説明

ケーキ用油中水型乳化油脂組成物

【課題】生地安定性を付与するケーキ用油中水型乳化油脂組成物、該ケーキ用油中水型乳化油脂組成物を含有したケーキ及びケーキの製造方法の提供。
【解決手段】穀粉100重量部、卵150〜300重量部、糖類20〜250重量部、ケーキ用油中水型乳化油脂組成物10〜50重量部を含有するケーキであって、該油中水型乳化油脂食用油脂組成物は食用油脂25〜70重量%、水及び水溶性成分25〜60重量%、膨潤抑制α化澱粉3〜20重量%、乳化剤0.5〜30重量%、増粘安定化剤0.5〜10重量%を含有し、穀粉の30〜100重量%が澱粉であるケーキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ用油中水型乳化油脂組成物及びそれを使用したケーキならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を使用して製造するケーキは、穀粉、糖類、卵、油脂等を主成分として製造される食品である。ここでケーキはスポンジケーキ、バタースポンジ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スイスロール、ブッセ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、蒸しケーキ等をいう。
【0003】
このようなケーキの最も重要な食感は、「ソフト」で「弾力」があり、「口溶け」がよくかつ、「しっとり」していることといわれている。しかし、ソフトで口溶けをよくするために卵、油脂の含量を多くすると弾力がなくなったり、反対に弾力を出すために水分を減じたりすると、ぱさついて口溶けが悪くなる等の問題がある。また、食感をソフトにするために比重を下げ、比容積の軽いケーキを作るとソフト感はでるが、総じてしっとり感がなくなり、ぱさつきやすい等の問題が生じる。また、これらの卵や油脂の多いケーキや比重の軽いケーキは、総じてケーキの製造上の大きな問題である釜落ちや生焼けという現象が起こりやすい。ソフトで口溶けのよいケーキとして代表的なシフォンケーキはメレンゲの起泡性を用いて生地を軽くするもので、卵の卵黄と卵白を別々に起泡化させてから合せる別立て工程という煩雑な工程が必要で、連続的な大量生産には適さない。また、シフォンケーキであっても、軽いものほど生地が不安定で、生焼けや釜落ちを起こしやすく、かつ、ぱさつきやすいという問題がある。
これらを改善するために、加工澱粉を使用した軽い食感に優れたケーキの製造方法(特許文献1参照)等の各種澱粉を使用することが提案されている。
【0004】
しかし、小麦粉の代わりに澱粉を使用すると、澱粉には小麦粉に含まれるグルテンがないため、バッターにシェア耐性が全くなく、ハンドメイドの起泡操作ではかろうじてケーキを作製することができても、生焼けや釜落ち等の問題が起きやすいこと、大量生産に適した連続起泡化装置等では、泡沫安定性が極端になくなり、全く製造できない等の問題がある。この様にして製造された加工澱粉を用いたケーキも、シフォンケーキと同じくぱさつきやすいという問題を生じる。ケーキのしっとり感をもたせるための、α化澱粉を配合(特許文献2、3参照)、安定性をもたせるために増粘多糖類等の安定化剤の配合(特許文献4、5参照)等が提案されている。
【0005】
しかし、常温から糊化するα化澱粉を直接あるいは水中油型乳化物としてケーキ生地に使用すると、ケーキ生地中で急激に膨潤するために、均一に分散されない現象を生じたり、その急激な膨潤により生地の起泡性を低下させる等の問題を生じる。シェア耐性のない生地にα化澱粉を直接加えて、連続式起泡化装置等で起泡させると、その起泡化工程中のシェアで、膨潤したα化澱粉が生地中で崩壊し糊液となり、ねとつく食感を生じたりする。
【0006】
水で膨潤化された澱粉のみを配合した油中水型乳化物を用いて焼き菓子やパンの老化防止や食感改善を行っている(特許文献6、7参照)が、膨潤化した澱粉を配合した乳化物をケーキに配合すると、起泡性や泡沫安定性の大幅な低下を招き、しっとり感は出るが、ボリュームのない固いケーキになる問題を呈する。
【0007】
また、安定剤を直接あるいは水中油型乳化物として、シェア耐性不足を補うためにケーキ生地に配合すると、急激な吸水により均一に分散されない現象を生じたり、その急激な増粘作用により生地の起泡性を低下させるなどの問題を生じる。ある程度の安定性は出るが、著しくボリュームのある軽いケーキや全量を澱粉に置換したケーキを製造することはできない。
【0008】
このように、加工澱粉を用いたケーキ、シフォンケーキ等の比重の軽いケーキはソフト感、弾力、口溶け感などの食感に優れるものの、ぱさつきやすくしっとり感が不足すること、シェア耐性が不足して安定的に生産することが難しいなどの重大な問題が解決されておらず、例えば、小麦粉を澱粉に全量置換したケーキなどがほとんど生産されていない。
【特許文献1】特開平7−75479号公報
【特許文献2】特開平11−155482号公報
【特許文献3】特開平8−224057号公報
【特許文献4】特開平1−218538号公報
【特許文献5】特開平5−23097号公報
【特許文献6】特開平11−155482号公報
【特許文献7】特開平8−224057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、比重の軽いケーキや澱粉を用いたケーキの食感、及び安定生産に必要とする生地安定性を付与するケーキ用油中水型乳化油脂組成物を提供することを目的とする。更には、該ケーキ用油中水型乳化油脂組成物を含有したケーキ及び該ケーキ用油中水型乳化油脂組成物を使用したケーキの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次の成分(F)、(G)、(H)及び(I):
(F)穀粉 100重量部、
(G)卵 150〜300重量部、
(H)糖類 20〜250重量部、
(I)ケーキ用油中水型乳化油脂組成物 10〜50重量部
を含有するケーキであって、成分(I)が、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)食用油脂 25〜70重量%、
(B)水及び水溶性成分 25〜60重量%、
(C)膨潤抑制α化澱粉 3〜20重量%、
(D)乳化剤 0.5〜30重量%、
(E)増粘安定化剤 0.5〜10重量%
を含有するケーキ用油中水型乳化油脂組成物であり、成分(F)の30〜100重量%が澱粉であることを特徴とするケーキを提供するものである。
また、本発明は、連続式起泡化装置を用いてケーキバッターを製造する上記ケーキの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を使用したケーキバッターは、該乳化油脂組成物の成分が、ケーキ生地中に分散して安定なものとなり、連続式起泡装置を用いて起泡させることができ、焼成に際し生焼け、釜落ちも無く、また製造したケーキは、比容積が大きく比重が軽い、穀粉として澱粉を使用した場合でも、弾力、ソフト感、口溶け及びしっとり感が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する成分(A)の食用油脂は、ナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、乳脂、魚油、ラード等の食用油脂の他、それらを硬化処理、エステル交換処理等をした食用精製加工油脂等であって、ケーキの口溶け、しっとり感及びケーキのボリュームの点から融点が20℃以下、好ましくは10℃以下の液状油が好ましい。融点が20℃以下の液状油のうち、ナタネ油、コーン油、大豆油及び米油等が特に好ましい。
【0013】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中には、成分(A)は、ケーキバッターへの分散性等の機能が安定して得られる点で、25〜70重量%(以下単に%と記載する)含有するが、特に30〜60%であるのが好ましい。
【0014】
本発明で使用する成分(B)の水及び水溶性成分は、水のほかにアルカリ剤、塩類、糖類、水溶性蛋白質、水溶性食物繊維、pH調整剤等の水溶性物質が挙げられ、単独又は2種以上が併用される。これらは水に溶解して、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物の内相である水滴を構成する成分である。
【0015】
アルカリ剤は、かん水と呼ばれ食品添加用アルカリ剤で、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等が挙げられる。アルカリ剤としては、着色防止、pH緩衝能に特に優れるリン酸水素二ナトリウムが好ましい。
アルカリ剤を使用することにより、ケーキ用油中水型乳化油脂組成物を、ケーキバッター中に均一に分散させると、特にpHの低い澱粉(例えば、化工澱粉)を使用したときに発生する釜伸びの不足を解消し、ふっくらとしたボリュームのある、異味のないケーキを製造できる。このアルカリ剤は、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物に使用する場合は、好ましくは0.1〜10%、特に1〜5%含有するのが好ましい。
【0016】
塩類は、食塩、クエン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、酒石酸水素カリウム等が挙げられ、クエン酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム等が好ましい。
糖類は、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖、ソルビトール及びそれらの液糖類等が挙げられ、甘味の点で、麦芽糖、オリゴ糖及びそれらの液糖類等が好ましい。
水溶性蛋白質は、大豆蛋白質、乳蛋白質、小麦蛋白質、卵蛋白質及びそれらの酵素又は酸分解物等が挙げられ、風味の点で、卵黄蛋白質の酵素分解物等が好ましい。
水溶性食物繊維は、水溶性セルロース、ポリデキストロース等が挙げられる。
pH調整剤は、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中には、成分(B)は、ケーキバッターへの分散性、起泡性及び乳化物の安定性の点で25〜60%含有するが、特に30〜55%であるのが好ましい。このうち、水は起泡性と菌抵抗性の点で5〜30%、特に10〜25%が好ましい。
【0018】
本発明で使用する成分(C)の膨潤抑制α化澱粉は、湿熱処理又はリン酸架橋処理等を施して製造した膨潤抑制澱粉に、更にα化処理を行った澱粉であって、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉等の澱粉を加工処理したものである。これらの澱粉のうち、アミロース含量が10〜20%のもの、特にタピオカ澱粉が好ましい。
【0019】
膨潤抑制α化澱粉は、4.6%澱粉及び23%ショ糖を含有する水溶液(pH6.5)を350cmg、75r/minの条件下で測定条件下において測定したアミログラフの20℃から5℃/minで昇温させ、95℃で10分間保持させるまでのブラベンダー粘度(BU)が、300BUにならない粘度低下が極めて少なく、かつ常温から糊化するものが好ましい。
膨潤度は、20〜95℃で10〜20倍、溶解度は、20〜95℃で10%以下であるのが、口溶けやしっとり感の点で好ましい。ここで、膨潤度及び溶解度は、澱粉科学分析法(朝倉書店 148〜150頁)の記載に基づく方法で測定したものである。
【0020】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中には、成分(C)は、ケーキのしっとり感及び乳化物の安定性の点で0.3〜20%含有するが、特に5〜15%であるのが好ましい。
【0021】
本発明で使用する成分(D)の乳化剤としては、下記のような食品用乳化剤が広く使用できる。成分(D)は油脂組成物中に0.5〜30%、好ましくは3〜15%含有する。中でもポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(J)が好ましく、特に、グリセリン単位が2〜12、好ましくは4〜10のポリグリセリンにリシノール酸の2〜10、好ましくは3〜6量体がエステル結合したポリグリセリン脂肪酸エステルであり、通常チョコレートの粘度低下剤などに用いられるが、著しい油中水型乳化能をもつことでも知られている。この成分(J)を用いることで、特に成分(A)の食用油脂の融点が10℃以下の液状油であっても安定した本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を製造できる。
【0022】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中には、成分(J)は、ケーキ生地へケーキ用油中水型乳化油脂組成物が徐々に均一に分散し、起泡性と泡沫安定性を発現し、また安定な乳化物を形成する点で、0.5〜5%含有するが、特に1〜3%であるのが好ましい。
【0023】
更に、補助乳化剤として、炭素数20以上、好ましくは20〜24の飽和脂肪酸、それらのショ糖エステル又はそれらのグリセリンエステル(成分(K))を併用すると、ケーキバッターの、特に焼成中での起泡の泡沫安定が著しく向上し、生焼け防止、ケーキのボリュームアップ効果が得られ好ましい。成分(K)の好ましいものとしてアラキン酸、ベヘン酸の飽和脂肪酸、これらのショ糖エステル、及びこれらのグリセリンモノ、ジエステルが挙げられる。
成分(J)は、直接にケーキ生地中に配合すると、著しく起泡性を低下させるが、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中に含有させることにより、上記効果が得られる。
【0024】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中に、成分(K)は0.1〜5%、特に1〜3%含有するのが好ましい。
【0025】
補助乳化剤として、ほかに、成分(J)及び成分(K)以外の食品用乳化剤(成分(L))を併用すると乳化物の安定性、起泡性が更に改善され好ましい。
成分(L)としては、レシチン又は炭素数20未満の脂肪酸のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを除くグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
これらのうち好ましいグリセリンエステルとしては、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノ又はジオレイン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のモノグリセリンエステルのほかにポリグリセリンオレイン酸エステル等のポリグリセリンエステル等、ソルビタンエステルとしては、ソルビタンモノあるいはジ、トリステアリン酸エステルやオレインエステル等、プロピレングリコールエステルとしては、プロピレングリコールモノステアリン酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノベヘン酸エステル等、またレシチンとしては、大豆レシチン、卵黄レシチン等が挙げられる。
【0026】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中に、成分(L)は単独又は2種以上を併用してもよく、1〜20%、特に3〜8%含有するのが好ましい。
【0027】
本発明で使用する成分(E)の増粘安定化剤は、増粘多糖類、ゼラチン等の増粘蛋白質等が挙げられ、増粘多糖類が好ましい。増粘多糖類の中では、特にキサンタンガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム等が好ましい。更に好ましくはキサンタンガムである。
【0028】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物中に、成分(E)は単独又は2種以上を併用して使用してもよく、また、ケーキバッターの安定性、乳化物の安定性の点で0.5〜10%含有するが、特に1〜5%であるのが好ましい。
【0029】
また、ケーキ用油中水型乳化油脂組成物は、水及び水溶性成分が液体粒子として油相中に存在するほか、膨潤抑制α化澱粉及び増粘安定化剤を固体粒子として油相中に分散した、すなわち、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)食用油脂、
(B)水及び水溶性成分
(C)膨潤抑制α化澱粉
(D)乳化剤
(E)増粘安定化剤
を含有するケーキ用油中水型乳化油脂組成物であって、成分(B)が液体粒子として、また成分(C)及び成分(E)が固体粒子として油相中に独立して存在するケーキ用油中水型乳化油脂組成物とすることにより、ケーキバッターの起泡性を低下させることなく、ケーキのしっとり感及び泡沫安定性を向上させる。
【0030】
液体粒子の平均粒子径は、レーザー式粒度分布計による測定法で0.5〜20μm、好ましくは0.5〜5μm、また固体粒子の平均粒子径は、10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0031】
本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物の基本的な製造法としては、まず、(A)の食用油脂に(D)の乳化剤、好ましくはポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(J)を溶解し、攪拌しながら(B)を混合し分散させる。これを連続乳化機等に通し、平均粒子径が5μm以下の油中水型の1次乳化物を作製する。次に別の容器に(A)の食用油脂をとり(D)の乳化剤、好ましくはポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(J)以外の乳化剤(L)を溶解し、これに(C)の膨潤抑制α化澱粉及び(E)の増粘安定化剤を分散させ、スラリー分散物を作製する。上記1次乳化物とスラリー分散物を別々に40℃まで冷却したのち、混合均一化する製造法が挙げられる。
【0032】
上記のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を用いてケーキを調製するには、穀粉(F)、卵(G)、糖類(H)及び当該油脂組成物(I)が使用される。
【0033】
本発明のケーキに使用される成分(F)の穀粉は、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、コーンミール、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、米澱粉、コーンワキシースターチ、及びそれらの化工澱粉(加工澱粉)等が挙げられる。成分(F)のうち、30〜100%、特に70〜100%が澱粉であると、ケーキの食感の点で好ましい。
澱粉としては、(i)アミロース含量22%以上のコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、ハイアミロースコーンスターチ、さご澱粉、馬鈴薯澱粉、葛澱粉、及びこれらの低置換エステル化処理及び低置換エーテル化処理された化工澱粉から選ばれた少なくとも1種、(ii)アミロース含量10%以上22%未満のタピオカ澱粉、甘藷澱粉から選ばれた少なくとも1種を架橋処理又は湿熱処理した化工澱粉、(iii)アミロース含量10%未満のワキシースターチ、もち米澱粉、もち種小麦澱粉、もち種ソルガム澱粉から選ばれた少なくとも1種を架橋処理又は湿熱処理した化工澱粉の3種の混合組み合せたもの(特開2000−63401号公報)が特に好ましい。
【0034】
本発明のケーキに使用される成分(G)の卵は、全卵、卵黄、卵白及びそれらの殺菌卵等が挙げられる。
【0035】
本発明のケーキに使用される成分(H)の糖類としては、ショ糖、果糖、葡萄糖、麦芽糖、乳糖、オリゴ糖、及びその液糖類、コーンシロップ等の分解糖化液糖類、ソルビトール等の糖アルコール及びその液糖類が挙げられる。甘味の点で、上白糖、麦芽糖等が好ましい。
【0036】
本発明のケーキは、ケーキ製造時の安定性及び食感、風味の点で成分(F)の穀粉100重量部に対し、成分(G)の卵150〜300重量部、成分(H)の糖類20〜250重量部、成分(I)の本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物10〜50重量部を含有するが、特に成分(F)100重量部に対し、成分(G)200〜250重量部、成分(H)50〜180重量部(更には100〜150重量部)、成分(I)15〜25重量部含有するのが好ましい。特に、連続式起泡化装置を用いてケーキバッターを製造することができなかった卵量150重量部以上を含有するケーキ、また高卵量でかつ安定性は低いがケーキの食感に適した澱粉を含有するケーキ、かつボリュームのあるケーキの製造が可能である。
【0037】
本発明のケーキの生地は、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物(成分(I))を、ケーキの主原料である穀粉(成分(F))、卵(成分(G))、糖類(成分(H))、更に油脂等その他の成分とともに、混合、攪拌して製造される。
【0038】
このケーキ用生地の製造の際、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物は徐々に水中油型乳化物であるケーキ生地の中で水中油型の乳化物へと転相していく。この過程で水溶性成分、膨潤抑制α化澱粉、安定化剤はきわめて均一にケーキ生地中に分散される。均一に分散されると共に、まず膨潤抑制α化澱粉及び安定化剤は、本乳化物中の水及び水溶性成分を吸収する。そして最終的に、起泡化の工程と共にケーキ生地の水中油型の乳化物中に完全に分散される。
【0039】
また、本発明の組成物は油中水型乳化油脂組成物の状態で存在するために、起泡性を低下させる水溶性成分、膨潤抑制α化澱粉、安定化剤や乳化剤類もケーキ生地の起泡性を低下せずに配合が可能となる。ケーキ生地中に分散された水溶性成分、膨潤抑制α化澱粉、また、このような機構にて有効成分を分散させるため、安定性の低い澱粉、高含量の卵、油脂等を用いたケーキ生地で、非常に比容積が大きくボリュームのあるケーキが、従来不可能であった連続式起泡化装置等で製造可能となる。
ここで、連続式起泡化装置は、ケーキ生地を連続的に起泡させてケーキバッターを製造するもので、例えば、オークスミキサー(米国E.T.Oakes.Corpration社製)、モンドミキサー(MONDMIX−HOLLAND B.V.社製)等が市販されている。
【0040】
穀粉、卵、糖のほか本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物、起泡性ケーキ油脂等をスラリーミキサーに投入し、プレミックス生地を調製する。こののち、オークスミキサー等の連続式起泡化装置にて、空気あるいは窒素を連続的に混合し、起泡化させる。このとき、連続式起泡化装置内の攪拌しながら起泡化させる工程中に、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物は水中油型のケーキバッター中に転相し、機能が発現する。通常、小麦粉を澱粉に置換してこの様な製造工程を行うと、グルテンがなくシェア耐性のないケーキバッターであるため、泡沫安定性が低下し、焼成前あるいは焼成中の脱泡が著しく、ボリュームのあるケーキを作製することができない。また、成分(C)、(E)及び(J)を直接スラリーミキサー中に投入すると、起泡性を阻害し、ケーキバッターの比重が下がりにくくなる。本発明品を用いることにより、起泡性、泡沫安定性に優れるため、0.3まで比重を下げ、かつ、脱泡等の問題もなく、ボリュームのあるケーキを作製できる。
【実施例】
【0041】
実施例1
表1及び表2の組成のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を製造した。
(ケーキ用乳化油脂組成物の調製)
ナタネ油(半量)、コーンシロップ、リン酸水素二ナトリウム溶液、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(半量)を80℃で融解混合し予備乳化後、乳化機(マイルダー、(株)荏原製作所製)に通して平均粒子径が5μm以下になる油中水型の1次乳化物を作製した。この1次乳化物の平均粒子径は1.5μm(レーザー式粒度分布計:SALD−2100島津製作所(株)で測定、分散媒はナタネ油を使用し、超音波で分散した。)であった。また、別の配合槽にナタネ油(半量)、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(半量)、キサンタンガム、膨潤抑制α化澱粉及び残りの乳化剤類を80℃で融解混合し粉体が分散したスラリー状の混合物を作製した。このスラリー状混合物の平均粒子径は25μmであった。上記油中水型1次乳化物及びスラリー状混合物を両方40℃まで冷却したのち混合し、ホモミキサーで均一化を行い、本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を得た。この油中水型油脂組成物の粒子径は、2.5μmと38μmに2つのピークが存在する粒度分布であった。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
ケーキ生地組成
表3にケーキ生地組成を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
ケーキ製造
表3のケーキ生地組成を、スラリーミキサーを用いて混合し、比重が0.8のプレミックス生地を調製した。プレミッスク生地を連続式起泡化装置(モデル 4MB3IA E.T.Oakes Corpration社製)を用いて連続的に比重が0.4となるように起泡しケーキバッターを調製した。焼き型(6号デコ台型、直径18cm、高さ6cm)に350g流し込み、180℃で40分間オーブンで焼成してケーキを製造した。
【0047】
ケーキ評価
比容積:レーザー式容積測定装置で測定した。
生焼け及び釜落ちの有無:ケーキを半分に切り、目視で有無を評価した。
風味及び食感:専門パネラー10名が、弾力、ソフト感、口溶け、しっとり感を次の評価基準に基づいて評価した評点の平均点を風味及び食感の評価とした。
評点 評価内容
5 非常に良好である
4 良好である
3 どちらともいえない
2 あまり良好でない
1 良好でない
【0048】
【表4】

【0049】
表4に結果を示す。本発明のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を使用することにより、比容積が5mL/gを超える非常にボリュームのあるケーキが得られた。小麦粉を含む様々な澱粉等の穀分類を使用しても、生焼けや釜落ちを起こさないケーキが得られた。また、ケーキの重要な食感であるふっくらした弾力があり、かつ、ソフト感があること、口溶けがよく、しっとり感があるケーキが得られた。
【0050】
一方、比較品のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を使用したケーキでは、総じて比容積が5mL/g以下と従来レベルのケーキボリュームしか得られず、生焼け釜落ち等の問題が生じたり、食感も総じて悪いものであった。
【0051】
比較例1
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11)以外は、表1と同じ原料を使用して、次の組成のケーキ用油中水型乳化油脂組成物を製造した。

組成:ナタネ油 50
コーンシロップ 22
33%リン酸水素二ナトリウム 10
膨潤抑制α化澱粉 10
キサンタンガム 1.5
ショ糖脂肪酸エステル(HLB11) 2
グリセリン脂肪酸エステル 1.5
プロピレングリコールモノベヘン酸エステル 1.5
ショ糖ベヘン酸エステル 1
大豆レシチン 0.5
【0052】
このケーキ用油中水型乳化油脂組成物は、粘度が高く粘土状の塊状物となり、製造が困難であった。上記表3のケーキ生地組成1の組成のケーキ生地を製造し、同じ工程でケーキを製造した。
製造したケーキは、比容積が4.3mL/g、生焼け及び釜落ちが有り、ケーキの弾力は3、ソフト感は2、口溶けは1、そしてしっとり感が2という評価であった。
【0053】
比較例2
次のケーキ生地組成を製造し、同じ工程でケーキを製造した。
重量部
ケーキ生地組成:ハイアミロースコーンスターチ(エステル化処理)30
タピオカ澱粉(架橋及びエステル化処理) 20
ワキシーコーンスターチ(架橋処理) 20
小麦澱粉 30
全卵 240
上白糖 100
マルトース粉末 40
食塩 1
ベーキングパウダー 3
起泡性ケーキ用油脂(マリッシュゴールド;花王(株)製)
20
ケーキ用液状油脂(マリッシュスーパー;花王(株)製)
30
膨潤抑制α化澱粉 2
キサンタンガム 0.3
【0054】
製造されたケーキは、比容積3.8mL/g、生焼けは無かったが、釜落ちは有った。ケーキの弾力は2、ソフト感は2、口溶けは2、そしてしっとり感は3という評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(F)、(G)、(H)及び(I):
(F)穀粉 100重量部、
(G)卵 150〜300重量部、
(H)糖類 20〜250重量部、
(I)ケーキ用油中水型乳化油脂組成物 10〜50重量部
を含有するケーキであって、成分(I)が、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E):
(A)食用油脂 25〜70重量%、
(B)水及び水溶性成分 25〜60重量%、
(C)膨潤抑制α化澱粉 3〜20重量%、
(D)乳化剤 0.5〜30重量%、
(E)増粘安定化剤 0.5〜10重量%
を含有するケーキ用油中水型乳化油脂組成物であり、成分(F)の30〜100重量%が澱粉であることを特徴とするケーキ。
【請求項2】
成分(A)が融点20℃以下の食用油脂である請求項1記載のケーキ。
【請求項3】
連続式起泡化装置を用いてケーキバッターを製造する請求項1又は2項記載のケーキの製造方法。

【公開番号】特開2006−136331(P2006−136331A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362936(P2005−362936)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【分割の表示】特願2000−400710(P2000−400710)の分割
【原出願日】平成12年12月28日(2000.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】