軟骨細胞並びに骨細胞形成能を有するその他の前駆細胞、または骨細胞だけを形成し得るその他の前駆細胞とすることができる。
【0033】
医薬製剤の使用時、製剤に存在するケモカインは、関節近傍の周囲細胞、好ましくは骨髄から、間葉前駆細胞を引き付け(attract)、それらを欠陥部位へ向かわせる。間葉前駆細胞は、その後この部位に留まり、骨欠陥部では骨再生組織を、軟骨欠陥部では軟骨再生組織形成する。当然のこととして、同様の引き付けは、インビトロで、例えば、生検から形成される対応する細胞の培養でも利用できる。
【0034】
好ましい態様において、本発明は間葉幹細胞をリクルートするための、ケモカインの使用に関する。本発明が意味する範囲内において、間葉幹細胞とは、少なくとも2以上の数種の異なる間葉組織形成能を有する間葉前駆細胞である。
【0035】
更なる好ましい態様において、本発明は、間葉前駆細胞または幹細胞を、骨髄からリクルートするための、ケモカインの使用に関する。この目的のために、関節鏡を用いて、軟骨の欠陥部位から軟骨基礎となる骨組織にドリルで小経路を形成し、欠陥部と骨髄をつなぐ。欠陥部位へのケモカインの導入により、間葉前駆又は幹細胞を引き付け、欠陥部位に定着し、この部位で欠陥部を閉鎖する再生組織を形成する。
【0036】
また、ケモカインをエンコードする核酸の使用も本発明の範囲内である。この点に関しては、局所細胞に取り込まれ、読み取り、成熟タンパク質として発現されたRNA、DNA、cDNA、又はssDNAを導入することが有利である。
【0037】
その他の好ましい態様において、間葉前駆細胞をリクルートするために使用するケモカインを、生物学的分解性ポリマー又はバイオマテリアルと混合する。本発明で意味する範囲内において、生化学的分解性ポリマーとは、細胞に対して毒作用がなく、免疫反応を誘発せず、軟骨または骨組織の形成を促進する生物学的分解性ポリマー、好ましくは3次元ポリマー構造のものである。生物学的分解性ポリマーをケモカインと共に閉鎖すべき欠陥部位へ導入することにより、間葉前駆細胞の引き付けが起き、間葉前駆細胞は直接にポリマー組織内に遊走し、そこで軟骨または骨への最適な組織成熟のための3次元ポリマー構造を見出す。これらのポリマーまたはバイオマテリアル例としては、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチドーグリコリド)、ポリリシン、ポリカプロラクトン、アルギン酸塩、アガロース、フィブリン、ヒアルロン酸、多糖類、セルロース、コラーゲン、ヒドロキシルアパタイトがある。
【0038】
ケモカインは増殖並びに分化因子と共に同一の医薬製剤で(又は別々の製剤での投与で)使用できる。特に好ましくは、ケモカイン、ポリマー並びに増殖並びに分化因子を共に使用することである。そのような混合物を欠陥部位に導入することは、既に組織の成熟を促進している最適なポリマー構造に加えて、引き付けられた間葉前駆組織も、増殖並びに分化因子により組織への成熟が促進されるという利点を有する。
【0039】
好ましい態様において、本発明はケモカインを、軟骨成熟を誘導する増殖並びに分化因子と共に使用することに関する。本発明の意味する範囲内において、軟骨の成熟を誘導する因子とは、発生生物学の観点から、前駆細胞の分化を誘発して、軟骨細胞系又は成熟軟骨細胞に成熟させて軟骨マトリックスを形成する増殖並びに分化因子である。インスリンと同様に、軟骨由来形態形成タンパク質(CDMP)及び骨形成タンパク質(BMP)ファミリーのメンバーの使用は、この点に関して有利である。
【0040】
他の好ましい態様において、本発明は、骨成熟を誘導する増殖並びに分化因子と共にケモカインを使用することに関する。本発明の意味する範囲内において、骨成熟を誘導する因子は、発生生物学の観点から、前駆細胞の分化を誘発して、骨細胞系又は成熟骨細胞に成熟させて骨マトリックスを形成する増殖並びに分化因子である。骨形成タンパク質(BMP)ファミリーのメンバー、特にはメンバーであるBPM−2、BMP−7の使用は、この点に関して有利である。
【0041】
以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
ヒト間葉幹細胞の単離と培養
骨髄からヒト間葉幹細胞(MSCs)を得るために、既に述べられているプロトコールを使用して、以下のようにMSCsを単離した。3ml以下の骨髄穿刺液を、10mlのPBSと混合し、室温において、310gで、10分間遠心分離した。細胞ペレットを再懸濁し、もう1度PBS(NaCl 8000mg/l、KCl 200mg/l、NaHPO 1150mg/l、KHPO 200mg/l)で洗浄した。細胞をDME培地(10−20% FBS、2% HEPES、4mM L−グルタミン、ペニシリン 100U/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml)20mlに取り込んだ。各ケースにおいて、この細胞懸濁液5mlを、1.073g/mlの密度のPercoll密度勾配媒体20mlに充填する。細胞を32分間、900gで遠心分離する。
【0043】
上相を新しい遠心管に移す。PBSの容積2.5倍量を加えた後、混合物はもう1回310gで6分間遠心分離する。細胞ペレットを、DME培地に取り込む。
【0044】
培養のために、細胞フラスコに1.5x10−3.5x10細胞/cmを加え、DME倍地(ベルリンのBiochrom AG社,カタログ No.FG0415,Dulbecco‘s modified Eagle 培地 )中で37℃、5%COでインキュベートする。培地は、最初は72時間後、その後3−4日毎に変える。このような方法で単離した細胞は2−3週間後に密集成長し、その後、トリプシン処理により、培養表面6000細胞/cmの細胞密度で新たな培養容器に移す(パッセージ 1)。約1週間後、細胞をもう一度トリプシン処理する(パッセージ 2)。
【0045】
ヒト間葉幹細胞の培養の均一性をFACS分析で検証する。これに関して、表面抗原エンドグリン、ALCAMが検出され、表面抗原CD34、CD45、CD14が検出されないことが必要である。これは確認された。
【0046】
実施例2
ケモカインレセプターを検出するための遺伝子発現の分析
単離、展開、検証されたヒト間葉幹細胞はケモカインレセプターを発現する。これは、RT−PCRにより数人(n=3)の患者で、以下のようにして実証された。
【0047】
a.トータルRNAの単離
Tri Reagent LS(登録商標)を、トータルRNAの単離のために使用する。MSCsを培養し、密集させる。細胞培地を捨てた後、細胞ローンに、増殖領域10cm当りTri Reagent LS(登録商標)の0.4mlをかぶせ、細胞を溶解する。溶解物を滅菌反応容器に移し、室温で5分間インキュベートする。溶解物を、Tri Reagent LS(登録商標)0.75ml当りブロモクロロプロパン(BCP)0.1mlで処理し、その後、15秒間振とうし、室温で10分インキュベートする。その後の4℃、12000gでの15分の遠心分離によって、相分離した。水相を、200μlの分量ずつ採取し、反応容器に移す。RNA溶液を、Tri Reagent LS(登録商標)の0.75ml当り0.5mlのイソプロパノールで処理し、−20℃で少なくとも7分放置する。析出したRNAを4℃、12000gで8分間遠心分離してペレット化する。得たRNAペレットを70%のエタノールで洗浄し、空気中で乾燥、DEPC−HOの20μlに取り込む。ペレットを溶解するため、55℃で10分間加熱する。単離したトータルRNAを、光度測定法で決定した。
【0048】
b.cDNA合成:
cDNA合成のために、トータルRNA 5μgを、DEPC−HO 10μl中で使用し、この溶液をoligo−(dT)12−18プライマー 1μlで処理し(いずれのケースも、表2に示した上流(upper)プライマー、下流(lower)プライマー、70℃で10分間変性する。変性後、反応混合物を氷上で保存し、5xバッファー(0.25M Tris/HCl, pH=8.3; 0.375M KCl; 15mM MgCl)4μl、0.1MのDTT 2μl、dNTP(いずれのケースも10mM)の1μl、リボヌクレア―ゼ阻害剤の0.4μlで処理する。37℃での2分間のインキュベート時間後、SuperScript(登録商標)逆転写酵素をその後反応混合物に加え、その後、37℃で60分間のインキュベートする。TE(10/l,pH=7.8)40μl添加後、酵素を92℃で10分間不活性化する。cDNA 2.0μlをRT−PCR反応に使用する。
【0049】
標準として、PCR反応当たりcDNA 1μl使用する。10xバッファー2μl、25mMのMgClを2μl、10mMのdNTPs 0.2μl、5nMのプライマー(表2)1μl、Taq DNA ポリメラーゼ 0.5Uを、PCR反応容器内のcDNAに添加し混合物を水と共に最終体積を20μlとする。標準の反応サイクルを、95℃で1分間の変性で開始し、引き続きそのプライマーに特定の温度(Tan)でプライマーのハイブリダイゼーションを15秒間、そして、72℃で15秒間のDNA合成反応を行う。このサイクルを、全35回繰り返す。最終的に、混合物を、72℃で3分間維持する。PCR産物を、ゲル電気泳動で分画する。DNAフラグメントを、ゲルから溶出し、ベクターpGEM−T Easy(Promega)中にクローン化する。表2での使用されたオリゴヌクレオチドにより対応するケモカインが増幅されていることを検証するために、大腸菌中での増幅に続いて、対応プラスミドを単離し、配列を決定した。これは、公知の配列との比較により確認される。
【0050】
【表2−1】

【0051】
【表2−2】

ヒトケモカインレセプターの存在に関して、数人の患者(n=3)について行った、ヒト骨髄間葉幹細胞の発現分析(図1)は、レセプター1〜9で高発現、レセプター10〜17で中程度の発現、レセプター18〜19で弱い発現を示した(表3)。
【0052】
【表3】

この点に関して、異なる発現レベルは、最高レベルで発現するレセプターのリガンドは、間葉幹細胞が最も強く反応し、それに向けて遊送する、ケモカインであることを示唆する。発現レベルが低下すると共に、幹細胞は、ケモカインレセプターに対応するケモカインに対して走化的に反応して遊走する可能性も低くなる。これによると、ヒトの間葉幹細胞は活性化されて、ケモカインNo.1での刺激で最も強く、その場にリクルートされる(インサイチュリクルートメント)が、この効果は表4のケモカインNo.39に行くにつれて低減化する。
【0053】
【表4−1】

【0054】
【表4−2】

実施例3
関節炎により著しく変形した関節表面を治療するために、まず骨髄空間と関節腔との間にドリルで小穴(1−2mm)を穿つことにより小連絡経路を形成する。その後、ヒアルロン酸と走化作用を有するケモカイン(CCL19)と結合したウール状のポリマー構成物(ポリグリコリド)を関節表面に接着し、フィブリン接着剤又はアクリル酸接着剤を用いて固定した。
【0055】
実施例4
6mmの欠陥サイズを有する実施例3の関節表面を処置するために、骨髄空間への裂け目を形成してから、1000ngの増殖因子(軟骨由来形態形成タンパク質)と2000ngケモカイン(CXCL9)と共にフィブリン接着剤1.2mlを軟骨欠陥部に導入し、同時にトロンビン100μlを添加して固化する。
【0056】
実施例5
骨髄間葉幹細胞上でのケモカインCXCL12(SDF−1α)の走化活性
ケモカインCXCL12(SDF−1α)に関して、単離、伸長、検証されたヒト間葉幹細胞は用量依存的走化活性を示す。これは、96−マルチウェル走化性試験により実証された。この試験で使用する96−マルチウェル走化性プレートは、ポリカーボネート透過膜(孔径 8μm)で分離されているウェルの上部と下部とよりなる。下部に導入されたCXCL12は膜を横断して濃度勾配を生じ、活性化されたウエルの上部からの細胞は膜内、更にはウェルの下部へ遊走する。
【0057】
以下のようにして検出される:
細胞をまず通常のDMEM培地で培養する。試験前の約22時間に、培地を除き、細胞をPBSで洗浄し、無血清のダイエット培地(DME培地はグルコース1.0g/l、0.2%ウシ血清アルブミン、2mM L−グルタミン;ペニシリン100U/ml;ストレプトマイシン100μg/lを含有する)内で試験するまで保存する。試験をする直前に、細胞をトリプシン処理し、細胞数と活力を決定し、細胞をもう一度ダイエット培地に取り込む。96ウェルプレートの1上部ウエル当たりダイエット培地40μl中で3x10細胞が使用される。
【0058】
CXCL12(SDF−1α)の用量依存的走化活性を決定するために、この後者のケモカインを異なる濃度(1−500nM)でダイエット培地に加え、この培地35μlを、それぞれについて3つの下部ウエルに加える。使用される対照混合物の第1は、1上部ウェル当り40μlのダイエット培地中の3x10細胞と下部ウェルにおける30μlのケモカイン無しの血清含有培地(正対照)、第2は、1上部ウェル当り40μlのダイエット培地中の3x10細胞と下部ウェルにおける30μlのケモカイン無しのダイエット培地(負対照)である。96ウエル走化プレートを37度、5%CO雰囲気下、20時間インキュベートする。フィルターの上側(非遊走側)をふき取って、非遊走細胞を除く。フィルターの下側の細胞(遊走細胞)を、氷冷のエタノール/アセトン(1:1 v/v)で定着し、Merck Hemacolor(登録商標)迅速染色システムを用いて染色する。膜を湿らたままにして、3つの代表的な光領域を各ウエルについてカウントする。これをする前に、所定のウエルでの細胞分布をより低い倍率で評価する。
【0059】
CXCL12(SDF−1α)の走化活性に関して、これらのヒトの骨髄間葉幹細胞の試験は、このケモカインがヒトの慣用幹細胞に対して用量依存的走化活性効果を有することを示した。これを図2に示す。細胞に対する最も高い応答が約500nMの濃度で測定された。100nMよりやや低い濃度より低いと、遊走した細胞の数が負対照での遊走細胞の数に相当する。これは、本発明による骨髄間葉前駆細胞に対してのケモカインのリクルート効果をきわめて明確に実証するものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ヒトの間葉幹細胞でのケモカインレセプターの発現を検出するためのRT−PCRの使用である。
【図2】CXCL12に対する反応としての用量依存的幹細胞遊走の検出である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬製剤を製造するための、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸の使用。
【請求項2】
医薬製剤が、間葉の、好ましくは局所間葉の、前駆細胞及び/又は幹細胞をリクルートし、組織合成を目的としたものである請求項1記載の使用。
【請求項3】
間葉の、好ましくは局所間葉の、前駆細胞及び/又は幹細胞をリクルートするための、ケモカイン及び/又はケモカインをエンコードする核酸の使用。
【請求項4】
ケモカインが、CCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16、CXCL13、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL12、CCL2、CCL8、CCL13、CCL25、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL14、CCL15、CCL16、CCL23、CXCL1、XCL1、XCL2、CCL1、CCL17、CCL22、CCL11、CCL24、CCL26、CXCL1、CXCL2、CXCL3及びCXCL7より成る群から選択される請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
ケモカインが、CCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL16、CXCL13、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL12、CCL2、CCL8、CCL13及びCCL25より成る群から選択される請求項4記載の使用。
【請求項6】
ケモカインが、CCL19、CCL21、CCL27、CCL28、CCL20、CXCL9、CXCL10及びCXCL11より成る群から選択される請求項5記載の使用。
【請求項7】
ケモカインの混合物を使用する請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
ケモカインレセプターに対して結合能のあるケモカインフラグメント又はケモカイン誘導体を使用する請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
ケモカインが、天然又は合成ケモカインである請求項1〜8のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
ケモカインをエンコードする核酸が、RNA、DNA、cDNA又はssDNAである請求項1に記載の使用。
【請求項11】
ケモカインをエンコードする核酸が、天然又は合成由来である請求項1記載の使用。
【請求項12】
間葉前駆細胞が、好ましくは骨髄からリクルートされた間葉幹細胞である請求項1〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
医薬製剤が注入に好適な形態である請求項1記載の使用。
【請求項14】
医薬製剤が、
−1又はそれ以上の適切な助剤、
−1又はそれ以上の生物学的分解性ポリマー、
−分化及び増殖因子、及びこれらの混合物から選択された1以上の活性化合物、及び
−上記の2以上の混合物を、
更に含有する請求項13記載の使用。
【請求項15】
分化及び増殖因子、及びこれらの混合物から選択された活性化合物と組合せての請求項3に記載の使用。
【請求項16】
分化及び増殖因子が、軟骨形成又は骨形成を誘発する請求項14又は15に記載の使用。
【請求項17】
請求項4〜9のいずれかに記載のケモカインを含有する医薬製剤。
【請求項18】
請求項10又は11に記載の核酸を含有する医薬製剤。
【請求項19】
医薬製剤が、
−1又はそれ以上の適切な、
−1又はそれ以上の生物学的分解性ポリマー、
−分化及び増殖因子、及びこれらの混合物から選択された1以上の活性化合物、及び
−上記の2以上の混合物を、
更に含有する請求項17または18に記載の医薬製剤。
【請求項20】
医薬製剤が、注入溶液、フィブリン接着剤、移植用サブストレート、マトリックス、組織パッチ又は縫合材の形態である請求項17または18に記載の医薬製剤。

【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2006−528141(P2006−528141A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520720(P2006−520720)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007581
【国際公開番号】WO2005/014027
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506022740)トランスティッシュテクノロジーズ ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】TransTissue Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Tucholskystrasse 2 10117 Berlin Germany
【Fターム(参考)】