説明

ゲル放射成形法を用いた組織工学用多孔性高分子支持体の製造方法

【課題】空隙の大きさが均一であり、空隙間の相互連結性に優れ、細胞注入効率が高いのみならず、機械的強度にも優れる、組織工学用に適した多孔性高分子支持体の簡便な製造の提供。
【解決手段】高分子を有機溶媒に溶解させ、これを、回転している鋳型シャフト(shaft)により攪拌される非溶媒に放射して相分離されるゲル状態の高分子繊維を回転している鋳型シャフトに巻き付けながら成形して多孔性高分子支持体を製造する。本発明の多孔性高分子支持体の製造方法によれば、空隙間の相互連結性に優れ、機械的強度及び細胞注入効率が高いため、組織工学用に適した多孔性高分子支持体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル放射成形法を用いた組織工学用多孔性高分子支持体の製造方法に関する。具体的には、空隙間の相互連結性に優れ、細胞注入効率が高いのみならず、機械的強度にも優れる、組織工学用に適した多孔性高分子支持体(scaffold)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子は、医療用生体材料として広範囲に用いられてきており、組織再生を目的とする組織工学用支持体の材料にも使われている。
【0003】
組織工学用支持体は、移植拒否、細胞毒性、炎症反応などを誘発させないために、生体に適した性質を有さなければならない。加えて、細胞注入効率及び細胞増殖誘導効率が高く、物質伝達が容易であるように、空隙(pore)の大きさが一定であり、空隙率が高く、空隙間の相互連結性(interconnectivity)に優れ、支持体として役割を遂行するために、生体内の圧力に耐えられる高い機械的強度を有さなければならない。
【0004】
これまで、高分子多孔性支持体を製造するために多様な方法、例えば、高分子溶液を塩化ナトリウムと混合して乾燥した後、塩化ナトリウムを水に溶解させる塩浸出法(Solvent-casting/particle-leaching method:Mikos et al., Polymer, 35,1068(1994))、COガスを用いて高分子を膨張させる方法(Gas foaming method:Harris et al., J. Biomed. Mater. Res., 42,396(1998))、高分子溶液と発泡性塩とを混合して乾燥した後、水または酸性溶液で発泡性塩を発泡して支持体を製造する方法(Gas foaming salt method:Nam, et al., J. Biomed. Mater. Res., 53,1(2000))、高分子繊維で不織布を製造する方法(Fiber extrusion and fabric forming process:Paige et al., Tissue Engineering, 1,97(1995))、高分子溶液に含まれている溶媒を非溶媒の中に浸漬して相分離させる相分離法(liquid-liquid phase separation method:Schugens, et al., J. Biomed. Mater. Res., 30,449(1996))、高分子溶液と非溶媒とが混合された乳化溶液を液体窒素に急速冷凍させて凍結乾燥する乳化凍結乾燥法(Emulsion freeze-drying method:Whang et al., Polymer, 36,837(1995))、高分子溶液を電場下で直接放射して繊維状支持体を製造する圧電放射法(Electrospinning method:Matthews et al., Biomacromolecules, 3,232(2002))などが試みられてきた。
【0005】
しかし、これらの方法により製造される支持体を、細胞の粘着と増殖を誘導して3次元的な組織再生を目的とする生体組織工学用に使用するには多くの問題がある。
【0006】
例えば、塩浸出法や発泡法により製造されたスポンジ型支持体は、空隙の大きさと空隙率は優れるが、強度が弱く、圧電放射法により製造された繊維型支持体は、空隙率は優れるが、空隙の大きさが小さいため、3次元的な細胞培養が困難である。
【0007】
また、これまではポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)などの生分解性脂肪族ポリエステルを用いて、溶融放射法により製造した不織布形態の支持体は、機械的強度が非常に低いため組織工学用に用い難いという問題がある。従って、不織布を所望の形態で維持させるために、ポリ乳酸(PLA)を溶解したメチレンクロリドのような有機溶媒の中に不織布を入れた後、取り出して余分なPLA溶液を除去し、オーブンで乾燥させて繊維間を接着させる方法で加工した支持体は、高分子の種類による溶媒の選択、温度の調節、高分子同士の混合性等、諸条件を検討しなければならないため、工程が複雑であるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、空隙の大きさが均一であり、空隙間の相互連結性に優れ、細胞注入効率が高いのみならず、機械的強度にも優れる、組織工学用に適した多孔性高分子支持体を簡単に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明では、(i)生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させて高分子溶液を製造する段階、(ii)段階(i)で得られた高分子溶液を回転しているシャフトにより攪拌される非溶媒に放射して非溶媒の中で高分子ゲルを形成する段階、(iii)段階(ii)で形成される高分子ゲルが回転しているシャフトに巻き付けるようにして多孔性高分子支持体に成形する段階、及び(iv)段階(iii)で得られた多孔性高分子支持体を乾燥させて有機溶媒を除去する段階、を含む多孔性高分子支持体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、前記方法により製造された1〜800ミクロンの空隙の大きさ及び40〜99%の空隙率を有する多孔性高分子支持体を提供する。
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明による多孔性高分子支持体の製造方法は、鋳型シャフトにより攪拌される非溶媒に放射された高分子繊維を、高分子ゲルに相分離すると共に、回転しているシャフトに巻き付けながら多孔性支持体に成形することを特徴とする。
【0013】
本発明によるゲル放射成形法を用いた多孔性高分子支持体の製造工程の一例を図1に示した。
【0014】
具体的には、シャフトが非溶媒に浸漬されるように成形装置を設けてシャフトを回転させる。生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた高分子溶液を準備し、これを、シリンジ(syringe)などのような放射ノズルを通じて5〜50ml/分の速度でシャフトにより攪拌されている非溶媒に落下放射させると、放射される高分子溶液は非溶媒の中でゲル状態の繊維に相分離されながら一定軌道で回転しているシャフトを鋳型として巻かれるようになり、巻かれる繊維間に接着が起こりながら多孔性高分子支持体に成形される。この時、高分子溶液は、重さ/体積比が、基準として1〜20%の範囲であることが望ましい。次いで、成形された多孔性高分子支持体を常温または真空乾燥させて有機溶媒を除去することにより、多孔性高分子支持体を製造する。
【0015】
本発明において、ゲル放射成形装置としては、図2に示したような、公転駆動装置、自転駆動装置及び上下駆動装置と、これら装置により公転及び自転回転運動と上下運動をするシャフトを備えた成形装置を用いることができる。
【0016】
具体的には、前記成形装置は、設置面に垂直に最上部に位置する公転駆動機(1)と、前記公転駆動機に連結された主軸(2)とを有する公転駆動装置;前記主軸(2)に結合して主軸と共に回転する第1連結板(3)と、前記第1連結板に回転可能に設けられた回転盤(4)と、回転盤(4)を回転させる上下駆動機(5)と、前記回転盤(4)に連結されているアーム(7)とを有する上下駆動装置;アーム(7)と自転駆動機(11)を連結する第2連結板(10)と、前記第2連結板(10)の上面に結合して第1連結板(3)の連結溝(9)を貫通して滑走可能に延びており、上部で水平固定台(8)により固定されている一対の垂直連結支柱(6)と、第2連結板(10)に設けられた自転駆動機(11)とを有する自転駆動装置;および自転駆動機(11)に結合したシャフト(12);を含む。
【0017】
このような構成により、シャフト(12)は、公転駆動装置により主軸(2)を中心に公転運動をし、上下駆動装置により上下運動をしながら自転駆動装置により自転運動をすることができる。鋳型シャフトの公転、自転及び上下運動速度は、それぞれ50〜300rpm、50〜500rpm及び50〜300rpmの範囲であることが望ましい。
【0018】
本発明による成形装置を用いる場合、鋳型シャフトが自転、公転及び上下運動を全て行うようになり、放射された繊維がシャフトの一方に偏らず、均等に巻かれるようになる利点がある。
【0019】
また、本発明によるゲル放射成形装置は、同床モータなどで具現可能な公転駆動機(1)、上下駆動機(5)及び自転駆動機(11)の速度を独立的に調節することができ、3個の駆動機の速度を適切に調節することにより鋳型シャフトにゲル状高分子繊維を巻き付ける速度と方向性を調節することができる。また、シャフトの形態、大きさ及び厚さを調節することにより、多孔性高分子支持体を、用途に合う形状を有する多孔性高分子支持体に製造することができる。例えば、チューブ型支持体の製造には円筒形のシャフトを、シート型支持体の製造にはリール(reel)型のシャフトを用いることができ、チューブの直径は円筒形シャフトの直径を、シートの厚さはリール(reel)型シャフトの厚さを適切に選択することにより調節することができる。
【0020】
本発明で使われる高分子は、移植拒否、炎症反応及び細胞毒性を誘発しない生体適合性高分子、例えば、生分解性または非分解性の合成高分子、生分解性天然高分子、これらの共重合体及びこれらの混合物などを用いることができる。前記高分子の種類と分子量により、製造された多孔性支持体の密度、空隙の構造及び空隙率などが影響を受けるため、多孔性支持体の用途に合う高分子を適切に選択して用いる。使われる高分子の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量(M)が5,000〜1,000,000の範囲が望ましい。前記範囲を逸脱する分子量を有する高分子は、粘性があまりにも低いか、高くて繊維の空隙調節が容易でなく、特に、5,000未満の分子量を有する高分子は機械的物性があまりにも弱くて、生体材料への使用が不適切である。
【0021】
前記生分解性合成高分子としては、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D,L−乳酸)(PDLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリトリメチレンカルボネート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシエステル、ポリプロピレンフマレート、ポリホスファゲン及びポリアンヒドリドなどが挙げられ、非分解性合成高分子としては、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート及びポリエチレンオキシドなどが挙げられ、生分解性天然高分子としては、コラーゲン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、ポリアミノ酸、フィブロイン、セリシン及びこれらの誘導体などが挙げられるが、これに制限されない。
【0022】
また、前記の単一高分子だけでなく、2種類以上の単量体を有する高分子重合体、例えば、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L−乳酸−co−カプロラクトン)(PLCL)などのような共重合体、または2種類以上の高分子混合物、例えば、PLLA、PDLA、PGA、PLGAなどから選択される合成高分子とコラーゲンのような天然高分子の混合物などを用いることができる。
【0023】
本発明において、前記高分子を溶解させるのに使われる有機溶媒としては、クロロホルム、メチレンクロリド、酢酸、エチルアセテート、ジメチルカルボネート、テトラヒドロフラン及びこれらの混合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0024】
高分子溶液を非溶媒に放射する際、ゲル状態の高分子繊維が非溶媒の中で適切な速度で凝固することにより、初めて均一で、相互連結性に優れた多孔性高分子支持体を得ることができる。このため、高分子を溶解した溶媒と容易に混合でき、かつ、放射される高分子が、ゲル状態で相分離が適切な速度で起こる非溶媒を用いるのが望ましい。前記非溶媒としては、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物などが挙げられるが、これに制限されない。
【0025】
本発明による多孔性高分子支持体の製造方法は、高分子、有機溶媒及び非溶媒の種類、高分子溶液の濃度及び放射速度、シャフトの回転速度などを調節することにより多孔性高分子支持体の特性を調節することができる。例えば、空隙率、空隙間相互連結性等は、高分子溶液の濃度が低い条件で増加し、機械的強度は高分子溶液の濃度が高い条件で増加する。また、高分子溶液の放射速度とシャフトの回転速度を調節し、シャフトに繊維が巻かれる速度と方向性を調節することができ、これを通じて支持体の空隙特性と機械的強度を調節することができる。前記の全ての要素を多角的に考慮することにより、多孔性高分子支持体の空隙の大きさを1〜800ミクロン、空隙率を40〜99%の範囲で調節することができ、用途により空隙の大きさ及び空隙率を調節して多孔性高分子支持体を製造することができる。
【0026】
また、本発明の製造方法は、高分子溶液の放射と同時に多孔性支持体に成形されるため、製造工程が簡単であり、鋳型シャフトの形態と大きさを調節することにより、用途に合う形態と大きさを有する多孔性支持体に容易に成形することができるという長所も有する。
【0027】
製造工程において多様な変形は本発明の範囲に含まれる。例えば、時間差をおいて異種の高分子を放射することにより、組成と配列が異なる高分子により多層構造を有する多孔性高分子支持体を製造することができる。
【0028】
前記のような本発明の方法によれば、相分離された高分子繊維が回転するシャフトに巻かれながら繊維の多様な地点で接着が起こるようになり、これにより繊維間に強い相互作用が発生するため、製造される多孔性高分子支持体の機械的強度に優れるという特徴を有する。
【0029】
また、本発明の方法により製造された多孔性高分子支持体の空隙は、その大きさが均一であり、閉鎖的に分離されておらず、相互連結されている3次元的構造を有するため、細胞注入効率及び細胞増殖効率が高く、空隙を通じた物質の拡散などが有利であるため、細胞培養、組織再生などの効率が高い。
【0030】
従って、本発明により製造された多孔性高分子支持体は、人工血管、人工食道、人工神経、人工心臓、人工心臓弁膜、人工皮膚、人工筋肉、人工骨、人工靭帯、人工呼吸気管などの人工組織や人工臓器の材料として有利に使われるだけでなく、臓器または組織から由来した機能性細胞と共にハイブリッド組織に製造することにより、細胞機能維持及び組織再生に用いることができ、薬物伝達担体としても使われる等、その用途が多様である。
【発明の効果】
【0031】
前記のように、本発明の方法により製造された多孔性高分子支持体は、空隙の大きさが均一であり、空隙間の相互連結性に優れ、機械的強度が高いため、効果的な細胞注入と細胞増殖の誘導により3次元的生体組織の再生に有利に使われる多孔性高分子支持体を簡単に製造することができるだけでなく、鋳型シャフトの形態と大きさにより、血管、食道、神経などの再生に有利なチューブ型支持体または皮膚、筋肉などの再生に有利なシート型支持体に自由に成形が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を次の比較例及び実施例を通じてより具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0033】
実施例1
重量平均分子量(Mw)が340,000であるPLCL(単量体の組成50:50)をクロロホルムに溶解させて10%の濃度(重さ/体積比)の高分子溶液を得、これをシリンジ(syringe)に注入した。約5リットルのメタノールとヘキサンの混合溶媒(1:1の体積比)が入っている容器に、シャフトが前記非溶媒の中に浸漬されるように図2に示したような成形装置を設け、シャフトを100rpm、150rpm、100rpmの速度でそれぞれ自転、公転及び上下運動させた。この時、シャフトとしては、その直径が10、6、5及び2mmである4種類の円筒形シャフトを用いた。シリンジに注入された高分子溶液を、シリンジポンプを用いて、シャフトにより攪拌されている非溶媒に10ml/分の速度で落下放射させた。高分子溶液は、高分子ゲルに相分離されながら、非溶媒内で自転、公転及び上下運動をするシャフトに巻かれて多孔性高分子支持体に成形された。成形された多孔性高分子支持体を真空乾燥器で乾燥させて図3のような内径がそれぞれ10、6、5及び2mmであり、厚さが1mmである4種類のチューブ型多孔性高分子支持体を製造した。
【0034】
製造された支持体を構成する個別繊維の直径を測定した結果、40〜100ミクロンであり、空隙の大きさは50〜150ミクロンであり、水銀注入空隙測定機で測定した空隙率(porosity)は60〜70%であった。インストロン(Instron)により500ニュートン(N)のロードセルを1分当り10mmの速度で支持体の円周方向に引っ張りながら引張強度、引張率及び弾性係数を測定して支持体の機械的物性を確認した。結果を表1に示す。多孔性高分子支持体の復元力は、試験材長さの400%まで引っ張った時98%以上維持された。
【0035】
また、本発明の方法で製造された多孔性高分子支持体の表面を走査電子顕微鏡(scanning electron microscope)により観察し、その結果を図4(40倍拡大)及び図5(200倍拡大)に、支持体の断面を観察した結果を図6(40倍拡大)及び図7(200倍拡大)に示した。その結果、本発明の方法で製造された多孔性高分子支持体は、繊維が適当に接着されており、空隙間の相互連結性に非常に優れ、空隙の大きさが均一であることが確認できる。
【0036】
実施例2
実施例1と同様の方法で多孔性高分子支持体を製造したが、重量平均分子量(Mw)が150,000であるPLLAをクロロホルムに溶解させて5%の濃度(重さ/体積比)で製造された高分子溶液を用い、メタノールを非溶媒として用いた。この時、リール(reel)型シャフトを用いて図8に示すような、横長が32mmであり、厚さが2mmであるシート型多孔性高分子支持体を製造した。
【0037】
製造された支持体を構成する個別繊維の直径を測定した結果、50〜100ミクロンであり、空隙の大きさは50〜150ミクロンであり、水銀注入空隙測定機で測定した空隙率(porosity)は、60〜70%であった。また、本発明の方法で製造された多孔性高分子支持体の表面を走査電子顕微鏡で観察した写真を図9(40倍拡大)に示す。前記図9から、本発明の方法で製造された多孔性高分子支持体は、繊維が適当に接着されており、空隙間の相互連結性に非常に優れ、空隙の大きさが均一であることが確認できる。
【0038】
比較例1
重量平均分子量(Mw)が340,000であるPLCL(50:50)をクロロホルムに溶解させて20%(重さ/体積比)の高分子溶液を得た。前記高分子溶液に100〜200ミクロン粒径の塩化ナトリウムを、塩化ナトリウム/PLCLの重量比が90wt(%)になるように添加し、混合器(Voltex mixer)で均一に混合した。製造された高分子溶液を押出機で押出成形した後、7日間完全乾燥させた。これを蒸溜水に入れて試片の内部に存在する塩化ナトリウムを完全に溶出させ、凍結乾燥することにより、多孔性高分子支持体を製造した。
【0039】
本発明の実施例1のゲル放射成形法で製造された多孔性高分子支持体の機械的物性を、比較例1の押出成形法で製造された多孔性高分子支持体と、引張強度、弾性係数及び引張率を比較して下記表1に示した。試片は全て横2cmと縦0.5cmに切断して用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
前記表1から、本発明の方法により製造された多孔性高分子支持体(実施例1)は、既存の押出成形法で製造された多孔性高分子支持体(比較例1)に比べて、引張強度は約4倍、弾性係数は約6倍高い機械的強度を有することが分かる。
【0042】
実験例1:細胞注入効率の評価
実施例1及び比較例1で製造された多孔性高分子支持体の3次元細胞培養の適合性を次の方法で確認した。
【0043】
ウサギの平滑筋細胞を酵素法(Michael et al., In vitro Cell. Dev. Biol., 39,402(2003))で分離し、分離された細胞を製造された多孔性高分子支持体に注入した後、WST−8(2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt)を用いて細胞生存活性を分析し、細胞注入効率(cell seeding efficiency)で測定した。
【0044】
高濃度(3.5×10cells/cm)(a)と低濃度(3.5×10cells/cm)(b)の細胞濃度でそれぞれ測定し、その結果を図10に示した。Extは押出成形法(比較例1)により製造された多孔性高分子支持体の細胞注入効率を、Gel−spは本発明により製造された多孔性高分子支持体の細胞注入効率を示す。その結果、本発明の方法により製造された多孔性高分子支持体(実施例1)は、既存の押出成形法により製造された多孔性高分子支持体(比較例1)より細胞注入効率が2〜3倍高いことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によるゲル放射成形法を用いた組織工学用多孔性高分子支持体の製造工程の概略図。
【図2】本発明によるゲル放射成形装置の模式図。
【図3】本発明の実施例1で製造されたチューブ型PLCL多孔性高分子支持体の外観写真。
【図4】本発明の実施例1で製造されたチューブ型PLCL多孔性高分子支持体表面の走査電子顕微鏡写真(SEM)(40倍拡大)。
【図5】本発明の実施例1で製造されたチューブ型PLCL多孔性高分子支持体表面の走査電子顕微鏡写真(200倍拡大)。
【図6】本発明の実施例1で製造されたチューブ型PLCL多孔性高分子支持体断面の走査電子顕微鏡写真(40倍拡大)。
【図7】本発明の実施例1で製造されたチューブ型PLCL多孔性高分子支持体断面の走査電子顕微鏡写真(200倍拡大)。
【図8】本発明の実施例2で製造されたシート型PLLA多孔性高分子支持体の外観写真。
【図9】本発明の実施例2で製造されたシート型PLLA多孔性高分子支持体表面の走査電子顕微鏡写真(40倍拡大)。
【図10】本発明の実施例1と比較例1で製造されたPLCL多孔性高分子支持体の細胞注入効率を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させて高分子溶液を製造する段階、
(ii)段階(i)で得られた高分子溶液を、回転しているシャフトにより攪拌される非溶媒に放射して、非溶媒液中で高分子ゲルを形成する段階、
(iii)段階(ii)で形成された高分子ゲルを、回転しているシャフトに巻き付けるようにして、多孔性高分子支持体に成形する段階、及び
(iv)段階(iii)で得られた多孔性高分子支持体を乾燥させて有機溶媒を除去する段階
を含む、多孔性高分子支持体の製造方法。
【請求項2】
高分子ゲル形成段階(ii)と成形段階(iii)とを同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体適合性高分子が、生分解性合成高分子、非分解性合成高分子、生分解性天然高分子、これらの共重合体及びこれらの混合物からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
生分解性合成高分子が、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリトリメチレンカルボネート、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシエステル、ポリプロピレンフマレート、ポリホスファゲン、ポリアンヒドリド及びこれらの共重合体からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
非分解性合成高分子が、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンオキシド及びこれらの共重合体からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
生分解性天然高分子が、コラーゲン、フィブリン、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、ポリアミノ酸、フィブロイン、セリシン及びこれらの誘導体からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
有機溶媒が、クロロホルム、メチレンクロリド、酢酸、エチルアセテート、ジメチルカルボネート、テトラヒドロフラン及びこれらの混合物からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
非溶媒が、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
シャフトが、公転と自転運動をすると共に上下に移動しながら回転しているものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1により製造された、1〜800ミクロンの空隙の大きさ及び40〜99%の空隙率を有する多孔性高分子支持体。

【図1】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−14773(P2007−14773A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185126(P2006−185126)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(399101854)コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (68)
【Fターム(参考)】