説明

コイル補助部材及びそれを用いたサブマージドモータ

【課題】 液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性が液化ガスから取り出した後の検査において高い信頼性をもって評価することが可能なコイル補助部材及びそれを備えたサブマージドモータを提供する。
【解決手段】 液化ガスに浸漬されるサブマージドモータに備えられたコイルを補助するように構成されたコイル補助部材であって、熱硬化性樹脂が含有されてなることを特徴とするコイル補助部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスに浸漬されるサブマージドモータに備えられたコイルを補助するように構成されたコイル補助部材、及び該コイル補助部材を用いたサブマージドモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス燃料として、天然ガス(LNG)やジメチルエーテル(DME)等が使用されている。これらガス燃料は、常温常圧下では気体であるが、加圧または冷却されることにより液化LNGや液化DMEといった液化ガスとなる性質を有しており、通常、液化状態で貯蔵されたり移送されたりしている。そして、この種の液化ガスは、通常、貯蔵タンクから配管を通じて使用場所に移送されているが、この移送のためには、サブマージドモータが使用されている。
【0003】
サブマージドモータは、スロットが形成されたステータと、スロットに巻回されることによりサブマージドモータ本体に支持されたコイルと、ステータ内に配置され、コイルに電流が流れることによって発生する電磁力により所定方向に回転するローターとを備えている。また、上記ローターの軸方向一端部に、ローターと共に回転するようにプロペラが設けられている。サブマージドモータは、貯蔵タンク内等の配管内に配されて液化ガス中に浸漬されるようになっている。そして、かかる浸漬状態でローターと共にプロペラが回転することにより、液化ガスが、配管の内周面とステータの外周面との隙間や、ステータとローターとの隙間等を通過して移送されるようになっている。
【0004】
このようなサブマージドモータでは、上記発生する電磁力によってコイル自体が振動するため、この振動が抑制されるように、ウェッジ、スペーサ、縛り紐といった、コイル補助部材が設けられている。ウェッジは、コイルをスロット内に固定するようにスロットの開口部に嵌合されて用いられ、上記コイルを補助するものである。また、スペーサは、スロットに対しローターの軸方向両外側において隣接するコイル間に介装されて該コイル間を絶縁し且つガタつかないように上記コイルを補助するものである。縛り紐は、スペーサが介装されたコイル全体が束ねられるようにその外周面に巻き付けられて、コイルを束ねた状態で上記コイルを補助するものである。
【0005】
ところで、サブマージドモータが液化ガスに浸漬された状態で長時間経過すると、上記ウェッジ、スペーサや縛り紐といったコイル補助部材が軟化したり溶解したりしてこれらの特性が変化し、これらコイル補助部材による上記コイルを補助する力が弱くなるおそれがある。その結果、コイルに振動が発生するため、コイルが脱落したり、ウェッジがスロットよりも内周側に突出してローターと接触し、その結果、ローターの回転に悪影響を及ぼしたり、ひいてはローターが破損したりするおそれがある。
【0006】
これに対し、液化DME中に浸漬した1000時間後の曲げ弾性率の低下を5%以下に抑制し得るような樹脂をコイル補助部材として用いることにより、コイルを補助する力の低下を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、このような樹脂が用いられたとしても、上記したようなコイル補助部材は液化ガス中で経時的に劣化するものであり、コイル補助部材の劣化は、サブマージドモータ自体の特性の劣化や振動等の異常を誘発することとなる。
【0008】
そこで、この種のサブマージドモータは、通常、定期的に液化ガスから取り出されて検査されるようになっており、この検査においては例えば、取り出したサブマージドモータを単体で動作させて、トルク等の特性の測定や、振動・異音等の発生がないかの検査が行われる。検査結果が許容範囲に適合しない場合には、寿命と判断され、修理または交換が行なわれるようになっている。一方、検査結果が許容範囲に適合する場合には、再度液化ガスに浸漬されるようになっている。また、液化ガスの移送効率の劣化等の異常が発生した場合、この異常がサブマージドモータ単体に起因するものか他の原因によるものかを判断するため、上記と同様の検査が行なわれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−40892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記検査を実施するにもかかわらず、検査後において液化ガスへ再浸漬後、直ぐに不測の不具合が発生する等、検査により異常が発見できない場合があり、検査結果を高い信頼性をもって評価できないのが現状である。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することを可能とするコイル補助部材及びそれを備えたサブマージドモータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究したところ、サブマージドモータの特性に大きな影響を与えるコイル補助部材の特性が、液化ガスから取り出してからの時間経過によって大きく変化し、ひいては取り出し直後と、取り出してから時間が経過した後とでサブマージドモータの特性に大きな差を生じさせる場合があることを見い出した。
【0013】
また、取り出し直後の検査結果は、液化ガスに浸漬された状態での検査結果を表すと考えられるが、上記検査は、人手の制約、検査場所や検査装置の制約等により必ずしも取り出し直後に行われるとは限られず、例えば取り出しから1週間経過した後に行われる場合等もある。そして、上記のように取り出し後の検査結果が経時的に変化すると、液化ガスに浸漬された状態が検査結果に反映されず、検査結果の信頼性に悪影響を及ぼし得ることを見い出した。
【0014】
例えば、液化ガス中でウェッジが既に軟化しており、取り出し直後に検査を行えばサブマージドモータの検査結果が許容範囲に適合しないのにもかかわらず、取り出してから時間が経過した後の検査では検査結果が許容範囲に適合する場合がある。このように、本来修理または交換されるべきサブマージドモータが再び液化ガスに浸漬されることによって、上記したようにコイルの振動が発生し、上記不測の不具合が発生し得る。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記知見に鑑み、サブマージドモータに備えられたコイルを補助するコイル補助部材に熱硬化性樹脂を含有させることにより、取り出し直後と、取り出してから時間が経過した後とでサブマージドモータの検査結果の差を小さくすることができ、検査結果の信頼性を高めることができることを見い出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明のコイル補助部材は、液化ガスに浸漬されるサブマージドモータに備えられたコイルを補助するように構成されたコイル補助部材であって、熱硬化性樹脂が含有されてなることを特徴とする。
ここで、コイル補助部材とは、コイルとサブマージドモータ本体との間に嵌合されたり、コイル同士間に介装されたり、コイル同士を束ねるのに用いられたりする等、コイルと当接してそのガタツキや振動の発生を防止することを可能とするような部材をいう。
【0017】
これにより、熱硬化性樹脂の分子同士の間に緻密な3次元網目構造が形成されているため、コイル補助部材への液化ガスの浸入を抑制することができる。よって、液化ガスから取り出した後のコイル補助部材の特性の変化を抑制することができるため、取り出し直後と、取り出してから時間が経過した後とでサブマージドモータの検査結果の差を小さくすることができる。従って、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することが可能となる。
【0018】
さらに、通常、取り出し後のコイル補助部材の特性が経時的に変化する場合、管理上は、常に同条件で検査する必要があり、個別の事情により経過時間を同条件にすることは困難であるため、コイル補助部材の特性が一定の値に収束するまで待機したうえでサブマージドモータの検査を行うこととなり、その稼動効率が低下する。本発明によれば、取り出し後、経過時間によるコイル補助部材の特性の変化が少ない為、所望の時点でサブマージドモータの検査を行うことが可能となり、サブマージドモータの稼動効率の向上を図ることも可能となる。
【0019】
また、本発明においては、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂またはこれらの混合樹脂であることが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、前記液化ガスは液化ジメチルエーテルであることが好ましい。
【0021】
本発明においては、コイル補助部材を軟化させたり溶解させたりし易い液化ジメチルエーテルを用いた場合であっても、該液化ジメチルエーテルに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、高い信頼性をもって評価することが可能となるため、特に液化ガスが液化ジメチルエーテルである場合により効果的であるといえる。
【0022】
また、本発明においては、前記液化ガスに1000時間浸漬された状態から取り出し後1週間経過後の曲げ弾性率に対する取り出し直後の曲げ弾性率の比率が100%±30%の範囲内である材料が用いられて構成されたことが好ましい。
【0023】
これにより、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、より高い信頼性をもって評価することが可能となる。
【0024】
また、本発明においては、補強用固形材がさらに含有されてなることが好ましい。
【0025】
これにより、補強用固形材がコイル補助部材の剛性を補強することができる。また、コイル補助部材中に補強用固形材が存在することによりコイル補助部材への液化ガスの浸入を抑制することができるため、取り出し後のコイル補助部材の特性の変化をより抑制することができ、これにより、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、より高い信頼性で評価することが可能となる。また、サブマージドモータの稼動効率の更なる向上を図ることが可能となる。
【0026】
また、前記補強用固形材は、無機材料またはセルロース系材料であることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係るサブマージドモータは、前記コイル補助部材を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上の通り、本発明によれば、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータの特性を、液化ガスから取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るコイル補助部材を備えたサブマージドモータの一例を模式的に示す概略側面図
【図2】図1のAA’断面図
【図3】試料1〜7の曲げ弾性率の測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るコイル補助部材を備えたサブマージドモータの一例を模式的に示す概略側面図であり、図2は、図1のAA’断面図である。
【0031】
図1及び図2に示すように、本実施形態のサブマージドモータ1は、円筒状で、内周側にスロット5が凹入形成されたステータ3と、スロット5内に挿入されたコイル9と、ステータ3の内側に配置され、コイル9に電流が流れることによって発生する電磁力により所定方向に回転するローター11とを備えている。
【0032】
ステータ3には、内周側に、外方へ凹入し且つ軸方向に延在する複数のスロット5が形成されている。また、スロット5の開口端には、後述するウェッジ13が嵌合され且つ係止される切り欠き5aが形成されている。
【0033】
コイル9は、例えば、絶縁被覆された銅線等の導体が複数本束ねられた状態でその周囲がマイカテープ等の絶縁材料によって更に被覆され、このように束ねられ且つ被覆された線部材の束が、例えば六角環状に複数回巻回されることによって、形成されている。また、かかる巻回によって重なり合わされた上記束の周囲が、上記と同様の絶縁部材によって巻き付けられ、更に巻き付けられた絶縁材料にエポキシ系樹脂等のワニスが含浸されることによって、全体として一体となるように固定されている。
【0034】
また、複数のコイル9が、所定のパターンでそれぞれ所定の2つのスロット5に挿入されており、これにより、一のスロット5には、複数のコイル9が挿入されている。また、コイル9は、スロット5に巻回されることにより、サブマージドモータ1の本体に支持されている。そして、スロット5に複数のコイル9が挿入された状態で、スロット5の開口端にウェッジ13が嵌合され且つ係止されることによって、ウェッジ13によってコイル9がスロット5の内に固定され、コイル9が補助されている。このように、スロット5内においてコイル9が補助されることにより、コイル9に電流が流れたときに発生する電磁力によってスロット5内でコイル9が振動することが、抑制されるようになっている。
【0035】
また、各コイル9のうち、スロット5に対しローター11の軸方向両外側に突出している部分同士の間には、スペーサ15が介装されており、該スペーサ15により、隣接するコイル9間が絶縁され且つガタつかないようになっている。また、このようにコイル9間にスペーサ15が介装された状態でコイル9全体が束ねられるように、その外周面に縛り紐17が巻き付けられており、かかる縛り紐17により、複数のコイル9が束ねられた状態となっている。これらスペーサ15及び縛り紐17により、スロット5の外側においてコイル9が補助され、かかるスロット5の外側においてコイル9が振動することが抑制されるようになっている。
【0036】
このように、コイル9を補助するように構成されたコイル補助部材たる、上記ウェッジ13、スペーサ15及び縛り紐17は、熱硬化性樹脂が含有されて形成されている。
【0037】
熱硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す化合物が、硬化剤、触媒又は熱等の作用によって化学反応を起こして架橋(硬化)され、網目状の三次元構造(三次元網目構造)が形成されることによって硬化されてなる樹脂をいう。
【0038】
上記熱硬化性樹脂としては、三次元網目構造が形成されてなるものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。これらのうち、上記熱硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0039】
エポキシ系樹脂は、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物が、硬化剤と共に硬化されることによって形成されたものをいう。かかるエポキシ系樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能式エポキシ樹脂等が挙げられる。また、かかるエポキシ系樹脂の硬化反応に用いられる硬化剤としては、例えばアミン化合物や酸無水物等が挙げられる。
【0040】
フェノール系樹脂は、1分子中に少なくとも1つのフェノール性水酸基を有する化合物が硬化されることによって形成されたものをいう。かかるフェノール樹脂としては、硬化剤と共に加熱等されることによって硬化されたノボラック型フェノール樹脂や、硬化剤が用いられることなく加熱等されることによって硬化されたレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。また、かかるフェノール系樹脂の硬化反応に用いられる硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。
【0041】
不飽和ポリエステル樹脂は、α,β−不飽和二塩基酸や、芳香族、脂肪族もしくは脂環式飽和二塩基酸や、これらの酸無水物等の酸成分と、グリコール類等の多価アルコールやその酸化物とが硬化されることによって形成されたものをいう。酸成分としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、フタル酸、無水フタル酸、シュウ酸、マロン酸等が挙げられる。また、多価アルコール及びその酸化物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
【0042】
また、上記熱硬化性樹脂には、上記した硬化反応を開始させるための反応開始剤等を、必要に応じて添加することができる。
【0043】
また、本実施形態では、上記コイル補助部材は、さらに補強用固形材が含有されて形成されている。かかる補強用固形材としては、例えば、無機材料から成る補強用固形材や、セルロース系材料から成る補強用固形材を用いることができる。また、かかる補強用固形材は、例えば繊維状や粉状であってもよい。
【0044】
繊維状の補強用固形材としては、例えば、長繊維状、短繊維状またはこれらの混合物から成る補強用固形材や、これらがクロスやマット等のシート状に成形された補強用固形材が挙げられる。また、繊維状の補強用固形材のうち、繊維状の無機材料としては、例えば、ガラス繊維等が挙げられ、さらに、かかるガラス繊維を用いてガラスクロスやガラスチョップストランド(短繊維)に形成することもできる。この場合において、ガラスには、無機アルカリガラスも含まれる。また、繊維状のセルロース系材料としては、例えば、クラフト紙やリンター紙を挙げることができる。
【0045】
粉状の補強用固形材のうち、粉状の無機材料としては、粉状の鉄、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムといった無機フィラー等を挙げることができる。また、粉状のセルロース系材料としては、紙粉等を挙げることができる。また、粉状の補強用固形材には、粒状のものや、シート状に成形されたものも含まれる。
【0046】
上記補強用固形材の配合量は、熱硬化性樹脂と補強用固形材との和を100重量部とする場合には、50重量部以上であることが好ましく、70重量部以上であることがより好ましく、90重量部以上であることがさらに好ましい。
【0047】
上記した熱硬化性樹脂及び補強用固形材を含有するものとしては、例えば、
エポキシ系樹脂の6重量部と、主としてガラスクロス及び無機フィラーの94重量部とが合計100重量部で含有されたものであって、ガラスクロス及び無機フィラー等からガラスマット層が成形され、該ガラスマット層とエポキシ系樹脂層とが積層されてなるものや、
エポキシ系樹脂の8重量部と、無アルカリガラス長繊維の10重量部と、鉄粉の82重量部とが合計100重量部で含有されてなるものや、
エポキシ系樹脂硬化物の34〜39重量部と、無アルカリガラスクロスの61〜66重量部とが合計100重量部で含有されたものであって、エポキシ樹脂硬化層と無アルカリガラスクロス層とが積層されてなるものや、
フェノール系樹脂の50重量部と、クラフト紙及びリンター紙の50重量部とが合計100重量部で含有されものであって、フェノール樹脂層と紙層とが積層されてなるものや、
不飽和ポリエステル系樹脂の24〜27重量部と、ガラスチョップストランドマットの33〜36重量部と、水酸化アルミニウムの38〜41重量部とが合計100重量部で含有されたものであって、ガラスマット層と水酸化アルミニウムが充填(添加)されたポリエステル層とが積層されてなるもの等が挙げられるが、本発明のコイル補助部材は、これらに特に限定されるものではない。
【0048】
また、上記コイル補助部材には、上記熱硬化性樹脂及び補強用固形材の他、必要に応じてその他の添加剤等を含有させることもできる。
【0049】
上記コイル補助部材の形成方法は、従来公知の適宜の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、未硬化の熱硬化性樹脂材料を、成形型に流し込んだ後、加熱硬化させること等によって形成することができる。
【0050】
また、コイル補助部材に補強用固形材を含有させる場合には、例えば、流動状態の熱硬化性樹脂材料に補強用固形材を添加して混合し、混合物を成形型に流し込んだ後、熱硬化性樹脂材料を硬化させることによって、熱硬化性樹脂に補強用固形材が充填されてなるコイル補助部材を形成することができる。また、例えば、補強用固形材を適宜な方法でシート状に成形し、かかるシート状の補強用固形材層上に流動状態を有する熱硬化性樹脂材料を塗布した後、硬化させて熱硬化性樹脂層を形成することによって、熱硬化性樹脂層と補強用固形材層とが積層されてなるコイル補助部材を形成することができる。
【0051】
また、複数分のコイル補助部材を上記のようにして一体に形成した後、適宜裁断等の加工を行うことによって、コイル補助部材を形成すること等もできる。さらに、コイル補助部材の形成方法は、ウェッジ13、スペーサ15及び縛り紐17等、用いられる形状や大きさ等に応じて適宜選択することができる。
【0052】
上記したサブマージドモータ1が浸漬される液化ガスは、常温常圧で気体状態である物質が、加圧や冷却等によって液化されてなるものであれば、特に限定されるものではなく、このような液化ガスとして、例えば、天然ガス(LNG)やジメチルエーテル(DME)等が挙げられる。また、後述するように、液化ガスは、液化DMEであることが好ましい。
【0053】
本実施形態において、サブマージドモータ1は、上述の通り、スロット5にコイル9が挿入された状態で、上記した通りスロット5にウェッジ13が嵌合され、スロット5の外側においてコイル9の間にスペーサ15が介装され、コイル9全体に外周面に縛り紐17が巻き付けられており、かかるウェッジ13、スペーサ15及び縛り紐17によって、サブマージドモータ1に備えられたコイル9が補助されている。また、ローター11の回転軸(不図示)における軸方向一端部に、ローター11と共に回転することにより液化ガスを軸方向他端部側へと移動させることが可能な羽根部材(例えば、プロペラ等)が設けられている。さらに、サブマージドモータ1は、ローター11の回転軸の回転を伝達する回転伝達機構を介して、別体のポンプを駆動するように構成されることもできる。
【0054】
このようなサブマージドモータ1を使用するには、サブマージドモータ1を、例えば貯留タンク内の液化ガスに配管と共に浸漬させ、コイル9に電流を流してローター11及び羽根部材を回転させる。これにより、貯留場所から液化ガスを汲み上げ、配管を通じて他の使用場所等に移送することができる。このように、サブマージドモータ1は、液化ガスを移送するためのポンプとして用いることができる。
【0055】
このように、液化ガスに浸漬された状態でサブマージドモータ1が使用されると、所定時間が経過した後に液化ガスから取り出され、定期的に検査に供される。かかる検査は、サブマージドモータ1そのものに対して行なわれる。検査項目としては、一般的にモータに対して行なわれるものが用いられ、例えば、起動時や連続通電時のトルク特性、動作時の異常振動や異音の有無等が、サブマージドモータ1の特性として検査される。
【0056】
このとき、サブマージドモータ1の特性に大きな影響を及ぼすものに、ウェッジ13等のコイル補助部材の特性(例えば曲げ弾性率)がある。そして、コイル補助部材には、熱硬化性樹脂が含有されているため、熱硬化性樹脂の分子間に緻密な3次元網目構造が形成されている。これにより、コイル補助部材への液化ガスの浸入を抑制することができるため、液化ガスから取り出した後のコイル補助部材における曲げ弾性率等の特性の変化を抑制することができ、サブマージドモータ1の特性の変化も抑制することができる。
【0057】
よって、取り出し直後と、取り出してから放置された後とでサブマージドモータ1の検査結果の差を小さくすることができるため、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータ1の特性を、取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することが可能となる。また、取り出し後、所望の時点で検査を行うことも可能となるため、サブマージドモータ1の稼動効率の向上を図ることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態では、ウェッジ13等のコイル補助部材に、さらに補強用固形材が含有されているため、コイル補助部材の剛性を補強することができる。また、コイル補助部材中に補強用固形材が存在することによりウェッジ13等のコイル補助部材への液化ガスの浸入をより抑制することができる。そのため、液化ガスから取り出し後のコイル補助部材における曲げ弾性率等の特性の変化をより抑制することができ、サブマージドモータ1の特性の変化も抑制することができる。
【0059】
これにより、液化ガスに浸漬された状態でのサブマージドモータ1の特性を、より高い信頼性をもって評価することが可能となる。さらに、サブマージドモータ1の取り出し後、所望の時点で検査を行うことが可能となるため、サブマージドモータ1の稼動効率の更なる向上を図ることも可能となる。
【0060】
また、コイル補助部材に用いられる材料の曲げ弾性率の変化の程度については、液化ガスに1000時間浸漬した後、取り出し直後の曲げ弾性率と、取り出してから1週間経過後の曲げ弾性率とを測定し、これらの比率を、比率=取り出し直後の曲げ弾性率/取り出しから1週間経過後の曲げ弾性率×100%の式によって、算出することができる。
【0061】
このようにして算出した比率は、100%±30%の範囲内であることが好ましく、100%±20%の範囲内であることがより好ましく、100%±10%の範囲内であることが一層好ましい。上記比率が100%±30%の範囲内であることにより、上記材料をコイル補助部材として使用した際の、サブマージドモータ1の特性の検査結果に対する信頼性を、より高めることができる。
【0062】
また、上記サブマージドモータ1が浸漬される液化ガスは、液化DMEであることが好ましい。浸漬時にサブマージドモータ1のコイル補助部材がより軟化したり溶解したりし易い液化DMEを用いた場合には、取り出し後にコイル補助部材の特性が変化し易くなるが、このような場合であっても、コイル補助部材の特性が変化し難く、サブマージドモータ1の特性を高い信頼性をもって評価できるため、液化ガスが液化DMEである場合により効果的となる。
【0063】
また、液化ガスとして液化DMEを用いた場合においては、DMEの液化状態が維持される環境下、例えば6気圧、常温の環境下や、1気圧、−30℃の環境下でサブマージドモータ1が使用されるが、特に1気圧、−30℃の環境下において液化DMEにサブマージドモータ1を浸漬させる場合においては、サブマージドモータ1の特性をより高い信頼性をもって評価することができる。
【0064】
また、ここでは、サブマージドモータ1の特性に影響を与えるコイル補助部材の特性として、ウェッジの曲げ弾性率を例に挙げて説明したが、該コイル補助部材の特性としては、その他例えば、ウェッジの他の特性や、スペーサや縛り紐等の曲げ弾性率等の特性が挙げられる。
【0065】
その他、本発明は上記実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、コイル補助部材としてウェッジ、スペーサ及び縛り紐を用いたが、コイルを補助可能であれば、その他の部材を用いることもできる。
【0066】
以下、コイル補助部材の特性についてさらに試験例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0067】
[試験例]
熱硬化性樹脂が含有された試料1〜5、及び、熱可塑性樹脂が含有された試料6、7について、JIS K 7171に準拠して、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を作成した。各試料をそれぞれ耐圧容器(試料採取用ボンベ:Swagelok社製、型番304L−HDF8−1000)に封入し、さらに該耐圧容器に予め準備された液化DMEを封入した。そして、各試料及び液化DMEが封入された耐圧容器を−30℃に設定された恒温槽に浸漬させると共に、該耐圧容器内の圧力を1気圧に調整することによって、各試料を1気圧、−30℃の環境下で液化DMEに浸漬させた。
【0068】
かかる環境下で各試料を液化DMEに1000時間浸漬させた後、耐圧容器を開封して各試料を取り出し、取り出し直後、及び、取り出してから大気圧、室温の環境下で1週間(168時間)経過した後においてそれぞれ、各試料の曲げ弾性率を、大気圧、室温の環境下で測定した。
【0069】
また、各試料の測定結果について、取り出し直後の各試料の曲げ弾性率と、取り出しから1週間経過後の曲げ弾性率との比率を、比率=(取り出し直後の曲げ弾性率)/(取り出しから1週間経過後の曲げ弾性率)×100(%)によって算出した。この結果を、表1及び図3に示す。なお、表1において、上記比率が100%±30%の範囲内の場合を「○」と判定し、100%±30%の範囲を超える場合を「×」と判定した。
【表1】

【0070】
表1及び図3に示すように、熱硬化性樹脂を母剤樹脂として含有する試料1〜5では、取り出し直後の曲げ弾性率と取り出しから1週間経過後の曲げ弾性率とによって算出された上記比率が100%に近く、取り出し直後と1週間経過後とで曲げ弾性率の差が小さかった。従って、試料1〜5の材料を用いてコイル補助部材を形成することにより、液化DMEから取り出し後の経過時間にかかわらず、該コイル補助部材の曲げ弾性率の変化を抑制できることがわかった。さらに、コイル補助部材の曲げ弾性率の変化に影響を受けるサブマージドモータ1の特性も、液化DMEからの取り出し後の経過時間にかかわらず、液化DMEに浸漬された状態をそのまま反映して、取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することが可能であることが、わかった。
【0071】
これに対し、熱可塑性樹脂を用いた試料6、7では、上記比率がそれぞれ68%、21%であり、取り出し直後と1週間経過後とで曲げ弾性率の差が大きかった。従って、液化DMEからの取り出し後の曲げ弾性率が経過時間に影響されるため、サブマージドモータ1の特性を、取り出し後の検査において高い信頼性をもって評価することができないことが、わかった。
【符号の説明】
【0072】
1:浸漬型モータ(サブマージドモータ)、3:ステータ、5:スロット、9:コイル、11:ローター、13:ウェッジ(コイル補助部材)、15:スペーサ(コイル補助部材)、17:縛り紐(コイル補助部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスに浸漬されるサブマージドモータに備えられたコイルを補助するように構成されたコイル補助部材であって、
熱硬化性樹脂が含有されてなることを特徴とするコイル補助部材。
【請求項2】
前記液化ガスは液化ジメチルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のコイル補助部材。
【請求項3】
前記液化ガスに1000時間浸漬された状態から取り出し後1週間経過後の曲げ弾性率に対する取り出し直後の曲げ弾性率の比率が100%±30%の範囲内である材料が用いられて構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のコイル補助部材。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂またはこれらの混合樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコイル補助部材。
【請求項5】
補強用固形材がさらに含有されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコイル補助部材。
【請求項6】
前記補強用固形材は、無機材料またはセルロース系材料であることを特徴とする請求項5に記載のコイル補助部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載されたコイル補助部材を用いたサブマージドモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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