説明

コハク酸の製造方法

【課題】コハク酸アルカリ金属塩から、シンプルな分離精製方法により、高度に精製されたコハク酸を効率的に得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のコハク酸の製造方法は、コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液に硫酸を添加する工程(1)と、アルカリ金属硫酸塩結晶を析出させて前記液より除去する工程(2)と、コハク酸結晶を析出させて回収する工程(3)とを含むことを特徴とする。前記工程(2)におけるアルカリ金属硫酸塩結晶の除去は、前記工程(1)において硫酸添加した液を濃縮および加熱してアルカリ金属硫酸塩結晶を析出させ、かつ、コハク酸が溶解した状態で、固液分離することにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコハク酸の製造方法に関する。さらに詳しくは、コハク酸アルカリ金属塩を含有する液に硫酸を添加し、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とを分別晶析する方法を用いることにより高純度に精製された、ポリマー、食品、医薬品、その他化学品の合成原料として有用なコハク酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コハク酸は、ポリマー、食品、医薬品、その他化学品の合成原料として広く用いられており、特にポリマー原料としてコハク酸を用いる場合、ポリマーの重合度維持や着色防止などのために、高純度のコハク酸が要求される。コハク酸の高純度化は精製段数を重ねれば可能ではあるが、工業的生産を経済的に行うためには、分離精製工程の簡略化が必要となる。
【0003】
一般に、発酵法によるコハク酸の製造において、pHを制御せずに発酵を行うと、反応の進行に伴って生産されたコハク酸が反応系内に蓄積する。これにより、反応液のpHが低下して菌体のコハク酸生産反応の適正領域から逸脱し、その結果、コハク酸の生産速度が大きく低下する。そのため、通常、アルカリを添加することによりpHを制御して生産速度を維持する。したがって、コハク酸アルカリ金属塩は、発酵法によるコハク酸の製造における反応液に多く見られる形態である。
【0004】
コハク酸アルカリ金属塩を含む反応液から高純度のコハク酸を製造する方法として、水分解電気透析によりコハク酸塩の不飽和水溶液を遊離コハク酸の過飽和水溶液に変換し、該過飽和コハク酸水溶液から結晶化させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、コハク酸を分離精製する際に、過飽和水溶液を得るための水分解電気透析処理前に、通常の電気透析等の工程を実施する必要があることから、処理工程数が多いという問題点を有している。また、この電気透析を用いる方法で工業生産を実施する場合、電気透析膜の洗浄のための薬液の使用や膜の劣化による交換など、装置購入の初期投資だけでなく、稼働後のランニングコストが高くなるという問題も有している。
【0006】
また、別の方法としては、Ca(OH)2を添加してコハク酸Caにし、これを結晶と
して回収した後、硫酸を添加することによりCaを石膏として結晶化させ、コハク酸は溶解液として回収し、さらに冷却して晶析する方法も知られている(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の方法では、処理工程数が多く、コハク酸Caの回収時にアルカリ廃液が発生するという問題点を有している。
【0007】
さらに、別の方法としては、酸性下で硫酸アンモニウムを添加し、塩析によりコハク酸を回収した後、メタノール抽出して残存硫酸アンモニウムを除去し、溶媒を回収して晶析する方法が知られている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3の方法では、水およびメタノールの2つの液相系で処理を行うため、処理工数が増えるとともに、有機溶媒対応の設備も必要になるという問題点を有している。
【0008】
以上のことから、処理工数が少なく、汎用的な設備でランニングコストが安く、シンプルな分離精製工程から成り立つ、効率的な製造方法を確立することが望まれていた。
【特許文献1】特許第2944157号公報
【特許文献2】特開昭62−294090号公報
【特許文献3】特表2001−514900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、コハク酸アルカリ金属塩から、シンプルな分離精製方法により、高度に精製されたコハク酸を効率的に得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、コハク酸アルカリ金属塩含有液に硫酸を添加し、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とが共存する状態において、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とを分別して晶析することにより、コハク酸アルカリ金属塩含有液から高純度のコハク酸を簡便で効率的に分離精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、コハク酸アルカリ金属塩含有液に硫酸を添加して、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とが共存する状態とした上で、初めにアルカリ金属硫酸塩結晶を選択的に析出させて除去し、続いてコハク酸結晶を選択的に析出させて回収する二段階の晶析を行うことを特徴とするコハク酸の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明は、例えば、以下の事項からなる。
[1] コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液に硫酸を添加する工程(1)と、アルカリ金属硫酸塩結晶を析出させて前記液より除去する工程(2)と、コハク酸結晶を析出させて回収する工程(3)とを含むことを特徴とするコハク酸の製造方法。
【0013】
[2] 前記工程(1)において添加される硫酸量が、前記液中に含まれるアルカリ金属と同当量数であることを特徴とする[1]に記載のコハク酸の製造方法。
[3] 前記工程(2)におけるアルカリ金属硫酸塩結晶の除去が、前記工程(1)において硫酸添加した液を濃縮および加熱してアルカリ金属硫酸塩結晶を析出させ、かつ、コハク酸が溶解した状態で、固液分離することにより行われることを特徴とする[1]に記載のコハク酸の製造方法。
【0014】
[4] 前記硫酸添加した反応液を濃縮および加熱した後の液中のアルカリ金属硫酸塩濃度が20g/100g-水以上であり、かつ、コハク酸の濃度が60g/100g-水以下であり、前記加熱温度が50℃以上であることを特徴とする[3]に記載のコハク酸の製造方法。
【0015】
[5] 前記工程(3)におけるコハク酸結晶の回収が、前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液を冷却してコハク酸を晶析させ、かつ、前記工程(2)において除去されずに液中に残存するアルカリ金属硫酸塩が溶解した状態で、固液分離することによって行われることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のコハク酸の製造方法。
【0016】
[6] 前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液の冷却温度が50℃以下であることを特徴とする[5]に記載のコハク酸の製造方法。
[7] 前記回収されたコハク酸結晶を、前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液の冷却温度より低い温度の水で洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする[5]または[6]に記載のコハク酸の製造方法。
【0017】
[8] 前記回収されたコハク酸結晶を水で再溶解し、得られた溶液を冷却することによりコハク酸を再晶析させて回収する工程をさらに含むことを特徴とする[5]または[6]に記載のコハク酸の製造方法。
【0018】
[9] 前記コハク酸結晶を水で再溶解した後であって、コハク酸を再晶析させて回収する前に、コハク酸結晶を再溶解した液を活性炭で処理する工程をさらに含むことを特徴とする[8]に記載のコハク酸の精製造方法。
【0019】
[10] 前記コハク酸結晶回収後の残液を、前記工程(2)における濃縮および加熱する前の液に加えて再処理することを特徴とする[3]に記載のコハク酸の製造方法。
[11] 前記回収されたコハク酸結晶を水洗し、回収された洗浄水を、前記工程(2)における濃縮および加熱する前の液に加えて再処理することを特徴とする[3]に記載のコハク酸の製造方法。
【0020】
[12] 前記コハク酸アルカリ金属塩を含有する液が、微生物による培養液であることを特徴とする[1]に記載のコハク酸の製造方法。
[13] 前記コハク酸アルカリ金属塩を含有する液の溶媒が水であることを特徴とする[1]に記載のコハク酸の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法を用いれば、高純度のコハク酸を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るコハク酸の製造方法について、詳細に説明する。なお、図1は、本発明のコハク酸の製造工程を示すフローチャートである。
<コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液の準備>
本発明では、コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液を原料に用いる。この液はコハク酸のアルカリ金属塩を含むものであれば特に限定されず、塩の種類もアルカリ金属であれば特に制限されないが、有機溶剤を含有しない水を溶媒とするものが好ましい。
【0023】
コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液としては、例えば、微生物によって発酵生産されたコハク酸のアルカリ金属塩の反応液を挙げることができる。微生物を用いたコハク酸アルカリ金属塩の反応液は、例えば、コハク酸生産能を有する微生物を、炭素源や窒素源等を含有した培地液中で、pH調整剤として水酸化アルカリ金属水溶液を添加しながら行う培養によって得ることができる。この反応液中には、発酵の副生成物として酢酸や乳酸等の他の有機酸およびその金属塩が少量含有されていてもよい。
【0024】
本発明では、コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液に硫酸を添加することにより、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とが共存する状態とした上で、初めにアルカリ金属硫酸塩結晶を選択的に析出させて除去し、続いてコハク酸結晶を選択的に析出させて回収する二段階の晶析を行うことにより、コハク酸のアルカリ金属塩を遊離型コハク酸に酸転化することができる。さらに、酸転化したコハク酸を水で再溶解し、これを冷却して結晶を再晶析させて回収することにより、高純度のコハク酸を得ることができる。
【0025】
<硫酸添加>
コハク酸アルカリ金属塩含有液への硫酸の添加は、液中のアルカリ金属の対イオンとして硫酸イオンを供給してアルカリ金属硫酸塩とし、次工程のアルカリ金属硫酸塩の晶析(以下「高温晶析」ともいう。)において、それを最大限結晶化して除去することが目的である。しかしながら、アルカリ金属に対して硫酸を添加することは、不純物として硫酸根を残すことになり、高純度のコハク酸取得の障害の原因となる。このため、反応液に添加する硫酸量は、反応液に含有するアルカリ金属と同当量数であることが望ましい。
【0026】
上述したように微生物による発酵液には、通常、コハク酸の他に副生成物として他の有
機酸が共存する。したがって、反応で添加される水酸化アルカリ金属は、コハク酸だけでなく他の有機酸の中和のためにも添加される。このように、液に含有するコハク酸当量数とアルカリ金属当量数とは必ずしも一致しない。つまり、正確に硫酸添加量を求めるにはコハク酸当量数よりアルカリ金属当量数を用いることが望ましい。
【0027】
<高温晶析>
硫酸添加した液を、アルカリ金属硫酸塩濃度が液における飽和溶解度以上、かつ、コハク酸濃度が液における飽和溶解度以下になるように濃縮および加熱して、アルカリ金属硫酸塩結晶が選択的に析出する状態となるようにする。濃縮・加熱後のアルカリ金属硫酸塩濃度、コハク酸濃度および温度は、前記条件を満たし、かつ、アルカリ金属硫酸塩結晶の選択的結晶化に支障をきたさなければ、特に限定されない。
【0028】
コハク酸とアルカリ金属塩とが共存した系において、コハク酸の溶解度は温度上昇とともに高くなる一方、アルカリ金属塩の溶解度は温度上昇とともに下がるか、あるいはほぼ一定の傾向にある。したがって、コハク酸を選択的に晶析させて回収する次の工程(以下「低温晶析」ともいう。)でコハク酸の回収量をより上げ、かつ、不純物となるアルカリ金属塩の含有量をより下げるためには、濃縮・加熱後の温度は、コハク酸が熱分解しない範囲で高いことが好ましく、通常50℃以上、より好ましくは70〜80℃である。
【0029】
また、濃縮・加熱後のアルカリ金属硫酸塩およびコハク酸の濃度は、例えば、加熱温度を50℃以上とする場合は、液中のアルカリ金属硫酸塩濃度が20g/100g-水以上、かつ、コハク酸の濃度が60g/100g-水以下の範囲であることが好ましく、アルカリ金属硫酸塩濃度が60〜80g/100g-水、かつ、コハク酸の濃度が30〜50g/1
00g-水の範囲であることがより好ましい。
【0030】
上記数値範囲を外れた場合、例えば、コハク酸濃度が上記範囲よりも高いと、アルカリ金属硫酸塩と一緒にコハク酸も析出しコハク酸のロスにつながる。また、コハク酸濃度が上記範囲よりも低いと、次工程である低温晶析工程でのコハク酸結晶の回収率が低下する傾向にある。一方、アルカリ金属硫酸塩濃度が上記範囲よりも高いと、結晶量が多くなり固液分離効率が低下する傾向にある。また、アルカリ金属硫酸塩濃度が上記範囲よりも低いと、結晶量が少なくなり、全体に対するアルカリ金属硫酸塩の結晶比率が低下し、除去効率が落ちる傾向にある。
【0031】
析出したアルカリ金属硫酸塩結晶の固液分離方法としては、固液分離中の系内の温度を濃縮・加熱時と等しい温度以上に維持し、分離処理時にコハク酸の結晶を析出させることなくアルカリ金属塩のみ析出させた状態を保持できる機能を持ち合わせた遠心分離、遠心濾過、フィルタープレス、膜濾過などの方法を採用することができる。
【0032】
<低温晶析>
上記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液を冷却し、コハク酸結晶が選択的に析出する状態となるようにする。
【0033】
冷却した液には、結晶化していないコハク酸と、前工程で結晶化されずに残存したアルカリ金属硫酸塩とが溶解している。このため、アルカリ金属硫酸塩をより確実に溶解した状態にするために、冷却と一緒に水希釈してアルカリ金属硫酸塩濃度を下げてもよい。
【0034】
冷却の温度は、コハク酸を選択的に結晶化させるのに支障をきたさなければ、特に限定されないが、高温晶析の温度より低い50℃以下が好ましく、35〜40℃がより好ましい。
【0035】
アルカリ金属硫酸塩としては、ボウショウ(硫酸ナトリウム)や硫酸カリウムが挙げられるが、ボウショウ(硫酸ナトリウム)が特に好ましい。ボウショウの水に対する飽和溶解度は、結晶水型から無水塩型への転移温度以上で概ね一定である。これに対して、コハク酸の水に対する飽和溶解度は、温度が高くなるにつれて増加する。そのため、両者の飽和溶解度曲線は図2に示すように交差する。この交差温度より高い温度領域でボウショウを選択的に析出させることが可能であり、この交差温度より低い温度領域でコハク酸を選択的に析出させることが可能である。なお、両者の飽和溶解度差の大きい温度で選択的に晶析することが好ましい。また、図2に示したようにボウショウ(硫酸ナトリウム)の場合、結晶水型から無水塩型への転移温度(32.4℃)以下では、飽和溶解度が低下して析出しやすくなる。そのため、低温晶析は35℃以上で行うことが好ましい。
【0036】
結晶回収は、コハク酸が結晶化析出した液(以下「結晶液」ともいう。)を固液分離し、結晶に付着している不純物をリンスにより除去して行なわれる。
固液分離の方法としては、遠心分離、遠心濾過、フィルタープレス濾過、膜濾過などの方法を採用することができる。コハク酸の回収効率、付着不純物の除去効率などを考慮すると、濾布型固液分離が有利であり、特にフィルタープレスおよび/または遠心濾過を採用することが好ましい。また、結晶回収率維持の観点から、結晶液は冷却時の温度で維持されることが好ましい。
【0037】
また、結晶液の結晶を固液分離により濾過面に回収した状態で、濾過面に水または後述の再晶析で回収される固液分離後の濾液を洗浄液として供給することにより、結晶に付着した不純物を洗い流すこともできる。洗浄液は、結晶回収率維持の観点から、結晶液の温度以下に冷却されていることが好ましい。また、洗浄液のコハク酸濃度は、洗浄液へのコハク酸溶解ロスを抑制するためその温度における飽和溶解度に近い濃度であることが好ましい。たとえば、洗浄液として水を用いる場合には、水温を低くして飽和溶解度を下げることが好ましい。供給する液量は、濾液中の不純物の種類や量、所望の精製度、回収率などに応じて適宜調整することができる。
【0038】
<結晶溶解・活性炭処理・再晶析>
コハク酸結晶回収の固液分離において、結晶に付着している不純物の濃度をさらに低減させたい場合は、回収したコハク酸結晶を、水または温水で溶解し、必要に応じて活性炭処理した後、冷却して再結晶化し、再度固液分離を行うことにより、付着している不純物を除去することができる。
【0039】
この場合、溶解後のコハク酸濃度および冷却温度は、冷却時の結晶化に支障をきたさなければ特に限定されない。また、固液分離時の処理は、結晶の回収のみで行ってもよいし、必要に応じて水の供給による洗浄を加えて行ってもよい。また、再結晶化および再固液分離の操作回数は一回に限定されるものでもない。
【0040】
<乾燥>
回収されたコハク酸結晶は、水分の乾燥を行い乾燥品にすることもできる。この場合の乾燥方法は、コハク酸が変質せず、不純物が混入しない範囲において実施されるものであれば、特に限定されない。
【0041】
なお、低温晶析および再晶析によるコハク酸結晶回収後の残液を、濃縮・加熱する前の液に戻して再処理をすることもできる。再処理を行う場合は、系内の不純物が蓄積していくため、分離精製効率を考え、適宜、低温晶析の濾液を再処理せず、系外に除去することが望ましい。
【0042】
以上のように、本発明のコハク酸の製造方法は、コハク酸アルカリ金属塩の含有液に硫
酸を添加し、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とが共存する状態において、アルカリ金属硫酸塩とコハク酸とを分別して晶析する方法であって、処理工程数が少なく晶析手法だけのシンプルな精製方法である。本発明の製造方法により、高純度のコハク酸結晶を、晶析操作を行う汎用設備により効率的に得ることを可能とした。
【0043】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例等では、各工程で成分分析した際にサンプリングロスが若干生じているが、このサンプリングロスについては考慮せずに収量等を記載している。
【0044】
<モデル液での共晶点測定>
コハク酸144gおよびボウショウ108gを、水180gが入った500mL共栓つき三角フラスコに加えて過飽和共存スラリー液を調製した。スラリー液をウォーターバス中でスターラー撹拌することにより、35℃、45℃、60℃および80℃の各液温に調整し、各温度到達後2時間以上撹拌した後に、上清のコハク酸およびボウショウの濃度を分析した。その結果、コハク酸の濃度は、35℃で4.6g/100g-水、45℃で7
.8g/100g-水、60℃で20.0g/100g-水、80℃で55.3g/100g-水となった。また、ボウショウの濃度は、35℃で46.4g/100g-水、45℃で42.0g/100g-水、60℃で36.9g/100g-水、80℃で28.8g/100g-水となった。これらの溶解度曲線は図2(共存系参照)、共晶線は図3に示す
通りになった。なお、「g/100g-水」とは、100gの水に溶解している溶質重量
gによって示した濃度単位である。
【0045】
図2より、コハク酸とボウショウの2成分モデル系では、低温になるとコハク酸溶解度が低下してボウショウ溶解度が上昇し、高温になるとコハク酸溶解度が上昇してボウショウ溶解度が低下する傾向が得られ、高温域でボウショウを選択的に析出させること、あるいは、低温域でコハク酸を選択的に析出させることが可能であることが確認された。
【0046】
また、共晶線は図3に示すように若干左に傾いている傾向であることがわかった。この共晶線から左下の領域の組成を有するコハク酸とボウショウの共存液において、その共存液を濃縮して両者の含有比が一定の濃度推移線が共晶線と交差する場合、交差する共晶点の温度以上に共存液温度を選定して濃縮すると、ボウショウを選択的に結晶化する状態が得られること、さらには析出したボウショウを除去した後、冷却するとコハク酸を選択的に結晶化する状態が得られることが確認された。
【0047】
<反応液の硫酸添加と共晶点測定>
有機酸、カチオン、アニオンおよび糖のHPLC分析により求めた表1に示す組成を有し、発酵生産によるコハク酸Naを含有する除菌した反応液(A)、(B)、(C)各1.0Lをそれぞれビーカーに分取した。次いで、各反応液に含まれるアルカリ金属濃度と同当量になるように、反応液(A)には111gの硫酸を、反応液(B)には84gの硫酸を、反応液(C)には50gの硫酸を、それぞれスターラーで撹拌しながら添加した。この液を、それぞれロータリーエバポレータで5倍濃縮して過飽和状態にした後、スラリー液を300mL共栓付き三角フラスコに全量投入した。次いで、これらをウォーターバス中でスターラー撹拌することにより、35℃、45℃、60℃および80℃の各液温に調整し、各温度到達後2時間以上撹拌した後に、それぞれの上清のコハク酸およびボウショウの濃度を測定し、溶解度曲線(図4)および共晶線(図5)を確認した。
【0048】
反応液の溶解度曲線および共晶線は、モデル液と同様であり、上記のような分別晶析が可能であることが確認された。
〔実施例1〕
<反応液(A)の分離精製>
(硫酸添加)
表1に示した組成を有する反応液(A)2080g(2.0L)を撹拌しながら、反応液(A)中に含まれるアルカリ金属と同当量数の濃硫酸223gを添加し、処理原液を調製した。表2に示すように、処理原液は、反応液量が2303g(2.2L)、コハク酸含有量が231g(13.7g/100g-水)、ボウショウ含有量が323g(19.2g/100g-水)となった。
【0049】
(高温晶析)
続いて、処理原液をロータリーエバポレータで1082gまで濃縮し、コハク酸濃度を46g/100g-水、ボウショウ濃度を65g/100g-水とし、共栓つき三角フラスコに全量移した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、80℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。濃縮液を温度80℃の状態で2時間撹拌した後、事前に80℃に加熱した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。
【0050】
回収した濾液は798gであり、その内訳は、コハク酸215g、ボウショウ77g、水分483g、その他22gであった。また、回収した結晶重量は284gであり、その内訳はボウショウ245g、コハク酸16g、水分17g、その他成分5gであった。高温晶析により処理原液中のコハク酸は濾液中に93%回収され、処理原液中のボウショウは結晶として76%除去された。
【0051】
(低温晶析)
高温晶析で回収した濾液798gを、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして、35℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら降温した。濃縮液を温度35℃の状態で2時間撹拌した後、事前に35℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、35℃の水215gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0052】
回収した結晶重量は176gであり、その内訳はコハク酸164g、ボウショウ0g、水分10g、その他成分2gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計837gであり、その内訳は、コハク酸51g、ボウショウ77g、水分688g、その他20gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、低温晶析により、結晶中にコハク酸は71%回収され、ボウショウは濾液中に24%含有し除去された。また、回収したコハク酸結晶は完全にNaを除去することができ、さらにコハク酸以外の有機酸等の他の不純物も97%除去できた。
【0053】
(再晶析)
低温晶析で回収した結晶に含有するその他成分を除去するため、低温晶析で回収した結晶176gを、共栓付き三角フラスコ中の水650gにスターラー撹拌しながら添加した。次いで、三角フラスコに栓をした密閉状態にして、65℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。65℃加温およびスターラー撹拌は継続し、結晶の完全溶解を確認したところで、5℃までウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら冷却した。濾液を温度5℃の状態で2時間撹拌した後、事前に5℃に保冷した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、5℃の水160gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0054】
回収した結晶重量は152gであり、その内訳はコハク酸140g、ボウショウ0g、水分12g、その他成分0gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計834gであり、その内訳は、コハク酸24g、ボウショウ0g、水分808g、その他2gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、再晶析により、結晶としてコハク酸は61%回収された。また、回収したコハク酸結晶は完全に不純物を除去できた。低温晶析および再晶析で回収した濾液を次回以降の処理にリサイクルする場合、本実施例におけるリサイクルできないコハク酸のロスは16g、処理原液中の含有量に対して7%となった。
【0055】
〔実施例2〕
<反応液(B)の分離精製>
(硫酸添加)
表1に示した組成を有する反応液(B)2060g(2.0L)を撹拌しながら、反応液中に含まれるアルカリ金属と同当量数の濃硫酸168gを添加し、処理原液を調製した。表2に示すように、得られた処理原液は、反応液量が2228g(2.1L)、コハク酸含有量が161g(9.3g/100g-水)、ボウショウ含有量が244g(14.0g/100g-水)となった。
【0056】
(高温晶析)
続いて、処理原液をロータリーエバポレータで795gまで濃縮し、コハク酸濃度を46g/100g-水、ボウショウ濃度を69g/100g-水とし、共栓つき三角フラスコに全量移した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、80℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。濃縮液を温度80℃の状態で2時間撹拌した後、事前に80℃に加熱した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。
【0057】
回収した濾液は577gであり、その内訳は、コハク酸152g、ボウショウ58g、水分338g、その他29gであった。また、回収した結晶重量は218gであり、その内訳はボウショウ185g、コハク酸10g、水分17g、その他成分6gであった。高温晶析により処理原液中のコハク酸は濾液に94%回収され、ボウショウは結晶に76%含有され除去された。
【0058】
(低温晶析)
高温晶析で回収した濾液577gを、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして、35℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら降温した。濃縮液を温度35℃の状態で2時間撹拌した後、事前に35℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、35℃の水152gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0059】
回収した結晶重量は125gであり、その内訳はコハク酸113g、ボウショウ0g、水分10g、その他成分2gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計604gであり、その内訳は、コハク酸39g、ボウショウ58g、水分480g、その他27gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、低温晶析により、結晶中にコハク酸は70%回収され、ボウショウは濾液中に24%含有され除去された。また、回収したコハク酸結晶は完全にNaを除去することができ、さらに他の不純物も97%除去できた。
【0060】
(再晶析)
低温晶析で回収した結晶に含有するその他成分を除去するため、低温晶析で回収した結
晶125gを、共栓付き三角フラスコ中の水450gにスターラー撹拌しながら添加した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、65℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。
【0061】
65℃加温およびスターラー撹拌は継続し、結晶の完全溶解を確認したところで、活性炭BA−50(味の素ファインテクノ製)をコハク酸重量に対して3%の3.4g添加した。活性炭添加後1時間、65℃加温および撹拌を継続して処理した後、事前に65℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Cの濾紙を用いて吸引濾過して濾液を回収した。回収した濾液は550gで、濾液中のコハク酸は109gであった。
【0062】
回収した濾液は、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして5℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら冷却した。濾液を温度5℃の状態で2時間撹拌した後、事前に5℃に保冷した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、5℃の水110gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0063】
回収した結晶重量は97gであり、その内訳はコハク酸90g、ボウショウ0g、水分7g、その他成分0gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計563gであり、その内訳は、コハク酸19g、ボウショウ0g、水分543g、その他1gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、再晶析により、結晶中にコハク酸は56%回収された。また、回収したコハク酸結晶は完全に不純物を除去できた。低温晶析および再晶析で回収した濾液を次回以降の処理にリサイクルする場合、本実施例におけるリサイクルできないコハク酸のロスは14g、処理原液の含有量に対して9%となった。
【0064】
〔実施例3〕
<反応液Cの分離精製>
(硫酸添加)
表1に示した組成を有する反応液(C)2040g(2.0L)を撹拌しながら、濃硫酸100gを添加し、処理原液を調製した。表2に示すように、処理原液は、反応液量が2140g(2.1L)、コハク酸含有量が72g(4.0g/100g-水)、ボウショウ含有量が145g(7.9g/100g-水)となった。
【0065】
(高温晶析)
続いて、処理原液をロータリーエバポレータで456gまで濃縮し、コハク酸濃度を36g/100g-水、ボウショウ濃度を73g/100g-水とし、共栓つき三角フラスコに全量移した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、80℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。濃縮液を温度80℃の状態で2時間撹拌した後、事前に80℃に加熱した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。
【0066】
回収した濾液は324gであり、その内訳は、コハク酸66g、ボウショウ33g、水分190g、その他35gであった。また、回収した結晶重量は132gであり、その内訳はボウショウ112g、コハク酸7g、水分10g、その他成分4gであった。高温晶析により処理原液中のコハク酸が濾液中に91%回収され、ボウショウは結晶として77%除去された。
【0067】
(低温晶析)
高温晶析で回収した濾液324gを、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして、35℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら降温
した。濃縮液を温度35℃の状態で2時間撹拌した後、事前に35℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、35℃の水66gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0068】
回収した結晶重量は59gであり、その内訳はコハク酸51g、ボウショウ0g、水分5g、その他成分3gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計331gであり、その内訳は、コハク酸15g、ボウショウ33g、水分251g、その他32gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、低温晶析により、結晶中にコハク酸は70%回収され、ボウショウは濾液中に23%含有し除去された。また、回収したコハク酸結晶は完全にNaを除去することができ、さらに他の不純物も97%除去できた。
【0069】
(再晶析)
低温晶析で回収した結晶に含有するその他成分を除去するため、低温晶析で回収した結晶59gを、共栓付き三角フラスコ中の水200gにスターラー撹拌しながら添加した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、65℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。
【0070】
65℃加温およびスターラー撹拌は継続し、結晶の完全溶解を確認したところで、活性炭BA−50(味の素ファインテクノ製)をコハク酸重量に対して5%の2.5g添加した。活性炭添加後1時間、65℃加温および撹拌を継続して処理した後、事前に65℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Cの濾紙を用いて吸引濾過して濾液を回収した。回収した濾液は235gで、濾液中のコハク酸は47gであった。
【0071】
回収した濾液は、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をし密閉した状態にして5℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら冷却した。濾液を温度5℃の状態で2時間撹拌した後、事前に5℃に保冷した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、5℃の水50gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0072】
回収した結晶重量は42gであり、その内訳はコハク酸38g、ボウショウ0g、水分4g、その他成分0gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計243gであり、その内訳は、コハク酸9g、ボウショウ0g、水分233g、その他2gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、再晶析により、結晶中にコハク酸は53%回収された。また、回収したコハク酸結晶は完全に不純物を除去できた。低温晶析および再晶析で回収した濾液を次回以降の処理にリサイクルする場合、本実施例におけるリサイクルできないコハク酸のロスは11g、処理原液の含有量に対して15%となった。
【0073】
〔実施例4〕
<反応液(B)の分離精製2回目>
(硫酸添加)
表1に示した組成を有する反応液(B)2060g(2.0L)を撹拌しながら、濃硫酸168gを添加した。この結果、反応液量は2228g(2.1L)、コハク酸含有量は161g(9.3g/100g-水)、ボウショウ含有量は244g(14.0g/10
0g-水)となった。
【0074】
(濾液リサイクル)
得られた硫酸添加液に、実施例2の低温晶析工程で回収した濾液604gおよび再晶析
工程で回収した濾液563g加えて混合し、処理原液を調製した。得られた処理原液は、混合液量が3395g(3.3L)、コハク酸含有量が219g(7.9g/100g-水)、ボウショウ含有量が302g(10.9g/100g-水)となった。
【0075】
(高温晶析)
続いて、処理原液をロータリーエバポレータで1019gまで濃縮し、コハク酸濃度を49g/100g-水、ボウショウ濃度を67g/100g-水とし、共栓つき三角フラスコに全量移した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、80℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。濃縮液を温度80℃の状態で2時間撹拌を継続した後、事前に80℃に加熱した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。
【0076】
回収した濾液は743gであり、その内訳は、コハク酸202g、ボウショウ73g、水分430g、その他39gであった。また、回収した結晶重量は275gであり、その内訳はボウショウ230g、コハク酸18g、水分20g、その他成分8gであった。高温晶析により処理原液中のコハク酸は濾液中に92%回収され、ボウショウは結晶として76%除去された。
【0077】
(低温晶析)
高温晶析で回収した濾液743gを、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして、35℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら降温した。濃縮液を温度35℃の状態で2時間撹拌した後、事前に35℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した後、35℃の水202gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0078】
回収した結晶重量は174gであり、その内訳はコハク酸156g、ボウショウ0g、水分14g、その他成分4gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計772gであり、その内訳は、コハク酸46g、ボウショウ73g、水分618g、その他35gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、この低温晶析により、結晶中にコハク酸は71%回収され、ボウショウは濾液中に24%含有し除去された。また、回収したコハク酸結晶は完全にNaを除去することができ、さらに他の不純物も96%除去できた。
【0079】
(再晶析)
低温晶析で回収した結晶に含有するその他成分を除去するため、低温晶析で回収した結晶174gを、共栓付き三角フラスコ中の水650gにスターラー撹拌しながら添加した。三角フラスコに栓をした密閉状態にして、65℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら昇温した。
【0080】
65℃加温およびスターラー撹拌は継続し、結晶の完全溶解を確認したところで、活性炭BA−50(味の素ファインテクノ製)をコハク酸重量に対して3%の4.7g添加した。活性炭添加後1時間、65℃加温および撹拌を継続して処理した後、事前に65℃に保温した内径110mmのヌッチェおよび5Cの濾紙を用いて吸引濾過して濾液を回収した。回収した濾液は785gで、濾液中のコハク酸は150gであった。
【0081】
回収した濾液は、共栓付き三角フラスコに全量移し、三角フラスコに栓をした密閉状態にして5℃のウォーターバス中でスターラー撹拌をしながら冷却した。濾液を温度5℃の状態で2時間撹拌した後、事前に5℃に保冷した内径110mmのヌッチェおよび5Bの濾紙を用いて吸引濾過して固液分離を行った。さらに、ヌッチェ上に結晶を全量回収した
後、5℃の水150gをヌッチェ上の結晶に供給して結晶の洗浄を行った。
【0082】
回収した結晶重量は137gであり、その内訳はコハク酸125g、ボウショウ0g、水分12g、その他成分0gであった。また、回収した濾液は水洗浄分も含めて合計798gであり、その内訳は、コハク酸25g、ボウショウ0g、水分771g、その他2gであった。処理原液中のコハク酸含有量を100%とすると、再晶析により、結晶中にコハク酸は57%回収された。また、回収したコハク酸結晶は完全に不純物を除去できた。低温晶析および再晶析で回収した濾液を次回以降の処理にリサイクルする場合、本実施例におけるリサイクルできないコハク酸のロスは24g、処理原液の含有量に対して11%となった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のコハク酸製造プロセスを示すフローチャートである。
【図2】モデル液でのコハク酸およびボウショウの水に対する飽和溶解度曲線を示す図である。
【図3】モデル液でのコハク酸およびボウショウの共晶線を示す図である。
【図4】反応液でのコハク酸およびボウショウの水に対する飽和溶解度曲線を示す図である。
【図5】反応液でのコハク酸およびボウショウの共晶線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸のアルカリ金属塩を含有する液に硫酸を添加する工程(1)と、アルカリ金属硫酸塩結晶を析出させて前記液より除去する工程(2)と、コハク酸結晶を析出させて回収する工程(3)とを含むことを特徴とするコハク酸の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において添加される硫酸量が、前記液中に含まれるアルカリ金属と同当量数であることを特徴とする請求項1に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)におけるアルカリ金属硫酸塩結晶の除去が、前記工程(1)において硫酸添加した液を濃縮および加熱してアルカリ金属硫酸塩結晶を析出させ、かつ、コハク酸が溶解した状態で、固液分離することにより行われることを特徴とする請求項1に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸添加した反応液を濃縮および加熱した後の液中のアルカリ金属硫酸塩濃度が20g/100g-水以上であり、かつ、コハク酸の濃度が60g/100g-水以下であり、前記加熱温度が50℃以上であることを特徴とする請求項3に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)におけるコハク酸結晶の回収が、前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液を冷却してコハク酸結晶を析出させ、かつ、前記工程(2)において除去されずに液中に残存するアルカリ金属硫酸塩が溶解した状態で、固液分離することによって行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコハク酸の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液の冷却温度が50℃以下であることを特徴とする請求項5に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項7】
前記回収されたコハク酸結晶を、前記アルカリ金属硫酸塩結晶を除去した液の冷却温度より低い温度の水で洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする請求項5または6に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項8】
前記回収されたコハク酸結晶を水で再溶解し、得られた溶液を冷却することによりコハク酸を再晶析させて回収する工程をさらに含むことを特徴とする請求項5または6に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項9】
前記コハク酸結晶を水で再溶解した後であって、コハク酸を再晶析させて回収する前に、コハク酸結晶を再溶解した液を活性炭で処理する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のコハク酸の精製造方法。
【請求項10】
前記コハク酸結晶回収後の残液を、前記工程(2)における濃縮および加熱する前の液に加えて再処理することを特徴とする請求項3に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項11】
前記回収されたコハク酸結晶を水洗し、回収された洗浄水を、前記工程(2)における濃縮および加熱する前の液に加えて再処理することを特徴とする請求項3に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項12】
前記コハク酸アルカリ金属塩を含有する液が、微生物による培養液であることを特徴とする請求項1に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項13】
前記コハク酸アルカリ金属塩を含有する液の溶媒が水であることを特徴とする請求項1
に記載のコハク酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−43327(P2008−43327A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185680(P2007−185680)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】