説明

ゲル製造方法

【課題】ゲルの大きさのバラツキを抑え制御して、均一な大きさのゲルを生成する。
【解決手段】液滴吐出工程の後に、サイズ制御工程を実施して、ゲル10を第2溶剤2に浸漬する時間Tを管理することにより、第2溶剤2である塩化カルシウム水溶液とゲル10内に残されているアルギン酸ナトリウムとの反応(架橋凝縮)の進み具合を制御し、ゲル10の大きさの変化率%を制御させることができる。これにより、液滴吐出工程において生成されたゲル10の大きさ、または液滴吐出された第1溶剤1の大きさに比べて、小さいゲル10を得ることができる。または、液滴吐出工程において生成されたゲル10の大きさのバラツキが場合、第2溶剤2に浸漬する時間Tを管理し、ゲル10の大きさの変化率%を制御することで、ゲル10の大きさのバラツキを抑え、均一な大きさのゲル10を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、第1溶剤と第2溶剤とを反応させゲルを生成する方法が知られている。このようにゲルを生成する方法として、流れる連続相(第2溶剤)に、分散相(第1溶剤)を交差させ、連続相のせん断力により、微小液滴またはゲルを生成する方法が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2002/068104号明細書(6頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、せん断力を一定に保つことは困難であり、せん断力が変化することにより、生成されるゲルの大きさにバラツキが発生し、せん断力によりゲルの大きさを制御して生成することは困難という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものである。以下の形態または適用例により実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるゲル製造方法は、第1溶剤を第2溶剤に向けて液滴吐出し、前記第1溶剤と前記第2溶剤とを反応させゲルを生成する液滴吐出工程と、前記ゲルを前記第2溶剤に浸漬し、前記ゲルの大きさを制御するサイズ制御工程とを備えることを要旨とする。
【0007】
これによれば、液滴吐出工程の後に、サイズ制御工程を実施することで、第2溶剤とゲル内に残されているアルギン酸ナトリウムとの反応が進み、ゲルの大きさを制御することができる。たとえば、液滴吐出工程において生成されたゲルの大きさに比べて、小さいゲルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のゲルを示す概略側面図。
【図2】本実施形態のゲル製造方法を示すフローチャート。
【図3】本実施形態のゲル製造方法を示す概略工程図。
【図4】ゲルを第2溶剤に浸漬する時間と変化率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
【0010】
まず、本実施形態のゲル製造方法により形成されるゲルについて説明する。
図1(a)に示すように、ゲル10は、弾性を有した球体形状をしている。または、図1(b)に示すように、弾性を有した円盤形状で中央部に破線で示した窪みがある形状、たとえば赤血球のような形状をしている。または、破線で示した窪みを有しない円盤形状であってもよい。
【0011】
以下、本実施形態のゲル製造方法について、図2および図3を参照して説明する。
図2に示すように、ゲル製造方法は、液滴吐出工程(S101)と、サイズ制御工程(S102)とを備えている。図3は、それぞれの工程の概略を示している。
【0012】
図3(a)に示すように、液滴吐出工程(S101)を実施する。具体的には、第1溶剤1を、容器50に収納された第2溶剤2に向けて液滴吐出し、第1溶剤1と第2溶剤2とを反応させゲル10を生成する。
ここで、図3(a)および(b)では、液滴吐出される第1溶剤1の速度が、遅い場合S(図示左側)と、速い場合F(図示右側)とを図示する。
【0013】
第1溶剤1は、アルギン酸塩であり、たとえばアルギン酸ナトリウムが一例として挙げられる。または、フィブリノーゲン、ホウ酸水溶液などが挙げられる。
【0014】
第2溶剤2は、アルカリ土類金属塩であり、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、または塩化バリウムなどの水溶液が一例として挙げられる。または、トロビンと塩化カルシウムなどのカルシウム塩とを含む水溶液、ポリビニルアルコール水溶液などが挙げられる。
【0015】
たとえば、第1溶剤1としてアルギン酸ナトリウム水溶液を用い、第2溶剤2として塩化カルシウム水溶液を用いる。アルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カルシウム水溶液に向けて吐出させることで、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムとが化学反応し、アルギン酸カルシウムからなるゲル10が生成される。
【0016】
図3(b)に示すように、サイズ制御工程(S102)を実施する。具体的には、ゲル10を、容器55に収納された第2溶剤2である塩化カルシウム水溶液に浸漬し、ゲル10の大きさを制御する。これにより、アルギン酸カルシウムからなるゲル10は、2価の金属イオンにより、さらなるゲル化が誘発される。この場合、2価の金属イオンであるカルシウムイオン(Ca2+)が、ゲル10内に残されたアルギン酸ナトリウムのナトリウムイオン(Na+)と置換されることで、ゲル化が進行する。このとき、ナトリウムイオン(Na+)は1価であり、カルシウムイオン(Ca2+)は2価であるので、2個のナトリウムイオン(Na+)に対して、1個のカルシウムイオン(Ca2+)が置換される。このとき、ゲル10の中心部分に残るアルギン酸ナトリウムは、2つのアルギン酸ナトリウム間において、2つのナトリウムイオン(Na+)が脱離して、2価の金属イオンである1つのカルシウムイオン(Ca2+)に置換されることで、2つのアルギン酸ナトリウム間を橋架けする架橋凝縮が起こり、ゲル化する。これにより、ゲル10の大きさを、凝縮させる、つまり小さくさせる。
ここで、第2溶剤2は、容器55に収納されるとして図示および説明したが、これに限るものではなく、液滴吐出工程(S101)において図3(a)に示すように、第2溶剤2は容器50に収納されるとしてもよい。
【0017】
架橋凝縮が起こりゲル化する際に、ゲル10は、その表面張力により、第2溶剤2である塩化カルシウム水溶液に浸漬する前の形状を維持しようする。このため、置換されるカルシウムイオン(Ca2+)は、図3(b)において矢印で示すように、ゲル10の表面から中心部分へ、均一に入り込み、ナトリウムイオン(Na+)と置換される。これにより、ゲル化が進行し、ゲル10は、均一に凝縮される。つまり、ゲル10が球状の場合、球状を維持しつつ均一に凝縮される。そして、円盤形状で中央部に破線で示した窪みがある形状、または破線で示した窪みを有しない円盤形状の場合、その形状を維持しつつ均一に凝縮される。
【0018】
そして、第2溶剤2である塩化カルシウム水溶液に浸漬する時間Tを管理することにより、ゲル10の大きさの凝縮の程度を制御し、ゲル10の大きさを正確にする。
【0019】
本実施形態によれば、液滴吐出工程の後に、サイズ制御工程を実施して、ゲル10を第2溶剤2に浸漬する時間Tを管理することにより、第2溶剤2である塩化カルシウム水溶液とゲル10内に残されているアルギン酸ナトリウムとの反応(架橋凝縮)の進み具合を制御し、ゲル10の大きさの変化率%を制御させることができる。これにより、液滴吐出工程において生成されたゲル10の大きさ、または液滴吐出された第1溶剤1の大きさに比べて、小さいゲル10を得ることができる。または、液滴吐出工程において生成されたゲル10の大きさのバラツキがある場合、第2溶剤2に浸漬する時間Tを管理し、ゲル10の大きさの変化率%を制御することで、ゲル10の大きさのバラツキを抑え、均一な大きさのゲル10を得ることができる。
【0020】
以下に、第1溶剤1と第2溶剤2とを反応させ生成されたゲル10を、第2溶剤2に浸漬する時間Tと変化率%との関係について、実験を行った。その結果を、図4に示す。
【0021】
ここで、変化率%は、第2溶剤2に浸漬する前のゲル10の大きさ(直径)を分母とし、ゲル10を第2溶剤2に浸漬している間のゲル10の大きさ(直径)を分子とした値である。ゲル10の大きさが変化しない場合、変化率%は100%であり、ゲル10の大きさが小さくなると、変化率%は低下し、100%以下の値になる。
【0022】
第1溶剤1は、3種類のアルギン酸水溶液A,B,およびCを用いた。そして、第2溶剤2は、塩化カルシウム水溶液を用いた。
【0023】
図4に示すように、3種類の第1溶剤1であるアルギン酸水溶液A,B,およびCのいずれの場合においても、第1溶剤1と第2溶剤2とを反応させて生成されたゲル10は、浸漬する時間Tが経過するとともに、変化率%が低下し、ゲル10の大きさ(直径)が収縮していることが確認できる。
【0024】
このように、実験において、上述の効果を奏することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
上述のゲル製造方法により形成されるゲルは、医薬品、化粧品、農薬、生体材料解析、さらには再生医療など幅広い分野で、好適に利用することができる。
【0026】
なお、上記課題の少なくとも一部を解決できる範囲での変形、改良などは前述の実施形態に含まれるものである。
【0027】
たとえば、サイズ制御工程(S102)において、ゲル10を凝縮させる条件として、ゲル10を第2溶剤2に浸漬する時間Tを用いたが、これに限定するものではなく、第2溶剤2の温度、第2溶剤2の溶質濃度、または第2溶剤2の水素イオン指数pHを凝縮させる条件として、実施することが可能である。
【0028】
2価の金属イオンとしてカルシウムイオン(Ca2+)を用いて説明したが、マグネシウムイオン(Mg2+)またはバリウムイオン(Ba2+)などのアルカリ土類金属であればよく、その場合、塩化カルシウムの代わりに、塩化マグネシウムまたは塩化バリウムを用いることができる。
【0029】
なお、第1溶剤1および第2溶剤2の材料を上述のように示したが、どちらを第1溶剤1、どちらを第2溶剤2としてもよく、インクジェットで安定して液滴吐出するために粘度の低い液を第1溶剤1とすることが好ましい。
【0030】
また、上述の実施形態においては、第2溶剤2を流動させずに静止状態で、容器50および容器55に収納しているとして説明したが、これに限るものではなく、容器50および容器55へと第2溶剤2を流動させる構成であってもよい。この場合、上述の実施形態と同様に、サイズ制御工程(S102)において、ゲル10を第2溶剤2に浸漬する時間T、第2溶剤2の温度、第2溶剤2の溶質濃度、または第2溶剤2の水素イオン指数pHを管理することで、上述の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…第1溶剤、2…第2溶剤、10…ゲル、50,55…容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1溶剤を第2溶剤に向けて液滴吐出し、前記第1溶剤と前記第2溶剤とを反応させゲルを生成する液滴吐出工程と、
前記ゲルを前記第2溶剤に浸漬し、前記ゲルの大きさを制御するサイズ制御工程とを備えることを特徴とするゲル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132395(P2011−132395A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294055(P2009−294055)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】