説明

ゲルマニウム系結晶エレメントにおいて発生した転位を明らかにする方法

【課題】欠陥を、さらに詳細には、少なくとも1つのゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメントに発生した転位を、検出する方法を提供する。
【解決手段】この方法は、アニールするステップを、すなわち、ゲルマニウム系の結晶表面層に発生した転位を選択的に酸化させることができる、少なくとも酸化ガスと中性ガスとの混合物であるベースを有する雰囲気中でエレメントをアニールするステップを、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのゲルマニウム系(germanium-base)の結晶表面層(superficial layer)を有するエレメントに、発生した転位(emergent dislocation)を明らかにする(revealing)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の電気的な性質は、半導体材料の結晶格子の欠陥(defect)の存在によって影響を受ける。さらに詳細には、材料の上層を貫通する、発生した転位は、材料の半導体としての性質の品質についての指標を与えるものである。様々な転位を、特に、発生した転位を、明らかにする方法と評価技術とは存在する。透過電子顕微鏡法(TEM)、又は、X線トポグラフィー技術は、結晶格子の欠陥を、全体として検出することを可能にするものである。発生した転位と、例えば、表面を伝播していないような、埋もれた転位(buried dislocation)と、を区別することは難しい。しかしながら、埋もれた転位は、有用な表面膜の電気的な性質に対して影響を与えることはない。このため、得られた結果について解釈を行うことは難しい。
【0003】
他の通常に使用されている技術は、化学的ウエットプロセス、又は、蒸着エッチング(vapor deposition etching)によって、表面の欠陥を明らかにすることで構成される。サンプルの表面は、事前に酸化されることができ、次いで、選択的に、酸化物をエッチングし、形成するような、通常、塩化水素酸、又は、フッ化水素酸といった、エッチング溶液で処理される。転位が存在する領域のエッチング・レートは、完全な単結晶(single crystal)のものよりも、大きい。次いで、偏析(segregation)が行われ、優先的に転位が明らかにされる。転位は、偏析によって明らかにされ、例えば、光学的、又は、電気的な顕微鏡の下で直接的に観察される凹型の点(recessed point)の形状で現れる。
【0004】
Souriauらの文献“A Wet Etching Technique to Reveal Threading Dislocations In Thin Germanium Layers”中には、例えば、薄いゲルマニウム層をウエット・エッチングすることによって、転位を明らかにする方法が記載されている。転位を明らかにすることは、ゲルマニウム・ウェーハを、クロムとフッ化水素酸とを有するエッチング溶液に浸漬させることによって、得ることができる。
【0005】
さらに、文献WO2005/086222には、基板の表面にある、シリコン系、及び/又は、ゲルマニウム系の単結晶膜を化学蒸着エッチングすることによって、発生した転位を明らかにする方法が記載されている。さらに詳細には、エッチング・ガスは、ガス状のフッ化水素酸、又は、塩化水素酸である。開示された方法は、腐食性で、人と環境とに有害なガス状の生成物を取り扱うことを必要とすることに加えて、複雑で高価なエピタキシー装置(epitaxy installation)の中で、行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、先行技術の欠点を改善した、少なくとも1つのゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメントに、発生した転位を明らかにする方法を提案することである。
【0007】
特に、本発明の目的は、ゲルマニウム・バルク(germanium bulk)の基板に対しても、特に、500nm未満の厚さをもつような、ゲルマニウム薄膜に対しても、実行が簡単で、コストがかからず、且つ、効果的な方法を提案することである。
【0008】
本発明によれば、この目的は、下記の請求項による、発生した転位を明らかにする方法によって、達成することができる。特に、この目的は、方法が、少なくとも酸化ガスと中性ガス(neutral gas)との混合物であるベース(base)を有する雰囲気中で、エレメントをアニールするステップを備えることによって、達成される。
【0009】
特有の実施形態によれば、酸化ガスは酸素であり、中性ガスは、窒素、及び/又は、アルゴンである。混合物中の酸素の割合は、0.5%から95%の間である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる方法により明らかにされた後の第1のGOS(1)ウェーハのサンプルの光学顕微鏡写真を示す。
【図2】本発明にかかる方法により明らかにされた後の第2のGOS(2)ウェーハのサンプルの光学顕微鏡写真を示す。
【図3】本発明にかかる方法により明らかにされた後のゲルマニウム・バルクGe(1)ウェーハのサンプルの光学顕微鏡写真を示す。
【図4】本発明にかかる方法により明らかにされた後のGeOI(1)ウェーハのサンプルの光学顕微鏡写真を示す。
【図5】700℃のアニール温度で行われた本発明にかかる方法により明らかにされた後の第3のGOS(3)ウェーハのサンプルの光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
他の利点及び特徴は、本発明の特定の実施形態についての下記の説明により、さらに明らかにされる。本発明の特定の実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の特定の実施形態は、添付の図面により示される。
【0012】
本発明は、欠陥を検出するための方法に関するものであり、さらに詳細には、少なくとも1つのゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメントに、発生した転位を検出するための方法に関するものである。ゲルマニウムは、半導体エレメントであり、通常、マイクロエレクトロニクス分野において、結晶形状で用いられるものであり、特に、電気的及び光学的性質が利用されるものである。ゲルマニウム系の結晶表面層は、有利には、単結晶構造のゲルマニウムの層である。この方法は、ゲルマニウム系の層が堆積された基板の上に形成されたエレメントに対して、特に有利である。エレメントは、好ましくは、基板の上に形成されたゲルマニウム表面層によって構成される。基板は、少なくとも部分的に絶縁されている、“ゲルマニウム・オン・インシュレータ(GeOI)”型であることができ、又は、酸化フィルムに覆われたシリコンから、あるいは、“ゲルマニウム・オン・シリコン(GOS)”型のシリコンから、形成することができる。
【0013】
また、基板は、他の種類、例えば、シリコン層やシリコン・ゲルマニウム合金層といった、バルク、又は、様々な層から形成されたもの、とすることができる。
【0014】
この方法は、バルク・エレメント、又は、様々な厚さの、特に500nm未満の、好ましくは、10nmから100nmの間の厚さの、ゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメント、に適用することができ、高いエッチング・レートを持っているために、500nmよりも大きい厚さを有する層を用意するような化学エッチング法とは、異なるものである。
【0015】
既に知られた方法によれば、GOSウェーハは、例えば、シリコン、及び/又は、SiGeから形成された、最適な基板の上に、ゲルマニウムの薄膜の結晶成長をするといった、エピタキシー(epitaxy)によって得ることができる。GeOIウェーハは、それら側に、SiGe膜を凝集(condensation)する、又は、層に転写(transfer)することによって、得ることができる。後者の技術によれば、ゲルマニウム基板は、例えば、酸化シリコン基板の上の分子結合によってアセンブリすることができ、そして、ゲルマニウム基板を、薄くすることができる。薄くすることは、機械的手段によって、又は、ゲルマニウム基板に存在し、埋もれた弱い領域の面における破砕(fracturing)によって、行うことができ、例えば、結合する前に、作用するガス状の化学種(species)を注入することによって得ることができ、この方法は、Smart Cut(登録商標)という名前で知られている。
【0016】
独自の実施形態によれば、少なくとも1つのゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメントに、発生した転位を明らかにする方法は、少なくとも酸化ガスと中性ガスとの混合物であるベースを有する雰囲気中で、エレメントをアニールするステップを備える。アニールするステップは、加熱炉で行われる。方法は、エレメントに対して前処理(pre-treatment)することなしに、実行することができる。有利には、1つのアニールするステップで構成され、例えば、直径が、200mm、又は、300mmであるフル・ウェーハ(full-wafer)、又は、ウェーハのフラグメントに対して行うことができる。
【0017】
エレメントをアニールすることによる酸化は、転位によるストレス領域を形成すること、及び/又は、転位不純物偏析現象(dislocation impurities segregation phenomenon)によって、選択的である。実際には、ゲルマニウム系の層の表面における転位の存在は、転位の近くに欠陥(imperfection)を引き起こし、ゲルマニウム原子が酸化ゲルマニウムになるような酸化を高めるものである。従って、転位面での酸化のレートは、完全な結晶格子状のゲルマニウムのものと比べて、早い。従って、形成された酸化ゲルマニウムは、約500℃から550℃の温度において、昇華する。用いられるガスは、例えば、酸化ガスとしての酸素と、中性ガスとしての、窒素、及び/又は、アルゴンである。ガス流(gas flow)は、ゲルマニウム表面層の表面に形成された酸化ゲルマニウムを運び、酸化反応を高める。次いで、ゲルマニウム表面層の厚さの一部は、この処理によって消耗(consume)する。このエッチング現象は、熱処理時間あたりに消耗する表面層の厚さの量に対応するエッチング・レートによって、特徴づけることができる。しかしながら、発生した転位を明らかにする方法は、ゲルマニウムにおける欠陥を明らかにするための先行技術において用いられていた化学エッチングと比べて遅いエッチング・レートであるため、材料を破壊するものでない。これによって、くぼみ(depression)は、発生した転位面のゲルマニウム層の表面において、形成される。これらは、従来の観察技術によって、視認されるドット形状のものとして、現れる。従って、明らかにされた発生した転位は、例えば、自動製造ラインの欠陥検出装置、及び、計測装置、簡単なやり方としては、光学的、又は、電子的な顕微鏡によって、直接観察される。例えば、cmあたりの発生した転位の数といった、転位濃度は、算出(calculate)することができる。
【0018】
アニールするステップは、好ましくは、アニール時間に対応するセット期間(set period)の間、500℃以上のアニール温度において行われる。アニール時間及び温度は、表面層の厚さと所望の転位密度とに従って決定される。膜厚が厚くなるほど、アニール時間を長くすることができ、残った表面層の品質を悪化させることなく、余分な材料を除去することができる。所望の転位密度が高くなるほど、形成されたくぼみが、大きくなることと、結合することと、を妨げるために、従って、著しく集計(counting)ができなくなることを避けるために、アニール温度は低くなり、且つ、アニール時間は短くなる必要がある。
【0019】
好ましい実施形態によれば、アニール温度は、500℃から700℃の間であり、好ましくは、530℃から570℃の間であり、さらに好ましくは、500℃である。表面層にダメージが生じること、又は、エレメントの完全性がなくなること、を避けるために、アニール温度は、約700℃の温度を超えてはならない。
【0020】
例えば、酸素Oと窒素Nとの混合物といった、酸素Oと少なくとも挿入ガス(insert gas)との混合物は、好ましくは、加熱炉の中に保持され、熱処理の間、エレメントを酸化雰囲気にする。混合物の中の酸素の割合は、0.5%から95%の間である。
【0021】
酸化ガスとしては、例えば、水蒸気(HO)、又は、一酸化二窒素(NO)といった、他の酸化種(oxidizing species)を用いることができる。
【0022】
例として、ゲルマニウム系の表面層を有する4つのウェーハは、前処理することなく、上記の方法によって処理され、結果をより代表的に示す、フル・ウェーハである。明らかにされた発生した転位の観察は、光学的顕微鏡(Zeiss 登録商標)を用いて、×100に拡大する(フィールド・サイズは41μm×31μm)ことで行われる。第1と第2のウェーハは、エピタキシャル成長させたゲルマニウム層に覆われたシリコン基板であり、それぞれ、GOS(1)とGOS(2)とである。第3のウェーハは、バルクのゲルマニウム・ウェーハGe(1)である。第4のウェーハは、GeOI(1)ウェーハであり、GOS(1)ウェーハに似たウェーハに由来するゲルマニウム薄膜を、Smart Cut(登録商標)によって、酸化されたシリコン基板の上への転写させることによって得ることができる。
【0023】
各ウェーハは、例えば、1時間、アニール温度550℃で、酸素と窒素とのガス流であって、それぞれの割合が0.7%と99.3%とであるガス流の下といった条件のような、同じ条件の下で処理される。これらの条件の下では、エッチング・レートは、約20nm/時間である。
【0024】
図1は、第1のウェーハGOS(1)から得られた顕微鏡写真である。これは、ドット1の形状で現れる、発生した転位の存在を明らかにする。集計による分析により、転位密度1.5×10転位/cmと、見積もった。
【0025】
図2は、第2のウェーハGOS(2)から得られた顕微鏡写真である。集計による分析により、転位密度1.2×10転位/cmと決定することができる。このことは、この転位密度が、第1のウェーハGOS(1)のものよりも大きいものであることを、示している。
【0026】
図3に示されるように、ウェーハGe(1)の光学顕微鏡によって得られた顕微鏡写真は、くぼみ(ドット)のない滑らかな表面層を、明らかにする。ゲルマニウム・ウェーハGe(1)は、表面層の表面においては、完全な単結晶構造を有する。
【0027】
第4のウェーハGeOI(1)から得られた顕微鏡写真は、図4に示される。GeOI(1)のゲルマニウム層は、50nmの厚さを持つ。発生した転位密度は、観察されるドットを集計することによって決まる。この密度は、3.8×10転位/cmである。これらの結果は、第1のウェーハGOS(1)において観察されたものと、同じ大きさの指数を持ち、このことは、用いられた膜転写法(film transfer method)が、ゲルマニウム層に追加的な欠陥を顕著に誘導することがないことを証明するものである。これは、発生した転位を明らかにする我々の方法が、非常に薄い膜に対しても適用することができることを、裏付けるものである。
【0028】
図5は、上記の発生した転位を明らかにする方法と、さらに、700℃の温度での付加的なステップとによって処理された第2のウェーハGOS(2)から、得られた光学的顕微鏡写真である。ウェーハGOS(2)の表面の品質の顕著な劣化を観察することができ、このウェーハは、もう使用することができない。
【0029】
この方法によって観察された結果は、エレメントを、例えば、発生した転位が少ないといった、最良の結晶品質を示すものを選択するために、仕分けることを可能にする。この方法は、製造ラインと統合することが可能であり、例えば、異なるサプライヤーから供給される様々なエレメントから、エレメントを選択する目的に、役立てることができる。
【0030】
他の実施形態によれば、例えば、このような層に存在する、エレメントの表面にあるパッシベーション層を除去するための前処理といった、他の処理ステップを備える。
【0031】
さらに他の実施形態によれば、1つもしくはそれ以上の平坦な温度を持つ温度勾配(temperature gradient)をエレメントに与えることによって、アニールを最適なものとすることができる。
【0032】
上記の方法は、例えば、500nm未満、又は、さらに50nm未満の厚さを持つ、ゲルマニウム系薄膜と相性の良い、エッチング・レートを持つことから、侵攻性でないような条件の下にて、ゲルマニウム系の表面層に発生した転位を明らかにすることを可能にする。従って、この方法は、GeOI及びGOSウェーハに適しているものである。
【0033】
さらに、先行技術の方法とは異なり、上記の発生した転位を明らかにする方法は、腐食性をもつ、又は、人と環境とに有害な、生成物を使用することはない。さらに、事前にエレメントを準備することなく、実施が簡単であるため、特別にトレーニングされた個人を必要としない。この効果的な工業化の方法は、フラグメントとフル・ウェーハとに対するエッチングに利用されることができ、典型的で再現性のある結果を与えるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのゲルマニウム系の結晶表面層を有するエレメントに発生した転位を明らかにする方法であって、少なくとも酸化ガスと中性ガスとの混合物であるベースを有する雰囲気中で、前記エレメントをアニールするステップを備える、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記酸化ガスは酸素である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物中の酸素の割合は、0.5%から95%の間である、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化ガスは、水蒸気(HO)と一酸化二窒素(NO)とから選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記中性ガスは、窒素、及び/又は、アルゴンである、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記エレメントは、基板の上に形成されたゲルマニウムの表面層から成る、ことを特徴とする請求項1から5にいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記基板は、少なくとも部分的に絶縁している、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、酸化フィルムで覆われたシリコンから形成される、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記基板は、シリコンから形成される、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ゲルマニウム系の結晶表面層は、500nm未満の厚さを持つ、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記厚さは、10nmから100nmの間である、ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アニールするステップは、500℃から700℃の間であるアニール温度において行われる、ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記アニール温度は、530℃から570℃に間である、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−166046(P2010−166046A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1222(P2010−1222)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク、エ、オ、エレルジ、アルテルナティブ (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】