説明

ゲート駆動装置

【課題】ダイオードの低温時のEMIノイズ低減と特定の温度条件と、電力変換器駆動条件における電圧電流振動の抑制とスイッチング損失の低減の両立。
【解決手段】上述した高圧ダイオードの課題を解決する方法として、制御パルス生成時のパルス幅と、所定のパルス幅しきい値を比較および、デバイス温度推定情報と所定の温度しきい値を比較して、EMIが大きくなる動作条件にあわせて、ゲート抵抗を切り替える。または、パワー半導体に使われているダイオードの発振現象がおきる温度での動作時や、通流時間が短い制御パルスを生成時にあわせて、対アームのスイッチング素子の駆動条件を緩やかにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ,コンバータといった電力変換器システムのゲート制御方式にかかり、特に前記回路システムの高信頼化に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換器は、インバータ回路や昇圧および降圧回路をはじめとして、スイッチとダイオードなどからなる電気回路で構成されている。
【0003】
インバータやコンバータをはじめとする電力変換器は、直流や交流の電力変換や、交流の周波数変換などを行うために用いられており、昇降圧用のスイッチング電源から、大容量のモータ駆動システムや、送電,変電などといった電力システムなど様々な用途で使われている。
【0004】
上記システムに用いられる変換器用素子としては、大容量の用途においては、損失低減の観点から、高耐圧のトランジスタやダイオードなどのパワー半導体素子が使われている。
【0005】
変換器の効率向上のため、パワー半導体には低損失化が求められるのと同時に、パワー半導体を使ったインバータでは、スイッチング損失の低減と同時にEMI(electro-magnetic interference)ノイズの低減といった高信頼化が求められている。パワートランジスタのターンオン時に生じる損失と、EMIノイズの低減を両立する方法として、ターンオン時のトランジスタの電流変化率を逐次検知してゲート抵抗を切り替えるという方式や、コレクタ電流によって電流指令値に基づいて、スイッチング速度を切り替える方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−278274号公報
【特許文献2】特開2009−27881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電力変換器を休止状態から再投入するときなどのパワー半導体が低温で動作する状態での使用や、電力変換器の負荷が大きくなったときなどのパワー半導体の温度が上昇した状態での使用など、通常動作の温度領域からはずれた場合にターンオン時のノイズが発生することがある。
【0008】
パワートランジスタの動作自体が原因でノイズが発生することもあるが、ダイオードの動作条件によっては、ダイオードの電流振動や電圧振動現象によって、スイッチング損失やEMIノイズが増大することがある。特に高圧のダイオードの場合、ダイオード逆バイアス時のリカバリ動作時の温度特性や通流時の電流値によって、出力電圧または出力電流が大きく振動し、ノイズ源となっていることがある。またPWMパルス制御をインバータ回路で使用するときには、ダイオードの通流時間が極端に短くなってしまい、通流電流が小さい条件での発振現象が起こることがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した高圧ダイオードの課題を解決する方法として、制御パルス生成時のパルス幅と、所定のパルス幅しきい値を比較および、デバイス温度推定情報と所定の温度しきい値を比較して、EMIが大きくなる動作条件にあわせて、ゲート抵抗を切り替える。
【0010】
または、パワー半導体に使われているダイオードの発振現象がおきる温度での動作時や、通流時間が短い制御パルスを生成時にあわせて、対アームのスイッチング素子の駆動条件を緩やかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、ダイオードの電流変化率や電圧変化率を低減するように駆動することができ、ダイオードが原因のEMIノイズを低減することができる。またダイオードのEMIノイズが発生する条件にあてはまらないときには、スイッチング素子の駆動条件となるゲートインピーダンスを小さくするなどして、高速駆動することによって損失の低減ができる。以上本発明によって、パワー半導体のEMIノイズ低減と、損失低減の2つの効果を両立することができる。また論理部のパルス生成時のロジックを簡略化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の説明図。
【図2】実施例2の説明図。
【図3】実施例3の説明図。
【図4】実施例4の説明図。
【図5】実施例5の説明図。
【図6】実施例6の説明図。
【図7】実施例7の説明図。
【図8】実施例8の説明図。
【図9】実施例9の説明図。
【図10】実施例10の説明図。
【図11】実施例11の説明図。
【図12】実施例12の説明図。
【図13】実施例13の説明図。
【図14】実施例14の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明に基づく第1の実施形態における変換器回路の構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の変換器回路構成として、変換器回路におけるスイッチング素子1とダイオード2とからなるパワー半導体と、ゲート駆動回路とパルス生成部5を備えるゲート駆動部を有する基本回路である。図1において、1はスイッチング素子、2はダイオード、3は可変ゲート抵抗、4はゲート駆動回路、5はパルス生成部、6はパワー半導体温度推定手段、7はゲイン変更信号生成部、8は第1のアンド回路、9は第1のパルス幅検知回路を、101に組み合わせダイオードを表している。
【0015】
本実施例の回路について図1を用いて説明する。
【0016】
半導体のスイッチング素子を組み合わせた変換器回路は、電力を制御するためのスイッチング素子1や、ダイオード2からなるパワー半導体で構成されている。また、変換器回路では、スイッチング素子1をオンオフ制御するために、スイッチング素子1のゲートを駆動するゲート駆動回路4を備え、マイコンやCPUなどからなる制御論理部からの出力により、変換器回路で必要な電流や電圧を制御するためのパルスを生成するパルス生成部5が備えられている。近年では変換器用のスイッチング素子の多くには絶縁ゲート型のバイポーラトランジスタ(以下IGBTと略す)が使われており、本実施例では図1のスイッチング素子1としてIGBTを用いた変換器の回路図を説明する。またIGBTをつかった電力変換器の基本構成として、制御論理部からの信号を増幅するために、4で示したゲート駆動回路が使われている。
【0017】
IGBTのコレクタ端子とエミッタ端子には電源または他のパワー半導体や、受動素子や、負荷が取り付けられており、パルス生成部5から出力される信号によってスイッチング素子1のオン,オフ動作が決まる。スイッチング素子1のゲート電圧を制御して、コレクターエミッタ間の電圧や、コレクタ電流を変化させている。
【0018】
直流から交流への変換器(インバータ)回路の場合、IGBTのコレクタまたはエミッタ端子には直列に組み合わせダイオード101が接続されるため、この組み合わせダイオード101が逆回復動作(リカバリ動作)を伴い、IGBTに流れるコレクタ電流は瞬間的にピークを持つ波形となる。この組み合わせダイオード101の温度特性が問題となる。そこで、本実施例ではサーミスタや熱電対などといったパワー半導体温度推定手段6から出力されるパワー半導体の推定温度情報を、ゲイン変更信号生成部7で所定の温度しきい値と比較して、出力し、第1のアンド回路8に入力する。ここで、パワー半導体温度推定手段6は、スイッチング素子1とダイオード2の少なくともいずれかの温度を推定することが可能である。また第1のパルス幅検知回路9で検知したパルス幅から算出される電流推定値を第1のアンド回路8へ出力し、所定のパルス幅しきい値と比較して、第1のアンド回路8に入力する。7と9からの信号を比較することで、組み合わせダイオードのノイズの影響が大きくなる条件を検知する。前記第1のアンド回路8の出力をもとにして、可変ゲート抵抗3の抵抗を大きい値に切り替える。
【0019】
このようにゲート駆動のインピーダンスをダイオードのEMIが発生する条件で切り替えることによって、電流や電流変化率のフィードバックをせずに、上記発明の効果を実現することができる。
【実施例2】
【0020】
本発明に基づく第2の実施形態における変換器回路の構成について、図を参照しながら説明する。図2は、ゲートインピーダンスを変更する信号をゲート電圧の変化に合わせて送信し、ターンオン時に過渡的に切り替えるゲート駆動方式の一例である。ゲイン変更信号生成部7は、あらかじめダイオードのEMIが発生するパルスの判定条件を保有しており、パルス生成部5からパルス信号を受信して、パワー半導体温度推定手段6から受信した温度情報と比較して、ゲートインピーダンスを変更するゲイン変更信号を生成する。この前記ゲイン変更信号生成部7の出力と、ゲート電圧とを第1の比較器10を使って、可変ゲート抵抗3の抵抗を大きな値に変化させることで、スイッチング素子1であるIGBTがオンしている瞬間にコレクタまたはエミッタの電圧振動や、電流振動がダイオード2によって生じた場合、スイッチング素子1であるIGBTのコレクタ電流の変化を検知し、IGBTのスイッチのタイミングを見ながら、ダイオードのノイズが発生する瞬間にあわせて、IGBTの電流変化率や電圧変化率を変更することが可能な回路方式を提供することができる。
【実施例3】
【0021】
本発明に基づく第3の実施形態における変換器回路の方式について、図3を用いて説明する。図3は実施例2で示したゲート駆動方式のゲート駆動回路4とパルス生成部5の間に遅延回路11を追加したものである。遅延回路11以外の構成は実施例2と同様である。
【0022】
本実施例においてパルス生成部5からゲート駆動回路4へのオンオフ信号と、ゲイン変更パルスの処理の同期を取ることで、好適なゲート駆動方式を提供することができる。
【実施例4】
【0023】
本発明に基づく第4の実施形態における変換器回路の構成について、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の変換器回路構成として、スイッチング素子1としてのIGBTとダイオードのパワー半導体を直列に接続し、正極側IGBTと負極側IGBTを駆動するゲート駆動回路にそれぞれゲイン変更信号生成部を備えて、変換器回路におけるスイッチング素子とダイオードからなるパワー半導体と、ゲート駆動電源とパルス生成部からなるゲート駆動部からなる基本回路を2つ組み合わせたときの一例である。図1と同じ構成要素には同一の符号を付してある。
【0024】
図4において、12は正極端子、13は負極端子、14は第2のスイッチング素子、15は第2のダイオード、16は第2の可変抵抗、17は第2のゲート駆動回路、18は出力端子、19は第2のゲイン変更信号生成部、20は第2のアンド回路を表している。
【0025】
正極端子12,負極端子13をそれぞれ直流電源に接続し、18で示した出力端子を負荷に接続した直流から交流への変換器(インバータ)回路では、1,14で示したスイッチング素子をそれぞれ駆動した場合、1で示したスイッチング素子のコレクターエミッタ間電圧の変化に応じて、15の第2のダイオードで示した、対側ダイオードに電圧が印加される。例えば前述したインバータ回路において、12と13の端子に電源として、電圧源が取り付けられているときに、IGBTなどのスイッチング素子がターンオンする時には、1で示したスイッチング素子のコレクターエミッタ間電圧の立ち下がりにしたがって、対側ダイオードである15のカソード−アノード間電圧が立ち上がる。このとき、動作するダイオード15のデバイス温度や、通流させる電流の通流時間が短いとダイオードリカバリ時の電流振動および電圧振動が起こりEMIノイズの原因となることがある。このようにダイオードの電流振動および電圧振動がおきる条件でIGBTをスイッチングさせる場合に、振動するダイオードリカバリ時のノイズが発生する瞬間に、対側のスイッチング素子のゲートインピーダンスを大きく変化させることによって、このダイオードリカバリ時のEMIノイズを抑制することが可能である。
【0026】
本実施例では図4における正極端子側のIGBT1がターンオンする瞬間のゲート制御に実施例1に記載した方法が適用可能である。具体的には、負極端子側のダイオード15のEMI抑制を行うために、本実施例では、上記ダイオード15がEMIを発生する条件のパルス信号をパルス生成部5で生成した場合に、上記パルス幅検知回路9はパルス生成部から受信したパルス信号がEMIを発生する条件と一致することを検知する。ゲイン変更信号生成部7は上記パワー半導体温度推定手段で検知した上記ダイオード15の温度推定値と所定の温度しきい値とを比較して、ゲイン変更信号生成部7で生成した出力信号を第1のアンド回路8に入力する。第1のアンド回路では、ゲイン変更信号生成部7とパルス幅検知回路9からの信号を比較することで、組み合わせダイオードのノイズの影響が大きくなる条件を検知し、3で示した可変ゲート抵抗を変化させる。
【実施例5】
【0027】
本発明に基づく第5の実施形態における変換器回路の構成について、図5を参照しながら説明する。実施例2で示したように、ゲート電圧と、前記ゲイン変更信号生成部7の出力信号とを比較する第1の比較器10の出力信号を用いて、IGBT1のゲート駆動スピードを変更するタイミングを決定し、可変ゲート抵抗3の定数を大きくして所定の時間だけゲート駆動条件を緩やかにするためのゲート駆動方式をインバータ回路に適用したときの実施例を示す。
【0028】
10は第1の比較器を示す。正極側のスイッチング素子1のゲート電圧と、ゲイン変更信号生成部7の出力信号とを比較する第1の比較器10を用いて、可変ゲート抵抗3を変更することによって上記課題を達成することができる。
【0029】
実施例4,5では、負極側のダイオード15のEMIを抑制するためのゲート駆動方式について説明したが、正極側ダイオード2のEMI抑制も実施例4,5と同様に、負極側のスイッチング素子14のゲート駆動方式によって正極側ダイオード2のEMI抑制を実現することができる。
【0030】
即ち、ターンオン時に負極側のIGBT14の制御に、ダイオード2の温度を検知するためのパワー半導体温度推定手段6を備えて、上記ダイオード2が振動する条件の時間幅のパルスをパルス生成部5で生成した場合に、上記ダイオード2の温度推定値と比較して、負極側のIGBTである第2のスイッチング素子14のゲート駆動インピーダンスを可変ゲート抵抗16により変更することで上記課題を達成することができる。
【実施例6】
【0031】
インバータ回路のIGBTターンオン時に実施例2で示したゲート駆動方式を用いたときのコレクターエミッタ間電圧Vceと、コレクタ電流Icを示す。また、そのときのゲイン変更パルスの一例と、ゲート抵抗およびEMIノイズの時間変化の模式図を図6に示す。破線は、従来方式のコレクターエミッタ電圧と、ゲート抵抗と、そのときのEMIノイズ波形模式図である。
【0032】
図6では、実施例2のゲイン変更信号生成部7から可変ゲート抵抗3の抵抗値を変更させるための信号が時間遅れなく送信された場合の最良な可変ゲート抵抗の変化を示している。
【0033】
図6を用いてIGBTターンオン時の過渡現象と、EMIノイズの発生について説明する。ゲート駆動装置によって、IGBTのゲート容量に充分に電荷が供給され、IGBTのゲート閾値より電圧が高くなる。時刻tAにおいてコレクタ電流Icが流れ始め、コレクターエミッタ間電圧Vceの立下がりが始まる。電流Icは時刻tC以降では、ダイオードの還流電流または論理部のオンオフのパルス制御によって決められた電流が流れる。時刻tAとtCの間では、組み合わせダイオードのリバースリカバリによって、制御で決めた電流Icより大きなダイオードのリカバリ電流がIGBTに重畳する。IGBTにダイオードリカバリ電流が重畳して電流ピーク値Ipになる時刻を時刻tBとする。時刻tBからtCまでの期間において、従来方式では本発明のようにゲートインピーダンス変更を行っていない場合より、電圧Vceの時間変化率が大きくなる。このため対側ダイオードの電圧変化率,電流変化率も抑制できない。このため少なくとも従来方式とコレクターエミッタ電圧が一致する時刻tC′まではEMIノイズが大きくなる。また負荷のインピーダンスによっては時刻tC′以降も振動が減衰せずに振動が伝播する可能性がある。
【0034】
一方、本発明のように、パワー半導体の温度推定値や、制御パルスの時間幅などといったダイオードの電圧変化が大きくなる条件で変換器回路が動作する場合にゲートインピーダンスの操作手段を作動し、IGBTのターンオン時に時刻tBのようにリカバリ電流がピークIpとなる瞬間にあわせて、ゲート駆動条件を所定時間だけ緩やかにすることができるゲート駆動方式を提供することによって、ダイオードが原因のEMIノイズを抑制することができる。
【実施例7】
【0035】
上記の各実施例で示したゲートインピーダンスの変更手段を使ったEMI抑制方式に追加して、IGBTの損失低減を行った場合のゲイン変更パルスの一例と、そのときのゲート抵抗およびEMIノイズの時間変化の模式図を示す。破線で従来方式のコレクターエミッタ電圧と、ゲート抵抗とそのときのEMIノイズ波形模式図を示す。実施例6との違いは、所定時間ゲート抵抗を大きくして緩やかにIGBTを駆動して、従来方式とコレクターエミッタ電圧が変化する時刻tC′から、IGBTが導通時電圧まで立下がる時刻tDまでのゲート抵抗を、tB以前の当初のゲート抵抗値より小さくすることで、IGBTの立下がりが完了する時刻を、時刻tDより早い時刻tD′に早める動作を行うということにある。
【0036】
このような制御方式をインバータ回路に用いると、制御を行った対側のダイオードリカバリ時のEMIノイズの抑制と、制御するスイッチング素子の損失低減を両立することができる。特にIGBTの場合バイポーラ動作の遅れによって期間tC′からtDのような電圧の立下がりの遅れが生じることがある。このため当初のゲート抵抗ではtDだった時刻を時刻tD′まで早めるゲート制御定数に変更することによって、IGBTのターンオン損失を低減することができる。
【実施例8】
【0037】
実施例7に示した波形を実現する好適な回路方式の一例について図8を用いて示す。図1と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図8において、24は対側ダイオード電圧比較手段、23は第3のアンド回路を表している。図1の1で示した正極側はスイッチング素子のターンオン時にゲートを制御する場合、24で示した対側ダイオード電圧比較手段を用いて、対側ダイオードリカバリ時の電圧に閾値をあらかじめ設定しておく。
【0038】
リカバリ時ダイオード電圧が閾値以上になったときに24で示した電圧比較手段の出力信号が第3のアンド回路23に伝わり、これと、ゲイン変更信号生成部7の信号を比較して、リカバリ電圧が上昇している間のタイミングで駆動するゲート駆動処理を行う。このリカバリ電圧が上昇している間のタイミングは、インバータ回路の場合のIGBTの電圧が急速に立下がり始めたとき、すなわち図7に記載の時刻tB以降である。本実施例は、ゲート抵抗をtB以前のインピーダンスより低くする回路を実装することで実現することができる。
【0039】
なお本実施例では正極側のIGBTを制御定数に負極側のダイオードの電圧出力をゲートインピーダンスの変更を時刻tB以降に行う判定値として使うものであったが、同様のことが負極側のIGBTを制御するときの負極側のIGBTのゲートインピーダンス変更用の判定値として、正極側ダイオードのリカバリ時の電圧を閾値として用いても上記記載の実施例と同様の効果が得られるのは明らかである。
【実施例9】
【0040】
パワー半導体の温度推定手段を実現する好適な回路方式の一例について図9を用いて示す。本実施例では、ダイオードのEMI特性改善のために、ダイオードの温度を推定する手段として、ダイオードの電流電圧特性を図8で示した対側ダイオードのダイオード電圧検出手段24と、出力電流を測定する電流測定手段を用いた例を示す。図8と同じ構成要素には同一の符号を付してある。図9において、26は対側ダイオード温度推定演算部、25は出力電流測定手段を表している。実施例8では対側ダイオードのダイオード電圧検出手段24をつかって逆バイアス時の電圧を検知するだけでなく、ダイオード通流時の電圧降下と、25で示した電流測定手段を使って、順方向電流を測定し、ダイオードの電圧電流特性から26で示したダイオード温度推定値演算部で処理して、ゲイン変更信号生成部7がゲイン変更信号を出力する例である。例えば、交流電動機をベクトル制御で動かす変換器回路の場合、25で示した電流測定手段は交流出力側に電流プローブが取り付けられているのが一般的である。これと変換器回路の出力電圧を測定する24で示した対側ダイオードのダイオード電圧検出手段のような出力電圧測定手段と組み合わせることによって、パワー半導体の温度推定が可能になる。また同じ部品を使って、通流時の電圧降下だけでなく、実施例8のように逆バイアス時のダイオードのリカバリ電圧を検知して、23に示した第3のアンド回路への出力信号を生成することができれば、実施例8で示した構成で、サーミスタや温度計などといったパワー半導体の温度推定用部品を削除し、当初のダイオードEMI抑制のほかにパワー半導体の損失を減らしつつ、部品点数を減らすことが可能になる。
【実施例10】
【0041】
パワー半導体を駆動するゲートのインピーダンスを変更する可変ゲート抵抗3,16の好適な駆動回路構成の一例を図10で説明する。
【0042】
本実施例は、IGBTにゲート駆動用の電源回路を接続し、駆動信号作成手段と、トランジスタを有し、前記相補的に動作する切り替え回路を利用して、ターンオン時のゲートインピーダンスと、ターンオフ時のゲートインピーダンスを独立に設定可能なパワートランジスタとそれを駆動するゲート駆動回路と、パルス生成部を使った回路構成の一例である。
【0043】
図10の構成を説明する。図9と同じ構成要素には同一の符号を付してある。26は第1のPMOSFET、51は第1の反転増幅器、28は第1のゲート抵抗、29は第2のゲート抵抗、30はターンオン用アンド回路、31は第3のゲート抵抗、32は直流電源、33は第1のnpnトランジスタ、34は第1のpnpトランジスタ、35はターンオフインピーダンスを表している。
【0044】
図10において、IGBTをターンオンさせるときに直流電源32とIGBT1の間の抵抗は、通常第1のPMOSFET26がオンしており、第1のゲート抵抗28と、並列に接続された第2のゲート抵抗29と、前記二つの抵抗に対して直列に接続された第3のゲート抵抗31の合成抵抗(R1×R2)/(R1+R2)+R3となる。ゲイン変更信号生成部7にてゲートを緩めるための信号が入力されると、第1のPMOSFETをオフするように作用するので、このときの合成抵抗はR1+R3となり前記合成抵抗(R1×R2)/(R1+R2)+R3に対して抵抗を大きく変化することによって、上述した各実施例で示した可変ゲート抵抗3,16を提供することができる。
【実施例11】
【0045】
パワー半導体を駆動するゲートのインピーダンスを変更する可変ゲート抵抗3,16の好適な駆動回路構成の一例を図11で説明する。
【0046】
本実施例は、IGBTにターンオン時にゲート電圧をフィードバックすることで、ターンオン後のゲート抵抗を過渡的に変化可能な回路の一例である。図10と同じ構成要素には同一の符号を付してある。36は第1のターンオン変更信号用比較器、37は第1のインバータ回路、42は第4のゲート抵抗を示す。
【0047】
図11において、IGBTをターンオンさせるときにゲート電圧を第4のゲート抵抗42および、第1のインバータ回路37を通して、ゲイン変更信号生成部7の出力と第1のターンオン変更信号用比較器36を用いて比較してある。この回路構成によって実施例10で記したゲートインピーダンスを変化させることが可能となり、実施例5と同様の効果を得ることができる。
【実施例12】
【0048】
パワー半導体を駆動するゲートのインピーダンスを変更する可変ゲート抵抗3,16の好適な駆動回路構成の一例を図12で説明する。
【0049】
本実施例は、IGBTにターンオン時にゲート電圧をフィードバックすることで、ターンオン後のゲート抵抗を過渡的に変化可能な回路の一例である。図10と同じ構成要素には同一の符号を付してある。38に第2のターンオン変更信号用比較器を、39に第2のPMOSFETを、40に第5の抵抗を、41に第1の容量を示す。
【0050】
図12においては、IGBTをターンオンさせるときに実施例10で示した方法と同じ方法で、合成抵抗を前記合成抵抗(R1×R2)/(R1+R2)+R3に対して大きいR1+R3からに変えた後、ダイオード12の電圧上昇を19で示したようなダイオード電圧測定手段の情報と、ゲイン変更信号生成部7の信号を比較して、38で示した第2のターンオン変更信号用比較器からの出力によって、39で示した第2のPMOSFETを駆動し、ゲートインピーダンスをR1+R3からR3+(R1×R5)/(R1+R5)に変化させることができる。
【0051】
第5の抵抗40に適用な定数を選択することで、実施例9で説明した効果と同様の効果が得られる。
【0052】
また第5の抵抗40と並列に第1の容量41が接続された回路構成とすることで、第2のPMOSFET39を導通直後のインピーダンスを小さくして、スイッチング素子1を瞬間的にターンオンの電圧変化率をあげてスイッチング素子の損失を減らすことが可能となる。またこのときの効果は、実施例7で述べた効果と同様となる。
【実施例13】
【0053】
パワー半導体を駆動するゲートのインピーダンスを変更する可変ゲート駆動回路の一例である。
【0054】
本実施例は、27で示した駆動信号作成手段に対して、33,34,49,50で示したトランジスタを組み合わせて、2並列のインバータ回路を構成し、IGBTのターンオン時にゲート電圧をフィードバックすることで、ターンオン後のゲート抵抗を過渡的に変化することができる回路の一例である。図12と同じ構成要素には同一の符号を付してある。27に駆動信号作成手段と、24に第1のNMOSFETを、37に第1の反転増幅器を、28に第1のゲート抵抗を、27に第7のゲート抵抗を、36にターンオン変更信号用比較器を、47に6のゲート抵抗を、31に第3のゲート抵抗を示す。
【0055】
図13においては、IGBTをターンオンさせるときに実施例10や実施例12で示した方法と同じ方法で、合成抵抗をR1から、R1に対して小さい合成抵抗(R1×R7)/(R1+R7)に切り替える回路の一例である。
【0056】
本実施例では、6のパワー半導体の温度推定手段からの情報をもとに7のゲイン変更信号生成部の信号によって、24で示した第1のNMOSFETのゲートを、36で示したターンオン変更信号用比較器と、37で示した反転増幅器からなる論理回路を通じて、過渡的に駆動する回路インピーダンスを変更する回路方式である。実施例12と同様にパワー半導体の温度情報をもとに、ゲート駆動回路の駆動に必要なインピーダンスを適宜制御することが可能である。
【0057】
27,26で示したゲート抵抗のインピーダンスと、7の信号生成部の判定値に好適な定数を選択することで、実施例9で説明した効果と同様の効果が得られる。
【実施例14】
【0058】
図14に本発明を3相モータと3相インバータに適用したときに、パルス出力部にて、ノイズ発生条件を振り分ける場合のシステム構成図を示す。
【0059】
図13までの図と同じ構成要素には同一の符号を付してある。52に3相モータを、43に相電流検出手段を、44にパルス制御部を、45にゲート駆動部を46に3相インバータ回路を示す。
【0060】
PWM制御を行う3相のモータ駆動システムにおいて、電流センサなどで構成される相電流検出手段43からの情報に基づいて、マイコンや論理CPUで構成されるパルス制御部44にて生成された情報をゲート駆動部45に伝える。パワー半導体温度推定手段6から得られた温度情報を元にパルス出力生成部7にて、ノイズ発生条件を振り分ける。このときにダイオードEMIが発生しやすい温度やPWMパルス条件においてゲート駆動部にて、駆動回路とスイッチング素子間のゲートインピーダンスを調整することで、本発明の課題を解決することが可能である。
【0061】
また、前記実施例を適用した鉄道車両用や電気自動車用を駆動する半導体変換器システムのゲート駆動方式を利用した場合、低温時のEMI低減や、寒冷地や始動時などといった特有の動作条件におけるダイオードの共振現象による素子破壊や、インバータ故障などを未然に防ぐことができるという効果があり信頼性向上につながる。
【0062】
上記に示した、好適実施例を逸脱しないアイデア、および好適実施例の複合的なアイデアは、本発明から容易に推敲することが可能である。
【0063】
また上述した本発明の実施例では、2レベルインバータをはじめとした変換器回路を図示したが、本発明の変換器回路に関しては、電圧レベルを3個以上持つマルチレベルのインバータやコンバータ、あるいはDC−DCコンバータといった別の変換器にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
家電,電源,モータ駆動鉄道,鉄鋼,電力などの電力変換器を使用する各分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 スイッチング素子
2 ダイオード
3 可変ゲート抵抗
4 ゲート駆動回路
5 パルス生成部
6 パワー半導体温度推定手段
7 ゲイン変更信号生成部
8 第1のアンド回路
9 第1のパルス幅検知回路
10 第1の比較器
11 遅延回路
12 正極端子
13 負極端子
14 第2のスイッチング素子
15 第2のダイオード
16 第2の可変抵抗
17 第2のゲート駆動回路
18 出力端子
19 第2のゲイン変更信号生成部
20 第2のアンド回路
21 第2のパルス幅検知回路
22 第2の比較器
23 第3のアンド回路
24 ダイオード電圧検出手段
25 電流検出手段
26 第1のPMOSFET
27 駆動信号作成手段
28 第1のゲート抵抗
29 第2のゲート抵抗
30 ターンオン用アンド回路
31 第3のゲート抵抗
32 直流電源
33 第1のnpnトランジスタ
34 第1のpnpトランジスタ
35 ターンオフインピーダンス
36 第1のターンオン変更信号用比較器
37 第1のインバータ回路
38 第2のターンオン変更信号用比較器
39 第2のPMOSFET
40 第5の抵抗
41 第1の容量
42 第4のゲート抵抗
43 相電流検出手段
44 パルス制御部
45 ゲート駆動部
46 3相インバータ回路
47 第6のゲート抵抗
48 第7のゲート抵抗
49 第2のnpnトランジスタ
50 第2のpnpトランジスタ
51 反転増幅器
52 3相モータ
101 組み合わせダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型半導体スイッチング素子にて構成されるゲート駆動回路に、上記スイッチング素子のターンオン時にゲート駆動用インピーダンスを所定時間大きくする第1の操作手段を備え、
あらかじめ設定された所定のゲート駆動条件にてターンオンを開始し、上記スイッチング素子のターンオン時において、上記第1の操作手段は、コレクタ電流のピーク時にあわせ、所定のタイミングで前記ゲートインピーダンスを所定時間だけ大きくすることを特徴とする前記電圧駆動型半導体スイッチング素子駆動用のゲート駆動装置。
【請求項2】
上記第1の操作手段は、上記スイッチング素子のゲートに接続されたゲート抵抗値を大きくする第1の手段、上記スイッチング素子のゲートを充電するためのゲートインピーダンスを切り替える第2の手段、上記スイッチング素子の対アームに接続されたダイオードの通流幅を検出する第3の手段、上記ダイオードのデバイス温度を推定する第4の手段の少なくともいずれか1つを用いて、上記ゲート駆動インピーダンスを所定時間大きくする請求項1記載のゲート駆動装置。
【請求項3】
上記スイッチング素子の対アームに接続されたダイオードの通流幅を検出する第3の手段、および上記ダイオードのデバイス温度を推定する第4の手段を備え、
上記第3の手段または、上記第4の手段からの出力結果を比較して、上記スイッチング素子のターンオン時のゲートインピーダンスを大きくするための第1の信号生成手段を備え、前記第1の信号生成手段からの出力を上記第1の操作手段に伝達させることで、前記ゲート駆動条件の動作開始時刻を設定し、上記所定の動作開始時刻において、上記第1の操作手段を動作させることを特徴とする請求項1または2記載のゲート駆動装置。
【請求項4】
請求項3記載のゲート駆動装置であって、スイッチング素子のゲート電圧の上昇に応じて、前記第1の信号生成手段からの出力を上記第1の操作手段に伝達させることで、前記ゲート駆動条件の動作開始時刻を設定し、上記所定のタイミングとして、上記第1の操作手段を動作させることを特徴とするゲート駆動装置。
【請求項5】
上記ダイオードのデバイス温度を推定する第4の手段と、
上記第4の手段に上記第1の操作手段で動作させるスイッチング素子の対側に接続され、該スイッチング素子のターンオンに伴い逆回復を起こすダイオードの通流電流を検出する手段と、
そのときの順方向電圧を検出する手段と、
ダイオードの電流電圧特性から、ダイオードチップの温度推定値を演算する手段とを備えた、請求項1から請求項4記載のゲート駆動装置。
【請求項6】
上記ダイオードの通流電流が0を切りマイナスになったときに前記ダイオードの逆方向電圧を検出する手段を備え、
逆方向電圧または逆方向電流が所定値を超えたときの出力と、第2の信号生成手段の出力とを比較して、前記第2の信号生成手段からの出力を第2の操作手段に伝達させることで、前記第1の操作手段が作動した後の時刻において、ゲート駆動条件の動作変更時刻を設定し、上記所定のタイミングとして、前記第2の信号生成手段からの出力を上記第2の操作手段に伝達させることで、前記ゲート駆動条件の動作変更時刻を設定し、所定のタイミングとして、上記第1の操作手段の動作条件を変更させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のゲート駆動装置。
【請求項7】
制御用パルス生成部と、遅延回路を備えたスイッチング素子駆動用パルスを生成装置において、前記制御用パルス生成部からゲイン変更を判定する出力がゲイン変更パルス生成部に出力されて、パワー半導体温度推定部からの出力とを比較し、駆動電源へ駆動信号を供給することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のゲート駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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