説明

コネクタ端子とその製造方法およびコネクタ

【課題】アルミニウム電線などの卑な金属が用いられている電線と接続されるコネクタ端子において、接点材料である貴な金属の剥離や電線の腐食などの発生を抑制することにより、電気特性の劣化を招くことなく安定して低い接触抵抗を得ると共に、電線の断線や接続不良などの発生を充分に抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子であって、基材上に電線の金属よりも貴な金属層が被覆され、さらに、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面部分に、電線と同等の卑な金属膜が被覆されているコネクタ端子。基材上に電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面部分に、電線と同等の卑な金属膜を被覆するコネクタ端子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ端子とその製造方法およびコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の軽量化のため車載機器に用いられる電気配線として、従来の銅線に加えてアルミニウム電線も使用されるようになっている。
【0003】
このため、銅系材料であるコネクタ端子とアルミニウム電線を電気的に接続する必要が生じている。
【0004】
しかし、アルミニウムと銅系材料が接触する箇所が、結露や水滴の飛散などによって濡れた場合、双方の金属で電極電位が異なるため、卑な金属であるアルミニウムがガルバニ腐食により減量し、最終的には接触不良や断線などを生じる恐れがある。
【0005】
即ち、電極電位が異なる2種類の金属(アルミニウムと銅またはその表面に施された錫めっきなど)が電解液に接している場合、卑な金属(アルミニウム)の表面から金属イオンが溶出(アノード反応)すると共に、貴な金属(銅または錫)の表面で余剰の電子が水中のイオンを中和(カソード反応)することにより、アルミニウムの溶解が連続するため、アルミニウムが単独で濡れた場合に比べ、アルミニウムの溶解がより速く進行する。
【0006】
そこで、アルミニウム表面を樹脂や塗料で保護したり、アルミニウム表面を貴な金属や腐食に強い導電性セラミックスで被覆したりすることにより、アルミニウムのガルバニ腐食を抑制する技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【0007】
アルミニウムのガルバニ腐食を抑制する方法としては、上記の他に、アルミニウムよりも貴な金属との接触を避けるという観点から、全ての金属材料をアルミニウムとすることも考えられる。しかし、例えば、コネクタ端子の嵌合接点をアルミニウムで形成した場合、振動や温度変化に伴う摺動、また長期保管などにより、アルミニウム表面に強固な絶縁性酸化被膜が生じて、接触抵抗の上昇を招くため、安定した電気的接続を得ることができない。
【0008】
そこで、全ての金属材料をアルミニウムとするのではなく、貴な金属と電解液との接触面積を小さくすることにより貴な金属側でのカソード反応を抑制して、ガルバニ腐食によるアルミニウムの溶解速度を遅くする技術が提案されている(例えば特許文献2)。
【0009】
具体的には、アルミニウム電線と銅製端子を接続させた端子において、銅の露出面積をアルミニウムの露出面積よりも小さくすることにより、電線の腐食を抑制する。即ち、端子表面の大部分をアルミニウムとし、相手方端子と接触する極狭い面積の部分をアルミニウムに対して貴な金属材料で形成する(例えば、錫めっき層を形成する)ことにより、接続されたアルミニウム電線の腐食が抑制され、断線や接続不良の発生を抑制することができるという技術が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記において、相手方端子との接点となる微小な錫めっきとアルミニウムとの境界付近が水と接触した場合、図5に示すように、錫めっき52とアルミニウム51の界面ではガルバニ腐食によりアルミニウム51の溶解が進行し、電気抵抗を上昇させるなどの性能劣化を招くと共に、最終的には錫めっき52が剥離してしまう。
【0011】
また、アルミニウムの表面には薄い酸化膜が存在しているため、アルミニウムの上に直接錫めっきを施すことが難しい。そこで、アルミニウム表面にニッケルを中間層として錫を積層することが提案されている(例えば、特許文献3)が、この場合には、めっき界面で露出する中間金属層や錫とアルミニウムとの間でガルバニ腐食が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平04−282514号公報
【特許文献2】特開2009−277674号公報
【特許文献3】特開平05−345969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、アルミニウム電線と銅製端子を接続した端子において、銅またはその表面に施された錫めっきなどの露出面積をアルミニウムの露出面積よりも小さくすることにより、電線の腐食を抑制する技術が種々提案されてきたが、上記したように従来の技術では、ガルバニ腐食の発生を充分に抑制することができず、接点材料の剥離、電気特性の劣化、断線、接続不良などの発生を抑制することができないという問題があった。
【0014】
このため、アルミニウム電線などの卑な金属が用いられている電線と接続されるコネクタ端子において、接点材料である貴な金属の剥離や電線の腐食などの発生を抑制することにより、電気特性の劣化を招くことなく安定して低い接触抵抗を得ると共に、電線の断線や接続不良などの発生を充分に抑制することができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、各請求項毎に本発明を説明する。
【0016】
請求項1に記載の発明は、
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層が被覆され、さらに、前記貴な金属層上の前記電気接点近傍を除いた表面部分に、前記電線と同等の卑な金属膜が被覆されていることを特徴とするコネクタ端子である。
【0017】
本請求項の発明においては、基材上に予め接点材料となる貴な金属層が形成され、さらに、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面部分に卑な金属層が形成されているため、従来と同様、端子表面の大部分が卑な金属層であり、電気接点近傍だけが貴な金属層であるという構造にされている。
【0018】
このように、端子表面の大部分が電線と同等の卑な金属膜で構成され、電気接点近傍の極狭い部分だけが貴な金属層で構成されていることにより、前記したように、貴な金属側でのカソード反応を抑制して、ガルバニ腐食による卑な金属の溶解速度を遅くすることができる。
【0019】
さらに、本請求項の発明においては、卑な金属膜が形成された基材上に小さな面積の貴な金属層が設けられた従来の構成とは異なり、基材上に予め貴な金属層が形成され、さらに、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面全体が卑な金属膜により被覆されているため、小さな開口部である電気接点近傍でガルバニ腐食が発生して周辺の卑な金属が溶け出したとしても、基材上に予め形成された貴な金属層が剥離することがない。
【0020】
このように、本請求項の発明によれば、特段の防水措置を講じることなく、卑な金属の溶解速度を遅くすることができると共に、接点材料である貴な金属の剥離を抑制して信頼性の高い接続を維持することができる。この結果、電線の腐食の進行を実用上ほとんど問題がない速度に抑制して断線や接続不良などの発生を充分に抑制することができると共に、電気特性の劣化を充分に抑制してコネクタ端子の接触抵抗を低いまま安定させることができる。
【0021】
そして、アルミニウムなどの卑な金属膜が最表面に被覆されているのは、前記の通り、電線金属の腐食を促進する貴な金属層を覆うことにより、電線金属の腐食を抑制するためであり、これらの卑な金属膜は端子接点への通電経路に含まれない。このため、これらの卑な金属膜は、電気特性に制約されず、高い電気抵抗を有していても問題がない。また、貴な金属層との密着性が確保できれば、純度や結晶性に制約されることもない。このため、アルミニウムなどの卑な金属によるコストアップは大きくはならない。
【0022】
請求項2に記載の発明は、
前記卑な金属膜が、アルミニウムであり、
前記貴な金属層が、錫、金、銀、白金、またはこれらの合金である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ端子である。
【0023】
電線としてアルミニウム電線を使用し、卑な金属膜としてアルミニウムを採用することにより機器全体の軽量化を図ることができる。
【0024】
また、錫、金、銀、白金やこれらの合金は電気伝導性に優れた材料であるため、相手方端子と接続される電気接点として用いることにより良好な電気的接続を得ることができる。
【0025】
そして、錫、金、銀、白金やこれらの合金の電極電位は、アルミニウムよりも貴な金属であるため、前記したコネクタ端子としての腐食防止の効果が顕著に発揮される。
【0026】
請求項3に記載の発明は、
前記基材が、銅、黄銅または銅合金で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコネクタ端子である。
【0027】
銅、黄銅、銅合金などは電気伝導性に優れると共にバネ性や成形性に優れているため、コネクタ端子の基材として好ましい。
【0028】
請求項4に記載の発明は、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ端子を備えていることを特徴とするコネクタである。
【0029】
前記したコネクタ端子を備えることにより、結露や水滴の付着などが考えられる環境においても、特段の防水措置を講じることなく、コネクタ端子の接触抵抗を低く安定させることができるため、信頼性の高い接続が安定したコネクタを提供することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子の製造方法であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、前記貴な金属層上の前記電気接点近傍を除いた表面部分に、前記電線と同等の卑な金属膜を被覆することを特徴とするコネクタ端子の製造方法である。
【0031】
前記のコネクタ端子を製造する場合、基材上に電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面部分に、電線と同等の卑な金属膜を被覆する方法が簡便であり、使用する材料の無駄も発生しない。
【0032】
また、例えばアルミニウムなどの金属表面の上に金、錫、銀などの金属層を形成しようとすると、アルミニウム表面には強固な酸化膜が存在して金属層との密着性を低下させるため、予め、この酸化膜を除去する工程が必要となるが、本請求項の発明においては、卑な金属膜の被覆工程は最後の工程であるため、前記した酸化膜の除去について考慮する必要がなく、製造工程も単純化することができる。
【0033】
これらのため、本請求項の発明を採用することにより、接触抵抗を低く安定させた信頼性が高いコネクタ端子を容易に低コストで製造することができる。
【0034】
なお、貴な金属層上の電気接点近傍を除いた表面部分に卑な金属膜を被覆する具体的な方法としては、例えば、予め、電気接点近傍をマスキングしておいて卑な金属膜の被覆を行う方法などが好ましく用いられる。
【0035】
請求項6に記載の発明は、
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子の製造方法であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、前記貴な金属層上に前記電線と同等の卑な金属膜を被覆し、さらにその後、前記電気接点近傍に相当する部分に被覆されている前記卑な金属膜を除去することにより前記貴な金属層を露出させることを特徴とするコネクタ端子の製造方法である。
【0036】
コネクタ端子の形状などによっては、前記のコネクタ端子の製造方法に替えて、貴な金属層の上に卑な金属膜を一様に被覆した後、電気接点近傍に相当する部分に被覆されている卑な金属膜を除去する本請求項の発明を採用する方が、製造の容易性などの面より好ましい。
【0037】
請求項7に記載の発明は、
前記卑な金属膜が、アルミニウムであり、
前記貴な金属層が、錫、金、銀、白金、またはこれらの合金である
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のコネクタ端子の製造方法である。
【0038】
前記したように、電線としてアルミニウム電線を使用し、卑な金属膜としてアルミニウムを採用することにより機器全体の軽量化を図ることができる。
【0039】
また、錫、金、銀、白金やこれらの合金は電気伝導性に優れた材料であるため、相手方端子と接続される電気接点として用いることにより良好な電気的接続を得ることができる。
【0040】
そして、前記した通り、錫、金、銀、白金やこれらの合金の電極電位は、アルミニウムよりも貴な金属であるため、前記したコネクタ端子としての腐食防止の効果が顕著に発揮される。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、アルミニウム電線などの卑な金属が用いられている電線と接続されるコネクタ端子において、接点材料である貴な金属の剥離や電線の腐食などの発生を抑制することにより、電気特性の劣化を招くことなく安定して低い接触抵抗を得ると共に、電線の断線や接続不良などの発生を充分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコネクタ端子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るコネクタ端子の腐食の進行を説明する図である。
【図3】実験例1の試験体の構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図4】比較例1の試験体の構成を模式的に示す平面図および断面図である。
【図5】従来のコネクタ端子の腐食の進行を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0044】
1.コネクタ端子の電気接点の構成
はじめに、本実施の形態に係るコネクタ端子の構成について、図1に基づき説明する。図1は、本実施の形態に係るコネクタ端子の構成を模式的に示す断面図であり、(a)はコネクタ端子の主要部を示す模式図、(b)は電気接点近傍((a)の○で囲んだ部分)を拡大して説明する模式図である。
【0045】
図1において、1aはメス端子、1bはオス端子であり、各端子には被覆材9aが剥離された電線9の端部が接合されている(メス端子1a側は図示せず)。そして、11a、11bは各端子における基材、12a、12bは各基材上に被覆された金属層、13a、13bは各金属層上に形成された金属膜である。なお、電線9としては、アルミニウム電線が好ましく用いられる。また、メス端子1aは図示しないハウジング内に収納されている。
【0046】
図1(a)に示すように、コネクタ端子は、メス端子1aとオス端子1bの一対で構成されており、オス端子1bをメス端子1aに嵌合することにより、電気接点14を介して互いに電気的に接続される。
【0047】
そして、図1(b)に示すように、各端子1a、1bは、基材11a、11bと金属層12a、12bおよび金属膜13a、13bを備えている。
【0048】
基材11a、11bとしては、銅、黄銅または銅合金製の基材が好ましく用いられる。厚さとしては、いずれも0.1〜1mm程度が好ましい。
【0049】
基材11a、11bの上に形成された金属層12a、12bは電線9の金属よりも貴な金属層であり、例えば、錫、金、銀、白金、またはこれらの合金の金属層が好ましく用いられる。これらの内でも、錫は安価であるためより好ましい。厚さとしては、いずれも1〜10μm程度が好ましい。
【0050】
金属層12a、12bの表面にはそれぞれ、電気接点14近傍の極狭い部分を除いて、電線9と同等の卑な金属膜13a、13b、例えばアルミニウム製の金属膜が形成されている。厚さとしては、いずれも1〜10μm程度が好ましい。
【0051】
以上のような構成とすることにより、電線9のガルバニ腐食を抑制することができると共に、電気接点14における各端子の電気特性の劣化を抑制することができる。
【0052】
これを図2に基づき説明する。図2は本実施の形態に係るコネクタ端子の腐食の進行を説明する図であり、基材21上に金属層22および金属膜23を設けることにより、端子2が構成されている。そして、端子導電部材2の最上面には、金属膜23の開口部24が設けられている。この開口部24が前記した電気接点近傍である。
【0053】
コネクタ端子2の表面が水と接触すると、開口部24の縁からガルバニ腐食により金属膜23の腐食が始まり、腐食の進行に伴い金属層22の露出面積が大きくなる。しかし、開口部24が極小さな面積に形成されているため、ガルバニ腐食による金属膜23の腐食は進行が遅く、金属層22の露出面積の増加速度も遅くなる。そして、金属層22と基材21の界面はなんら腐食を受けることがなく、金属層22も腐食されないため、金属層22の剥離や劣化が発生しない。
【0054】
そして、上記のように腐食されない金属層同士を電気接点において接触させて電気的に接続することにより、コネクタとしての電気特性に影響を与えることがなく、接触抵抗が低いまま安定した電気的接続を得ることができる。
【0055】
また、コネクタ端子2に接続された電線の露出部分と開口部24が同時に水に接触した場合にも、開口部24で露出している金属層22の面積が狭いので電線のガルバニ腐食を充分に抑制することができる。
【0056】
2.コネクタ端子の製造方法
次に、本実施の形態のコネクタ端子の製造方法について説明する。図1に示す各端子において電気接点近傍の金属層の形成方法としては、以下の2通りの方法のいずれかが好ましく用いられる。
【0057】
(1)金属層の表面に電気接点近傍を除いて金属膜を形成する方法
まず、基材11a、11bの表面に、めっきなどの方法を用いて所定の厚さの金属層12a、12bを形成する。その後、金属層12a、12bの表面の電気接点近傍に相当する部分を所定の形状、サイズを有するマスクを用いてマスキングした状態で、蒸着などの方法を用いて、所定の厚さの金属膜13a、13bを形成する。さらにその後プレス加工等で所定のコネクタ端子形状に加工する。
【0058】
(2)金属層の表面に金属膜を一様に形成後、電気接点近傍に相当する部分の金属膜を除去する方法
基材11a、11bの表面に、めっきなどの方法を用いて所定の厚さの金属層12a、12bを形成した後、さらに、蒸着などの方法を用いて所定の厚さの金属膜13a、13bを形成する。その後、研削などの方法を用いて電気接点近傍に相当する部分の金属膜13a、13bを除去することにより、金属層12a、12bを露出させる。さらにその後プレス加工等で所定のコネクタ端子形状に加工する。または所定のコネクタ形状に加工した後に電気接点近傍に相当する部分の金属膜13a、13bを除去してもよい。
【0059】
以下、実験例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0060】
A.実験例1
本実験例は、コネクタ端子としての基本的な構成を有する試験体を作製し、電気接点近傍における腐食の抑制を確認した実験例である。
【0061】
1.試験体の作製
以下に記載する方法により実験例1の試験体を作製した。図3は実験例1の試験体3の構成を模式的に示す平面図(a)及び断面図(b)であり、図3において、31は銅合金、32は錫層、33はアルミニウム膜、34はエポキシ樹脂製の保護層である。
【0062】
はじめに、厚さ0.3mmの銅合金31の表面に錫めっきを施し、厚さ1μmの錫層32を形成した。次に、錫層32の表面にメタルマスクを重ねた状態でアルミニウム蒸着を行い、厚さ2μmの純アルミニウムからなるアルミニウム膜33を形成すると共に幅1mmの帯状に錫層32を露出させた。次に錫層32の露出部分が短辺と平行になるように2×30mmのサイズに切り出した後、切断面および裏面にエポキシ樹脂を塗布、固化させることにより保護層34を形成し、実験例1の試験体3を作製した。
【0063】
(比較例1)
以下に記載する方法により比較例1の試験体を作製した。図4は比較例1の試験体4の構成を模式的に示す平面図(a)及び断面図(b)であり、図4において41はアルミニウム板、42はニッケル製の中間材、43は錫層である。
【0064】
はじめに、厚さ0.3mmのアルミニウム板41の表面に幅1mmの帯状にニッケル製の中間材42を形成し、次に中間材42の表面に厚さ1μmの錫層43を形成した。次に錫層43が短辺と平行になるように2×30mmのサイズに切り出し、比較例1の試験体を作製した。
【0065】
(比較例2)
厚さ0.3mmのアルミニウム板を2×30mmのサイズに切り出し、比較例2の試験体とした。
【0066】
2.耐食性の評価
(1)評価方法
実験例1、比較例1、比較例2の試験体をそれぞれ別の容器に入れ、5.8%のNaClと0.3%のHを含む水で満たした後、常温において100時間放置した。その後、各試験体を容器から取り出し、純水で洗浄後、乾燥させた。乾燥後の各試験体の表面を光学顕微鏡および走査電子顕微鏡を用いて観察すると共に、浸漬前後における重量変化からアルミニウムの腐食量を見積もった。
【0067】
(2)評価結果
実施例1の試験体においては、錫の露出部との境界付近のアルミニウムの縁に白色粉末が析出していたが、錫表面にはなんら変化が認められなかった。そして、アルミニウムの腐食は0.2μm以下と見積もられた。
【0068】
これに対して、比較例1の試験体においては、錫層が剥離しており、錫が露出していた周辺でアルミニウムが減少し、白色粉末が析出していた。また、比較例2の試験体においては、表面にはなんら変化が認められなかった。
【0069】
上記の評価結果より、実験例1の試験体は、水に濡れた状態にあっても充分にアルミニウムの腐食を抑制することができることが確認された。
【0070】
B.実験例2
本実験例は、コネクタ端子にアルミニウム電線が接合された試験体を作製し、アルミニウム電線の腐食の抑制を確認した実験例である。
【0071】
1.試験体の作製
実験例1と同じ錫層が形成された銅合金を用い、錫層の全面に厚さ2μmのアルミニウム層を蒸着により形成した。その後、プレス加工によりオス型のコネクタ端子を形成した。次に、断面積0.75mmのアルミニウムより線の一方の端部の被覆を7mm剥離し、得られたオス型のコネクタ端子に圧着した。そして、このオス型のコネクタ端子をメス型のコネクタ端子に嵌合したときに接触する部分のアルミニウム層を除去した。その後、アルミニウムより線の他方の端部にエポキシ樹脂を塗布、固化させて封止し、実験例2の試験体を作製した。
【0072】
(比較例3)
実験例1と同じ錫層が形成された銅合金を用いてプレス加工によりオス型のコネクタ端子を形成し、実験例2と同様にしてアルミニウムより線を圧着して比較例3の試験体を作製した。
【0073】
2.耐食性の評価
(1)評価方法
実験例1の評価方法と同様にNaClとHを含む水中に浸漬して、コネクタ端子の表面を観察すると共に、断線の有無を確認した。
【0074】
(2)評価結果
実験例2の試験体においては、アルミニウムより線の表面が変色していたものの、端子とアルミニウムより線間の導通は保たれていた。これに対して、比較例3の試験体においては、圧着部とアルミニウムより線の被覆との間の露出部分で腐食断線していた。
【0075】
上記の評価結果より、実験例2の試験体は、水に濡れた状態にあっても充分にアルミニウム電線の腐食を抑制することができることが確認された。
【0076】
これらの実験例より、基材上に貴な金属層が被覆され、さらに、この貴な金属層の上に電気接点近傍に相当する小さな面積の部分を除いて卑な金属膜が被覆されたコネクタ端子は、貴な金属層の剥離や電線の腐食などの発生を抑制することができ、電気特性の劣化を招くことなく安定して低い接触抵抗が得られることが確認された。
【0077】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1a メス端子
1b オス端子
2、5 コネクタ端子
3、4 試験体
9 電線
9a 被覆材
11a、11b、21 基材
12a、12b、22 金属層
13a、13b、23 金属膜
14 電気接点
24 開口部
31 銅合金
32、43 錫層
33 アルミニウム膜
34 保護層
41 アルミニウム板
42 中間材
51 アルミニウム
52 錫めっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層が被覆され、さらに、前記貴な金属層上の前記電気接点近傍を除いた表面部分に、前記電線と同等の卑な金属膜が被覆されていることを特徴とするコネクタ端子。
【請求項2】
前記卑な金属膜が、アルミニウムであり、
前記貴な金属層が、錫、金、銀、白金、またはこれらの合金である
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ端子。
【請求項3】
前記基材が、銅、黄銅または銅合金で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコネクタ端子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ端子を備えていることを特徴とするコネクタ。
【請求項5】
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子の製造方法であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、前記貴な金属層上の前記電気接点近傍を除いた表面部分に、前記電線と同等の卑な金属膜を被覆することを特徴とするコネクタ端子の製造方法。
【請求項6】
金属表面の一部が露出した電線と接合される電線接合部と、相手方端子と電気接点において接触することにより電気的に接続される端子接続部を有するコネクタ端子の製造方法であって、
基材上に前記電線の金属よりも貴な金属層を被覆し、その後、前記貴な金属層上に前記電線と同等の卑な金属膜を被覆し、さらにその後、前記電気接点近傍に相当する部分に被覆されている前記卑な金属膜を除去することにより前記貴な金属層を露出させることを特徴とするコネクタ端子の製造方法。
【請求項7】
前記卑な金属膜が、アルミニウムであり、
前記貴な金属層が、錫、金、銀、白金、またはこれらの合金である
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のコネクタ端子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−234651(P2012−234651A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100918(P2011−100918)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】