説明

コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体及びコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法

【課題】 階層状に異なる有機官能基で修飾されているメソ細孔を有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】 界面活性剤として下記一般式(1):


で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、塩基性溶媒中において、前記界面活性剤と第一のシリカ原料とを、混合し、第一のシリカ中に界面活性剤が導入されたコア粒子を析出させる第1の工程と、前記溶媒中に第二のシリカ原料を混合し、第二のシリカ中に界面活性剤が導入されたシェル層を前記コア粒子の外側に積層させて、多孔体前駆体粒子を得る第2の工程と、多孔体前駆体粒子に含まれている界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得る第3の工程と、を含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体、並びに、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な物質を吸着、貯蔵等するための材料として、孔径1〜50nm程度のメソサイズの細孔(メソ孔)が非常に規則的に配列したシリカ系メソ多孔体が注目されており、このようなシリカ系メソ多孔体の合成及び機能開発の研究が積極的に行われてきた。
【0003】
例えば、G.Van Tendelooらは、テトラエトキシシランとセチルトリメチルアンモニウム塩を用いて細孔が放射状に配列した球状多孔体を製造する方法を報告している(G.Van Tendeloo,O.I.Lebedev,O.Collart, P.CoolandE.F.Vansant,”J.Phys.Condens.Matter”,Vol.15,2003年,p3037−p3046(非特許文献1))。また、特開2005−89218号公報(特許文献1)においては、特定の溶媒中において、シリカ原料と特定の界面活性剤とを混合し、前記シリカ原料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体粒子を得る第1の工程と、前記多孔体前駆体粒子に含まれる前記界面活性剤を除去して球状シリカ系メソ多孔体を得る第2の工程とを含む球状シリカ系メソ多孔体の製造方法が開示されている。このような非特許文献1や特許文献1に記載の方法では、細孔が球の中心から外側に向かって放射状に配列している球状シリカ系メソ多孔体を合成することが可能であった。更に、このような球状シリカ系メソ多孔体においては、有機官能基を有するアルコキシシラン等を用いて細孔内に有機官能基を導入することも可能であった。
【0004】
しかしながら、このような非特許文献1や特許文献1に記載の方法においては、得られる球状シリカ系メソ多孔体に、基本的には1種類の有機官能基しか導入することができず、2種以上の他の種類の有機官能基を導入させた場合には、得られる球状シリカ系メソ多孔体においては、その有機官能基は部位特異的ではなくランダムに導入されたものとなっていた。このように、前記非特許文献1や前記特許文献1に記載の方法においては、階層状に異なる有機官能基で修飾された球状シリカ系メソ多孔体を得ることはできず、例えば、細孔内の所望の部位にいくつかの異なる色素を導入し、それらの異種色素間の電子伝達を行わせたり、あるいは、吸着領域と活性点領域とを区分けして酸化−還元触媒反応を同時に進行させたりすることを可能とするような球状シリカ系メソ多孔体を得ることはできなかった。また、前記非特許文献1や前記特許文献1に記載の方法では、得られる球状シリカ系メソ多孔体の粒径の増大に限界があり、従来の球状シリカ系メソ多孔体の粒径は現実的には最大でも1μm程度であった。
【特許文献1】特開2005−89218号公報
【非特許文献1】G.Van Tendeloo,O.I.Lebedev,O.Collart, P.CoolandE.F.Vansant,”J.Phys.Condens.Matter”,Vol.15,2003年,p3037−p3046
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、階層状に異なる有機官能基で修飾されているメソ細孔を有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体や従来よりも粒子径が大きなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を効率よく且つ確実に製造することが可能なコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を提供すること、並びに、階層状に異なる有機官能基で修飾されたメソ細孔を有し、同一粒子内における細孔の部位によって異なる性質を発揮させることが可能なコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩基性溶媒中において、長鎖アルキル基を有する特定のアルキルアンモニウムハライドと、第一のシリカ原料とを特定の比率で混合し、コア粒子が析出してきた後に、更に、第二のシリカ原料を導入することによって、第二のシリカからなる新たな粒子を生成するのではなく、選択的に前記コア粒子の表面において第二のシリカ原料の縮合反応が起こって、前記コア粒子の外側にシェル層が積層されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が得られるようになり、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法は、界面活性剤として下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは7〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、塩基性溶媒中において、前記界面活性剤と第一のシリカ原料とを、前記第一のシリカ原料中のケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率(界面活性剤/第一のシリカ原料中のケイ素原子)がモル比で0.1〜20となる範囲で混合し、第一のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたコア粒子を析出させる第1の工程と、
前記コア粒子が析出してきた後に、前記溶媒中に第二のシリカ原料を混合し、第二のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたシェル層を前記コア粒子の外側に積層させて、前記コア粒子及び前記シェル層中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得る第2の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれている前記界面活性剤を除去し、前記コア粒子と前記シェル層とを備えるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得る第3の工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
上記本発明にかかる前記溶媒としては、アルコールの含有量が85容量%以下である水とアルコールとの混合溶媒であることが好ましい。
【0011】
上記本発明においては、前記第一のシリカ原料と前記第二のシリカ原料とが、同一であっても又は異なっていてもよく、それぞれアルコキシシランであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、第一のシリカからなるコア粒子と、
前記第一のシリカとは組成が異なる第二のシリカからなり、前記コア粒子の外側に積層されているシェル層と、
を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
また、上記本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記シェル層が複数のシリカ層により形成されており、前記複数のシリカ層のうちの少なくとも1層が前記第一のシリカとは組成が異なるシリカからなるものであることが好ましい。
【0014】
さらに、上記本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記第一のシリカと前記第二のシリカとが、それぞれ組成が異なるアルコキシシランを原料とするものであることが好ましい。
【0015】
なお、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、塩基性溶媒中において、前記界面活性剤と第一のシリカ原料とを前記モル比の範囲で混合すると、第一のシリカ原料の縮合がある程度進んだ後に第一のシリカ原料と界面活性剤とが複合化して、第一のシリカ中に界面活性剤が導入されたコア粒子が生成されることとなる。そして、第一のシリカ中に界面活性剤が導入されたコア粒子が析出してきた後に、更に第二のシリカ原料を添加する。それによって縮合が全く進行していない状態で添加された第二のシリカ原料は、選択的にコア粒子表面で縮合反応することとなり、コア粒子表面で第二のシリカと界面活性剤とが複合化される。そのため、コア粒子が析出してきた後に第二のシリカ原料を添加することによって、第二のシリカからなる新たな粒子が生成されることなく、コア粒子の外側に第二のシリカからなるシェル層が積層された粒子が生成されるようになるものと本発明者らは推察する。このような反応過程において、コア粒子が析出してきた後に第一のシリカ原料とは組成が異なる第二のシリカ原料を添加した場合には、第一のシリカからなるコア粒子と第二のシリカからなるシェル層とを備え、例えば、細孔が階層的に異なる有機官能基によって修飾されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることができる。他方、第一のシリカ原料と同一の組成の第二のシリカ原料を添加した場合には、コア粒子と同一のシリカからなるシェル層を積層させることができるため、例えば、同一の有機官能基で修飾された球状シリカメソ多孔体粒子の粒径を増大させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、階層状に異なる有機官能基で修飾されているメソ細孔を有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体や従来よりも粒子径が大きなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を効率よく且つ確実に製造することが可能となる。また、本発明によれば、階層状に異なる有機官能基で修飾されたメソ細孔を有し、同一粒子内における細孔の部位によって異なる性質を発揮させることが可能なコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
[コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法]
先ず、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法について、第1〜第3の工程に分けて説明する。
【0019】
(第1の工程)
本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法においては、先ず、塩基性溶媒中において、界面活性剤と第一のシリカ原料とを、前記第一のシリカ原料中に含有されているケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率(界面活性剤/第一のシリカ原料中に含有されているケイ素原子)がモル比で0.1〜20となる範囲で混合し、第一のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたコア粒子を析出させる(第1の工程)。
【0020】
本発明において「析出」という用語は、反応溶液のX線回折測定により、ヘキサゴナル細孔の100面の回折ピークが出現し始めた時を析出の開始時期とし、前記回折ピークが徐々に増加して一定値になった時を析出の終了時期として定義する。
【0021】
本発明において用いられる第一のシリカ原料は、反応によりケイ素酸化物(ケイ素複合酸化物を含む)を形成可能なものであればよく特に制限されないが、反応効率や得られるケイ素酸化物の物性の観点から、アルコキシシラン、ケイ酸ナトリウム、層状シリケート、シリカ、又はこれらの任意の混合物を用いることが好ましく、中でもアルコキシシランを用いることがより好ましい。
【0022】
前記アルコキシシランとしては、アルコキシ基を4個有するテトラアルコキシシラン、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシランを用いることができる。このようなアルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のようにアルコキシ基中の炭素原子の数が比較的少ないもの(炭素数として1〜4程度のもの)が反応性の点から有利である。また、前記アルコキシシランが有するアルコキシ基が3又は2個である場合は、アルコキシシラン中のケイ素原子には有機基、水酸基等が結合していてもよく、当該有機基はアミノ基やメルカプト基等の官能基をさらに有していてもよい。
【0023】
また、前記テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が挙げられ、前記トリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、シアノプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イオドプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシ[2−(7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アニリン、トリメトキシ[3−フェニルアミノプロピル]シラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシ[2−フェニルエチル]シラン、トリメトキシ(7−オクテン−1−イル)シラン、トリメトキシ(3,3,3−トリフルオロプロピル)シラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、[3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−[3−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、トリメトキシ(3−メチルアミノ)プロピルシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(1−ナフチル)トリエトキシシラン、[2−(シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、4−クロロフェニルトリエトキシシラン、(ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−イル)トリエトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、3−(トリエトキシシリル)プロピオニトリル、3−(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、ビス[3−トリエトキシシリルプロピル]テトラスルフィド、トリエトキシ(3−イソシアナトプロピル)シラン、トリエトキシ(3−チオイソシアナトプロピル)シラン等が挙げられる。また、前記ジアルコキシシランとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等が挙げられる。
【0024】
このようなアルコキシシランは、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。また、上記のアルコキシ基を2〜4個有するアルコキシシランは、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシランと組み合わせて使用することも可能である。このようにして用いることのできるモノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
また、前記アルコキシシランは、加水分解によりシラノール基を生じ、生じたシラノール基同士が縮合することによりケイ素酸化物が形成される。この場合において、分子中のアルコキシ基の数が多いアルコキシシランは、加水分解及び縮合で生じる結合が多くなる。したがって、本発明において、アルコキシ基の多いテトラアルコキシシランをアルコキシシランとして用いることが好ましく、テトラアルコキシシランとしては、反応速度の観点からテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランを用いることが特に好ましい。
【0026】
本発明において第一のシリカ原料として用いられるケイ酸ナトリウムとしては、メタケイ酸ナトリウム(NaSiO)、オルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)、二ケイ酸ナトリウム(NaSi)、四ケイ酸ナトリウム(NaSi)等が挙げられる。ケイ酸ナトリウムとしては、このような単一物質の他、水ガラス(NaO・nSiO、n=2〜4)等のように組成が場合により異なるものを使用することもできる。
【0027】
層状シリケートとしては、カネマイト(NaHSi・3HO)、二ケイ酸ナトリウム結晶(α、β、γ、δ−NaSi)、マカタイト(NaSi・5HO)、アイアライト(NaSi17・xHO)、マガディアイト(NaSi1417・xHO)、ケニヤイト(NaSi2041・xHO)等が挙げられる。また、セピオライト、モンモリロナイト、バーミキュライト、雲母、カオリナイト、スメクタイト等の粘土鉱物を酸性水溶液で処理してシリカ以外の元素を除去したものも層状シリケートとして使用可能である。
【0028】
本発明において第一のシリカ原料として用いられるシリカとしては、Ultrasil(Ultrasil社)、Cab−O−Sil(Cabot社)、HiSil(Pittsburgh Plate Glass社)等の沈降性シリカ;コロイダルシリカ;Aerosil(Degussa−Huls社)等のフュームドシリカを挙げることができる。
【0029】
上述の第一のシリカ原料は、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。但し、2種類以上の第一のシリカ原料を用いる場合は、製造時の反応条件が複雑化することがあるため、本発明においては第一のシリカ原料は単独のものを使用することが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる界面活性剤は、下記一般式(1):
【0031】
【化2】

【0032】
[式中、R1、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは7〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドである。
【0033】
このように、一般式(1)におけるR、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を示す。このようなアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、これらが一分子中に混在してもよいが、界面活性剤分子の対称性の観点からR、R、Rは全て同一であることが好ましい。界面活性剤分子の対称性が優れる場合は、界面活性剤同士の凝集(ミセルの形成等)が容易となる傾向にある。更に、R、R、Rのうち少なくとも1つはメチル基であることが好ましく、R、R、Rの全てがメチル基であることがより好ましい。
【0034】
また、一般式(1)におけるnは7〜25の整数を示し、11〜17の整数であることがより好ましい。前記nが6以下であるアルキルアンモニウムハライドでは、球状のコア粒子は得られるものの、界面活性剤の凝集作用が不十分であるため、細孔の形成が困難となる。他方、前記nが26以上のアルキルアンモニウムハライドでは、界面活性剤の疎水性相互作用が強すぎるため、層状の化合物が生成してしまい、球状のコア粒子を得ることができなくなる。
【0035】
更に、一般式(1)におけるXはハロゲン原子を示す。このようなハロゲン原子の種類は特に制限されないが、入手の容易さの観点からXは塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0036】
したがって、上記一般式(1)で表される界面活性剤としては、R、R、Rの全てがメチル基であり且つ炭素数8〜26の長鎖アルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウムハライドであることが好ましく、中でもオクチルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、エイコシルトリメチルアンモニウムハライド、ドコシルトリメチルアンモニウムハライドがより好ましい。
【0037】
このような界面活性剤は、第一のシリカ原料と共に溶媒中で複合体を形成する。複合体中のシリカ原料は反応によりケイ素酸化物(第一のシリカ)へと変化するが、界面活性剤が存在している部分ではケイ素酸化物が生成しないため、界面活性剤が存在している部分に孔が形成されることになる。すなわち、界面活性剤はシリカ原料中に導入されて孔形成のためのテンプレートとして機能する。本発明において、界面活性剤は1種類もしくは2種類以上を組み合わせて用いることが可能であるが、上記のように界面活性剤はシリカ原料の反応生成物に孔を形成させる際のテンプレートとして働き、その種類は多孔体の孔の形状に大きな影響を与えるため、より均一な球状多孔体が得るためには、界面活性剤は1種類のみを用いることが好ましい。
【0038】
本発明において、前記第一のシリカ原料中のケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率(界面活性剤/第一のシリカ原料中のケイ素原子)は、モル比で0.1〜20(好ましくは0.2〜10)となる範囲である。このような界面活性剤の含有比率が0.1未満では、テンプレートとなるべき界面活性剤の量が不足するために良好なコア粒子を得ることができない。このように、本発明においては、界面活性剤は細孔のテンプレート(鋳型)として機能するものであることから、前記第一のシリカ原料中に含有されているケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率としては、少なくとも細孔を形成するのに必要な比率以上のものとなっている。また、前記界面活性剤の含有比率が20を超える場合は、粒子の形成が阻害されるため、均質な粒子を得ることが困難になる。
【0039】
ここで、細孔を形成するのに必要な界面活性剤の量以上の余分な界面活性剤は、析出するコア粒子間の凝集を防ぐと共に、後述する第二のシリカ原料を追加的に添加して得られる多孔体前駆体粒子の細孔形成に使用されるものとなる。すなわち、前記第一のシリカ原料中のケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率(モル比)を、上述のように制御することによって、均一なコア粒子(球状体)の発生及び成長を実現するとともに、コア粒子の析出後に第二のシリカ原料を混合した際にシェル層の細孔を形成するために必要な量の界面活性剤が存在することとなるため、均一な細孔を有する多孔体前駆体粒子の発生及び成長を実現することが可能となる。また、前記含有比率(モル比)を上述のように制御することによって、後述する混合溶媒を使用することと相俟って、得られる多孔体前駆体粒子の粒径を高度に均一に制御することも可能となる。
【0040】
また、本発明においては、塩基性溶媒中において、前記第一のシリカ原料及び前記界面活性剤を混合する。一般に、シリカ原料は、塩基性条件下においても酸性条件下においても反応が生じケイ素酸化物へと変化するが、前記界面活性剤の含有比率を前述のように制御した場合においては、酸性条件下では反応がほとんど進行しない。したがって、本発明においては、塩基性溶媒中でシリカ原料を反応させる。なお、シリカ原料は、酸性条件で反応させる場合よりも塩基性条件で反応させる場合の方がケイ素原子の反応点が増加し、耐湿性や耐熱性等の物性に優れたケイ素酸化物を得ることができるため、塩基性条件下で混合することはこの点においても有利である。
【0041】
このような塩基性溶媒のpH値としては、7.5〜13であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。このようなpH値が前記下限未満では、コア粒子の細孔形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コア粒子の析出量が低下してしまう傾向にある。また、このような塩基性溶媒のpH値を調整する方法は特に制限されないが、後述する溶媒に水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質を添加することでそのpH値を適宜調整する方法が挙げられる。
【0042】
また、このような溶媒としては、水とアルコールとの混合溶媒を用いることが好ましい。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エチレングリコール、グリセリンが挙げられ、第一のシリカ原料の溶解性の観点からメタノール又はエタノールが好ましい。
【0043】
また、このような混合溶媒としては、アルコールの含有量が85容量%以下の水/アルコール混合溶媒を用いることがより好ましい。さらに、このような水とアルコールとの混合溶媒の中でも、均一な球状体の発生及び成長の実現を可能とし、得られる第一のシリカ原料中に前記界面活性剤が導入されたコア粒子の粒径が高度に均一に制御することが可能とするという観点からは、アルコールの含有量が45〜80容量%の混合溶媒を用いることが更に好ましく、アルコールの含有量が50〜70容量%の混合溶媒を用いることが特に好ましい。アルコールの含有量が45容量%未満の場合においては、粒径及び粒径分布の制御が困難となり、得られるコア粒子の粒径の均一性が低くなる傾向にあり、他方、アルコールの含有量が80容量%を超える場合も、粒径及び粒径分布の制御が困難となり、得られるコア粒子の粒径の均一性が低くなる傾向にある。
【0044】
また、本発明においては、前記の水とアルコールとの比率を変化させることによって、コア粒子の粒径の均一性を高水準に保持しつつ、コア粒子の粒径を容易に制御することが可能になる。例えば、水の比率が高い場合にはコア粒子が析出し易くなるため粒径が小さいコア粒子が得られ、逆にアルコールの比率が高い場合は粒径が大きいコア粒子を得ることができる。
【0045】
前述の第1の工程における反応条件(反応温度、反応時間等)は特に制限されず、反応温度としては、例えば−20℃〜100℃(好ましくは0℃〜80℃、より好ましくは10℃〜40℃)とすることができる。また、反応は撹拌状態で進行させることが好ましい。具体的な反応条件は、用いるシリカ原料の種類等に基づいて決定することが好ましい。
【0046】
例えば、シリカ原料としてアルコキシシランを用いる場合は、以下のようにしてコア粒子を得ることができる。先ず、前述の水とアルコールの混合溶媒に対して、界面活性剤及び塩基性物質を添加して界面活性剤を含有した塩基性溶液を調製し、この溶液にアルコキシシランを添加する。添加されたアルコキシシランは溶液中で加水分解(又は、加水分解及び縮合)するために、添加後数秒〜数十分でコア粒子(白色粉末)が析出する。この場合において、反応温度は0℃〜80℃とすることが好ましく、10℃〜40℃とすることがより好ましい。また、溶液は撹拌することが好ましい。
【0047】
また、第一のシリカ原料として、アルコキシシラン以外のシリカ原料(ケイ酸ナトリウム、層状シリケート又はシリカ)を用いる場合は、第一のシリカ原料を、界面活性剤を含有する水とアルコールの混合溶媒に添加し、第一のシリカ原料中のケイ素原子と等モル程度になるように、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質をさらに添加して均一な溶液を調製する。その後、希薄酸溶液を第一のシリカ原料中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モル添加するという方法によりコア粒子を製造することができる。
【0048】
(第2の工程)
次に、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法においては、前記コア粒子が析出してきた後に、前記溶媒中に第二のシリカ原料を混合し、第二のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたシェル層を前記コア粒子の外側に積層させて、前記コア粒子及び前記シェル層中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得る(第2の工程)。
【0049】
本発明にかかる第二のシリカ原料に用いることができるシリカ原料の種類としては、前述の第一のシリカ原料と同様のものが挙げられ、中でもアルコキシシランを用いることがより好ましい。また、本発明に用いられる第二のシリカ原料は、前記シリカ原料を単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0050】
また、本発明に用いられる第二のシリカ原料としては、前記第一のシリカ原料と組成が同一のシリカ原料を用いてもよく、あるいは、前記第一のシリカ原料とは組成が異なるシリカ原料を用いてもよい。第二のシリカ原料として前記第一のシリカ原料と組成が同一のものを用いた場合には、コア粒子の外側に同一の組成のシリカからなるシェル層を積層させることが可能となり、球状シリカ多孔体粒子の粒径を増大させることが可能となる。一方、第二のシリカ原料として第一のシリカ原料と組成が異なるシリカ原料を混合した場合には、第一のシリカからなるコア粒子の外側に第一のシリカとは組成が異なる第二のシリカからなるシェル層が積層されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることが可能となる。
【0051】
このようにして得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の粒子径は、用いる用途に応じてその粒子径を調節することが可能であり特に制限されないが、例えば0.1〜5μm程度の粒子径とすることも可能である。なお、このような粒子径の調節は、溶媒の条件や前記第二のシリカ原料の混合量等を適宜調整することで行うことができる。
【0052】
また、本発明において第二のシリカ原料を混合する方法は特に制限されず、前記コア粒子が析出してきた後に、第二のシリカ原料を一度に添加する方法の他、第二のシリカ原料の添加を複数回に分けて繰り返し行う方法、第二のシリカ原料の添加を連続して行う方法等を挙げることができる。このようにして第二のシリカ原料を混合することで、溶媒中に、縮合が全く進行していない状態で第二のシリカ原料が添加されることから、選択的にコア粒子の表面で第二のシリカ原料が縮合し、コア粒子の外側に第二のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたシェル層を積層することができる。
【0053】
このような混合方法の好適な一例として、前述のような第二のシリカ原料の添加を複数回に分けて繰り返し行う方法を以下に説明する。このような第二のシリカ原料の添加を複数回に分けて繰り返し行う好適な方法としては、先ず、第二のシリカ原料の中から選択されたシリカ原料(i)を混合して、コア粒子の表面にシリカ(i)からなるシリカ層を積層させた後に、更に、第二のシリカ原料から選択されるシリカ原料(i)以外の他のシリカ原料(ii)を混合する方法を挙げることができる。このようにしてコア粒子の表面にシリカ(i)からなるシリカ層を積層させた後に、第二のシリカ原料から選択されるシリカ原料(i)以外の他のシリカ原料(ii)を混合することで、シリカ(i)からなるシリカ層とシリカ(ii)からなるシリカ層とを備えるシェル層を前記コア粒子の外側に積層させることが可能となる。なお、第二のシリカ原料の添加を複数回に分けて繰り返し行う方法はこのような方法に限定されることはなく、例えば、2回以上の複数回このような工程を繰り返すことも可能である。また、このようにしてコア粒子の表面に複数層の第二のシリカ原料からなる層を積層させる際には、その一部の層を第一のシリカと同一の組成の第二のシリカからなる層とすることも可能である。また、このような第二のシリカ原料の添加を複数回に分けて繰り返し行う方法においては、第一のシリカ原料と同一の組成の第二のシリカ原料のみを添加することも可能であり、この場合には、同一のシリカ原料からなる粒径の大きなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることができる。
【0054】
また、第二のシリカ原料の混合量としては、既に溶媒中に含有させた第一のシリカ原料中に含有されているケイ素原子に対して第二のシリカ原料中に含有されているケイ素原子がモル比で0.01〜2000の範囲であることが好ましく、0.05〜500の範囲であることがより好ましい。第二のシリカ原料の混合量が前記下限未満では、シェル層の割合が少なすぎるためにコア粒子の特性だけを有する粒子が生成される傾向にあり、他方、前記上限を超えると逆に、コア粒子の割合が少なくなり、シェル層の特性だけを有する粒子が生成される傾向にある。
【0055】
また、第二のシリカ原料を混合して、前記コア粒子の外側に第二のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたシェル層を積層させる際には、第1の工程と同様の理由から、溶媒のpH値が7.5〜13であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。このような観点から、第2の工程においては必要に応じて塩基性物質を添加することができる。
【0056】
また、第2の工程における反応条件(反応温度、反応時間等)は特に制限されず、反応温度としては、例えば−20℃〜100℃(好ましくは0℃〜80℃、より好ましくは10℃〜40℃)とすることができる。また、反応は撹拌状態で進行させることが好ましい。具体的な反応条件は、用いる第二のシリカ原料の種類等に基づいて決定することが好ましい。
【0057】
例えば、第二のシリカ原料としてアルコキシシランを用いる場合には、コア粒子が析出してきた後に、第二のシリカ原料を混合し、0℃〜80℃(好ましくは10℃〜40℃)で1時間〜10日、溶液を撹拌することで、前記コア粒子の外側に第二のシリカ原料からなる層を積層させることができる。そして、撹拌を終了した後、必要に応じて室温で一晩放置して系を安定化させて得られた沈殿物を必要に応じてろ過及び洗浄することによって本発明にかかる多孔体前駆体粒子を得ることができる。
【0058】
また、第二のシリカ原料として、アルコキシシラン以外のシリカ原料(ケイ酸ナトリウム、層状シリケート又はシリカ)を用いる場合には、コア粒子が析出してきた後、第二のシリカ原料を混合し、第二のシリカ原料中のケイ素原子と等モル程度になるように、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質をさらに添加して均一な溶液を調製する。その後、希薄酸溶液を第一のシリカ原料中のケイ素原子に対して1/2〜3/4倍モル添加するという方法により本発明にかかる多孔体前駆体粒子を製造することができる。塩基性物質は、シリカ原料中に既に形成されているSi−(O−Si)結合の一部を切断する目的のために過剰分必要となるが、その過剰分を酸により中和する必要がある。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、酢酸等の有機酸のいずれを用いてもよい。
【0059】
(第3の工程)
次に、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法においては、前記多孔体前駆体粒子に含まれている前記界面活性剤を除去し、前記コア粒子と前記シェル層とを備えるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得る(第3の工程)。
【0060】
このような界面活性剤を除去する方法としては、例えば、焼成による方法、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法等を挙げることができる。このような焼成による方法を採用する場合においては、多孔体前駆体粒子を300〜1000℃、好ましくは400〜700℃で加熱する。加熱時間は30分程度でもよいが、完全に界面活性剤を除去するには1時間以上加熱することが好ましい。また、このような焼成は空気中で行うことが可能であるが、多量の燃焼ガスが発生するため、窒素等の不活性ガスを導入して行ってもよい。また、有機溶媒で処理する方法を採用する場合においては、用いた界面活性剤に対する溶解度が高い良溶媒中に多孔体前駆体粒子を浸漬して界面活性剤を抽出する。イオン交換法を採用する場合においては、多孔体前駆体粒子を酸性溶液(少量の塩酸を含むエタノール等)に浸漬し、例えば50〜70℃で加熱しながら撹拌を行う。これにより、多孔体前駆体粒子の孔中に存在する界面活性剤が水素イオンでイオン交換される。なお、イオン交換により孔中には水素イオンが残存することになるが、水素イオンのイオン半径は十分小さいため孔の閉塞の問題は生じない。
【0061】
このようにして得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、第2の工程において第一のシリカ原料と同一の組成の第二のシリカ原料を用いた場合には、前記コア粒子の外側に同一のシリカからなるシェル層が積層されているため、細孔内が同一の有機官能基で修飾された粒子径の大きなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が得られる。他方、第2の工程において第一のシリカ原料と組成の異なる第二のシリカ原料を用いた場合には、第一のシリカからなるコア粒子と、第二のシリカからなるシェル層とを備え、細孔が階層的に異なる有機官能基によって修飾されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が得られる。
【0062】
このようにして得られる細孔が階層的に異なる有機官能基によって修飾されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、同一粒子内に異なる化合物を吸着させて酸化反応と還元反応を同時に行ったり、同一粒子内に色素を吸着させて粒子の内側から外側に向かって電子を移動させたりすることが可能なものである。
【0063】
また、本発明の製造方法においては、前述のように、用いる溶媒中のアルコール濃度等を調整することで、極めて粒径の均一性が高いコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることができる。例えば、得られる全粒子の90重量%以上(好ましくは95重量%以上)が平均粒径の±10%の範囲内の粒径を有するという極めて粒径の均一性が高いコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることが可能である。そして、このようなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の粒径が極めて均一なものである場合には、フォトニッククリスタルをはじめとした光デバイス関係に用いる材料として好適に用いることができる。
【0064】
なお、本発明でいう「球状」とは、真の球体に限定されるものではなく、最小直径が最大直径の80%以上(好ましくは90%以上)である略球体も包含するものである。また、略球体の場合、その粒径は原則として最小直径と最大直径との平均値をいう。更に、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径である。なお、細孔径分布曲線は、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、シリカ系メソ多孔体粒子を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Dollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0065】
本発明により得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記界面活性剤を鋳型として前記第一及び第二のシリカ原料を原料として製造されるものであり、ケイ素原子が酸素原子を介して結合した骨格−Si−O−を基本とし、高度に架橋した網目構造を有している。このようなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、ケイ素原子及び酸素原子を主成分とするものであればよく、ケイ素原子の少なくとも一部が有機基の2箇所以上で炭素−ケイ素結合を形成しているものでもよい。このような有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から2以上の水素がとれて生じる2価以上の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、有機基は、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等を有するものであってもよい。
【0066】
また、本発明により得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体としては、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が好ましい。このような条件を満たすコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。また、かかるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の比表面積については特に制限はないが、700m/g以上であることが好ましい。比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0067】
さらに、本発明により得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、そのX線回折パターンにおいて1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0068】
また、本発明にかかるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が有する細孔は、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。かかる多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造又はキュービック構造であることが好ましい。また、このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
【0069】
ここで、多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki,et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,680,1993;S.Inagaki,et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,69,1449,1996、Q.Huo,et al.,Science,268,1324,1995参照)。また、多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli,et al.,Chem.Mater.,6,2317,1994;Q.Huo,et al.,Nature,368,317,1994参照)。また、多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev,et al.,Science,267,865,1995;S.A.Bagshaw,et al.,Science,269,1242,1995;R.Ryoo,et al.,J.Phys.Chem.,100,17718,1996参照)。また、前記キュービック構造は、Pm−3n、Im−3m又はFm−3m対称性であることが好ましい。前記対称性とは、空間群の表記法に基づいて決定されるものである。なお、本発明においては、用いる界面活性剤が前記一般式(1)で表される化学構造を有しており、前記のような条件でシリカ原料を反応させるため、前記中心細孔直径を有する細孔が2次元ヘキサゴナルに配列したものが得られやすい。また、本発明によれば、メソ細孔が規則性を保ちながら粒子中心から球状粒子の外側に向かって配置されているコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得ることが可能となり、そのようなメソ多孔体を用いればエネルギー、電子の移動をその方向にだけ正確に起こさせることが可能となる。
【0070】
[コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体]
次に、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体について説明する。すなわち、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、第一のシリカからなるコア粒子と、
前記第一のシリカとは組成が異なる第二のシリカからなり、前記コア粒子の外側に積層されているシェル層と、
を備えていることを特徴とするものである。
【0071】
本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記シェル層は、前記コア粒子とは組成が異なる第二のシリカからなる。このように、コア粒子とシェル層を構成するシリカの組成がそれぞれ異なることから、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、細孔が階層的に異なる有機官能基によって修飾されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体となっている。そのため、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、同一粒子内において酸化反応と還元反応を同時に行ったり、同一粒子内に異なる色素をそれぞれ吸着させて粒子の内側から外側に向かって電子を移動させたりすることが可能なものとなる。また、このようなシェル層は、第二のシリカからなる単層のシリカ層からなるものであっても、複数のシリカ層からなるものであってもよい。
【0072】
このような本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、前述の本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を採用して、第一のシリカ原料と、第一のシリカ原料とは組成が異なる第二のシリカ原料とを用いることで製造することが可能となる。したがって、上記本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記第一のシリカと前記第二のシリカとが、それぞれ組成が異なるアルコキシシランを原料とするものであることが好ましい。
【0073】
また、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、前記シェル層が一つのシリカ層からなっていても、複数のシリカ層により形成されていてもよい。そして、このように前記シェル層が複数のシリカ層からなる場合は、前記複数のシリカ層のうちの少なくとも1層が前記第一のシリカとは組成が異なるシリカからなるものであることが好ましい。本発明において、前記シェル層を複数のシリカ層により形成されたものとすることで、シェル層が階層的に異なる有機官能基で修飾されたものとなり様々な異なる性能を発揮させることが可能となる。
【0074】
また、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の中心細孔直径や比表面積等の特性については、前述の本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法によって得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体と同様である。
【0075】
また、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、コア粒子とシェル層の細孔において、それぞれ異なる有機官能基が修飾されていることから、特に、コア粒子が反応部位であり、シェル層が特異的な吸着部位であるような反応部位と吸着部位とを区別した触媒に用いる材料として好適である。また、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP等が好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、たとえば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン12.1g(0.0068mol/L)とメルカプトプロピルトリメトキシシラン3.9g(0.0042mol/L)との混合物(第一のシリカ原料)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約180秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その後、室温で30分経過させた後に、テトラメトキシシラン(第二のシリカ原料)26.4g(0.022mol/L)を添加し、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、3Lの濃度1%の塩酸を含むエタノール溶液中に浸漬して界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0078】
このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを図1に示す。図1に示されたX線回折パターンから、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は高次のピークを有しており、規則性の高いハニカム多孔体であることが確認された。
【0079】
次に、このコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。このような走査電子顕微鏡(SEM)写真から、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、いずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径0.9μm(標準偏差0.043μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0080】
次に、細孔内に金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡による観察を行った。すなわち、先ず、前述のようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体1gを50gの水に分散させた後、その分散液中に塩化金酸1gを添加して30分間撹拌した後、吸引濾過を行って粒子を得た。次に、前記粒子をPH2.4に調整した50gの水に分散させて洗浄を行う工程を2回繰り返した後、得られた粒子を真空乾燥機で乾燥することで細孔内に金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。このようにして得られた細孔内に金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡写真を図3に示す。このような透過型電子顕微鏡写真により、球状粒子の内側が黒く写っていることから、球状粒子の内側にのみ金が導入されていることが確認され、更に、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の細孔内に導入された金は球状粒子の内側に存在するメルカプト基と反応して固定されることから、メルカプト基がこのようなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の内側にのみ導入されていることが確認された。このような事実から、前述のようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、メルカプト基によって修飾されたコア粒子と、その外側に有機官能基を有していないシェル層とを有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体であることが確認された。
【0081】
(実施例2)
水4kgとメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム22.8gを添加した。これにテトラメトキシシラン9.2g(0.0077mol/L)とプロピルトリメトキシシラン4.3g(0.0033mol/L)との混合物(第一のシリカ原料)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約210秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その後、室温で30分経過させた後に、テトラメトキシシラン(第二のシリカ原料)13.2g(0.011mol/L)を添加し、室温で更に8時間撹拌して一晩放置した後、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、1.5Lの濃度1%の塩酸を含むエタノール溶液中に浸漬して界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。このようにして得られた球状シリカ系メソ多孔体は、前述の合成手順からも明らかなように、疎水性のプロピル基で修飾されたコア粒子と、その外側に有機官能基を有していないシェル層とを有するコアシェルタイプのコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体である。
【0082】
このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを測定したところ、測定されたX線回折パターンは高次のピークを有していたことから、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が規則性の高いハニカム多孔体であることが確認された。
【0083】
次に、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った。このような観察により得られた走査電子顕微鏡写真から、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体はいずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径0.75μm(標準偏差0.035μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0084】
また、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を用いて、25℃の温度条件下、相対水蒸気圧(P/P)を変化させて水蒸気の吸着量を測定して、温度25℃における水蒸気吸着等温線を導いた。このようにして得られた水蒸気吸着等温線を図4に示す。
【0085】
(実施例3)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム22.8gを添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.011mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約180秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その後、室温で30分経過させた後に、テトラメトキシシラン9.2g(0.0077mol/L)とプロピルトリメトキシシラン4.3g(0.0033mol/L)との混合物(第二のシリカ原料)を添加し、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、1.5Lの濃度1%の塩酸を含むエタノール溶液中に浸漬して界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、前述の合成手順からも明らかなように、有機官能基を有していないコア粒子と、その外側に疎水性のプロピル基で修飾されたシェル層とを有するコアシェルタイプのコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体である。
【0086】
このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを測定したところ、測定されたX線回折パターンは高次のピークを有していたことから、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が規則性の高いハニカム多孔体であることが確認された。
【0087】
次に、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った。このような観察により得られた走査電子顕微鏡写真から、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体はいずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径0.82μm(標準偏差0.039μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0088】
また、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を用いて、25℃の温度条件下、相対水蒸気圧(P/P)を変化させて水蒸気の吸着量を測定して、温度25℃における水蒸気吸着等温線を導いた。このようにして得られた水蒸気吸着等温線を図4に示す。
【0089】
(実施例4)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.011mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約170秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その30分後と60分後において、それぞれテトラメトキシシラン(第二のシリカ原料)を13.2g(0.011mol/L)添加し、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、3Lの濃度1%の塩酸を含むエタノール溶液中に浸漬して界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0090】
このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを測定したところ、測定されたX線回折パターンは高次のピークを有しており、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が規則性の高いハニカム多孔体であることが確認された。
【0091】
次に、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った。得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。得られた走査電子顕微鏡写真から、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体はいずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径0.80μm(標準偏差0.024μm)の単分散粒子であることが確認された。このような事実から、第一のシリカ原料と、第二のシリカ原料とに同一の組成のシリカ原料を用いることで、コア粒子の外側に同一組成のシリカからなるシェル層を積層させることができ、得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の粒径を増大させることが可能となることが確認された。
【0092】
次に、細孔内に白金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡による観察を行った。すなわち、先ず、前述のようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体1gを20gの水に分散させた後、その分散液中に塩化テトラアンミン白金を0.05g添加して30分間撹拌した後、ロータリーエバポレーターにより水分を除去した。次に、5%の水素ガスを含む窒素気流下で400℃の温度条件下において2時間加熱することで細孔内に白金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。このようにして得られた細孔内に白金が導入されたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡写真を図6に示す。このような透過型電子顕微鏡写真から、コア粒子にシェル層を順次積層させるという方法により合成したコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においても、細孔が球の中心から外側に向かって連続的且つ放射状に配置されていることが確認された。
【0093】
(実施例5)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム22.8gを添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.011mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約170秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その30分後、60分後、90分後及び120分後に、それぞれテトラメトキシシラン(第二のシラン原料)13.2g(0.011mol/L)を添加し、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0094】
このようにして得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを測定したところ、測定されたX線回折パターンは高次のピークを有しており、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が規則性の高いハニカム多孔体であることが確認された。
【0095】
次に、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った。得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真を図7に示す。得られた走査電子顕微鏡写真から、得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体はいずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径1.21μm(標準偏差0.035μm)の単分散粒子であることが確認された。このような事実から、第一のシリカ原料と、第二のシリカ原料とに同一の組成のシリカ原料を用いることで、コア粒子の外側に同一組成のシリカからなるシェル層を積層させることができ、得られるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の粒径を増大させることが可能となることが確認された。
【0096】
(実施例6)
水3kg及びメタノール1kgの混合溶媒に対してデシルトリメチルアンモニウムクロリド15.4g(0.013mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.021mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約100秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その60分後に、さらにテトラメトキシシラン(第二のシリカ原料)26.4gを添加し、室温で更に8時間攪拌した後、一晩放置し、ろ過、洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った結果、平均粒子径0.85μm(標準偏差0.04μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0097】
(実施例7)
水4.4kg及びメタノール3.6kgの混合溶媒に対してテトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド32.1g(0.012mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.021mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約190秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。その60分後に、さらにテトラメトキシシラン(第二のシリカ原料)26.4gを添加し、室温で更に8時間攪拌した後、一晩放置し、ろ過、洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得た。得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った結果、平均粒子径0.75μm(標準偏差0.04μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0098】
(比較例1)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(界面活性剤)35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム22.8gを添加した。これにテトラメトキシシラン13.2g(0.011mol/L)を添加し撹拌を続けたところ完全に溶解し、約180秒後に白色粉末が析出してきた。そして、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0099】
このようにして得られた比較としての球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真を図8に示す。得られた走査電子顕微鏡写真から、比較としての球状シリカ系メソ多孔体はいずれも粒子径が均一な球状粒子の形状を有しており、平均粒子径0.65μm(標準偏差0.023μm)の単分散球状粒子であることが確認された。
【0100】
また、得られた球状シリカ系メソ多孔体を用いて、25℃の温度条件下、相対水蒸気圧(P/P)を変化させて水蒸気の吸着量を測定して、温度25℃における水蒸気吸着等温線を導いた。このようにして得られた水蒸気吸着等温線を図4に示す。
【0101】
(比較例2)
水4kg及びメタノール4kgの混合溶媒に対して、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリト゛35.2g(0.014mol/L)及び1規定水酸化ナトリウム22.8gを添加した。これにテトラメトキシシラン9.2g(0.0077mol/L)とプロピルトリメトキシシラン4.3g(0.0033mol/L)混合物を添加し撹拌を続けたところ完全に溶解し、約210秒後に白色粉末が析出してきた。そして、室温で更に8時間撹拌した後、一晩放置し、ろ過・洗浄を3回繰り返して白色粉末を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥した後、1Lの濃度1%の塩酸を含むエタノール溶液中に浸漬して60℃の温度条件で加熱することにより界面活性剤を除去し、比較としての球状シリカ系メソ多孔体を得た。
【0102】
このようにして得られた球状シリカ系メソ多孔体を用いて、25℃の温度条件下、相対水蒸気圧(P/P)を変化させて水蒸気の吸着量を測定して、温度25℃における水蒸気吸着等温線を導いた。このようにして得られた水蒸気吸着等温線を図4に示す。
【0103】
(比較例3)
水3kg及びメタノール1kgの混合溶媒に対してデシルトリメチルアンモニウムクロリド15.4g(0.013mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.021mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約100秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。室温で8時間攪拌した後、一晩放置し、ろ過、洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、球状シリカ系メソ多孔体を得た。得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った結果、平均粒子径0.60μm(標準偏差0.024μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0104】
(比較例4)
水4.4kg及びメタノール3.6kgの混合溶媒に対してテトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド32.1g(0.012mol/L)及び1規定水酸化ナトリウムを22.8g添加した。これにテトラメトキシシラン(第一のシリカ原料)13.2g(0.021mol/L)を添加して撹拌を続けたところ完全に溶解し、約190秒後に白色粉末(コア粒子)が析出してきた。室温で8時間攪拌した後、一晩放置し、ろ過、洗浄を3回繰り返して白色粉末(多孔体前駆体粒子)を得た。この白色粉末を熱風乾燥機で3日間乾燥後、550℃で焼成することで界面活性剤を除去し、球状シリカ系メソ多孔体を得た。得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察を行った結果、平均粒子径0.52μm(標準偏差0.03μm)の単分散粒子であることが確認された。
【0105】
<実施例1〜7で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体及び比較例1〜4で得られた球状シリカ系メソ多孔体の評価>
実施例4〜7で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体、及び比較例1、3、4で得られた球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡による観察の結果、並びに、図5、7、8に示した結果から明らかなように、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を採用した場合(実施例4〜7)においては、平均粒子径が0.80μm、1.21μm、0.85μm、0.75μmという比較的大きな粒子径を有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体が得られていることから、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法によれば、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の粒子径を増大させることが可能であることが確認された。
【0106】
また、図4に示す水蒸気吸着等温線からも明らかなように、実施例2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、蒸気の凝縮が起こり始める相対水蒸気圧(P/P)は0.6程度であった。また、実施例3で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、蒸気の凝縮が起こり始める相対水蒸気圧(P/P)は0.55程度であった。他方、比較例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、相対水蒸気圧(P/P)0.5程度から細孔内での水蒸気の凝縮が起こり始めていることが分かる。また、比較例2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、相対水蒸気圧(P/P)0.7程度というやや高い相対水蒸気圧において細孔内での水蒸気の凝縮が起こり始めていることが分かる。
【0107】
このような結果から、比較例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、そのメソ細孔に疎水性の有機官能基を含んでおらず比較的親水性であるため、やや低い相対水蒸気圧で水蒸気の凝集が起こり始めていることが分かる。また、比較例2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、そのメソ細孔が疎水性の有機官能基(プロピル基)で修飾されているため、比較例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体と比べて疎水性であり、やや高い相対水蒸気圧で水蒸気の凝縮が起こり始めていることが分かる。
【0108】
一方、実施例2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、コア粒子が疎水性の有機官能基で修飾されているものの、シェル層には疎水性の有機官能基を含んでいないため、シェル層において比較的親水性であり、比較例1〜2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のほぼ中間の相対水蒸気圧(P/P)において蒸気の凝集があることが分かった。また、実施例3で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体においては、シェル層が疎水性の有機官能基で修飾されているものの、コア粒子は疎水性の有機官能基を含んでいないため、コア粒子において比較的親水性であり、比較例1〜2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のほぼ中間の相対水蒸気圧(P/P)において蒸気の凝集があることが分かった。また、実施例2〜3で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、その組成は同一であるものの、その細孔の配置が異なっており、実施例3で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の方が水蒸気の凝縮が起こり始める相対水蒸気圧が低いことが分かった。このような事実から、コアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を形成するシリカ原料の組成が全く同じものであっても、有機官能基で修飾されている細孔の配置を換えることで水蒸気吸着特性が異なることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上説明したように、本発明によれば、階層状に異なる有機官能基で修飾されているメソ細孔を有するコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体や従来よりも粒子径が大きなコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を効率よく且つ確実に製造することが可能なコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法を提供すること、並びに、階層状に異なる有機官能基で修飾されたメソ細孔を有し、同一粒子内における細孔の部位によって異なる性質を発揮させることが可能なコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を提供することが可能となる。
【0110】
したがって、本発明のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体は、コア粒子とシェル層とで異なる性能を発揮できるため、同一粒子内に異なる化合物を吸着させて酸化反応と還元反応を同時に行ったり、同一粒子内に色素を吸着させて粒子の内側から外側に向かって電子を移動させたりすることが可能な材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】実施例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体のX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】細孔内に金が導入された実施例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2〜3及び比較例1〜2で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【図5】実施例4で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】細孔内に白金が導入された実施例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例5で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】比較例1で得られたコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の得られた走査電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤として下記一般式(1):
【化1】

[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子、nは7〜25の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアルキルアンモニウムハライドを用い、塩基性溶媒中において、前記界面活性剤と第一のシリカ原料とを、前記第一のシリカ原料中のケイ素原子に対する前記界面活性剤の含有比率(界面活性剤/第一のシリカ原料中のケイ素原子)がモル比で0.1〜20となる範囲で混合し、第一のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたコア粒子を析出させる第1の工程と、
前記コア粒子が析出してきた後に、前記溶媒中に第二のシリカ原料を混合し、第二のシリカ中に前記界面活性剤が導入されたシェル層を前記コア粒子の外側に積層させて、前記コア粒子及び前記シェル層中に前記界面活性剤が導入された多孔体前駆体粒子を得る第2の工程と、
前記多孔体前駆体粒子に含まれている前記界面活性剤を除去し、前記コア粒子と前記シェル層とを備えるコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体を得る第3の工程と、
を含むことを特徴とするコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコールの含有量が85容量%以下である水とアルコールとの混合溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記第一のシリカ原料と前記第二のシリカ原料とが、同一であっても又は異なっていてもよく、それぞれアルコキシシランであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体の製造方法。
【請求項4】
第一のシリカからなるコア粒子と、
前記第一のシリカとは組成が異なる第二のシリカからなり、前記コア粒子の外側に積層されているシェル層と、
を備えていることを特徴とするコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項5】
前記シェル層が複数のシリカ層により形成されており、前記複数のシリカ層のうちの少なくとも1層が前記第一のシリカとは組成が異なるシリカからなるものであることを特徴とする請求項4に記載のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体。
【請求項6】
前記第一のシリカと前記第二のシリカとが、それぞれ組成が異なるアルコキシシランを原料とするものであることを特徴とする請求項4又は5に記載のコアシェル型球状シリカ系メソ多孔体。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−347849(P2006−347849A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179278(P2005−179278)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】