説明

コプレーナ共振器及びフィルタ

【課題】コプレーナ共振器及びフィルタを小型にする。
【解決手段】コプレーナ共振器を構成する中心導体線路を、主線路導体31とその主線路導体の少なくとも一端が折り返し延長された副線路導体32a,32bとで形成するようにし、主線路導体の延長方向と直交する方向の寸法を、誘電体基板10を効率よく製造するための大きさ、或いは強度を持たすために必要な寸法の範囲内に収めることで共振器全体の大きさを小型にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主にマイクロ波帯及びミリ波帯に用いられるコプレーナ共振器及びフィルタ、それらの小型化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平面回路基板上に形成されるコプレーナラインを用いた共振器及びフィルタは、線路が複数個配置されて構成されるのが一般的である。このコプレーナラインを用いた共振器及びフィルタを小型化する技術として、結合用の集中定数素子を無くし、直接、λ/4(λは波長)コプレーナ共振器を形成する線路が、直列に配置できるようにした特許文献1に開示された技術が知られている。
図20に特許文献1に示されたコプレーナラインを用いたフィルタの一例を示す。フィルタ200は、矩形板状の誘電体基板201の表面全面に蒸着若しくはスパッタ法により設けられた地導体202を、ホトリソグラフィ(Photo Lithography)によるエッチング加工でパターニングされた4個のλ/4コプレーナ共振器Q1,Q2,Q3,Q4の直列接続で構成されている。
【0003】
4個のλ/4コプレーナ共振器Q1,Q2,Q3,Q4は、矩形板状の誘電体基板201の長手方向の中心線上に形成された使用周波数の1/4波長に相当する電気長を持つ中心導体203,204,205,206と、その延長方向の両側にギャップg20の間隔を空けて形成された地導体202によって形成されている。
λ/4コプレーナ共振器Q1の中心導体203の一端は、接地された地導体202に接続され、中心導体203の延長方向中央部分から誘電体基板201の長手方向の一辺側に入出力端子P1が導出されている。
【0004】
共振器Q1を形成する中心導体203の他端にはギャップg21による容量性結合部C1を介して、共振器Q2となる中心導体203と同じ幅の中心導体204の一端が配置されている。中心導体204の他端は、直線状線路導体207,208によって中心導体204の長手方向両側の地導体202に電気的に接続され誘導性結合部L1を形成している。この誘電性結合部L1である直線状線路導体207,208を介して中心導体204の他端(中心導体205の一端)がそのまま延長され共振器Q3を構成する中心導体205が形成されている。
【0005】
共振器Q3を形成する中心導体205の他端は、ギャップg22による容量性結合部C2を介して、共振器Q4を形成する中心導体205と同じ幅の中心導体206の一端が配置され、中心導体206の他端は地導体202に電気的に接続され、中心導体206の延長方向中央部分から誘電体基板201の長手方向の一辺側に入出力端子P2が導出されて、フィルタが構成されている。
【特許文献1】特開平11−220304号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような従来の技術では、コプレーナ共振器を複数個直列に接続してフィルタを構成するために、共振器の大きさの整数倍でフィルタの全長が長くなってしまう課題があった。例えば、基板の誘電率9.68で厚み0.5mmとして、5GHz帯のλ/4コプレーナ共振器を作ると、共振器長が約6.4mmになる。上記した例では、共振器が4個直列に接続されるので、入出力端子を含まない最低限の長さでも、全長が25.6mmになってしまう。
このようなフィルタは、例えば移動体通信用の基地局に用いられ、アンテナのすぐ傍に配置される。基地局に用いられるフィルタは、損失を小さくする目的で、フィルタ全体を冷却して超伝導状態で使用されることがある。このような場合、空気抵抗を減らすために、冷却装置を含めたフィルタ全体の大きさを極力小型にする必要がある。また、フィルタが小さければ、冷却装置の冷却能力も小さくて済む。このように小型の部品が求められている。
【0007】
その要求に答える一つの方法として、中心導体線路をメアンダ(meander)状に連ねた構造の図21に示すようなフィルタが実用化されている。図21に示すフィルタは、中心導体線路が信号の入出力方向に対して直交する方向の屈曲を繰り返して、入出力方向の全長を短縮している。中心導体が屈曲している部分が異なるだけで、その他は先に説明済みの4個のλ/4コプレーナ共振器を直列に接続した図20のフィルタと構成が全く同じであり、参照符号を同一とし説明を省略する。
信号の入出力方向に対して直交する方向の中心導体線路の長さを長くすれば、入出力方向のフィルタ全長は短縮することができるが、入出力方向と直交する方向の大きさが大となる課題があった。
【0008】
この発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、従来の技術より小型化できるコプレーナ共振器及びフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のコプレーナ共振器は、中心導体線路を、主線路導体とその主線路導体の少なくとも一端が折り返し延長された副線路導体と、の2つで構成されるようにした。
【発明の効果】
【0010】
この発明のコプレーナ共振器によれば、中心導体線路長が、信号の伝搬方向に平行に配置される主線路導体と、その主線路導体の少なくとも一端部分が折り返された副線路導体との合計の線路で構成されるので、折り返した副線路導体の長さ分、信号の伝搬方向の共振器の長さを短くすることが出来る。したがって、コプレーナ共振器及びコプレーナフィルタを小型にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
この発明の第1の実施形態としてこの発明の半波長コプレーナ共振器を図1(b),図1(c)に示す。図1(b),(c)に示すこの発明の半波長コプレーナ共振器は、図1(a)に示す従来の半波長コプレーナ共振器の中心導体を変形したものである。
図1(a)は、矩形板状の誘電体基板10の表面上に形成された電極構造を真上から見た平面図である。誘電体基板10の一方の短辺の中央部分に長方形形状の入出力端子11が配置され、その入出力端子11の長辺両外側にはギャップg10の間隔を空けて接地電位に接続される地導体12a,12bが形成されている。入出力端子11の基板内側には、ギャップg10と同じ間隔を空けて地導体12aと12bを接続する短絡部15が形成され、ギャップg11の間隔を空けて入出力端子11と同じ幅の中心導体13の一端と対向している。
【0012】
中心導体13は、半波長共振器の共振子を構成するもので、例えば、誘電体基板10の比誘電率を9.68、厚みを0.5mmで共振周波数を5GHzとする(以下、これらの条件は同一とする)と、その線路長さは12.92mmとなる。中心導体13は、矩形板状の長手方向に向けて直線状に配置されている。
中心導体13の長手方向両外側には、入出力端子11部分のギャップg10よりも大きなギャップg14の間隔を空けて地導体12a,12bが配置されている。中心導体13の他端側には、ギャップg11と同じ間隔を空けて誘電体基板10の一方の短辺と同じ形状に形成された短絡部16と入出力端子14が配置されている。
【0013】
このように所定の長さの中心導体13を中心にその両外側を地導体12a,12bで囲む形で半波長コプレーナ共振器が構成されている。なお、入出力端子11,14の形状は、入出力する信号の電力の大きさや、中心導体13との結合の強さをどのようにするかの設計によって変わるものである。また、入出力端子11,14と中心導体13は、ギャップg11による静電容量Cによって結合する容量性結合の例を示したが、この部分の結合についても、ギャップを介さない誘導性結合で結合させる場合があり、図1(a)は一例を示したに過ぎない。
【0014】
次に、図1(b)に示すこの発明による半波長共振器を実施例1として説明する。
【実施例1】
【0015】
図1(b)に示すこの発明の半波長共振器の中心導体は、主線路導体と、その主線路導体の少なくとも一端が折り返し延長された副線路導体と、の2つの線路によって構成される点が、先に示した図1(a)と異なっている。図1(b)の中心導体は、主線路導体の両端が折り返し延長された副線路導体になっている。他の点は図1(a)に示した共振器と同じであるので参照符号を同一にし、説明を繰り返さない。
入出力端子11,14とギャップg11の間隔を空けて、同一直線上の誘電体基板10の表面上に配置される主線路導体20の両端部が、入出力端子11,14の方向と直交する向きに分岐している。分岐後、一定の長さ延長された両端部が主線路導体20に平行に折り返され、主線路導体20の一端側で副線路導体21a,21bと他端側で副線路導体22a,22bを形成している。
【0016】
図1(b)に示すように中心導体を主線路導体20と副線路導体21a,21b,22a,22bで構成するようにした場合、共振子としての線路長は、主線路導体20の長さをパラメータに設計され、副導体線路21aと、副線路導体21bとは同じ長さに設計される。
すなわち、主線路導体20の長手方向の中心線を中心軸に線対称な線路導体形状になっている。
図1(a)に示した従来の共振器と同じ共振周波数の共振器を、図1(b)に示す形状で設計した具体例を示す。例えば、主線路導体20及び副線路導体21a,21b,22a,22bの幅を0.16mm、地導体12a,12bと副線路導体との間隔を0.12mm、主線路導体20と副線路導体との間隔を0.12mm、の前提で設計すると、入出力端子11,14間方向の共振子の長さは6.4mmに設計できる。
【0017】
線路導体の長さをその幅の中央部分の長さと定義して検算すると。主線路導体20の線路中央部の長さは、6.24mm(6.4−0.16)、主線路導体20の両端に延長方向と直交する方向の副線路導体の中央部分の長さは、0.56mm(2×(0.12+0.08+0.08)、副線路導体の主線路導体20と平行する部分の線路中央部分の長さを3.06mmとすると、6.24+0.56+2×3.06=12.92mmとなって、この例の場合、共振子の線路長が図1(a)の例と同じになっている。同一線路長になったのは、偶然であり、図1(a)と同じ長さにする必要はない。
【0018】
このとき、副線路導体21aの先端と22aの先端とは、0.12mmの間隔を空けて対向する。また、主線路導体20の延長方向と直交する方向の地導体12aと12bとの間隔は、0.96mmとなる。この入出力端子11と14を結ぶ直線と直交する方向の寸法は大きくなるが、この場合、その大きさは0.96mmと小さく、誘電体基板10を効率よく製造するための大きさ、或いは強度を持たすために必要な寸法の範囲内に十分含める事が可能である。要するに、信号が伝搬する方向と直交する方向の寸法を大きくすることなく、共振子の長さを12.92mmから6.4mmに短縮した共振器が実現できる。
【実施例2】
【0019】
副導体線路の折り返しの回数を増やして、信号が伝搬する方向の寸法を更に小型化したこの発明の実施例2を図1(c)に示す。
図1(c)は折り返された副線路導体21aと22a(21bと22b)が主線路導体20の中央部分で接触する前に、主線路導体20と直交し主線路導体20から遠ざかる方向に屈曲し、一定の長さ延長された後に主線路導体20及び副線路導体と平行して折り返された副線路導体23a,23b,24a,24bが形成されている。
このように折り返しを2回行うことで、共振子の長さを5.22mmと更に小型にすることができる。但し、折り返し回数を増やしたことで、信号が伝搬する方向と直交する方向の寸法は、0.96mmから1.52mmと大きくなっている。この折り返しの回数は、許される誘電体基板の大きさによって決められる設計事項であって、任意の回数に設定されるものである。
【0020】
この発明の特徴は、共振器の中心導体を、主線路導体と、その主線路導体の少なくとも一端が折り返し延長された副線路導体とで構成したところにある。そうして形成した図1に示した共振器の特性を次に説明する。
〔半波長共振器の特性〕
図1(a),(b),(c)に示した共振器の周波数特性を図2に示す。図2の横軸は周波数(GHz)であり、縦軸は入出力間の信号透過の割合を表すSパラメータのS21(dB)である。縦軸の目盛りは、−40dB〜−180dBと表記されている。この値については、図2が共振周波数を解析する目的のシミュレーション結果であるので、値の大きさにあまり意味を持たない。相対的な変化に意味のある特性である。以下に示す共振器の周波数特性を示す図の横軸と縦軸の関係は同じであり、以降、説明は省略する。
【0021】
図1(a)に示した中心導体が直線形状の従来の共振器の特性を実線で示す。S21が大きくなる共振周波数が5GHz、スプリアスが約10.05GHzの周波数特性を示す。この特性に対して、実施例1に示したこの発明の折り返しが1回の共振器の特性を破線で示す。共振周波数は5GHzと設計通りの値を示し、スプリアスは約10.56GHzで発生している。更に実施例2に示した折り返しが2回の共振器の特性を一点鎖線で示す。こちらの特性も共振周波数は5GHzで変わらずに、スプリアスが更に高い周波数にシフトし、約10.99GHzで発生している。
【0022】
このように中心導体を、主線路導体と折り返された副線路導体とで構成した共振器でも、従来の共振器と同等な周波数特性を示している。
[第2の実施形態]
第2の実施形態としてこの発明のλ/4コプレーナ共振器を図3(b),(c),(d)に示す。図3(a)は、従来のλ/4コプレーナ共振器である。図3(a)〜(d)は、信号を入出力する入出力端子は省略して表記している。図3(a)に示すλ/4コプレーナ共振器は、中心導体30の一端が地導体12に電気的に接続され、接地される。共振周波数を5GHzとする中心導体の長さは6.38mmであり、その中心導体30の延長方向両外側を0.12mmの間隔のギャップg30を介して地導体12が取り囲んでいる。
【実施例3】
【0023】
この発明の実施例3を図3(b)に示す。図3(b)は、λ/4コプレーナ共振器であり、図3(a)の中心導体30の遊端側の端を折り返した形状である。一端が地導体12に電気的に接続された主線路導体31の他端が、主線路導体31の延長方向と直交する向きに分岐している。分岐後、一定の長さ延長された両端部が主線路導体31に平行に折り返され、副線路導体32a,32bを形成している。
図3(b)に示すように中心導体を主線路導体31と副線路導体32a,32bで構成するようにした場合、共振子としての線路長は、主線路導体31の長さと、副導体線路32aと、若しくは、主線路導体31の長さに、副導体線路32bと、を合わせた長さになる。その長さは同じになるように設計される。
【0024】
すなわち、主線路導体31の長手方向の中心線を中心軸に線対称な線路導体形状になっている。これは、説明済みの図1(b)で示した半波長共振器の一端側の構造と同じである。
図3(a)に示した従来の共振器と同じ共振周波数の共振器を、図3(b)に示す形状で設計すると、線路の幅や地導体との間隔は上記した例と同一条件で、主線路導体31の延長方向の長さ、すなわち、λ/4共振子の信号伝搬方向の長さは3.16mmに設計できる。
【実施例4】
【0025】
図3(c)に示す実施例4は、更に折り返し回数を増やして主線路導体31の延長方向の長さを小型にした実施例である。副線路導体32a,32bをそのまま延長して行くと、主線路導体31の一端が接続された地導体12に、副線路導体32a,32bが接触してしまう。そこで接触する手前で、主線路導体31の延長方向と直交する向きに屈曲し、一定の長さ延長された後、2回目の折り返しが行われ副線路導体33a,33bが形成される。折り返された副線路導体33a,33bが延長され、1回目の折り返し部に達すると3回目の折り返しが行われ、副線路導体34a,34bが形成される。
【0026】
このように折り返しの回数を増やすことで主線路導体31の延長方向の長さを更に短くすることが可能である。
【実施例5】
【0027】
副線路導体の形状を渦巻状にした実施例5を図3(d)に示す。図3(c)に示した例は、副線路導体の屈曲部からの延長方向が、主線路導体31から遠ざかる方向で行われたのに対して、折り返す方向を交互に逆方向にすることで、副線路導体の形状を渦巻状にしたものである。
主線路導体31の他端が、主線路導体31の延長方向と直交する向きに分岐した後に、比較的長い長さ線路が延長されたのち、線路両端部が主線路導体31と平行に折り返され副線路導体34a,34bが形成される。副線路導体32a,32bが延長され地導体12に接触する手前で、延長方向と直交し、主線路導体31に近づく方向に屈曲され所定の長さ延長された後、主線路導体31と平行に折り返されて副線路導体35a,35bが形成される。副線路導体35a,35bが延長され副線路導体34a,34bに接触する手前で、延長方向と直交し、主線路導体31から遠ざかる方向に屈曲され所定の長さ延長された後、主線路導体31と平行に折り返されて副線路導体36a,36bが形成される。
【0028】
このように、折り返す方向を交互にすることで、副線路導体の形状は渦巻き形状となる。
副線路導体を屈曲延長する方向を変えると、副線路導体の形状は変化するが、主線路導体と副線路導体を合わせた線路長を所望の長さに設計することで、任意の周波数のλ/4共振器を構成することが可能である。
〔λ/4共振器の特性〕
図3(a)と図3(b)に示した共振器の周波数特性を図4に示す。図3(a)に示した従来のλ/4共振器の特性を実線で示す。この発明の1回折り返した副線路導体と主線路導体とによる共振器の特性を破線で示す。
【0029】
実線、破線共に共振周波数は5GHzを示している。スプリアスは従来の形状のλ/4共振器が約15.09GHz、この発明の共振器が14.89GHzと、ほぼ同等の値を示した。このように、この発明の折り返した副線路導体と主線路導体とによる中心導体で構成した共振器でも、従来の共振器と同等の特性を示している。
ここで、周波数が6〜15GHzにかけて両者のS21の値に約17dB程度の差が出ている点に気が付く。これについては、解析に当たって、共振子を励振する入出力端子に相当する励振線と、共振子との結合状況が、共振子の形状変更に伴って変わったことによるもので、特別な意味は持たない。各特性の変化だけに意味のある特性である。
【実施例6】
【0030】
図3(b)に示したこの発明のλ/4共振器の副線路導体32a,32bの遊端側の線路幅を太くすることで、更に主線路導体31の延長方向の大きさを小型にすることができる。その実施例6を図5に示す。
図5に示すように、副線路導体32a,32bの遊端部は、隣接線路導体31側に近づく幅広部50a,50bとされている。副線路導体32a,32bの遊端部を幅広にすることで、図5に示すように主線路導体31の延長方向の長さを1.98mm、にしても、図3(b)と同等の周波数特性が得られる。このとき、主線路導体31の延長方向と直交する方向の地導体12の間隔は2.08mmである。
【0031】
その周波数特性を図6に示す。図3(b)に示したλ/4共振器の特性を実線、図5に示した共振器の特性を破線で示す。共振周波数は共に5GHzを示し、スプリアスは、約14.89GHzから幅広部50a,50bを設けた共振器が約16.55GHzと、良好な特性を示している。
主線路導体31の延長方向の長さを3.16mmから1.98mmに短縮しても、同じ共振周波数が得られる理由は、副線路導体32a,32bの途中で線路幅が階段状に変化することで、線路インピーダンスがステップ状に変化するステップインピーダンス構造となり、幅広部50a,50bと地導体12との間の電磁的結合が強くなるからだと考えられる。
【実施例7】
【0032】
線路導体が折り返され、主線路導体と副線路導体の間、若しくは副線路導体と副線路導体との間に挿入される線状挿入地導体部を設けることでも、共振器を小型にすることが可能である。
この線状挿入地導体部を設けた実施例7を図7に示す。図7の線路導体の基本形状は、説明済みの図3(b)と同一であるので、図3(b)と参照符号を同一とする。実施例7が図3(b)と異なる点は、主線路導体31と副線路導体32aとの間に線状挿入地導体部70aが挿入され、主線路導体31と副線路導体32bとの間に線状挿入地導体部70bが挿入されている部分である。
【0033】
この線状挿入地導体部70a,70bの長さLを可変することで共振周波数を変化させることが出来る。主線路導体31の一端が地導体12と接続される部分からの長さLを、1.20mm,1.60mm,2.00mm,2.14mmと変化させた時の、周波数特性を図8に示す。
図8においては、5GHz程度の共振周波数がLを可変することによって微妙に変化している点と、スプリアスが大きく変化している点が見て取れる。L=1.20mmの時のスプリアス周波数は約16.67GHz、L=1.60mmのとき約15.25GHz、L=2.00mmのとき約13.56GHz、L=2.14mmのとき12.97GHzと、Lを大きくする程、スプリアス周波数は下がる傾向を示す。スプリアス周波数はLを大きくするにしたがって、下がるが共振周波数との間に十分な周波数差があるので、使用上問題になることはない。
【0034】
図8の横軸の4〜6GHzを拡大した図を図9に示す。L=1.20mmの時の共振周波数は約5.11GHz、L=1.60mmのとき約5.06GHz、L=2.00mmのとき約5.01GHz、L=2.14mmのとき約4.99GHzと、Lを大きくする程、共振周波数も下がる傾向を示す。
このように、同一寸法の主線路導体31と副線路導体32a,32bで在っても、線状挿入地導体部70a,70bの長さLを大きくすることで共振周波数を下げる事ができる。
これはすなわち、線状挿入地導体部によって共振器が小型に出来ることを意味している。
【0035】
以上述べた、幅広部及び線状挿入地胴体部はそれぞれ組み合わせが可能である。幅広部及び線状挿入地導体部を組み合わせた実施例を次に示す。
【実施例8】
【0036】
図5に示した副線路導体32a,32bの遊端部を幅広にした線路形状に線状挿入地導体部を設けた実施例8を図10(a)に示す。図10(a)では、副線路導体の幅広部50a,50bに対応して線状挿入地導体部の遊端側の幅が広げられ挿入地導体幅広部100a,100bが形成されている。
【実施例9】
【0037】
実施例9を図10(b)に示す。図10(b)は、図3(c)に示した副線路導体が、主線路導体31の延長方向と直交し、且つ主線路導体31から遠ざかる方向に屈曲するタイプの共振器において、主線路導体31と副線路導体32a,32bとの間に線状挿入地導体部101a,101bが挿入され、副線路導体32a,32bと副線路導体33a,33bとの間に線状挿入地導体部102a,102bが挿入されたものである。
【実施例10】
【0038】
実施例10を図10(c)に示す。図10(c)は、図3(d)に示した副線路導体の屈曲方向が交互に変わることで、渦巻き状に副線路導体が形成されたタイプの共振器において、主線路導体31と副線路導体34a,34b及び35a,35bで形成される鉤状の間隔に、鉤状の挿入地導体部102a,102bが設けられたものである。
以上、実施例1〜10の共振器を構成する共振子の色々な形状を示して来たが、これまでに述べた主導体線路と地導体との接合部や、副線路導体の屈曲部は全て直角の例を示して来た。今まで述べてきたコプレーナ共振器やコプレーナフィルタは、損失を極めて少なくする目的で、共振器(フィルタ)全体を冷却して超伝導状態で使用する場合がある。そのとき、共振器(フィルタ)の各部分の電流密度が問題になることがある。
【0039】
共振器(フィルタ)の一部分でも特に大きな電流集中があると、それが原因で超伝導状態が崩れてしまう。そのような場合を想定して、電流集中が発生し難くした線路導体形状が考えられる。
図11(a)は、説明済みの図3(b)の主線路導体31と地導体12の接続部と、副線路導体の折り返し部を円弧形状にしたものである。参照符号は図3(b)と同一にしてある。ここで特に電流集中が見られる部分は、地導体12から主線路導体31に電流が流れ込む、主線路導体31の根元部分190a,190bである。この部分を円弧形状にすることで、電流集中を緩和することが可能である。更に折り返し部も円弧形状にすると効果的である。
【0040】
同様に図11(b)に説明済みの図5、図11(c)に説明済みの図3(c)、図11(d)に説明済みの図10(c)の、主線路導体31の根元部分と折り返し部を円弧形状にした線路導体の例を示す。このようにすることで、電流密度を下げることが可能である。
〔応用例1〕
次に、実施例1〜10で述べてきた共振器を組み合わせて構成したフィルタの例を示し、その周波数特性を示す。以下に示す帯域通過フィルタは、チェビシェフ特性のフィルタであり、中心周波数5GHz、帯域幅160MHz、帯域内リプル0.01dBとして設計したものである。図12に図7に示したλ/4共振器を4個順次結合部を介して直列に接続して構成したフィルタを示す。矩形状誘電体基板10の長手方向の一方の一辺の中央部分に入出力端子120の一端が形成され、誘電体基板10の長手方向に向けて延長されている。入出力端子120の延長方向の両外側には、ギャップg30の間隔を空けて地導体12a,12bが配置されている。
【0041】
入出力端子120の他端には、入出力端子120と同じ線路幅で矩形状誘電体基板10の長手方向と直交する向きの入出力端子120とほぼ同一の長さの静電電極121が接続されている。静電電極121と地導体12a,12bともギャップg30の間隔を保っている。
静電電極121の入出力端子120と反対側には、ギャップg31の間隔を空けて図7で説明したλ/4共振器Qが、副線路導体122a,122bを静電電極121に対向させて配置されている。λ/4共振器Qの主線路導体123の副線路導体122a,122bと反対側の端は、地導体12aと12bとを接続する誘導性結合部Lに接続されている。
【0042】
誘導性結合部Lのλ/4共振器Qと反対側には、λ/4共振器Qと同じ形状のλ/4共振器Qが主線路導体の一端を誘導性結合部Lに接続して配置されている。λ/4共振器Qは、共振器Qと180度反転した向きで誘電体基板10上に配置されている。
λ/4共振器Qの副線路導体124b,124aの共振器Qと反対側には、ギャップg32の間隔を空けて、地導体12aと12bとを接続する短絡線路125が形成されている。
【0043】
短絡線路125の共振器Qと反対側には、ギャップg33の間隔を空けて共振器Qと同一の向きで共振器Qが配置されている。共振器Qの主線路導体126の副線路導体と反対側の端は、地導体12aと12bとを接続する誘導性結合部Lに接続されている。誘導性結合部Lの共振器Qと反対側には、λ/4共振器Qと同じ方向で配置される共振器Qの主線路導体127の一端が接続されている。
共振器Qの副線路導体128b,128aの共振器Qと反対側には、ギャップg34の間隔を空けて静電電極121と同一形状の静電電極129が配置され、静電電極129の中央部分から入出力端子130が、共振器Qと反対側の矩形状誘電体基板10の短辺中央部分に導出されている。
【0044】
以上、述べたようにλ/4共振器Qが誘導性結合部Lを介して共振器Qと接続し、共振器Qは短絡線路125で形成される容量性結合部を介して共振器Qと接続する。共振器Qは、誘導性結合部Lを介して共振器Qと接続している。このように図7に示したλ/4共振器が4個、結合部を介して直列に接続されてフィルタを構成している。図12に示したフィルタの全長は、20mmであり、図3(a)に示した直線状の共振子で構成したフィルタの全長30mmに対して、約66%に短縮できている。
図12に示すフィルタの周波数特性を図13に示す。図13の横軸は周波数GHz、一方の縦軸は、入力した信号の反射の割合を表すSパラメータのS11をdBで、他方の縦軸は、SパラメータのS21をdBで表す。以降に示すフィルタの周波数特性の、横軸と縦軸の関係は、この図13と同じであるので、以降、軸の説明は省略する。
【0045】
フィルタの伝達特性を破線で示す。中心周波数4.995GHz、信号が半分以上透過する帯域幅は238MHzを示している。設計仕様にある帯域幅160MHzは、S21が−0.01dB以上の範囲を表している。上記帯域幅238MHzの範囲内においてS11は、約−25dB以下の値を示している。
〔応用例2〕
図14に同じ図7に示したλ/4共振器を8個直列に接続して構成したフィルタの平面図を示す。詳細な接続関係の説明は省略し、各共振器の接続関係だけを簡単に説明する。矩形板状の誘電体基板10の一方の短辺側から、入出力端子120を介して図7に示したλ/4共振器Qが配置され、以降、他方の短辺に向けて誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、入出力端子130の順に配置されλ/4共振器が8個直列に接続されたフィルタを構成している。
【0046】
このフィルタの周波数特性を図15に示す。中心周波数4.998GHz、信号が半分以上透過する帯域幅は177MHzを示している。フィルタを構成する共振器の数が多いほど遮断特性がシャープになるので帯域幅も応用例1よりも設計仕様の160MHzに近い値を示す。S11も帯域幅177MHzの範囲内において、約−21dB以下の値を示している。
図14に示したλ/4共振器を4個直列に接続したフィルタに対して、直列に接続されたλ/4共振器の数が増えた分、周波数帯の選択度が高くなっている。
〔応用例3〕
図16に、先に図10(a)で示した副線路導体の遊端部を幅広にした線路形状の共振子に更に線状挿入地導体部を設けたλ/4共振器を8個直列に接続してフィルタを構成した誘電体基板10の平面図を示す。
【0047】
λ/4共振器と共振器間の接続関係は、図14で説明したフィルタと全く同じであるので、参照符号を同一とし説明を省略する。
このフィルタの周波数特性を図17に示す。中心周波数5.001GHz、帯域幅176MHzを示している。帯域幅176MHzの範囲内においてS11は、約−21dB以下の値を示している。図14に示したフィルタとほぼ同じ特性を示している。
〔応用例4〕
図18に先に図10(c)に示した副線路導体の屈曲方向が交互に変わることで、渦巻き状に副線路導体が形成された共振器子に、鉤状の挿入地導体部が設けられたタイプのλ/4共振器を8個直列に接続してフィルタを構成した誘電体基板10の平面図を示す。
【0048】
λ/4共振器が8個直列に接続される構成は、図14で説明したフィルタと同じである。一点、入出力端子120,130とλ/4共振器の主線路導体とが直接電極によって接続される誘導性結合部で構成されているために、結合部の順番が図14と異なっている。接続関係だけ簡単に説明する。
矩形板状の誘電体基板10の一方の短辺側から、入出力端子120が直接電極によって誘導性結合部Lに接続され、誘導性結合部Lは直接、図10(c)に示したλ/4共振器Qの主線路導体に接続されている。以降、他方の短辺に向けて容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、λ/4共振器Q、容量性結合部C、λ/4共振器Q、誘導性結合部L、入出力端子130の順に配置されλ/4共振器が8個直列に接続されたフィルタを構成している。
【0049】
このフィルタの周波数特性を図19に示す。中心周波数5.005GHz、帯域幅177MHzを示している。帯域幅177MHzの範囲内においてS11は、約−18dB以下の値を示している。
以上に示したように、この発明による共振器を用いてフィルタを構成しても、正常に機能することが分かる。
以上述べて来た様に、この発明のコプレーナ共振器によれば、中心導体線路長が、信号の伝搬方向に平行に配置される主線路導体と、その主線路導体の少なくとも一端部分が折り返された副線路導体との合計の線路で構成されるので、折り返した副線路導体の長さ分、信号の伝搬方向の共振器の長さを短くすることが出来る。これは、従来コプレーナ共振器の小型化の一つの方法として行われて来た中心導体線路をメアンダ状に連ねた構造にする方法に比較して、信号の伝搬方向と直交する方向に広げる幅が小さい。その幅は、誘電体基板10を効率よく製造するための大きさ、或いは強度を持たすために必要な寸法の範囲内に十分収めることが可能であるので、共振器をより小型に形成することが出来る。
【0050】
また、従来の中心導体線路をメアンダ形状にする方法は、回路パターンの対称性が失われることによりフィルタ設計に用いる電磁界シミュレーションに要する計算時間が増大する問題を有していた。これに対してこの発明の共振器は、中心線路導体である主線路導体の長手方向の中心線を中心軸に線対称な線路導体形状になっているので、磁気壁に対して電磁界分布も対称となる。したがって、この発明による共振器は、解析領域が半分にできるので設計に要する時間を短縮できる効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1(a)は従来の半波長コプレーナ共振器を示す図、図1(b)と図1(c)はこの発明の半波長コプレーナ共振器を示す図である。
【図2】半波長共振器の周波数特性を示す図である。
【図3】図3(a)は従来のλ/4コプレーナ共振器を示す図、図3(b)と図3(c)、図3(d)はこの発明のλ/4コプレーナ共振器を示す図である。
【図4】λ/4共振器の周波数特性を示す図である。
【図5】この発明の実施例6を示す図である。
【図6】この発明の実施例6の共振器の周波数特性を示す図である。
【図7】この発明の実施例7を示す図である。
【図8】この発明の実施例7の共振器の周波数特性を示す図である。
【図9】この発明の実施例7の共振器の共振周波数の周波数特性を示す図である。
【図10】図10(a)はこの発明の実施例8を示す図、図10(b)はこの発明の実施例9を示す図、図10(c)はこの発明の実施例10を示す図である。
【図11】図10に示した共振子の線路導体の接合部と折り曲げ部を円弧形状にした共振子を示す図である。
【図12】図7に示したλ/4共振器を4個順次結合部を介して直列に接続して構成したフィルタを示す図である。
【図13】図12のフィルタの周波数特性を示す図である。
【図14】図7に示したλ/4共振器を8個順次結合部を介して直列に接続して構成したフィルタを示す図である。
【図15】図14のフィルタの周波数特性を示す図である。
【図16】図10(a)に示したλ/4共振器を8個順次結合部を介して直列に接続して構成したフィルタを示す図である。
【図17】図16のフィルタの周波数特性を示す図である。
【図18】図10(c)に示したλ/4共振器を8個順次結合部を介して直列に接続して構成したフィルタを示す図である。
【図19】図18のフィルタの周波数特性を示す図である。
【図20】特許文献1に示されたコプレーナラインを用いたフィルタを示す図である。
【図21】中心導体線路をメアンダ状に連ねた構造のフィルタを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主線路導体と、
その主線路導体の少なくとも一端が折り返し延長された副線路導体と、
により中心導体が構成されたことを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項2】
請求項1に記載のコプレーナ共振器において、
上記副線路導体は、複数回折り返されていることを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコプレーナ共振器において、
折り返し部間に地導体が延長された線状挿入地導体部が設けられたことを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のコプレーナ共振器において、
副線路導体の先端(遊端)部は、上記折り返し延長された部分の副線路導体の線路幅より広い幅広部とされていることを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のコプレーナ共振器において、
折り返し部間に地導体が延長された挿入地導体部が設けられ、その挿入地導体部の先端は、副線路導体に近づく幅広部とされていることを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のコプレーナ共振器において、
少なくとも主線路導体と地導体との接続部が円弧形状であることを特徴とするコプレーナ共振器。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載したコプレーナ共振器の複数個が、順次結合部を介して直列に共通基板上に接続されていることを特徴とするコプレーナフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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