説明

コモンモードチョークコイルおよびノイズフィルタ

【課題】 入手が容易なコア材を用いつつ周波数特性の改善が図られたコモンモードチョークコイルおよびこのようなコモンモードチョークコイルを適用したノイズフィルタを提供する。
【解決手段】 透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体4a,4bで成るコア2に巻線3(第1巻線31;第2巻線32)を巻装してチョークコイルを構成し、且つ、前記磁性体4a,4bにより形成される閉磁路の所定部にギャップ5a,5bを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数を数MHz以上となるように当該ギャップ5a,5bのギャップ長を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、商用電源や電源系統内部の電力線、またはアース線に接続され、電源側から流出する高周波の脈動成分やノイズを抑制するために用いられるノイズフィルタ、および、このようなノイズフィルタに適用されるコモンモードチョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体電力変換装置などの電源装置に使用されるノイズフィルタであるフィルタリアクトルとして、コモンモードノイズ(漏れ電流)対策用のコモンモードチョークコイルと、スイッチングリプル低減用のノーマルモードチョークコイルとの2種類のものがよく知られている。
図8は、一般的なコモンモードチョークコイルとノーマルモードチョークコイルを用いた従来のノイズフィルタの構成例を表す回路図である。
図8において、ノイズフィルタ80には、入力側端子Ri、Si、Eiと出力側端子Ro、So、Eoの間に、図示のようにコモンモードチョークコイルLc1とノーマルモードチョークコイルLn1が設けられている。入力側端子Ri、Si、Eiは電源81に接続され、出力側端子Ro、So、Eoは図示しない電気機器に接続される。
【0003】
また、ノイズ低減用のコンデンサCx1がコモンモードチョークコイルLc1の電源81側における入力側端子Ri、Si間に接続されている。
また、コモンモードチョークコイルLc1の出力側のS相のラインと接地間にノイズ低減用のコンデンサCy1が接続され、コモンモードチョークコイルLc1の出力側のR相のラインと接地間にノイズ低減用のコンデンサCy2が接続されている。
更に、コモンモードチョークコイルLc1の出力側のS相のラインとR相のライン間には、ノイズ低減用のコンデンサCx2が接続されている。
図8のノイズフィルタにおけるようにコモンモードチョークコイルLc1を配置することは、特許文献によっても公知の技術である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、図8のノイズフィルタにおけるようにノーマルモードチョークコイルLn1を配置することも、特許文献によっても公知の技術である(例えば、特許文献2参照)。
コモンモードチョークコイルは従来より種々改良が提案されている。以下に、それらの提案のうちの数例について説明する。
(ノーマルモードチョークコイルとの一体化)
コモンモードチョークコイルは、本来コモンモードのノイズを低減するためのノイズ対策部品であるが、その漏れインダクタンス成分を利用してノーマルモードのノイズを低減するためにも用いられる。
【0005】
しかしながら、ノーマルモード成分のノイズが大きく、漏れインダクタンス成分を利用した抑圧だけでは、十分に低減できない場合がある。このような場合には、図8に示されたようにコモンモードチョークコイルとノーマルモードチョークコイルの双方のコイルが必要となり、部品点数増加や装置の大型化といった問題が発生する。
上述のような大型化の問題に対処するために、図9に示すように電力変換装置の整流ダイオード後段の直流部にチョークコイルを配置してノイズフィルタを構成するといった技術が既に提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
この提案は、即ち、直流部の高圧側と低圧側とのラインに分割してチョークコイルを配置してフィルタを構成するものであり、コモンモード成分とノーマルモード成分の両方の減衰特性が得られるように一体化して謂わば複合特性を有すチョークコイルを構成するというものである。
上述における複合特性を有すチョークコイルは、具体的には次のように構成することが提案されている。
図10は、コモンモードチョークコイルと同様に巻線を巻装しながら、漏れインダクタンスを増大させてノイズフィルタ部の小型化を図ったものである(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
図10のノイズフィルタでは、巻線111および112を巻装するコア121におけるコイルの巻装に利用されない対向部分から相互に突出して接近するような対を成す突起部122および123を形成し、これらの突起部122および123に積極的に漏れ磁束が通るようにして、各巻線111および112毎に独立した閉磁路が形成されるようにする。これにより、一般的なコモンモードチョークコイルよりも大きな漏れインダクタンスを形成できることから、ノイズのノーマルモード成分を抑圧できる。
【0008】
以上の他にも、大きなコモンモードインダクタンスとノーマルモードインダクタンスとを合わせ持った小型のコモンモードノイズ、ノーマルモードノイズ、および、高周波ノイズを抑制することが可能なノイズ防止チョークコイルを実現するための技術が提案されている。
例えば、同径の2つの有底筒状容器の様な外筒コア同士と、外筒の中軸と同軸の同径の2つの中空状内筒コア同士を、それらの各一方の開口側を対向させて、環状のギャップスペーサを介して組み合わせると共に、内部空間に環状の巻線を収納した構造のノイズ防止チョークコイルも提案されている(例えば、特許文献5等参照)。
【0009】
(磁気飽和の回避)
一方、コモンモードチョークコイルは、ノーマル成分の電流による磁束を打ち消す向きにコアに巻線を施すことから、磁気飽和しにくい構成となっている。しかしながら、外部からコモンモード成分のノイズがコモンモードチョークコイルに印加されると磁気飽和してしまう。
ここに、コモンモード成分のノイズとは、例えば、 JEM-TR177 産業用に用いる電気機器の方形波インパルスノイズイミュニティ試験指針(日本電機工業会技術資料…非特許文献1)に記載されているようなノイズである。
上述のようなノイズを回避するために、コモンモードチョークコイルにギャップを設ける提案がされている(例えば、特許文献6参照)。
【0010】
特許文献6における提案では、図11および図12に示すように2つのコモンモードチョークコイル131a、131bのコア132a、132bの対応する各端部を対向させ数μm程度の微小ギャップ133a、133b介して接合した構造のものとし、大電流が流れてもコアが飽和しないように直流頂上特性を改善している。
しかしながら、ギャップを設けることでインダクタンスが小さくなるため、複数個のコモンモードチョークコイルを直列接続して用いることが必要となる。
数百kHzのノイズを低減することを想定した場合には、ギャップを有しない場合と同等のインダクタンス値を得ることが必要であり、直列接続して用いることが必須である。
【0011】
(高周波対策用コイル)
また、コモンモードチョークコイルの高周波特性を改善するために、巻線間浮遊容量を低減するような巻線の巻装方法も提案されている。
図13は、インダクタの巻線の巻装方法に関する従来の提案の一例を示す図である。図13では、巻線の各ターンに番号が附されている。図13の例では、1ターン目から10ターン目がひとまとまりのコイルを成し、同様に、11ターン目から20ターン目、および、21ターン目から30ターン目が各ひとまとまりのコイルを成している。
巻線の巻き始めから、巻き終わりまで、巻き線が重ならないように巻くことで、巻き線間浮遊容量を低減し高周波特性を改善している(例えば、非特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら、コモンモードチョークコイルにおいては、同じ巻線構造であってもコア材によって高周波特性が大きく異なる。
一般に、コモンモードチョークコイルは100kHz以下の低周波領域では、インダクタンス特性(誘導性)を示すものの、周波数が高くなると、或る周波数からリアクタンスは誘導性から容量性のものへと転じ、リアクトルでなくなる状況を呈する。
このようにコイルがリアクトルでなくなる周波数は「自己共振周波数」と呼ばれ、この周波数はコア材に応じて異なる。
【0013】
以下にフェライト材の例を挙げるが、フェライトであっても、自己共振周波数の値は種類によって大きく特性が異なる。
Mn−Zn系フェライトでは、自己共振周波数は1MHz弱であり、一方、初透磁率は数1000[H/m]である。
Ni−Zn系フェライトでは、自己共振周波数は100MHz超であり、一方、初透磁率は数100[H/m]である。
【0014】
上記に示すような自己共振周波数と初透磁率の関係から、それぞれのノイズ対策用途が異なるのが一般的である。即ち、150kHz〜30MHzが規制の対象となる伝導ノイズ(雑音端子電圧)を対策するには、Mn−Zn系フェライト(フェライト系でない場合には、アモルファスやファインメット)をコア材にするコモンモードチョークコイルが必要となり、30MHz〜1GHzが規制の対象となる放射ノイズ(放射電界強度)を対策するには、Ni−Zn系フェライトを適用することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭61−102122号公報(第1頁右下欄、第5図)
【特許文献2】特開2000−102263号公報(段落0070、図3)
【特許文献3】特開平4−251557号公報(図3)
【特許文献4】特開平4−355906号公報(段落0020、図1、図2)
【特許文献5】実開平6−13120号公報(図2)
【特許文献6】特開昭61−126810号公報(第2頁右下欄、第1図、第2図)
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】JEM-TR177 産業用に用いる電気機器の方形波インパルスノイズイミュニティ試験指針(日本電機工業会技術資料)
【非特許文献2】電気学会研究会 半導体電力変換研究会SPC-07-16 200kHzPWMインバータが発生するノイズのモデリングとその抑制法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、コモンモードチョークコイルの特性を改善するための種々の提案が既になされている。
しかしながら、コモンモードチョークコイルの特性を改善に関しては、今なお残されたままの課題も少なくない。例えば、雑音端子電圧(150kHz〜30MHz)と放射電界強度(30MHz〜1GHz)の両方の規制を満足するためには、前述のMn−Zn系フェライトコアを用いたものと、Ni−Zn系フェライトコアを用いたものとの2つ以上のコモンモードチョークコイルが必要となる。即ち、複数種類の部材を確保しなければならないことになる。
【0018】
また、Mn−Zn系フェライトのコモンモードチョークコイルは、多くの供給元があり比較的容易に入手可能であるが、Ni−Zn系フェライトのコモンモードチョークコイルは、供給元が限定されており、入手が困難で高価であるといった問題がある。
特に電力変換装置(所謂パワーエレクトロニクス機器)の場合には、10MHz以上の周波数帯の雑音端子電圧よりも、数MHz付近の雑音端子電圧を規制値以下にすることに苦慮する場合が多い。
【0019】
これは、半導体デバイスのスイッチングに起因する共振が発生しやすい周波数帯であることと、Mn−Zn系フェライトをコア材とするコモンモードチョークコイルによるノイズ低減効果が得られなくなってしまう周波数帯であることがその原因である。
本発明は上述のような状況に鑑みてなされたものであり、入手が容易なコア材を用いつつ周波数特性の改善が図られたコモンモードチョークコイルおよびこのようなコモンモードチョークコイルを適用したノイズフィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決するために、本願では次に列記するような技術を提案する。
(1)透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体で成るコアに巻線を巻装してチョークコイルを構成し、且つ、前記磁性体により形成される閉磁路の所定部にギャップを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数を数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長を選択したことを特徴とするコモンモードチョークコイル。
上記(1)のコモンモードチョークコイルでは、コアが透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体である、例えば、Mn−Zn系フェライトで成るものであるため製作に当たって材料の入手が容易である。
【0021】
また、インダクタンスとして機能する上限周波数が数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長が選択されたギャップがコアの磁性体により形成される閉磁路の所定部に設けられているため、特に電力変換装置等に特に適合した自己共振周波数を呈する。
(2)複数のコモンモードチョークコイルと複数のコンデンサとを含んで構成されたノイズフィルタであって、前記複数のコモンモードチョークコイルのうちの少なくとも一のものは、透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体で成るコアに巻線を巻装して構成され、且つ、前記磁性体により形成される閉磁路の所定部にギャップを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数が数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長が選択されている有ギャップコア型コモンモードチョークコイルであることを特徴とするノイズフィルタ。
【0022】
上記(2)のノイズフィルタでは、複数のコモンモードチョークコイルと複数のコンデンサとを含んで構成されたノイズフィルタであって、前記複数のコモンモードチョークコイルのうちの少なくとも一のものは、上記(1)のコモンモードチョークコイルたる有ギャップコア型コモンモードチョークコイルであるため、製作に当たって材料の入手が容易である。
また、有ギャップコア型コモンモードチョークコイルがインダクタンスとして機能する上限周波数が数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長が選択されたギャップがコアの磁性体により形成される閉磁路の所定部に設けられているため、特に電力変換装置等に特に適合した自己共振周波数が得られる。
【0023】
(3)前記有ギャップコア型コモンモードチョークコイルは、電源装置から電気機器への給電経路中に当該ノイズフィルタが介挿される場合における前記複数のコモンモードチョークコイルのうち前記電源装置から相対的に大きく離隔した当該ノイズフィルタの回路上の位置に配置されていることを特徴とする(2)のノイズフィルタ。
上記(3)のノイズフィルタでは、(2)のノイズフィルタにおいて特に、有ギャップコア型コモンモードチョークコイルは、電源装置から電気機器への給電経路中に当該ノイズフィルタが介挿される場合における前記複数のコモンモードチョークコイルのうち前記電源装置から相対的に大きく離隔した当該ノイズフィルタの回路上の位置に配置されているため、上述の有ギャップコア型コモンモードチョークコイルと他のコモンモードチョークコイルとの間で適切にノイズ抑圧の周波数帯域を分担することが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
入手が容易なコア材を用いつつ周波数特性の改善が図られたコモンモードチョークコイルおよびこのようなコモンモードチョークコイルを適用したノイズフィルタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態としてのコモンモードチョークコイルを表す図である。
【図2】図1のコモンモードチョークコイルの特性を説明するための図である。
【図3】図1のコモンモードチョークコイルの特性を説明するための図である。
【図4】図3の特性を得るための計測に適用したコモンモードチョークコイルを表す図である。
【図5】コア部材が閉磁路構成しない構成のコモンモードチョークコイルについて計測を行なった場合のインダクタンスの周波数特性図である。
【図6】空芯コアのコモンモードチョークコイルに関して計測を行なった場合のインダクタンスの周波数特性図である。
【図7】本発明の一つの実施の形態としてのノイズフィルタを表す回路図である。
【図8】一般的なコモンモードチョークコイルとノーマルモードチョークコイルを用いた従来のノイズフィルタの構成例を表す回路図である。
【図9】ノイズフィルタの他の従来技術を表す図である。
【図10】ノイズフィルタ部の小型化を図った従来技術を表す図である。
【図11】ノイズフィルタの更に他の従来技術を表す図である。
【図12】図11のノイズフィルタに適用するコモンモードチョークコイルを表す図である。
【図13】インダクタの巻線の巻装方法に関する従来の提案の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態としてのコモンモードチョークコイルを表す図である。
図1において、本発明の実施の形態としてのコモンモードチョークコイル1は、透磁率の実用上限周波数が1MHz前後(より具体的には、例えば、500kHz〜1MHz)の磁性体で成る環状のコア2に巻線3を巻装してチョークコイルを構成している。
透磁率の実用上限周波数が上述の1MHz前後の磁性体は、例えば、Mn−Zn系フェライトで成る磁性体がこれに該当する。
コア2を成す上述のような磁性体4a,4bにより形成される閉磁路の所定部にギャップ5a,5bが設けられている。
【0027】
即ち、環状のコア2は、平面投影形状が概略弧状の2つの磁性体4a,4bがギャップ5a,5bを介して両者の各対応する端部が接合されるようにして構成されている。
巻線3には、磁性体4aに巻装された第1巻線31と、磁性体4bに巻装された第2巻線32とが含まれる。
第1巻線31は、その入力端31aから出力端31bに到る一本の導体が磁性体4aに巻装されてなり、第2巻線32の入力端32aから出力端32bに到る一本の導体が磁性体4aに巻装されてなる。
【0028】
上述のギャップ5a,5bは、それらによって、コア2を成す磁性体が外部磁界の強さに応じて磁気飽和に到る現象を緩和させるように作用するが、この実施の形態では、特に、コモンモードチョークコイル1がインダクタンスとして機能する上限周波数(自己共振周波数)が数MHz以上(より具体的には、例えば、1MHz〜10MHz付近)となるように当該ギャップのギャップ長が選択されている。
上述のようなコモンモードチョークコイル1では、コア2が透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体である、例えば、Mn−Zn系フェライトで成るものであるため製作に当たって材料の入手が容易である。
【0029】
また、インダクタンスとして機能する上限周波数が既述のとおり数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長が選択されたギャップがコアの磁性体により形成される閉磁路の所定部に設けられているため、特に電力変換装置等に特に適合した自己共振周波数を呈する。
図2および図3は、図1のコモンモードチョークコイルの特性を説明するための図である。
図2は図3との対比において、図1のコモンモードチョークコイルの特質を理解し易くするために、ギャップを設けない場合のコモンモードチョークコイルのインダクタンスの周波数特性図である。
【0030】
これに対し、図3は、図1のようにギャップを設けた場合のコモンモードチョークコイルのインダクタンスの周波数特性図である。
尚、図2および図3は、図1のような環状のコモンモードチョークコイルの特性に準じた特性を呈すると推定される図4のような形状のコモンモードチョークコイル40について計測した場合の特性を表している。
図4のコモンモードチョークコイル40は、図示のような直方体状のコア部材の両端部位から同幅の両脚部が垂下したような形状のコイル巻装コア41に対し、ギャップ42a,42bを介して閉磁路形成用コア部材43が近接対向して構成されている。
【0031】
コイル巻装コア41の上述の両脚部に、各独立に巻線44aおよび44bが巻装されている。
図4に示された上述のコモンモードチョークコイルについて計測を行った結果としての図2および図3の特性を比較すると、次のようなことが判読される。
即ち、ギャップを設けない場合には、図2のとおり550kHz付近でインダクタンスが最大となり、それ以上の周波数では急激にインダクタンスが小さくなる。
【0032】
これに対し、ギャップを設けた場合には、図3のとおり2MHz付近まで一定の値となり、それ以上の周波数でも100nH以上のインダクタンスを保っていることが確認できる。
また、ギャップ設けない場合には、低周波領域ではインダクタンスが大きいものの、約1.1MHz付近でギャップ設けた場合のインダクタンスの方が大きくなることが確認できる。
以上の考察から、コモンモードチョークコイルのコア材にギャップを設けると、低周波領域のインダクタンスは小さくなるものの、使用する周波数の全域について見ると、周波数特性が改善されていることがわかる。
【0033】
このような知見に基づいて、コモンモードチョークコイルのギャップを調整することによって、自己共振周波数(インダクタンス特性を示す上限周波数)を数MHz以上に設定することが可能になり、数MHz付近のノイズを効果的に抑制できることになる。
尚、既述の特許文献6に開示されたコモンモードチョークコイル(特許文献6にはコモンコイルと表記のもの)においてもフェライトコアに微小ギャップを設ける点が開示されている。
しかしながら、特許文献6は数百kHz以下の比較的低周波のノイズ低減を目的としているため大きなインダクタンスが必須となり、コモンモードチョークコイルを複数個直列に接続することを必須とする点で構成が異なる。
【0034】
これに対し、本実施の形態のコモンモードチョークコイルでは、数MHz付近の比較的高周波のノイズ低減を目的としているために、大きなインダクタンスは必要とせず、単体で使用しても効果が得られる。
また、特許文献6の場合では、インダクタンスはできる限り大きいことが望まれることからギャップ長の一般的な長さを数μm程度としているが、本実施の形態のコモンモードチョークコイルでは、対策したい周波数が高い場合には、極端に大きなギャップを設けても効果が得られる。
【0035】
即ち、コアの一部を削除するような構成を採ることにより、より高い周波数までインダクタンスとして機能し得る。
図5は、図4中の閉磁路形成用コア部材43を設けない構成を採ったコモンモードチョークコイルについて計測を行なった場合のインダクタンスの周波数特性図である。
図5より判読される通り、インダクタンスはギャップが大きいほど小さくなってしまうものの、周波数特性は、前掲の図3におけるようなギャップを有するコモンモードチョークコイルよりも改善できている。
【0036】
尚、図6は、コアを全く用いない(空芯コア)のコモンモードチョークコイルに関して計測を行なった場合のインダクタンスの周波数特性図である。
図5の特性を図6と対比して明らかなように、閉磁路形成用コア部材43を用いないといった極端な状態にしても、30MHz以下のインダクタンスは、コアを全く用いない(空芯コア)のコモンモードチョークコイルよりも大きく、ノイズ対策効果が得られることが確認できる。
【0037】
以上のように、本発明の実施の形態では、コモンモードチョークコイルの磁性体で成るコアにギャップを設けることにより、高周波特性を改善でき、インダクタンスとして機能する上限周波数を数MHz以上に設定するようになる。
これによって、Ni−Zn系フェライト等の入手が困難で高価なコア材を用いることなく、数MHz付近の伝導ノイズを対策するためのコモンモードチョークコイル、および、それを用いたノイズフィルタを実現できる。
【0038】
また、本発明の実施の形態において、磁性体により形成される閉磁路の所定部に設けるギャップは、一般的なギャップつきインダクタンス(フライバックトランスやノーマルモードチョークコイル)と同様に誘電体を挟む等により構成すればよい。
図7は、本発明の一つの実施の形態としてのノイズフィルタを表す回路図である。図7におけるノイズフィルタ70は、図示のように、複数のコモンモードチョークコイル(本例では、Lc1およびLc2の2個)と複数のコンデンサ(本例では、アクロスザラインコンデンサCx1、Cx2、および、ラインバイパスコンデンサCy1、Cy2)とを含んで構成されている。
【0039】
上述の複数のコモンモードチョークコイルのうち一のもの(本例ではLc1)は、透磁率の実用上限周波数が1MHz前後(より具体的には、例えば、500kHz〜1MHz)の磁性体で成るコアに巻線を巻装して構成され、且つ、この磁性体により形成される閉磁路の所定部にギャップを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数が数MHz以上(より具体的には、例えば、1MHz〜10MHz付近)となるように当該ギャップのギャップ長が選択されている有ギャップコア型コモンモードチョークコイルである。
【0040】
この場合における有ギャップコア型コモンモードチョークコイルは、図1乃至図6を参照して詳述したコモンモードチョークコイルと同様の構成を有するものである。
特に、図7の実施の形態においては、この有ギャップコア型コモンモードチョークコイルLc1は、電源(入力側端子Ri、Si、Eiに接続されるが不図示)から電気機器(出力側端子Ro、So、Eoに接続されるが不図示)への給電経路中に当該ノイズフィルタ70が介挿される場合における複数のコモンモードチョークコイル(本例では、Lc1およびLc2の2個)のうち前記電源から相対的に大きく離隔した当該ノイズフィルタ70の回路上の位置に配置されている。
【0041】
このような配置を採ることによって、例えば、コモンモードチョークコイルLc2をギャップを有しないタイプのものとして構成して1MHz以下のノイズを低減するように機能させる一方、有ギャップコア型コモンモードチョークコイルLc1を数MHz帯のノイズを低減するように十分に機能させることが可能になる。
即ち、上述の有ギャップコア型コモンモードチョークコイルLc1と他のコモンモードチョークコイルLc2との間で適切にノイズ抑圧の周波数帯域を分担することが可能になる。
尚、図7ではアクロスザラインコンデンサCx1、Cx2、および、ラインバイパスコンデンサCy1、Cy2)とを含む構成が開示されているが、ノイズフィルタとしてはこの配置に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1,40,131a,131b コモンモードチョークコイル
2,132a,132b コア
3,44a,44b,111,112 巻線
4a,4b 磁性体
5a,5b,42a,42b ギャップ
31 第1巻線
31a,32a 入力端
31b,32b 出力端
32 第2巻線
41 コイル巻装コア
43 閉磁路形成用コア部材
70,80 ノイズフィルタ
122,123 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体で成るコアに巻線を巻装してチョークコイルを構成し、且つ、前記磁性体により形成される閉磁路の所定部にギャップを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数を数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長を選択したことを特徴とするコモンモードチョークコイル。
【請求項2】
複数のコモンモードチョークコイルと複数のコンデンサとを含んで構成されたノイズフィルタであって、前記複数のコモンモードチョークコイルのうちの少なくとも一のものは、透磁率の実用上限周波数が1MHz前後の磁性体で成るコアに巻線を巻装して構成され、且つ、前記磁性体により形成される閉磁路の所定部にギャップを設けることによりインダクタンスとして機能する上限周波数が数MHz以上となるように当該ギャップのギャップ長が選択されている有ギャップコア型コモンモードチョークコイルであることを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項3】
前記有ギャップコア型コモンモードチョークコイルは、電源装置から電気機器への給電経路中に当該ノイズフィルタが介挿される場合における前記複数のコモンモードチョークコイルのうち前記電源装置から相対的に大きく離隔した当該ノイズフィルタの回路上の位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−182875(P2010−182875A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25057(P2009−25057)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】