説明

コラーゲンの産生を促進する剤、化粧料、及びコラーゲンの製造方法

【課題】 本発明は、入手が容易であり、生体親和性に優れた原料を用いたコラーゲンの産生を促進できる剤や化粧料、そのような剤を用いたコラーゲンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリリン酸、その塩又はその溶媒和物を有効成分として含むコラーゲンの産生を促進する剤、そのような剤を含む化粧料、及びポリリン酸、その塩又はその溶媒和物をヒト又はヒト以外の哺乳動物に投与する工程を含むコラーゲンの製造方法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリリン酸などを有効成分として含むコラーゲンの産生を促進する剤、コラーゲンの製造方法、およびその応用製品などに関する。
【背景技術】
【0002】
老化皮膚では、線維芽細胞の活性低下に伴い、真皮マトリックス成分であるコラーゲン
線維、エラスチン線維、酸性ムコ多糖の質的、量的な変化が起こる。コラーゲン線維は、本来の弾力性に富むものである。しかし、ヒトが老化するにつれラーゲン繊維に架橋が形成されるので、コラーゲン繊維から弾性が失われる。その結果、ヒトの皮膚は柔軟性を失い、シワやたるみが生ずる。このような皮膚が老化することを予防する目的で、コラーゲン産生促進剤が開発されている(特開平11−335293号公報、特開2000−191498号公報、特開2000−309521号公報、特開2001−316240号公報、特開2002−080340号公報、特開2002−087974号公報、及び特開2004−182710号公報)。しかしながら、いずれも効果的にコラーゲンの産生を促進できず、また、原料となる剤も容易に入手できないなどの問題がある。
【0003】
一方、特開2000−79161号公報(特許文献1)には、ポリリン酸を含有する新生骨組織形成を促進するための骨再生材料が開示されている。しかしながら、ポリリン酸がコラーゲン産生を促進することは記載も示唆もされていない。
【0004】
また、特開2004−543号公報(特許文献2)には、ポリリン酸と水溶性コラーゲンの複合体材料とその製造方法が開示されている。そして、ポリリン酸−コラーゲン複合体によれば、医療材料としてより利用しやすく、かつポリリン酸の組織再生促進作用を有効に発揮し得るとされている。しかしながら、ポリリン酸がコラーゲン産生を促進することは記載も示唆もされていない。
【特許文献1】特開2000−79161号公報
【特許文献2】特開2004−543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、入手が容易であり、生体親和性に優れた原料を用いたコラーゲンの産生を促進できる剤や化粧料、そのような剤を用いたコラーゲンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明は、基本的には、ポリリン酸を有効量含む剤によれば、コラーゲンの産生を有効に促進しうるという知見に基づくものである。そして、ポリリン酸が生体親和性に優れることは、食品などの分野においても実証されている。よって、この剤を利用すれば、生体親和性に優れた剤を用いてコラーゲンの産生を促進でき、老化現象などを阻害できるので、本発明の剤は効果的に化粧料などに用いることができる。
【0007】
本発明の好ましい態様は、ウルトラリン酸を含有する化粧料に関する。網目状ポリリン酸ナトリウムであるウルトラリン酸は酸性度が強い。このため、ウルトラリン酸をあえて化粧品に配合することはなかった。しかしながら、ウルトラリン酸は、酸性度が強いので肌の古い角質を落とすピーリング効果を発揮する。さらに、後述する実施例により実証されたとおり、ウルトラリン酸はコラーゲン産生を有する。すなわち、本発明の好ましい態様では、有効量のウルトラリン酸を含有することで、ピーリング効果を与えるとともに,コラーゲンの産生をも促進できる化粧料を提供できるという知見に基づくものである。
【0008】
本発明の好ましい態様は、ポリリン酸、その塩又はその溶媒和物をヒト又はヒト以外の哺乳動物に投与する工程を含むコラーゲンの製造方法に関する。この方法において、ポリリン酸として、ウルトラリン酸が好ましい。また、ヒト又はヒト以外の哺乳動物において、ヒト以外の哺乳動物が好ましく、具体的には、豚、猿、マウス、又はラットなどがあげられる。すなわち、ポリリン酸などを対象に投与してコラーゲンを産生させた後、産生したコラーゲンを適宜回収すればよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、後述する実施例により実証されたとおり、有効にコラーゲンの産生を促進できる剤を提供できる。また、ウルトラリン酸を有効成分として含有させることで、ピーリング効果を与えるとともに,コラーゲンの産生をも促進できる化粧料を提供できる。
【0010】
コラーゲンは、美白、老化防止などに効果的なので、本発明の剤を含有する化粧料や化粧用パックは、美白や老化防止などに効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、基本的には、ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物を有効成分として含むコラーゲンの産生を促進する剤に関する。より具体的には、ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物を含むコラーゲンの産生を促進するために有効量含む剤である。
【0012】
[ポリリン酸]
上記のとおり、本発明の剤は、ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物を有効成分として含む剤である。そして、本発明のポリリン酸として、オルトリン酸の脱水縮合によって2個以上のPO四面体が頂点の酸素原子を共有して直鎖状に連なった構造を有する直鎖状ポリリン酸、側鎖に有機基が導入された側鎖状ポリリン酸、環状ポリリン酸、枝分かれ状のリン酸重合体であるポリリン酸(ウルトラリン酸)であってもよく、それらの混合物やそれらの誘導体であっても良い。
【0013】
本発明の剤は、ポリリン酸として、H2O及びP2O5を構成分子とし、H2O対P2O5のモル比(R)が2>R≧1であり、下記一般式(I)もしくは(II)で表される直鎖状もしくは環状のポリリン酸を1種又は2種以上含むものである。
Hn+2(PnO3n+1) (I)
(HPO3)n (II)
(式(I)及び(II)中、nはそれぞれ独立して3〜300(3以上300以下)の整数を示す。)また、前記ポリリン酸の上記とは別の態様は、ウルトラリン酸である。ウルトラリン酸は、一般に、ポリリン酸の構成分子であるH2O対P2O5のモル比(R)が1>R>0である網目状の高次構造を有するポリリン酸である。ウルトラリン酸中のリン原子の個数は、特に限定されないが、3〜300があげられる。
【0014】
式(I)中のnは、好ましくは3〜130の整数であり、より好ましくは10〜89である。
【0015】
また、使用するポリリン酸の平均分子量は240以上25,000以下であり、好ましくは810以上7,300以下である。なお、ポリリン酸の総量のうち、式(I)中のnが10〜89(好ましくは20〜80)の範囲のものを90重量%以上含むものは、コラーゲンの産生能が高くなるので好ましい。
【0016】
なお、鎖長が1000以上のポリリン酸は水溶液の形で存在することが確認できておらず、水に難溶性であると考えられるので必ずしも好ましくない。また、生体内でポリリン酸の鎖長は約800であるから、鎖長が800以下のポリリン酸が、生体内で種々の生理機能に関する高い有効性を持つと考えられる(K.D.Kumble and A.Kornberg, Inorganic polyphosphate in mammalian
cells and tissues, The Journal of Biological Chemistry, Vol.270, pp.5818-5822,
1995)。本発明におけるポリリン酸は、コラーゲンの産生を促進する効果を有するので、特に鎖長が3〜300のポリリン酸を好ましく用いることができる。また、後述の実施例で実証されたとおり、コラーゲンの産生を促進するためには、鎖長が20以上のポリリン酸を用いることが望ましいといえる。
【0017】
“その塩”とは、ポリリン酸の塩、特に薬学的に許容されるポリリン酸の塩を意味する。本明細書において“薬学的に許容される”とは、受容者に有害でないことを意味する。本発明のポリリン酸は、常法に従って塩にすることができる。その塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;アンモニウム塩などの無機塩;t-オクチルアミン 塩、ジベンジルアミン 塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン
塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン 塩、トリエチルアミン 塩、ジシクロヘキシルアミン 塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン 塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン 塩、N-ベンジル-N-フェネチルアミン
塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩などの有機塩などのアミン塩;があげられる。これらのうちで、ポリリン酸の塩として、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。本明細書において,“その塩”には,無水塩のみならず含水塩が含まれても良い。これらの塩は,例えば,生体内などで電離してポリリン酸と同様に機能する。
【0018】
“その溶媒和物”とは、ポリリン酸の溶媒和物の溶媒和物を意味する。溶媒和物として、水和物があげられる。また、本発明の剤は、大気中に放置したり、再結晶することにより、水分を吸収し、吸着水が付いたり、水和物となる場合がある。そのような溶媒和物を形成する場合も、“その溶媒和物”に含む。これらの溶媒和物は,生体内などで電離してポリリン酸と同様に機能する。
【0019】
本発明に使用するポリリン酸、その塩又はその溶媒和物は、1種類であってもよいが、複数種の混合物であってもよい。複数種のポリリン酸、その塩又はその溶媒和物には、重合度の異なるポリリン酸、その塩又はその溶媒和物、分子構造の異なるポリリン酸、その塩又はその溶媒和物、及び金属イオンの異なるポリリン酸塩を含む。
【0020】
ポリリン酸、ポリリン酸の塩、ポリリン酸の溶媒和物は、リン酸を加熱する方法、リン酸に五酸化リンを添加溶解する方法など、通常用いられる製法により製造することができる。
【0021】
また、特に鎖長が20以上の中長鎖ポリリン酸は、好ましくは、以下の方法により製造することができる。まず、ヘキサメタリン酸塩を0.1〜20重量%、好ましくは9〜11重量%となるように水に溶解する。このヘキサメタリン酸水溶液に、87〜100%エタノール、好ましくは96%エタノールを、ヘキサメタリン酸溶液とエタノールとの混合後の全体液量の1/10〜1/3の容量で、すなわちヘキサメタリン酸水溶液:エタノールが2:1〜9:1の体積比となる量で添加する。この混合溶液を十分に攪拌し、その結果析出する沈殿物を、遠心分離またはフィルター濾過などの分離方法を用いて水溶液成分と分離する。このようにして分離した沈殿物が中長鎖ポリリン酸である。このポリリン酸を続いて70%エタノールにより洗浄し、その後乾燥させる。このような分離操作で得られるポリリン酸の平均鎖長は60から70であり、10以下の短鎖ポリリン酸はほとんど含まれていない。従って、その分子量分布はリン酸残基数で10から150程度である。
【0022】
ポリリン酸は、特表2004-537490に記載されるように、リン酸からポリリン酸を製造する方法であって、(a)充填したカラムを提供すること、この充填したカラムは下端から上端に延在し、このカラムの上端もしくは上端付近に1以上の第1の入口開口部及びこの第1の入口開口部の下に配置された1以上の第2の入口開口部を有する、(b)リン酸を含む第1の酸供給流体を、1以上の第1の入口開口部においてカラムに導入すること、(c)リン酸を含む第2の酸供給流体を、熱空気流体に導入して熱空気と酸の流体を形成すること、(d)熱空気と酸の流体を、1以上の第2の入口開口部においてカラムに導入すること、及び(e)第1の酸供給流体と第2の酸供給流体のリン酸を重合させてポリリン酸を形成すること、を含む方法によって製造してもよい。ヘキサポリリン酸やオクタポリリン酸は、たとえば、特開2004-035348号公報に開示される方法に従って製造しても良い。
【0023】
本発明の剤におけるポリリン酸の含有量は、特に限定されないが、例えば培養細胞に対しては0.001〜0.5重量%が適当であり、好ましくは0.002〜0.1重量%である。また、組織内もしくは経皮的に投与する場合には培養細胞を処理する濃度に比べてかなり濃い濃度が好ましい。したがって、組織内もしくは経皮的に投与する場合のポリリン酸の含有量は、0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%、最も好ましくは1〜2重量%があげられる。ポリリン酸を金属封鎖剤や抗酸化剤として化粧料等に用いる場合は一般的に1重量%未満の濃度で用いるが、コラーゲン生産増大の目的には1重量%以上にすることで効果的にコラーゲンの産生を促進できる。
【0024】
ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物は、それぞれ単体で、あるいは薬理学的に許容される担体又は希釈剤などと混合して、ポリリン酸の産生を促進するための組成物とすることができる。また、ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物は、薬学的に許容される添加剤と混合し、患部に適用するのに適した形態の各種製剤に製剤化することができる。本発明の剤に適した製剤形態としては、例えば、注射剤、外用液剤(注入剤、塗布剤)、固形製剤(顆粒剤、細粒剤、散剤
、軟膏剤、錠剤)、軟膏剤などの形態に、公知の方法により適宜調製することができる。
【0025】
薬理学的に許容される添加物として、例えば、賦形剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、分散剤、乳化剤、ゲル化剤、増粘剤粘着剤、矯味剤などがあげられる。
【0026】
さらに、本発明の剤と薬学的に許容される担体などを含む組成物は、肌の老化防止や美白などに有効な組成物である。この組成物は、経口又は非経口により投与できる。
【0027】
薬理学的に許容される担体として、賦形剤、希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、及び矯味矯臭剤から適宜選択されるものがあげられる。
【0028】
賦形剤として、例えば、乳糖、白糖、ぶどう糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体
;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体 ;結晶セルロースのようなセルロース誘導体 ;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤:及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体
;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩などの無機系賦形剤があげられる。
【0029】
滑沢剤として、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;脂肪酸ナトリウム塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体
があげられる。
【0030】
結合剤として、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物があげられる。
【0031】
崩壊剤として、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体
;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類があげられる。
【0032】
安定剤として、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸があげられる。矯味矯臭剤として、例えば、甘味料、酸味料、及び香料などがあげられる。希釈剤として、滅菌水、滅菌有機溶媒、水性デンプン、又はなどがあげられる。
【0033】
本発明の剤の使用量は、症状、年齢、性別、投与方法などに応じて適宜調整すればよい。例えば、実施例で実証されたとおり、コラーゲン産生は皮膚の表皮もしくは真皮細胞に近い部分でポリリン酸が直接作用することが好ましいので、剤形として塗布剤又は化粧料とすることが望ましく、皮膚表面1 cm2において1回当り、ポリリン酸を下限として1 mg/cm2
(好ましくは、5 mg/cm2 )、上限として、500 mg/cm2(好ましくは、50 mg/cm2)を投与することが望ましい。
【0034】
本発明の好ましい態様は、上記の剤を含む化粧料に関する。化粧料として、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液(エッセンス)、パック化粧料があげられる。本発明の剤を有効量含む化粧料は、化粧料を塗布した部位のコラーゲンの産生が促進されるので、若々しく健康的な肌を維持することができると考えられる。
【0035】
“化粧水”は,一般に肌を清潔にして皮膚を健やかに保つために皮膚表面に塗布される透明液状の化粧料である。化粧水の基本機能は,皮膚の角質層に水分や保湿成分を補給することであり,化粧水は皮膚を柔軟にする機能などもある。化粧水には,水に溶けにくい物質を溶解させ安定させて外観を透明状態にしたもの,マイクロエマルションやリピッドナノスフェアーを利用した透明又は半透明のもの,数%の油分をO/W型(オイルインウオーター型)に乳化した不透明化粧水,及び水溶性高分子を配合したものなどがあげられる。本発明のトリートメント方法では,公知の“化粧水”を,その用途などに応じて適宜利用できる。
【0036】
化粧水には,本発明の剤以外、たとえば以下の成分が含まれている。すなわち,化粧水には,イオン交換水など,水溶性成分を溶解し,角質層へ水分を供給するための精製水;エタノール,プロパノールなど,油溶性成分を溶解し,殺菌し,清涼感を与えるためのアルコール;グリセリン,PEG,ヒアルロン酸など,角質層の保湿のための保湿剤;エステル油,植物油など,保湿性や使用感の向上のためのエモリエント剤(水分が蒸発することを防ぐ油成分);ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテルなど,原料成分を可溶化するための可溶化剤;クエン酸,乳酸,アミノ酸類など,製品のpHを調整するための緩衝剤;バニリン,オレンジフレーバー,レモンフレーバー,ミルクフレーバーゲラニオール,リナロールなど香りを付加するための香料;メチルパラベン,フェノキシエタノールなどの微生物を抑制し,腐敗を防止するための防腐剤;着色するための着色剤;金属イオン封鎖剤,紫外線吸収剤など,退色や変色を防止するための退色防止剤;及び,収れん剤,殺菌剤,賦活剤,消炎剤,又は美白剤などの薬剤が,2種以上混合されて含まれている。
【0037】
化粧水の全体量を100重量%とした場合に,ポリリン酸、その塩又はその水和物を0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.2〜2重量%程度含めばよい。化粧水を構成するポリリン酸以外の各成分の量は,公知の成分量を採用できる。たとえば,精製水10〜90重量%;アルコール1〜40重量%;保湿剤1〜20重量%;エモリエント剤1〜5重量%;可溶化剤0〜1重量%;緩衝剤0〜1重量%;その他の薬剤0〜10重量%程度のものがあげられる。
【0038】
化粧水は,基本的は,以下のようにして製造すればよい。すなわち,水溶性成分を室温にて溶解する。油溶性成分を加熱溶解し,精製水を加え混合する。この混合物と水溶性成分とを混合する。その後,色剤を加えてもよい。その後,ろ過することにより精製する。なお,化粧水の成分は,用途などに応じて公知の方法に従って調整すればよい。
【0039】
“乳液”は,化粧水とクリームとの中間的な性質を持つものであり,一般的には流動性のあるエマルションである。乳液は,主に,皮膚のモイスチャーバランス,保湿性及び柔軟性を保つために,皮膚に水分,保湿剤及び油分などを供給するために用いられる化粧料である。乳液に含まれる成分は,後述のクリームに含まれる成分と類似しているが,乳液は流動性があるので,クリームに比べ固形油分やロウ類の量が少ない。本発明のトリートメント方法では,公知の“乳液”を,その用途などに応じて適宜利用できる。
【0040】
乳液は、ポリリン酸、その塩又はその水和物をたとえば、0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.2〜2重量%程度含めばよい。
【0041】
“クリーム”は,水と油のように互いに混じり合わない液体の一方を分散相として,他方の分散媒に安定な状態で分散させたエマルションの一種である。本発明のトリートメント方法では,公知の“クリーム”を,その用途などに応じて適宜利用できる。このようなクリームとして,皮膚の保湿や柔軟のためのエモリエントクリーム,血行を促進するためのマッサージクリーム,皮膚の洗浄のためのクレンジングクリーム,脱毛のためのヘアリムーバー,消臭のためのデオドラントクリーム,及び角質軟化するための角質軟化クリームなどがあげられる。
【0042】
クリームには,たとえば以下の成分が含まれている。すなわち,クリームに含まれる水相成分として,イオン交換水などの精製水;エタノール,プロパノールなど,油溶性成分を溶解し,殺菌し,清涼感を与えるためのアルコール;グリセリン,PEG,ヒアルロン酸など,角質層の保湿のための保湿剤;及びクインスシード,ペクチン,セルロース誘導体などの粘液質があげられる。
【0043】
クリームに含まれる油相成分として,スクワラン,流動パラフィン,ワセリン,固形パラフィンなどの炭化水素;オリーブ油,アーモンド油,カカオ脂,ヒマシ油などの油脂;ミツロウ,ラノリン,ホホバ油などのロウ;ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸などの脂肪酸,セタノール,ステアリルアルコールなどの高級アルコール;IPM,グリセリントリエステル,ペンタエリスリトールテトラエステルなどのエステル;及び,ポリシロキンサン類などのシリコーン油などがあげられる。
【0044】
クリームに含まれる界面活性剤(乳化剤)として,モノステアリン酸グリセリン,ポリオキシエチレン(POE)ソルビタン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,POEアルキルエーテル,POE・ポリオキシプロピレン(POP)ブロックポリマーなどの非イオン性乳化剤;及び脂肪酸せっけん又はアルキル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性乳化剤があげられる。
【0045】
その他,クリームには,クエン酸,乳酸,アミノ酸類など,製品のpHを調整するための緩衝剤;ゲラニオール,リナロールなど香りを付加するための香料;メチルパラベン,フェノキシエタノールなどの微生物を抑制し,腐敗を防止するための防腐剤;着色するための着色剤;金属イオン封鎖剤,紫外線吸収剤など,退色や変色を防止するための退色防止剤;EDTAなどのキレート剤;水酸化カリウム,水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分,ビタミンE,ビタミンC,ジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤;及び,収れん剤,殺菌剤,賦活剤,消炎剤又は美白剤などの薬剤が,含まれていてもよい。
【0046】
クリームに含まれる各成分の量は,その種類や用途によって大きく異なるが,本発明のトリートメント方法においては,公知のものを適宜用いればよい。
【0047】
クリームは,基本的は,以下のようにして製造すればよい。すなわち,水相成分を70℃前後に過熱する。油相成分を加熱溶解し,香料などを加え,攪拌する。そして,水相成分と油相成分とを攪拌し,70℃前後でホモミキサーなどを用いて乳化する。その後,脱気,ろ過及び冷却を施す。
【0048】
ジェルは,ゲル又はゾルなど,外観状態が均一で透明から半透明の化粧料である。本発明のトリートメント方法では,公知の“ジェル”を,その用途などに応じて適宜利用できる。皮膚に水分を補給し,保湿するための水性ジェル,皮膚の保湿を維持し,油分を補給するための油性ジェル,血行を促進するためのマッサージ用水性ジェル,及び洗浄用のジェルなどがあげられる。ジェルとして,カルボキシビニルポリマー,メチルセルロースなどの水溶性高分子を含むゲル化剤を用いて製造するものがあげられる。また,ゲル状のマッサージオイルを用いてもよい。
【0049】
クリームは、ポリリン酸、その塩又はその水和物を0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.2〜2重量%程度含めばよい。
【0050】
“美容液(エッセンス)”は,基本的には上記の化粧水,乳液及びクリームと同様の成分であり,油剤,可溶化剤,保湿剤,水,及びそのほかの薬剤を含むものがあげられえる。本発明のトリートメント方法において公知の美容液を用いることができる。美容液に含まれる油剤として,オリーブ油,ツバキ油,ゴマ油,ひまわり油,スイートアルモンド油,ホホバ油などの天然植物油;カプリン酸,ミリスチン酸,オレイン酸,イソステアリン酸などの脂肪酸のジグリセリンエステルまたはトリグリセリンエステルなどがあげられる。これらの油剤は主にエモリエント剤として機能する。
【0051】
美容液に含まれる可溶化剤として,グリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル,及びモノステアリン酸プロピレングリコールなどのプロピレングリコール脂肪酸エステル類,グリセリン,ジグリセリン,エチレングリコール,プロピレングリコール,1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコールなどがあげられる。なお,可溶化剤として,グリセリン又はジグリセリンを使用することと,マッサージにおける温熱効果を高めるので好ましい。美容液に含まれる水として,蒸留水,及び脱イオン水があげられる。その他の薬剤として,殺菌剤,防腐剤,ビタミン類,植物由来の天然エキス,色素,香料などがあげられる。
【0052】
美容液を構成する各成分の量は,公知の成分量を採用できる。たとえば,美容液の全体量を100重量%とした場合に,ポリリン酸、その塩又はその水和物を0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.2〜2重量%程度含めばよい。また、油剤65〜90重量%,可溶化剤1〜10重量%,保湿剤1〜30重量%,その他の薬剤0〜10重量%程度,及び残部が水のものがあげられる。美容液は、公知の製造方法に従って製造すればよい。
【0053】
“パック化粧料”は、皮膚の保湿,血行促進,清浄を目的として、対象部位に塗布するものである。パック化粧料には、一般的には、ゼリー状,ペースト状,粉末状のものがあげられ、顔面に塗布して皮膜を形成させた後剥離するものや、塗布後に拭き取るもの、塗布後洗い流すものなどがある。粉末状のものは、使用時に水などに均一に溶かしたり懸濁したりして使用する。また、アイマスク等の形状とした不織布やコラーゲンシートに化粧料を含浸させたパック化粧料や、前記不織布等を使用時に化粧料に浸漬して用いるパック化粧料などであってもよい。
【0054】
“パック化粧料”は、ポリリン酸、その塩又はその水和物を0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましく0.1〜5重量%、最も好ましくは0.2〜2重量%程度含めばよい。その他の組成は、パック化粧料に用いられる公知の組成とすればよく、公知の製造方法に従って製造すればよい。
【0055】
上記の化粧料は、それぞれが通常用いられる方法に従って使用されればよい。すると、上記の化粧料は、ポリリン酸などを有効量含むので、コラーゲンの産生が促進されて美肌効果や効果防止効果などの効果がある。
【0056】
次に、ポリリン酸、その塩、又はその溶媒和物を投与するコラーゲンの製造方法について説明する。コラーゲンは、ヒト以外の皮膚などから抽出する方法が一般的であるが、本発明の製造方法を用いればより効果的にコラーゲンを製造できる。
【0057】
具体的には、本発明の剤、組成物などを、家畜などの皮膚に塗布し、その上で常法に従って、コラーゲンを採取する。すると、本発明の剤を塗布した皮膚は、通常の皮膚に比べてコラーゲンを多く含むので効果的にコラーゲンを製造できることとなる。
【0058】
ヒト又はヒト以外の哺乳動物の創に、本発明の剤、本発明の組成物を適宜塗布する。すると、その創部では、コラーゲンの産生が促進されるので、創がきれいに治るという効果がある。その剤や投与量は、上記に説明したとおりのものとすればよい。
【0059】
鎖状ポリリン酸の平均鎖長の絶対値を計測する代表的な方法として滴定法がある。この方法は一種の末端基測定法であり、主に鎖状リン酸塩の分子量決定に用いられている。鎖状リン酸塩においては、末端基には1個の強酸性水素と1個の弱酸性水素があり、中間期には1個の強酸性水素がある。すなわち強酸性水素の量(SA)と弱酸性水素の量(WA)を求めることによって、次式(III)より鎖状リン酸塩の平均鎖長を求めることができる。すなわち、平均鎖長=(2SA/WA)・・・式(III)である。また、平均分子量の相対値と分子量分布を求める方法としては、HPLCを用いたゲル濾過クロマトグラフィーが一般的である。ゲル濾過クロマトグラフィー法の詳細と計測結果に関しては実施例中に後述する。
【0060】
[製造例1] ポリリン酸ナトリウムの調製
以下のようにして,様々な鎖長を有するポリリン酸ナトリウムを製造した。(i)食品添加物規格のヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製)200 gを精製水1,000 mlに溶解し、これに96%のエタノール50 mlを徐々に加えた。(ii)得られた液をよく撹拌して室温で1時間以上放置した後、遠心分離(10,000 x
g,、10分、25℃)して液を2層に分離させた。(iii)上層を取り除き別の容器に移した。(iv)高分子量(長鎖)のポリリン酸ナトリウムを含む下層を回収し、もっとも分子量の大きい長鎖ポリリン酸ナトリウムを含む画分(画分1)として保存した。
【0061】
(v)さきほど(iii)の操作で分離回収した上層に、さらに50 mlのエタノールを加えた。このようにして得られた液に対し上記の(ii)〜(iv)に記載した操作を行った。但し、その結果得られた下層は画分1よりも分子量の小さいポリリン酸ナトリウムが含まれるので、これを画分2として保存した。
【0062】
(vii)前の操作で得られた上層に対して、上記(v)及び(vi)の操作を行い、得られた下層を画分3として保存した。(viii)上記の(vii)の操作をさらに6回繰り返し、その度に得られた下層を保存した。得られた画分を、それぞれ画分4、5、6、7、8、9とした。
【実施例1】
【0063】
ポリリン酸ナトリウムの平均分子量及び分子量範囲の決定
上記の分離操作の結果、それぞれの画分を3つのグループに分けて混合し、それぞれのグループを長鎖ポリリン酸ナトリウム、中鎖ポリリン酸ナトリウム、短鎖ポリリン酸ナトリウムとした。画分1、2を混合したものは長鎖ポリリン酸ナトリウムであり、画分3〜5を混合したものは中鎖ポリリン酸ナトリウム、また、残りの画分6〜9を混合したものは、短鎖ポリリン酸ナトリウムである。また、画分1〜9のすべてを混合したものはすべての分子量を含み、分子量分布の大きな分割ポリリン酸ナトリウムとした。上記のそれぞれの画分の混合物をそれぞれ凍結乾燥し、エタノールを完全に除去して、各種鎖長のポリリン酸ナトリウム粉末を得た。またそれぞれの平均鎖長と分子量分布を下記の滴定法とゲル濾過法により決定した。
【0064】
以下に上述の長鎖、中鎖、短鎖ポリリン酸ナトリウムの平均鎖長を滴定法により測定した方法の詳細と結果を記載する。長鎖、中鎖、短鎖ポリリン酸ナトリウムそれぞれ25gを500 mlの水に溶解し、分解前用に5 ml、分解後用に40 mlを分取した。分解前用溶液に5N水酸化ナトリウム溶液を0.04 ml加えてpH約12とした後、0.5 mol/lの塩酸でpH約2.5まで滴定した。分解後用溶液に5N塩酸48 ml及び水280 mlを加え、30分以上煮沸して加水分解した冷却後、正確に400 mlにメスアップした。この溶液10 mlに、5N水酸化ナトリウム溶液を2.2 ml加えてpH約11とした後、0.5 mol/l塩酸でpH約2.5まで滴定した。滴定には自動滴定装置(平沼産業(株)COM-1500)を用いた。
【0065】
上記分解前及び分解後の両溶液における滴定曲線の第一変曲点から第二変曲点までの0.5 mol/lの分解前塩酸所要量(ml)をW、分解後塩酸所要量(ml)をSとした時、それぞれの平均鎖長は以下の通りだった。
【0066】
長鎖ポリリン酸ナトリウム=(2x5x1.56)/0.12 = 130
中鎖ポリリン酸ナトリウム=(2x5x1.32)/0.22 = 60.2
短鎖ポリリン酸ナトリウム=(2x5x0.50)/0.35 = 14.3
【0067】
以下に上述の長鎖、中鎖、短鎖ポリリン酸ナトリウムをHPLCによるゲル濾過クロマトグラフィーによる解析結果を示した。尚、HPLCでの分析条件は、以下のようであった。
分析機器(HPLC): 島津製作所製LC2010C
カラム: Shodex OHpak SB-803 HQ
カラム温度: 30℃
溶媒: 0.1M NaCl
流速: 1 ml/ml
サンプルアプライ量:0.01 ml
サンプル中ポリリン酸ナトリウム濃度:1%
【0068】
上記条件でのゲル濾過による解析の結果、長鎖ポリリン酸ナトリウムの溶出時間は7.95分、中鎖ポリリン酸ナトリウムの溶出時間は8.50分、短鎖ポリリン酸ナトリウムの溶出時間は9.17分であった。またこの値より平均鎖長の対数(log)と溶質時間との関係の検量線を作成した(図1)。その結果、溶出時間と鎖長の対数との関係は次の式(VI)で示されることがわかった。鎖長(log)= -0.7987x 溶出時間 + 8.5001 式(VI)
【0069】
この検量線に基づいて長鎖、中鎖、短鎖ポリリン酸ナトリウムのゲルろ過解析での溶出開始時間(高分子量側)と溶出終了時間(低分子量側)を算出し、それらの分子量範囲を算出した。その結果を表1に示す。なお、表1中、算出不能は検量線外であり算出不能を意味する。
【0070】
【表1】

【0071】
上述の滴定法とゲル濾過法により分子量範囲の解析より、画分1、2を混合した長鎖ポリリン酸ナトリウムは平均鎖長130、鎖長範囲が67.8以上であり、画分3〜5を混合した中鎖ポリリン酸ナトリウムは平均鎖長60、鎖長範囲が29.6〜89.2であった。また、残りの画分6〜9を混合した短鎖ポリリン酸ナトリウムは、平均鎖長14、鎖長範囲が30.7以下であった。
【実施例2】
【0072】
ウルトラリン酸ナトリウムの性質確認
また本実施例に使用したウルトラリン酸ナトリウムに関して、その分子の特徴として水溶液の状態にした場合にpH 1〜2の強酸性を示し、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液で滴定した場合に上記のpHの酸性領域でpH緩衝領域をもつことがわかっている。このことから、ウルトラリン酸ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、そのpH変化を計測し図2に示した。その結果、pH 1〜2付近で緩衝作用を示し、ウルトラリン酸ナトリウムの性質を持つことが確認された。
【実施例3】
【0073】
ポリリン酸によるコラーゲン産生の増大
上記製造例に従って取得した分割ポリリン酸ナトリウムを用いてラット創傷部位のコラーゲン産生評価試験を行った。図3は、創傷治癒モデルを示す概念図である。生後6週齢のWistar系雄性ラットを用い、エーテル麻酔下に背部を剃毛し、体の長軸に沿って筋膜に達する深さで20 mm切開を行った。その後、創中央の両端を5 mmの幅になるように筋膜と1糸ずつ縫合して紡錘形の創傷治癒モデルを作成した(図3を参照)。実験群には創部に1%ポリリン酸ナトリウム水溶液{上述の製造例で調製した短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウムのすべてを含む調整前のポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)}を、対照群には1%リン酸緩衝液をそれぞれ100 mgずつ週5日間局所に塗布した。3日目、及び7日目に安楽死させ、創の中央から5 mmの距離の組織を図1に示すように筋膜上で皮膚標本を採取した。採取した皮膚標本を通法に従いホルマリン固定後、パラフィン切片を作製し、塗布後7日目の標本に関してヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色およびAZAN染色を行った。また塗布後3日目の標本を脱パラフィン後in situ hybridizationによりI型コラーゲンmRNA発現量の評価を行った。
【0074】
in situ hybridizationによるI型コラーゲンmRNA発現量の評価
ラット組織から抽出したRNAよりcDNAを合成し, それを鋳型にして、FW:
5’ –gagggggtttctgtgtcct-3’ (配列番号1) 及びRV: 5’-cgaggtagtctttcagcaacac-3’
(配列番号2)のプライマーを用いてPCRを行った。
【0075】
このようにしてラットタイプIコラーゲン遺伝子の一部を含むDNA断片を得た。同断片をpCRII-TOPO ベクター(インビトロジェン社製)にクローニングし, pCRII-R type1-collagenプラスミドを作製した。同プラスミドを制限酵素Xho1で切断して直鎖状にし、in vitro transcriptionによりDig標識タイプIコラーゲンRNA probeを作製した。脱パラフィンした塗布後3日目の標本(プレパラート)をprotease K (2μg/ml) で10分間処理(室温)し、60℃で15時間ハイブリダイゼーションを行った。このときのプローブ の濃度は500 ng/mlであり、50% ホルムアミド(FA)を含む5×SSC(0.75 M NaCl, 60
mM Na3citrate, pH7.0)溶液中で行った。その後、下表2の手順で洗浄を行い、BM-purple(ロッシュ社製)で処理することにより、I型コラーゲンmRNAが発現している組織部分を特異的に染色した。
【0076】
【表2】

【0077】
図4は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色図を示す図面に代わる写真である。図4(A)は、対照群のHE染色弱拡大像である。図4(a-1)に図4Aの四角で囲った部分のHE染色強拡大像を示す。図4(a-2)に図4(A)の四角で囲った部分のアザン染色強拡大像を示す。対照群では創部は器質化の傾向を示したが、リンパ球やマクロファージなどの炎症性細胞の浸潤が著しく、上皮の伸長は軽度であった。またアザン染色の結果、I型コラーゲン産生もさほど多くなかったことがわかる。図4(B)は、ポリリン酸塗布群のHE染色弱拡大像である。図4(b-1)に図4(B)の四角で囲った部分のHE染色強拡大像を示す。図4(b-2)に図4(B)の四角で囲った部分のアザン染色強拡大像を示す。創部は線維芽細胞の増殖・線維の増生と成熟がみられ、アザン染色の結果より対照群に比べて明らかに太いコラーゲン繊維の産生が確認された。また創の表層においても炎症性細胞はほとんど認められず創面はほぼ上皮に覆われていた。
【0078】
図5は、インサイチュウハイブリダイゼーション(in situ hybridization)の結果を示す図面に代わる写真である。図5(A)は対照群を示し、図5(B)はポリリン酸を塗布した群を示し、図5(b)は図5(B)の部分拡大図である。対照群(図5のA)ではほとんど染色されず、顕著なタイプIコラーゲンmRNAの発現が認められなかったのに対し、ポリリン酸塗布群(図5のB)では、弱拡大像において皮下組織全体が染色が確認され、図5のb(図5のBの四角部分の拡大像)では、創断端の正常皮下組織と隣接する部分の線維芽細胞の細胞質にタイプIコラーゲンmRNAの顕著な発現を認めた。
【0079】
上記のHE及びアザン染色像、タイプIコラーゲンmRNAに対するインサイチュウハイブリダイゼーション(in situ hybridization)の結果から、ポリリン酸によりコラーゲンの顕著な増産が確認され、ポリリン酸がコラーゲン生産促進材料としての機能を持ち、その効果によって傷ついた組織の修復が高まることがわかった。
【実施例4】
【0080】
ポリリン酸ナトリウムによるヒト真皮繊維芽細胞のコラーゲン産生促進効果のリン酸重合度依存性
ヒト真皮由来繊維芽細胞(HDF)を用い、ポリリン酸ナトリウムによるコラーゲン産生促進効果を調べた。HDFを1穴あたり25,000個となるよう24穴プレートに播種し、D-MEM培地(シグマ社製)を用いて37℃、5% CO2で細胞がコンフルエントになるまで培養した(3日間)。その後1%ウシ血清を含むD-MEM培地に置換しさらに6日間もしくは9日間培養を行った。次に上述の製造例に従って調製した、短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウム{平均リン酸重合度14(短鎖)、60(中鎖)、130(長鎖)}を被験物質として、それぞれ最終濃度が1%となるようにD-MEM培地に添加して処理を行った。また、上述の製造例で調製した短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウムのすべてを含むポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)に関しても他のポリリン酸ナトリウムと同濃度で同様の処理を行った。尚、対照として無処理の群を設け対照群とした。また、種々のポリリン酸で処理した処理群は以下のように表すこととした。
処理群A:短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウムのすべてを含む
ポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)で処理した細胞。
処理群B:短鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞。
処理群C:中鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞。
処理群D:長鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞。
処理群E:ウルトラリン酸ナトリウムで処理した細胞。
【0081】
各処理培地により6日間もしくは9日間培養した細胞に関して、以下の手順に従ってI型コラーゲンの免疫染色を行った。但し、処理4日目と7日目に各種処理群と同じ被験物質の含まれた新鮮なD-MEM培地に取り替えた。また以下の操作はすべて24穴プレートにおける1穴あたりに対するものである。
【0082】
(i)培養液を取り除き、0.5 mlの10%中性緩衝ホルマリン液(商品名:タナホルム、株式会社タナカ製)を加えて細胞を固定した。(ii)TBS-Ca(20 mM Tris-HCl pH 7.5, 0.15 M
NaCl, 1 mM CaCl2)を1 ml加えて、細胞を洗浄した。(iii) 1 mlのメタノールを加えて-20℃で30分間放置した。(iv) 1 ml のTBS-Caを加えて洗浄した。(v)5%スキムミルクを含むTBS-Caを1 ml加えて、50分間放置した。(vi)1 mlのTBS-Caを加えて洗浄した。(vii)抗ヒトI型コラーゲン抗体(ポリクローナル抗体、ケミコン社製)を1/150希釈した5%スキムミルクを含むTBS-Caを0.15
ml加えて50分間放置した。(viii)1mlのTBS-Caで3回洗浄した。(ix)以降の操作に関しては、DAKO EnVision System HRP(DAB)キット(ダコ・サイトメーション株式会社)を用い、そのキットのプロトコールに従って行った。2次抗体を結合させたDAKOデキストランポリマー試薬をTBS-Caで5倍希釈し、それを0.15 ml加えて30分間放置した。(x)1mlのTBS-Caで3回洗浄した。(xi)DAKO基質反応液0.15 mlにDAKO発色基質を3μl混合したものを加えて約10分間発色反応を行った。(xii)蒸留水で3回洗浄して反応を停止させ、エタノールで洗浄後、染色像をスキャナーで取り込んだ。各処理群について画像解析ソフトであるImage-J(フリーウエア)を用いて解析を行い、染色度を定量化して評価の指標とした。
【0083】
図6は、各鎖長のポリリン酸ナトリウムで処理したHDFの免疫染像を示す図面に代わる写真である。また図7は、図6の染色画像を画像解析ソフト(Image-J)で解析し、染色度を定量化した結果を示す図面に代わるグラフである。定量化に際して、それぞれの処理日数における対照群の染色強度を1として、その他の処理群の染色強度の相対値をコラーゲン産生率とした。図7から、6日目には短鎖及び中鎖ポリリン酸ナトリウム処理群(処理群B及びC)、すべての鎖長を含むポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)(処理群A)、ウルトラリン酸ナトリウムで処理した細胞(処理群E)が、長鎖ポリリン酸ナトリウム処理群(処理群D)や無処理の対照群よりもコラーゲン産生促進能が高いことがわかった。また、処理9日目では、短鎖ポリリン酸ナトリウム処理群(処理群B)が最も促進能が高く(対照群の約6.3倍)、次いで中鎖ポリリン酸ナトリウム(処理群C)が高かった(対照群の約4.9倍)。また他の分子量を含むポリリン酸ナトリウムやウルトラリン酸ナトリウム(処理群E)は無処理の細胞(対照群)に比べると2倍程度のコラーゲン産生促進能があった。以上のことから、ポリリン酸は鎖長3〜300の間においてコラーゲン産生促進能をもつが、特に短鎖および中鎖ポリリン酸ナトリウムにおいてコラーゲン産生促進効果がより高いことがわかった。また無処理及びリン酸処理群では、他の処理群より顕著に染色度が低く、コラーゲン産生促進がポリリン酸ナトリウム分子自体に依存していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の剤及び化粧料は、コラーゲンの産生を促進するので、化粧品などの分野で好ましく利用されうる。また、ウルトラリン酸ナトリウムは酸性のピーリング効果とコラーゲン産生促進の両方を併せ持つ剤として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、ポリリン酸ナトリウムの分子量を決定するためのゲルろ過分析での溶出時間と分子量の関係を示したグラフである。
【図2】図2はウルトラリン酸ナトリウムの滴定曲線である。
【図3】図3は、創傷治癒モデルを示す概念図である。
【図4】図4は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色図を示す図面に変わる写真である。図4(A)に対照群のHE染色弱拡大像である。図4(a-1)に図4Aの四角で囲った部分のHE染色強拡大像を示す。図4(a-2)に図4(A)の四角で囲った部分のアザン染色強拡大像を示す。図4(B)はポリリン酸塗布群のHE染色弱拡大像である。図4(b-1)に図4(B)の四角で囲った部分のHE染色強拡大像を示す。図4(b-2)に図4(B)の四角で囲った部分のアザン染色強拡大像を示す。
【図5】図5は、インサイチュウハイブリダイゼーション(in situ hybridization)の結果を示す図面に代わる写真である。図5(A)は対照群を示し、図5(B)はポリリン酸を塗布した群を示し、図5(b)は図5(B)の部分拡大図である。
【図6】図6は、各鎖長のポリリン酸ナトリウムで処理したHDFの免疫染像を示す図面に代わる写真である。無処理の細胞を対照群とし、短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウムのすべてを含むポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)で処理した細胞を処理群A、短鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群B、中鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群C、長鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群D、ウルトラリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群Eとした。
【図7】図7は、図6の染色画像を画像解析ソフト(Image-J)で解析し、染色度を定量化した結果を示す図面に代わるグラフである。無処理の細胞を対照群とし、また、短鎖、中鎖、長鎖ポリリン酸ナトリウムのすべてを含むポリリン酸ナトリウム(平均鎖長60、鎖長範囲3〜300)で処理した細胞を処理群A、短鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群B、中鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群C、長鎖ポリリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群D、ウルトラリン酸ナトリウムで処理した細胞を処理群Eとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸、その塩又はその溶媒和物を有効成分として含むコラーゲンの産生を促進する剤。
【請求項2】
前記ポリリン酸が、H2O及びP2O5を構成分子とし、H2O対P2O5のモル比(R)が2>R≧1であり、下記一般式(I)もしくは(II)で表される直鎖状もしくは環状のポリリン酸を1種又は2種以上含むものである請求項1に記載の剤。
Hn+2(PnO3n+1) (I)
(HPO3)n (II)
(式(I)及び(II)中、nはそれぞれ独立して3〜300の整数を示す。)
【請求項3】
式(I)及び(II)中のnが10〜89の整数である請求項2に記載の剤。
【請求項4】
前記ポリリン酸が、ウルトラリン酸である請求項1に記載の剤。
【請求項5】
請求項1又は請求項4に記載の剤を含む化粧料。
【請求項6】
ポリリン酸、その塩又はその溶媒和物をヒト又はヒト以外の哺乳動物に投与する工程を含むコラーゲンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−50290(P2008−50290A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227237(P2006−227237)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(502124248)リジェンティス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】