説明

コイルの製造方法

【課題】本発明は、電磁結合する側の面において高いインダクタンスの特性を確保しつつ、電磁結合する側の面とは反対側の面において高い磁気シールド機能を確保することができるコイルを、安価な製造コストで製造することができるコイルの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るコイルの製造方法は、渦巻状の導体層2を基材3に直線状に複数形成したフレキシブル基板4を、一の渦巻状の導体層2毎にフレキシブル基板4の一面に樹脂構造体5を形成するための金型40の所定位置に送り出して配置する。軟化する温度に加熱した、磁性体材料を含有する硬化性樹脂を矢印41の方向に、金型40に充填し、充填した硬化性樹脂を硬化させ、樹脂構造体5をフレキシブル基板4の一面に形成する。樹脂構造体5を形成したフレキシブル基板4を、少なくとも一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に個片化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コイルを製造する方法に関し、特に渦巻状の導体層を基材に形成したフレキシブル基板を備えるコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で電力を伝送して充電するワイヤレス充電器、微小な無線チップにより人やモノを識別・管理するためのRF−ID(Radio Frequency Identification)等には、インダクタンスが数μHから数十μHのコイルが用いられている。特に、ワイヤレス充電器には、電力送信側機器及び電力受信側機器のそれぞれにコイルが用いられており、電力送信側機器のコイルと電力受信側機器のコイルとの間で効率的な電力伝送を行うことが要求されている。
【0003】
効率的な電力伝送を行うためには、電力送信側機器のコイルと電力受信側機器のコイルとの電磁結合の損失を小さくして、コイル間で効率的に電磁誘導を行うことができるように、高いインダクタンスの特性を有するコイルが必要となる。また、コイルの電磁結合する面以外の面から磁束が漏れた場合、漏れた磁束により他の部品の動作に悪影響を与えるおそれがあるため、電磁結合する側の面以外の面の磁気シールド機能が高いコイルが必要となる。
【0004】
特許文献1には、渦巻状の導体層を基材に形成したフレキシブル基板の電磁結合する側の面とは反対側の面に磁性シートを貼り付けた従来のコイルが開示されている。特許文献1に開示されたコイルは、フレキシブル基板の電磁結合する側の面の反対側の面に磁性シートを貼り付けることで、電磁結合する側の面において高いインダクタンスの特性を確保しつつ、電磁結合する側の面以外の面において高い磁気シールド機能を確保している。
【0005】
特許文献2には、フェライト粉末とポリマー樹脂とを混合したフェライト基板に渦巻状の導体層を形成したコイルが開示されている。特許文献2に開示されたコイルは、フェライト基板を用いることで、渦巻状の導体層を形成している面を電磁結合する側の面として高いインダクタンスの特性を確保しつつ、電磁結合する側の面以外の面において高い磁気シールド機能を確保している。
【0006】
特許文献3には、フェライト粉末を混ぜたプリプレグを用いた基板に渦巻状の導体層を形成したコイルが開示されている。特許文献3に開示されたコイルは、プリプレグを基板に用いることで、渦巻状の導体層を形成している面を電磁結合する側の面として高いインダクタンスの特性を確保しつつ、電磁結合する側の面以外の面において高い磁気シールド機能を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−51023号公報
【特許文献2】特開平08−167522号公報
【特許文献3】特開平11−251142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されたコイルは、磁性シート自体が高価であるとともに、磁性シートをコイルに貼り付ける工程が必要となるので、製造コストが高くなるという問題があった。また、特許文献1に開示されたコイルは、電磁結合する側の面とは反対側の面に磁性シートを貼り付けているため、磁性シートの貼り付け位置が所定の位置からずれた場合には磁気シールド機能が低くなるという問題があった。さらに、磁性シートは曲がりやすいため、応力を加えると磁性シートを貼り付けたコイルの形状も容易に変形する。コイルの変形に伴ってコイルにおけるインダクタンスの特性が変化するので、変形したコイルの形状によっては、電磁結合の損失が大きくなるという問題があった。
【0009】
特許文献2に開示されたコイルは、高い磁気シールド機能を確保する必要がある部分と、必要がない部分とを区別することなく、全ての部分において高い磁気シールド機能を有するフェライト基板を用いているので材料費が高くなるとともに、フェライト基板上に、エッチング加工して渦巻状の導体層を形成する工程が必要となる等、製造コストが高くなるという問題があった。特許文献3に開示されたコイルは、高い磁気シールド機能を確保する必要がある部分と、必要がない部分とを区別することなく、全ての部分において高い磁気シールド機能を有するプリプレグを基板に用いているので材料費が高くなるとともに、プリプレグを用いた基板上に、エッチング加工して渦巻状の導体層を形成する工程が必要となる等、製造コストが高くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電磁結合する側の面において高いインダクタンスの特性を確保しつつ、電磁結合する側の面とは反対側の面において高い磁気シールド機能を確保することができるコイルを、安価な製造コストで製造することができるコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために第1発明に係るコイルの製造方法は、渦巻状の導体層を基材に直線状に複数形成したフレキシブル基板を、一の前記渦巻状の導体層毎に、前記フレキシブル基板の一面に樹脂構造体を形成するための金型の所定位置に送り出して配置するステップと、軟化する温度に加熱した、磁性体材料を含有する硬化性樹脂を、前記金型に充填するステップと、前記金型に充填した硬化性樹脂を硬化させ、前記樹脂構造体を前記フレキシブル基板の一面に形成するステップと、前記樹脂構造体を形成した前記フレキシブル基板を、少なくとも一の前記渦巻状の導体層を含む部分毎に個片化するステップとを含む。
【0012】
また、第2発明に係るコイルの製造方法は、第1発明において、前記基材は、略300℃より低い温度で軟化する材料を使用している。
【0013】
また、第3発明に係るコイルの製造方法は、第1発明において、前記基材は、前記金型に充填する前記硬化性樹脂と同じ材料を使用している。
【0014】
また、第4発明に係るコイルの製造方法は、第1発明において、前記基材は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用している。
【0015】
また、第5発明に係るコイルの製造方法は、第1乃至第4発明のいずれか一つにおいて、前記金型は、前記基材と接する側の第1金型と、前記渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、前記第2金型には、前記渦巻状の導体層と嵌合する溝が形成してある。
【0016】
また、第6発明に係るコイルの製造方法は、第1乃至第4発明のいずれか一つにおいて、前記金型は、前記基材と接する側の第1金型と、前記渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、前記硬化性樹脂を前記金型に充填する場合、前記第1金型が前記基材と接する範囲よりも広い範囲において、粘着テープを前記渦巻状の導体層が形成してある前記フレキシブル基板の面に貼り付けてある。
【0017】
また、第7発明に係るコイルの製造方法は、第1乃至第4発明のいずれか一つにおいて、前記基材は、第1基材と第2基材とを有し、前記渦巻状の導体層は、前記第1基材と前記第2基材とで挟持してある。
【0018】
また、第8発明に係るコイルの製造方法は、第1乃至第7発明のいずれか一つにおいて、前記フレキシブル基板は、前記基材の、前記渦巻状の導体層が形成してある面とは異なる面に配線層を形成した多層構造である。
【0019】
第1発明では、渦巻状の導体層を基材に直線状に複数形成したフレキシブル基板を、一の渦巻状の導体層毎に、フレキシブル基板の一面に樹脂構造体を形成するための金型の所定位置に送り出して配置し、樹脂構造体をフレキシブル基板の一面に形成する。樹脂構造体を形成したフレキシブル基板を、少なくとも一の渦巻状の導体層を含む部分毎に個片化するので、多数のコイルを連続して製造することができ、安価な製造コストでコイルを製造することが可能になる。製造したコイルは、樹脂構造体と接している側の基材の面において高い磁気シールド機能を確保することができ、樹脂構造体と接していない側の基材の面を電磁結合する側の面として高いインダクタンスの特性を確保することができる。また、基材に接して樹脂構造体を設けることで、製造したコイルに外力が加わった場合であっても、渦巻状の導体層が容易に変形することがなく高いインダクタンスの特性を確保することができる。
【0020】
第2発明では、基材は、略300℃より低い温度で軟化する材料を使用しているので、材料費が高いポリイミド樹脂を使用する必要がなくなり、より安価な製造コストでコイルを製造することが可能になる。また、コイルを略300℃より低い温度に加熱するだけで、基材が軟化してコイルから渦巻状の導体層を容易に分離することができるので、渦巻状の導体層を再利用する等、資源の有効利用が可能となる。
【0021】
第3発明では、基材は、金型に充填する硬化性樹脂と同じ材料を使用しているので、材料費が高いポリイミド樹脂を使用する必要がなくなり、より安価な製造コストでコイルを製造することが可能になる。また、基材と樹脂構造体を構成する硬化性樹脂とを同じ材料にすることで、フレキシブル基板と樹脂構造体との接合力を高め、フレキシブル基板から樹脂構造体が脱落し難くすることができる。
【0022】
第4発明では、基材は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用しているので、材料費が高いポリイミド樹脂を使用する必要がなくなり、より安価な製造コストでコイルを製造することが可能になる。
【0023】
第5発明では、金型は、基材と接する側の第1金型と、渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、第2金型には渦巻状の導体層と嵌合する溝が形成してあるので、金型に硬化性樹脂を充填して基材が軟化しても、渦巻状の導体層が第2金型の溝に固定され、渦巻状の導体層の位置ずれや変形を防止することができる。
【0024】
第6発明では、金型は、基材と接する側の第1金型と、渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、硬化性樹脂を金型に充填する場合、第1金型が基材と接する範囲よりも広い範囲において、渦巻状の導体層が形成してある基材の面に粘着テープを貼り付けているので、金型に硬化性樹脂を充填して基材が軟化しても、渦巻状の導体層が粘着テープに貼り付いて固定され、渦巻状の導体層の位置ずれや変形を防止することができる。
【0025】
第7発明では、前記基材は、第1基材と第2基材とを有し、渦巻状の導体層は、第1基材と第2基材とで挟持してあるので、樹脂構造体を形成する際に、樹脂構造体と接している第1基材が軟化しても、樹脂構造体と接していない第2基材で渦巻状の導体層が固定され、渦巻状の導体層の位置ずれや変形を防止することができる。
【0026】
第8発明では、フレキシブル基板は、基材の、渦巻状の導体層が形成してある面とは異なる面に配線層を形成した多層構造であるので、製造したコイルに必要な電子部品を実装すること、他の機器と接続するためのコネクタ差込電極を設けること等が可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るコイルの製造方法は、渦巻状の導体層を基材に直線状に複数形成したフレキシブル基板を、一の渦巻状の導体層毎に、フレキシブル基板の一面に樹脂構造体を形成するための金型の所定位置に送り出して配置し、樹脂構造体をフレキシブル基板の一面に形成する。樹脂構造体を形成したフレキシブル基板を少なくとも一の渦巻状の導体層を含む部分毎に個片化するので、多数のコイルを連続して製造することができ、安価な製造コストでコイルを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1に係るコイルの製造方法により製造したコイルの構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すコイルのA−A断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るコイルの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1に係るコイルの製造方法の概略を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るコイルの製造方法の概略を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るコイルの製造方法における渦巻状の導体層を固定する別の手段の概略を示す模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係るコイルの製造方法における渦巻状の導体層を固定するさらに別の手段の概略を示す模式図である。
【図8】本発明の実施の形態1及び2に係るコイルの製造方法により製造したコイルの別の構成を示す斜視図である。
【図9】図8に示すコイルのB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態におけるコイルの製造方法について、図面を用いて具体的に説明する。以下の実施の形態は、特許請求の範囲に記載された発明を限定するものではなく、実施の形態の中で説明されている特徴的事項の組み合わせの全てが解決手段の必須事項であるとは限らないことは言うまでもない。
【0030】
なお、本発明の実施の形態に係るコイルの製造方法により製造されるコイルは、ワイヤレス充電器などの非接触型電力伝送に用いるコイルについて説明するが、特に限定されるものではなくRF−ID等の他の用途のコイルであっても良い。また、非接触型電力伝送に用いるコイルには、電力送信側機器に用いるコイルと電力受信側機器に用いるコイルとがあるが、以下の説明では、特に明記しない限り、いずれのコイルであるかは問わないものとする。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るコイルの製造方法により製造したコイルの構成を示す斜視図である。図2は、図1に示すコイルのA−A断面図である。図1に示すように、コイル1は、渦巻状の導体層2を基材3に形成したフレキシブル基板4と、磁性体材料を含有する平板状の樹脂構造体5とを備えている。基材3は、樹脂構造体5と接している基材(第1基材)3aと、開口部30、30を設けた基材(第2基材)3bとを有し、基材3aと基材3bとで渦巻状の導体層2を挟持している。なお、渦巻状の導体層2の端部25、25は、基材3bに設けた開口部30、30において外部へ露出している。
【0032】
基材3aに銅等の導体箔を形成し、渦巻状のパターンにエッチングして渦巻状の導体層2を基材3aに形成する。渦巻状の導体層2を形成した基材3aは、渦巻状の導体層2を形成した面に基材3bを貼り合わせてフレキシブル基板4を形成している。基材3aに形成した渦巻状の導体層2の外形は、略四角形である。なお、渦巻状の導体層2の外形は、略円形に形成しても、略楕円形に形成しても良い。また、基材3a、3bに使用する材料は、従来使用されているポリイミド樹脂ではなく、ポリイミド樹脂に比べて軟化する温度が低く、材料費が安いPET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)を使用する。基材3a、3bにPET樹脂を使用できるのは、本実施の形態1に係るコイルの製造方法により製造するコイル1はリフロー方式の半田付けを行う必要がなく、基材3a、3bをリフロー温度(略300℃)以上に加熱することがないためである。基材3a、3bに使用するPET樹脂は一例であり、略300℃より低い温度で軟化する材料であれば良く、樹脂構造体5を形成する硬化性樹脂と同じ材料でも良い。
【0033】
樹脂構造体5は、フェライト等の磁性体材料を粉体にして混練した硬化性樹脂を平板状に形成したものであり、フレキシブル基板4の基材3a側の面に形成してあるため、コイル1は、フレキシブル基板4の基材3a側の面において、高い磁気シールド機能を確保することができる。一方、フレキシブル基板4の基材3b側の面には、磁束を妨げるものがないため、コイル1は、フレキシブル基板4の基材3b側の面を電磁結合する側の面として、高いインダクタンスの特性を確保することができる。また、フレキシブル基板4の基材3aに形成した渦巻状の導体層2は外力により容易に変形するが、フレキシブル基板4の基材3a側の面に樹脂構造体5を形成した場合、渦巻状の導体層2は外力により容易に変形することはない。つまり、コイル1に、外力が加わった場合であっても、渦巻状の導体層2が外力により容易に変形することがなく、高いインダクタンスの特性を確保することができる。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態1に係るコイル1の製造方法を説明するためのフローチャートである。図4は、本発明の実施の形態1に係るコイル1の製造方法の概略を示す模式図である。図4(a)は、本発明の実施の形態1に係るコイル1の製造方法の各ステップを示す模式図である。図4(b)は、本発明の実施の形態1に係るコイル1の製造方法により製造したコイル1の斜視図である。フレキシブル基板4は、渦巻状の導体層2を直線状に複数形成した基材3aと、渦巻状の導体層2を基材3aと挟持する基材3bとで形成されている。そして、図4(a)に示すように、フレキシブル基板4は、ロール状に、基板送出機(図示せず)に巻かれている。基板送出機は、ロール状に巻かれたフレキシブル基板4を、一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に射出成型機(図示せず)の金型40に送り出す。つまり、本実施の形態1に係るコイル1の製造方法では、基板送出機が、一の渦巻状の導体層2毎に、フレキシブル基板4を射出成型機の金型40に送り出している。図3に戻って、基板送出機は、送り出したフレキシブル基板4を、金型40の所定位置に配置する(ステップS31)。ここで、金型40の所定位置とは、金型40と、基材3に形成された一つの渦巻状の導体層2とが少なくとも重なる位置をいう。
【0035】
射出成型機は、金型40に、磁性体材料を含有した硬化性樹脂を矢印41の方向に充填する(ステップS32)。金型40の充填口42から基材3aと金型40との間の空洞43に、軟化する温度に加熱した硬化性樹脂を充填する。充填した硬化性樹脂は、フレキシブル基板4の基材3aと接するため、軟化する温度に加熱した硬化性樹脂によりPET樹脂を使用した基材3aが軟化する。しかし、基材3aが軟化しても、渦巻状の導体層2は、基材3bにも固定してあるので、位置ずれや変形が生じることはない。
【0036】
図3に戻って、金型40に充填した硬化性樹脂を硬化させ、樹脂構造体5を形成する(ステップS33)。基材3aの上側に、硬化性樹脂が矢印41の方向に充填口42から充填され、基材3aと渦巻状の導体層2を上下で挟持している基材3bの下側には硬化性樹脂が充填されないため、フレキシブル基板4は、基材3aの上側(フレキシブル基板4の一面)にのみ樹脂構造体5が形成される。
【0037】
樹脂構造体5が形成されたフレキシブル基板4を、少なくとも一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に打ち抜くことで、図4(b)に示すように個々のコイル1に分ける(個片化する)(ステップS34)。図4(a)に示すように、個片化装置44は、送り出されたフレキシブル基板4の樹脂構造体5が形成された周辺を切断して打ち抜き、フレキシブル基板4をコイル1に個片化する。なお、個片化装置44は、フレキシブル基板4の樹脂構造体5が形成された周辺を切断する手段として、刃を用いても、レーザを用いても良い。また、個片化装置44で打ち抜く部分は、少なくとも一の渦巻状の導体層2を含む部分であれば良いので、フレキシブル基板4の樹脂構造体5が形成された周辺に限定されるものではない。そのため、個片化装置44は、フレキシブル基板4及び樹脂構造体5を切断して打ち抜き、樹脂構造体5が形成されたフレキシブル基板4をコイル1に個片化しても良い。
【0038】
以上のように、本実施の形態1に係るコイル1の製造方法では、渦巻状の導体層2を基材3に直線状に複数形成したフレキシブル基板4を、一の渦巻状の導体層2毎にフレキシブル基板4の一面に樹脂構造体5を形成するための金型40へ送り出し、配置することで、樹脂構造体5をフレキシブル基板4の一面に形成し、少なくとも一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に個片化するので、多数のコイル1を連続して製造することができ、安価な製造コストでコイル1を製造することができる。
【0039】
さらに、フレキシブル基板4の基材3に略300℃より低い温度で軟化する材料を使用することで、略300℃以上でも軟化しないポリイミド樹脂を使用する必要がなくなるため、ポリイミド樹脂よりも材料費が安い材料を使用することが可能になる。例えば、フレキシブル基板4の基材3にポリイミド樹脂よりも材料費が安いPET樹脂を使用することで、より安価な製造コストでコイル1を製造することが可能になる。また、フレキシブル基板4の基材3に略300℃より低い温度で軟化する材料を使用することで、コイル1を略300℃より低い温度に加熱するだけで、基材3が軟化してコイル1から渦巻状の導体層2を容易に分離することができる。
【0040】
なお、渦巻状の導体層2を挟持する基材3a及び基材3bに同じ材料を使用する場合に限定されるものではなく、基材3aに使用する材料と、基材3bに使用する材料とが異なっても良い。例えば、基材3aに使用する材料がPET樹脂で、基材3bに使用する材料がポリイミド樹脂であっても良い。
【0041】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2に係るコイル1の製造方法の概略を示す模式図である。図5(a)は、本発明の実施の形態2に係るコイル1の製造方法の各ステップを示す模式図である。図5(b)は、図5(a)の丸で囲った部分の拡大図である。図5(c)は、本発明の実施の形態2に係るコイル1の製造方法により製造したコイル1の斜視図である。フレキシブル基板4は、渦巻状の導体層2を直線状に複数形成した基材3で形成されている。そして、図5(a)に示すように、フレキシブル基板4は、ロール状に、基板送出機に巻かれている。基板送出機は、ロール状に巻かれたフレキシブル基板4を、一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に射出成型機の金型40に送り出している。つまり、本実施の形態2に係るコイル1の製造方法でも、基板送出機は、送り出したフレキシブル基板4を一の渦巻状の導体層2毎に、金型40の所定位置に配置する(ステップS31)。なお、本実施の形態2に係るコイル1の製造方法を説明するためのフローチャートは図3と同じであるため、同じ製造ステップには同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
金型40は、フレキシブル基板4の基材3と接する側に金型(第1金型)40aと、渦巻状の導体層2と接する側に金型(第2金型)40bとを有している。さらに、金型40bには、図5(b)の拡大図に示すように、渦巻状の導体層2と嵌合する溝50が形成されている。ステップS31において、フレキシブル基板4を金型40の所定位置に配置する際に、渦巻状の導体層2を金型40bの溝50に嵌合する。
【0043】
渦巻状の導体層2を金型40bの溝50に嵌合した後、金型40aに、磁性体材料を含有した硬化性樹脂を矢印41の方向に充填する(ステップS32)。金型40aの充填口42から基材3と金型40aとの間の空洞43に、軟化する温度に加熱した硬化性樹脂を充填する。充填した硬化性樹脂は、フレキシブル基板4の基材3と接するため、軟化する温度に加熱した硬化性樹脂によりPET樹脂を使用した基材3が軟化する。しかし、基材3が軟化しても、渦巻状の導体層2は、金型40bの溝50に嵌合するように配置してあるので、位置ずれや変形が生じることはない。つまり、実施の形態1に係るコイル1の製造方法では、軟化する温度に加熱した硬化性樹脂と接することがない基材3bに渦巻状の導体層2を固定していたが、本実施の形態2に係るコイル1の製造方法では、基材3bの代わりに、金型40bに形成した溝50に渦巻状の導体層2を嵌合することで固定している。
【0044】
金型40aに充填した硬化性樹脂を硬化させ、樹脂構造体5を形成する(ステップS33)。樹脂構造体5が形成されたフレキシブル基板4を、少なくとも一の渦巻状の導体層2を含む部分毎に打ち抜くことで、図5(c)に示すように個々のコイル1に分ける(個片化する)(ステップS34)。
【0045】
以上のように、本実施の形態2に係るコイル1の製造方法では、渦巻状の導体層2と嵌合する溝50を形成した金型40bを用いて、コイル1を製造するので、金型40aに硬化性樹脂を充填して基材3が軟化しても、渦巻状の導体層2を金型40bに形成した溝50に固定することができ、渦巻状の導体層2に位置ずれや変形を生じることがない。
【0046】
なお、金型40aに硬化性樹脂を充填して基材3が軟化しても、渦巻状の導体層2に位置ずれや変形が生じることがないよう渦巻状の導体層2を固定する手段は、金型40bに形成した溝50に限定されるものではない。図6は、本発明の実施の形態2に係るコイル1の製造方法における渦巻状の導体層2を固定する別の手段の概略を示す模式図である。図6の例では、硬化性樹脂を矢印41の方向に金型40aに充填する際に、渦巻状の導体層2を基材3に形成してあるフレキシブル基板4の面に粘着テープ60を貼り付ける。粘着テープ60を貼り付ける範囲は、金型40aが基材3と接する範囲よりも広い範囲にしてあるため、金型40aに硬化性樹脂が充填されて金型40aと接する範囲の基材3が軟化しても、粘着テープ60自体は、金型40aと接しない範囲の基材3に貼り付いているので、金型40aに対して位置がずれることはない。渦巻状の導体層2が形成してあるフレキシブル基板4の面に粘着テープ60を貼り付けることで、渦巻状の導体層2自体も粘着テープ60に貼り付くため、渦巻状の導体層2は、基材3が軟化しても、金型40aに対して位置が固定され、位置ずれや変形が生じることはない。なお、粘着テープ60の粘着力は、硬化性樹脂を金型40aに充填した場合に、渦巻状の導体層2に位置ずれや変形を生じさせる力に対抗できる程度の粘着力があればよい。
【0047】
また、図7は、本発明の実施の形態2に係るコイル1の製造方法における渦巻状の導体層2を固定するさらに別の手段の概略を示す模式図である。図7の例では、金型40aに設けられた突起部70が渦巻状の導体層2を金型40bに押し付けている。突起部70で渦巻状の導体層2を金型40bに押し付けることで、基材3が軟化しても、位置ずれや変形が生じることはない。なお、突起部70の形状や個数は、硬化性樹脂を金型40aに充填する際に、渦巻状の導体層2に位置ずれや変形を生じさせる力に対抗できる程度の摩擦力が渦巻状の導体層2と金型40bとの間で生じるような形状や個数であればよい。
【0048】
さらに、本発明の実施の形態1及び2に係るコイルの製造方法で製造されるコイルは、図1及び図2に示すコイル1に限定されるものではない。図8は、本発明の実施の形態1及び2に係るコイルの製造方法により製造されたコイルの別の構成を示す斜視図である。図9は、図8に示すコイル10のB−B断面図である。図8及び図9に示すように、コイル10は、渦巻状の導体層2を基材3に形成したフレキシブル基板4と、磁性体材料を含有する平板状の樹脂構造体5とを備えている。さらに、フレキシブル基板4には、樹脂構造体5が形成してある側の基材3の面及び基材3内に配線80が設けられている。配線80は、ビアプラグ81を介して渦巻状の導体層2と電気的に接続されている。また、樹脂構造体5が形成してある側の基材3の面に設けられた配線80には、コンデンサ等の電子部品82が実装され、端部にはコネクタ差込電極83が形成されている。つまり、コイル10は、フレキシブル基板4が、渦巻状の導体層2が形成してある側の基材3の面と異なる面(例えば、樹脂構造体5が形成してある側の基材3の面)に配線層を形成した多層構造であるので、必要な電子部品82を実装すること、他の機器と接続するためのコネクタ差込電極83を設けること等が可能になる。
【符号の説明】
【0049】
1、10 コイル
2 渦巻状の導体層
3、3a、3b 基材
4 フレキシブル基板
5 樹脂構造体
25 端部
30 開口部
40、40a、40b 金型
41 矢印
42 充填口
43 空洞
50 溝
60 粘着テープ
70 突起部
80 配線
81 ビアプラグ
82 電子部品
83 コネクタ差込電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻状の導体層を基材に直線状に複数形成したフレキシブル基板を、一の前記渦巻状の導体層毎に、前記フレキシブル基板の一面に樹脂構造体を形成するための金型の所定位置に送り出して配置するステップと、
軟化する温度に加熱した、磁性体材料を含有する硬化性樹脂を、前記金型に充填するステップと、
前記金型に充填した硬化性樹脂を硬化させ、前記樹脂構造体を前記フレキシブル基板の一面に形成するステップと、
前記樹脂構造体を形成した前記フレキシブル基板を、少なくとも一の前記渦巻状の導体層を含む部分毎に個片化するステップと
を含むことを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項2】
前記基材は、略300℃より低い温度で軟化する材料を使用していることを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
前記基材は、前記金型に充填する前記硬化性樹脂と同じ材料を使用していることを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
前記基材は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用していることを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項5】
前記金型は、前記基材と接する側の第1金型と、前記渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、
前記第2金型には、前記渦巻状の導体層と嵌合する溝が形成してあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【請求項6】
前記金型は、前記基材と接する側の第1金型と、前記渦巻状の導体層と接する側の第2金型とを有し、
前記硬化性樹脂を前記金型に充填する場合、前記第1金型が前記基材と接する範囲よりも広い範囲において、粘着テープを前記渦巻状の導体層が形成してある前記フレキシブル基板の面に貼り付けてあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【請求項7】
前記基材は、第1基材と第2基材とを有し、
前記渦巻状の導体層は、前記第1基材と前記第2基材とで挟持してあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【請求項8】
前記フレキシブル基板は、前記基材の、前記渦巻状の導体層が形成してある面とは異なる面に配線層を形成した多層構造であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−23489(P2011−23489A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166235(P2009−166235)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】