説明

コイルバックヨーク、コアレス電気機械装置、移動体、ロボット、及び、コイルバックヨークの製造方法

【課題】コアレス電気機械装置のコイルバックヨークの製造コストの改善を図りつつ、コギングの発生を抑制する。
【解決手段】コアレス電気機械装置のステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークは、複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有する。円環状部品は、軟磁性体で構成され、かつ、円環の周方向に沿って分割された形状を有する複数の分割円環部品が、円環状に貼り合わされた構造を有する。分割円環部品の円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が、円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品の継ぎ目部分が、他の円環状部品の継ぎ目部分に対して、円環の周方向に沿ってずれて貼り合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレス電機機械装置に用いられるコイルバックヨークに関する。
【背景技術】
【0002】
コアレスの電動モーターや発電機などの回転電機(本明細書では「電機機械装置」とも呼ぶ)では、ローターの内周または外周に沿って円筒状に配置された永久磁石に対向するよう、外周側または内周側に複数の空芯の電磁コイルが円筒状に配置されている。そして、電磁コイルの外周側または内周側、すなわち、電磁コイルに対して永久磁石とは反対側に、円筒状のコイルバックヨークが配置されている。このコイルバックヨークによって、永久磁石からコイルバックヨークよりも外周または内周への漏れ磁束の発生を抑制して、有効に電磁コイルを鎖交する磁束密度を高めて、電気機械装置の変換効率を高めることが可能である。
【0003】
コイルバックヨークは、珪素鋼板等の軟磁性体である電磁鋼板材(「鋼板材」とも呼ぶ)を金型で打ち抜き形成して円環状のコイルバックヨーク部品(「円環状部品」とも呼ぶ)を作製し、作製した円環状部品を複数積層して一体化形成することにより、作製することができる。あるいは、鋼板材を複数積層した積層鋼板材を金型で打ち抜き形成して円筒状のコイルバックヨークを作製することができる。しかしながら、これらの製造方法の場合、例えば、円環の中空部に対応する鋼板材の部分あるいは円筒の中空部に対応する積層鋼板材の部分は廃材となってしまい、製造コストの点で改善が望まれる。
【0004】
上記問題に対しては、円環部品を複数に分割した分割円環部品を貼り合わせて形成する、あるいは、コイルバックヨークを複数に分割した分割円筒部品を貼り合わせて形成する、ことにより、無駄な廃材を削減することができるので、製造コストの改善が可能である。しかしながら、分割部品を貼り合わせる場合、いわゆるコギングが顕著となる、という問題がある。これは、分割円環部品同士や分割円筒部品同士を貼り合わせた部分(「継ぎ目部分」とも呼ぶ)において磁極が形成されるため、永久磁石の磁極と継ぎ目部分における磁極での吸引または反発が発生することになり、いわゆるコギングが発生する、と考えられる。また、継ぎ目部分では磁気抵抗が大きくなり、コイルバックヨークの位置によって磁気抵抗が変化するため、永久磁石およびコイルバックヨークで構成される磁気回路における磁気抵抗に依存性が発生し、いわゆるコギングが発生する、とも考えられる。いずれにしても、コイルバックヨークにおける継ぎ目部分の存在によりコギングが発生する、という問題がる。
【0005】
また、継ぎ目部分では磁気抵抗が大きくなるため、永久磁石とコイルバックヨークとの間の磁束の永久磁石表面における磁束密度が低下する、という問題がある。さらに、また、継ぎ目部分からの漏れ磁束により、ローターの回転数に応じて渦電流損失が増加する、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−235185号公報
【特許文献2】特開2003−324865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決し、コギングの発生を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークであって、複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、前記円環状部品は、軟磁性体で構成され、かつ、円環の周方向に沿って分割された形状を有する複数の分割円環部品が、円環状に貼り合わされた構造を有しており、前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が、前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品の継ぎ目部分が、他の円環状部品の継ぎ目部分に対して、前記円環の周方向に沿ってずれて貼り合わされている、コイルバックヨーク。
コイルバックヨークの継ぎ目部分の存在により、コアレス電気機械装置で発生するコギングトルクの大きさは、回転の軸に一致する方向、すなわち、コイルバックヨークの円筒の軸方向に平行な一直線上に並ぶ各円環状部品の継ぎ目によって発生するコギングトルクの積算となる、と考えられる。上記適用例のコイルバックヨークは、積層された各円環状部品の継ぎ目部分が、円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように分散させることができる。従って、このコイルバックヨークをコアレス電機機械装置に適用した場合において、コギングの発生を抑制することが可能である。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載のコイルバックヨークであって、各円環状部品は、それぞれの継ぎ目部分が前記円環の周方向に沿って積層の順にずれて貼り合わされている、コイルバックヨーク。
この適用例のコイルバックヨークは、積層された各円環状部品の継ぎ目部分が、円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、それぞれが互いにずれて配置されて最も効果的に分散されている。従って、このコイルバックヨークをコアレス電機機械装置に適用した場合において、継ぎ目部分の存在によるコギングの発生を最も効果的に抑制することが可能である。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のコイルバックヨークであって、前記分割円環部品同士の貼り合わされた継ぎ目部分は、軟磁性体の粉末を含む結合部材によって形成される結合部で構成されている、コイルバックヨーク。
この適用例のコイルバックヨークでは、結合部に含まれている軟磁性体によって継ぎ目部分における磁気的な不連続性が緩和される。これにより、このコイルバックヨークをコアレス電機機械装置に適用した場合において、継ぎ目部分からの漏れ磁束を低減することができるので、漏れ磁束によって発生する渦電流損失を抑制することが可能である。また、継ぎ目部分の磁気抵抗を低減することができるので、コアレス電気機械装置のローターに配置されている永久磁石とコイルバックヨークとの間の磁束の永久磁石表面における磁束密度の低下を抑制することができる。
[適用例4]
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置であって、前記ローターは、前記ローター中の円筒面に沿って配置された永久磁石を備え、前記ステーターは、前記永久磁石に対向するように前記ステーター中の円筒面に沿って配置された空芯の電磁コイルと、前記空芯の電磁コイルを挟んで前記永久磁石に対向するように配置されたコイルバックヨークと、を備え、前記コイルバックヨークは、適用例1ないし適用例3のいずれか一項に記載のコイルバックヨークである、コアレス電機機械装置。
この適用例のコアレス電機機械装置は、適用例1ないし適用例3のいずれか一つの適用例のコイルバックヨークを備えているので、製造コストの改善を図りつつ、コギングの発生を抑制することが可能である。
【0012】
[適用例5]
適用例4に記載のコアレス電気機械装置を備える移動体。
【0013】
[適用例6]
適用例4に記載のコアレス電気機械装置を備えるロボット。
【0014】
[適用例7]
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークの製造方法であって、前記コイルバックヨークは複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、(a)前記円環状部品の円環の周方向に沿って等分割された形状を有する分割円環部品を、軟磁性体である鋼板材から打ち抜き形成する工程と、(b)前記分割円環部品同士を前記円環の周方向に沿って貼り合わせて一つの円環状部品を形成し、形成した一つの円環状部品の前記円環の軸方向側の上面に、前記分割円環部品を重ねて貼り合わせつつ、前記円環の周方向に沿って前記分割円環部品同士を貼り合わせて次の一つの円環状部品を形成することにより、前記複数の円環状部品が前記円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を形成する工程と、を備え、前記工程(b)は、前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品に対応する分割円環部品を前記円環の周方向に沿ってずらして貼り合わせる工程を含む、コイルバックヨークの製造方法。
この適用例のコイルバックヨークの製造方法によれば、製造コストの改善を図りつつ、コギングの発生を抑制することが可能なコイルバックヨークを提供することができる。
【0015】
[適用例8]
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークの製造方法であって、前記コイルバックヨークは複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、(a)前記円環状部品の円環の周方向に沿って等分割された形状を有する分割円環部品を、軟磁性体である鋼板材から打ち抜き形成する工程と、(b)複数の分割円環部品を前記円筒の軸方向に沿って貼り合わせた分割円筒部品を複数形成する工程と、(c)形成した複数の分割円筒部品を貼り合わせることにより、前記複数の円環状部品が前記円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を形成する工程と、を備え、前記工程(b)は、前記工程(c)において、前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品に対応する分割円環部品を前記円環の周方向に沿ってずらして貼り合わせる工程を含む、コイルバックヨークの製造方法。
この適用例のコイルバックヨークの製造方法においても、製造コストの改善を図りつつ、コギングの発生を抑制することが可能なコイルバックヨークを提供することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、コイルバックヨークやその製造方法のほか、このコイルバックヨークを備える電動モーターや発電装置などのコアレス電気機械装置、コアレス電機機械装置を用いた移動体やロボットあるいは医療機器等の種々の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施例としてのコアレスモーター10を示す説明図である。
【図2】第1実施例のコアレスモーター10を回転軸230と垂直な切断線で切ったときの概略断面を模式的に示す説明図である。
【図3】電磁コイル100A,100Bの配置状態を示す説明図である。
【図4】コアレスモーター10の概略組み立て手順を示す説明図である。
【図5】コイルバックヨーク115を拡大して示す説明図である。
【図6】コイルバックヨーク115の製造手順を示す説明図である。
【図7】コイルバックヨーク115の製造手順を示す説明図である。
【図8】コギングトルク特性を実施例のコイルバックヨークの場合と基準のコイルバックヨークの場合と比較例1のコイルバックヨークの場合とで比較して示す説明図である。
【図9】永久磁石の表面磁束密度特性を実施例のコイルバックヨークの場合と基準のコイルバックヨークの場合と比較例2のコイルバックヨークの場合とで比較して示す説明図である。
【図10】渦電流損失特性を実施例のコイルバックヨークの場合と基準のコイルバックヨークの場合と比較例2のコイルバックヨークの場合とで比較して示す説明図である。
【図11】コイルバックヨーク115の別の製造手順を示す説明図である。
【図12】変形例のコイルバックヨークの円筒面を展開した平面を模式的に示す説明図である。
【図13】第2実施例としてのコアレスモーターを示す説明図である。
【図14】本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した移動体の一例である電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。
【図15】本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。
【図16】本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した双腕7軸ロボットの一例を示す説明図である。
【図17】本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例としてのコアレスモーター10を示す説明図である。図1(A)は、コアレスモーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの概略断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図1(B)は、コアレスモーター10を回転軸230と垂直な切断線(図1(A)のB−B)で切ったときの概略断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。
【0019】
コアレスモーター10は、略円筒状のステーター15が外側に配置され、略円筒状のローター20が内側に配置されたラジアルギャップ構造のインナーローター型モーターである。ステーター15は、ケーシング110の略円筒状のケーシング部分110bの内周に沿って配置されたコイルバックヨーク115と、コイルバックヨーク115の内側に配列された複数の電磁コイル100A,100Bと、を有している。本実施例では、2相の電磁コイル100A,100Bを区別しない場合には、単に電磁コイル100と呼ぶ。コイルバックヨーク115は、軟磁性体材料で形成されており、略円筒形形状を有している。電磁コイル100A,100Bは、樹脂130によりモールドされている。
【0020】
電磁コイル100A,100Bの回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さよりも長くなっている。すなわち、図1(A)において、電磁コイル100A,100Bの左右方向の端部は、コイルバックヨーク115と重ならない。本実施例では、コイルバックヨーク115と重なっている領域を有効コイル領域と呼び、コイルバックヨーク115と重ならない領域をコイルエンド領域と呼ぶ。また、本実施例では、電磁コイル100A,100Bの有効コイル領域は、同一の円筒面に沿った円筒領域に配置されるが、コイルエンド領域については、以下に説明するように、2つのコイルエンド領域のうちの一方が、円筒領域から外周側あるいは内周側に曲げられている。例えば、電磁コイル100Aについては、図1(A)に示すように右側のコイルエンド領域は円筒領域に配置されて曲げられていないが、左側のコイルエンド領域は円筒領域から外周側に曲げられている。電磁コイル100Bについては、図1(A)に示すように左側のコイルエンド領域は円筒領域に配置されて曲げられていないが、右側のコイルエンド領域は円筒領域から内周側に曲げられている。なお、電磁コイル100A,100Bは、コイルエンド領域の形状が互いに入れ変わった構造であってもよい。
【0021】
ステーター15の回転軸230に沿った側の側面(図の左側)には、ローター20の位相を検出する位置センサーとしての磁気センサー300が、配置されている。磁気センサー300として、例えばホール素子を有するホールICで構成されたホールセンサーを用いることができる。磁気センサー300は、電気角の駆動制御で略正弦波のセンサー信号を生成する。このセンサー信号は、電磁コイル100を駆動するための駆動信号を生成するために用いられる。したがって、磁気センサー300は、2相の電磁コイル100A,100Bのそれぞれに1つずつ設けられていることが好ましい。磁気センサー300は、回路基板310の上に固定されており、回路基板310は、ケーシング110のケーシング部分110cに固定されている。本実施例では、磁気センサー300および回路基板310は、図1(A)の左側に配置されている。本実施例では、磁気センサー300とコイルエンド領域との位置関係を用いて、上述した2つのコイルエンド領域のうち磁気センサー300に近いコイルエンド領域(図1(A)の左側のコイルエンド領域)を、「磁気センサー側コイルエンド領域」と呼び、磁気センサー300から遠いコイルエンド領域(図1(A)の右側のコイルエンド領域)を「非磁気センサー側コイルエンド領域」と呼ぶ。
【0022】
ローター20は、中心に回転軸230を有し、その外周に複数の永久磁石200を有している。各永久磁石200は、回転軸230の中心から外部に向かう径方向(放射方向)に沿って磁化されている。なお、図1(B)において永久磁石200に付したN,Sの文字は、永久磁石200の外周となる磁石表面での電磁コイル100A,100B側の極性を示している。永久磁石200と電磁コイル100とは、ローター20とステーター15の対向する円筒面に対向して配置されている。ここで、永久磁石200の回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さと同じ長さである。すなわち、永久磁石200と、コイルバックヨーク115にはさまれた領域と、電磁コイル100Aまたは電磁コイル100Bとが重なる領域が有効コイル領域となる。回転軸230は、ケーシング110の軸受け240で支持されている。なお、回転軸が樹脂(例えば、CFRP材)のような非磁性体の場合には、永久磁石200と回転軸230との間に磁石バックヨークを設けてもよく、永久磁石200の回転軸230に沿った方向の両端部にサイドヨークを設けても良い。磁石バックヨークやサイドヨークを用いることにより、磁束を閉じ易くできる。本実施例では、ケーシング110の内側に、波バネ座金260を備えている。この波バネ座金260は、永久磁石200の位置決めを行っている。但し、波バネ座金260は別の構成部品で置き換えることも可能である。
【0023】
図2は、第1実施例のコアレスモーター10を回転軸230と垂直な切断線で切ったときの概略断面を模式的に示す説明図である。図2(A)は、図1(A)に示す回転軸230と垂直なA−A切断線で電磁コイル100A,100Bの磁気センサー側コイルエンド領域を切ったときの概略断面を示し、図2(B)は、図1(A)に示す回転軸230と垂直なB−B切断線で電磁コイル100A,100Bの有効コイル領域を切ったときの概略断面を示し、図2(C)は、図1(A)に示す回転軸230と垂直なC−C切断線で電磁コイル100A,100Bの非磁気センサー側コイルエンド領域を切ったときの概略断面を示している。なお、図2(B)は、図1(B)と同じ図面である。
【0024】
図2(B)に示すように、電磁コイル100A,100Bの有効コイル領域における回転軸230と垂直な断面(図1のB−B切断線で切った断面)では、電磁コイル100A,100Bの有効コイル領域は、同一の円筒領域に配置されている。これに対し、図2(A)に示す磁気センサー側コイルエンド領域における回転軸230と垂直な断面では、電磁コイル100Bのコイルエンド領域は、図2(B)の電磁コイル100Bの有効コイル領域が配置される円筒領域と同一の円筒領域に配置されているが、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、電磁コイル100Aの有効コイル領域が配置される円筒領域よりも外周側(コイルバックヨーク115側)に配置されている。また、図2(C)に示す非磁気センサー側コイルエンド領域における回転軸230と垂直な断面では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、図2(B)の電磁コイル100Aの有効コイル領域が配置される円筒領域と同一の円筒領域に配置されているが、電磁コイル100Bのコイルエンド領域は、電磁コイル100Bの有効コイル領域が配置される円筒領域よりも内周側(永久磁石200側)に配置されている。
【0025】
図3は、電磁コイル100A,100Bの配置状態を示す説明図である。図3(A)はコイルバックヨーク115側から見た平面図であり、図3(B)は模式的に示した斜視図である。なお、図3(A)では、コイルバックヨーク115を記載し、図3(B)では、電磁コイル100A,100Bの形状を見やすくするために、コイルバックヨーク115を省略し、電磁コイル100Aを1つと電磁コイル100Bを2つのみ図示している。なお、実際の電磁コイル100A,100Bは円筒の側面に沿って配置されているが、図3(B)では模式的に平面として表している。
【0026】
電磁コイル100Aの有効コイル領域の2つの導体の束の間に、2つの電磁コイル100Bの有効コイル領域の導体の束が収まっている。ここで、電磁コイル100は、導体を複数ターン巻くことにより形成されており、導体の束(「コイル束」とも呼ぶ)は、複数本の導体を束ねたものを意味している。また、電磁コイル100Bの有効コイル領域の2つのコイル束の間に、2つの電磁コイル100Aの有効コイル領域のコイル束が収まっており、電磁コイル100Aと電磁コイル100Bとは、干渉していない。また、電磁コイル100Aの磁気センサー側コイルエンド領域は、円筒領域からコイルバックヨーク115側(円筒領域の外周側)に曲げられており、電磁コイル100Bの磁気センサー側コイルエンド領域と干渉していない。また、電磁コイル100Bの非磁気センサー側コイルエンド領域は、円筒領域からコイルバックヨーク115と反対側(円筒領域の内周側)に曲げられており、電磁コイル100Aの非磁気センサー側コイルエンド領域と干渉していない。このように、電磁コイル100Aの有効コイル領域と電磁コイル100Bの有効コイル領域とを同じ円筒領域上で干渉しないように配置するとともに、電磁コイル100Aの磁気センサー側コイルエンド領域を外周側に曲げ、電磁コイル100Bの非磁気センサー側コイルエンド領域を内周側に曲げることにより、電磁コイル100Aと電磁コイル100Bとの干渉を抑制できる。
【0027】
また、本実施例では、電磁コイル100A,100Bのコイル束の太さφ1(電磁コイル100Aの有効コイル領域が配置される円筒領域に沿った方向の太さ)と、有効コイル領域におけるコイル束の間隔(電磁コイル100Aの有効コイル領域が配置される円筒領域に沿った方向の間隔)L2との間はL2≒2×φ1の関係を有している。すなわち、電磁コイル100A,100Bが配置される円筒領域は、電磁コイル100A,100Bのコイル束によりほぼ占められているので、電磁コイルの占積率を向上させ、コアレスモーター10(図1)の効率を向上させることができる。
【0028】
図4は、コアレスモーター10の概略組み立て手順を示す説明図である。まず、第2のケーシング部分110bの内周に配置されたステーターモジュール15mが第1のケーシング部分110aに取り付けられるように、第2のケーシング部分110bおよびステーターモジュール15mを第1のケーシング部分110aに組み付ける。なお、ステーターモジュール15mは、円筒面に沿って配置した電磁コイル100A,100Bの外周に図4の第1のケーシング部分110a側からコイルバックヨーク115を挿入し、樹脂130でモールドすることにより、構成される。次に、ローター20の一方の軸受け240が第1のケーシング部分110aに取り付けられるように、回路基板300を含むローター20を第1のケーシング部分110aに組み付ける。そして、ローター20に取り付けられた他方の軸受け240および回路基板310が第3のケーシング部分110cに取り付けられるように、第3のケーシング部分110cを第2のケーシング部分110bに組み付ける。これにより、コアレスモーター10が組み立てられる。
【0029】
図5は、コイルバックヨーク115を拡大して示す説明図である。図5(A)は、コイルバックヨーク115の概略斜視図を示しており、図5(B)は、図5(A)において破線の丸で囲まれた部分を拡大して示す概略平面図である。図5(A)に示すように、コイルバックヨーク115は、略円筒形形状を有しており、複数の円環状部品115rngが円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有している。本実施例では、円筒の軸方向の厚さが100μmの円環状部品115rngを230個積層しているものとする。ただし、図5(A)は、図を判り易くするために、30個積層した状態で示している。なお、この円環状部品の積層個数は例示であり、用いる鋼板の厚さやコイルバックヨークの寸法に応じて設定されるものである。
【0030】
円環状部品115rngは、円環状部品115rngを円環の周方向に沿って4つに等分割した形状を有する分割円環部品115scrを、円環の周方向に沿って貼り合わせた構造を有している。分割円環部品115scrは、一般珪素鋼板材(Si=3.5%)や、JFE製のJNEX/JNHF材(Si=6.5%)、アモルファス系材等の軟磁性体材で構成される。本例では、一般珪素鋼板材を金型で打ち抜き形成して構成されるものとする。なお、この円環状部品の分割数は例示であり、コイルバックヨークの寸法や材料として用いる鋼板材の寸法、鋼板材あたりの取り数等に応じて設定されるものである。
【0031】
分割円環部品115scr同士が円環の周方向に沿って貼り合わされた継ぎ目部分115ctには、図5(B)に示すように、貼り合わせに用いられた接着剤等の結合部材を硬化させた結合部115maが形成されている。結合部材は、樹脂あるいはゴムなどを含む接着結合部材に珪素(Si)やアモルファス磁性体などの軟磁性体の粉末を混合あるいは混練したものであり、結合部115maは、結合部材を加熱硬化させることにより形成される。なお、本例では、接着結合部材としての熱硬化樹脂に、軟磁性体としての珪素の粉末を混合した磁性接着剤を結合部材として用いることとする。
【0032】
各円環状部品115rngは、それぞれの継ぎ目部分115ct同士が円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、図5(A)に示すように、各円環状部品115rngを円筒の軸周りに積層の順に回転させることにより、円環の周方向に沿って積層の順にずれて貼り合わされている。互いに貼り合わされる円環状部品115rng同士のずれ量は、円筒の軸を中心とする角度、あるいは、周方向の長さで表すことができる。例えば、円筒の軸を中心とする角度によるずれ量α[rad]は、円環状部品115rngの分割数sおよび円環状部品115rngの貼り合わせ数(積層数)nを用いて、α=(2π/s)/(n+1)表される。本例のように、s=4、n=230の場合、ずれ量α=2π/231[rad]となる。すなわち、各円環状部品115rngは、互いに貼り合わされる円環状部品115rng同士の継ぎ目部分115ctがずれ量α=2π/231[rad]だけ円環の周方向に回転してずれた状態で貼り合わされている。
【0033】
コイルバックヨーク115は、以下に示す製造手順により容易に製造することができる。図6および図7は、コイルバックヨーク115の製造手順を示す説明図である。まず、必要な個数の分割円環部品115scrを形成するために必要な枚数の鋼板材115Pを用意する。この鋼板材115Pは、一般珪素鋼板の少なくとも一方の表面に絶縁接着剤が塗布された鋼板材である。図6(A)に示すように、分割円環部品115scrを鋼板材115Pから金型で打ち抜き形成する。1枚の鋼板材115Pあたり、2個の円環状部品115rngに相当する8個の分割円環部品115scrを形成することができる。これに対して、図6(B)に比較例として示すように、4個の分割円環部品で構成される1個の円環状部品115rngと等価な円環状部品115Crngを鋼板材115Pから金型で打ち抜き形成した場合には、同じ1枚の鋼板材115から1個の円環状部品115Crngしか形成することができない。従って、本実施例の場合には、円環状部品の製造のための部材の無駄を削減することができる。なお、上記したように、コイルバックヨーク115が230個の円環状部品115rngが貼り合わされた積層構造であるとすると、最低115枚の鋼板材115Pを用意する必要がある。
【0034】
次に、図7に示すように、まず、4個の分割円環部品115scrを円環の周方向に沿って互いに貼り合わせて、1層目の円環状部品115rngを形成する。なお、この際、各分割円環部品115scr同士の互いに貼り合わされる面の少なくとも一方に、結合部材としての磁性接着剤115Bndを塗布した上で貼り合わせる。そして、4個の分割円環部品115scrを、それぞれ、1層目の円環状部品115rngの円環の軸(コイルバックヨーク115の円筒の軸)方向側の一方の面に貼り合わせつつ、円環の周方向に沿って互いに貼り合わせて、2層目の円環状部品115rngを形成する。さらに、4個の分割円環部品115scrを、それぞれ、2層目の円環状部品115rngの円環の軸方向側の一方の面に貼り合わせつつ、円環の周方向に沿って互いに貼り合わせて、3層目の円環状部品115rngを形成する。以降、同様にして、230個の円環状部品115rngを円筒の軸方向に沿って貼り合わせる。ただし、隣り合う下層側の円環状部品115rngの分割円環部品115scrの端部(図5の継ぎ目部分115ctに相当)に対して、上層側の円環状部品の分割円環部品115scrの端部が、上記したずれ量αだけ円環の周方向に回転してずれるように配置して貼り合わせる。
【0035】
最後に、形成した円環状部品115rngの積層体を加熱して、円環状部品115rng間の絶縁接着剤および分割円環部品15scr間の磁性接着剤115Bndを硬化させる。以上の手順により、図5に示したコイルバックヨーク115が形成される。
【0036】
図8は、コギングトルク特性を実施例のコイルバックヨークの場合と、基準のコイルバックヨークの場合と、比較例1のコイルバックヨークの場合と、で比較して示す説明図である。基準のコイルバックヨーク(図8では、「リング(基準)」と記す)は、分割していない円環状部品を貼り合わせて構成されたコイルバックヨークである。比較例1のコイルバックヨーク(図8では、「分割リング(比較例1)」と記す)は、分割円環部品を貼り合わせて形成された円環状部品が、継ぎ目部分が円筒の軸方向に平行な一直線上に並ぶように貼り合わされて構成されたコイルバックヨークである。コギングトルクの測定は、それぞれのコイルバックヨークを用いた被測定モーターを回転トルクメーター、本例では、中村製作所製のN2400−SGK(I)に接続して行った。
【0037】
図8に示すように、基準の場合には、継ぎ目部分が無いのでコギングトルクは測定されない。一方、比較例1の場合には、15.5[mNm]と非常に大きなコギングトルクが測定された。これに対して、実施例の場合には、1.2[mNm]と非常に小さなコギングトルクが測定された。実施例の場合には、比較例1と同様に、分割円環部品を貼り合わせて形成された円環状部品を用いて形成されているが、コギングの発生を抑制していると言える。なお、実施例と同様に分割円環部品を貼り合わせた円環状部品をそれぞれの継ぎ目部分が順にずれて配置されるようにしているが、分割円環部品同士の貼り合わせを磁性接着剤ではなく、通常の絶縁接着剤で行ったコイルバックヨークの場合(図示は省略)にも、コギングトルクの測定値は実施例の場合とほぼ同様である。
【0038】
実施例のように、分割円環部品115scrを貼り合わせた円環状部品115rngをそれぞれの継ぎ目部分115ctがずれて配置されるようにした場合において、コギングの発生抑制することができるのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、コイルバックヨークの継ぎ目部分の存在により、コアレスモーターで発生するコギングトルクの大きさは、回転の軸に一致する方向、すなわち、コイルバックヨークの円筒の軸方向に平行な一直線上に並ぶ各円環状部品の継ぎ目部分によって発生するコギングトルクの積算となる、と考えられる。比較例1の場合は、継ぎ目部分が円筒の軸方向に平行な一直線上に並んでいるため、非常に大きなコギングトルクが発生している、と考えられる。これに対して、実施例のコイルバックヨーク115は、各円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctが、円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように順番にずれて配置されて分散されているので、コギングの発生を抑制することができた、と考えられる。
【0039】
図9は、永久磁石の表面磁束密度特性を、実施例のコイルバックヨークの場合と、基準のコイルバックヨークの場合と、比較例2のコイルバックヨークの場合と、で比較して示す説明図である。比較例2のコイルバックヨーク(図9では、「分割リング(比較例2)」と記す)は、実施例と同様に分割円環部品を貼り合わせた円環状部品をそれぞれの継ぎ目部分がずれて配置されるようにしているが、分割円環部品同士の貼り合わせを磁性接着剤ではなく、通常の絶縁接着剤で行ったコイルバックヨークである。なお、図9は、1極の永久磁石の回転方向に沿った位置を電気角0〜π[rad]で表し、標準的な磁束密度計を用いて、電気角に対する表面磁束密度を測定した表面磁束密度特性を示している。また、実施例および比較例2の表面磁束密度特性は、基準の表面磁束密度特性を基準として正規化して表されている。
【0040】
図9に示すように、比較例2の場合には、基準の場合に比べて最大5%程度表面磁束密度が低下している。なお、図示は省略しているが、比較例1の場合の表面磁束密度も比較例2の場合と同様である。これに対して、実施例の場合の表面磁束密度は、基準の場合とほぼ同様であり、表面磁束密度の低下が改善されている。このように、表面磁束密度の低下を改善することができるのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、実施例の場合には、円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctには、磁性接着剤115Bndを硬化させた結合部115ma(図5参照)が形成されている。この結合部115maには、軟磁性体の粉末が分散して含まれているので、継ぎ目部分115ctにおける磁気抵抗を低減して磁気的な不連続性を緩和することができ、表面磁束密度の低下を改善することができた、と考えられる。
【0041】
図10は、渦電流損失特性を、実施例のコイルバックヨークの場合と、基準のコイルバックヨークの場合と、比較例2のコイルバックヨークの場合と、で比較して示す説明図である。この渦電流損失は、標準モーターに被測定モーターを接続した状態で、標準モーターを測定回転数で回転させるために要する電力を測定することにより測定することができる。
【0042】
図10に示すように、比較例2の場合の渦電流損失は、回転数の増加に応じて基準の場合よりも増加し、最大10%程度増加している。なお、図示は省略しているが、比較例1の場合の渦電流損失も比較例2の場合と同様である。これに対して、実施例の場合の渦電流損失は、基準の場合とほぼ同様であり、渦電流損失の増加が改善されている。このように、渦電流損失を抑制することができるのは、以下の理由によると考えられる。すなわち、実施例の場合には、円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctには、磁性接着剤115Bndを硬化させた結合部115ma(図5参照)が形成されている。この結合部115maには、軟磁性体の粉末が分散して含まれているので、継ぎ目部分115ctにおける磁気抵抗を低減して磁気的な不連続性を緩和することができ、継ぎ目部分115ctからの漏れ磁束を低減することができ、漏れ磁束によって発生する渦電流損失を低減することができた、と考えられる。
【0043】
以上のように、本実施例で用いられるコイルバックヨーク115を構成する円環状部品115rngは、円環の周方向に沿って分割された形状を有する複数の分割円環部品115scrが、円環状に貼り合わされた構造を有しているので、従来例で説明したように、部材の無駄を削減して製造コストの改善が可能である。また、本実施例で用いられるコイルバックヨーク115は、分割円環部品115scrを貼り合わせて円環状に構成された円環状部品115rngが円筒の軸方向に沿って貼り合わされた構造を有しているが、各円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctが、円筒の軸方向に沿って順にずれて配置された構造を有しているので、コアレスモーター10において、継ぎ目部分115ctにより発生するコギングトルクの積算量を小さくして、コギングの発生を抑制することが可能である。また、本実施例で用いられるコイルバックヨーク115は、継ぎ目部分115ctが磁気接着剤115Bndを硬化させた結合部115maで形成されており、この結合部115maには、軟磁性体の粉末が分散して含まれているので、継ぎ目部分115ctにおける磁気抵抗を低減して磁気的な不連続性を緩和することができる。これにより、永久磁石の表面磁束密度の低下を改善できるとともに、継ぎ目部分115ctからの漏れ磁束の発生を低減して渦電流損失の発生を低減することができる。以上のことから、本実施例のコアレスモーター10では、高精度な位置決め、瞬時トルク性能に優れた機敏性、優れた駆動効率や回生効率を確保することが可能である。
【0044】
なお、本実施例のコイルバックヨーク115は、以下で説明する手順で製造することも可能である。図11は、コイルバックヨーク115の別の製造手順を示す説明図である。なお、コイルバックヨーク115を形成するために必要な個数の分割円環部品115scrについては、図6に示した手順と同様にして形成することができる。そして、図11に示すように、230個の分割円環部品115scrを、円環の軸(コイルバックヨーク115の円筒の軸)方向側の一方の面に、上記したずれ量αだけ円環の周方向に回転して順にずれるように配置して貼り合わせることにより、4組の分割円筒部品115Srngを形成する。そして、形成した4組の分割円筒部品115Srng同士を互いに貼り合わせて、円環状部品115rngの積層体を形成する。この際、分割円筒部品115Srng同士が互いに貼り合わされる面のうち、分割円環部品115scr同士が貼り合わされる面の少なくとも一方に、磁性接着剤115Bndを塗布した上で貼り合わせる。最後に、形成した円環状部品115rngの積層体を加熱して、円環状部品115rng間の絶縁接着剤および分割円環部品15scr間の磁性接着剤115Bndを硬化させる。以上の手順により、図5に示したコイルバックヨーク115が形成される。以上の製造手順によっても容易にコイルバックヨーク115を作製することができる。
【0045】
また、本実施例のコイルバックヨーク115は、各円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctが円筒の軸方向(図中一点鎖線で示す)に平行な一直線上に並ばないように、円環の周方向に沿って順にずれている構造を例に示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、以下で説明する構造のコイルバックヨークとしてもよい。図12は、変形例のコイルバックヨークの円筒面を展開した平面を模式的に示す説明図である。なお、図は、説明を容易にするため、10個の円環状部品115rngで構成されているものとして示している。
【0046】
図12(A)のコイルバックヨーク115Aは、実施例と同様に各円環状部品115rngの継ぎ目部分115ctが互いにずれているが、順にずれるのではない構造を示している。この場合には、実施例のコイルバックヨーク115と同様のコギング低減効果を得ることができる。ただし、順にずれて配置しないため若干製造が複雑になる。図12(B)のコイルバックヨーク115Bは、実施例のコイルバックヨーク115と同様に、継ぎ目部分115ctが順にずれて配置された構造を有しているが、円筒の軸方向に沿って複数の継ぎ目が並ぶ構造を示している。この場合にも、実施例に比べれば劣るもののコギング低減効果を得ることができる。図12(C)のコイルバックヨーク115Cは、複数の円環状部品115rngごとに、継ぎ目部分115ctが順にずれて配置された構造を有している。この場合にも、実施例に比べれば劣るもののコギング低減効果を得ることができる。また、複数の円環状部品115rng単位で扱うことができるので、実施例の場合よりも製造が容易となる。図12(D)のコイルバックヨーク115Dは、複数の円環状部品115rngごとに、継ぎ目部分がずれて配置されているが、順にずれるのではない構造を示している。この場合にも、実施例に比べれば劣るもののコギング低減効果を得ることができる。また、複数の円環状部品115rng単位で扱うことができるので、実施例の場合よりも製造が容易となる、一方、順にずれて配置しない分製造が複雑になる。
【0047】
以上説明したように、コイルバックヨークは、継ぎ目部分が円筒の軸方向に平行な一直線上に並ぶ数を分散させて、コギング低減効果を得ることが可能な構造であればよい。
【0048】
B.第2実施例:
図13は、第2実施例としてのコアレスモーターを示す説明図である。図13(A)は、コアレスモーター10Bを回転軸230と平行な切断線で切ったときの概略断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図13(B)は、コアレスモーター10Bを回転軸230と垂直な切断線(図8(A)のB−B)で切ったときの概略断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。第2実施例のコアレスモーター10Bは、第1実施例のコアレスモーター10と、以下で説明する相違点を除いて基本的に同じ構造を有している。すなわち、第1実施例と比較すると、第2実施例では、図13(B)に示すように、電磁コイル100AB,100BBの数は半分となっている。そして、この相異に伴って、第2実施例の電磁コイル100AB,100BBの1つの極の大きさは、第1実施例の電磁コイル100A,100Bの1つの極の大きさよりも大きくなっている。
【0049】
また、第1実施例では、図1(B)に示すように、電磁コイル100Aの有効コイル領域の2つのコイル束の間に、2つの電磁コイル100Bの有効コイル領域のコイル束が収まっており、電磁コイル100Bの有効コイル領域の2つのコイル束の間に、2つの電磁コイル100Aの有効コイル領域のコイル束が収まっている。これに対して、第2実施例では、図13(B)に示すように、電磁コイル100ABの有効コイル領域の2つのコイル束の間に、1つの電磁コイル100BBの有効コイル領域のコイル束が収まっており、電磁コイル100BBの有効コイル領域の2つのコイル束の間に、1つの電磁コイル100ABの有効コイル領域のコイル束が収まっている。この結果、第1実施例では、同相の電磁コイル同士が接触するところがあるが、第2実施例では、同相の電磁コイル同士が接触するところが無い。そして、この相異に対応して、第1実施例では、図3に示すように、電磁コイル100A,100Bの有効コイル領域におけるコイル束の太さφ1は、有効コイル領域におけるコイル束の間隔L2のほぼ半分の大きさであった。これに対して、第2実施例では、電磁コイル100AB,100BBの有効コイル領域におけるコイル束の太さφ1は、有効コイル領域におけるコイル束の間隔L2とほぼ同じ大きさとなっている。
【0050】
以上のように、第1実施例の電磁コイル100A,100Bと第2実施例の電磁コイル100AB,100BBとは、電磁コイルの巻き方および組み合わせ方が異なっている。そして、この相異により、具体的には、第1実施例では、図1(B)に示すように、同相の電磁コイル同士が接触しているところがあったのに対して、第2実施例では、図13(B)に示すように、同相の電磁コイル同士が接触するところを無くすことにより、無駄な空間を減らして、第1実施例よりもさらに電磁コイルの占積率を向上させている。
【0051】
第2実施例のコアレスモーター10Bも、第1実施例のコアレスモーター10と同様に、コイルバックヨーク115を適用しているので、コギングの発生を抑制することが可能である。また、永久磁石の表面磁束密度の低下を改善できるとともに、漏れ磁束の発生を低減して渦電流損失の発生を低減することができる。
【0052】
上記実施例で説明した本発明の特徴を備える電動モーターであるコアレスモーターは、以下に示すように、電動移動体や電動移動ロボットあるいは医療機器の駆動装置として適用することが可能である。
【0053】
C.第3実施例:
図14は、本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した移動体の一例である電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。この自転車3300は、前輪にモーター3310が設けられており、サドルの下方のフレームに制御回路3320と充電池3330とが設けられている。モーター3310は、充電池3330からの電力を利用して前輪を駆動することによって、走行をアシストする。また、ブレーキ時にはモーター3310で回生された電力が充電池3330に充電される。制御回路3320は、モーターの駆動と回生とを制御する回路である。このモーター3310としては、上述した各種のコアレスモーターを利用することが可能である。
【0054】
D.第4実施例:
図15は、本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。このロボット3400は、第1と第2のアーム3410,3420と、モーター3430とを有している。このモーター3430は、被駆動部材としての第2のアーム3420を水平回転させる際に使用される。このモーター3430としては、上述したように、コギングレスによる高精度な位置決めの可能な各種のコアレスモーターを利用することが可能である。
【0055】
E.第5実施例:
図16は、本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した双腕7軸ロボットの一例を示す説明図である。双腕7軸ロボット3450は、関節モーター3460と、把持部モーター3470と、アーム3480と、把持部3490と、を備える。関節モーター3460は、肩関節、肘関節、手首関節に相当する位置に配置されている。関節モーター3460は、アーム3480と把持部3490とを、3次元的に動作させるため、各関節につき2つのモーターを備えている。また、把持部モーター3470は、把持部3490を開閉し、把持部3490に物を掴ませる。双腕7軸ロボット3450において、関節モーター3460あるいは把持部モーター3470としては、上述したように、瞬時トルク性能に優れた機敏性のある各種のコアレスモーターを利用することが可能である。
【0056】
F.第6実施例:
図17は、本発明の特徴を備えるコアレスモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。この鉄道車両3500は、電動モーター3510と、車輪3520とを有している。この電動モーター3510は、車輪3520を駆動する。さらに、電動モーター3510は、鉄道車両3500の制動時には発電機として利用され、電力が回生される。この電動モーター3510としては、上述したように、駆動効率や回生効率に優れた各種のコアレスモーターを利用することができる。
【0057】
G.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0058】
(1)変形例1
上記実施例では、一方の電磁コイル100A,100ABの磁気センサー側コイルエンド領域が外周側に曲げられ、他方の電磁コイル100B,100BBの非磁気センサー側コイルエンド領域が内周側に曲げられている構成のコアレスモーター10,10Bを示しているが、一方の電磁コイルの両側のコイルエンド領域が外周側あるいは内周側に曲げられ、他方の電磁コイルの両側のコイルエンド領域が曲げられていない構成のコアレスモーターであってもよい。また、円筒面に沿って一方の電磁コイルが配置され、その外周に他方の電磁コイルが配置された2層配置構造のコアレスモーターであってもよい。
【0059】
(2)変形例2
上記実施例および変形例は、インナーローター型のコアレスモーターを例に説明しているが、アウターローター側のコアレスモーターであってもよい。アウターローター型のコアレスモーターの場合には、電磁コイルの外周にローターの永久磁石が配置されるので、コイルバックヨークは、電磁コイルの内周側に沿って配置される。
【0060】
(3)変形例3
上記実施例および変形例では、電磁コイルが2相の場合のコアレスモーターを例に説明したが、これに限定されるものではなく、電磁コイルが3相以上の複数相のコアレスモーターであってもよい。
【0061】
(4)変形例4
上記実施例および変形例では、本願発明の特徴部分を備えるコアレスモーターを例に説明したが、電動機モーターであるコアレスモーターに限定されるものではなく、発電機に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…コアレスモーター
10B…コアレスモーター
15…ステーター
15m…ステーターモジュール
20…ローター
100…電磁コイル
100A,100B…電磁コイル
100AB,100BB…電磁コイル
110…ケーシング
110a,110b,110c…ケーシング部分
115…コイルバックヨーク
115rng…円環状部品
115Crng…円環状部品
115scr…分割円環部品
115ct…継ぎ目部分
115ma…結合部
115Srng…分割円筒部品
115Bnd…磁性接着剤
115P…鋼板材
130…樹脂
200…永久磁石
230…回転軸
240…軸受け
260…波バネ座金
300…磁気センサー
310…回路基板
3300…自転車
3310…モーター
3320…制御回路
3330…充電池
3400…ロボット
3410…第1のアーム
3420…第2のアーム
3430…モーター
3450…双腕7軸ロボット
3460…関節モーター
3470…把持部モーター
3480…アーム
3490…把持部
3500…鉄道車両
3510…電動モーター
3520…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークであって、
複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、
前記円環状部品は、軟磁性体で構成され、かつ、円環の周方向に沿って分割された形状を有する複数の分割円環部品が、円環状に貼り合わされた構造を有しており、
前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が、前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品の継ぎ目部分が、他の円環状部品の継ぎ目部分に対して、前記円環の周方向に沿ってずれて貼り合わされている、コイルバックヨーク。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルバックヨークであって、
各円環状部品は、それぞれの継ぎ目部分が前記円環の周方向に沿って積層の順にずれて貼り合わされている、コイルバックヨーク。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコイルバックヨークであって、
前記分割円環部品同士が貼り合わされた継ぎ目部分は、軟磁性体の粉末を含む結合部材によって形成される結合部で構成されている、コイルバックヨーク。
コイルバックヨーク。
【請求項4】
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置であって、
前記ローターは、前記ローター中の円筒面に沿って配置された永久磁石を備え、
前記ステーターは、前記永久磁石に対向するように前記ステーター中の円筒面に沿って配置された空芯の電磁コイルと、前記空芯の電磁コイルを挟んで前記永久磁石に対向するように配置されたコイルバックヨークと、を備え、
前記コイルバックヨークは、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のコイルバックヨークである、コアレス電機機械装置。
【請求項5】
請求項4に記載のコアレス電気機械装置を備える移動体。
【請求項6】
請求項4に記載のコアレス電気機械装置を備えるロボット。
【請求項7】
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークの製造方法であって、
前記コイルバックヨークは複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、
(a)前記円環状部品の円環の周方向に沿って等分割された形状を有する分割円環部品を、軟磁性体である鋼板材から打ち抜き形成する工程と、
(b)前記分割円環部品同士を前記円環の周方向に沿って貼り合わせて一つの円環状部品を形成し、形成した一つの円環状部品の前記円環の軸方向側の上面に、前記分割円環部品を重ねて貼り合わせつつ、前記円環の周方向に沿って前記分割円環部品同士を貼り合わせて次の一つの円環状部品を形成することにより、前記複数の円環状部品が前記円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を形成する工程と、
を備え、
前記工程(b)は、前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品に対応する分割円環部品を前記円環の周方向に沿ってずらして貼り合わせる工程を含む、コイルバックヨークの製造方法。
【請求項8】
ローターおよびステーターを有するコアレス電気機械装置において、前記ステーター中の円筒面に沿って配置される空芯の電磁コイルの内周または外周に配置される円筒状のコイルバックヨークの製造方法であって、
前記コイルバックヨークは複数の円環状部品が円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を有しており、
(a)前記円環状部品の円環の周方向に沿って等分割された形状を有する分割円環部品を、軟磁性体である鋼板材から打ち抜き形成する工程と、
(b)複数の分割円環部品を前記円筒の軸方向に沿って貼り合わせた分割円筒部品を複数形成する工程と、
(c)形成した複数の分割円筒部品を貼り合わせることにより、前記複数の円環状部品が前記円筒の軸方向に沿って貼り合わされた積層構造を形成する工程と、
を備え、
前記工程(b)は、前記工程(c)において、前記分割円環部品の前記円環の周方向に沿った貼り合わせによって各円環状部品に形成される継ぎ目部分が前記円筒の軸方向に平行な一直線上に並ばないように、前記複数の円環状部品のうち少なくとも一部の円環状部品に対応する分割円環部品を前記円環の周方向に沿ってずらして貼り合わせる工程を含む、コイルバックヨークの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−62969(P2013−62969A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200428(P2011−200428)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】