説明

コイル状線材の徐冷設備及び徐冷方法

【課題】簡易な設備で、均一な温度分布で長時間徐冷が可能なコイル状線材の冷却方法及び冷却設備を提供する。
【解決手段】徐冷を行うコンベア6の途中に、コイル状線材10のコイル径Dの1/2以上の径の回転するロール20を千鳥状に配置して、搬送されるコイル状線材に周面を接触させることで、当該コイル状線材を幅方向にコイル径Dの1/2以上左右に変位するように蛇行させる。これによって、徐冷終了時における幅方向の温度偏差が所定範囲に収まるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された線材をコイル状(巻線形状)に成形した後における当該コイル状の線材の冷却に係り、特に自然放冷による徐冷を行う設備及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル状の線材を製造する場合には、たとえば特許文献1に記載されているように、熱間圧延された線材を、順次レイングヘッドでコイル状に成形しながら、コンベア(搬送路)上に載置し、そのコンベアで上記コイル状の線材をゆっくり搬送しながら当該線材に対して冷却を施したのちに、集束設備に集束する。
ここで、線材の材質は、搬送中の冷却によって決まるため、コンベア(搬送路)上において均一かつ所望の冷却パターンで線材を冷却することが重要となる。
【0003】
そして、特許文献1では、搬送方向に段階的な温度勾配を持った包囲雰囲気内で線材を搬送すると共に、包囲雰囲気内の過熱を防止するために外気吹込制御と、コイル状線材両側の重なり密度が高い端部部分の放冷を促進する冷媒吹き付け制御と、線材コイルの過冷却部を熱補償する熱補償制御とを備えることで、コイル状の線材の全長に亘り幅方向で均一な温度の冷却となるようにしている。
【0004】
また、高強度材への要望からは、ベイナイト組織を主体とした高強度鋼線も求められており、その冷却パターンとしては、圧延後ベイナイト化温度域まで一気に強制的に冷却し、続いて、ベイナイト化が十分に進行するまでその温度域で長時間保持することが必要である。この場合も、ベイナイト化温度域が軟質材の徐冷開始温度よりも低いという違いがあるものの、上述のような冷却パターンで冷却する必要がある。
【特許文献1】特公昭60−45252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の冷却設備では、コイル状線材の幅方向の重なり密度の違いによるコイル状線材における幅方向の大きな温度偏差を解消するために、外気吹込設備、冷媒吹き付け設備、熱補償制御などの付帯設備を多く必要としており、設備が複雑なものになるなど経済性に課題がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、簡易な冷却設備で、幅方向の温度偏差を減少可能なコイル状線材の冷却設備を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、熱間圧延後にコイル形状に成形された線材が載置されて、徐冷させながら当該線材を搬送する搬送路を備えたコイル状線材の徐冷設備において、
搬送路の搬送方向の少なくとも一部に対し、搬送路に載っているコイル状線材に周面を接触させて当該コイル状線材を幅方向に変位させる1又は2以上のロールを備え、そのロールは、上下軸周りに回転可能となっていると共に、ロール径を、対象とするコイル状線材のコイル径の1/2以上に設定したことを特徴とするものである。
ロール径をコイル径の1/2以上とすることで、1個のロールで搬送されてくるコイル状線材を幅方向に大きく変位させることが可能となる。
【0007】
次に、請求項2に記載した発明は、熱間圧延後にコイル形状に成形された線材が載置されて、徐冷させながら当該線材を搬送する搬送路を備えたコイル状線材の徐冷設備において、
搬送路の搬送方向の少なくとも一部に対し、搬送路に載っているコイル状線材に周面を接触させて当該コイル状線材を幅方向に変位させる1又は2以上のロールを備え、そのコイル状線材の幅方向への変位量がコイル径の1/2以上となるように上記1又は2以上のロールを配置することを特徴とするものである。
コイル状線材を幅方向に1/2以上変位させることで、コイル状線材の重なりが大きく分散させることができる。
【0008】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した構成に対し、上記ロールは上下軸周りに回転可能となっていると共に、そのロールの周面には、周方向に並ぶ複数の羽根部材が外径方向に突出し、その羽根部材は、その上面が、水平面に対し周方向に傾斜していることを特徴とするものである。
羽根部材によって重なっているコイル状線材の一部を一時的に掬い上げることが出来て、重なりを上下方向にも一時的に分散することが可能となる。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記ロールは、コイル状線材と接触する周面がコイル状線材の搬送方向に向けて移動するように、上下軸周りに回転駆動されることを特徴とするものである。
ロールを回転駆動することで、コイル状線材がロールに当接する際の疵発生を抑えることが可能となる。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずか1項に記載した構成に対し、上記搬送路による搬送速度は、上流側から下流に向けて段階的に遅くなることを特徴とするものである。
搬送速度を段階的に減速することで、コイル状線材の重なりを段階的に変化させることが可能となる。
【0010】
次に、請求項6に記載した発明は、熱間圧延後にコイル形状に成形された線材を、搬送路に沿って搬送することで当該コイル状線材を徐冷させるコイル状線材の徐冷方法において、
搬送中のコイル状線材を、少なくともその途中で、当該コイル状線材のコイル径の1/2以上幅方向に蛇行させることを特徴とするものである。
次に、請求項7に記載した発明は、請求項6に記載した構成に対し、上記搬送中のコイル状線材の上下で重なる部分を一時的に上下に離すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、搬送されてくるコイル状線材を大きく幅方向に蛇行させることが可能となる。このため、コイル状の線材が重なる位置を幅方向に大きく変化させることで、冷え難い場所を分散させ、もって幅方向の温度偏差を低減出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本第1実施形態に係る熱間圧延以降の設備を示す概略構成図である。図2は、コイル状線材を搬送する搬送路を示す概略平面図である。
(構成)
まず構成について説明すると、熱間圧延機1で所定の線径に熱間圧延された鋼線(線材)は、連続してレイングヘッド2に送られ、順次、レイングヘッド2でコイル形状(巻線形状)に成形されて冷却設備3に供給され、冷却設備3で冷却された後に集束装置4に集束される。
【0013】
上記冷却設備3は、上流側の強制冷却ゾーンZ1と、それに続く自然放冷ゾーンZ2との2つに区分されている。また、上記レイングヘッド2から送られてくるコイル状の線材10を載置して搬送するローラコンベア5,6(搬送路)を備える。そのコンベア5,6は、強制冷却ゾーンZ1に配置されるコンベア5と、自然放冷ゾーンZ2に配置されるコンベア6に分けられる。ここで、強制冷却ゾーンZ1のコンベア5と、自然放冷ゾーンZ2のコンベア6は独立して駆動されて、それぞれの搬送速度を異にすることが可能となっている。
【0014】
上記強制冷却ゾーンZ1に配置されているコンベア5の下方には、冷風ブロアなどからなる衝風冷却装置11が配置されている。そして、当該衝風冷却装置11からの冷風が上記搬送中のコイル状線材10に供給されることで、所定の温度パターンで急冷が行われる。つまり、コンベア5の搬送速度、冷風の温度及び吹き付け量を調整することで、自然放冷ゾーンZ2に移行するまでに、コイル状線材10がベイナイト化温度域まで一気に冷却するように設定されている。
また、自然放冷ゾーンZ2では、コイル状線材10はコンベア6で所定時間搬送されながら、所定の時間自然放冷される。
【0015】
上記自然放冷ゾーンZ2に位置するコンベア6の搬送方向途中位置には、搬送されてくるコイル状線材10と接触可能な複数のロール20が配置されている。その複数のロール20は、上下に延びる軸周りに回転自在に支持されている。また、複数のロール20は、搬送されるコイル状線材10の幅方向中心位置を挟んで搬送方向に千鳥状に配置されている。なお、各ロール20は、少なくともコイル状線材10の幅方向に位置調整可能に設定されていて、対応するコイル状線材10のコイル径Dに応じて幅方向の位置が調整される。
その千鳥状に配置した複数のロール20では、搬送されてくるコイル状線材10を幅方向に向けてコイル径Dの1/2以上変位するように配置する。
【0016】
図2では、千鳥状の配置した3つのロール20でコイル径Dの1/2以上幅方向に繰り返し変位させる例である。すなわち、所定の搬送速度で搬送されてきたコイル状線材10が第1のロール20aの周面に当接することで、その接触角に応じた方向への反力を受けるように押されることで、幅方向にコイル径Dの1/2以上変位しながら搬送され、さらに第2のロール20bの周面に当接することで接触角に応じた幅方向における反対方向に向かう反力を受けて、逆方向に向けてコイル状線材10は幅方向にコイル径Dの1/2以上だけ変位するように押されて蛇行する。さらに、第3のロール20cの周面に当接することで、接触角に応じた再度逆方向の反力を受けるが、その後の移動が元の進行方向中央部となるように当該第3ロール20cの位置が調整されている。
【0017】
(作用効果)
上記冷却設備3では、熱間圧延機1で連続して熱間圧延された線材が、レイングヘッド2に送られ、順次、レイングヘッド2で巻線形状(コイル形状)に成形され、そのコイル状線材10が、さらに冷却設備3における強制冷却ゾーンZ1において、所定の搬送速度で搬送されながら衝風によって強制冷却されて所定の温度、たとえばベイナイト化温度領域まで一気に温度降下する。このため、コンベア5は、一気に温度降下可能な所定の搬送速度で駆動される。
【0018】
続いて、ベイトナイト化温度域となったコイル状線材10を、ベイナイト化が十分に進行するまでその温度域で長時間保持するために、自然放冷ゾーンZ2において、コンベア6でゆっくり搬送されつつ自然放冷が行われる。
このようにある程度長い時間だけ自然放冷を行う必要がある。このため、強制冷却ゾーンZ1のよりも自然放冷ゾーンZ2の搬送速度は遅くなるように設定される。
ここで、コイル状線材10は、幅方向中央部よりも端部側が多く重なって重なり密度が高いことから、幅方向端部側が相対的に冷えにくい。
【0019】
これに対し、コイル状線材10は、搬送中に、3個のロール20によって、徐冷中のコイル状線材10は、搬送中にコイル径Dの1/2以上幅方向へ変位しながら搬送されて、幅方向の重なる位置が順次変更されることで、コイル状線材10の重なりによる幅方向の温度偏差が分散する。特に、幅方向両側に、コイル径Dの1/2以上変位させるように蛇行させると、図2のように、幅方向移動した側のコイル状線材10の端部側の重なりが完全にずれていく。さらに、それを両側にそれぞれコイル径Dの1/2以上の大きな蛇行させることで、両側の重なり密度を確実に分散出来て、より有効に幅方向の温度偏差を小さく抑えられる。この結果、徐冷終了後における幅方向温度偏差を小さく低減することが出来る。
【0020】
このため、別途、幅方向の温度偏差を解消するために、従来例のように部分的な過冷却や加熱をする必要が無いか、その部分的な過冷却や加熱を処理量を小さくすることが出来る。
また、上記実施形態では、ロール20の径をコイル径Dの1/2以上にすることで、1つのロール20の周面にコイル状線材10を当接させるだけで、当該コイル状線材10を上述のように大きく幅方向に移動させることが可能となり、大きな蛇行を起こさせる際の設備の簡便化を図ることが可能となる。
【0021】
ここで、上記ロール20は、コイルが当接することによる反力で回転する構成であっても良いが、ロール20周面のコイルと当接する部分の移動方向が、コイル状線材10の搬送方向と等しくなるように、当該ロール20を支持軸周りに回転駆動させる方が好ましい。この場合には、ロール20の周速をコイル状線材10の搬送速度と同じ若しくはほぼ同じ速度(例えば±5%)とする。このように、ロール20を回転駆動させておくと、コイル状線材10がロール20周面に当接する際の擦り傷を回避若しくは低減することが可能となる。
【0022】
また、ロール20周面をゴムなどの弾性体で構成してもよい。このようにすると、コイル状線材10が当接する際の疵発生を抑えると共に、弾性体のバネによってよりコイル状線材10を幅方向に変位させることが可能となる。
また、上記実施形態では、ロール20を3個設定している場合を例示しているが、4個以上あることが好ましい。
なお、1個のロール20でも幅方向の片側にコイル径Dの1/2以上移動させられることで効果はあるが、千鳥に2個のロール20を配置して幅方向両側に対してコイル径Dの1/2以上ずつ移動させた方が、より有効に幅方向の温度偏差を抑えることが出来る。
【0023】
(実施例)
ここで、コイル状線材10の中心が幅方向にコイル径Dの2分の1の変位を右側と左側の両側へ蛇行するように、上記のような3個のロール20を配置して徐冷を実施した場合における徐冷終了時の幅方向の温度分布の結果を、図3に示す。比較のために、上記大きな蛇行を行わなかった従来例における、徐冷終了時の幅方向の温度分布の結果も合わせて記載する。
なお、実験条件は、次の通りである。
なお、設備条件は上記実施形態のものとする。
各搬送路の長さ:90m
衝風の条件
風量:95000Nm/hr
冷却空気の温度:32℃
線材の線径:9mm
線材のコイル径D:1200mm
この図3から分かるように、蛇行を行わない場合には、約80℃の温度偏差があったものが、左右にコイル径Dの1/2ずつ幅方向に変位するように蛇行させると、約40℃の温度偏差と温度偏差を従来例の約半分に低減できることが分かる。
そして、コイル径Dの1/2よりも大きく左右の蛇行させることで、より温度偏差を小さく抑えられることが想定される。
【0024】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記実施形態と同様な部品については同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、上記ロール20の形態が異なる。
本実施形態のロール20は、図4に示すように、複数のプロペラ状の羽根部材21を備える。すなわち、ロール20周面に対して、周方向に並ぶ複数の板状の羽根部材21が外径方向に突出し、その羽根部材21は、その上面が、水平面に対し周方向に傾斜している。その羽根部材21の上面の傾斜は、コイル状線材10と接触する位置において、コイル状線材の搬送方向下流側が下側となるように傾いている。また、上記羽根部材21の高さは、重なった線材間に入り込む高さに調整する。
ここで、本実施形態では、上記ロール20は、ロール20の周速がコイル状線材10の搬送速度より若干早く例えば10%以上早くなるように回転駆動する。
【0025】
(作用効果)
本実施形態では、ロール20の周面によって上述のように幅方向(横方向)に変位するように蛇行させることで、コイル状線材10の重なり位置が幅方向に変化することで温度偏差を低減する。
更に、本実施形態では、図4のように、回転する羽根部材21が、重なっているコイル状線材10の間に差し込まれ、さらにコイル状線材10よりも周速が早く回転することで、重なっている上側のコイル状線材10を一度掬い上げるように上側に持ち上げて下側のコイル状線材10から離す。これによって、コイル状線材10が上下にも変位することで、幅方向端側の温度偏差をより解消することが出来る。
【0026】
特に、図2から分かるように、ロール20で幅方向に押し込まれたコイル状線材10は、ロール20に近い方は線材10の密度が高くなるが、本実施形態では、羽根部材21によって、その線材10の密度が高い部分の線材同士の接触が緩和させることで、蛇行した線材のロール20側の冷えにくさが緩和する。
この場合には、上記羽根部材21によっても温度偏差の緩和を図ることが出来るので、幅方向にコイル径Dの1/2以上蛇行させなくても良いが、大きく蛇行させた方が効果は大きい。
【0027】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の基本構成は上記第1及び第2実施形態と同様である。ただし、コンベアの搬送速度を、下流側に向けて段階的に減速(遅く)したものである。
本実施形態では、コンベアが、図5のように、搬送方向に沿って並ぶ、それぞれ独立して駆動可能な4つのコンベアから構成される。なお、図5では、見やすいようにするため、上記ロール20を省略しているが、例えば、中央のコンベア6bに上記ロール20を配置したりする。
【0028】
ここで、以下の説明では、4つのコンベア5、6を便宜上、強制冷却ゾーンZ1のコンベア5を第1コンベアとし、自然放冷ゾーンZ2のコンベア6を上流側から、第2コンベア6a、第3コンベア6b、及び第4コンベア6cと呼ぶことにする。
上記4つのコンベア5、6の設置関係は、隣り合うコンベアについて、上流側のコンベアの尾端部よりも下流側のコンベアの先端部が下方に位置されて段差が付くように設置されている。例えば、第1コンベア5の高さよりも第2コンベア6aの高さが低く設定され、第2コンベア6aの高さよりも第3コンベア6bの高さが低く設定され、第3コンベア6bの高さよりも第4コンベア6cの高さが低く設定されている。
【0029】
そして、第1コンベア5の搬送速度V1,第2コンベア6aの搬送速度V2,第3コンベア6bの搬送速度V3,第4コンベア6cの搬送速度V4は、下記の関係のように、上流側よりも下流側のコンベアの搬送速度の方が遅くなるように減速の設定がなされて、段階的に下流側に向けて搬送速度が減速している。その各減速率は例えば同じ比に設定する。なお、各コンベア5,6の駆動部は、コントローラからの速度指令に基づき回転速度が個別に制御される。
記 V1> V2> V3> V4
上記減速比の選定は、自然放冷終了時の幅方向温度偏差が許容範囲、例えば30℃以下に収まるように、実験結果などから行う。
【0030】
(作用効果)
次に、上記冷却設備3による作用効果について説明する。
上記冷却設備3では、熱間圧延機1で連続して熱間圧延された線材が、レイングヘッド2に送られ、順次、レイングヘッド2で巻線形状(コイル形状)に成形され、そのコイル状線材10が、さらに冷却設備3における強制冷却ゾーンZ1において、第1コンベア5にて所定の搬送速度で搬送されながら衝風によって強制冷却されて所定の温度、たとえばベイナイト化温度領域まで一気に温度降下する。このため、第1コンベア5は、一気に温度降下可能な所定の搬送速度で駆動される。
【0031】
続いて、ベイトナイト化温度域となったコイル状線材10を、ベイナイト化が十分に進行するまでその温度域で長時間保持するため、自然放冷ゾーンZ2において、第2〜第4コンベア6で搬送されつつ自然放冷が行われる。
このようにある程度長い時間だけ自然放冷を行う必要がある。このため、強制冷却ゾーンZ1の第1コンベア5よりも、第2〜第4コンベア6の搬送速度は遅くなるように設定される。
【0032】
ここで、幅方向中央部に対して幅方向端部側の重なり密度が高い関係から、自然放冷した場合に、中央部に比較して端部側は温度降下の割合が低い。特に搬送されるコイル状の線材10が密に並ぶ程顕著となる。
このため、第1コンベア5の搬送速度に対して、単に第2〜第4コンベア6の搬送速度を一気に遅らせた場合を想定すると、第1コンベア5から第2コンベア6aに載り移る際に、コイル状線材10の重なりが増加し、さらにその重なりが増加した状態のまま、つまり、自然放冷中、幅方向の重なり密度に殆ど変化が無い状態で自然放冷されるために、自然放冷が終了した状態では、幅方向中央部と幅方向端部側との温度差が大きなものとなってしまう。このため、別途、幅方向の温度差を改善するために低温部を部分的に加熱したり、高温部を部分的に冷却したりする必要がある。
【0033】
これに対して、本実施形態では、搬送速度を一気に下げないで順次、搬送速度を順次段階的に減速することで、自然放冷中において、コイルの重なり具合が段階的に増加するように重なり密度が段階的に変化することになることで、長時間の徐冷の経過につれてコイル状の線材10の重なりによる幅方向の温度偏差が徐々に累積するように調整される。このため、たとえ同じ徐冷時間としても、一気に搬送速度を減速した場合に比べて、自然放冷終了時における幅方向の温度偏差を小さく抑えることが出来る。なお、この効果を発揮させるためには、自然放冷ゾーンZ2のコンベアは、温度の均一化という観点からは、実現可能な範囲で多くの数に分けた方が好ましく、最低でも3つ以上に分けることが好ましい。
【0034】
ここで、後述の実施例のように、従来例であれば、自然放冷の時間を長くすればするほど幅方向の温度偏差は大きくなってしまうが、本発明に基づいて搬送速度の順次減速を行えば、自然放冷の時間を長くするほど温度偏差を抑えるように調整することも可能となる。すなわち、特別な加熱装置などが無くても、必要な自然放冷の時間を確保しつつ、逆に温度偏差を小さく抑えることが可能となる。
更に、上述の第1及び第2実施形態で説明したように、ロール20による蛇行による温度偏差緩和によって、さらに幅方向の温度偏差を小さく抑えることが可能となる。
この結果、本実施形態では、別途、部分的な加熱は冷却を施す必要は無くなり、冷却設備3が簡易かつ経済的なものにすることが出来る。
【0035】
また、本実施形態では、搬送速度を段階的に減速させ、搬送速度が切り替わる際に、段差を設けてコイル状線材10の移動を行うことで、段差部分を落下する際にコイル状の線材10のほぐれを起こさせることで幅方向の温度偏差を幾分でも解消させ、また、搬送速度が切り替わる際における線材10の重なり具合(密度)が変化する際のコイル状線材10の絡まり発生を当該段差部分で防止している。
【0036】
また、各コンベアを切り替える際の減速度合を、供給する線材の線径に応じて変化するように調整する。その調整は、線径が小さくなるほど、各コンベア間の減速度合が大きくなるように調整する。
例えば、コントローラにおいて、基準とする線径について、自然放冷終了時の幅方向の温度偏差が許容温度偏差とするための各コンベア乗換え時の基準とする減速率((上流側速度−下流側速度)/上流側速度))を設定しておき、供給される線材の線径と基準の線径との偏差(若しくは比)に所定のゲインを掛けたものを基準の減速率に乗算してコンベアを乗り換える際に減速率を算出し、その算出した減速率となる各コンベアの搬送速度を求めて各コンベアの駆動部に駆動指令を供給する。
【0037】
なお、各コンベア間の減速度合は一定でも良いし、異なっていても良い。
ここで、上記実施形態では、各コンベア間に段差を設けているが、設けなくても良い。段差を設けた方が上述のように効果が高い。
また、コンベア5、6間に段差を設ける場合も各コンベアについて下流側(尾端側)が高くなるような若干の勾配を設けても良い。
なお、上記第1及び第2実施形態においても、コンベア6を複数に区分して境界部に段差を形成するようにしても良い。
【0038】
(実施例)
次に、上記冷却設備3を使用して、第2〜第4コンベア6の搬送速度を変更し、自然放冷ゾーンを通過した後の幅方向の温度分布(温度偏差の状況)を求めてみた。なお、下記の実験は、ロール20を使用しない場合で実施した。
表1は、各例における、強制冷却時の第1コンベア5の搬送速度を基準とした、第2〜第4コンベア6a〜6cの搬送速度を示したものである。
【0039】
【表1】

【0040】
そして、下記のような条件で、自然放冷ゾーンを通過した後の幅方向の温度分布の結果は、図6のようになった。
実験条件は、次の通りである。
なお、設備条件は上記実施形態のものとする。
各搬送路の長さ:80 m
衝風の条件
風量:95000Nm/hr
冷却空気の温度:32℃
線材の線径:12.5 mm
線材のコイル径D:1200mm
図6から分かるように、従来例1のように、強制冷却ゾーンZ1の第1コンベア5の搬送速度から一気に30%減速して、そのままの搬送速度で徐冷を行った場合には、自然放冷を終了した状態では、幅方向に約65℃の温度偏差が発生している。
【0041】
更に、自然放冷時間(徐冷時間)を長くするために従来例2のように、第1コンベア5の搬送速度から50%減速して、そのままの搬送速度で徐冷を行った場合には、自然放冷を終了した状態では、幅方向の温度偏差が約90℃と増大している。すなわち、従来例では、自然放冷の時間を長くするほど幅方向の温度偏差が大きくなることが分かる。
これに対し、本発明1のように、強制冷却ゾーンZ1の第1コンベア5の搬送速度に対して、10%の割合で段階的に減速した場合には、自然放冷を終了した状態では、幅方向の温度偏差が約40℃となっており、幅方向中央部の温度がほぼ同じである従来例1と比べて温度偏差が約25℃改善されていることが分かる。なお、この場合には、自然放冷時間は、従来例1に比べ、若干本発明1の方が短い。
【0042】
また、本発明2のように、強制冷却ゾーンZ1の第1コンベア5の搬送速度に対して、20%の割合で段階的に減速した場合には、自然放冷を終了した状態では、幅方向の温度偏差が約30℃となっており、本発明1よりも自然徐冷時間が長くなるにも関わらず、幅方向の温度偏差を小さくすることが出来る。
さらに、本発明3のように、強制冷却ゾーンZ1の第1コンベア5の搬送速度に対して、30%の割合で段階的に減速した場合には、自然放冷を終了した状態では、幅方向の温度偏差が約15℃となっており、本発明2よりもさらに自然徐冷時間が長くなるにも関わらず、幅方向の温度偏差をさらに小さくしてより均一化することが出来る。
【0043】
このように、本実施形態では、要求される自然放冷の時間に応じて、当該自然放冷の時間を長くすると、従来例と異なり幅方向の温度偏差をさらに小さくしてより均一化することが出来る。
このように、本実施形態では、要求される自然放冷の時間、及び許容される幅方向の温度偏差に応じて、減速する回数及び減速度合を選定すれば、別途、部分加熱や部分冷却することなく、自然放冷によって均一な温度分布での長時間の徐冷を実現することができることが分かる。
なお、上記実施例では、強制冷却時の第1コンベア5の搬送速度を基準で減速率を設定した場合を例示しているが、前段のコンベアとの間の減速率であっても良いし、各段での減速率を適宜異ならしても良い。
【0044】
次に、上記実験条件下において、線径及び減速率を替えて実験を行い、自然放冷終了時の幅方向での温度偏差が30℃以下となる境界条件について求めてみたところ、図7のような結果を得た。図7において、速度比とは、(減速後速度/減速前速度)である。
この図7から分かるように、温度偏差を一定の範囲に収めるには、線径が小さいほど減速度合を全体として大きく設定する必要がある。このように、線径に応じて減速度合を変更するように制御することが好ましい。
ここで、上記実施例は、ロール20による蛇行を行わない場合の実施例であるが、これにロール20による蛇行を付加することで、より温度偏差を緩和できることは、第1実施形態の実施例から明白である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る設備概要を説明する図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る搬送路を示す概略平面図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る幅方向の温度分布を示す図である。
【図4】本発明に基づく第2実施形態に係るロールを説明する図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る設備概要を説明する図である。
【図6】幅方向の温度分布を示す図である。
【図7】線径と温度偏差を所定温度以下とするために必要な速度比(下流側速度/上流側速度)との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
1 熱間圧延機
2 レイングヘッド
3 冷却設備
4 集束装置
5 第1コンベア
6 コンベア
10 コイル状線材
11 衝風冷却装置
20 ロール
21 羽根部材
D コイル径
Z1 上記強制冷却ゾーン
Z2 自然放冷ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後にコイル形状に成形された線材が載置されて、徐冷させながら当該線材を搬送する搬送路を備えたコイル状線材の徐冷設備において、
搬送路の搬送方向の少なくとも一部に対し、搬送路に載っているコイル状線材に周面を接触させて当該コイル状線材を幅方向に変位させる1又は2以上のロールを備え、そのロールは、上下軸周りに回転可能となっていると共に、ロール径を、対象とするコイル状線材のコイル径の1/2以上に設定したことを特徴とするコイル状線材の徐冷設備。
【請求項2】
熱間圧延後にコイル形状に成形された線材が載置されて、徐冷させながら当該線材を搬送する搬送路を備えたコイル状線材の徐冷設備において、
搬送路の搬送方向の少なくとも一部に対し、搬送路に載っているコイル状線材に周面を接触させて当該コイル状線材を幅方向に変位させる1又は2以上のロールを備え、そのコイル状線材の幅方向への変位量がコイル径の1/2以上となるように上記1又は2以上のロールを配置することを特徴とするコイル状線材の徐冷設備。
【請求項3】
上記ロールは上下軸周りに回転可能となっていると共に、そのロールの周面には、周方向に並ぶ複数の羽根部材が外径方向に張り出し、その羽根部材は、その上面が、水平面に対し周方向に傾斜していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載したコイル状線材の徐冷設備。
【請求項4】
上記ロールは、コイル状線材と接触する周面がコイル状線材の搬送方向に向けて移動するように、上下軸周りに回転駆動されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したコイル状線材の徐冷設備。
【請求項5】
上記搬送路による搬送速度は、上流側から下流に向けて段階的に遅くなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずか1項に記載したコイル状線材の徐冷設備。
【請求項6】
熱間圧延後にコイル形状に成形された線材を、搬送路に沿って搬送することで当該コイル状線材を徐冷させるコイル状線材の徐冷方法において、
搬送中のコイル状線材を、少なくともその途中で、当該コイル状線材のコイル径の1/2以上幅方向に蛇行させることを特徴とするコイル状線材の徐冷方法。
【請求項7】
上記搬送中のコイル状線材の上下で重なる部分を一時的に上下に離すことを特徴とする請求項6に記載したコイル状線材の徐冷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−110368(P2008−110368A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294138(P2006−294138)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】