説明

コイル部品及びそのインダクタンス設定方法

【課題】センターコアのギャップを調整することなく、インダクタンスを所望の値に設定することができるコイル部品を提供する。
【解決手段】一対の平板部3が所定のギャップGで平行に配置されたコア1と、軸が平板部3と垂直になるようにギャップGに配置された巻線4とを具備し、巻線4から発生した磁束の通路として、コア1によってギャップGを含む閉磁路が形成される。ギャップGが1cm以下に設定すると良い。巻線4は、ボビン5a、5bに巻き回してたものや、シートコイルを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉磁路型コアを有するコイル部品及びそのインダクタンス設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高密度での実装化が進んでいるため、電源回路に用いるリアクトル、トランス等のコイル部品からの漏洩磁束が他の部品に与える影響を無視できない。また、電子機器の薄型化に伴い、コイル部品を薄型化することが要求されている。そこで、漏洩磁束を低減することができる閉磁路型で薄型のコイル部品が求められている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
閉磁路型のコイル部品には、例えば、図6に示すように、フェライト等の磁性体からなり、センターコアとなる中脚部11と一対の外脚部12とを有する断面がE形状のE型コア10が用いられる。このE型コア10を2個用いて、互いの中脚部11及び外脚部12が対向するように上下に重ね合わせることで、閉磁路が形成される。すなわち、図示しない巻線はセンターコアである中脚部11を中心にして巻き回され、巻線から発生した磁束が、図6に点線矢印で示す閉磁路を透過するように構成されている。
【0004】
特許文献1、2や図6に示すような従来の閉磁路型のコイル部品においては、少なくとも、センターコアがあり、センターコアのギャップGを調整することで、インダクタンスを所望の値に設定している。センターコアのギャップGの調整は、図6(a)に示すように、対向する外脚部12間にインダクタンス調整用スペーサ20を設けたり、図6(b)に示すように、中脚部11を削ったりすることで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−77239号
【特許文献2】特許第4176755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、センターコアのギャップGの調整のために、図6(a)に示すように、インダクタンス調整用スペーサ20を設ける場合には、インダクタンス調整用スペーサ20によって高さが変わるので薄型のコイル部品に適用することが困難であり、図6(b)に示すように、中脚部11を削る場合には、製造工程が煩雑になり、汎用性がなく、コスト高になってしまうという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、従来技術の問題を解決し、センターコアのギャップを調整することなく、インダクタンスを所望の値に設定することができるコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコイル部品は、一対の平板部が所定のギャップで平行に配置されたコアと、軸が前記平板部と垂直になるように前記ギャップに配置された巻線とを具備し、前記巻線から発生した磁束の通路として、前記コアによって前記ギャップを含む閉磁路が形成されることを特微とする。
さらに、本発明のコイル部品は、前記ギャップが1cm以下に設定されていることを特徴とする。
さらに、本発明のコイル部品において、前記巻線は、ボビンに巻き回されていることを特徴とする。
または、本発明のコイル部品において、前記巻線は、シートコイルからなることを特徴とする。
また、本発明のコイル部品のインダクタンス設定方法は、一対の平板部が所定のギャップで平行に配置されたコアと、軸が前記平板部と垂直になるように前記ギャップに配置された巻線とを具備し、前記巻線から発生した磁束の通路として、前記コアによって前記ギャップを含む閉磁路が形成されるコイル部品において、前記巻線の内径面積を調整することで、インダクタンスの値を設定することを特徴とする
さらに、本発明のコイル部品のインダクタンス設定方法において、前記巻線は、ボビンに巻き回されており、前記ボビンの巻芯の外周を変更することで、インダクタンスの値を設定することを特徴とする。
または、本発明のコイル部品のインダクタンス設定方法において、前記巻線は、シートコイルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一対の平板部が所定のギャップで平行に配置されたコアと、軸が平板部と垂直になるようにギャップに配置された巻線とを具備し、巻線から発生した磁束の通路として、コアによってギャップを含む閉磁路が形成されるように構成することにより、巻線の内径面積を調整することで、センターコアのギャップを調整することなく、インダクタンスを所望の値に簡単に設定することができ、薄型化、低背化及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るコイル部品の実施の形態の構成を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は(a)に示すX−X’断面である。
【図2】図1に示す巻線の巻き回し例を説明するための断面模式図である。
【図3】図1に示す巻線によって発生した磁束の通路を説明するための断面模式図である。
【図4】図1に示す巻線の内径とインダクタンスの値との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るコイル部品の実施の形態におけるインダクタンスの値の電流重畳特性を示すグラフである。
【図6】従来のコイル部品の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
本実施の形態のコイル部品は、図1を参照すると、上側コア1aと当該上側コア1aと同形状の下側コア1bとからなる閉磁路型のコア1と、巻線4とを備えている。
【0012】
上側コア1a及び下側コア1bは、フェライト等の磁性材料からなり、外脚部2と平板部3とから構成されている。上側コア1a及び下側コア1bの平板部3は、図1(a)に示すように、円板の一部に切り欠きが形成され、且つ円板の中心Cに対して点対称な形状であり、円板の外縁部に平板部3に対してほぼ垂直に立設された外脚部2が形成されている。従って、平板部3の中心Cを通って外脚部2が形成された箇所を切断する図1(a)に示すX−X’断面図は、図1(b)に示すように、一対の外脚部2が平板部3によって接続された皿形状となっている。上側コア1a及び下側コア1bは、互いの外脚部2が対向するように上下に重ね合わせて用いられ、これにより、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3とが平行に配置され、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3との間にギャップGが形成される。なお、図1(a)に示す平板部3の形状は、一例であり、切り欠きがない円板状しても良く、さらに、互いに対向する外脚部2によってギャップGが形成されるならば、円板の中心Cに対して非対称な形状を採用しても良い。あるいは、円板の中心Cに対して角型形状を採用しても良い。また、本実施の形態では、上側コア1aと下側コア1bとを同形状に構成したが、上側コア1aと下側コア1bとで外脚部2の長さを変えても良く、上側コア1aもしくは下側コア1bの一方を平板部3のみからなる板状コアにしても良い。
【0013】
巻線4は、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3との間の空隙に、軸が平板部3に対して垂直になるように、平板部3の中心Cを中心にして巻き回されている。また、本実施の形態において、ギャップGは、1cm以下、好ましくは5mm以下に設定されている。すなわち上側コア1a及び下側コア1bの外脚部2の長さの合計が、1cm以下、好ましくは5mm以下に設定されている。これにより、センターコアがなくても、巻線4によって発生した磁束の通路として、「ギャップG」−「上側コア1a」−「上側コア1aの外脚部2」−「下側コア1bの外脚部2」−「下側コア1b」からなる閉磁路が形成される。
【0014】
巻線4は、図2(a)に示すように、例えば、ボビン5aを用いて巻き回すことができる。ボビン5aは、例えは絶縁体である樹脂体からなり、巻芯部51aに巻線4が巻き回され、巻芯部51aによって巻線4の内径が決まる。なお、巻線4として、シートコイル(プリント基板による積層コイル)、例えば両面又は片面のフレキシブルプリント配線板にスパイラル状の平面コイルが形成されたものや、融着性絶縁導線を巻き回して固着させた融着コイルを用いても良い。巻線4としてシートコイルを用いることでより薄型化、低背化及び低コスト化を実現することができる。また、プリント基板に平面コイルを他の素子と共に形成し、平面コイルが形成された箇所に上側コア1aと下側コア1bとを取り付けてコイル部品を構成するようにしても良い。
【0015】
本実施の形態のコイル部品には、巻線4の中心に位置するセンターコアが形成されていない。従って、インダクタンスは、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3との間のギャップGの調整を行うことなく、巻線4の内径を調整することで所望の値に設定される。なお、巻線4の巻数によっても設定可能であるが、本実施の形態では、同一の巻数であっても、巻線4の内径を調整することでインダクタンスを所望の値に設定することができる。
【0016】
巻線4の内径の調整は、図2(b)に示すように、例えば、径の異なる巻芯部51bを有するボビン5bを用いる。図2(a)に示すボビン5aは、巻線4をコア中心部付近に巻き回すために用いられ、図2(b)に示すボビン5bは、巻線4を外脚部2付近に巻き回すために用いられる。なお、異なるボビンを用いることなく、図2(c)に示すように、ボビン5aの巻芯部51aに、巻きたい位置までバリアテープ6を巻き付け、巻線4の内径を変更するようにしても良い。また、製造上問題なければ、巻芯部51a、51bのみの構成としても良く、巻線4のみで構成しても良い。
【0017】
図3(a)は、図2(a)に示すボビン5aに巻線4が巻き回すことで、巻線4がコア中心部付近に巻き回され、巻線4の内径面積が小さく調整された例が示されている。このように、巻線4をコア中心部付近に巻き回す場合には、内径面積が小さくなるため、巻線4の内径を通る磁束が少なくなり、インダクタンスの値が小さくなる。すなわち、巻線4から発生した磁束は外脚部2に到達するまでにギャップGを通って巻線4に帰還する磁束Aと、外脚部2を通って巻線4に帰還する磁束Bに分かれる。そのため、巻線4の内径を通る磁束は、ギャップGが大きくなるためインダクタンスの値が小さくなる。
【0018】
図3(b)は、図2(b)に示すボビン5bに巻線4が巻き回すことで、巻線4が外脚部2付近に巻き回され、巻線4の内径面積が大きく調整された例が示されている。このように、巻線4を外脚部2付近に巻き回す場合には、内径面積が大きくなるため、内径を通る磁束が多くなり、インダクタンスの値が大きくなる。すなわち、巻線4から発生した磁束はほとんどがすぐ近くに存在する外脚部2を通ることになる。そのため、巻線4の内径を通る磁束は、図3(a)に示す巻線4がコア中心部付近に巻き回された例よりもギャップGが小さく見え、インダクタンスの値は大きくなる。
【0019】
このように、本実施の形態では、インダクタンスの値を低くしたいときは内径を小さくした巻線4を用い、インダクタンスの値を高くしたいときは内径を広げた巻線4を用いるように構成し、インダクタンスの値は巻線4の内径面積にほぼ比例して決定される。
【実施例1】
【0020】
[表1]に示すように、センターコアが存在しない同一のコアを使用し、巻線4の内径半径を異ならせた試作イ〜ニを製作し、試作イ〜ニのそれぞれについてインダクタンスの値を測定した。なお、試作イ〜ニにおいて巻き線4の電線は全て同じ条件のものを用いた。
【0021】
【表1】

【0022】
図4(a)は、試作イ〜ニにおいて巻線4の内径半径とインダクタンスの値との関係を示すグラフであり、図4(b)は、試作イ〜ニにおいて巻線4の内径面積とインダクタンスの値との関係を示すグラフである。
【0023】
図4(a)を参照すると、巻線4の内径半径が大きくなるほどインダクタンスの値も大きくなることが分かり、図4(b)を参照すると、巻線4の内径面積とインダクタンスの値とがほぼ比例していることがわかる。
【実施例2】
【0024】
[表2]に示すように、センターコアが存在しない同一のコアを使用し、巻線4の内径半径を異ならせた試作A、Bを製作し、試作A、Bのそれぞれについてインダクタンスの値の電流重畳特性を測定した。なお、試作A、Bにおいて巻き線4の電線は全て同じ条件のものを用いた。
【0025】
【表2】

【0026】
図5には、試作A、Bにおけるインダクタンスの値の電流重畳特性が示されている。図5において、インダクタンスの値が−20%になるときのインダクタンスの値と電流値と、
コア1のコア断面積を一定とし、巻線4の巻数を50としたときの磁束密度とを[表3]に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
[表3]によると、試作A、Bの磁束密度はほぼ同一の値となり、インダクタンスの値と直流重畳特性の関係は、インダクタンスの値*直流重畳電流が一定の関係になっていると言える。これは、コアのNI(巻数*重畳電流)とギャップG(センターコアレスなので固定値)が固定されているので一定の値になっているものと考えられる。
【0029】
以上説明したように本実施の形態によれば、一対の平板部3が所定のギャップGで平行に配置されたコア1と、軸が平板部3と垂直になるようにギャップGに配置された巻線4とを具備し、巻線4から発生した磁束の通路として、コア1によってギャップGを含む閉磁路が形成されるように構成することにより、巻線4の内径面積を調整することで、センターコアのギャップを調整することなく、インダクタンスを所望の値に簡単に設定することができ、薄型化、低背化及び低コスト化を実現することができるという効果を奏する。
【0030】
また、本実施の形態によれば、巻線4をボビン5a、5bに巻き回すように構成することにより、ボビン5a、5bの巻芯51a、51bの外周を変更することで、簡単に巻線4の内径面積を調整することができ、インダクタンスの値の設定を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0031】
なお、本実施の形態では、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3との間の空隙に1個の巻線4を配置するように構成したが、上側コア1aの平板部3と下側コア1bの平板部3との間の空隙に複数の巻線4を配置させたトランス構造としても良い。
【0032】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付している。
【符号の説明】
【0033】
1 コア
1a 上側コア
1b 下側コア
2 外脚部
3 平板部
4 巻線
5a、5b ボビン
51a、51b 巻芯部
6 バリアテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の平板部が所定のギャップで平行に配置されたコアと、
軸が前記平板部と垂直になるように前記ギャップに配置された巻線とを具備し、
前記巻線から発生した磁束の通路として、前記コアによって前記ギャップを含む閉磁路が形成されることを特微とするコイル部品。
【請求項2】
前記ギャップが1cm以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載のコイル部品。
【請求項3】
前記巻線は、ボビンに巻き回されていることを特徴とする請求項1又は2記載のコイル部品。
【請求項4】
前記巻線は、シートコイルからなることを特徴とする請求項1又は2記載のコイル部品。
【請求項5】
一対の平板部が所定のギャップで平行に配置されたコアと、
軸が前記平板部と垂直になるように前記ギャップに配置された巻線とを具備し、
前記巻線から発生した磁束の通路として、前記コアによって前記ギャップを含む閉磁路が形成されるコイル部品において、
前記巻線の内径面積を調整することで、インダクタンスの値を設定することを特徴とするコイル部品のインダクタンス設定方法。
【請求項6】
前記巻線は、ボビンに巻き回されており、
前記ボビンの巻芯の外周を変更することで、インダクタンスの値を設定することを特徴とする請求項5記載のコイル部品のインダクタンス設定方法。
【請求項7】
前記巻線は、シートコイルからなることを特徴とする請求項5記載のコイル部品のインダクタンス設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−8837(P2013−8837A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140479(P2011−140479)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】