説明

コネクタの引き抜き治具

【課題】コネクタの意図しない離脱を防止しつつ高密度実装を可能とするコネクタの引き抜き治具を提供する。
【解決手段】光レセプタクルに係合するロックレバー30と、ロックレバー30を内側に押し下げる操作部31とを有する光コネクタ10を、光レセプタクルから取り外す際に、光コネクタ10に装着される引き抜き治具41であって、光コネクタ10への装着によって操作部31に摺接しながら操作部31を押下するテーパ面部51と、テーパ面部51と対向する位置に設けられてテーパ面部51による操作部31の押下時の反力を光コネクタ10に接触して支える受け部44aと、光コネクタ10の光レセプタクルに対する挿抜方向に沿って形成されて光コネクタ10から延びる光ファイバケーブル11が挿通可能なスリット55とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レセプタクルに接続されたコネクタを引き抜く際に用いられるコネクタの引き抜き治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、配線盤等に設けられたレセプタクルに接続されるコネクタは、レセプタクルとの接続状態を維持するために、レセプタクルに係合するロックレバーを有している。また、コネクタは、ロックレバーを押下してレセプタクルとの係合を解除させる操作部を備えており、作業者は、コネクタをレセプタクルから外す際に、操作部を押下しながらコネクタを把持してレセプタクルから引き抜くこととなる。したがって、レセプタクルの周囲には、作業者が操作部を押下しながらコネクタを把持することが可能なスペースを確保しておく必要がある。
【0003】
近年では、高密度通信のために光通信が用いられているが、このような光通信に用いられる光コネクタにおいて、光レセプタクルとの接続箇所の周囲に大きな作業スペースを確保すると、配線盤等における高密度実装ができず、高密度通信が困難となる。
このため、光コネクタの周囲に支障物品が配置されていても、光コネクタをアダプタ又は光送受信モジュール等の相手側から直ちに、かつ、簡便にロック解除することができる光コネクタのロック解除装置が考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この光コネクタのロック解除装置では、光コネクタは、ハウジングの本体部と、ハウジングの本体部と一体に形成され、かつ、相手側との嵌合状態をロックされる被ロック部が設けられたロックレバーと、ハウジングに嵌合離脱方向にスライド可能に保持されるスライドカバーとを有する。ロックレバーは、被ロック部のロック解除を行うために被操作部を有し、かつ、スライドカバーの操作方向と直交する方向に弾性変形する。スライドカバーは、ハウジングにスライド可能に保持される本体部と、本体部から離脱方向に延設された操作部とを有し、スライドカバーの本体部は、ロックレバーの被操作部と当接して操作する当接部を有する。スライドカバーの操作部を離脱方向に操作すると、当接部がロックレバーの被操作部を操作して被ロック部のロック解除を行い、かつ、光コネクタが相手側から離脱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3869411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の装置は、レセプタクルとの接続状態でスライドカバーの操作部がコネクタの後方に突出しているため、この操作部に配線を引っ掛けるおそれがある。配線が操作部に引っ掛かると、操作部がコネクタの後方である離脱方向に引っ張られ、コネクタがレセプタクルから意図せず離脱し、通信不良や装置の動作に不具合を発生させる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、コネクタの意図しない離脱を防止しつつ高密度実装を可能とするコネクタの引き抜き治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明のコネクタの引き抜き治具は、レセプタクルに係合するロックレバーと、前記ロックレバーを内側に押し下げる操作部とを有するコネクタを、前記レセプタクルから取り外す際に、前記コネクタに装着されるコネクタの引き抜き治具であって、
前記コネクタへの装着によって前記操作部に摺接しながら前記操作部を押下するテーパ面部と、前記テーパ面部と対向する位置に設けられて前記テーパ面部による前記操作部の押下時の反力を前記コネクタに接触して支える受け部と、前記コネクタの前記レセプタクルに対する挿抜方向に沿って形成されて前記コネクタから延びるコードが挿通可能なスリットとを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明のコネクタの引き抜き治具において、前記コネクタへの装着によって前記コネクタの外面に形成された突起に係合し、前記コネクタの前記レセプタクル側への移動を規制する係合爪を有することが好ましい。
【0010】
本発明のコネクタの引き抜き治具において、前記コネクタへの装着側と反対側に、前記コネクタが取り外される開口部を有することが好ましい。
【0011】
本発明のコネクタの引き抜き治具において、前記コネクタの前記レセプタクルからの取り外し方向へ延在する把持部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引き抜き治具をコネクタに装着するだけで、ロックレバーの操作部がテーパ面部によって押下され、レセプタクルに対するロックレバーの係止が解除される。このとき、テーパ面部が操作部を押下する際の反力は、受け部がコネクタに接触して支えるので、操作部の押下が確実に行われる。このように、引き抜き治具を用いれば、ロックレバーの操作部を指で押下する必要がないので、レセプタクルの周囲に、作業者がロックレバーの操作部を押下しながらコネクタを把持するためのスペースを確保する必要がなくなり、高密度実装が可能である。
【0013】
しかも、この引き抜き治具は、コネクタをレセプタクルから引き抜くときだけに装着するものであるので、引き抜き治具が予めコネクタに装着されているものと比較して、誤って引き抜き治具が配線に引っ掛かり、引き抜き治具によってコネクタがレセプタクルから意図せず離脱して通信不良や装置の動作に不具合が生じるようなこともない。つまり、必要なときだけにコネクタに対して装着し、レセプタクルとの係合状態を容易に解除させ、レセプタクルから容易に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る引き抜き治具及び引き抜き治具によって引き抜かれる光コネクタの斜視図である。
【図2】図1の引き抜き治具の縦断面図である。
【図3】図1の引き抜き治具を下方側から見た水平方向の断面図である。
【図4】図1の引き抜き治具を上方側から見た水平方向の断面図である。
【図5】光コネクタの引き抜き作業を示す図であって、(a)から(c)はそれぞれ斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るコネクタの引き抜き治具の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。なお、コネクタとして、光コネクタを例示して説明する。
まず、本実施形態に係る引き抜き治具が用いられる光コネクタについて説明する。
【0016】
図1に示すように、光コネクタ(コネクタ)10は、光ファイバケーブル(コード)11の端部に設けられている。この光コネクタ10は、光通信機器の光レセプタクル(図示省略)に対して着脱可能であり、この光コネクタ10を、光コネクタ10の前方側である挿し込み方向(図1中矢印A方向)へ向かって光レセプタクルに挿し込むことにより、光ファイバケーブル11が機器に接続される。
【0017】
この光コネクタ10が装着された光ファイバケーブル11は、例えば2本の光ファイバ心線を有する2心ケーブルである。
光コネクタ10は、合成樹脂製のハウジング21を有している。このハウジング21には、その後端にブーツ22が形成されており、ハウジング21の近傍における光ファイバケーブル11が、ブーツ22によって覆われて保護されている。
【0018】
ハウジング21には、その先端に、光配線盤等の機器の光レセプタクルに対して挿抜されるプラグ部25が設けられている。ハウジング21には、光ファイバケーブル11の光ファイバ心線がそれぞれ接続されたフェルール27が収容されており、これらのフェルール27が、ハウジング21のプラグ部25の先端から突出されている。
【0019】
ハウジング21の上面には、ハウジング21との連結箇所を基端として弾性変形可能な片持ち梁状のロックレバー30が設けられている。ロックレバー30は、爪部30aを有しており、この爪部30aが光レセプタクルに形成された係合部(図示省略)に係合することにより、光コネクタ10の光レセプタクルからの脱落が防止される。このロックレバー30には、操作部31が設けられており、この操作部31を押下することにより、ロックレバー30が内側に押し下げられる。すると、光レセプタクルに対する爪部30aの係合状態が解除され、光レセプタクルからの光コネクタ10の引き抜きが可能となる。
また、光コネクタ10のハウジング21には、その両側面からなる外面に、それぞれ突起33が形成されている。
【0020】
上記の光コネクタ10は、そのプラグ部25が光レセプタクルへ向けて光レセプタクルに挿し込まれる。すると、このプラグ部25に設けられたフェルール27の端面が、光レセプタクル側のフェルール(図示省略)の端面に当接されること等により、光コネクタ10及び光ファイバケーブル11を介して他の機器との光通信が可能となる。
【0021】
次に、本実施形態に係る引き抜き治具について説明する。
図1から図4に示すように、引き抜き治具41は、例えば、合成樹脂から一体成形されたものであり、使用時には、光コネクタ10に対してその後方側から装着される。引き抜き治具41は、その先端側が開口されており、この開口された部分が装着口46とされている。そして、この引き抜き治具41を光コネクタ10の後方側から光コネクタ10側へ移動させることにより、装着口46から光コネクタ10が嵌め込まれ、引き抜き治具41が光コネクタ10の外周に装着される。また、引き抜き治具41には、光コネクタ10への装着側と反対側である後方側に、光コネクタ10が取り外される開口部47を有しており、装着された光コネクタ10を、引き抜き治具41の開口部47から取り外すことができるようになっている。
【0022】
引き抜き治具41は、上面板42を有しており、この上面板42の両側部に、側面板43が設けられ、さらに、側面板43の下縁に下面板44が設けられている。
【0023】
上面板42は、先端側における内面側に、テーパ面部51を有している。このテーパ面部51は、光コネクタ10への引き抜き治具41の装着方向(図1中矢印B方向)と反対方向へ向かって次第に内方へ傾斜されている。これにより、光コネクタ10へ引き抜き治具41を装着させると、このテーパ面部51が光コネクタ10のロックレバー30の操作部31に摺接しながら、操作部31を押下する。
【0024】
また、上面板42には、その後端側に、光コネクタ10の光レセプタクルからの取り外し方向である後方へ向かって延在する把持部52が形成されている。この把持部52は、作業者に把持されるものであり、その後端近傍における上面側には、指でつまんで把持した際に、指に係止される突部53が形成されている。
【0025】
図4に示すように、下面板44には、光コネクタ10の光レセプタクルに対する挿抜方向に沿ってスリット55が形成されており、光コネクタ10の後端から延びる光ファイバケーブル11が挿通可能とされている。これにより、引き抜き治具41を図1中矢印C方向へ移動させてスリット55に光ファイバケーブル11を通すことにより、引き抜き治具41を光コネクタ10の後方側から光コネクタ10に装着させることが可能となる。
【0026】
また、下面板44は、スリット55を形成することで分割され、これらの分割された部分が、受け部44aとして機能する。これらの受け部44aは、光コネクタ10へ引き抜き治具41を装着させることにより、光コネクタ10の外周に接触して、テーパ面部51が光コネクタ10のロックレバー30の操作部31を押下する際の反力を受けて支える。
【0027】
また、引き抜き治具41は、その先端側におけるそれぞれの側面板43に、内方へ突出する係合爪57を有している。これらの係合爪57の上下には、切り込み部58が形成されており、係合爪57が容易に弾性変形可能とされている。これらの係合爪57は、光コネクタ10への引き抜き治具41の装着方向(図1中矢印B方向)と反対方向へ向かって次第に内方へ傾斜されたテーパ面57aを有している。これにより、光コネクタ10へ引き抜き治具41を装着させる際に、このテーパ面57aが光コネクタ10の両側面に形成された突起33に摺接して弾性変形し、その後、突起33を超えて復元する。そして、これらの係合爪57が、光コネクタ10のそれぞれの突起33に係合する。
【0028】
次に、上記の引き抜き治具41によって光レセプタクルに接続されている光コネクタ10を引き抜く方法について説明する。
図5(a)に示すように、まず、引き抜き治具41のスリット55に光ファイバケーブル11を通して引き抜き治具41内に光ファイバケーブル11を配置させ、引き抜き治具41を光コネクタ10の後方に配置させる。
【0029】
この状態から、引き抜き治具41を光コネクタ10側(図5(a)中矢印B方向)へ移動させることにより、装着口46から引き抜き治具41内に光コネクタ10を挿入させ、図5(b)に示すように、光コネクタ10に、その後方側から装着させる。
【0030】
このようにすると、上面板42のテーパ面部51が光コネクタ10のロックレバー30の操作部31に摺接する。すると、ロックレバー30の操作部31は、テーパ面部51のテーパに沿って押下されることとなり、光レセプタクルに対するロックレバー30の爪部30aの係止が解除される。
このとき、テーパ面部51が光コネクタ10のロックレバー30の操作部31を押下する際の反力は、下面板44からなる受け部44aによって確実に受け止められるので、操作部31は確実に押下される。
【0031】
また、引き抜き治具41の係合爪57のテーパ面57aが光コネクタ10の突起33に当接して摺接することにより、係合爪57が一旦外側へ弾性変形され、突起33を超えた時点で復元して内側へ変位する。これにより、これらの係合爪57が、光コネクタ10のそれぞれの突起33に係合した状態となる。
【0032】
この状態で、引き抜き治具41の後方へ延在する把持部52を指でつまんで把持し、光コネクタ10の取り外し方向である後方へ引っ張る。
これにより、ロックレバー30の爪部30aによる光レセプタクル側との係合が解除され、さらに、係合爪57によって前方への移動が規制された光コネクタ10を、引き抜き治具41とともに後方へ移動させ、光レセプタクルから引き抜いて接続を解除させることができる。
【0033】
その後、図5(c)に示すように、引き抜き治具41に対して光コネクタ10を、係合爪57によって移動が規制されている前方側と逆方向(図5(c)中矢印D方向)である後方側へ移動させる。すると、光コネクタ10を、引き抜き治具41の後方側の開口部47から円滑に取り出すことができる。
【0034】
このように、本実施形態に係るコネクタの引き抜き治具41によれば、光コネクタ10に装着するだけで、ロックレバー30の操作部31がテーパ面部51によって押下され、光レセプタクルに対するロックレバー30の係止が解除される。このとき、テーパ面部51が光コネクタ10のロックレバー30の操作部31を押下する際の反力は、下面板44からなる受け部44aが光コネクタ10に接触して支えるので、操作部31の押下が確実に行われる。このように、引き抜き治具41を用いれば、ロックレバー30の操作部31を作業者の指で押下する必要がないので、光レセプタクルの周囲に、作業者がロックレバー30の操作部31を押下しながら光コネクタ10を把持するためのスペースを確保する必要がなく、高密度実装が可能である。
【0035】
また、引き抜き治具41は、光コネクタ10を光レセプタクルから引き抜くときだけに装着するものであるので、引き抜き治具が予め光コネクタに装着されているものと比較して、誤って引き抜き治具が配線に引っ掛かり、光コネクタ10が光レセプタクルから意図せず離脱して通信不良や装置の動作に不具合が生じるようなこともない。つまり、必要なときだけ光コネクタ10に対して省スペースで装着し、光レセプタクルとの係合状態を容易に解除させ、光レセプタクルから容易に取り外すことができる。
【0036】
また、引き抜き治具41は、光コネクタ10の光レセプタクルからの取り外し方向へ延在する把持部52を有しているので、高密度実装により、周囲に他の光コネクタ10が配置されていても、把持部52を把持して引っ張ることで、所定の光コネクタ10を光レセプタクルから容易に取り外すことができる。
【0037】
なお、把持部52は、必ずしも一体成形によって設ける必要はなく、例えば、紐状の把持部52を上面板42に連結しても良い。
また、上記の実施形態では、引き抜き治具41で引き抜くコネクタとして、光コネクタ10を例示したが、引き抜き治具41で引き抜くコネクタは、光コネクタに限らず、電線に接続される電気コネクタであってもよい。
【符号の説明】
【0038】
10:光コネクタ(コネクタ)、11:光ファイバケーブル(コード)、30:ロックレバー、31:操作部、33:突起、41:引き抜き治具、44a:受け部、47:開口部、51:テーパ面部、52:把持部、55:スリット、57:係合爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レセプタクルに係合するロックレバーと、前記ロックレバーを内側に押し下げる操作部とを有するコネクタを、前記レセプタクルから取り外す際に、前記コネクタに装着されるコネクタの引き抜き治具であって、
前記コネクタへの装着によって前記操作部に摺接しながら前記操作部を押下するテーパ面部と、前記テーパ面部と対向する位置に設けられて前記テーパ面部による前記操作部の押下時の反力を前記コネクタに接触して支える受け部と、前記コネクタの前記レセプタクルに対する挿抜方向に沿って形成されて前記コネクタから延びるコードが挿通可能なスリットとを備えることを特徴とするコネクタの引き抜き治具。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタの引き抜き治具であって、
前記コネクタへの装着によって前記コネクタの外面に形成された突起に係合し、前記コネクタの前記レセプタクル側への移動を規制する係合爪を有することを特徴とするコネクタの引き抜き治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコネクタの引き抜き治具であって、
前記コネクタへの装着側と反対側に、前記コネクタが取り外される開口部を有することを特徴とするコネクタの引き抜き治具。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のコネクタの引き抜き治具であって、
前記コネクタの前記レセプタクルからの取り外し方向へ延在する把持部を有することを特徴とするコネクタの引き抜き治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7938(P2013−7938A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141474(P2011−141474)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】