説明

コイルばね

【課題】確実なショットピーニング処理を施すことができ、使用中にフレッティングや異音が生じることもなく、省資源、軽量化されたコイルばねの提供。
【解決手段】コイル軸方向の荷重が加わったときにばねとして機能する有効部11と、有効部11の両端に形成された座巻部12と、有効部11と座巻部12との間に形成された立上り部13と、を有し、立上り部13のピッチ角をθ1、有効部11のピッチ角をθ2としたとき、少なくとも一方の立上り部13において、ピッチ角θ1>ピッチ角θ2が成立するように立上り部13が形成されているコイルばね。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばねにかかり、特にクローラ走行体のトラックスプリングとして特に好適に使用されるオープンエンド型のコイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどに装備されるクローラ走行体において、誘導輪を弾性支持して緩衝機能を発揮するトラックスプリングとして、全体の一部の巻き部分について、土砂等の噛み込みを防止し得る噛み込み防止部分となるように、他の巻き部分に対してばねピッチを異ならせたことを特徴とするトラックスプリングがある(特許文献1)。
【0003】
上記トラックスプリングは、自由状態で端部と1巻目の部分との間に隙間のあるオープンエンド型コイルばねでもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−044561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のオープンエンド型コイルばねは、ばね端部と1巻目の部分との間の隙間が十分でないため、線材を巻回後、ショットピーニング処理を施したときに、ショットが当たらない箇所が生じたり、使用中にフレッティングや異音が生じたりする問題があった。
【0006】
本発明は、確実なショットピーニング処理を施すことができ、使用中にフレッティングや異音が生じることもなく、また、近年の環境問題に対応し、省資源で軽量化されたオープンエンド型のコイルばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、コイル軸方向の荷重が加わったときにばねとして機能する有効部と、前記有効部の両端に形成された座巻部と、前記有効部と座巻部との間に形成された立上り部と、を有し、立上り部のピッチ角をθ1、有効部のピッチ角をθ2としたとき、少なくとも一方の立上り部において、
ピッチ角θ1>ピッチ角θ2
が成立するように前記立上り部1が形成されているとともに、前記コイルばねを形成する線材の直径が25mm〜90mmであるコイルばねに関する。
【0008】
請求項1によれば、前記座巻部と、前記立上り部を含む1巻目の部分との隙間が、従来のオープンエンド型コイルばねよりも大きく取れるため、ショットピーニング処理を施したときに、ショットの当り方が不十分な箇所が生じることがない。しかも使用最大荷重時にも前記座巻部と前記立上り部との接触がないので、使用中にフレッティングや異音が生じたりすることが効果的に防止できるコイルばねが提供される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記コイルばねを形成する線材において座巻部を形成する部分は、線材の巻回方向に直交する方向の寸法が末端に向かって縮小するテーパ部にとされ、且つ前記テーパ部の端面における線材の幅をw、厚さをtとしたとき、
1<w/t≦1.6
である請求項1に記載のコイルばねに関する。
【0010】
座巻部がテーパ部とされているコイルばねにおいて、端面のw/tが1以下の場合は、座巻部が不安定となり、端面のw/tが1.6を超えると座巻部の剛性が低下し、いずれの場合もコイルばねが倒れ易くなるが、請求項2のコイルばねにおいては、端面のw/tが1<w/t≦1.6の関係にあるから、座巻部のコイル軸方向の剛性が高いコイルばねが提供される。
【0011】
請求項3に記載のコイルばねは、前記テーパ部が0.5巻き以上0.6巻き以下とされている請求項1または2に記載のコイルばねに関する。
【0012】
オープンエンド型コイルばねが倒れないためにはテーパ部の長さは0.5巻き以上必要であるが、テーパ部が立上り部まで及ぶとそこから折損する危険性があるので、テーパ部の長さは0.6巻き以下であることが好ましい。請求項3の発明においては、テーパ部の長さを0.5巻き以上0.6巻き以下としているから、倒れを防止でき、且つ軽量なコイルばねが提供される。
【0013】
請求項4は、前記座巻部の少なくとも一方がピッグテール巻きとされている請求項1〜3の何れか1項に記載のコイルばねに関する。
【0014】
請求項4によれば、座巻部をピッグテール巻きとすることにより、ピッグテール巻きとされた座巻部と前記座巻部に隣接する1巻き目の部分との隙間が接触しにくいコイルばねが提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、確実なショットピーニング処理を施すことができ、また使用中にフレッティングや異音が生じることがなく、省資源で軽量化されたオープンエンド型のコイルばねが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施形態1に係るコイルばねの構成を示す側面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係るコイルばねにおいて片側の座巻部をピッグテール巻きとした上で立上り部を形成した例について構成を示す側面図である。
【図3】図3は、実施形態1のコイルばねを形成する線材のテーパ部の構成を示す側面図および端面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係るコイルばねの端面図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るコイルばねをコイル軸に沿って圧縮したところを示す側面図である。
【図6】図6は、従来のオープンエンド型のコイルばねの構成を示す側面図である。
【図7】図7は、図6に示すコイルばねをコイル軸に圧縮したところを示す側面図である。
【図8】図8は、図6のコイルばねを形成する線材のテーパ部の構成を示す側面図および端面図である。
【図9】図9は、図6のコイルばねの端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.実施形態1
本発明に係るコイルばねの一例について以下に説明する。
実施形態1に係るコイルばね1は、オープンエンド型のコイルばねであって、線材Wをコイル状に巻回して形成されたコイルばねであって、図1に示すように、コイル軸方向に荷重を加えたときにばねとして機能する有効部11と、有効部11の両端において線材Wをピッチ角0で円環状に巻回して形成された座巻部12と、座巻部12から有効部11に向かって線材が立ち上がる立上り部13とを有する。
【0018】
立上り部13は、図1に示すように両方の座巻部12に設けられていてもよく、また、図2に示すように一方の座巻部12にのみ設けられていてもよい。
【0019】
立上り部13と有効部11とは、図1および図2に示すように、立上り部13のピッチ角をθ1、有効部11のピッチ角をθ2とするとピッチ角θ1>ピッチ角θ2の関係が成り立つように形成されている。
【0020】
線材Wにおいて座巻部12とされる部分であるテーパ部14は、図3および図4に示すようにコイル軸方向に沿った寸法が端面15に向かって縮小するテーパ状とされている。そして、テーパ部14の端面15においては、線材Wの幅wと厚さtとの比w/tは、1<w/t≦1.6の範囲になるようにテーパ加工されている。
【0021】
テーパ部14は、0.5巻き以上0.6巻き以下に相当する長さとされている。
【0022】
図4にコイルばね1の端面を示すように、座巻部12もまた0.5巻き以上0.6巻き以下とされ、座巻部12に立上り部13を加えても1巻き以下とされている。但し、テーパ部14が座巻部12を越えて立上り部13まで及ぶとそこから折損する危険性があるので、テーパ部14の長さは座巻部12の長さよりも短くされ、テーパ部14が立上り部13まで及ばないようにされている。
【0023】
線材Wの太さは、コイルばね1の用途に応じて適宜決定できる。例えばトラックスプリングのような建設機械用のコイルばねであれば、線材Wの直径は25mm〜90mm程度が好ましい。
【0024】
実施形態1のコイルばね1にコイル軸方向の荷重を加えて圧縮したところを図5に示す。一方、立上り部13のピッチ角θ1が有効部11のピッチ角θ2よりも小さい従来型のオープンエンド型のコイルばね100を図6に、コイルばね100にコイル軸方向の荷重を加えて圧縮したところを図7に示す。
【0025】
図5に示すように、実施形態1のコイルばね1においては、有効部11が実質的に互いに接触する状態まで圧縮した状態においても、座巻部12と立上り部13との間には隙間が存在する。これに対してコイルばね100においては、図7に示すように、有効部11が十分に圧縮しきらないうちに座巻部12と立上り部13とが接触する。
【0026】
したがって、実施形態1のコイルばね1においては、座巻部12が立上り部13に接触することによるフレッティングや異音の発生が防止されるのに対し、コイルばね100においては、有効部11が荷重で圧縮される度毎に座巻部12が立上り部13に接触してフレッティングや異音が発生する。
【0027】
また、実施形態1のコイルばね1においては、座巻部12と、立上り部13を含む1巻目の部分との隙間が、従来のオープンエンド型のコイルばね100よりも大きく取れるので、顧客の要求するばね高さに対するコイル巻数を少なくすることができ、軽量化される。
【0028】
更に、製造時には確実なショットピーニング投射および塗装がなされ、使用時には接触面圧が低減され、また塗膜の損傷が防止されるから、腐食折損リスクが大幅に低減される。
【0029】
加えて、実施形態1のコイルばね1においては、図3に示すように線材Wの端面15の幅wと厚さtとの比が1より大きく1.6以下であってテーパ部の長さを0.5巻き以上0.6巻き以下としているが、従来型のオープンエンド型のコイルばね100においては、図8に示すようにw/tが1.6を超えており、図9に示すようにテーパ部の長さは0.6巻を超えている。したがって、実施形態1のコイルばね1においては、従来型のオープンエンド型のコイルばね100とは異なり、座巻部12のコイル軸方向の剛性が高いため、座巻部12が変形しにくい。したがって安定したばね特性が得られる。
【符号の説明】
【0030】
1 コイルばね
11 有効部
12 座巻部
13 立上がり部
14 端部
15 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル軸方向の荷重が加わったときにばねとして機能する有効部と、前記有効部の両端に形成された座巻部と、前記有効部と座巻部との間に形成された立上り部と、を有し、
立上り部のピッチ角をθ1、有効部のピッチ角をθ2としたとき、少なくとも一方の立上り部において、
ピッチ角θ1>ピッチ角θ2
が成立するように前記立上り部が形成されているとともに、
前記コイルばねを形成する線材の直径が25mm〜90mmである
コイルばね。
【請求項2】
前記コイルばねを形成する線材における座巻部を形成する部分は、線材の巻回方向に直交する方向の寸法が末端に向かって縮小するテーパ部とされ、且つ前記テーパ部の端面における線材の幅をw、厚さをtとしたとき、
1<w/t≦1.6
である請求項1に記載のコイルばね。
【請求項3】
前記テーパ部は0.5巻き以上0.6巻き以下とされている請求項1または2に記載のコイルばね。
【請求項4】
前記座巻部の少なくとも一方はピッグテール巻きとされている請求項1〜3の何れか1項に記載のコイルばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211702(P2012−211702A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163760(P2012−163760)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【分割の表示】特願2010−150443(P2010−150443)の分割
【原出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000176833)三菱製鋼株式会社 (69)
【Fターム(参考)】