説明

ゲル電解質を有する電気化学電池の製造方法

本発明は、セパレーターとゲル電解質によって隔てられた、アノードとカソードとを有する電気化学電池の製造方法に関する。該製造方法は、電極とセパレーターとを組み合わせてまとめる工程、および電極間に液体電解質組成物を注入する工程、を含む。前記液体電解質組成物は、重合体、非プロトン性の液体溶媒、およびリチウム塩を含んでおり、該液体電解質組成物中の重合体は、カチオン重合で重合できる官能基を有しており、該電池は充電工程と放電工程とを含む電気化学サイクルにかけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質を有する電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質がゲル電解質である電気化学電池、具体的には電極間の当該電解質中でのリチウムイオンの循環を基に機能する電気化学電池が知られている。そのような電気化学電池において、液体電解質または固体高分子電解質の代わりにゲル電解質を用いることは、有利である。ゲル電解質にはフリーの液体がないので液体電解質を使用した場合に比較して、高イオン伝導率を維持しているにもかかわらず、フリーの液体が存在しないことによる高い安全性が保証される。また、ゲル電解質は、高分子電解質より柔軟であり、且つより簡単な処理ができるので、固体高分子電解質に比較して有利である。
【0003】
アノードフィルム、セパレーター、およびカソードフィルムを重ね合わせる工程、後に封止される柔軟な金属バッグに重ね合わせられた各要素を挿入する工程、その組み立てた電池に電解質組成物を注入する工程、および前記柔軟な金属バッグを封止する工程からなる、リチウムアノード、カソードおよびゲル電解質を含む電気化学電池の製造方法が知られている。該電解質組成物は、柔軟な金属バッグを封止した後に架橋される架橋性重合体を含む。米国2007/0111105(Zaghibら)によると、架橋は電子ビームの照射によって、または熱開始剤によって促進される。WO2004/045007(Zaghibら)によると、電解質組成物中の重合体の架橋は、80℃の熱処理によって行われる。
【0004】
いずれの場合も、ゲル電解質を有する電気化学電池の従来の製造方法では、液体電解質からゲル電解質を得るために、熱処理、および/または、開始剤の添加が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、熱処理や開始剤を必要とせず、かつより高いクーロン効率を有する電気化学電池が得られる電気化学電池の製造方法を提供することである。
【0006】
本発明の一形態として、アノード、カソードおよびセパレーターを組み合わせてまとめる工程、およびアノードとカソードとの間に液体電解質組成物を注入する工程を含む、セパレーターとゲル電解質とによって隔てられたアノードとカソードとを有する電気化学電池の製造方法が提供される。ここで、前記液体電解質組成物は、重合体、非プロトン性液体溶媒、およびリチウム塩を含んでおり、該液体電解質組成物中の重合体は、カチオン重合で重合できる官能基を有しており、且つ該電池は充電工程と放電工程とを含む電気化学サイクルにかけられる。
【0007】
本発明の他の形態として、前記方法で得られた電気化学電池が提供される。該電気化学電池は、アノードとカソードとの間に、ゲル電解質によって含浸されたセパレーターを含むと好ましい。ここで、ゲル電解質は、液体溶媒とリチウム塩とによってゲル化された重合体を含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
液体電解質組成物の製造に用いられる該重合体は、カチオン重合可能な側基を有する重合体である。該重合体の側基は、アリル基、またはオキシラニル基、オキセタニル基、テトラヒドロフラニル基、およびテトラヒドロピラニル基などの環状エーテル基であると好ましい。該重合体は、側基としてカチオン重合可能な官能基を有する直鎖状重合体であってもよい。また、該重合体は、末端基としてカチオン重合可能な官能基を有する分枝状重合体であってもよい。直鎖重合体は、側基を有する、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルのラジカル重合によって合成することができる。該重合体は、少なくとも2つの異なるモノマー単位を有する共重合体であると好ましい。例えば、共重合体は以下のモノマー単位AとBとを有することができる。
【0009】
【化1】

(ここで、R1とR3は、それぞれ、Hまたはメチル基である。R2は、非重合性の官能基である。R4は、カチオン重合可能な官能基である。nは、共重合体中のモノマー単位Aの数であり、mは、共重合体中のモノマー単位Bの数である。)
前記共重合体は、分子量が好ましくは200,000〜700,000であり且つm/(n+m)比が好ましくは0.1〜0.6である。
【0010】
該非重合性の官能基は、
アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、およびアリール基;
オキサアルキル基、オキサアルケニル基、アザアルキル基、アザアルケニル基などの、ヘテロ原子が挿入されたアルキル基もしくはアルケニル基由来の官能基;および
環にヘテロ原子(OもしくはN)を有するシクロアルキル基もしくはアリール基;から選択することができる。
【0011】
カチオン重合性の側基を有する直鎖状重合体は、第一工業製薬株式会社がELEXCEL ACGという商品名で市販している。また、カチオン重合性基を有する分枝状重合体も、第一工業製薬株式会社がELEXCEL ERM−1という商品名で市販している。
【0012】
該液体溶媒は、重合体を溶解できる液体化合物であり、好ましくは、直鎖状もしくは環状のエーテル、エステル、ニトリル、アミド、スルホン、スルホラン、アルキルスルファミド、または、部分的にハロゲン化された炭化水素、などの極性の非プロトン性溶媒である。中でも、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、グリム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルテトラヒドロフラン、ギ酸メチルもしくはギ酸エチル、プロピレンカーボネートもしくはエチレンカーボネート、ジアルキルカーボネート(特に、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート)、ビニルエチルカーボネート、ビニルカーボネート、ブチロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、および5〜10の炭素原子を有するテトラアルキルスルホンアミドが好ましい。
【0013】
また、液体溶媒としては、アミジニウム、グアニジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、イミダゾリウム、イミダゾリニウム、トリアゾリウム、ホスホニウムなどの有機カチオンと、(FSO22-(FSI)、(CF3SO22-(TFSI)、(C25SO22-(BETI)、PF6-、BF4-、ClO4-、CF3SO2、オキサリルジフルオロホウ酸(BOB)、もしくはジシアノトリアゾレート(DCTA)などのアニオンとを有する塩であるイオン性液体から選択することができる。
【0014】
液体電解質組成物における重量比「重合体」/「液体溶媒」は0.5〜8%、好ましくは約2%である。液体電解質組成物中の塩濃度は、0.1〜2.5Mである。
【0015】
リチウム塩は、リチウムハロゲン化物LiX(Xは、Cl、Br、I、またはI3)、パーフルオロスルホン酸塩(Cn2nSO3Li)、(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩(N(CF3SO22)Li、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩(HC(CF3SO22)Li、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド塩(C(CF3SO23)Li、過塩素酸塩(LiClO4)、六フッ化ヒ酸塩(LiAsF6)、六フッ化リン酸塩(LiPF6)、六フッ化アンチモン酸塩(LiSbF6)、四フッ化ホウ酸塩(LiBF4)、(C25SO22NLi、(FSO22NLi(LiFSI)、およびオキサリルジフルオロホウ酸塩(LiBOB)から選択されることが好ましい。
【0016】
電気化学電池の電極間に液体電解質組成物を注入した後に、該電池を25℃で、C/5〜C/30のサイクルレート、好ましくはC/24のサイクルレートで、放充電サイクルを一回行う。
【0017】
アノードは、金属リチウム、またはLi−Al、Li−スチール、Li−Sn、Li−Pb、SiO、SnO、SnO2、もしくはSnCoCなどのリチウムを多く含有する金属間化合物合金から選択される材料製のフィルムであると好ましい。また、リチウムイオン電池においては、アノードは、カーボン、Li4Ti512、SiOX(ここで、Xは、0.05<X<1.95である。)、またはこれらの混合物などの、可逆的にリチウムイオンを挿入および脱離できる材料製のフィルムとすることができる。
【0018】
カソードの活物質は、
LiCoO2、LiMn24、LiMn1/3Co1/3Ni1/32、LiNiO2、およびLi(NiM’)O2(ここで、M’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Cu、Ti、Zr、Mg、およびZnから選択される1または2の金属元素である。)などの金属酸化物;
LiFePO4、およびLiMPO4(ここで、Mは、Ni、Mn、またはCoである。)などのリン酸塩、
(前記酸化物またはリン酸塩は炭素処理されていてもよい。)
から選択することができる。
【0019】
(1V未満の電圧での電解質の)還元の際に、保護層が電極の表面に形成される。この保護層は、通常、固体電解質界面(SEI)と呼ばれる。リチウムイオン電池では、このSEIは、イオン導電体と電子絶縁体である。黒鉛電極の表面のSEI層は、例えば、LiFもしくはLi3Nなどの無機リチウム塩で作られている。
【0020】
本発明の方法には、ゲル生成のために、重合開始剤の添加および/または電解質組成物の加熱を要しないという長所がある。本発明者らは、電解質組成物に存在しているリチウム塩および/または電極上の保護層中に形成された化合物が、電気化学電池を初回サイクルにかけたときに、官能基の重合のためのカチオン開始剤として予想外に機能して、さらなる開始剤または加熱を要しないことを見出した。
【0021】
本発明の方法には、重合体の量をより少量とすることができるという更なる利点がある。通常、標準的なゲルの生成において、ゲル組成物は、重合体/液体溶媒の重量/重量比が5〜15%であり、また、硬化剤(開始剤)を含有している。本発明のゲル電解質では、重合体の量は0.5%程度の少量とすることができる。
【0022】
本発明の方法によって、ゲル電解質で含浸されたセパレーターによって隔てられた、アノードおよびカソードを備えてなる電気化学電池が提供される。該ゲル電解質は、液体溶媒とリチウム塩とによってゲル化された重合体を含んでいる。ゲル電解質の中の重合体の割合は好ましくは0.5〜8重量%であり、より好ましくは約2%である。リチウム塩は前述のリチウム塩から選択される。カソードは、前述のような活物質を有する。本発明の方法によって得られる電気化学電池がリチウム電池である場合には、アノードは、好ましくは、金属リチウムおよびリチウムの含有量が多い金属間化合物合金から選択された材料製のフィルムである。本発明の方法によって得られる電気化学電池がリチウムイオン電池である場合には、アノードは、カーボンもしくはLi4Ti512のような、可逆的にリチウムイオンを挿入・脱離できる材料で作られる。
【実施例】
【0023】
本発明について、以下の実施例によって、更に説明するが、これらは例示を目的とするものであって、本発明はこれらの実施例によって制限されない。
【0024】
各実施例では、アノードフィルム、セパレーター、およびカソードフィルムを重ね合わせ、組み合わせてまとめられた要素を柔軟な金属バッグに挿入し、組み立てられた電池に電解質組成物を注入し、該柔軟な金属バッグを封止して、電気化学電池を組み立てた。該電池の電気化学的特性の評価は、Macpile(登録商標)システム(フランス)を用いて行った。
【0025】
(実施例1)
黒鉛電極、金属リチウム電極、および当該電極間に設置したセルガード3501(登録商標)製セパレーターを組み立てて電池を実装した。
【0026】
(黒鉛電極)
粒子サイズ12μmの黒鉛(ハイドロ・ケベック社製SNG12)を、2重量%の気相成長炭素繊維(昭和電工社(日本)製VGCF)と共粉砕混合した。次いで、黒鉛−VGCF混合物を、5重量%のPVDF(クルハ(日本)社製)と混合した。これにN−メチルピロリドンを添加して、スラリーを得た。銅製の集電体上に該スラリーをドクターブレード法で塗布し、該塗布された集電体を120℃で24時間乾燥した。
【0027】
(リチウム電極)
リチウム電極は、金属リチウム箔である。
【0028】
(液体電解質組成物)
LiFP6を、EC/DEC(3/7)混合物に溶解して1M溶液を作成し、これに2重量%の重合体を添加した。該重合体は、10mol%のオキセタニル基を有し且つ平均分子量が400,000である、メチルメタクリレートとオキセタニルメタクリレートとの共重合体である。前記重合体は、ELEXCEL(商標)ACGとして第一工業製薬株式会社から供給されている。
【0029】
組み立てられた電気化学電池(黒鉛/電解質/リチウム金属)の開路電圧(OCV)は、3.2V vs Li+/Liである。
【0030】
(従来の架橋法)
第一の実験では、電気化学電池を組み立てた後に、液体電解質組成物を60℃で5時間加熱して架橋させた。熱処理後の電池のOCVは3.1Vであった。
【0031】
電池の電気化学的評価は、Macpile(登録商標)システム(フランス)を用いて行った。先ず電池をC/24(すなわち、24時間で)で放電させ、その後、0Vと2.5Vとの間を同じレートで充電した。
初回サイクルのクーロン効率(「充電容量/放電容量」比と定義される。)CE1は84%であった。不可逆容量の損失は、保護層、いわゆる固体電解質界面(SEI)の生成に起因する。従来の重合体の架橋法によって得られた電池の可逆容量は310mAh/gである。
【0032】
この実験では、黒鉛電極は、電池の放電前に形成されたゲル電解質に直接接触していた。
【0033】
(本発明による架橋)
第二の実験では、組み立てられた電気化学電池(黒鉛/電解質/リチウム金属)を、熱処理せずに、そのまま、25℃で、0Vと2.5Vとの間をC/24で放充電サイクルを1回行った。初回クーロン効率(CE1)は91%であった。
【0034】
この実験では、ゲル電解質の形成の際に、保護層SEIが形成された。これは、in situ形成されたゲル電解質がSEI層に結合していることを意味する。このin situによるゲル生成の際に、電解質からのLiPF6塩とSEI層からのLiF化合物とが、放充電工程において、重合体の重合性側基の反応を促進させる。
【0035】
可逆容量は365mAh/gであった。
【0036】
リチウム電池の初回サイクル中に、保護層(SEI)が形成される。そして、初回サイクルにおけるクーロン効率CEおよび可逆容量は最も重要な特性である。二つの実験結果の対比によって、本発明の方法によって得られた電池における1stCEと可逆容量は、初回サイクル前の熱処理を含む従来方法による電池のそれらよりも高いことがわかる。本発明の電気化学電池中で保護層が形成された後、2回目のサイクルの際にCEが100%に達した。CEと可逆容量(365mAh/g)は、更なるサイクルにおいて、安定した状態が維持される。
【0037】
(実施例2)
(炭素処理されたLiFePO4電極)
炭素処理されたLiFePO4電極、金属リチウム電極、および当該電極の間に配置したセルガード3501(登録商標)製セパレーターを組み立てて電池を実装した。
【0038】
(LiFePO4電極)
炭素被覆したLiFePO4(粒子サイズ200nmの指定されたC−LiFePO4;ホステックリチウム社製)を、3重量%のアセチレン・ブラック(シェブロン、米国)および3重量%のVGCFと共粉砕混合した。次いで、その混合物を12重量%のPVDFと混合した。これにN−メチルピロリドンを添加してスラリーを得た。アルミニウム製集電体上にドクター・ブレード法で該スラリーを塗布し、該塗布された集電体を120℃で24時間乾燥した。
【0039】
(リチウム電極)
リチウム電極は、実施例1のリチウム電極と同等のものである。
【0040】
(液体電解質組成物)
液体電解質組成物は、実施例1のものと同等のものである。
組み立てられた電気化学電池(C−LiFePO4/電解質/リチウム金属)の開路電圧(OCV)は3.2V vs Li+/Liである。
【0041】
(従来の架橋法)
第一の実験では、電気化学電池を組み立てた後に、液体電解質組成物を60℃で5時間加熱して架橋させた。熱処理後の電池のOCVは3.1Vであった。
【0042】
初めに電池をC/24で充電し、その後4Vと2Vとの間を同じレートで放電させた。初回サイクルのクーロン効率(CE1)は96%であった。可逆容量は158mAh/gであった。
【0043】
(本発明による方法)
第二の実験では、組み立てられた電気化学電池(C−LiFePO4/電解質/リチウム金属)を、熱処理せずに、そのまま、25℃で、4Vと2Vとの間をC/24で充放電サイクルを1回行った。
【0044】
初回クーロン効率(1stCE)は99%であった。可逆容量は165mAh/gであった。
【0045】
両実験結果の対比によって、本発明の方法によって得られた電池の1stCEと可逆容量が、初回サイクル前の熱処理を含む従来方法による電池のそれらよりも高いことがわかる。
【0046】
サイクル前に電池を加熱するときには、ゲル電解質がC−LiFePO4電極に接触して形成される。対照的に、電池を25℃でサイクルするときには、ゲル電解質と保護層(SEI)とが同時に形成される。保護層の形成によってLiFが供給される。LiFおよび電解質のリチウム塩LiPF6の両方が重合体のin situ架橋反応の触媒として働き、SEIとゲル電解質との間が良好に架橋された安定なゲル電解質を得ることができる。
【0047】
(実施例3)
(Liイオンバッテリー)
実施例2で製造したC−LiFePO4電極、実施例1で製造した黒鉛電極、および当該電極の間に配置したセルガード3501(登録商標)製セパレーターを組み立てて電池を実装した。電解質組成物は、実施例1および2のものと同等のものである。
【0048】
組み立てられた電池のOCVは50mVである。
【0049】
(従来方法)
第一の実験では、電気化学電池を組み立てた後に、液体電解質組成物を60℃で51時間加熱することによって架橋させた。熱処理後の電池のOCVは110mVであった。
【0050】
電池を最初にC/24で充電し、その後、4Vと2Vとの間を同じレートで放電させた。初回サイクルのクーロン効率CE1は82%であった。LiFePO4容量に基づく可逆容量は145mAh/gであった。
【0051】
(本発明による方法)
第二の実験では、組み立てられた電気化学電池(C−LiFePO4/電解質/黒鉛)を、熱処理せずに、そのまま、25℃で4Vと2Vとの間をC/24で充放電を1回行った。初回サイクル後のクーロン効率(CE1)は89%であり、可逆容量は153mAh/gであった。2回目のサイクル後のCEは100%である。
【0052】
両実験結果の対比によって、本発明の方法によって得られた電池のCE1と可逆容量は、初回サイクル前の熱処理を含む従来方法による電池のそれらよりも高いことがわかる。
サイクル前に電池を加熱するときには、ゲル電解質はC−LiFePO4電極および黒鉛電極に接触して形成される。対照的に、電池を25℃でサイクルするときには、ゲル電解質と保護層(SEI)が同時に形成される。黒鉛上およびC−LiFePO4上の保護層の形成によってLiFが供給される。LiFおよび電解質のリチウム塩LiPF6の両方が重合体のin situ架橋反応の触媒として働く。架橋反応によって、SEIとゲル電解質との間が良好に架橋された安定なゲル電解質が得られる。
【0053】
(実施例4)
実施例2で製造したC−LiFePO4電極、アルミニウム製集電体の付いた実施例1で製造したLi4Ti512電極、および当該電極の間に配置したセルガード3501(登録商標)製セパレーターを組み立てて電池を実装した。電解質組成物は、実施例1および2のものと同等のものである。
【0054】
組み立てられた電池のOCVは75mVである。
【0055】
(従来の方法)
第一の実験では、電気化学電池を組み立てた後に、液体電解質組成物を60℃で51時間加熱して架橋させた。熱処理後の電池のOCVは80mVであった。
初めに電池をC/24で充電し、その後、2.8Vと1Vとの間を同じレートで放電させた。初回サイクルのクーロン効率CE1は91%であった。
【0056】
LiFePO4容量に基づく可逆容量は150mAh/gであった。
【0057】
(本発明による方法)
第二の実験では、組み立てられた電気化学電池(C−LiFePO4/電解質/黒鉛)を、熱処理せずに、そのまま、25℃で2.8Vと1Vとの間をC/24で充放電を1回行った。
【0058】
初回サイクル後のクーロン効率(CE1)は96%であり、可逆容量は159mAh/gであった。二回目のサイクル後のCEは100%であり、可逆容量は158mAh/gであった。
【0059】
両実験結果の対比によって、本発明の方法によって得られた電池のCE1および可逆容量は、初回サイクル前の熱処理を含む従来方法による電池のそれらよりも高いことがわかる。
【0060】
サイクル前に電池を加熱するときには、ゲル電解質はC−LiFePO4電極および黒鉛電極に接触して形成される。対照的に、電池を25℃でサイクルするときには、ゲル電解質と保護層(SEI)が同時に形成される。黒鉛上およびC−LiFePO4上の保護層の形成によってLiFが供給される。LiFおよび電解質のリチウム塩LiPF6の両方が、重合体のin situ架橋反応の触媒として働く。架橋反応によって、SEIとゲル電解質との間が良好に架橋された安定なゲル電解質が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードとセパレーターとを組み合わせてまとめる工程、およびアノードとカソードとの間に液体電解質組成物を注入する工程を含み、
前記液体電解質組成物が、重合体、非プロトン性の液体溶媒、およびリチウム塩を含んでなるものであり、
該液体電解質組成物中の重合体が、カチオン重合で重合できる官能基を有しており、
該電池を充電工程と放電工程とを含む電気化学サイクルにかけることを特徴とする、
セパレーターとゲル電解質とによって隔てられた、アノードとカソードとを有する電気化学電池の製造方法。
【請求項2】
液体電解質組成物の製造に用いられる重合体が、カチオン重合可能な側基を有する重合体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
側基が、アリル基、またはオキシラニル基、オキセタニル基、テトラヒドロフラニル基、およびテトラヒドロピラニル基から選択される環状エーテル基である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
重合体が、側基としてカチオン重合可能な官能基を有する直鎖状重合体、または末端基としてカチオン重合可能な官能基を有する分枝状重合体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
重合体は、下記のモノマー単位AとBとを有する共重合体であり、
該共重合体は、分子量が200,000〜700,000であり且つm/(n+m)比が0.1〜0.6である、請求項1に記載の製造方法。

(式中、R1とR3は、それぞれ、Hまたはメチル基である。R2は、非重合性の官能基である。R4は、カチオン重合可能な官能基である。nは、共重合体中のモノマー単位Aの数であり、mは、共重合体中のモノマー単位Bの数である。)
【請求項6】
非重合性の官能基は、
アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、およびアリール基;
ヘテロ原子が挿入されたアルキル基もしくはアルケニル基由来の官能基;および
環にヘテロ原子(OまたはN)を有するシクロアルキル基もしくはアリール基;
から選択されるものである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
非プロトン性の液体溶媒が、直鎖状もしくは環状のエーテル、エステル、ニトリル、アミド、スルホン、スルホラン、アルキルスルファミド、または、部分的にハロゲン化された炭化水素である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
非プロトン性液体溶媒が、
アミジニウム、グアニジニウム、ピリジニウム、ピリミジニウム、イミダゾリウム、イミダゾリニウム、トリアゾリウム、またはホスホニウムである有機カチオンと、(FSO22-(FSI)、(CF3SO22-(TFSI)、(C25SO22-(BETI)、PF6-、BF4-、ClO4-、CF3SO2、オキサリルジフルオロホウ酸(BOB)、またはジシアノトリアゾレート(DCTA)から選択されるアニオンとを有する塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
液体電解質組成物における重量比「重合体」/「液体溶媒」が0.5〜8%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
液体電解質組成物中の塩濃度が0.1〜2.5Mである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
リチウム塩が、リチウムハロゲン化物、パーフルオロスルホン酸リチウム、(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドリチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化アンチモン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、ビスパーフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiFSI)、およびオキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBOB)から選択されるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
電気化学サイクルをC/5〜C/30のサイクルレートで行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
アノードが、金属リチウム; またはLi−Al、Li−スチール、Li−Sn、Li−Pb、SiO、SnO、SnO2、SnCoC、カーボン、もしくはLi4Ti512などのリチウムを多く含有する金属間化合物合金から選択される材料からなるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
カソードが、
LiCoO2、LiMn24、LiMn1/3Co1/3Ni1/32、LiNiO2、およびLi(NiM’)O2(ここで、M’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Cu、Ti、Zr、Mg、およびZnから選択される1または2の金属元素である。)などの金属酸化物; および
LiFePO4、およびLiMPO4(ここで、Mは、Ni、Mn、またはCoである。)などのリン酸塩、
(前記酸化物またはリン酸塩は炭素処理されていてもよい。)
から選択される活物質を含有するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の製造方法で得られた電気化学電池。
【請求項16】
アノードおよびカソードの間に、液体溶媒とリチウム塩とによってゲル化された重合体を含んでなるゲル電解質に含浸されたセパレーターを有する請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項17】
重合体の割合が0.5〜8重量%である、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項18】
リチウム塩が、リチウムハロゲン化物、パーフルオロスルホン酸リチウム、(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドリチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化アンチモン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、ビスパーフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiFSI)、およびオキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBOB)から選択されるものである、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項19】
カソードが、
LiCoO2、LiMn24、LiMn1/3Co1/3Ni1/32、LiNiO2、およびLi(NiM’)O2(ここで、M’は、Mn、Co、Al、Fe、Cr、Cu、Ti、Zr、Mg、およびZnから選択される1または2の金属元素である。)などの金属酸化物; および
LiFePO4、およびLiMPO4(ここで、Mは、Ni、Mn、またはCoである)などのリン酸塩、
(前記酸化物またはリン酸塩は炭素処理されていてもよい。)
から選択されてなる活物質を含有するものである、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項20】
アノードが、金属リチウム、またはリチウムを多く含有する金属間化合物合金からなるフィルムである、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項21】
アノードが、カーボン、Li4Ti512、SiOX(ここで、Xは、0.05<X<1.95である。)、またはこれらの混合物からなるものである、請求項15に記載の電気化学電池。

【公表番号】特表2011−519116(P2011−519116A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550001(P2010−550001)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000222
【国際公開番号】WO2009/111860
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(591117930)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】