説明

ゲル形成用組成物、生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイ、ならびに生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイの製造方法

【課題】ゲル化の際の気泡の発生などによる欠陥や形状異常が抑制できるゲル形成用組成物を目的とする。また、前記ゲル形成用組成物を用いた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイ、ならびに該製造方法を目的とする。
【解決手段】生体関連物質検出用のキャピラリーまたはマイクロアレイに用いられるゲルを形成するゲル形成用組成物であって、前記ゲルを形成するゲル形成物質を含有し、25℃における粘度が10mPa・s以上であることを特徴とするゲル形成用組成物。また、前記ゲル形成用組成物を用いた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイ、ならびに該製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル形成用組成物、生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイ、ならびに生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAシーケンス、遺伝子発現解析などの遺伝子の解析手法においては、生体関連物質検出用のキャピラリーやマイクロアレイが広く利用されている。
例えば、DNAマイクロアレイは、対象の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列を有する特定のDNA(DNAプローブ)を基盤上に整列固定化し、これらDNAプローブと対象の遺伝子由来のDNA断片とを基盤上でハイブリダイゼーションさせることにより、遺伝子の変異解析および発現解析を一括して実施できる。
【0003】
このようなマイクロアレイの具体例としては、基盤の2次元表面上でフォトリソグラフィーによりキャプチャープローブ(DNA、ペプチドなど)が逐次的に合成されたマイクロアレイ(特許文献1)、予め合成しておいたキャプチャープローブが基盤の2次元表面上にスポッティングされたマイクロアレイ(特許文献2)、樹脂板などからなる基盤に複数の溝または貫通孔(中空部)が形成され、それらの溝または貫通孔の内部にDNAを含有するゲルが保持されたマイクロアレイ(特許文献3)、平面基盤上にDNAなどを含有するゲルのスポットが配置されたマイクロアレイ(特許文献4)などが知られている。また、中空繊維の中空部にゲルが保持された中空繊維配列体が、該中空繊維配列体の繊維軸と交叉する方向に切断されることにより得られるマイクロアレイ(特許文献5)が知られている。
【0004】
特許文献3〜5のような、ゲルを用いたマイクロアレイでは、基盤の2次元表面にキャプチャープローブが固定されたマイクロアレイに比べて、一区画に固定化できるキャプチャープローブの量が多くなる。そのため、キャプチャープローブと対象の遺伝子由来のDNA断片とのハイブリダイゼーション効率が高くなるため、解析の精度および効率に優れる。
【0005】
特許文献5のマイクロアレイの製造方法は、複数本の中空繊維を集束する集束物を製造する工程と、各々の中空繊維に、DNAなどを含むゲル形成用組成物を充填してゲル化する工程と、集束物を薄片化して、ゲルを保持した貫通孔を有するマイクロアレイを得る工程とを有する方法である。
前記工程のうち、ゲル形成用組成物の充填およびゲル化の工程では、中空繊維内にゲル形成用組成物を吸引させた後、該中空繊維内でゲル化(重合反応)を実施し、各中空繊維にゲルが充填された集束物を得ることができる。しかし、この工程では、中空繊維内でゲル化を行う際にゲル形成用組成物に気泡が発生し、その部分が空洞または十分にゲルが保持されていない部分となってしまうことがあった。マイクロアレイにこれらの欠陥が生じると、解析精度が低下してしまう。
【0006】
また、キャピラリーは、電気泳動などの分野で利用されている。キャピラリーの製造方法としては、例えば、キャピラリー内にゲル形成用組成物を吸引させ、そのキャピラリー内でゲル化を実施する方法が用いられている。しかし、この方法でも、前記マイクロアレイの製造方法と同様にゲル化の際に気泡が発生することがあった。そのため、ゲルが保持される部分に空洞や充分にゲルが保持されていない部分が生じ、電気泳動の際にその部分で電流が遮断されたり乱れたりして測定の精度が低下することがあった。
【0007】
そのため、キャピラリーやマイクロアレイの製造において、ゲル形成用組成物をゲル化する際に気泡が発生することを抑制する試みがなされている。
ゲル形成用組成物をゲル化する際に気泡の発生を抑制する方法としては、キャピラリーの製造方法として、加圧下で重合することによりゲル化する方法(特許文献6)、キャピラリー内壁面の予め表面処理しておく方法(特許文献7)、ゲル形成用組成物を予め脱気してからキャピラリー内に充填する方法(特許文献8)が開示されている。
【0008】
また、マイクロアレイの製造においては、中空繊維内部などの中空部(マイクロアレイの貫通孔となる部分)内におけるゲル化の際に重合収縮が起こることなどにより、基盤からのゲルの剥離や脱落といった欠陥や形状異常が発生することもあった。そのため、ゲル形成用組成物に多価アルコールを含有させて重合収縮を抑制する方法が示されている(特許文献9)。
【特許文献1】米国特許第5405783号明細書
【特許文献2】米国特許第5601980号明細書
【特許文献3】特開2000−60554号公報
【特許文献4】米国特許第6682893号明細書
【特許文献5】特開2000−270877号公報
【特許文献6】特許第2561848号公報
【特許文献7】特開平8−75702号公報
【特許文献8】特開平3−31752号公報
【特許文献9】特開2003−79377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献6〜8の方法は、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生を抑えることができる。しかしながら、これらの方法は製造工程が煩雑化してしまう。また、特許文献8の方法では、脱気しすぎるとゲル形成用組成物中の各成分の濃度が変化してキャピラリーにおける試料(DNAなど)の分離能が低下してしまうことがあった。また、減圧中に重合が進行してキャピラリー内や中空繊維の内部などに充填する前にゲル形成用組成物がゲル化してしまうことがあった。その他、超音波によりゲル形成用組成物を脱気する方法も考えられるが、この方法では、キャプチャープローブを添加する場合に超音波によりキャプチャープローブが分解されてしまうことがあった。
また、特許文献9の方法は、重合収縮を抑制することができるものの、気泡の発生を抑える効果は得られない。
そのため、ゲル形成用組成物をゲル化する際に、気泡の発生を抑えることのできる方法が望まれている。
【0010】
そこで本発明では、ゲル化する際に気泡の発生を抑制し、気泡発生による欠陥や形状異常が生じることを抑えて、簡便に生体関連物質検出用のキャピラリーやマイクロアレイを得ることのできるゲル形成用組成物を目的とする。また、前記ゲル形成用組成物を用いた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイを提供する。
また、前記ゲル形成用組成物を用いて、生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイを簡便に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のゲル形成用組成物は、生体関連物質検出用キャピラリーまたはマイクロアレイに用いられるゲルを形成するゲル形成用組成物であって、25℃における粘度が10mPa・s以上であることを特徴とする組成物である。
【0012】
また、本発明のゲル形成用組成物は、さらにグリセロールを含有していることが好ましい。
また、本発明のゲル形成用組成物は、さらにポリマーを含有していることが好ましい。また、前記ポリマーは、ポリアクリルアミド、またはポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)であることがより好ましい。
【0013】
本発明の生体関連物質検出用キャピラリーは、中空部を有する管状の中空材における前記中空部に、前記いずれかのゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されているキャピラリーである。
本発明の生体関連物質検出用マイクロアレイは、複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔に、前記いずれかのゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されているマイクロアレイである。
【0014】
本発明の生体関連物質検出用キャピラリーの製造方法は、中空部を有する管状の中空材における前記中空部に、前記いずれかのゲル形成用組成物を充填し、該中空部内でゲル化する方法である。
【0015】
本発明の生体関連物質検出用マイクロアレイの製造方法は、複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔にゲルが保持されているマイクロアレイの製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含む生体関連物質検出用マイクロアレイの製造方法。
工程(1):前記貫通孔を形成する、中空部を有する複数本の管状の中空材を、該中空材の長手方向が一致するように集束し、それらを固定化して集束物を形成する工程。
工程(2):各々の中空材の中空部に請求項1〜5のいずれかに記載のゲル形成用組成物を充填し、該中空部内でゲル化する工程。
工程(3):前記中空部にゲルを保持する集束物を、該集束物の長手方向と交叉する方向に切断し、薄片化することによりマイクロアレイを得る工程。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゲル形成用組成物は、ゲル化する際に気泡が発生することを抑制し、気泡発生による欠陥や形状異常が生じることを抑えて、簡便に生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイを製造できる。
また、本発明の生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイは、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生による欠陥や形状異常が抑えられている。
また、本発明の製造方法によれば、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生による欠陥や形状異常が抑えられた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイを簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[ゲル形成用組成物]
本発明のゲル形成用組成物は、生体関連物質検出用キャピラリーまたはマイクロアレイ(以下、単にキャピラリー、マイクロアレイということがある)に用いられるゲルを形成する組成物であって、25℃における粘度が10mPa・s以上であることを特徴とする。
ゲル形成用組成物は、ゲル形成物質を、水や緩衝液などに溶解させることにより得ることができる。
【0018】
ゲル形成物質は、架橋構造を形成してゲル化する化学物質である。ゲル形成物質としては、天然ゲルまたは合成ゲルを形成する物質が挙げられる。以下、これらをそれぞれ天然ゲル形成物質、合成ゲル形成物質という。
【0019】
天然ゲル形成物質としては、例えば、アガロース、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類や、ゼラチンなどのタンパク質などが挙げられる。ゲル形成用組成物が天然ゲル形成物質を含有する場合、天然ゲル形成物質を水や緩衝液などに加熱溶解し、冷却することによりゲル化することができる。
ゲル形成用組成物中の天然ゲル形成物質の含有量は、天然ゲル形成物質の種類によっても異なるが、ゲル形成用組成物の全質量を100質量%として、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0020】
合成ゲル形成物質としては、例えば、ラジカル重合によりゲル化する物質などが挙げられ、ラジカル重合によりゲル化するゲル形成物質であることが好ましい。ラジカル重合を利用する合成ゲル形成物質は、重合性モノマーおよび架橋剤からなる。
【0021】
重合性モノマーは、エチレン性不飽和結合を1つ有するモノマーである。重合性モノマーは、生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイに通常用いられるものを使用することができ、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸及びアリルデキストリンなどが挙げられる。モノマーとしては、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。
これらモノマーは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ゲル形成用組成物中の重合性モノマーの含有量は、ゲル形成用組成物の全質量を100質量%として、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜5質量%であることが特に好ましい。
【0023】
架橋剤は、エチレン性不飽和結合を2つ以上有する多官能性モノマーである。
架橋剤は、生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイに通常用いられるものを使用することができ、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジアリル(1,2−ヒドロキシエチレン)−ビスアクリルアミド、N,N’−シスタミン−ビスアクリルアミド、N−アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ポリエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。架橋剤としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが好ましい。
これら架橋剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ゲル形成用組成物中の架橋剤の含有量は、ゲル形成用組成物の全質量を100質量%として、0.001〜4質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることが特に好ましい。
また、重合性モノマー(物質量:Ma)と架橋剤(物質量:Mb)との比率(Ma/Mb)は、Ma/Mb=5〜100であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。
【0025】
ゲル形成用組成物が合成ゲル形成物質を含有する場合、開始剤を添加して、適切な温度に加温して重合させることによりゲル化することができる。また、開始剤を添加して、紫外線を照射して開始剤を分解させて重合を行うことによりゲル化させることもできる。
【0026】
開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)や2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩(VA044)などのアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化ジアセチルなどの過酸化物系開始剤、ペルオキソ二硫酸アンモニウムおよびTEMED(テトラエチルメチレンジアミン)などのレドックス系開始剤が挙げられる。なかでも、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩(VA044)などのアゾ系開始剤を用いるが好ましい。
【0027】
また、本発明のゲル形成用組成物の25℃における粘度は、10mPa・s以上である。ただし、本発明におけるゲル形成用組成物の25℃における粘度とは、回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。また、ゲル形成用組成物の粘度は、キャピラリーやマイクロアレイにおける充填部分(キャピラリー内部やマイクロアレイの貫通孔を形成する中空部など)に充填する前の粘度である。すなわち、天然ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物の場合は加熱溶解して充填する前の粘度であり、合成ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物の場合は開始剤を添加する前の粘度である。
【0028】
ゲル形成用組成物の粘度(25℃)は、10〜50mPa・sであることが好ましく、12〜20mPa・sであることがより好ましい。
ゲル形成用組成物の粘度が10mPa・s以上であれば、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生を抑えることができる。また、ゲル形成用組成物の粘度が20mPa・s以下であれば、キャピラリーやマイクロアレイの製造における充填操作が容易になる。
【0029】
ゲル形成用組成物の粘度は、含有するゲル形成物質の濃度により変化する。
本発明のゲル形成用組成物により形成するゲルは、キャピラリーやマイクロアレイの用途によってはゲル内にDNA、RNAなどの生体関連物質を拡散させるため、特に合成ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物の場合には重合性モノマーや架橋剤の濃度が低いことが好ましい。
【0030】
ゲル形成用組成物には、粘度を向上させる点から、増粘効果を有する添加剤が含有されていることが好ましい。増粘効果を有する添加剤としては、多価アルコール、ポリマー、増粘剤などが挙げられる。
【0031】
多価アルコールとしては、例えば、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、トレハロースなどが挙げられる。多価アルコールとしては、ゲル形成用組成物の粘度を効率良く上げられる点から、グリセロールを用いることが好ましい。
【0032】
多価アルコールの含有量は、ゲル形成用組成物の粘度を所定の粘度まで上げることができれば特に限定はないが、グリセロールを用いる場合、ゲル形成用組成物の全質量を100質量%として、50〜75質量%とすることが好ましく、60〜70質量%とすることがより好ましい。グリセロールの含有量が50質量%以上であれば、モノマーや架橋剤の量を増加させすぎずにゲル形成用組成物の粘度を上げることが容易になる。また、グリセロールの含有量を75質量%以下であれば、キャピラリーやマイクロアレイの製造における充填操作が容易になる。
【0033】
増粘効果のあるポリマーは、キャピラリーやマイクロアレイの測定精度、気泡の発生などに悪影響を与えないものであれば特に限定はなく、例えば、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルアミノエトキシエタノール)、ポリ(N−アクリロイルアミノプロパノール)、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)などが挙げられる。
【0034】
ポリマーは、合成ゲル形成物質を用いる場合、ゲル形成用組成物に用いたモノマー(重合性モノマーまたは架橋剤)に由来する構成単位を有するポリマーであることが好ましい。すなわち、合成ゲル形成物質としてアクリルアミドを用いる場合はポリアクリルアミドを添加することが好ましく、合成ゲル形成物質としてN,N−ジメチルアクリルアミドを用いる場合は、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)を添加することが好ましい。
【0035】
前記ポリマーの質量平均分子量は、10,000〜1,000,000であることが好ましく、100,000〜1,000,000であることがより好ましい。
前記ポリマーの含有量は、ゲル形成用組成物の粘度を10mPa・s以上にできる量であればよく、質量平均分子量などを考慮して適宜設定すればよい。
【0036】
増粘剤としては、例えば、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、キサンタンガム、カードラン、デキストランなどが挙げられる。
これら添加剤は、1種のみを単独で用いてもよく、異なる2種以上を併用してもよい。
【0037】
増粘効果を有する添加物を用いることにより、ゲル形成用組成物の粘度を上げることができ、ゲル化する際の気泡の発生が抑えられる。また、マイクロアレイは、通常、保存液中で保存される。添加剤を使用したゲル形成用組成物によりマイクロアレイを製造した場合は、マイクロアレイを保存する際、保存液とゲルとの間で物質交換が行われるため、添加物がゲル外部(保存液中)に拡散する。これにより、ゲル中に添加物が残存していないマイクロアレイを得ることも可能である。
【0038】
また、ゲル形成用組成物は、用途によってキャプチャープローブを含有していてもよい。
キャプチャープローブとは、対象の生体関連物質と相互作用して、それらを検出するプローブである。キャプチャープローブとしては、例えば、核酸、アミノ酸、ペプチド、糖、脂質、抗体、さらには化学結合、物理結合などにより生体関連物質と相互作用する有機化合物、無機化合物などが挙げられる。
【0039】
キャプチャープローブとして核酸を用いる場合、DNAは、Blinらの方法(Blin et al., Nucleic Acids Res. 3: 2303(1976))などにより生細胞から抽出したDNAを用いることができる。また、RNAは、Favaloroらの方法(Favaloro et al., Methods Enzymol. 65: 718(1980))などにより生細胞から抽出したRNAを用いることができる。
【0040】
キャプチャープローブは、合成ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物の場合、ゲル形成用組成物と共に重合し、ゲル中に化学的に固定することもできる。「化学的に固定」とは、ゲル形成物質成分にキャプチャープローブが直接化学結合されることをいう。例えば、核酸の末端にビニル基を導入し、アクリルアミドなどの重合性モノマーと共重合させて固定する方法が挙げられる。
【0041】
[生体関連物質検出用キャピラリー]
本発明の生体関連物質検出用キャピラリー(以下、キャピラリーという)は、中空部を有する管状の中空材における前記中空部に、本発明のゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されているキャピラリーである。本発明のキャピラリーは、例えば、電気泳動用のキャピラリーなどとして用いることができる。
【0042】
中空材は、中空部を有する管状の形態であれば、中空繊維、パイプ、管などいずれの形態であってもよい。また、中空材は、多孔質中空材、非多孔質中空材のいずれでもよいが、ゲル形成用組成物の中空繊維外への拡散や、ゲルの乾燥を抑制する点から、非多孔質中空材であることが好ましい。
【0043】
中空材の材質は特に限定はなく、シリカ、ガラスなどの無機材料や、以下に示す有機材料などが挙げられる。
有機材料としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミドなどのポリアミド系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネートなどのポリエステル系材料、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系材料、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系材料、ポリメタクリル酸メチルなどのポリメタクリレート系材料、ポリビニルアルコール系材料、ポリ塩化ビニリデン系材料、ポリ塩化ビニル系材料、ポリウレタン系材料、フェノール系材料、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系材料、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系材料などが挙げられる。
また、中空材は、前記無機材料および有機材料以外にカーボンブラックなどの黒色顔料が含有されていてもよい。
【0044】
キャピラリーにおける中空材の内径は、特に限定されないが、1mm以下であることが好ましく、10μm〜300μmであることがより好ましい。
【0045】
(製造方法)
本発明のキャピラリーの製造方法は、前記中空材の中空部に、本発明のゲル形成用組成物を充填し、該中空部内でゲル化する方法である。
ゲル形成用組成物の充填方法は、ゲル形成用組成物を中空部に充填できる方法であれば特に限定はなく、例えば、中空材の一方の端部をゲル形成用組成物に浸した状態で他方の端部側から吸引する方法、中空材の一方を封止し、減圧した後、開放端をゲル形成用組成物に浸し、その状態で常圧に戻すことにより吸引する方法などが挙げられる。
【0046】
キャピラリーの製造方法としては、アガロースなどの天然ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物である場合は、例えば、天然ゲル形成物質を加熱溶解し、添加剤やキャプチャープローブなどのその他の成分を混合してゲル形成用組成物を調製した後、前記充填方法などにより中空材の中空部内にゲル形成用組成物を充填し、その後に冷却することによりゲル化する方法が挙げられる。
また、合成ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物である場合は、重合性モノマー、架橋剤、および添加剤やキャプチャープローブを含有するゲル形成用組成物を調製し、開始剤を添加した後に前記充填方法などにより中空材の中空部内にゲル形成用組成物を充填し、その後に加温もしくは紫外線照射により重合を行ってゲル化する方法が挙げられる。
【0047】
[生体関連物質検出用マイクロアレイ]
本発明の生体関連物質検出用マイクロアレイ(以下、マイクロアレイという)は、複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔に、本発明のゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されているマイクロアレイである。本発明のマイクロアレイは、例えば、遺伝子の変異解析や発現解析などに用いることができる。
【0048】
本発明のマイクロアレイは、基盤に形成された貫通孔に本発明のゲル形成用組成物がゲル化されたゲルが保持されているものであれば特に限定はない。例えば、貫通孔を形成する、中空部を有する複数本の管状の中空材を集束して固定化し、前記中空部に本発明のゲル形成用組成物を充填してゲル化した後、薄片化して得られるマイクロアレイが挙げられる。
図1は、本発明のマイクロアレイの実施形態の一例を示した斜視図である。本実施形態のマイクロアレイ10は、図1に示すように、基盤12に、複数の中空材14が固定化されており、中空材14の中空部が貫通孔16を形成しており、貫通孔16にゲル18が保持されている。
【0049】
基盤12は、複数本の中空材14を集束したものを固定化する接着剤からなる。接着剤は、マイクロアレイの製造に通常用いられる樹脂を用いることができ、例えば、ニッポラン4276、コロネート4403(日本ポリウレタン工業株式会社製)などのポリウレタン樹脂接着剤が挙げられる。
【0050】
基盤12の形状は、通常、貫通孔(中空材)を規則的に配列させて、正方形または長方形とされるが、これらに限定されるものではない。「規則的に」とは、一定の大きさの枠の中に含まれる中空材の本数が一定となるよう順序よく配列させることをいう。
また、基盤12の厚さは、50μm〜1mmであることが好ましい。
【0051】
中空材14は、中空部を有する管状の形態であれば、中空繊維、パルプ、管などいずれの形態であってもよい。また、中空材14は、多孔質中空材、非多孔質中空材のいずれでもよいが、ゲル形成用組成物の中空繊維外への拡散や、ゲルの乾燥を抑制する点から、非多孔質中空材であることが好ましい。
中空材14の材質は、キャピラリーの中空材で挙げたものと同じ材料が挙げられる。また、カーボンブラックなどの黒色顔料が含有されていてもよい。
【0052】
貫通孔16(中空材14の中空部)は、整列固定化されていることが好ましい。
貫通孔16の内径(中空材14の内径)は、特に限定されないが、1mm以下であることが好ましく、10μm〜300μmであることがより好ましい。
【0053】
貫通孔16の数(スポット数)は、中空材14の本数により決定される。本発明のマイクロアレイのスポット数は、マイクロアレイにおける通常のスポット数とすることができ、10〜10000個/cmであることが好ましい。
【0054】
(製造方法)
本発明のマイクロアレイの製造方法は、複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔にゲルが保持されているマイクロアレイの製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含む方法である。
工程(1):前記貫通孔を形成する、中空部を有する複数本の管状の中空材を、該中空材の長手方向が一致するように集束し、それらを固定化して集束物を形成する工程。
工程(2):各々の中空材の中空部に前述のゲル形成用組成物を充填し、該中空部内でゲル化する工程。
工程(3):前記中空部にゲルを保持する集束物を、該集束物の長手方向と交叉する方向に切断し、薄片化することによりマイクロアレイを得る工程。
【0055】
以下、本発明のマイクロアレイの製造方法の実施形態の一例として、図1に例示した、貫通孔16を100個有する、基盤12の形状が正方形のマイクロアレイ10を製造する方法について説明する。
工程(1)では、10本の中空材を、1列に束ねて固定化して1層のシートとした後、各々の中空材の長手方向が一致するように、前記シートが10層になるように重ねて固定化することにより集束物を得る。工程(1)における中空材の固定化方法は、例えば、ポリウレタン樹脂接着剤などの接着剤により行う方法が挙げられる。
【0056】
ついで、工程(2)において、集束物の各々の中空材の中空部に本発明のゲル形成用組成物を充填する。ゲル形成用組成物の充填方法は特に限定されず、例えば、集束物の一方の端部をゲル形成用組成物中に浸した状態で、もう一方の端部側から吸引する方法であってもよく、集束物の一方の端部側からゲル形成用組成物を押し込む方法であってもよい。また、中空材の一方を封止し、減圧した後、開放端をゲル形成用組成物に浸し、その状態で常圧に戻すことにより吸引する方法であってもよい。
【0057】
工程(2)においてゲル形成用組成物を中空部に充填してゲル化する方法としては、天然ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物を用いる場合、天然ゲル形成物質を加熱溶解し、添加剤やキャプチャープローブなどのその他の成分を混合して調製したゲル形成用組成物を、前記充填方法などにより中空材の中空部内に充填した後に、冷却することにより行う方法が挙げられる。
また、合成ゲル形成物質を含有するゲル形成用組成物を用いる場合は、重合性モノマー、架橋剤、および添加剤やキャプチャープローブを含有するゲル形成用組成物を調製し、開始剤を添加した後に前記充填方法などにより中空材の中空部内にゲル形成用組成物を充填し、その後に加温もしくは紫外線照射して重合させることによりゲル化する方法が挙げられる。
【0058】
工程(3)では、得られた集束物を、該集束物の長手方向と交叉する方向に切断して薄片化する。これにより、100個の貫通孔16が形成された、所望の厚さの基盤12を有するマイクロアレイ10が得られる。切断方法は、集束物を所望の厚さで切断できる方法であれば特に限定されず、例えば、ミクロトームにより切断する方法などが挙げられる。
【0059】
以上説明した工程(1)〜(3)により、マイクロアレイ10が得られるが、本発明の製造方法においては、工程(1)と工程(2)の順序は特に限定されず、工程(2)を行った後に工程(1)を行ってもよい。すなわち、各々の中空材の中空部にゲル形成用組成物を充填してゲル化した(工程(2))後に、それらの中空材を集束して集束物を形成(工程(1))し、該集束物を薄片化してマイクロアレイを得る方法であってもよい。
【0060】
生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイでは、一般に内径の小さい中空材が用いられており、中空材の中空部の内壁面とゲル形成用組成物とが接触する界面の面積が大きい。そのため、従来では、中空材の中空部内でゲル形成用組成物をゲル化すると、ゲル形成用組成物中に溶解していた気体が、前記界面などに付着したゴミ、凹凸などを核として気泡化し、それが成長して気泡が発生することがあった。また、合成ゲル形成物質を用いて重合によりゲル化する際には、重合温度が高いと、昇温による溶解度変化の影響によって気泡が生じる可能性が高くなると考えられる。
【0061】
しかし、本発明のゲル形成用組成物によれば、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生を抑制し、気泡により生じる欠陥や形状異常などを抑えることができる。これは、本発明のゲル形成用組成物の粘度(25℃)が10mPa・s以上であるため、ゲル形成用組成物内の溶存気体の気泡化が抑制できるためであると考えられる。
【0062】
すなわち、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生を抑制するには、ゲル形成用組成物中の溶存気体を少なくすることも重要であるが、溶存気体を気泡化させないことも重要である。本発明のゲル形成用組成物では粘度を高めることにより、ゲル形成用組成物内における溶存気体の拡散を抑制することができ、それにより気泡化および気泡の成長が抑制できると考えられる。また、特に合成ゲル形成物質を用いて加温により重合してゲル化を行う場合には、従来ではゲル化前すなわち重合によって粘度が上昇する前に気泡が発生することが多かったため、本発明のゲル形成用組成物は有用であると思われる。
【0063】
また、本発明の生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイは、本発明のゲル形成用組成物を用いることによって、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生などによる欠陥や形状異常が抑えられている。
また、本発明の製造方法によれば、ゲル形成用組成物をゲル化する際の気泡の発生などによる欠陥や形状異常が抑えられた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイを簡便に製造できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。また、本実施例においては、「部」は「質量部」を意味する。
<生体関連物質検出用マイクロアレイ>
[製造例1]内部が観察できる中空繊維集束固定物の作製
ゲル形成用組成物によるゲル化の際の気泡の発生を評価するため、内部が観察できる中空繊維集束固定物を作製した。
外径280μm、内径180μm、長さ20cmのポリカーボネート中空繊維10本を5mm間隔で配列した。ついで、樹脂原料を厚さ5mm、長さ10cm(中空繊維が厚さ方向の中央に包埋される部分)になるようにこの間に流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤であるニッポラン4276とコロネート4403(いずれも日本ポリウレタン工業株式会社製)の混合物を使用した。ついで、室温で24時間静置して樹脂を硬化させ、外部から中空繊維内部が観察できる中空繊維集束固定物(以下、中空繊維集束固定物Iという)を得た。
【0065】
[製造例2]カーボンブラック含有中空繊維集束固定物の作製
直径0.3mmの孔を有し、孔の中心間距離が0.42mmである多孔板(縦25mm×横25mm)であって、縦横各10列で合計100個の孔が配置された厚さ0.1mmの多孔板2枚を重ね、これらの多孔板の各孔に、外径280μm、内径180μm、長さ30cmのカーボンブラック含有ポリカーボネート中空繊維を通過させた。そして、この2枚の多孔板の距離を100mmとして、前記中空繊維を緊張させた状態で固定した。ついで、これら多孔板の間に樹脂を流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤であるニッポラン4276とコロネート4403(いずれも日本ポリウレタン工業株式会社製)の混合物を使用し、この接着剤の総質量に対して2.5質量%となるようにカーボンブラックを添加した。ついで、室温で24時間静置して樹脂を硬化させてカーボンブラック含有中空繊維集束固定物(中空繊維集束固定物IIという)を得た。
【0066】
[実施例1]
重合性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(3.6部)、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.4部)、および添加剤であるグリセロール(60部)を、水(36部)と混合してゲル形成用組成物Aを調製した。ゲル形成用組成物Aの粘度(25℃)をブルックフィールド回転式粘度計により測定したところ、14mPa・sであった。
ついで、ゲル形成用組成物Aに、開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩(VA044)0.1部を添加、混合し、そのゲル形成用組成物Aを中空繊維集束固定物Aの中空繊維中に充填した。ゲル形成用組成物Aの充填は室温で行った。その後、温度を55℃まで上げ、2時間重合を行い、ゲル化した。
重合終了後、中空繊維内のゲルを確認したところ、気泡が発生した形跡はなく、充分にゲル化できていることが確認された。
【0067】
[実施例2]
中空繊維集束固定物Iの代わりに中空繊維集束物IIを用いた以外は、実施例1と同様の方法でゲル形成用組成物Aの充填、ゲル化を行った。重合終了後、中空繊維集束物IIをミクロトームにより中空繊維軸に対して直角方向に切断して、厚さ約250μmのマイクロアレイを100枚作製した。
顕微鏡によりマイクロアレイ内のゲル状態を確認したところ、全てのスポットにゲルが充填されており、気泡により空孔が生じた形跡は確認されなかった。
【0068】
[実施例3]
重合性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(3.6部)、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.4部)、および添加剤であるポリアクリルアミド(質量平均分子量1,000,000)(1.0部)を、水(95部)と混合してゲル形成用組成物Bを調製した。ゲル形成用組成物Bの粘度(25℃)をブルックフィールド回転式粘度計により測定したところ、16mPa・sであった。
ついで、ゲル形成用組成物Bを用いて、実施例1と同様にして充填、ゲル化を行った。
重合終了後、中空繊維内のゲルを確認したところ、気泡が発生した形跡はなく、充分にゲル化できていることが確認された。
【0069】
[実施例4]
重合性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(3.6部)、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.4部)、および添加剤であるポリ(N,N’−メチレンビスアクリルアミド)(質量平均分子量1,000,000)(1.0部)を、水(95部)と混合してゲル形成用組成物Cを調製した。ゲル形成用組成物Cの粘度(25℃)をブルックフィールド回転式粘度計により測定したところ、15mPa・sであった。
ついで、ゲル形成用組成物Cを用いて、実施例1と同様にして充填、ゲル化を行った。
重合終了後、中空繊維内のゲルを確認したところ、気泡が発生した形跡はなく、充分にゲル化できていることが確認された。
【0070】
[比較例1]
重合性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(3.6部)、および架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.4部)を、水(96部)と混合してゲル形成用組成物Dを調製した。ゲル形成用組成物Dの粘度(25℃)をブルックフィールド回転式粘度計にて測定したところ、5mPa・s(測定の下限値)以下であった。
ついで、ゲル形成用組成物Dを用いて、実施例1と同様にして充填、ゲル化を行った。
重合終了後、中空繊維内のゲルを確認したところ、ゲルは充分にゲル化されているものの、10本中8本の中空繊維において気泡が発生した形跡が確認された。
【0071】
[比較例2]
ゲル形成用組成物Dを用いて、実施例2と同様にして、厚さ約250μmのマイクロアレイを100枚作製した。
顕微鏡にてマイクロアレイ内のゲル状態を観察したところ、約50枚のマイクロアレイにおいて、気泡が発生したためと思われるゲルが保持されていない欠陥スポットが確認された。
【0072】
[比較例3]
重合性モノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミド(3.6部)、架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.4部)、および添加剤であるポリアクリルアミド(質量平均分子量10,000)(10部)を、水(86部)と混合してゲル形成用組成物Eを調製した。ゲル形成用組成物Eの粘度(25℃)をブルックフィールド回転式粘度計により測定したところ、5mPa・s(測定の下限値)以下であった。
ついで、ゲル形成用組成物Eを用いて、実施例1と同様にして充填、ゲル化を行った。
重合終了後、中空繊維内のゲルを確認したところ、ゲルは充分にゲル化されているものの、10本中6本の中空繊維において気泡が発生した形跡が確認された。
【0073】
<生体関連物質検出用キャピラリー>
[実施例5]
外径500μm、内径200μmのガラスキャピラリー10本を用い、ゲル形成用組成物Aにより実施例1と同様にして充填、ゲル化を行った。重合終了後、ガラスキャピラリー内を確認したところ、気泡が発生した形跡は確認できなかった。また、ガラスキャピラリー内のゲルを取り出して確認したところ、充分にゲル化できていることが確認された。
【0074】
[比較例4]
ゲル形成用組成物Dを用いて、実施例3と同様にしてガラスキャピラリーへの充填、ゲル化を行った。
重合終了後、ガラスキャピラリー内を確認したところ、ほぼ全てのガラスキャピラリー内のゲルにおいて、100μm程度の気泡の発生の形跡が確認された。ガラスキャピラリー内のゲルは、充分にゲル化されていた。
以上、実施例1〜5および比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、粘度(25℃)が10mPa・s以上のゲル形成用組成物を用いた実施例1および3では、中空繊維内のゲルに気泡の発生の形跡が見られなかった。
また、同様のゲル形成用組成物を用いてマイクロアレイを製造した実施例2および4においては、ゲル化の際に気泡の発生が見られず、良好なマイクロアレイが得られた。
また、同様のゲル形成用組成物を用いてキャピラリーを製造した実施例5では、ゲル化の際に気泡の発生が見られず、良好なキャピラリーが得られた。
【0077】
一方、粘度(25℃)が5mPa・s以下のゲル形成用組成物を用いた比較例1では、中空繊維内のゲルに気泡の発生の形跡が見られた。また、比較例3では、添加剤を含有しているにもかかわらず、粘度(25℃)が5mPa・s以下であるために、中空繊維内のゲルに気泡の発生の形跡が見られた。
また、粘度(25℃)が5mPa・s以下のゲル形成用組成物を用いてマイクロアレイを製造した比較例2では、発泡の形跡が見られるマイクロアレイが得られた。また粘度(25℃)が5mPa・s以下のゲル形成用組成物を用いてキャピラリーを製造した比較例4でも、発泡の形跡が見られるキャピラリーが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のゲル形成用組成物は、ゲル化の際に気泡が発生するのを抑制することができ、気泡による欠陥を抑えた生体関連物質検出用キャピラリーおよびマイクロアレイが得られるため、遺伝子解析などの様々な用途に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の生体関連物質検出用マイクロアレイの実施形態の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
10 生体関連物質検出用マイクロアレイ 12 基盤 16 貫通孔 18 ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体関連物質検出用キャピラリーまたはマイクロアレイに用いられるゲルを形成するゲル形成用組成物であって、
25℃における粘度が10mPa・s以上であることを特徴とするゲル形成用組成物。
【請求項2】
さらに、グリセロールを含有する、請求項1に記載のゲル形成用組成物。
【請求項3】
さらに、ポリマーを含有する、請求項1又は2に記載のゲル形成用組成物。
【請求項4】
前記ポリマーがポリアクリルアミドである、請求項3に記載のゲル形成用組成物。
【請求項5】
前記ポリマーがポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)である、請求項3に記載のゲル形成用組成物。
【請求項6】
中空部を有する管状の中空材における前記中空部に、請求項1〜5のいずれかに記載のゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されている生体関連物質検出用キャピラリー。
【請求項7】
複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔に、請求項1〜5のいずれかに記載のゲル形成用組成物をゲル化したゲルが保持されている生体関連物質検出用マイクロアレイ。
【請求項8】
中空部を有する管状の中空材における前記中空部に、請求項1〜5のいずれかに記載のゲル形成用組成物を充填し、前記中空部内でゲル化する生体関連物質検出用キャピラリーの製造方法。
【請求項9】
複数の貫通孔を有する基盤を備え、前記貫通孔にゲルが保持されているマイクロアレイの製造方法であって、下記工程(1)〜(3)を含む生体関連物質検出用マイクロアレイの製造方法。
工程(1):前記貫通孔を形成する、中空部を有する複数本の管状の中空材を、該中空材の長手方向が一致するように集束し、それらを固定化して集束物を形成する工程。
工程(2):各々の中空材の中空部に請求項1〜5のいずれかに記載のゲル形成用組成物を充填し、該中空部内でゲル化する工程。
工程(3):前記中空部にゲルを保持する集束物を、該集束物の長手方向と交叉する方向に切断し、薄片化することによりマイクロアレイを得る工程。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242583(P2009−242583A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90636(P2008−90636)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】