説明

ケーブルハーネス

【課題】機器の可動部に使用されるケーブルハーネスであって、耐静電ノイズ、機械特性、配線作業に優れるケーブルハーネスを提供する。
【解決手段】複数本の電線からなる電線群2の両端部に接続端末3を有するケーブルハーネス1であって、電線群2の外周に金属めっき高張力繊維で編組された編組スリーブ4が配され、編組スリーブ4の両端には機器内のグランド部に電気的に接続されるグランド接続部5を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の開閉部、捻回部、U字スライド部で使用されるケーブルハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話、小型ビデオカメラなどの普及で、これら機器の小型・軽量化に加えて、データの高速伝送、高密度化が求められている。そしてこれらの機器においては、通常、表示部は開閉・捻回・スライド可能な構造とされていて、このため、最近では機器の本体部と表示部との間のハーネスは、極細の同軸線を複数本束ねたケーブルハーネスが用いられている。
【0003】
このケーブルハーネスは表示部と本体部間の狭いスペースの中で筺体と接触しながら配線されるため、同軸線の挟み込み&擦れ防止のため、ハーネスの中間部をPTFE(四ふっ化エチレン)からなるテープで結束されている。
【0004】
図10に示されるように、従来のケーブルハーネス121は、電線122の挟み込み、擦れを防止するために、ケーブルハーネス121の中間部(端末を除いた部分)においては、電線122がPTFE(四ふっ化エチレン)からなるテープ123で巻かれて結束されている。電線122の両端末にはコネクタ124が取り付けられている。コネクタ124は複数の極を有し、電線122内の複数本の芯線125がそれぞれコネクタ124の各極に接続される。テープ123の端末は粘着テープ126で巻かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−24372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯電話などの機器の開閉部、捻回部、U字スライド部(以下、可動部)で使用される電線のジャケット材質はふっ素樹脂が多く、結束テープもふっ素樹脂系のPTFE(四ふっ化エチレン)である。しかし、ふっ素樹脂は静電気を発生しやすく、更に信号線や周辺のアンテナから放射される電磁波によって、回路間に電磁干渉(EMI)を与えることから、可動部での電線ジャケット同士とPTFEテープ間の摩擦で発生する静電ノイズと信号線から放射される電磁波を抑制することが必要とされる。
【0007】
しかし、PTFEテープで一定方向に結束したケーブルハーネス全体は、柔軟性とバランスに欠けており、配線作業の際に曲げ方向に方向性を持ちやすく、反発しやすい。
【0008】
また、ケーブルハーネスに含まれる同軸線は、PTFE結束テープによって、動きが制限されるため、本来持っている機械特性が劣化しやすい。
【0009】
また、PTFEテープで結束されたケーブルハーネスは、丸い形になりやすく、楕円、四角、三角のような異型構造の筺体のスペースには配線作業が難しい。もし、異型構造の筺体のスペースに無理にケーブルハーネスを通すと、押し傷で電線にダメージが発生しやすい。
【0010】
近年スライド式の携帯電話にもケーブルハーネスを用いる検討がなされているが、ケーブルハーネスがPTFEテープで結束されているとU字スライドの動きがスムーズにできない。
【0011】
これらの課題に対処するべく、特許文献1には、銅箔糸を用いて編組スリーブを形成し、この編組スリーブ内に電線群を挿通すると共に、銅箔糸を電気コネクタのグランド電位部分に接続するか又は別途グランド端子に接続して機器内のグランド端子に接続するか又は電線群の中間部位で銅箔糸を同軸線の外部導体に接続することが記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1記載のハーネスでは、銅箔糸が硬いため、屈曲部において電線群とスリーブとが直接接触して、銅箔が電線のジャケットを削ってダメージを与えないように電線群を絶縁テープで保護・結束してからスリーブ内に挿通しなければならず、コストが高くなる要因となる。また、絶縁テープで結束していることにより上記テープで結束されたケーブルハーネスのようにU字スライドの動きがスムーズにできなくなる。更に、銅箔糸は高抗張力繊維に銅箔テープを巻き回したものであるため、屈曲運動の繰り返しによって銅箔が劣化・剥がれて基板上に落下してショートなどの故障原因となるおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、機器の可動部に使用されるケーブルハーネスであって、耐静電ノイズ、機械特性、配線作業に優れるケーブルハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、複数本の電線からなる電線群の両端部に接続端末を有するケーブルハーネスであって、前記電線群の外周に金属めっき高張力繊維で編組された編組スリーブが配され、前記編組スリーブの両端には機器内のグランド部に電気的に接続されるグランド接続部を有するものである。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明は、複数本の電線からなる電線群の両端部に接続端末を有するケーブルハーネスであって、前記電線群の外周に引張り強度700MPa以上の高張力PET糸と金属めっき高張力繊維とが交互に編組された編組スリーブが配され、前記編組スリーブの両端には機器内のグランド部に電気的に接続されるグランド接続部を有するものである。
【0016】
前記編組スリーブは、前記金属めっき高張力繊維からなる第1の糸と前記高張力PET糸からなる第2の糸が交差するように編組されたものであってもよい。
【0017】
前記編組スリーブは、前記金属めっき高張力繊維および前記高張力PET糸が混合された第1の糸と、前記高張力PET糸からなる第2の糸とが交差するように編組されたものであってもよい。
【0018】
前記第1の糸は、前記金属めっき高張力繊維と前記高張力PET糸とが交互に並列されて形成されていてもよい。
【0019】
前記高張力PET糸は単線であり、前記金属めっき高張力繊維はマルチ素線であってもよい。
【0020】
前記グランド接続部は、開閉部、捻回部、U字スライド部のいずれかを有する機器のグランド部分に電気的に接続されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐静電ノイズ、機械特性、配線作業に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態を示すケーブルハーネスの側面図である。
【図2】(a)は、1心の同軸線の横断面図、(b)は、Quad−Xの横断面図である。
【図3】(a)、(b)は、本発明のケーブルハーネスにおける編組スリーブの拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態を示すケーブルハーネスの側面図である。
【図5】本発明の一実施形態を示すケーブルハーネスの側面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示すケーブルハーネスの側面図である。
【図7】屈曲試験方法を示す図である。
【図8】捻回試験方法を示す図である。
【図9】スライド試験方法を示す図である。
【図10】従来のケーブルハーネスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1(a)〜図1(d)に示したケーブルハーネス1は、いずれも本発明に係るケーブルハーネス1である。説明の便宜上、これらの図は側面図とし、図の上下をケーブルハーネス1の上下、図の左右をケーブルハーネス1の左右とする。これらのケーブルハーネス1が任意の方向に向けて使用できることは言うまでもない。
【0025】
図1(a)〜図1(d)に示した本発明のケーブルハーネス1は、複数本の電線からなる電線群2の両端部に接続端末3を有するケーブルハーネス1であって、電線群2の外周に金属めっき高張力繊維を含んで編組された編組スリーブ4が配され、編組スリーブ4の両端と電線群2中の外部導体の両端とが電気的に並列接続されているグランド接続部5を有する。
【0026】
ここで電線群2に用いる電線としては、内部導体を外皮で絶縁された絶縁ワイヤ、外部導体が外皮で絶縁されたLVDS用4心対角同軸線(Quad-X)、外部導体が外皮で絶縁された1心の同軸線、2心平行同軸線(Twinaxケーブル)、及びツイストペアケーブルが考えられ、これらの電線の内いずれか一種類のみを複数本集めたもの、又は少なくとも二種類以上の電線を集めたものを用いることができる。なお、絶縁ワイヤのみからなる電線群2を用いる場合には、編組スリーブ4の両端のみを機器のグランド部分に電気的に接続する。
【0027】
また編組スリーブ4を構成する金属めっき高張力繊維としては、アルミニウムや銅やそれらの合金で表面がめっき処理されたPET(ポリエチレンテレフタレート)糸やポリエステル糸などからなる高張力繊維を用いることができる。高張力繊維としては、後述する高張力PET(ポリエチレンテレフタレート)糸と同様、引っ張り強度が700MPa以上であることが好ましい。本実施例においては、表面が銅でめっき処理されたPET糸からなる銅めっきPET糸を金属めっき高張力繊維として用いることとした。
【0028】
編組スリーブ4は、その端末においてほどけないように粘着テープ6で巻かれて電線群2と共に固定されている。
【0029】
グランド接続部5は、開閉部、捻回部、U字スライド部のいずれかを有する機器(図示せず)のグランド部分に電気的に接続しやすいように、銅めっきPET糸延長部7が粘着テープ6よりも左右に延ばして設けられる。
【0030】
図1(a)のケーブルハーネス1では、左右に伸びた電線群2に対し両端の接続端末3が電線群2の延長線を中心にして上下に長く配置されている。電線群2を構成する個別の電線は、粘着テープ6の左右から接続端末3へ向けて三角形状に広がるように分離されている。
【0031】
図1(b)のケーブルハーネス1では、左右に伸びた電線群2に対し両端の接続端末3が左右に長く配置されている。電線群2の左端では電線群2の延長線より上に接続端末3が配置され、電線群2の右端では電線群2の延長線より下に接続端末3が配置されている。電線群2を構成する個別の電線は、粘着テープ6の左右から左又は右に伸び、接続端末3の各極に対向する位置で1本ずつ上又は下に曲げられて分離され、そのまま上又は下に真っ直ぐ接続端末3の各極まで伸びている。
【0032】
図1(c)のケーブルハーネス1は、左端では図1(a)のケーブルハーネス1と同様に接続端末3が電線群2の延長線を中心にして上下に長く配置され、電線群2を構成する個別の電線は、粘着テープ6の左右から接続端末3へ向けて三角形状に広がるように分離されている。右端では、図1(b)のケーブルハーネス1と同様に電線群2の延長線より下に接続端末3が左右に長く配置されている。電線群2を構成する個別の電線は、粘着テープ6から右に伸び、接続端末3の各極に対向する位置で1本ずつ下に曲げられて分離され、そのまま下に真っ直ぐ接続端末3の各極まで伸びている。
【0033】
図1(d)のケーブルハーネス1では、左右に伸びた電線群2に対し両端の接続端末3が左右に長く電線群2の延長線より上に配置されている。電線群2を構成する個別の電線は、粘着テープ6の左右から左又は右に伸び、接続端末3の各極に対向する位置で1本ずつ上に曲げられて分離され、そのまま上に真っ直ぐ接続端末3の各極まで伸びている。
【0034】
Quad−Xと1心の同軸線について説明する。
【0035】
図2(a)に示されるように、1心の同軸線21は、複数本の金属細線を撚り合わせた内部導体22と、該内部導体22を覆う内部絶縁体23と、該内部絶縁体23を覆う外部導体24と、該外部導体24を覆う外部絶縁体(外皮)25とを有する。
【0036】
図2(b)に示されるように、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)用4心対角同軸線(Quad−X)26は、導体201と該導体201を覆う絶縁体202とからなる互いに絶縁された4本の芯線27を有し、さらに、これら4本の芯線27を一括して覆う一括内部絶縁体28と、該一括内部絶縁体28を覆う外部導体24と、該外部導体24を覆う外部絶縁体(外皮)25とを有する。
【0037】
編組スリーブ4について説明する。
【0038】
図3(a)に示されるように、銅めっきPET(100%ポリエステル)糸31を複数本、縦糸と横糸にし、電線群2の周囲に所定の螺旋径かつ所定の螺旋ピッチで、これら縦糸と横糸が交差するように巻くことで銅めっきPET糸31を編組して筒状の編組スリーブ4が構成される。
【0039】
銅めっきPET糸31は、携帯電話のヒンジ部など狭いスペースを通すことを考慮すると太さは30〜80D(デニール)が望ましい。銅めっき厚は80〜120μmの範囲内であることが望ましい。めっき厚が前記範囲より薄すぎると電磁干渉を抑制する効果が少なく、めっき厚が前記範囲より厚過ぎると銅めっきが可動部で擦れ、取れやすくなる。通常携帯電話に用いる極数の電線群2を通すことを考慮すると、編組スリーブ4の内径は1.0〜3.0mmが望ましい。
【0040】
銅めっきPET糸31は、金属めっきを施した高張力繊維であり、柔らかく、耐屈曲、耐磨耗性に優れるため、携帯電話のヒンジ部で30万回以上の繰り返し曲げと捻りにも傷が付きにくく、電線群2にも外部からの擦れや座屈などのダメージを与えない。また、銅めっきPET糸31は、マルチ素線で形成されたPET糸に銅めっきを施してなるため、めっきの表面と電線ジャケット(外皮25)表面との直接接触は可能である。
【0041】
マルチ素線は、複数本の素線(複数本の高張力繊維)が撚り合わさったものであり、同じ外径を有するマルチ素線と1本の高張力繊維からなる単線とを比較すると、マルチ素線の方がコシ(弾力性)が小さい。そのため屈曲させると、単線の場合は線の断面がより円形を保とうとするのに対して、マルチ素線の場合は各素線が屈曲により移動して、マルチ素線の断面が扁平形状になる。従って、マルチ素線とすることにより電線群2の電線との接触が柔らかくなる(接触面積が大きくなる)ので、電線に対するダメージを低減することができる。
【0042】
編組スリーブ4の網目dの距離は、網目が乱れず形状が保持しやすいことと編組スリーブ4全体の硬さ且つ網目から電線群2の電線が飛出さないようにするためのバランスとから考慮すると、0.1〜1.0mmが望ましい。
【0043】
また、編組スリーブ4の役目はケーブルハーネス1全体の電線群2をまとめ、機器(図示せず)の本体と液晶表示側筺体の動きに合せ柔軟にケーブルハーネス1を動作させることなので網目の持数は4〜10持が望ましい。これよりも網目の持数が多すぎると編組スリーブ4の外径が太くなり、柔軟性に欠ける。
【0044】
図3(b)に示されるように、銅めっきPET糸31に、めっき処理が施されていない高張力繊維である引っ張り強度が700MPa以上の高張力PET(ポリエチレンテレフタレート)糸32を組み合わせて編組スリーブ4が構成される。高張力PET糸32は、携帯電話のヒンジ部など狭いスペースを通すことを考慮すると、外径0.04〜0.10mmが望ましい。また、編組スリーブ4の網目の持数は前述同様の理由で4〜10持が望ましい。700MPa以上の高張力PET糸を用いることにより十分な耐屈曲性が得られるからである。
【0045】
銅めっきPET糸31と高張力PET糸32とを組み合わせてなる編組スリーブ4としては、例えば複数本(4〜10持)の銅めっきPET糸31からなる第1の糸(例えば、縦糸)と、1本以上の高張力PET糸32からなる第2の糸(例えば、横糸)とを交差するように巻くことで編組して構成される。編組スリーブ4をこのような構成とすることにより、機器の可動部に配置させたケーブルハーネスが屈曲、捻回、あるいはU字状にスライドした際に、特に第1の糸と第2の糸とを交差させた部分において、銅めっきPET糸31の銅めっき同士が屈曲などによってお互いに擦れ合うことを低減することができるため、銅めっきPET糸31における銅めっきの摩耗や剥がれを発生し難くすることができる。
【0046】
また、編組スリーブ4は、銅めっきPET糸31および高張力PET糸32を混合して形成された第1の糸(例えば、縦糸)と、高張力PET糸32からなる第2の糸(例えば、横糸)を交差するように編組することで構成されていてもよい。このとき、第1の糸は、銅めっきPET31と高張力PET糸32とが交互に並列されて形成されているとより好ましい。このように編組スリーブ4が形成されていることにより、可動部にて屈曲、捻回、あるいはU字状にスライドした際に、第1の糸と第2の糸とが交差する部分、および第1の糸において、銅めっきPET糸31の銅めっき同士が擦れ合うことを防止することができる。
【0047】
銅めっきPET糸31と高張力PET糸32とを組み合わせてなる編組スリーブ4を用いる場合には、少なくとも銅めっきPET糸31が機器のグランド部分に電気的に接続されていれば良く、電気接続に問題が無い場合には、銅めっきPET糸31と高張力PET糸32とをまとめて機器のグランド部分に接続することにより接続工程を簡素化できる。また、銅めっきPET糸31と高張力PET糸32とを組み合わせてなる編組スリーブ4を用いる場合には、静電ノイズの増大を抑制するべく、編組スリーブ4の単位表面積あたりの銅めっきPET糸31の割合が60%以上であることが好ましい。
【0048】
また、銅めっきPET糸31は上述の理由によりマルチ素線とし、高張力PET糸32は以下の理由により単線とするのが好ましい。すなわち、高張力PET糸32を単線にすることにより編組スリーブ4にコシ(弾力性)ができるため、スライド部においてスライド運動を補助するような弾性力や、屈曲部において屈曲運動を補助するような弾性力(元の形状に戻ろうとする復元力)が得られるようになり、機器の可動部における運動性能が向上するからである。なお、編組スリーブ4に求められるシールド性能と運動性能に応じて、銅めっきPET糸31と高張力PET糸32との比率を適宜変更すればよい。
【0049】
次に、本発明の作用効果を説明する。
【0050】
本発明のケーブルハーネス1は、電線群2の外周に銅めっきPET糸31からなる編組スリーブ4が配され、編組スリーブ4の両端部には、機器内のグランド部分に接続され、かつ電線群2中の1心の同軸線21やQuad−X26の外部導体25の両端と電気的に並列接続されるグランド接続部5を有する。これにより、液晶ディスプレイを備えた可動部が機器本体に対して開閉・捻回、スライド可能な構造とされているノートパソコン、携帯電話、小型ビデオカメラ、PDAなど小型電子機器において、機器本体と可動部との間の信号伝送にケーブルハーネス1を使用したとき、耐静電ノイズ、機械特性、配線作業に優れる。
【0051】
本発明に用いる銅めっきPET線31は、特許文献1の銅箔糸と違い、素手で引きちぎることが可能なほど柔らかいため、電線群2の電線のジャケット(外皮25)にダメージを与えるおそれが無く、電線群2をPTFEテープなどで保護・結束せずに、編組スリーブ4内に直接挿通することができ、コストを低減することができる。
【0052】
また、ケーブルハーネス1は、従来より柔軟となり、耐屈曲性が向上する。
【0053】
また、ケーブルハーネス1は、編組スリーブ4に銅めっきPET線31を用いているため、回動・捻回・スライド運動を繰り返して銅めっきPET線31が劣化しても、金属粉末が発生するだけなので、この金属粉末が基板上に落下してもショートなどの故障の原因となるおそれは無い。
【0054】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
【0055】
図4に示されるケーブルハーネス1では、上と下にそれぞれ接続端末3が配置され、上の接続端末3は右に向けて配置され、下の接続端末3は左に向けて配置されている。両接続端末3間に、2股に分かれた電線群2が上下に伸びている。各電線群2は、それぞれ複数の電線(1心の同軸線21、Quad−X26を含む)からなる。各電線群2は、それぞれ個別に編組スリーブ4を有し、各編組スリーブ4の端末が共通の粘着テープ6で巻かれることにより、各電線群2と各編組スリーブ4が一体化されている。各電線群2の電線は、接続端末3の各極に対向する位置で1本ずつ右又は左に曲げられて分離され、そのまま真っ直ぐ接続端末3の各極まで伸びている。このケーブルハーネス1のように、編組スリーブ3を2股等の複数分岐とし、電線群2別に編組スリーブ4に収容してもよい。
【0056】
図5に示されるケーブルハーネス1では、右と左にそれぞれ接続端末3が配置され、右の接続端末3は右に向けて配置され、左の接続端末3は左に向けて配置されている。両接続端末3間は、2股に分かれた電線群2で接続されている。各電線群2は、それぞれ個別に編組スリーブ4を有し、各編組スリーブ4の端末が共通の粘着テープ6で巻かれることにより、各電線群2と各編組スリーブ4が一体化されている。粘着テープ6よりも接続端末3側の電線群2の電線は、接続端末3へ向けて三角形状に広がるように1本ずつに分離されている。編組スリーブ4が施された一方の電線群2は、所定長の直結ハーネス51であり、別の編組スリーブ4が施されたもう一方の電線群2は、それよりも長い迂回ハーネス52である。迂回ハーネス52は、直結ハーネス51に対して余長を有する。このケーブルハーネス1のように、編組スリーブ4を2股等の複数分岐とし、編組スリーブ4の長さ、電線群2の長さを異ならせてもよい。
【0057】
図6に示されるケーブルハーネス1では、左右に伸びた電線群2に対し両端の接続端末3が左右に長く配置されている。電線群2の左端では電線群2の延長線より上に、接続端末3が上に向けて配置され、銅めっきPET糸延長部7が左下方に延ばして設けられている。電線群2の右端では電線群2の延長線より下に接続端末3が下に向けて配置され、銅めっきPET糸延長部7が右上方に延ばして設けられている。
【実施例】
【0058】
本発明のケーブルハーネス1と比較対照用のケーブルハーネスを作製し、機械特性の評価を行うものとする。
【0059】
まず、ケーブルハーネスと編組スリーブについて説明する。
【0060】
(1)1心の同軸線21(図2(a)参照)を用いたケーブルハーネス
内部導体22は、φ0.064mmスズめっき銅合金線を7本撚ったものである。その内部導体22の周囲に0.06mmの肉厚でPFAからなる内部絶縁体23を形成した。この外周にφ0.04mmスズめっき銅合金線を編組して外部導体24を形成した。その外部導体24の周囲に肉厚0.04mmのPFAからなる外皮25を形成した。この同軸線21の外径はφ0.344mmである。
【0061】
この同軸線21を40本束ねて、下記に説明する編組スリーブ4内に通したケーブルハーネス1を実施例1として製作し、また、この同軸線21を40本束ねて、55μm厚のPTFEテープを1/2ラップで巻いて比較例1を製作した。
【0062】
(2)Quad−X26(図2(b)参照)を用いたケーブルハーネス
導体201は、φ0.064mmスズめっき銅合金線を7本撚ったものである。その導体201の周囲に0.06mmの肉厚でPFAからなる絶縁体202を形成し、芯線27とした。この芯線27を4本束ねて撚り合わせたものをポリエステルテープからなる一括内部絶縁体28で抑え巻きしてから、φ0.064mmスズめっき銅合金線で横巻きしてシールド層としての外部導体24を形成し、ふっ素樹脂や銅めっき(蒸着)ポリエステルテープとポリエステルテープを貼り合わせたものを巻いてシース(外皮25)とし、4心対角同軸線(Quad−X)26を製作した。この4心対角同軸線26の外径は、φ0.57mmである。
【0063】
このQuad−X26を10本束ねて、下記に説明する編組スリーブ4内に通したケーブルハーネス1を実施例2として製作し、また、このQuad−X26を10本束ねて、55μm厚のPTFEテープを1/2ラップで巻いて比較例2を製作した。
【0064】
(3)編組スリーブ(図3参照)
PET糸は30Dのものを用い、これに厚さ100μmの銅メッキを施したものを銅めっきPET糸(金属めっきが施された高張力繊維)31として用いた。編組スリーブ4の内径は2.0mmとし、網目dは、0.2mmとし、網目の持ち数4として編組スリーブ4を製作した。これを所望の長さだけ切り出して、両端部において銅めっきPET糸31がほどけないようにテープで固定した。
【0065】
なお、編組スリーブ4は、金属めっき高張力繊維と高張力繊維とを交互に用いて編んだ交織編組で形成しても良く、本発明の効果が得られる。
【0066】
次に、本発明のケーブルハーネス1に対する機械特性の評価試験について説明する。
【0067】
図7に示されるように、屈曲試験では、試料ケーブル71を曲げジグ72に挟み込み、曲げジグ72から垂下された試料ケーブル71の下端に荷重200gを取り付ける。曲げジグ72を#1のように90°左に回転させ、#2のように90°右に回転させて元に戻し、さらに、曲げジグ72を#3のように90°右に回転させ、#4のように90°左に回転させて元に戻す。これにより、試料ケーブル71は所定の引っ張り荷重がかけられた状態で左右に90°ずつの屈曲を繰り返し与えられることになる。
【0068】
試料ケーブル71は、実施例1,2、比較例1,2を用いる。
【0069】
試験速度は30回/分。屈曲角度は±90°。試験サイクルは#1→#2→#3→#4。荷重は2N(200gf)。曲げ半径は6mmとする。
【0070】
断線検知方法は、試料ケーブル71に常時数Vの電圧を加え、電流値が試験開始時に比べて20%低下した時点を寿命(断線が起きる回数)とする。
【0071】
図8に示されるように、捻回試験では、試料ケーブル81を固定チャック部82と捻回チャック部83で把持する。固定チャック部82と捻回チャック部83との間が捻回部84となる。捻回チャック部83を#1のように180°左旋回させ、#2のように180°右旋回させて元に戻し、さらに、捻回チャック部83を#3のように180°右旋回させ、#4のように90°左旋回させて元に戻す。これにより、試料ケーブル81は捻回部84において左右に180°ずつの捻回を繰り返し与えられることになる。
【0072】
試料ケーブル81は、屈曲試験の試料ケーブル71と同じものを用いる。
【0073】
試験速度は30回/分。屈曲角度は±180°。試験サイクルは#1→#2→#3→#4。荷重は0.05N(50gf)。捻回部長さは10mmとする。
【0074】
断線検知方法は、試料ケーブル81に常時数Vの電圧を加え、電流値が試験開始時に比べて20%低下した時点を寿命(断線が起きる回数)とする。
【0075】
図9に示されるように、スライド試験では、試料ケーブル91にU字状の折り返し部92を形成する。試料ケーブル91の先端部93を#1のように折り返し部92のほうへ直線移動させ、#2のように折り返し部92と反対方向に直線移動させて元に戻す。これにより、試料ケーブル91は所定の長さ範囲にわたりU字状の折り返しを繰り返し与えられることになる。
【0076】
試料ケーブル91は、屈曲試験の試料ケーブル71と同じものを用いる。
【0077】
試験速度は30回/分。スライド内幅は80mm。試験サイクルは#1→#2。ストローク長は60mmとする。
【0078】
断線検知方法は、試料ケーブル91に常時数Vの電圧を加え、電流値が試験開始時に比べて20%低下した時点を寿命(断線が起きる回数)とする。
【0079】
機械特性の評価試験の結果を説明する。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
1)表1に示されるように、 屈曲特性においては比較例1,2は、21万サイクル又は15万サイクルで断線したのに対して、実施例1,2は、30万サイクル以上又は22万サイクルでも断線はなかった。また、編組スリーブ4には割れ傷がなかった。
【0084】
2)表2に示されるように、捻回特性においては比較例1,2は、20万サイクル又は19万サイクルで断線したのに対して、実施例1,2は、30万サイクル以上でも電線の断線はなかった。また、編組スリーブ4には割れ傷がなかった。
【0085】
3)表3に示されるように、スライド試験においては比較例1,2は、4万サイクル又は4.5万サイクルで断線したのに対して、実施例1,2は、20万サイクル以上でも電線の断線はなかった。また、編組スリーブ4には割れ傷がなかった。
【0086】
(実施例3〜実施例5、比較例3)
実施例1で用いた銅めっきPET糸からなる第1の糸と、表4に示す引張り強度を有する高張力PET糸からなる第2の糸とを交互に編んで編組スリーブを作製し、この編組スリーブ内に実施例1で用いた1心同軸線を挿通させてケーブルハーネスを作製した。得られたケーブルハーネスについて、実施例1、2と同様の方法で機械特性を評価した。その結果を表4に示す。なお、屈曲寿命、捻回寿命、スライド寿命は、上記の実施例1、2と同様に、20万回以上であるものを合格とし、20万回未満のものを不合格とした。
【0087】
【表4】

【0088】
表4に示されるように、引張り強度が700MPa以上の高張力PET糸を使用している実施例3〜5では、屈曲寿命、捻回寿命、スライド寿命がともに20万回以上であることが判る。一方、引張り強度が700MPaよりも小さい高張力PET糸を使用した比較例3では、屈曲寿命、捻回寿命、スライド寿命がともに20万回を大きく下回っていることが判る。このことから、高張力PET糸の引張り強度は700MPa以上が望ましい。
なお、実施例3、4では、銅めっきPETの割合が83.3%であるため、EMI特性が実施例5よりも良好であった。
【0089】
以上の試験結果により、本発明のケーブルハーネス1は、従来より機械特性に優れることが確認できる。これに加えて本発明のケーブルハーネス1は、銅めっきPET糸31を含んで編組された編組スリーブ4を備えるので、耐静電ノイズ性に優れると共に、特許文献1記載のハーネスのような銅箔剥離に伴う不具合がない。
【符号の説明】
【0090】
1 ケーブルハーネス
2 電線群
3 接続端末
4 編組スリーブ
5 グランド接続部
6 粘着テープ
7 銅めっきPET糸延長部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線からなる電線群の両端部に接続端末を有するケーブルハーネスであって、
前記電線群の外周に金属めっき高張力繊維で編組された編組スリーブが配され、前記編組スリーブの両端には機器内のグランド部に電気的に接続されるグランド接続部を有することを特徴とするケーブルハーネス。
【請求項2】
複数本の電線からなる電線群の両端部に接続端末を有するケーブルハーネスであって、
前記電線群の外周に引張り強度700MPa以上の高張力PET糸と金属めっき高張力繊維とが交互に編組された編組スリーブが配され、前記編組スリーブの両端には機器内のグランド部に電気的に接続されるグランド接続部を有することを特徴とするケーブルハーネス。
【請求項3】
前記編組スリーブは、前記金属めっき高張力繊維からなる第1の糸と、前記高張力PET糸からなる第2の糸とが交差するように編組されたことを特徴とする請求項2記載のケーブルハーネス。
【請求項4】
前記編組スリーブは、前記金属めっき高張力繊維および前記高張力PET糸が混合された第1の糸と、前記高張力PET糸からなる第2の糸とが交差するように編組されたことを特徴とする請求項2記載のケーブルハーネス。
【請求項5】
前記第1の糸は、前記金属めっき高張力繊維と前記高張力PET糸とが交互に並列されて形成されている請求項4記載のケーブルハーネス。
【請求項6】
前記高張力PET糸は単線であり、前記金属めっき高張力繊維はマルチ素線であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のケーブルハーネス。
【請求項7】
前記グランド接続部は、開閉部、捻回部、U字スライド部のいずれかを有する機器のグランド部分に電気的に接続されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のケーブルハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−29155(P2011−29155A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106919(P2010−106919)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】