説明

コイル装置

【課題】 空芯であっても、又は有芯の場合にはさほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することができるコイル装置を提供する。
【解決手段】 線状導体を全体として略S字状になるように互いに平行な2本の軸線の周りに巻方向を異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線とし、この単位巻線を複数層にわたって軸線を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インダクタ素子、電力伝送素子、或いはトランス等として使用されるコイル装置に係り、特に、高周波用途に好適なコイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、コンピュータや通信機器等の分野においては、高周波用途(例えば、100KHz〜数100GHz)に適するインダクタやトランスやコイルの開発が要望されている。
【0003】
これらのインダクタやトランスやコイルの開発にあたっては、高周波帯域における損失が少ないこと、磁気的な不要輻射が少ないこと、インダクタンスの周波数特性が安定であること、低コストに製作することができること、等々の技術的課題を解決せねばならない。
【0004】
従来、この種のインダクタンスやトランスやコイルにおいて、高周波帯域における損失を低減するためには、コアに要求される種々の性能(例えば、低ヒステリシス損、等々)を満足する高品質なコア材料の開発に重きが置かれる傾向があった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、この種のインダクタンスやトランスやコイルにおいて、磁気的な不要輻射を低減するためには、コアや巻線の形状に着目した工夫がなされていた(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−237136号公報
【特許文献2】特開2004−172517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コアに要求される種々の性能(例えば、低ヒステリシス損等々)を満足する高品質なコア材料を使用するコイル装置にあっては、低コストに製造することが困難であり、またコアや巻線の形状に着目するコイル装置にあっては、それでも不要輻射を十分には低減させることができないと言う問題点があった。
【0007】
この発明は、上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することができるコイル装置を提供することにある。
【0008】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の技術課題は、以下の構成を有するコイル装置により解決することができると考えられる。
【0010】
すなわち、この発明のコイル装置は、線状導体を全体として略S字状になるように互いに平行な2本の軸線の周りに巻き方向を異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線とし、この単位巻線を複数層に亘って軸線を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるようにしたものである。
【0011】
このような構成によれば、各層の単位巻線毎に磁気的なプッシュプル動作が行われることから、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することができる。
【0012】
好ましい実施の形態によれば、各層の単位巻線を構成する2つの環は同一形状とされると共に、それらの2つの環は1つの直線状の辺を共有しており、かつこの直線状の辺は双方の軸線同士を結ぶ直線の垂直二等分線上に位置している。
【0013】
このような構成によれば、2つの環で共有される直線状の辺が双方の軸線同士を結ぶ線分の垂直二等分線上に位置していることから、各層の単位巻線から生ずる磁束は効率よく加算され、それにより上述の作用効果を助長することとなる。
【0014】
好ましい実施の形態によれば、2つの環が底辺を共有する2つの正三角形からなり、かつその正三角形の内周及び外周の各頂点の先端は、全ての内角が120度となるように直線状にカットされている。
【0015】
このような構成によれば、2つの正三角形で共有される直線状の辺が双方の軸線同士を結ぶ線分の垂直二等分線上に位置していることから、各層の単位巻線から生ずる磁束はより一層効率よく加算され、また正三角形の頂点における高周波電流による発熱も低減されるため、上述の作用効果をより一層助長することとなる。
【0016】
好ましい実施の形態によれば、各層の単位巻線が、全ての層に共通な1本の導電性線材により形成されている。
【0017】
このような構成によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することが可能なワイヤ巻回タイプのコイル装置を提供することができる。
【0018】
好ましい実施の形態によれば、各層の単位巻線が、多層配線基板製造技術を使用して形成されている。
【0019】
このような構成によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することが可能な基板積層による薄型タイプのコイル装置を提供することができる。
【0020】
すなわち、各層パターンとしてS字状パターンを採用すると、上下の層間におけるパターン同士が完全に重ね合わされることに加えて、多層基板製造技術を採用すれば、導電性線材を使用する場合のように、線材の捩れや曲がりにより、上下の線材同士がずれ合って重ね合わせることがなくなり、線状導体間の寄生容量の均一化が促進されて、製品の効率も改善されるのである。
【0021】
加えて、S字状コイルを構成する2つの環をそれぞれ別々の単独巻線で構成した場合には、上下の層間を接続するためのビアが1層あたり4個必要となるのに対して、本発明のS字状パターンによれば層間接続のためのビアが1層あたり2個で済み、高価なビアが半減することで、製造コストを大幅に低減することができる。
【0022】
好ましい実施の形態によれば、各層の単位巻線が、半導体集積回路製造技術を使用して形成されている。
【0023】
このような構成によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することが可能な半導体埋め込みタイプのコイル装置を提供することができる。
【0024】
すなわち、各層パターンとしてS字状パターンを採用すると、上下の層間におけるパターン同士が完全に重ね合わされることに加えて、半導体集積回路製造技術を採用すれば、導電性線材を使用する場合のように、線材の捩れや曲がりにより、上下の線材同士がずれ合って重ね合わせることがなくなり、線状導体間の寄生容量の均一化が促進され、さらに半導体チップ内では電子の移動がより一層スムーズに行われることとなり、それらが相まって製品の効率が一層改善されるのである。
【0025】
好ましい実施の形態によれば、単巻トランスの巻線として、又は複巻トランスの各巻線として使用される。
【0026】
このような構成によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することが可能な単巻トランス又は複巻トランスを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、各層の単位巻線毎に磁気的なプッシュプル動作が行われることから、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することができるコイル装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、この発明に係るコイル装置の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
本発明に係るコイル装置(導電性線材使用)の概略的構成図が図1に示されている。同図に示されるように、このコイル装置1は、導電性線材(例えば、エナメル線、リッツ線等々)cを全体として略S字状になるように互いに平行な2本の軸線Z1,Z2の周りに巻方向を反時計回りと時計回りとに異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線Wとし、この単位巻線Wを複数層にわたって軸線Z1,Z2を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるように配置して構成されている。
【0030】
図において、符号W1,W2,W3・・・Wnが付されているのが第1層、第2層、第3層・・・第n層の単位巻線である。これらの単位巻線W1,W2,W3・・・Wnのそれぞれは、反時計回りに1ターンだけ巻回された第1の環a1,a2,a3・・・anと、時計回りに1ターンだけ巻回された第2の環b1,b2,b3・・・bnとから構成されている。
【0031】
すなわち、第1層の単位巻線W1は直線状軸線Z1の周りに反時計回りに1ターンだけ巻回された第1の環a1と直線状軸線Z2の周りに時計回りに1ターンだけ巻回された第2の環b1とから構成される。同様にして、第2層の単位巻線W2は、軸線Z1の周りに反時計回りに1ターンだけ巻回された第1の環a2と軸線Z2の周りに時計回りに1ターンだけ巻回された第2の環b2とから構成される。以下、第3層の単位巻線W3〜第n層の単位巻線Wnについても同様に構成される。
【0032】
そして、導電性線材cの巻始め端が第1のコイル端子T1へと導出されると共に、巻終わり端が第2のコイル端子T2へと導出される。
【0033】
なお、説明の便宜上、同図(a)の立体図に示されるコイル装置1は、必要に応じて、同図(b)の模式図に示されるように略記されることに注意されたい。
【0034】
図1に示されるコイル装置(導電性線材使用)の要部説明図が図2に示されている。同図(a)の上面図に示されるように、この例にあっては、第1の環a1及び第2の環b2はいずれも略真円形状とされると共に、同図(b)の縦断面図に示されるように、各層の単位巻線W1,W2,W3をそれぞれ構成する第1の環a1,a2,a3及び第2の環b1,b2,b3は、1つの共有部ab1,ab2,ab3を有している。この例にあっては、それらの共有部ab1,ab2,ab3は、線材同士が交差する1つの点とされている。
【0035】
各単位巻線W1,W2,W3・・・Wnをそれぞれ構成する第1の環a1,a2,a3・・・anと第2の環b1,b2,b3・・・bnは、同一形状(この例では半径の同一な真円形状)とされているため、軸芯Z1,Z2を整合させてそれらを上下に重ねると、図2(b)に示されるように、各単位巻線W1,W2,W3・・・Wnの共有部ab1,ab2,ab3・・・abnは軸芯に沿う方向(この例では上下方向)に1列に整列される。
【0036】
そのため、各層の単位巻線W1,W2,W3・・・Wnを流れる電流により生ずる磁束Φは、互いに打ち消し合うことなく、軸芯Z1においては上向き又は下向きに、軸芯Z2においては下向き又は上向きにと互いに180°の位相差をもって生じることとなり、これにより高周波電圧が印加されることで、第1の軸芯Z1と第2の軸芯Z2との間で磁気的なプッシュプル動作が行われる。
【0037】
その結果、後述する実験結果(図9参照)からも明らかなように、図1に示される導電性線材使用のコイル装置1によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作できるなどの実用上の効果が得られるわけである。
【0038】
コイル装置(導電性線材使用)のより具体的な一実施例の説明図が図3に示されている。同図に示されるように、このコイル装置10は、コイルケース11内にコイル組立体13を収容することにより構成されている。
【0039】
コイルケース11はフェライトなどの磁性材またはセラミックやプラスチックなどの非磁性材を用いて形成することができ、その内部には空所12が設けられている。この空所12内には、それぞれ所定の断面形状を有する第1の柱状コア15と第2の柱状コア16とが一体的に形成されている。コイルケース11がフェライトの場合には、第1の柱状コア15及び第2の柱状コア16についてもフェライトにより一体的に形成される。ケースがプラスチックやセラミックの場合には、柱状コア15,16についても、プラスチックやセラミックにより一体的に形成される。
【0040】
コイル組立体13は、プラスチック製の取付板14に形成された中空のボビン15´、16´に対して、導電性線材cを巻き付けたものである。このコイル組立体13は、ケース外で巻線作業を行ったのち、コイルケース11内の柱状コア15,16に被せることにより、コイルケース10内に収容される。
【0041】
すなわち、コイル組立体13は、導電性線材cを全体として略S字状になるように2つのボビン15´,16´の周りに巻き方向を異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線とし、この単位巻線を複数層にわたって軸線を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるように配置して構成されている。
【0042】
こうして完成したコイル組立体13は、図中矢印A2に示されるように、再びコイルケース11内の空所12へと戻され、接着剤を用いて又は樹脂封止などの公知の手法で、コイルケース11内に収容固定される。
【0043】
図3の一実施例における要部説明図が図4に示されている。同図に示されるように、第1及び第2の柱状コア15,16又はボビン15´,16´は、線材cの太さに相当する隙間を介して対向され、その断面形状は、異形六角形状とされている。より詳しくは、その断面は基本的には正三角形状とされており、その3つの頂点のそれぞれを軸線と垂直にカットすることによって、全ての内角が120°となるような異形六角形断面とされている(図4(b)参照)。
【0044】
そして、このような異形六角形断面を有する第1及び第2の柱状コア15.16の周りに、略S字状に導電性線材cが巻き付けられることにより、同図(a)に示されるように、単位巻線W1を構成する2つの環a1,b1の形状は、底辺を共有する2つの略正三角形となる。
【0045】
このとき、線材cが巻き付けられる第1及び第2の柱状コア15,16又はボビン15´,16´の断面は、先に説明したように異形六角形状であるから、これに巻き付けられて生ずる環a1,b1は、全体としては正三角形であるものの、その各頂点においては内角120°をもって屈曲された形状となる。
【0046】
換言すれば、各層の単位巻線W1〜Wnを構成する2つの環(a1〜an、b1〜bn)はいずれも略正三角形状とされると共に、それら2つの環a1,b1は1つの直線状の辺となる共有部分ab1を共有しており、かつこの直線状の辺となる共有部分ab1は双方の軸線Z1,Z2同士を結ぶ線分の垂直二等分線上に位置することとなる。しかも、2つの環a1,b1は底辺を共有する2つの正三角形からなり、かつその正三角形の内周及び外周の各頂点の先端は、すべての内角が120°となるように直線状にカットされることとなる。
【0047】
このような構成を有することにより、図3に示されるコイル装置の実施例によれば、2つの環a1,b1が他の多角形(例えば、四角形、六角形、八角形などなど)の場合に比べて、軸線Z1,Z2における磁束の集中効率が最も高く、しかも各層の単位巻線を構成する2つの環a1,b1は、全ての内角が120°であることから高周波電流の通電によっても各頂点における発熱を起こしにくく、損失が少ないという利点もある。
【0048】
その結果、図3及び図4に示される実施例のコイル装置によれば、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であるという利点が得られる。
【0049】
本発明に係るコイル装置(導電性線材使用)の複巻トランスへの適用例が図5に示されている。なお、図中のコイル表記は、先に、図1(b)を参照して説明した略記法を採用するものである。
【0050】
同図(a)に示される複巻トランスへの適用例(その1)は、以上説明したコイル装置を2組以上設けそれらを軸線方向へと分散して配置するようにしたものである。この例では、第1のコイル装置は、1対のコイル端子T11,T12の間に、第1の環a11,a12,a13,a14と、第2の環b11,b12,b13を配置して構成される。また、第2のコイル装置は、1対のコイル端子T21,T22の間に、第1の環a21,a22,a23と第2の環b21,b22,b23を接続して構成される。そして、例えば第1のコイル装置がトランスの一次巻線となり、第2のコイル装置がトランスの二次巻線となるのである。
【0051】
同図(b)には、複巻トランスへの適用例(その2)が示されている。この例にあっては、導電性線材として、互いに絶縁された芯線が2本以上含まれた多芯電線を使用し、これを第1の軸芯Z1と第2の軸芯Z2との間にS字状に巻回することによって、複巻トランスを構成したものである。すなわち、第1のコイル装置は、1対のコイル端子T31,T32の間に、第1の環a31,a32,a33,a34と第2の環b31,b32,b33を接続して構成される。また、第2のコイル装置は、1対の外部端子T41,T42の間に、第1の環a41,a42,a43,a44と第2の環b41,b42,b43を接続して構成される。そして、例えば第1のコイル装置がトランスの一次巻線となり、第2のコイル装置がトランスの二次巻線となるのである。
【0052】
なお、図5の例では、複巻トランスの場合のみを説明したが、第1のコイル装置の途中から中間タップを取り出すようにすれば、単巻トランスを構成できることは当業者であれば容易に理解されるであろう。
【0053】
コイル装置(導電性線材使用)の複巻トランスへ適用したより具体的な実施例が図6に示されている。図示の複巻トランス20は、2組のコイル装置10A,10Bを組み合わせて構成されている。これらのコイル装置10A,10Bの構造は、図3及び図4を参照して説明したコイル装置10のそれと同一である。
【0054】
すなわち、コイル装置10Aは、コイルケース11Aの空所12A内に、コイル組立体13Aを収容固定して構成され、コイル装置10Bはケース11Bの空所12B内に、コイル組立体13Bを収容固定して構成されている。そして、これらのコイル装置10A,10Bを、柱状コア15A,16Aとが突き合わせ状態となるように対向させ、両ケース11A,11Bを向かい合わせに結合することによって、図5(a)に示されるコイル配置を有する複巻トランス20が完成する。
【0055】
この複巻トランスによっても、磁束を高密度に集中させながら磁気的なプッシュプル動作が効率よく行われるため、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であるという利点が得られる。
【0056】
次に、コイル装置(多層配線基板製造技術)の一実施例の構成図が図7に示されている。同図に示されるように、このコイル装置30は、7枚の配線基板、すなわち第1層基板31−1、第2層基板31−2、第3層基板31−3、第4層基板31−4、第5層基板31−5、第6層基板31−6、第7層基板31−7を積層すると共に、その上面側には絶縁被覆層34をさらに積層し、一方下面側には第2の電源層33及び絶縁被覆層35を積層して構成される。
【0057】
それらの基板積層体には、互いに平行な2本の筒状コア37a,37bが貫通固定される。これらの筒状コア37a,37bは磁性材(例えば、フェライト等)を用いて形成され、その断面は略正三角形状とされ、1つの底辺が互いに平行となるような向きに、すなわち2つの正三角形が底辺同士を介して背中合わせとなる向きに位置決めされている。
【0058】
第1層基板31−1の導電性薄膜(例えば、銅箔又はアルミ箔)は、筒状コア37a,37bの軸芯位置に対応する第1の磁束透過孔36a及び第2の磁束透過孔36bの部分を除き、ほぼベタ状態(全面一様)に残されており、これが第1の電源層32として機能することとなる。
【0059】
第2層基板31−2〜第7層基板31−7のそれぞれの導電性薄膜は、エッチング処理によって、単位巻線に相当する略S字状の導体(例えば、銅箔又はアルミ箔)パターンとして形成されている。
【0060】
図において積層断面の上方のスペースには、第1層の単位巻線W1に対応するS字状導体パターンが描かれている。図から明らかなように、第1層の単位巻線W1に相当するS字状導体パターンは、線状導体を第1の筒型コア37aの周りに反時計回りに1ターンだけ巻回してなる第1の環a1と、同様に線状導体を第2の筒型コア37bの周りに時計回りに1ターンだけ巻回してなる第2の環b1とを有する。それら2つの環a1,b1はいずれも正三角形状を有し、互いの底辺を共有することによって直線状の共有部ab1が形成されている。この直線状共有部ab1は、2本の筒状コア37a,37bの軸芯同士を結ぶ線分の垂直二等分線上に位置するように配置されている。
【0061】
もちろん、この例にあっても、正三角形の各頂点に相当する導体パターンの角部には、高周波電流の通電による過熱を抑制するために、全ての内角を120°とする工夫が施されている。
【0062】
第2層基板31−2〜第7層基板31−7のそれぞれに形成された単位巻線に相当するS字状導体パターン同士は、公知の層間接続手段(この例ではビア38を使用)により接続され、これにより、各層の単位巻線W1〜W6は、電気的には上から順に直列接続された状態となる。
【0063】
その結果、このコイル装置30は、全体として見ると、線状導体を全体として略S字状になるように互いに平行な2本の軸線の周りに巻方向を異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線とし、この単位巻線を複数層にわたって軸線を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるようにした構造を有するものとなる。
【0064】
そのため、このような構造を有するコイル装置30によれば、空芯であっても又は有芯の場合にはさほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が複無く、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することが可能な基板積層による薄型タイプのコイル装置を実現することができる。
【0065】
なお、以上ワイヤ巻回タイプのコイル装置、基板積層による薄型タイプのコイル装置について説明したが、本発明のコイル装置は、同様な構造を半導体集積回路製造技術を使用することによって半導体埋込タイプのコイル装置として実現することもできることは当業者であれば容易に理解されるであろう。
【0066】
最後に、本発明に係るコイル装置の性能試験結果について説明する。試験対象コイル装置の説明図が図8に示されている。本発明コイルの検証のために、同図(a)に示される比較対象コイル装置と、同図(b)に示される実施例コイル装置とを用意した。
【0067】
線状導体が巻き付けられるべき構造物としては、互いに平行な2本の円柱状コアの両端を継鉄で繋ぎ、これらを輪ゴムで固定したものを採用した。このとき、2本の円柱状コアは、材質がフェライト、直径が12mm、長さが50mmのものを使用した。一方、これらの円柱状コアに巻回されるべき導電性線材としては、直径が0.7mm、エナメル被覆厚2μmのエナメル線を使用した。
【0068】
そして、同図(a)に示されるように、2本の円柱状コアのうちの1本のコアのみに、導電性線材を36ターンだけスパイラル状に巻回したものを比較対象コイル装置とすると共に、同図(b)に示されるように、両円柱状コアに交互に逆方向に導電性線材を1ターンずつ全体として36ターン(18ターン×2)S字状に巻回したものを実施例コイル装置とした。すなわち、導電性線材の全長を同一(36ターン)とした条件において、両者の性能を比較するわけである。
【0069】
このような比較対象コイル装置と実施例コイル装置とを使用してインダクタンスの周波数特性を計測した結果が図9のグラフに示されている。同グラフから明らかなように、実施例コイル装置の場合には、約37KHz以下の帯域においてはインダクタンスの値は急激に減少するのに対し、37KHz〜数十MHzの領域においては、インダクタンスの値はほぼ一定値(400μH)となり、周波数変動に対する安定性が良好なことがが確認された。
【0070】
これに対して、比較対象コイル装置の場合には、37KHzを含むそれ以下の領域においては比較的インダクタンスの値は安定している(450μH)ものの、それを過ぎたあたりから、インダクタンスの値は上昇して1.5MHzあたりでピークを示すものの、それ以上の周波数帯域では徐々に減少して10MHzを超えるあたりでほぼ零となることが確認された。因みに、交互に3ターンずつ巻き方向を異ならせて線状導体を巻回した例も試みたが、やはり1ターンずつ巻き方向を異ならせたものに比べて、インダクタンスの周波数特性が著しく劣化することが確認された。
【0071】
また、以上の試験中において、両コイルの温度を比較すると、比較対象コイル装置に比べ実施例コイル装置のほうが明らかに発熱が少ないことが確認された。また、別の試験によって、不要輻射についても、比較対象コイル装置に比べ実施例コイル装置のほうが明らかに少ないことが確認された。
【0072】
以上の実施形態においては、2つの環の形状は同一としたが、本発明で大切なことは、共有部ab1,ab2,ab3・・・が積層方向に一列に整列することであって、2つの環の形状大きさは左右で異なるものでもよいことが本発明者等の追試で確認された。このことが、図10〜図12の第2、第3実施形態に示されている。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、空芯であっても、又は有芯の場合には、さほど高品質なコア材を使用せずとも、高周波帯域における損失が少なく、磁気的な不要輻射が少なく、インダクタンスの周波数特性が安定であり、しかも低コストに製作することができるコイル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】コイル装置(導電性線材使用)の概略的構成図である。
【図2】コイル装置(導電性線材使用)の要部説明図である。
【図3】コイル装置(導電性線材使用)の一実施例の説明図である。
【図4】図3の一実施例における要部説明図である。
【図5】コイル装置(導電性線材使用)の複巻トランスへの適用例を示す説明図である。
【図6】コイル装置(導電性線材使用)の複巻トランスへ適用した実施例を示す図である。
【図7】コイル装置(多層配線基板製造技術)の一実施例の構成図である。
【図8】試験対象コイル装置の説明図である。
【図9】インダクタンスの周波数特性を示すグラフである。
【図10】コイル装置(導電性線材使用)の第2実施形態を示す断面図である。
【図11】コイル装置(導電性線材使用)の第2実施形態を示す平面図である。
【図12】コイル装置(導電性線材使用)の第3実施形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0075】
1 コイル装置
10 コイル装置
10a,10b コイル装置
11 コイルケース
11a,11b コイルケース
12 空所
12a,12b 空所
13 コイル組立体
13a,13b コイル組立体
14 取付板
14a,14b 取付板
15 第1の柱状コア
15a,15b 第1のコイル軸
16 第2の柱状コア
16a,16b 第2のコイル軸
20 複巻トランス
30 コイル装置
31−1〜31−7 第1層基板〜第7層基板
32 第1の電源層
33 第2の電源層
34 絶縁被覆層
35 絶縁被覆層
36a 第1の磁束透過孔
36b 第2の磁束透過孔
37a 第1の筒状コア
37b 第2の筒状コア
38 ビア
Z1 第1の軸線
Z2 第2の軸芯
T1 第1のコイル端子
T2 第2のコイル端子
W1.W2,W3・・・Wn 単位巻線
a1,a2,a3・・・an 単位巻線を構成する第1の環
b1,b2,b3・・・bn 単位巻線を構成する第2の環
ab1,ab2,ab3 共有部
Φ 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状導体を全体として略S字状になるように互いに平行な2本の軸線の周りに巻き方向を異ならせて1ターンずつ巻回してなるものを1層分の単位巻線とし、この単位巻線を2層以上の複数層に亘って軸線を整合させつつ積層し、かつ電気的には全ての層の単位巻線が直列となるようにしたコイル装置。
【請求項2】
各層の単位巻線を構成する略S字状の環は同一形状とされると共に、それらの2つの環は1つの直線状の辺を共有しており、かつこの直線状の辺は双方の軸線同士を結ぶ線分の垂直二等分線上に位置している請求項1に記載のコイル装置。
【請求項3】
各層を構成する略S字状の環は、同一線長、同一断面形状、同一体積を持つ導体であり、かつ各層を上下に水平二等分線上の同一形状の垂直二等分線上において、線対称の略S字状の環配置されることを特徴とする請求項2に記載のコイル装置。
【請求項4】
各層の単位巻線を構成する2つの環が底辺を共有する2つの正三角形からなり、かつその正三角形の内周及び外周の各頂点の先端は、全ての内角が120度となるように直線状にカットされている請求項3に記載のコイル装置。
【請求項5】
各層の単位巻線が、全ての層に共通な1本の導電性線材により形成されている請求項1に記載のコイル装置。
【請求項6】
各層の単位巻線が、多層配線基板製造技術を使用して形成されている請求項1に記載のコイル装置。
【請求項7】
各層の単位巻線が、半導体集積回路製造技術を使用して形成されている請求項1に記載のコイル装置。
【請求項8】
単巻トランスの巻線として、又は複巻トランスの各巻線として使用される請求項1に記載のコイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−141201(P2008−141201A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308751(P2007−308751)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(506392975)ホーリー ロイヤルテイ インターナショナル カンパニー リミテッド (1)
【出願人】(506151327)
【Fターム(参考)】