コネクタ
【課題】端子金具の誤挿入防止機能をより確実に発揮させる。
【解決手段】雌端子20が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、スタビライザ30が端子収容孔51における挿通路60が設けられた側とは反対側の孔縁の規制面64に当接することで雌端子20がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、端子収容孔51の規制面64には、逆挿入された雌端子20のスタビライザ30と係合して規制面64との掛かり代を増大させるべくスタビライザ30の立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部65が設けられている。
【解決手段】雌端子20が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、スタビライザ30が端子収容孔51における挿通路60が設けられた側とは反対側の孔縁の規制面64に当接することで雌端子20がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、端子収容孔51の規制面64には、逆挿入された雌端子20のスタビライザ30と係合して規制面64との掛かり代を増大させるべくスタビライザ30の立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部65が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具の逆挿入防止機能を備えたコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
端子金具の逆挿入防止機能を備えた個室防水型のコネクタの一例として、以下のようなものが知られている。このものは、電線の端末に端子金具とゴム栓とが装着され、端子金具には本体部の例えば底面の両側縁から左右一対のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、コネクタハウジングには、端子金具の本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に、ゴム栓が緊密に嵌着される拡径されたシール孔が連設されたキャビティが形成され、かつ端子挿入孔の底壁にはスタビライザの挿通を許容する一対の挿通路が設けられた構造である。
そして、端子金具がキャビティに対して正規姿勢で挿入された場合には、スタビライザが挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入され、併せてゴム栓がシール孔に緊密に嵌着されてシールされ、一方、端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、スタビライザが端子挿入孔における挿通路が設けられた側とは反対側である上側の孔縁部に当接することで、端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようになっている。
【0003】
ところで、このようなコネクタにおいても漸次小型化が要求されるところであり、そのための一対策として、ゴム栓並びに同ゴム栓が嵌着されるシール孔を小径とすることが提案されている。この場合、端子金具をキャビティに挿入する際に、スタビライザの立ち上がり端がシール孔の内周面と干渉して傷を付けないようにする必要があり、そこで従来では、左右一対のスタビライザを、各立ち上がり端が次第に接近するように内側に閉じた斜め姿勢に形成し、シール孔の内周面と干渉することを回避し得るような手段が講じられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−183342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記のようにスタビライザを斜め姿勢で形成したものでは、端子金具が逆挿入されてスタビライザが端子収容孔の孔縁部に当たったときに、倒れ方向に変形しやすく、孔縁部に対する掛かり代が確保できなくて引き続いて端子収容孔内に入ってしまう可能性があり、すなわち逆挿入防止機能が果たせない場合があった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、端子金具の誤挿入防止機能をより確実に発揮させるところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、端子金具と、この端子金具が挿入されるキャビティを設けたコネクタハウジングとを備え、前記端子金具は本体部の一面から逆挿入防止用のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、前記コネクタハウジングの前記キャビティは、前記端子金具の前記本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に拡径された入口部が連設され、かつ前記端子挿入孔の一面には前記スタビライザの挿通を許容する挿通路が設けられており、前記端子金具が正規姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入可能で、前記端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記端子挿入孔における前記挿通路が設けられた側とは反対側の孔縁部に当接することで前記端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、前記端子挿入孔の前記孔縁部には、逆挿入された前記端子金具の前記スタビライザと係合して前記孔縁部との掛かり代を増大させるべく前記スタビライザの立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部が設けられているところに特徴を有する。
【0007】
端子金具が上下逆転した姿勢で挿入されると、挿入の途中でスタビライザが姿勢変位部と係合して、孔縁部との掛かり代を増大させる向きに立ち上がり姿勢が変位させられ、係る状態で孔縁部に当接する。端子金具が誤挿入された場合に、スタビライザが端子挿入孔内に入り込むことがより確実に規制され、ひいては誤挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【0008】
また、以下のような構成としてもよい。
(1)前記端子金具の前記スタビライザが斜め姿勢で立ち上がり形成されている一方、前記姿勢変位部には、前記スタビライザと当接して同スタビライザを垂直姿勢に向けて変位させるテーパ面が形成されている。
スタビライザが斜め姿勢で形成されていることにより、例えばキャビティの入口部の内周面と干渉することが抑制される。端子金具が誤挿入された場合は、挿入の途中でスタビライザが姿勢変位部のテーパ面で案内されて垂直姿勢に変位し、すなわち大きな掛かり代を持って端子収容孔の孔縁部に当接する。端子金具が正規姿勢で挿入されたときはスタビライザによる傷付きを抑制した上で、逆挿入防止機能はより確実に発揮される。
【0009】
(2)前記スタビライザは、左右一対がそれぞれの立ち上がり端を次第に接近させた斜め姿勢で形成されているとともに、前記姿勢変位部は、左右一対が前記端子挿入孔の前記孔縁部から手前側に向けて突設され、前記各姿勢変位部の突出端の外側角部に前記テーパ面が形成されている。
端子金具が誤挿入されると、挿入の途中で両スタビライザが対応する姿勢変位部のテーパ面に当たり、テーパ面で案内されて垂直姿勢に向けて開くように変位し、垂直姿勢を取ったままで端子収容孔の孔縁部に突き当たる。各スタビライザが垂直姿勢に変わったことで孔縁部に対する掛かり代が大きく取られ、また、スタビライザの内側には姿勢変位部が位置していて、スタビライザが内方に傾くことが阻止されるから、端子金具の押し込み規制はより確実に行われる。
【0010】
(3)電線の端末には前記端子金具とその後方にゴム栓が装着されているとともに、前記コネクタハウジングにおける前記キャビティの前記入口部には、前記端子金具が前記キャビティ内に正規に挿入された場合に前記ゴム栓が緊密に嵌着可能となっている。
個室防水型のコネクタにおいて、端子金具が正規挿入された場合にスタビライザがシール孔の内周面に傷付けることを抑制し、すなわちシール性能を担保した上で、端子金具の逆挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコネクタによれば、端子金具の誤挿入をより確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る雌端子の斜視図
【図2】同平面図
【図3】同底面図
【図4】同側面図
【図5】同拡大正面図
【図6】同拡大背面図
【図7】図4のVII−VII線拡大断面図
【図8】雌ハウジングの斜視図
【図9】同平面図
【図10】同正面図
【図11】同背面図
【図12】図11のXII−XII線断面図
【図13】同斜視断面図
【図14】雌端子が正規挿入された場合の縦断面図
【図15】雌端子が逆挿入された場合の縦断面図
【図16】キャビティの形成部分の拡大背面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図16に基づいて説明する。この実施形態では、個室防水型のコネクタに適用した場合を例示している。
本実施形態のコネクタは、図14に示すように、電線10の端末に固着された図示2個の雌端子20と、これらの雌端子20を収容するコネクタハウジング40(以下、雌ハウジング40)とから構成されている。
【0014】
雌端子20について、図1ないし図7によって説明する。雌端子20は、導電性に優れた金属板をプレス加工することによって形成され、図1に示すように、相手の雄端子(図示せず)のタブが挿入接続される本体部21の後方に、電線10の端末に圧着されるワイヤバレル22とインシュレーションバレル23とが設けられている。
【0015】
本体部21は、前後方向に長い横長断面をなす角筒状に形成されており、同本体部21の四角には丸みが付けられている。本体部21内には、底板25の前縁から延出形成された舌片が山形に折り返された弾性接触片26が設けられているとともに、天井板27の内面には、前後方向に長い2本の突条28が幅方向に間隔を開けて叩き出し形成されている。
本体部21の前面開口から相手の雄端子のタブが挿入されると、同タブが弾性接触片26と突条28との間で弾性的に挟持され、雌端子20と雄端子との間で電気的な接続が取られるようになっている。
【0016】
本体部21の底板25には、雌ハウジング40のキャビティ50内に設けられたランス57に弾性的に係止するランス孔29が開口されているとともに、当該雌端子20が誤って上下逆転された姿勢でキャビティ50内に挿入されることを防止する逆挿入防止用のスタビライザ30が設けられている。スタビライザ30については後述する。
【0017】
上記のような雌端子20が、図14に示すように、ゴム栓15ともども電線10の端末に取り付けられるようになっている。ゴム栓15は、前後方向にやや長く、かつ雌端子20の本体部21の外接円X(図7参照)よりもやや大きい直径を有する栓本体16の前面に取付部17が延出形成され、電線10を緊密に挿通可能な中心孔が形成された形状である。
そして、電線10における皮剥きされて露出した芯線11の端末がワイヤバレル22にかしめ圧着されるとともに、被覆12の端末がゴム栓15の取付部17とともにインシュレーションバレル23にかしめ圧着されることで、上記のように電線10の端末に雌端子20とゴム栓15とが取り付けられている。
【0018】
スタビライザ30について説明する。図3に示すように、雌端子20の本体部21の底面にはランス孔29が開口されている。ランス孔29はより詳細には、本体部21の底面における長さ方向の中央部から少し後方に寄った位置において、本体部21の左右の側板24の内面間の間隔に匹敵する幅を持ったやや横長の方形状に形成されている。
【0019】
スタビライザ30は左右一対が設けられており、上記したランス孔29の左右の側縁から下方に向けて切り起こし形成されている。スタビライザ30は厳密には、図7に示すように、本体部21の底面における左右両側縁から幅方向の中心に向けて所定寸法(屈曲代も含めて側板24の板厚の2倍程度)入った位置から立ち上がり形成されている。
【0020】
スタビライザ30はまた、ランス孔29の前後方向の長さよりも少し短い横幅寸法と、同横幅の1/4程度といった短い立ち上がり寸法を有しており、立ち上がり端の前後の角部には丸みが付けられている。
このようなスタビライザ30における立ち上がり端面31と前後の端面32F,32Rに亘る外側の角部には、スタビライザ30の板厚の略半分の領域においてC面35A,35Bが形成されている。ここでC面35A,35Bとは、直線状の面取り部である。
【0021】
スタビライザ30はさらに、図7に示すように、それぞれの立ち上がり端が次第に接近するような斜め姿勢を取って形成されており、これにより両スタビライザ30の立ち上がり端が、上記した本体部21の外接円X内に収まる形態で設けられている。
スタビライザ30の立ち上がり端面31と前後の端面32F,32Rに亘る外側の角部に形成されたC面35A,35Bのうち内方の側縁、詳細には立ち上がり端面31のC面35Aでは、基端側の側縁36にR面37Aが形成されており、また前側の端面32FのC面35Bでは後側の側縁、後側の端面32RのC面35Bでは前側の側縁に対して、それぞれR面37Bが形成されている。ここでR面37A,37Bとは、曲線状の面取り部である。
【0022】
上記のように、スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成され、かつそのC面35Aにおける同スタビライザ30の基端側の側縁36にR面37Aが形成されていることの意義は、以下のとおりである。
図7に示すように、スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成されていることにより、スタビライザ30の掛かり代を確保するべく相応の立ち上がり長さを備えた場合にも、同角部が外接円Xと干渉することが避けられる。
【0023】
ここで、C面35Aの両側縁にはなおエッジが存在することになるが、スタビライザ30が内向きに閉じた斜め姿勢で形成されていることにより、C面35Aの両側縁のうち先端側の側縁38は、本体部21の外接円Xの内側に逃げる一方、基端側の側縁36が外接円X上に位置することになる。この基端側の側縁36については打圧加工が可能であることから、C面35Aにおける基端側の側縁36にはさらにR面37Aが形成されることによって、エッジが外接円Xと干渉することを回避している。
【0024】
また、上記のように、左右一対のスタビライザ30はランス孔29の左右両側縁から切り起こし形成されているが、スタビライザ30、ランス孔29の側縁並びに本体部21の側板24に亘って、補強ビード39が裏側に打ち出されて形成されている。
【0025】
次に、雌ハウジング40について説明する。雌ハウジング40は合成樹脂製であって、図8及び図14に示すように、雌端子20が収容される端子収容部41の回りに前面に開口した筒部45が設けられた形状である。なお、端子収容部41の前端部42は別ピースとして形成され、ロック機構44を介して後端部43と一体的に組み付けられている。
この雌ハウジング40が、雄端子を装着した図示しない相手の雄ハウジングと嵌合されると、同雌ハウジング40の端子収容部41と筒部45との間に、雄ハウジングのフード部が挿入され、端子収容部41の基端側に嵌着されたシールリング47を介して雌ハウジング40と雄ハウジング間のシールが取られるとともに、筒部45に設けられたロックアーム48が雄ハウジング側のロック部に弾性的に係止することによって、雌ハウジング40と雄ハウジングとが嵌合状態にロックされるようになっている。
【0026】
雌ハウジング40の端子収容部41内には、上記した雌端子20が後方から挿入されて収容されるキャビティ50が、2本横方向に並んで形成されている。キャビティ50は、前端側の半分強の領域に、雌端子20の本体部21がほぼ緊密に嵌合して挿入される横長の方形断面をなす端子収容孔51が形成されているとともに、後端側には、雌端子20の後方に装着されたゴム栓15が緊密に嵌合される円形断面のシール孔52が連通して形成されている。このシール孔52は、上記した雌端子20の本体部21の外接円Xと同じ径に形成されている。端子収容孔51の後端とシール孔52の前端との間は、先細りとなったテーパ孔53で繋がれている。
【0027】
端子収容孔51の前壁には、相手の雄ハウジングに装着された雄端子のタブが挿入される端子挿入口55が開口されている。また、端子収容孔51の底壁には、ランス57が前方を向いた片持ち状に形成されている。後記するように、端子収容孔51内に、正規姿勢を取った雌端子20の本体部21がランス57を弾性撓みさせつつ挿入され、前壁に当たる正規位置まで挿入されると、雌端子20の本体部21の底面に設けられたランス孔29がランス57の突部58の位置に到り、ランス57が復動変位しつつ突部58がランス孔29に嵌ることで、本体部21すなわち雌端子20が抜け止めされて収容されるようになっている。
雌端子20が正規位置まで挿入された場合は、大まかには、図14に示すように、雌端子20における本体部21からワイヤバレル22までが端子収容孔51内に、同雌端子20のインシュレーションバレル23及びゴム栓15の取付部17がテーパ孔53からシール孔52の前端側内に、またゴム栓15の栓本体16の前側部分がシール孔52の後端側内に、それぞれ収容されるようになっている。
【0028】
キャビティ50におけるテーパ孔53から端子収容孔51にわたる底壁には、ランス57の左右両側の位置において、雌端子20の本体部21の底面に突設された左右一対のスタビライザ30を個別に挿通可能とした前後方向を向いた挿通路60が、互いに平行に形成されている。各挿通路60は、ランス57の先端位置付近で行き止まり状となっている。
一方、テーパ孔53の天井壁を含む端子収容孔51の上側の孔縁部分には、雌端子20が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合に、スタビライザ30を当てて雌端子20がそれ以上挿入されることを規制する規制部63が形成されている。
【0029】
規制部63の詳細を、図12及び図13によって説明する。端子収容孔51のテーパ孔53との繋ぎ部分から少し奥側(前方)に入った位置では、同端子収容孔51の上縁部において、軸線方向と直角をなす規制面64が形成されている。この規制面64からは、左右一対の角棒状をなす姿勢変位部65が、後方(シール孔52側)を向いて互いに平行姿勢で突出形成されている。
各姿勢変位部65の突出した端面の外側の角部には、テーパ面66が削成されている。各テーパ面66は、雌端子20が上下反対姿勢を取った場合における左右一対のスタビライザ30が当接可能な位置に形成されている。各姿勢変位部65の外側には、スタビライザ30を挿通可能なガイド溝67が、真直に上下方向を向いた姿勢で形成されており、各ガイド溝67の奥端(前端)が、上記した規制面64に達している。
【0030】
本実施形態は上記のような構造であって、続いてその作用を説明する。
雌端子20を雌ハウジング40の対応するキャビティ50に収容する場合は、図14に示すように、スタビライザ30が下面側に来る姿勢として、雌端子20をキャビティ50内に後方から挿入する。
挿入後暫くするとスタビライザ30もシール孔52内に挿入され、そのとき本体部21が上向きにあおられた姿勢を取っている等により、スタビライザ30の立ち上がり端がシール孔52の下側の孔縁に引っ掛かる可能性もあるが、スタビライザ30の前端面32Fの外側角部に形成されたC面35BからR面37Bで案内されつつ、シール孔52内にスムーズに挿入される。
【0031】
そののち、雌端子20の本体部21は、スタビライザ30を含めてシール孔52の内周面にほぼ内接して押し込まれ、その際、スタビライザ30については、図7に示すように、立ち上がり端面31に形成されたC面35Aの基端側の側縁36が、シール孔52の内周面に接触する可能性が高いが、同側縁36にはR面37Aが形成されているから、シール孔52の内周面に傷を付けることが避けられる。
【0032】
引き続き、ゴム栓15の後端を押す等によって雌端子20が押し込まれると、本体部21の前端がテーパ孔53で案内されつつ端子収容孔51に挿入され、途中から図16の右側に示すように、両スタビライザ30が対応する挿通路60に挿通されつつ本体部21が端子収容孔51内に押し込まれる。図14に示すように、本体部21が端子収容孔51の前壁に当たる正規位置まで押し込まれると、ランス57がランス孔29に弾性的に嵌ることで雌端子20が端子収容孔51内に抜け止めされて収容される。併せてゴム栓15の栓本体16の前端部分がシール孔52の後端部内に緊密に嵌着され、キャビティ50のシールが取られることになる。
【0033】
一方、図15に示すように、雌端子20が上下逆転しすなわちスタビライザ30が上面側に来た姿勢で挿入された場合は、本体部21がテーパ孔53で案内されて端子収容孔51内に進入したタイミングで、図16の左側に示すように、両スタビライザ30の立ち上がり端が対応する姿勢変位部65のテーパ面66に当接する。この状態からさらに押し込まれると、同図の鎖線に示すように、スタビライザ30はテーパ面66で案内されて垂直姿勢に変位させられ、垂直姿勢を取ったままで姿勢変位部65の外側のガイド溝67を通って進んだのち、図15に示すように規制面64に突き当たる。
【0034】
上記によって雌端子20をそれ以上押し込むことが規制され、雌端子20が誤った姿勢で挿入されたことが検知される。スタビライザ30が垂直姿勢に変わったことで規制面64に対する掛かり代が大きく取られ、また、スタビライザ30の内側には姿勢変位部65があってスタビライザ30が内方に傾くことが阻止されるから、雌端子20の押し込み規制は確実に行われる。
上記のように押し込み規制がなされた時点では、ゴム栓15がシール孔52内に未だ嵌っていないから、ゴム栓15を掴む等で電線10を後方に引っ張ることで雌端子20は簡単に引き戻すことができ、そうしたら雌端子20を正規姿勢に正して、改めてキャビティ50内に挿入すればよい。
【0035】
本実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。本実施形態の雌端子20では、本体部21の底面に逆挿入防止用の左右一対のスタビライザ30を設ける部分の構造が、本体部21の底面における左右両側縁から幅方向の中心に向けて所定寸法入った位置から、両立ち上がり端が次第に接近するような斜め姿勢を取って形成されることにより、両スタビライザ30の立ち上がり端が本体部21の外接円X内に収まる形態で設けられるとともに、両スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成され、かつそのC面35Aにおける同スタビライザ30の基端側の側縁36にR面37Aが形成された構造となっている。
係る構造により、雌端子20が正規姿勢でキャビティ50内に挿入された場合に、スタビライザ30がキャビティ50におけるシール孔52の内周面に傷を付けることを防止できるのであるが、両スタビライザ30が内方に閉じるような傾斜姿勢を取っていることにより、雌端子20が誤挿入されて端子収容孔51の孔縁部に当たった場合に、掛かり代が小さく、また倒れ変形して端子収容孔51に入ってしまう事態が起きることが僅かながらでも懸念される。
【0036】
これに対して本実施形態では、雌端子20が誤挿入された場合にスタビライザ30が当接するべく端子収容孔51の上側の孔縁部に、姿勢変位部65等からなる規制部63が形成されている。すなわち、雌端子20が誤挿入された場合は、本体部21が端子収容孔51内に進入したところで、両スタビライザ30の立ち上がり端が対応する姿勢変位部65のテーパ面66に当接し、この状態からさらに押し込まれると、スタビライザ30はテーパ面66で案内されて垂直姿勢に変位させられ、垂直姿勢を取ったままで姿勢変位部65の外側のガイド溝67を通って進んだのち規制面64に突き当たるように作用する。
【0037】
すなわち、スタビライザ30が垂直姿勢に変わったことで規制面64に対する掛かり代が大きく取られ、またスタビライザ30の内側には姿勢変位部65があってスタビライザ30が内方に傾くことが阻止されることで、雌端子20の押し込み規制が確実に行われる。
その結果、個室防水型の雌側のコネクタにおいて、雌端子20が正規挿入された場合にスタビライザ30がシール孔52の内周面に傷付けることを抑制し、すなわちシール性能を担保した上で、雌端子20の逆挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、斜め姿勢に形成されたスタビライザを垂直姿勢に変位させる場合を例示したが、変位後に端子収容孔の孔縁部に対する掛かり代が増大する限り、スタビライザの変位前後の姿勢は問わない。
(2)上記実施形態では、スタビライザが雌端子の本体部の底面に左右一対設けられている場合を例示したが、スタビライザの本数や配設位置は上記以外のものであってもよい。
【0039】
(3)上記実施形態では、雌端子を雌ハウジングに収容する雌側の防水コネクタを例示したが、雄端子を雄ハウジングに収容する雄側の防水コネクタについても、本発明は同様に適用できる。
(4)さらに本発明は、個室防水型のコネクタに限らず、一括ゴム栓を備えた防水コネクタ、さらには非防水のコネクタ等、要は逆挿入防止用のスタビライザを有する端子金具をコネクタハウジングのキャビティ内に収容する形式のコネクタ全般に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…電線
15…ゴム栓
20…雌端子(端子金具)
21…本体部
25…底板(本体部21の一面)
30…スタビライザ
40…雌ハウジング(コネクタハウジング)
50…キャビティ
51…端子収容孔
52…シール孔(キャビティ50の入口部)
60…挿通路
63…規制部
64…規制面(孔縁部)
65…姿勢変位部
66…テーパ面
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具の逆挿入防止機能を備えたコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
端子金具の逆挿入防止機能を備えた個室防水型のコネクタの一例として、以下のようなものが知られている。このものは、電線の端末に端子金具とゴム栓とが装着され、端子金具には本体部の例えば底面の両側縁から左右一対のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、コネクタハウジングには、端子金具の本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に、ゴム栓が緊密に嵌着される拡径されたシール孔が連設されたキャビティが形成され、かつ端子挿入孔の底壁にはスタビライザの挿通を許容する一対の挿通路が設けられた構造である。
そして、端子金具がキャビティに対して正規姿勢で挿入された場合には、スタビライザが挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入され、併せてゴム栓がシール孔に緊密に嵌着されてシールされ、一方、端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、スタビライザが端子挿入孔における挿通路が設けられた側とは反対側である上側の孔縁部に当接することで、端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようになっている。
【0003】
ところで、このようなコネクタにおいても漸次小型化が要求されるところであり、そのための一対策として、ゴム栓並びに同ゴム栓が嵌着されるシール孔を小径とすることが提案されている。この場合、端子金具をキャビティに挿入する際に、スタビライザの立ち上がり端がシール孔の内周面と干渉して傷を付けないようにする必要があり、そこで従来では、左右一対のスタビライザを、各立ち上がり端が次第に接近するように内側に閉じた斜め姿勢に形成し、シール孔の内周面と干渉することを回避し得るような手段が講じられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−183342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記のようにスタビライザを斜め姿勢で形成したものでは、端子金具が逆挿入されてスタビライザが端子収容孔の孔縁部に当たったときに、倒れ方向に変形しやすく、孔縁部に対する掛かり代が確保できなくて引き続いて端子収容孔内に入ってしまう可能性があり、すなわち逆挿入防止機能が果たせない場合があった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、端子金具の誤挿入防止機能をより確実に発揮させるところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、端子金具と、この端子金具が挿入されるキャビティを設けたコネクタハウジングとを備え、前記端子金具は本体部の一面から逆挿入防止用のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、前記コネクタハウジングの前記キャビティは、前記端子金具の前記本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に拡径された入口部が連設され、かつ前記端子挿入孔の一面には前記スタビライザの挿通を許容する挿通路が設けられており、前記端子金具が正規姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入可能で、前記端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記端子挿入孔における前記挿通路が設けられた側とは反対側の孔縁部に当接することで前記端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、前記端子挿入孔の前記孔縁部には、逆挿入された前記端子金具の前記スタビライザと係合して前記孔縁部との掛かり代を増大させるべく前記スタビライザの立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部が設けられているところに特徴を有する。
【0007】
端子金具が上下逆転した姿勢で挿入されると、挿入の途中でスタビライザが姿勢変位部と係合して、孔縁部との掛かり代を増大させる向きに立ち上がり姿勢が変位させられ、係る状態で孔縁部に当接する。端子金具が誤挿入された場合に、スタビライザが端子挿入孔内に入り込むことがより確実に規制され、ひいては誤挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【0008】
また、以下のような構成としてもよい。
(1)前記端子金具の前記スタビライザが斜め姿勢で立ち上がり形成されている一方、前記姿勢変位部には、前記スタビライザと当接して同スタビライザを垂直姿勢に向けて変位させるテーパ面が形成されている。
スタビライザが斜め姿勢で形成されていることにより、例えばキャビティの入口部の内周面と干渉することが抑制される。端子金具が誤挿入された場合は、挿入の途中でスタビライザが姿勢変位部のテーパ面で案内されて垂直姿勢に変位し、すなわち大きな掛かり代を持って端子収容孔の孔縁部に当接する。端子金具が正規姿勢で挿入されたときはスタビライザによる傷付きを抑制した上で、逆挿入防止機能はより確実に発揮される。
【0009】
(2)前記スタビライザは、左右一対がそれぞれの立ち上がり端を次第に接近させた斜め姿勢で形成されているとともに、前記姿勢変位部は、左右一対が前記端子挿入孔の前記孔縁部から手前側に向けて突設され、前記各姿勢変位部の突出端の外側角部に前記テーパ面が形成されている。
端子金具が誤挿入されると、挿入の途中で両スタビライザが対応する姿勢変位部のテーパ面に当たり、テーパ面で案内されて垂直姿勢に向けて開くように変位し、垂直姿勢を取ったままで端子収容孔の孔縁部に突き当たる。各スタビライザが垂直姿勢に変わったことで孔縁部に対する掛かり代が大きく取られ、また、スタビライザの内側には姿勢変位部が位置していて、スタビライザが内方に傾くことが阻止されるから、端子金具の押し込み規制はより確実に行われる。
【0010】
(3)電線の端末には前記端子金具とその後方にゴム栓が装着されているとともに、前記コネクタハウジングにおける前記キャビティの前記入口部には、前記端子金具が前記キャビティ内に正規に挿入された場合に前記ゴム栓が緊密に嵌着可能となっている。
個室防水型のコネクタにおいて、端子金具が正規挿入された場合にスタビライザがシール孔の内周面に傷付けることを抑制し、すなわちシール性能を担保した上で、端子金具の逆挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコネクタによれば、端子金具の誤挿入をより確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る雌端子の斜視図
【図2】同平面図
【図3】同底面図
【図4】同側面図
【図5】同拡大正面図
【図6】同拡大背面図
【図7】図4のVII−VII線拡大断面図
【図8】雌ハウジングの斜視図
【図9】同平面図
【図10】同正面図
【図11】同背面図
【図12】図11のXII−XII線断面図
【図13】同斜視断面図
【図14】雌端子が正規挿入された場合の縦断面図
【図15】雌端子が逆挿入された場合の縦断面図
【図16】キャビティの形成部分の拡大背面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図16に基づいて説明する。この実施形態では、個室防水型のコネクタに適用した場合を例示している。
本実施形態のコネクタは、図14に示すように、電線10の端末に固着された図示2個の雌端子20と、これらの雌端子20を収容するコネクタハウジング40(以下、雌ハウジング40)とから構成されている。
【0014】
雌端子20について、図1ないし図7によって説明する。雌端子20は、導電性に優れた金属板をプレス加工することによって形成され、図1に示すように、相手の雄端子(図示せず)のタブが挿入接続される本体部21の後方に、電線10の端末に圧着されるワイヤバレル22とインシュレーションバレル23とが設けられている。
【0015】
本体部21は、前後方向に長い横長断面をなす角筒状に形成されており、同本体部21の四角には丸みが付けられている。本体部21内には、底板25の前縁から延出形成された舌片が山形に折り返された弾性接触片26が設けられているとともに、天井板27の内面には、前後方向に長い2本の突条28が幅方向に間隔を開けて叩き出し形成されている。
本体部21の前面開口から相手の雄端子のタブが挿入されると、同タブが弾性接触片26と突条28との間で弾性的に挟持され、雌端子20と雄端子との間で電気的な接続が取られるようになっている。
【0016】
本体部21の底板25には、雌ハウジング40のキャビティ50内に設けられたランス57に弾性的に係止するランス孔29が開口されているとともに、当該雌端子20が誤って上下逆転された姿勢でキャビティ50内に挿入されることを防止する逆挿入防止用のスタビライザ30が設けられている。スタビライザ30については後述する。
【0017】
上記のような雌端子20が、図14に示すように、ゴム栓15ともども電線10の端末に取り付けられるようになっている。ゴム栓15は、前後方向にやや長く、かつ雌端子20の本体部21の外接円X(図7参照)よりもやや大きい直径を有する栓本体16の前面に取付部17が延出形成され、電線10を緊密に挿通可能な中心孔が形成された形状である。
そして、電線10における皮剥きされて露出した芯線11の端末がワイヤバレル22にかしめ圧着されるとともに、被覆12の端末がゴム栓15の取付部17とともにインシュレーションバレル23にかしめ圧着されることで、上記のように電線10の端末に雌端子20とゴム栓15とが取り付けられている。
【0018】
スタビライザ30について説明する。図3に示すように、雌端子20の本体部21の底面にはランス孔29が開口されている。ランス孔29はより詳細には、本体部21の底面における長さ方向の中央部から少し後方に寄った位置において、本体部21の左右の側板24の内面間の間隔に匹敵する幅を持ったやや横長の方形状に形成されている。
【0019】
スタビライザ30は左右一対が設けられており、上記したランス孔29の左右の側縁から下方に向けて切り起こし形成されている。スタビライザ30は厳密には、図7に示すように、本体部21の底面における左右両側縁から幅方向の中心に向けて所定寸法(屈曲代も含めて側板24の板厚の2倍程度)入った位置から立ち上がり形成されている。
【0020】
スタビライザ30はまた、ランス孔29の前後方向の長さよりも少し短い横幅寸法と、同横幅の1/4程度といった短い立ち上がり寸法を有しており、立ち上がり端の前後の角部には丸みが付けられている。
このようなスタビライザ30における立ち上がり端面31と前後の端面32F,32Rに亘る外側の角部には、スタビライザ30の板厚の略半分の領域においてC面35A,35Bが形成されている。ここでC面35A,35Bとは、直線状の面取り部である。
【0021】
スタビライザ30はさらに、図7に示すように、それぞれの立ち上がり端が次第に接近するような斜め姿勢を取って形成されており、これにより両スタビライザ30の立ち上がり端が、上記した本体部21の外接円X内に収まる形態で設けられている。
スタビライザ30の立ち上がり端面31と前後の端面32F,32Rに亘る外側の角部に形成されたC面35A,35Bのうち内方の側縁、詳細には立ち上がり端面31のC面35Aでは、基端側の側縁36にR面37Aが形成されており、また前側の端面32FのC面35Bでは後側の側縁、後側の端面32RのC面35Bでは前側の側縁に対して、それぞれR面37Bが形成されている。ここでR面37A,37Bとは、曲線状の面取り部である。
【0022】
上記のように、スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成され、かつそのC面35Aにおける同スタビライザ30の基端側の側縁36にR面37Aが形成されていることの意義は、以下のとおりである。
図7に示すように、スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成されていることにより、スタビライザ30の掛かり代を確保するべく相応の立ち上がり長さを備えた場合にも、同角部が外接円Xと干渉することが避けられる。
【0023】
ここで、C面35Aの両側縁にはなおエッジが存在することになるが、スタビライザ30が内向きに閉じた斜め姿勢で形成されていることにより、C面35Aの両側縁のうち先端側の側縁38は、本体部21の外接円Xの内側に逃げる一方、基端側の側縁36が外接円X上に位置することになる。この基端側の側縁36については打圧加工が可能であることから、C面35Aにおける基端側の側縁36にはさらにR面37Aが形成されることによって、エッジが外接円Xと干渉することを回避している。
【0024】
また、上記のように、左右一対のスタビライザ30はランス孔29の左右両側縁から切り起こし形成されているが、スタビライザ30、ランス孔29の側縁並びに本体部21の側板24に亘って、補強ビード39が裏側に打ち出されて形成されている。
【0025】
次に、雌ハウジング40について説明する。雌ハウジング40は合成樹脂製であって、図8及び図14に示すように、雌端子20が収容される端子収容部41の回りに前面に開口した筒部45が設けられた形状である。なお、端子収容部41の前端部42は別ピースとして形成され、ロック機構44を介して後端部43と一体的に組み付けられている。
この雌ハウジング40が、雄端子を装着した図示しない相手の雄ハウジングと嵌合されると、同雌ハウジング40の端子収容部41と筒部45との間に、雄ハウジングのフード部が挿入され、端子収容部41の基端側に嵌着されたシールリング47を介して雌ハウジング40と雄ハウジング間のシールが取られるとともに、筒部45に設けられたロックアーム48が雄ハウジング側のロック部に弾性的に係止することによって、雌ハウジング40と雄ハウジングとが嵌合状態にロックされるようになっている。
【0026】
雌ハウジング40の端子収容部41内には、上記した雌端子20が後方から挿入されて収容されるキャビティ50が、2本横方向に並んで形成されている。キャビティ50は、前端側の半分強の領域に、雌端子20の本体部21がほぼ緊密に嵌合して挿入される横長の方形断面をなす端子収容孔51が形成されているとともに、後端側には、雌端子20の後方に装着されたゴム栓15が緊密に嵌合される円形断面のシール孔52が連通して形成されている。このシール孔52は、上記した雌端子20の本体部21の外接円Xと同じ径に形成されている。端子収容孔51の後端とシール孔52の前端との間は、先細りとなったテーパ孔53で繋がれている。
【0027】
端子収容孔51の前壁には、相手の雄ハウジングに装着された雄端子のタブが挿入される端子挿入口55が開口されている。また、端子収容孔51の底壁には、ランス57が前方を向いた片持ち状に形成されている。後記するように、端子収容孔51内に、正規姿勢を取った雌端子20の本体部21がランス57を弾性撓みさせつつ挿入され、前壁に当たる正規位置まで挿入されると、雌端子20の本体部21の底面に設けられたランス孔29がランス57の突部58の位置に到り、ランス57が復動変位しつつ突部58がランス孔29に嵌ることで、本体部21すなわち雌端子20が抜け止めされて収容されるようになっている。
雌端子20が正規位置まで挿入された場合は、大まかには、図14に示すように、雌端子20における本体部21からワイヤバレル22までが端子収容孔51内に、同雌端子20のインシュレーションバレル23及びゴム栓15の取付部17がテーパ孔53からシール孔52の前端側内に、またゴム栓15の栓本体16の前側部分がシール孔52の後端側内に、それぞれ収容されるようになっている。
【0028】
キャビティ50におけるテーパ孔53から端子収容孔51にわたる底壁には、ランス57の左右両側の位置において、雌端子20の本体部21の底面に突設された左右一対のスタビライザ30を個別に挿通可能とした前後方向を向いた挿通路60が、互いに平行に形成されている。各挿通路60は、ランス57の先端位置付近で行き止まり状となっている。
一方、テーパ孔53の天井壁を含む端子収容孔51の上側の孔縁部分には、雌端子20が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合に、スタビライザ30を当てて雌端子20がそれ以上挿入されることを規制する規制部63が形成されている。
【0029】
規制部63の詳細を、図12及び図13によって説明する。端子収容孔51のテーパ孔53との繋ぎ部分から少し奥側(前方)に入った位置では、同端子収容孔51の上縁部において、軸線方向と直角をなす規制面64が形成されている。この規制面64からは、左右一対の角棒状をなす姿勢変位部65が、後方(シール孔52側)を向いて互いに平行姿勢で突出形成されている。
各姿勢変位部65の突出した端面の外側の角部には、テーパ面66が削成されている。各テーパ面66は、雌端子20が上下反対姿勢を取った場合における左右一対のスタビライザ30が当接可能な位置に形成されている。各姿勢変位部65の外側には、スタビライザ30を挿通可能なガイド溝67が、真直に上下方向を向いた姿勢で形成されており、各ガイド溝67の奥端(前端)が、上記した規制面64に達している。
【0030】
本実施形態は上記のような構造であって、続いてその作用を説明する。
雌端子20を雌ハウジング40の対応するキャビティ50に収容する場合は、図14に示すように、スタビライザ30が下面側に来る姿勢として、雌端子20をキャビティ50内に後方から挿入する。
挿入後暫くするとスタビライザ30もシール孔52内に挿入され、そのとき本体部21が上向きにあおられた姿勢を取っている等により、スタビライザ30の立ち上がり端がシール孔52の下側の孔縁に引っ掛かる可能性もあるが、スタビライザ30の前端面32Fの外側角部に形成されたC面35BからR面37Bで案内されつつ、シール孔52内にスムーズに挿入される。
【0031】
そののち、雌端子20の本体部21は、スタビライザ30を含めてシール孔52の内周面にほぼ内接して押し込まれ、その際、スタビライザ30については、図7に示すように、立ち上がり端面31に形成されたC面35Aの基端側の側縁36が、シール孔52の内周面に接触する可能性が高いが、同側縁36にはR面37Aが形成されているから、シール孔52の内周面に傷を付けることが避けられる。
【0032】
引き続き、ゴム栓15の後端を押す等によって雌端子20が押し込まれると、本体部21の前端がテーパ孔53で案内されつつ端子収容孔51に挿入され、途中から図16の右側に示すように、両スタビライザ30が対応する挿通路60に挿通されつつ本体部21が端子収容孔51内に押し込まれる。図14に示すように、本体部21が端子収容孔51の前壁に当たる正規位置まで押し込まれると、ランス57がランス孔29に弾性的に嵌ることで雌端子20が端子収容孔51内に抜け止めされて収容される。併せてゴム栓15の栓本体16の前端部分がシール孔52の後端部内に緊密に嵌着され、キャビティ50のシールが取られることになる。
【0033】
一方、図15に示すように、雌端子20が上下逆転しすなわちスタビライザ30が上面側に来た姿勢で挿入された場合は、本体部21がテーパ孔53で案内されて端子収容孔51内に進入したタイミングで、図16の左側に示すように、両スタビライザ30の立ち上がり端が対応する姿勢変位部65のテーパ面66に当接する。この状態からさらに押し込まれると、同図の鎖線に示すように、スタビライザ30はテーパ面66で案内されて垂直姿勢に変位させられ、垂直姿勢を取ったままで姿勢変位部65の外側のガイド溝67を通って進んだのち、図15に示すように規制面64に突き当たる。
【0034】
上記によって雌端子20をそれ以上押し込むことが規制され、雌端子20が誤った姿勢で挿入されたことが検知される。スタビライザ30が垂直姿勢に変わったことで規制面64に対する掛かり代が大きく取られ、また、スタビライザ30の内側には姿勢変位部65があってスタビライザ30が内方に傾くことが阻止されるから、雌端子20の押し込み規制は確実に行われる。
上記のように押し込み規制がなされた時点では、ゴム栓15がシール孔52内に未だ嵌っていないから、ゴム栓15を掴む等で電線10を後方に引っ張ることで雌端子20は簡単に引き戻すことができ、そうしたら雌端子20を正規姿勢に正して、改めてキャビティ50内に挿入すればよい。
【0035】
本実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。本実施形態の雌端子20では、本体部21の底面に逆挿入防止用の左右一対のスタビライザ30を設ける部分の構造が、本体部21の底面における左右両側縁から幅方向の中心に向けて所定寸法入った位置から、両立ち上がり端が次第に接近するような斜め姿勢を取って形成されることにより、両スタビライザ30の立ち上がり端が本体部21の外接円X内に収まる形態で設けられるとともに、両スタビライザ30の立ち上がり端面31における外側縁の角部にC面35Aが形成され、かつそのC面35Aにおける同スタビライザ30の基端側の側縁36にR面37Aが形成された構造となっている。
係る構造により、雌端子20が正規姿勢でキャビティ50内に挿入された場合に、スタビライザ30がキャビティ50におけるシール孔52の内周面に傷を付けることを防止できるのであるが、両スタビライザ30が内方に閉じるような傾斜姿勢を取っていることにより、雌端子20が誤挿入されて端子収容孔51の孔縁部に当たった場合に、掛かり代が小さく、また倒れ変形して端子収容孔51に入ってしまう事態が起きることが僅かながらでも懸念される。
【0036】
これに対して本実施形態では、雌端子20が誤挿入された場合にスタビライザ30が当接するべく端子収容孔51の上側の孔縁部に、姿勢変位部65等からなる規制部63が形成されている。すなわち、雌端子20が誤挿入された場合は、本体部21が端子収容孔51内に進入したところで、両スタビライザ30の立ち上がり端が対応する姿勢変位部65のテーパ面66に当接し、この状態からさらに押し込まれると、スタビライザ30はテーパ面66で案内されて垂直姿勢に変位させられ、垂直姿勢を取ったままで姿勢変位部65の外側のガイド溝67を通って進んだのち規制面64に突き当たるように作用する。
【0037】
すなわち、スタビライザ30が垂直姿勢に変わったことで規制面64に対する掛かり代が大きく取られ、またスタビライザ30の内側には姿勢変位部65があってスタビライザ30が内方に傾くことが阻止されることで、雌端子20の押し込み規制が確実に行われる。
その結果、個室防水型の雌側のコネクタにおいて、雌端子20が正規挿入された場合にスタビライザ30がシール孔52の内周面に傷付けることを抑制し、すなわちシール性能を担保した上で、雌端子20の逆挿入防止機能をより確実に発揮することができる。
【0038】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、斜め姿勢に形成されたスタビライザを垂直姿勢に変位させる場合を例示したが、変位後に端子収容孔の孔縁部に対する掛かり代が増大する限り、スタビライザの変位前後の姿勢は問わない。
(2)上記実施形態では、スタビライザが雌端子の本体部の底面に左右一対設けられている場合を例示したが、スタビライザの本数や配設位置は上記以外のものであってもよい。
【0039】
(3)上記実施形態では、雌端子を雌ハウジングに収容する雌側の防水コネクタを例示したが、雄端子を雄ハウジングに収容する雄側の防水コネクタについても、本発明は同様に適用できる。
(4)さらに本発明は、個室防水型のコネクタに限らず、一括ゴム栓を備えた防水コネクタ、さらには非防水のコネクタ等、要は逆挿入防止用のスタビライザを有する端子金具をコネクタハウジングのキャビティ内に収容する形式のコネクタ全般に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…電線
15…ゴム栓
20…雌端子(端子金具)
21…本体部
25…底板(本体部21の一面)
30…スタビライザ
40…雌ハウジング(コネクタハウジング)
50…キャビティ
51…端子収容孔
52…シール孔(キャビティ50の入口部)
60…挿通路
63…規制部
64…規制面(孔縁部)
65…姿勢変位部
66…テーパ面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と、この端子金具が挿入されるキャビティを設けたコネクタハウジングとを備え、
前記端子金具は本体部の一面から逆挿入防止用のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、
前記コネクタハウジングの前記キャビティは、前記端子金具の前記本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に拡径された入口部が連設され、かつ前記端子挿入孔の一面には前記スタビライザの挿通を許容する挿通路が設けられており、
前記端子金具が正規姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入可能で、前記端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記端子挿入孔における前記挿通路が設けられた側とは反対側の孔縁部に当接することで前記端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、
前記端子挿入孔の前記孔縁部には、逆挿入された前記端子金具の前記スタビライザと係合して前記孔縁部との掛かり代を増大させるべく前記スタビライザの立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部が設けられていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記端子金具の前記スタビライザが斜め姿勢で立ち上がり形成されている一方、前記姿勢変位部には、前記スタビライザと当接して同スタビライザを垂直姿勢に向けて変位させるテーパ面が形成されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記スタビライザは、左右一対がそれぞれの立ち上がり端を次第に接近させた斜め姿勢で形成されているとともに、前記姿勢変位部は、左右一対が前記端子挿入孔の前記孔縁部から手前側に向けて突設され、前記各姿勢変位部の突出端の外側角部に前記テーパ面が形成されていることを特徴とする請求項2記載のコネクタ。
【請求項4】
電線の端末には前記端子金具とその後方にゴム栓が装着されているとともに、前記コネクタハウジングにおける前記キャビティの前記入口部には、前記端子金具が前記キャビティ内に正規に挿入された場合に前記ゴム栓が緊密に嵌着可能となっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項1】
端子金具と、この端子金具が挿入されるキャビティを設けたコネクタハウジングとを備え、
前記端子金具は本体部の一面から逆挿入防止用のスタビライザが立ち上がり形成されている一方、
前記コネクタハウジングの前記キャビティは、前記端子金具の前記本体部がほぼ緊密に嵌合される端子挿入孔の手前側に拡径された入口部が連設され、かつ前記端子挿入孔の一面には前記スタビライザの挿通を許容する挿通路が設けられており、
前記端子金具が正規姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記挿通路に挿通されつつ正規位置まで挿入可能で、前記端子金具が正規姿勢から上下逆転した姿勢で挿入された場合には、前記スタビライザが前記端子挿入孔における前記挿通路が設けられた側とは反対側の孔縁部に当接することで前記端子金具がそれ以上挿入されることが規制されるようにしたコネクタにおいて、
前記端子挿入孔の前記孔縁部には、逆挿入された前記端子金具の前記スタビライザと係合して前記孔縁部との掛かり代を増大させるべく前記スタビライザの立ち上がり姿勢を変位させる姿勢変位部が設けられていることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記端子金具の前記スタビライザが斜め姿勢で立ち上がり形成されている一方、前記姿勢変位部には、前記スタビライザと当接して同スタビライザを垂直姿勢に向けて変位させるテーパ面が形成されていることを特徴とする請求項1記載のコネクタ。
【請求項3】
前記スタビライザは、左右一対がそれぞれの立ち上がり端を次第に接近させた斜め姿勢で形成されているとともに、前記姿勢変位部は、左右一対が前記端子挿入孔の前記孔縁部から手前側に向けて突設され、前記各姿勢変位部の突出端の外側角部に前記テーパ面が形成されていることを特徴とする請求項2記載のコネクタ。
【請求項4】
電線の端末には前記端子金具とその後方にゴム栓が装着されているとともに、前記コネクタハウジングにおける前記キャビティの前記入口部には、前記端子金具が前記キャビティ内に正規に挿入された場合に前記ゴム栓が緊密に嵌着可能となっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のコネクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−178307(P2012−178307A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41344(P2011−41344)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
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