説明

コネクタ

【課題】コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサが、誤接触等で不用意に仮係止位置から本係止位置に押し込まれることがなく、取り扱い性に優れたコネクタを提供すること。
【解決手段】コネクタハウジング10のスペーサ装着用開口11に挿入されるスペーサ20をハウジング内の端子金具に係合しない仮係止位置に仮止めする仮係止機構30は、スペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重G1が作用し、且つ、スペーサ20の後端面の幅方向の端部に第2の設定値以上の押圧荷重が作用したときに限って、スペーサ20の仮係止位置から本係止位置への移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具を収容するコネクタハウジングと、前記コネクタハウジングに収容された前記端子金具の抜け止めのために前記コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサと、を備えるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタハウジングに収容された端子金具の抜けや不完全嵌合を防止するために、端子金具を収容するコネクタハウジングと、前記コネクタハウジングに収容された前記端子金具の抜け止めのために前記コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサと、を備えるコネクタが各種提案されている。
【0003】
図14〜図16は、このようなコネクタの従来例を示したものである。
これらの図に示したコネクタ100は、下記特許文献1に開示されたコネクタと同様に、コネクタハウジング110の下面側にスペーサ装着用開口111が設けられ、図14に矢印Z1で示すように、スペーサ装着用開口111にスペーサ120が挿入装着される。
【0004】
図15及び図16は、スペーサ装着用開口111に挿入されたスペーサ120が、仮係止機構130によって仮係止位置に位置決めされた状態である。
【0005】
仮係止位置は、スペーサ120がコネクタハウジング110内の端子金具に係合しない位置である。
【0006】
図示例の仮係止機構130は、図16に示すように、コネクタハウジング110の幅方向に対向するスペーサ120の両外側壁121,122の先端に突設された一対の位置決め用突起131と、コネクタハウジング110側に設けられた一対の係止部133とで構成される。
【0007】
一対の位置決め用突起131は、スペーサ120の両外側壁121,122の先端から、内側に向かって突設された突起である。また、一対の係止部133は、スペーサ120がコネクタハウジング110内の仮係止位置まで挿入されたときに、位置決め用突起131が係合する係合溝である。一対の係止部133は、外側壁121,122の内側に対向状態に立設されているコネクタハウジング110内の内部隔壁113,114に設けられている。
【0008】
スペーサ120は、図15及び図16に示した仮係止位置から更に所定以上の押圧荷重をかけると、端子金具にスペーサが係合する本係止位置に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−40366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1などに開示された従来のコネクタでは、仮係止位置におけるスペーサの係止力は、それほど高く設定されていない。
【0011】
そのため、スペーサがコネクタハウジングに仮係止されている状態でコネクタの輸送等を行った場合に、輸送中に外部の機材等がスペーサ120の後端壁125の一端部に誤接触すると、図17に示すように、そのときの衝撃力F1で、スペーサ120の一端側が不用意に本係止位置に押し込まれてしまうおそれがあった。
【0012】
そして、スペーサ120が不用意に本係止位置に押し込まれてしまうと、コネクタハウジング110に端子金具を収容する際、スペーサ120を元の仮係止位置へ戻す復旧作業が必要となり、取り扱い性が悪いという問題が生じる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消することに係り、コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサが、誤接触等で不用意に仮係止位置から本係止位置に押し込まれることがなく、取り扱い性に優れたコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の前述した目的は、下記の構成により達成される。
(1)端子金具を収容するコネクタハウジングと、
前記コネクタハウジングに収容された前記端子金具の抜け止めのために前記コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサと、
前記スペーサを前記端子金具に係合しない仮係止位置に仮止めする仮係止機構と、
前記仮係止位置よりもハウジング内奥側に押し込まれた前記スペーサを、前記端子金具に係合した本係止位置に係止する本係止機構と、
を備えるコネクタであって、
前記仮係止機構は、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用し、且つ、前記スペーサの後端面の幅方向の端部に第2の設定値以上の押圧荷重が作用したときに限って、前記スペーサの前記仮係止位置から前記本係止位置への移動を許容することを特徴とするコネクタ。
【0015】
(2)前記スペーサは、前記コネクタハウジングの幅方向に対向する両外側部に配置されて、当該スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用すると、先端から後端に向かってスペーサの幅が狭まる所定の傾斜状態に撓み変形する一対の外側壁と、前記一対の外側壁の先端寄りの位置からコネクタハウジングの幅方向外方に突出して設けられた位置決め用突起と、を備え、
前記コネクタハウジングは、前記スペーサが前記スペーサ装着用開口から挿入されて前記仮係止位置に進んだときに前記位置決め用突起が当接するように前記コネクタハウジングの内側面に突設されて、前記位置決め用突起の当接により前記仮係止機構として機能する係止突起を備え、
前記スペーサを前記仮係止位置に位置決めしている前記位置決め用突起と前記係止突起との相互の当接面は、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用して前記一対の外側壁が前記所定の傾斜状態に撓み変形することで前記位置決め用突起が所定の傾斜状態となり、且つ、前記スペーサの後端面の幅方向の端部に前記スペーサの挿入方向に沿う第2の設定値以上の押圧力が作用したときに限って、前記位置決め用突起が前記係止突起を乗り越えて前記本係止位置への移動を許容するように、互いの傾斜角が設定されていることを特徴とすることを特徴とする上記(1)に記載のコネクタ。
【0016】
(3)前記スペーサを前記仮係止位置に位置決めしている前記位置決め用突起と前記係止突起との相互の当接面は、前記コネクタハウジングの幅方向の内側の位置が前記スペーサの挿入方向前方に向かう傾斜で、前記スペーサの挿入方向と直交する基準面との間の挟角が45゜未満となる鋭角の傾斜に設定されていることを特徴とする上記(2)に記載のコネクタ。
【0017】
(4)前記一対の外側壁相互を連結している前記スペーサの前記後端壁に、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用したときに前記後端壁を撓み変形し易くするスリットを設けたことを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1つに記載のコネクタ。
【0018】
(5)前記一対の外側壁相互を連結している前記スペーサの前記後端壁に、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用したときに前記後端壁を撓み変形し易くする薄肉部を設けたことを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1つに記載のコネクタ。
【0019】
上記(1)の構成によれば、仮係止機構によりコネクタハウジング内の仮係止位置に位置決めされているスペーサは、スペーサの後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重が作用した場合に限って、仮係止位置から本係止位置に移動させることができる。
【0020】
輸送中等では、スペーサの後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重が作用することは、まず発生し得ない。従って、仮係止機構により仮係止位置に保持されているスペーサが、輸送中等の誤接触等で不用意に仮係止位置から本係止位置に押し込まれることがない。
【0021】
そのため、コネクタハウジングに端子金具を収容する際にスペーサを元の仮係止位置へ戻す復旧作業が発生することを防止することができ、取り扱い性を向上させることができる。
【0022】
上記(2)の構成によれば、仮係止位置に位置決めされているスペーサの後端面の幅方向の中央となる位置を押圧すると、前記後端面を提供しているスペーサの後端壁の中央が凹んだ状態に撓み変形し、この後端壁の変形に伴い、スペーサの両外側壁が、先端から後端に向かってスペーサの幅が狭まる所定の傾斜状態に撓み変形する。そして、このスペーサの両外側壁が所定の傾斜状態に撓み変形することで、両外側壁に装備されている位置決め用突起は、係止突起に当接する角度が当初よりも急角度になり、その結果、スペーサの後端壁にかける押圧荷重が小さくても、位置決め用突起が係止突起を乗り越え易くなる。
【0023】
逆に言えば、スペーサの後端面の中央が押下されない状態では、位置決め用突起が係止突起に当接する角度が緩やかであり、位置決め用突起が係止突起を乗り越えるためには、より大きな押圧荷重をかけることが必要になる。
【0024】
そのため、スペーサの後端面の中央が押下されない状態において位置決め用突起に係止突起を乗り越えさせる際に必要となる押圧荷重が、輸送時等における誤接触で作用する荷重よりも大きくなるように、係止突起に当接する位置決め用突起の当初の傾斜角を設定しておけば、輸送時等にスペーサの後端面の端部又は中央の何れか一方に、誤接触による押圧荷重が作用しても、誤接触によってスペーサが仮係止位置から本係止位置に不本意に移動するという不都合の発生を防止することができる。
【0025】
即ち、上記(2)の構成によれば、スペーサの後端面の幅方向の中央と端部のそれぞれに同時に設定荷重以上の押圧荷重を作用させたときにのみ、スペーサを仮係止位置から本係止位置に移動させることができるという上記(1)の技術的思想を実現することができる。
【0026】
上記(3)の構成によれば、スペーサの後端面に作用する押圧荷重によって位置決め用突起と係止突起との相互の当接面間に働く力は、スペーサの挿入方向と直交する基準面と当接面との間の挟角が45゜未満の場合は、前記挟角が小さいほど、当接面に平行な方向の成分の方が当接面に直交する方向の成分よりも小さくなり、当接面間に滑りを生じ難くさせることができる。
【0027】
従って、スペーサの挿入方向と直交する基準面と当接面との間の挟角を45゜未満に設定することで、輸送時等の誤接触でスペーサが仮係止位置から本係止位置に移動することを抑止する効果を高めることができる。
【0028】
上記(4)の構成によれば、スペーサの後端面を提供する後端壁にスリットを設けるという、実施が容易な構成で、スペーサの後端壁を撓み変形し易くすることができる。
【0029】
従って、スペーサの幅方向の中央を押圧することで、スペーサの後端壁を中央部が凹んだ所望の撓み形状に撓み変形させることが容易になる。
【0030】
上記(5)の構成によれば、スペーサの後端面を提供する後端壁に薄肉部を設けるという、実施が容易な構成で、スペーサの後端壁を撓み変形し易くすることができる。
【0031】
従って、スペーサの幅方向の中央を押圧することで、スペーサの後端壁を中央部が凹んだ所望の撓み形状に撓み変形させることが容易になる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によるコネクタによれば、仮係止機構によりコネクタハウジング内の仮係止位置に位置決めされているスペーサは、スペーサの後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重が作用させた場合に限って、仮係止位置から本係止位置に移動させることができる。
【0033】
輸送中等では、スペーサの後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重が作用することは、まず発生し得ない。従って、コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサが、輸送中等の誤接触等で不用意に仮係止位置から本係止位置に押し込まれることがない。
【0034】
そのため、コネクタハウジングに端子金具を収容する際にスペーサを元の仮係止位置へ戻す復旧作業が発生することを防止することができ、取り扱い性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るコネクタの一実施形態の分解斜視図である。
【図2】図1に示したコネクタハウジングの正面図である。
【図3】図1に示したコネクタハウジング内のスペーサを係止する機構を示すコネクタハウジングの背面図である。
【図4】図3に示したA部の拡大図である。
【図5】図1に示したスペーサの拡大図である。
【図6】図3に示したコネクタハウジングにスペーサが仮止めされた状態の背面図である。
【図7】図6のB部の拡大図である。
【図8】コネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部が押下されて、スペーサの両外側壁が傾斜したときの位置決め用突起と係止突起との係合状態を示す拡大図である。
【図9】コネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起の乗り越えを開始した状態の背面から見た図である。
【図10】コネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起の乗り越える動作が完了に近づいている状態の背面から見た図である。
【図11】コネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起を乗り越えて、本係止位置に移動した状態の背面から見た図である。
【図12】本発明のコネクタで使用するスペーサの別の実施形態の斜視図である。
【図13】本発明のコネクタで使用するスペーサの更に別の実施形態の斜視図である。
【図14】従来のコネクタの分解斜視図である。
【図15】従来のコネクタにおいて、スペーサが仮係止位置に位置決めされている状態の斜視図である。
【図16】図15に示したコネクタにおけるスペーサの取り付け状態を示す背面図である。
【図17】図15に示したコネクタのスペーサの一端側が仮係止位置から本係止位置に移動した状態を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係るコネクタの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
図1〜図11は本発明に係るコネクタの一実施形態を説明するもので、図1は一実施形態のコネクタの分解斜視図、図2は図1に示したコネクタハウジングの正面図、図3は図1に示したコネクタハウジング内のスペーサを係止する機構を示すコネクタハウジングの背面図、図4は図3に示したA部の拡大図、図5は図1に示したスペーサの拡大図、図6は図3に示したコネクタハウジングにスペーサが仮止めされた状態の背面図、図7は図6のB部の拡大図、図8はコネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部が押下されて、スペーサの両外側壁が傾斜したときの位置決め用突起と係止突起との係合状態を示す拡大図、図9はコネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起の乗り越えを開始した状態の背面から見た図、図10はコネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起の乗り越える動作が完了に近づいている状態の背面から見た図、図11はコネクタハウジングに仮係止されているスペーサの幅方向の中央部と端部とのそれぞれが押下されて、位置決め用突起が係止突起を乗り越えて、本係止位置に移動した状態の背面から見た図である。
【0038】
この一実施形態のコネクタ1は、図1〜図3に示すように、端子金具(不図示)を収容するコネクタハウジング10と、コネクタハウジング10に収容された端子金具の抜け止めのためにコネクタハウジング10のスペーサ装着用開口11に挿入されるスペーサ20と、スペーサ20を端子金具に係合しない仮係止位置に仮止めする仮係止機構30と、仮係止位置よりもハウジング内奥側に押し込まれたスペーサ20を端子金具に係合した本係止位置に係止する本係止機構40と、を備えている。
【0039】
コネクタハウジング10は、図1に示すように、下面で、やや後端寄りの位置にスペーサ装着用開口11を有している。スペーサ20は、図1に示す矢印Z2方向に沿ってスペーサ装着用開口11に挿入されることで、コネクタハウジング10に装着される。
【0040】
コネクタハウジング10のスペーサ装着用開口11の内奥部には、図3及び図4に示すように、第1係止突起13と、第2係止突起14とが装備されている。
【0041】
第1係止突起13は、図3及び図4に示すように、スペーサ装着用開口11に挿入されるスペーサ20の幅方向の両外側面21a,22a(図5参照)に対向する一対の内側面10a,10bに、内方に向かって突設されている。
【0042】
この第1係止突起13は、図4に示すように、下側に仮係止テーパ面31を有し、上側に本係止テーパ面41を有している。
【0043】
仮係止テーパ面31は、スペーサ装着用開口11側に面したテーパ面である。この仮係止テーパ面31は、コネクタハウジング10の幅方向の内側の位置がスペーサ20の挿入方向前方(図1の矢印Z2方向)に向かう傾斜で、スペーサ20の挿入方向と直交する基準面M1(図4参照)との間の挟角θが45゜未満となる鋭角の傾斜に設定されている。
【0044】
仮係止テーパ面31は、スペーサ20がスペーサ装着用開口11から挿入されて仮係止位置に進んだときに後述の位置決め用突起24と当接して、位置決め用突起24がそれ以上挿入方向に進むことを規制する。
【0045】
第2係止突起14は、内側面10a,10bよりもハウジングの内部側から内側面10a,10bに対向するようにハウジング内に設けられた外向き側面10c、10dに突設されている。この第2係止突起14の上端面は、スペーサ20が仮係止位置に進んだときに、スペーサ20の内向き突起25と係合して、スペーサ20がスペーサ装着用開口11側に戻ることを規制する戻り規制面32となっている。
【0046】
仮係止テーパ面31及び戻り規制面32は、スペーサ20を仮係止位置に位置決めする仮係止機構30として機能する。
【0047】
第1係止突起13の本係止テーパ面41は、スペーサ20の位置決め用突起24が第1係止突起13を乗り越えたときに、位置決め用突起24の後端面を係止して、スペーサ20を本係止位置に固定する本係止機構40として機能する。
【0048】
スペーサ20は、図5〜図7に示すように、コネクタハウジング10の幅方向に対向する両外側部に配置された一対の外側壁21,22と、これらの一対の外部壁21,22相互を連結する後端壁23と、一対の外側壁21,22の先端寄りの位置からコネクタハウジング10の幅方向外方に突出して設けられた位置決め用突起24と、一対の外側壁21,22の先端寄りの位置からコネクタハウジング10の幅方向内方に突出して設けられた内向き突起25と、一対の外側壁21,22の後端寄りの位置からコネクタハウジング10の幅方向外方に突出して設けられたガイド突起26と、当該スペーサ20が本係止位置に位置決めされたときに端子金具の抜けを規制する金具係止部28と、を備えている。
【0049】
一対の外側壁21,22は、図6に示すように当該スペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重G1が作用すると、先端から後端に向かってスペーサ20の幅が狭まる所定の傾斜状態に撓み変形するように、装備されている。図8は、図6の押圧荷重G1の作用によって、スペーサ20の外側壁22が所定の傾斜状態に撓み変形した状態を示している。
【0050】
図8に示したように、外側壁22が所定の傾斜状態になると、外側壁22の先端に突設されている第1位置決め用突起24は、図8の矢印R1方向に回動して、第1係止突起13に当接する角度が当初よりも急角度になる。
【0051】
スペーサ20の後端壁23には、スペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重G1が作用したときに、後端壁23を中央が凹んだ状態に撓み変形し易くするスリット27が設けられている。
本実施形態の場合、スリット27は、図5に示すように、2本装備されている。
【0052】
位置決め用突起24は、スペーサ装着用開口11に挿入されたスペーサ20が、仮係止位置まで進んだときに、図6及び図7に示すように、ハウジング内の第1係止突起13の仮係止テーパ面31に当接して、それ以上ハウジングの内奥に進むことを規制する。位置決め用突起24が仮係止テーパ面31に当接したときには、図7に示すように、内向き突起25の後端面が第2係止突起14に係止されて、スペーサ20がスペーサ装着用開口11側に戻ることも規制される。
【0053】
即ち、後端壁23及び内向き突起25は、仮係止テーパ面31及び戻り規制面32との協働で、スペーサ20を仮係止位置に位置決めする仮係止機構30として機能する。
【0054】
スペーサ20が仮係止位置に進んだときに第1係止突起13の仮係止テーパ面31に当接する位置決め用突起24の当接面は、仮係止テーパ面31と同様に傾斜に設定されている。即ち、位置決め用突起24の仮係止テーパ面31に当接する当接面は、コネクタハウジング10の幅方向の内側の位置がスペーサ20の挿入方向前方に向かう傾斜で、スペーサ20の挿入方向と直交する基準面との間の挟角が45゜未満となる鋭角の傾斜に設定されている。
【0055】
ガイド突起26は、スペーサ20がスペーサ装着用開口11に挿入されたときに、図6及び図7に示すようにコネクタハウジング10内の内側面10a,10b上を摺動し、外側壁21,22が幅方向外側に倒れることを規制する。
【0056】
以上に説明したコネクタ1の仮係止機構30は、スペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重G1が作用し、且つ、スペーサ20の後端面の幅方向の端部に第2の設定値以上の押圧荷重G2が作用したときに限って、スペーサ20の仮係止位置から本係止位置への移動を許容するように、仮係止テーパ面31及び位置決め用突起24の当接面の角度が設定されている。
【0057】
更に詳しく説明すると、本実施形態のコネクタ1では、スペーサ20を仮係止位置に位置決めしている位置決め用突起24と第1係止突起13との相互の当接面は、スペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重G1が作用して、図8に示したように、一対の外側壁21,22が所定の傾斜状態に撓み変形することで位置決め用突起24が所定の傾斜状態となる。この状態で、更に、図7に示すように、スペーサ20の後端面の幅方向の端部にスペーサ20の挿入方向に沿う第2の設定値以上の押圧力G2が作用したときに限って、図9〜図11に示すように、位置決め用突起24が第1係止突起13を乗り越えて本係止位置へ移動するように、位置決め用突起24と第1係止突起13との相互の当接面の傾斜角が設定されている。
【0058】
以上に説明した一実施形態のコネクタ1では、仮係止機構30によりコネクタハウジング10内の仮係止位置に位置決めされているスペーサ20は、スペーサ20の後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重を作用させた場合に限って、仮係止位置から本係止位置に移動させることができる。
【0059】
輸送中等では、スペーサ20の後端面の中央と端部のそれぞれに、予め設定した設定値以上の押圧荷重が作用することは、まず発生し得ない。従って、仮係止機構30により仮係止位置に保持されているスペーサ20が、輸送中等の誤接触等で不用意に仮係止位置から本係止位置に押し込まれることがない。
【0060】
そのため、コネクタハウジング10に端子金具を収容する際にスペーサ20を元の仮係止位置へ戻す復旧作業が発生することを防止することができ、取り扱い性を向上させることができる。
【0061】
また、一実施形態のコネクタ1では、仮係止位置に位置決めされているスペーサ20の後端面の幅方向の中央となる位置を押圧すると、図8に示すように後端面を提供しているスペーサ20の後端壁23の中央が凹んだ状態に撓み変形し、この後端壁23の変形に伴い、スペーサ20の両外側壁21,22が、先端から後端に向かってスペーサ20の幅が狭まる所定の傾斜状態に撓み変形する。
【0062】
そして、このスペーサ20の両外側壁21,22が所定の傾斜状態に撓み変形することで、両外側壁21,22に装備されている位置決め用突起24は、第1係止突起13に当接する角度が当初よりも急角度になり、その結果、スペーサ20の後端壁23にかける押圧荷重が小さくても、位置決め用突起24が第1係止突起13を乗り越え易くなる。
【0063】
逆に言えば、スペーサ20の後端面の中央が押下されない状態では、位置決め用突起24が第1係止突起13に当接する角度が緩やかであり、位置決め用突起24が第1係止突起13を乗り越えるためには、より大きな押圧荷重をかけることが必要になる。
【0064】
そのため、スペーサ20の後端面の中央が押下されない状態において位置決め用突起24に第1係止突起13を乗り越えさせる際に必要となる押圧荷重が、輸送時等における誤接触で作用する荷重よりも大きくなるように、第1係止突起13に当接する位置決め用突起24の当初の傾斜角を設定しておけば、輸送時等にスペーサ20の後端面の端部又は中央の何れか一方に、誤接触による押圧荷重が作用しても、誤接触によってスペーサ20が仮係止位置から本係止位置に不本意に移動するという不都合の発生を防止することができる。
【0065】
即ち、一実施形態のコネクタ1では、スペーサ20の後端面の幅方向の中央と端部のそれぞれに同時に設定荷重以上の押圧荷重を作用させたときにのみ、スペーサ20を仮係止位置から本係止位置に移動させることができるという本発明の技術的思想を実現することができる。
【0066】
また、一実施形態のコネクタ1では、スペーサ20の後端面に作用する押圧荷重(図4のF)によって位置決め用突起24と第1係止突起13との相互の当接面間に働く力は、スペーサ20の挿入方向と直交する基準面と当接面との間の挟角が45゜未満の場合は、挟角が小さいほど、当接面に平行な方向の成分(図4のFh)の方が当接面に直交する方向の成分(図4のFv)よりも小さくなり、当接面間に滑りを生じ難くくさせることができる。
【0067】
従って、本実施形態のようにスペーサ20の挿入方向と直交する基準面と当接面との間の挟角が45゜未満に設定することで、輸送時等の誤接触でスペーサ20が仮係止位置から本係止位置に移動することを抑止する効果を高めることができる。
【0068】
また、一実施形態のコネクタ1では、スペーサ20の後端面を提供する後端壁23にスリット27を設けるという、実施が容易な構成で、スペーサ20の後端壁23を撓み変形し易くすることができる。
【0069】
従って、スペーサ20の幅方向の中央を押圧することで、スペーサ20の後端壁23を中央部が凹んだ所望の撓み形状に撓み変形させることが容易になる。
【0070】
なお、本発明のコネクタは、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形、改良等が可能である。
【0071】
例えば、スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用したときに後端壁を撓み変形し易くする手段は、上記実施形態に限らない。
【0072】
例えば、図12に示すスペーサ20Aでは、後端壁23を撓み変形し易くする手段として、一実施形態に示したスリット27の代わりに、薄肉部27Aを設けている。
【0073】
図12に示した構成では、スペーサの後端面を提供する後端壁23に薄肉部27Aを設けるという、実施が容易な構成で、スペーサ20の後端壁23を撓み変形し易くすることができる。
【0074】
従って、スペーサ20Aの幅方向の中央を押圧することで、スペーサ20Aの後端壁23を中央部が凹んだ所望の撓み形状に撓み変形させることが容易になる。
【0075】
また、スペーサの後端壁を撓み変形し易くする手段として、後端壁にスリットを設ける場合に、設けるスリットの数量や、スリットの具体的な形状も、前述した実施形態に限定されない。
【0076】
例えば、図13に示すスペーサ20Bでは、端壁23を撓み変形し易くする手段として、一実施形態に示した2本のスリット27の代わりに、一実施形態の場合とは断面形状が相異する1本のスリット27Bを設けている。
【0077】
このように、後端壁に装備するスリットの断面形状や、装備数量を変更することで、スペーサの後端壁の撓み特性を調整するようにしても良い。
【符号の説明】
【0078】
1 コネクタ
10 コネクタハウジング
11 スペーサ装着用開口
13 第1係止突起(係止突起)
14 第2係止突起(係止突起)
20,20A,20B スペーサ
21,22 外側壁
24 位置決め用突起
25 内向き突起
27,27A,27B スリット
30 仮係止機構
31 仮係止テーパ面
40 本係止機構
41 本係止テーパ面
G1 押圧荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具を収容するコネクタハウジングと、
前記コネクタハウジングに収容された前記端子金具の抜け止めのために前記コネクタハウジングのスペーサ装着用開口に挿入されるスペーサと、
前記スペーサを前記端子金具に係合しない仮係止位置に仮止めする仮係止機構と、
前記仮係止位置よりもハウジング内奥側に押し込まれた前記スペーサを、前記端子金具に係合した本係止位置に係止する本係止機構と、
を備えるコネクタであって、
前記仮係止機構は、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用し、且つ、前記スペーサの後端面の幅方向の端部に第2の設定値以上の押圧荷重が作用したときに限って、前記スペーサの前記仮係止位置から前記本係止位置への移動を許容することを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記スペーサは、前記コネクタハウジングの幅方向に対向する両外側部に配置されて、当該スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用すると、先端から後端に向かってスペーサの幅が狭まる所定の傾斜状態に撓み変形する一対の外側壁と、前記一対の外側壁の先端寄りの位置からコネクタハウジングの幅方向外方に突出して設けられた位置決め用突起と、を備え、
前記コネクタハウジングは、前記スペーサが前記スペーサ装着用開口から挿入されて前記仮係止位置に進んだときに前記位置決め用突起が当接するように前記コネクタハウジングの内側面に突設されて、前記位置決め用突起の当接により前記仮係止機構として機能する係止突起を備え、
前記スペーサを前記仮係止位置に位置決めしている前記位置決め用突起と前記係止突起との相互の当接面は、前記スペーサの後端面の幅方向の中央となる位置に第1の設定値以上の押圧荷重が作用して前記一対の外側壁が前記所定の傾斜状態に撓み変形することで前記位置決め用突起が所定の傾斜状態となり、且つ、前記スペーサの後端面の幅方向の端部に前記スペーサの挿入方向に沿う第2の設定値以上の押圧力が作用したときに限って、前記位置決め用突起が前記係止突起を乗り越えて前記本係止位置への移動を許容するように、互いの傾斜角が設定されていることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記スペーサを前記仮係止位置に位置決めしている前記位置決め用突起と前記係止突起との相互の当接面は、前記コネクタハウジングの幅方向の内側の位置が前記スペーサの挿入方向前方に向かう傾斜で、前記スペーサの挿入方向と直交する基準面との間の挟角が45゜未満となる鋭角の傾斜に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−8572(P2013−8572A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140766(P2011−140766)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】