説明

ケーブル探査方法及びケーブル探査装置

【課題】ケーブル探査装置において、ノイズ環境下であっても確実に探査可能とすることは重要な課題である。
【解決手段】複数のケーブルのうち探査対象ケーブルの導体に電気信号を印加し、探査対象ケーブルの導体に流れる電流を探査対象ケーブルに近接またはクランプした磁電変換手段によって検出し、前記検出した信号の位相または極性情報で前記探査対象とするケーブルであるか否かを判定するケーブル探査装置であって、導体に印加する電気信号は直交周波数分割多重信号であって、電気信号を検出して探査対象ケーブルであるか判定する受信機は、印加する直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割り付ける位相情報を予め備え、検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するとともに、検出した信号の一部またはすべてのサブキャリアの位相情報を取得し、位相情報と予め備える位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル探査方法及びケーブル探査装置に係り、特に、既に敷設されているケーブルの敷設経路及び接続先を探査するのに好適なケーブル探査方法及びケーブル探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、産業プラント及びビルなどの施設では、機器の状態監視、制御及び電力供給のためのケーブルが施設内に敷設されている。ケーブルは、ケーブルトレイ内に施工図面を基にして敷設されるため、どの経路を通っているかは既知の場合が多い。ケーブルトレイには、計測用、制御用、低圧動力用、高圧動力用の各ケーブルが載っており、それぞれのケーブルが、異なるケーブルトレイに分けられている場合もあれば、区別なく1つのケーブルトレイに混在している場合もある。1つのケーブルトレイ内には、通常数本から数十本、場合によっては100本を超えるケーブルが敷設されている。
【0003】
各ケーブルは、1芯ケーブル及び多芯(2芯以上)ケーブルを含んでおり、更に、シールドの有無、太さ及び敷設長も様々である。各ケーブルの末端部には、様々な機器が接続されている場合もあれば、何も接続されていない場合もある。
【0004】
このような施設では、ケーブルの劣化による短絡事故及びデータ伝送不良を防ぐために、ケーブルを交換したり、あるいは新しい機器の設置に伴って古い機器で使用していたケーブルを撤去したりする場合がある。ケーブルはケーブルトレイ内で他のケーブルと絡み合っていたり、探査対象ケーブル自体がケーブルトレイ及び他のケーブルと結束されていたりしている。従って、ケーブルトレイ内に敷設された各ケーブルの末端部から探査対象ケーブルのみを引き抜くことは困難な場合がほとんどである。このようなときには、末端部からケーブルを辿っていき、適当な箇所で切断し引き抜く作業を繰り返すが、ケーブルを目視でたどる作業は非常に困難である。例えば、壁及び天井の貫通部、ケーブルダクトといった目視でケーブルをたどれない場所では、どれが探査対象ケーブルであるかを判別することが難しい。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1では探査対象ケーブルに探査用信号を流し、この信号を捕らえてケーブルを識別するケーブル探査方法が提案されている。この方法は、探査用信号を探査対象ケーブルの導体部分に印加して流し、そのケーブルの周囲に発生する磁界及び電界を検出することによりケーブルを判別する。探査対象ケーブル以外に隣接しているケーブルにも探査用信号が誘導するため、判別には、ケーブルから放射する探査用信号の位相情報を用いる。例えば逆位相だった場合には隣接ケーブルに誘導した信号であるとして探査対象とするケーブルのみを判定する。位相を判定するためには判定タイミングの基準が必要であるため、以下のような手段を講じている。
【0006】
図8は従来のケーブル探査装置の送信機を示すブロック回路図である。図8において、送信機21は、タイミング検出用信号発生回路22、位相信号発生回路23、合成回路24および増幅器12により形成した探査用信号25を、電磁変換素子2を介して探査対象のケーブルに印加して、探査を行う。
【0007】
探査用信号は位相検出用信号の前にタイミング検出用信号を付加している。探査用信号を検出して探査対象ケーブルか否かを判定する受信機では、タイミング検出用信号を用いて位相検出用信号の開始タイミングを検出し、位相検出用信号の位相を判定する。この方式は、送信機と受信機の間にタイミング情報を伝送するケーブルを新たに敷設する必要がないため、作業性向上、作業時間短縮の点で非常に効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010―204022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、上記従来技術をプラント内にて使用する場合には、ケーブル探査装置の周辺や探査したいケーブルの周辺にある機器やケーブルから数百kHzから数MHzの電磁界ノイズが非常に多く放射されており、このノイズによって探査対象ケーブルを判定できない可能性がある。制御用ケーブルについては電灯用の電源としても使用している場合がありインバータノイズが重畳していたり、計装ケーブルについても電気信号を伝送するためにノイズを多く放射する。
【0010】
特許文献1によると、位相判定信号は正弦波を用いている。事前にノイズの周波数が判明しておりこれと異なる周波数に位相判定信号を設定できればよいが、特にプラント内における探査作業はさまざまな場所で実施するためノイズ源の種類も多様でその周波数もそれぞれ異なる。これらをすべて回避可能とする周波数を見つけることは現実的には難しい。このような状況で位相検出用信号の周波数にノイズが重畳した場合には探査ができなくなる。そのためこのような状況下でも確実に探査可能とすることは重要な課題である。
【0011】
本発明の目的はケーブル探査装置においてノイズ環境下であっても確実に探査可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電磁変換手段を有する送信機によって探査対象ケーブルの導体に直交周波数分割多重信号からなる電気信号を印加し、前記探査対象ケーブルの導体に流れる電流を磁電変換手段を有する受信機によって検出し、検出した前記電気信号の位相または極性情報により、複数配設されたケーブル内における前記探査対象ケーブルであるか否かを判定するケーブル探査装置において、前記受信機は、前記印加する電気信号である直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割当てられた割当位相情報を予め備え、検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するタイミング検出手段と、検出した前記電気信号の少なくとも一部のサブキャリアの位相情報を取得する位相検出部と、前記位相検出部で検出した位相情報と前記予め備えた割当位相情報の差から得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する位相判定部を有することを特徴とする。
【0013】
また、ケーブル探査装置において、前記検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するタイミング検出手段は、前記磁電変換素子の受信信号と予め備える探査用信号の時間波形との相関関係を演算してタイミング信号を生成し出力するタイミング検出部からなることを特徴とする。
【0014】
また、ケーブル探査装置において、前記検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するタイミング検出手段は、前記磁電変換素子の受信信号をフーリエ変換して得られた位相角から、位相同期情報を生成し出力する位相同期部からなることを特徴とする。
【0015】
また、ケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に印加する同一の信号パターンを有する前記電気信号を少なくとも2回以上送出することを特徴とする。
【0016】
また、ケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に印加する同一の信号パターンを有する前記電気信号を間欠することなく送出することを特徴とする。
【0017】
また、ケーブル探査装置において、前記同一の信号パターンはシンボルからなることを特徴とする。
【0018】
また、ケーブル探査装置において、前記導体に印加する前記電気信号の周波数成分は少なくとも0.1MHz以上5MHz以下であることを特徴とする。
【0019】
また、ケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に流れる電気信号を前記探査対象ケーブルの導体に非接触で印加することを特徴とする。
【0020】
また、ケーブル探査装置において、前記受信機には前記検出した信号の信号対雑音レベル比を推定し、予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を出力するS/N推定部を有し、前記位相判定部は予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とする。
【0021】
さらに、複数のケーブルのうち探査対象ケーブルの導体に直交周波数分割多重信号からなる電気信号を印加する送信機と、前記探査対象ケーブルの前記導体に流れる電流を前記探査対象ケーブルに近接またはクランプした磁電変換手段によって検出し、前記検出した信号の位相または極性情報で前記探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を有するケーブル探査装置を用いたケーブル探査方法において、前記印加する電気信号である直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割り付ける位相情報を予め備え、前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するとともに、前記検出した信号の一部またはすべてのサブキャリアの位相情報を取得し、前記位相情報と前記予め備える位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とする。
【0022】
さらに、ケーブル探査方法において、前記前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する際に、前記磁電変換素子の受信信号と予め備える探査用信号の時間波形との相関関係を演算してタイミング信号を生成し出力することを特徴とする。
【0023】
さらに、ケーブル探査方法において、前記前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する際に、前記磁電変換素子の受信信号をフーリエ変換して得られた位相角から、位相同期情報を生成し出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、探査対象ケーブルの導体に直交周波数分割多重信号からなる電気信号を印加し、検出した前記電気信号の位相または極性情報により、複数配設されたケーブル内における前記探査対象ケーブルであるか否かを判定するケーブル探査装置において、受信機に印加する電気信号である直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割当てられた割当位相情報を予め備え、検出した前記電気信号の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するタイミング検出手段と、検出した前記電気信号のサブキャリアの位相情報を取得する位相検出部と、位相検出部で検出した位相情報と割当位相情報の差から得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することにより、ノイズと異なる周波数のサブキャリアを用いて探査することができるため、周辺機器やケーブルから放射するノイズが多い状況でも確実に探査できるようになるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のケーブル探査装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明のケーブル探査装置の送信機を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1における受信機の構成を示すブロック図である。
【図4】図3の位相減算部での処理方法を示す説明図である。
【図5】図3のS/N推定部での処理方法を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例2における受信機の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2における検出位相の周波数特性を示す説明図である。
【図8】従来のケーブル探査装置における送信機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態を、各実施例につき図面を用いて以下に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の実施例1におけるケーブル探査方法およびケーブル探査装置の基本構成を示す。送信機1から出力される探査用信号7を電磁変換素子2を用いて探査対象ケーブル3に印加し、受信機6に接続する磁電変換素子5を用いて探査対象ケーブル3、隣接ケーブル4に流れる探査用信号7を検出して探査対象ケーブル3か否かを判定する。ケーブルは図示しないケーブルトレイ内に敷設され、探査対象ケーブル3及びこれ以外の複数の隣接ケーブル4を含んでいる。
【0028】
各ケーブルは、同一のケーブルトレイ内の一部または全部の区間に亘って併走して配線されている。各ケーブルの導体の両端は、図示されていない端子盤、制御装置、機器及びセンサ等が接続されている。あるいは一部のケーブルは、端子盤、機器及び制御装置に接続されておらず、開放されているものやケーブルの端部が接地されているものもある。ケーブルとしては、平行ケーブルのほか、多芯ケーブル、単線ケーブル、同軸ケーブル及びシールド付ケーブルなどが用いられる。両端が開放されているケーブルは、例えば新しい機器に替えたために不要になり、ケーブルトレイから引き抜かずにそのまま残しているものである。
【0029】
図1では電磁変換素子1として例えば誘導結合素子や電流注入プローブ等を用いて非接触で信号を印加する。非接触方式の場合には、探査対象ケーブル3の端部だけでなく、経路途中からでも探査対象ケーブル3の被覆を剥くことなく信号を印加でき、作業性が高くなって作業時間短縮の効果がある。
【0030】
接触方式の場合は、探査対象ケーブル3の導体に電極を直接接触して探査用信号7を印加してもよい。ケーブルに電磁変換素子1を直接接触して信号を印加する場合には、非接触方式に比べて低い出力電圧でも信号が印加できるため、増幅器12の構成が簡単になり小型化が可能になるという効果がある。
【0031】
受信機6に接続する磁電変換素子5は例えば電流プローブまたはカレントトランスと呼ばれる非接触の検出素子からなる。磁電変換素子5はそれ以外にサーチコイルやループアンテナ等を用いてもよい。
【0032】
磁電変換素子5にループアンテナやサーチコイルを用いた場合には、探査対象ケーブル3から放射する電界または磁界か否かを判定するため比較的広い範囲で判定でき、ルートごとの判定に有利で例えばトレイの分岐点でどちらのルートに探査対象ケーブル3が敷設されているかを個別に探査することなく判別でき、探査作業時間が削減できる。一方で、電流プローブを用いれば、確実に1本の探査対象ケーブルを特定できる。
【0033】
探査用信号7の詳細について説明する。図1に示すように探査用信号7は、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)方式によって構成される信号8から構成される。OFDM信号は複数のサブキャリアから構成されているが、各サブキャリアに割り付ける位相情報(割当位相情報)を予め受信機6に備えている。
【0034】
OFDM信号8は有限時間長と同一信号パターンをもつ信号であり、ここでは一定時間長を1単位としたOFDM信号を1シンボルと称する。OFDM信号8を探査用信号7として送信機1から出力する。
【0035】
図2は実施例1の送信機1の構成を示すブロック図である。送信機1は、探査用信号発生回路11と増幅器12からなり、探査用信号発生回路11から出力する信号を増幅器12で増幅し、探査用信号7として電磁変換素子2に送る。
【0036】
探査用信号発生回路11では、予め保有する図示しない割当位相情報を用いて、OFDM信号8を生成し出力する。ただし、上記方式ではその都度OFDM信号生成のための処理を伴うため構成がやや複雑になる。この場合には、メモリに予め生成したOFDM信号8の時系列波形データを記録しておき予め定める時間間隔で1データずつ増幅器12に送り出してもよく、回路構成をより簡潔にすることができる。
【0037】
次に探査用信号7の送信方法について説明する。探査用信号7は、送信機1の操作者の命令または操作で1シンボル毎に出力してもよいし、予め設定する所定シンボル数あるいは所定時間だけ繰り返し送出してもよい。あるいは停止命令または停止操作があるまで繰り返しシンボルを出力してもよい。
【0038】
複数シンボルの送信を繰り返すことで受信機6では連続的に複数のシンボルを受信できるため、これら受信したシンボルを加算平均するとノイズ成分が減少しS/N(信号雑音比)が向上して、探査精度の向上に寄与する。
【0039】
また、停止命令があるまで連続して送信する方式であれば、受信機6の操作者からの探査用信号7の送信開始要求を1度受ければ、次に停止要求があるまで送信機1の操作が不要になる利点がある。つまり、探査作業では、受信機6側の作業員の操作ミスによる再測定や探査場所変更後の測定などが頻繁に発生するため、その都度、送信機1操作者に送信を依頼するのは作業者の負担が大きくなる。連続送信とすれば、再測定作業や作業場所を移動した場合であっても受信機6の操作者は送信機1の操作者に操作依頼をしなくてもよいため作業性がよい。
【0040】
信号を繰り返して送信する場合には、シンボルとシンボルの間に時間的な非送信期間を設けてもよいが、望ましくは非送信期間を設けず連続的に次のシンボルの送出を開始する方がよい。OFDM信号8はシンボルの先頭と最後が連続している特長がある。
【0041】
送信する探査用信号7波形に非送信期間などの不連続箇所があると、信号伝搬特性によっては受信信号114の時系列波形に過渡応答信号が発生してOFDM信号8の波形に含まれる情報が欠損する可能性があり、探査精度が低下する可能性がある。また、過渡応答信号を含む信号では、送信信号帯域を外れる不要な信号成分すなわち不要輻射が増大するため、本探査装置を使用する場所の周辺にある機器に悪影響を与える恐れがある。例えば原子力発電プラントであれば、比較的高周波の信号が検知可能な核計装システムに悪影響を与える。
【0042】
これに対し、非送信期間を設けずに繰り返し送信すれば、このような影響による探査性能低下や他のシステムへの影響を最小限にして探査が可能となる。これに加えて、受信機6では探査に寄与しない非送信期間を削除する処理が不要となる。
【0043】
図3は実施例1の受信機6の構成を示すブロック図である。受信機6では、磁電変換素子5で検出した探査用信号7を受信して探査対象ケーブル3の信号であるか否かを判定する。図3は位相判定のタイミング検出に相関処理や信号の立ち上がりを用いる場合の構成を示す。
【0044】
受信機6ではケーブルの判定に位相情報を用いる。このため任意のタイミングで受信した探査用信号7の位相情報ではなく、予め定めた時点での位相情報が必要である。タイミング検出部112は探査用信号7の予め定めた時点を検出する。タイミング検出部112では、磁電変換素子5の受信信号114と予め備える探査用信号7の時間波形との相関演算を実施し、相関値が高くなる時点でタイミング信号113を位相検出部109に出力する。
【0045】
探査用信号7のシンボル間に非送信期間を設けた場合では非送信期間から送信期間に移行する時点(信号立ち上がり)がシンボルの先頭であり、タイミング検出部112でこれを検出してタイミング信号113を出力してもよい。
【0046】
受信機6はリアルタイム処理だけでなく、アナログディジタル変換器でサンプリングした受信信号のサンプリング結果を図示しないメモリに保存しておき、その結果に対してタイミング検出処理やそれ以外の図3に示す処理を実施してもよい。
【0047】
タイミング信号113は、その時点が位相判定のタイミングであることを示す情報であればよく、例えばパルス信号を用いることができる。あるいは、受信信号114をサンプリングしているのであればサンプリングデータ番号であってもよい。
【0048】
位相検出部109では、受信信号114に対してタイミング信号113から送られるタイミングにおいて一部あるいは全てのサブキャリアに対して位相角情報を取得する。その方法としては、例えば受信信号114に対してフーリエ変換を実施してサブキャリアごとに得られる実数部、虚数部の情報から、位相角を計算する方法がある。
【0049】
位相検出部109で得られた位相角情報は位相減算部115に送る。位相減算部115では、予めメモリに備えている探査用信号7のOFDM各サブキャリアに割り当てた割当位相情報116を参照し、位相検出部109から送られる位相角情報から割当位相情報116をサブキャリアごとに減算する。
【0050】
次に、図4を用いて位相減算部115の信号処理方法を説明する。図4は縦軸に虚数部、横軸に実数部をもつ複素平面座標からなるグラフである。特定のサブキャリアに対して位相検出部109から送られる実数部と虚数部の位相が図4に○で示す検出位相座標である。そのサブキャリアに対して送信機1で予め割り当てた座標を●で示すキャリア割当位相座標とする。検出位相座標によって成す角を検出位相角、キャリア割当位相座標によって成す角を割当位相角とする。信号伝搬経路の特性が平坦すなわち伝達関数が1の場合には、検出位相座標はキャリア割当座標と同一座標になる。しかし、実際には、伝搬減衰、位相の周波数変化、ノイズなどの要因で振幅、位相ともに検出位相座標は変化しキャリア割当位相座標とは一致しない。
【0051】
位相減算部115では、割当位相角からの位相変化量を計算して出力する。つまり、「検出位相角」から「割当位相角」を減算して「検出位相角から割当位相角を補正した位相角」を算出すれば、信号伝搬経路で変化した位相角が求まる。算出結果は位相判定部110に送る。
【0052】
以上のことを考慮すると、位相角を算出するためには必ずしも割当位相情報116を用いなくてもよく、座標情報やOFDM信号8の波形を用いても位相角を算出することができる。
【0053】
S/N推定部120では、受信信号114を用いて周波数またはサブキャリアごとのS/N(信号対雑音電力比)を推定し、その結果を位相判定部110に送る。図5はS/N推定部120で実施するS/N推定処理の一例を説明する図である。S/N推定をする場合には少なくとも2シンボル以上のOFDM信号8を受信する必要がある。図5では各シンボル8のある特定のサブキャリアから取得する実数部及び虚数部からなる座標について着目しているが、これ以外のサブキャリアについても同様である。
【0054】
図5において、●で示す点は、各シンボル8の当該サブキャリアの座標である。当該サブキャリアの周波数にノイズが重畳していなければ座標は同一点になり、●は1点に重なる。逆にS/Nが悪いほど●のばらつきは大きくなる。○は●の平均であり、これを基準座標として原点からの○の距離と○からの●の距離との比がS/Nになる。これをキャリアごとに算出して位相判定部110に送る。
【0055】
位相判定部110では、位相減算部115から送られる結果とS/N推定部120から送る結果とを用いて探査対象ケーブル3の信号か否かを判定する。具体的には、位相が−90°から+90°の範囲内にある場合に探査対象ケーブル3からの信号であると判定する。ただし、予め設定したS/Nを満足しないサブキャリアの位相情報に対しては判定処理を実施しない。結果は表示部111に送られ、表示部11にて操作者に示される。なお、図5に示したS/N推定部120でのS/N推定方法はあくまで一例であり他の方法であってもよい。
【0056】
S/N推定部120がない場合や1シンボル8のみ受信して判定する場合でも後述する本発明の効果は十分に得られるが、S/N推定部120があればノイズによる誤判定を防止できるためさらに探査精度を向上できる効果がある。
【0057】
位相判定部110はS/N推定部120からの情報を取得しない場合には予め指定した一部またはすべてのサブキャリアに対して上記の位相判定処理を実施する。具体的には各サブキャリアから取得する位相情報を平均してその結果が−90°から+90°の場合に探査対象ケーブル3からの信号であると判定すればよい。
【実施例2】
【0058】
次に、図6に示す実施例2の受信機16の構成について説明する。図6の構成は、図3の受信機とは位相判定のタイミング検出方法が異なっている。すなわち、図3のタイミング検出部112がタイミング信号113を出力するのに替えて、図6では位相同期部117が位相同期情報118を出力しており、この点について説明する。
【0059】
位相同期部117では受信信号114を用いて各サブキャリアの位相角を算出する。例えば、フーリエ変換をして得られた実数部、虚数部の情報から位相角を求める。これに対して図4で示した方法と同様に割当位相角との差を求めると、信号伝搬経路の位相変化量に本来のタイミングと異なることによって変化する位相量が加わった結果が得られる。
【0060】
この結果を模式的に示したものを図7に示す。横軸は周波数、縦軸は得られた位相角である。図7中の点201はそれぞれ各サブキャリアの位相角であり、複数のサブキャリアについて示している。先に説明したように、図7は本来のタイミング(各シンボル先頭のタイミング)からずれた分だけ変化する位相量で傾きを生じている様子を模式的に示している。本来のタイミングであれば、傾きはほとんどないため、点201からなる略直線の傾きがほぼゼロとなるタイミングを検出すればよい。位相同期部117で図7に示す傾きとサンプリング周波数からゼロとなるタイミングは容易に計算でき、この結果を位相検出部109に送る。
【0061】
あるいは、図7の結果201に対して予め傾きがほぼゼロとなるように補正すれば、位相減算部115の出力と同様の結果が得られる。具体的には、例えば図7の位相結果201を直線近似し、一次近似結果の傾きを図7から差し引けばよい。
【0062】
なお受信機16においては説明していないが、すでに述べているように複数のOFDM信号8のシンボルを受信して加算平均する処理を適用すればOFDM信号8に信号伝搬途中に重畳したノイズ成分が減少してS/N比は向上し、探査精度を向上させることができる。
【0063】
送信する探査用信号7は、電磁変換素子2及び磁電変換素子5の周波数特性を考慮して決定することが望ましい。電磁変換素子2及び磁電変換素子5の信号通過帯域が例えば0.1MHz〜10MHzの場合、OFDM信号8のサブキャリア範囲についても0.1MHz〜10MHzの範囲内にする。これ以外の帯域のサブキャリアを付加してもよいが、帯域外成分は探査に寄与しないためエネルギーのロスとなる。それだけでなく、より高い周波数成分を含む信号とすると、送信機1及び受信機6に高いクロック周波数で動作する回路を備える必要があり、装置が高価になる。
【0064】
さらに実験の結果では探査用信号7は0.1MHz〜5MHz程度であれば、タイミング検出精度、位相判定精度の点でも十分であり、プラント内で利用する場合にはこの周波数範囲とすることで先述のように核計装システムなどへの影響を最小限にできるという効果がある。
【0065】
次に本発明実施例の効果を説明する。プラント内で使用する場合には、ケーブルにノイズが重畳していたり、あるいはケーブル探査装置の周辺にある機器から放射する電磁界ノイズが多い環境である。本発明においては、複数のサブキャリアからなるOFDM信号を探査用信号として用いる。そのため複数のサブキャリアの位相情報を用いて探査対象ケーブルか否かの判定をすることによってノイズがある環境においても正しく探査できる。
【0066】
ケーブル探査装置としては幅広い周波数帯域を持つパルス信号を用いる従来手法もあるが、広帯域の周波数成分を含んでいるため幅広い周波数帯域を用いている核計装システムへ影響を与える可能性がある。これに対し、OFDM信号は帯域制限信号であるため、パルス信号の場合に比して影響を低減できる。
【0067】
さらにこれとは異なる効果として以下がある。受信機6において受信するOFDM信号8を用いて、タイミング検出及び位相検出の両方を実施する。そのため送信する探査用信号7はOFDM信号8を送信する。従来の送信機では図8に示すように、タイミング検出用信号と位相検出用信号の両方を生成するためにそれぞれタイミング検出用信号発生回路22と位相信号発生回路23を備え、さらにそれを合成する合成回路24が必要になる。
【0068】
本発明では、この場合と比較して、少なくともOFDM1シンボル分の波形を生成し、または予め生成されたデータをメモリに記憶しておいて出力すればよいため、送信機1の構成が簡単になり小型化できるという効果がある。なお、装置の小型化は、プラント内での狭隘部作業が伴うことが多いため非常に重要である。
【符号の説明】
【0069】
1…送信機、2…電磁変換素子、3…探査対象ケーブル、4…隣接ケーブル、
5…磁電変換素子、6、16…受信機、7…探査用信号、8…OFDM信号またはOFDMシンボル(シンボル)、11…探査用信号発生回路、109…位相検出部、110…位相判定部、111…表示部、112…タイミング検出部、113…タイミング信号、114…受信信号、115…位相減算部、116…割当位相情報、117…位相同期部、118…位相同期情報、120…S/N推定部、201…検出位相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁変換手段を有する送信機によって探査対象ケーブルの導体に直交周波数分割多重信号からなる電気信号を印加し、前記探査対象ケーブルの導体に流れる電流を磁電変換手段を有する受信機によって検出し、検出した前記電気信号の位相または極性情報により、複数配設されたケーブル内における前記探査対象ケーブルであるか否かを判定するケーブル探査装置において、
前記受信機は、前記印加する電気信号である直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割当てられた割当位相情報を予め備え、検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するタイミング検出手段と、検出した前記電気信号の少なくとも一部のサブキャリアの位相情報を取得する位相検出部と、前記位相検出部で検出した位相情報と前記予め備えた割当位相情報の差から得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定する位相判定部を有することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項2】
請求項1に記載したケーブル探査装置において、検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する前記タイミング検出手段は、前記磁電変換素子の受信信号と予め備える探査用信号の時間波形との相関関係を演算してタイミング信号を生成し出力するタイミング検出部からなることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項3】
請求項1に記載したケーブル探査装置において、検出した前記電気信号の少なくとも一部の周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する前記タイミング検出手段は、前記磁電変換素子の受信信号をフーリエ変換して得られた位相角から、位相同期情報を生成し出力する位相同期部からなることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に印加する同一の信号パターンを有する前記電気信号を少なくとも2回以上送出することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に印加する同一の信号パターンを有する前記電気信号を間欠することなく送出することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のケーブル探査装置において、前記同一の信号パターンはシンボルであることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のケーブル探査装置において、前記導体に印加する前記電気信号の周波数成分は少なくとも0.1MHz以上5MHz以下であることを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のケーブル探査装置において、前記送信機は、前記導体に流れる電気信号を前記探査対象ケーブルの導体に非接触で印加することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載のケーブル探査装置において、前記受信機には前記検出した信号の信号対雑音レベル比を推定し、予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を出力するS/N推定部を有し、前記位相判定部は予め設定する信号対雑音レベル比を満足する周波数のサブキャリアの位相情報を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とするケーブル探査装置。
【請求項10】
複数のケーブルのうち探査対象ケーブルの導体に直交周波数分割多重信号からなる電気信号を印加する送信機と、前記探査対象ケーブルの前記導体に流れる電流を前記探査対象ケーブルに近接またはクランプした磁電変換手段によって検出し、前記検出した信号の位相または極性情報で前記探査対象とするケーブルであるか否かを判定する受信機を有するケーブル探査装置を用いたケーブル探査方法において、
前記印加する電気信号である直交分割多重信号を構成するサブキャリアに割り付ける位相情報を予め備え、前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出するとともに、前記検出した信号の一部またはすべてのサブキャリアの位相情報を取得し、前記位相情報と前記予め備える位相情報の差で得られる結果を用いて探査対象とするケーブルであるか否かを判定することを特徴とするケーブル探査方法。
【請求項11】
請求項10に記載されたケーブル探査方法において、前記前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する際に、前記磁電変換素子の受信信号と予め備える探査用信号の時間波形との相関関係を演算してタイミング信号を生成し出力することを特徴とするケーブル探査方法。
【請求項12】
請求項10に記載されたケーブル探査方法において、前記前記検出した信号の一部またはすべての周波数成分を用いて信号開始タイミングを検出する際に、前記磁電変換素子の受信信号をフーリエ変換して得られた位相角から、位相同期情報を生成し出力することを特徴とするケーブル探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163424(P2012−163424A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23555(P2011−23555)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】